フリ魔転生!~穏やかに暮らしたい~   作:如月SQ

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閲覧、感想、ありがとうございます!
前回は流石にお気に入りが減りましたが、また少しずつ増えてきました!
重ねてありがとうございます。


断章:血塗られし軍神

 かつて勇者パーティー一人だった、戦士アイゼン。

 彼は今日も一人、静かに日々を過ごしていた。

 戦士として最低限体を鈍らせないようにだけはしているが、全盛期とは程遠いその細い腕では、薪割り用の小さな斧を振るうのが限界。

 

「よっ……と」

 

 薪割りの為に切り株の上に薪を乗せ、斧をゆっくりと振りかぶる。

 斧を奮い、魔族を屠ったかつてを思い出しながら、背後に迫っていた猛獣の首をはねた。

 身を潜めていたようだったが、腐っても最強と呼ばれていた戦士、この程度は苦でもない。

 

「……しまった、血糊で薪が割れん」

 

 だが、やはり鋭さがなく、斧は猛獣の血で塗れ、薪割りには使えなくなってしまっていた。

 切り株の上に乗せた薪を見ながら、困ったようにアイゼンは頭をかいた。

 

ズンッ

 

カランッ

 

 その時、地面が揺れたかと思えば、目の前で薪が真っ二つに割れた。

 いや、薪だけではない、薪を置いていた切り株すら地面ごと割れているようだった。

 それを成した存在が切り株を挟み、いつの間にか佇んでいた。

 

「……切りすぎだ。その切り株は薪ではない」

 

「おぉ、そうか、すまない。張り切り過ぎたようだ」

 

 手刀を振り下ろしたような姿勢でいた何者かは、顔を上げると朗らかに笑った。

 軍服のような黒い服に身を包んだ男は、折り畳んだ体をゆっくりと伸ばした。

 アイゼンがドワーフで小柄な事を加味しても、優に三倍はあるその体躯で、頭の後ろを掻いて申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「それで……こんな老いぼれに何の用だ、リヴァーレ」

 

「かつての強敵と話に来た……と言って信じるか?」

 

 小首を傾げたその男の頭には立派な角が生えていたが、無抵抗を示すように、手の平を見せて顔の横でひらひらとさせていた。

 アイゼンは暫し手の斧を構え思巡するも、目の前の相手が老いた自分ではとても対応出来ない相手である事は、痛い程よくわかっていた。

 奴が本気になり、その拳が自分を襲った場合、自らの頭は即座に粉砕されるだろう。

 そう察した……諦めたアイゼンは、小さく息を吐いた。

 

「聞いてやろう。どうせ死ぬのを待つ身だ。魔族の言葉など、聞いた所で何もならんだろうがな」

 

「手厳しいな。だが的を射ている。

 そうだな、では相対してくれる手間賃代わりだ、その獣の解体でもしてやるとしよう」

 

 そう言ってリヴァーレは笑みを浮かべたまま、アイゼンの横を通り過ぎる。

 反射的に身を固くするアイゼンを見て、リヴァーレは笑みを深くする。

 

 だが、何もする事なく、首の切り落とされた猛獣に手を伸ばしていた。

 

 アイゼンは、ふと震える自分の腕に気付く。

 体は衰えているものの、本能は変わらないらしい。

 久々に震える体を懐かしみつつ、なんとも奇妙な状況になったと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『血塗られし軍神リヴァーレ』

 魔王軍の将軍の一人であり、魔王軍最強の戦士である。

 かつて勇者パーティと戦闘になった事もあり、その時は隙をついてアイゼンに崖から叩き落とされていた。

 だがその実力は当時のアイゼンが押され続けていた程。

 その時から老いたアイゼンと、戦い続けたであろうリヴァーレ、その差は広がっているだろう、そうアイゼンは感じていた。

 

「……さて、肉が焼けるまでの間に話をしておこう」

 

 二人は焚き火を挟んで座っていた。

 焚き火には串に刺した肉や骨付き肉がいくつも火に炙られていて、香辛料の良い香りが漂っていた。

 

「単刀直入に言えば、戦の誘いだ。共に戦場で踊ろうではないか」

 

 好戦的に笑うリヴァーレだが、その顔からは不思議と殺意どころか戦意すら感じなかった。

 それを不思議に思いつつも、アイゼンは呆れたように返す。

 

「何を言うかと思えば……俺は既に一線を退いて久しい、もう斧すら振れん老いぼれに、わざわざトドメを刺しにきたのか?」

 

「おっと、言い方が悪かったか。共に、つまりは共闘の誘いだ」

 

「なに?」

 

 アイゼンの瞳が細められる。

 

「それこそ笑えん冗談だ。貴様達魔族と肩を並べて戦えだと?有り得ん。話を聞くだけ無駄だったな」

 

「まぁ待て待て、結論を急くな。まずは俺の話の内容を聞いてからでも遅くはあるまい?」

 

 リヴァーレは穏やかな顔つきのまま、ついでに火にかけられていた鍋を手にする。

 何処か手慣れた手つきでその鍋の中身、ただのお湯をポットへと注いだ。

 

「俺にとってはそこが戦場であればどうでもいい話だが、人とは戦う意味を欲しがるのだろう?ならば聞いて損はないと思うぞ」

 

こぽぽぽぽ

 

 鉄製のコップにポットから注がれたそれは、どうやら茶のようで、爽やかな香りがアイゼンの鼻を刺激した。

 

「ほら、お前の分だアイゼン」

 

 そう言って手渡された茶をアイゼンはまじまじと見つめる。

 なんとも奇妙な状態だと、眉間に皺が寄るのがわかった。

 かつて斧を交えた時は死ぬ覚悟すらしていた強敵、話の通じない魔族、それが、茶を淹れて渡してくるのだ。

 こんな時間を過ごす事自体が思考の外側だった。

 

「なんだ、毒なぞ入っておらんぞ」

 

 いつの間にか自分の分も用意していたリヴァーレは、静かにコップを傾けていた。

 

「……魔族も、茶を嗜むのか?」

 

「一部の変わり者だけだがな。まぁ、魔王軍幹部はそんな変わり者が沢山いたぞ」

 

 にやっ、と犬歯を見せて笑うリヴァーレに、アイゼンは二の句を紡げず、視線を切った。

 そして、大人しくその茶に口をつけた。

 爽やかな香りが鼻を抜け、香ばしくほんのりとした甘さが舌を駆け抜けた。

 

「……ふむ、悪くない」

 

「そうか、数十年前に一度淹れたきりだったが、それは何よりだ」

 

 ほぅ、と息を吐いたアイゼンを見て、リヴァーレはニコリと笑った。

 そして、その表情を無へと戻し、アイゼンに向き直る。

 それを見てアイゼンも自然と姿勢を正した。

 

「さぁて、では本題だ。昔昔……この老いぼれが生まれ出より更に昔の話だ」

 

「なんだ、お伽噺か?」

 

「いいや違う。いや、ある意味そうかもしれんな。少なくとも、1000年以上昔の話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あるところに角の生えた人間がいた。

 

 その頃、魔族という言葉はなかった。

 

 その角の生えた人間は今の魔族と特徴は同じとするものの、魔族の本能というものが一切なかった。

 

 気性は穏やかで、平和を好み、日々作物を作って暮らしていた。

 

 そんな角の生えた人間は、飢え、助けを求める存在を拒まず助け続けたらしい。

 

 人も獣も問わずな。

 

 やがてそれを真似る人間も現れ、それを角の生えた人間は丁寧に育て方すら教えたという。

 

 そんな存在を、人々は『豊穣の聖女』と呼び、崇めたらしい。

 

 ……そんなもの聞いた事もないという顔だな。

 

 そうだな、人に伝わっているのは恐らくもう一つの名だろう。

 

 そして何故『豊穣の聖女』の名が伝わっていないのかという答えも教えよう。

 

 人が『豊穣の聖女』の庇護下ではなく自立し始め、国なんかを作り始めた頃の事だ。

 

 一部の権力者は、他の国や勢力が安定するのを嫌い『豊穣の聖女』に食糧を配る事を止めるよう、もしくは自分達の下につくよう求めたらしい。

 

 その求めを『豊穣の聖女』は拒否、人々が穏やかに生きれるように、貧しい人、飢えた人、助けを求める人に、変わらず自分は恵みを与え続ける、と言い切ったそうだ。

 

 そんな『豊穣の聖女』に業を煮やした、当時最も勢力を伸ばしていた国、その国は越えてはいけないラインを踏み切った。

 

 『豊穣の聖女』を捕らえ、畑を燃やし、そこに暮らす人々を殺し、最終的には聖女自身に死刑を下したそうだ。

 

 そして……その次の日、その国のあった場所には鬱蒼とした森が出来ていたという。

 

 その森の中心には処刑された筈の聖女が住み、その森を少しずつ広げていき、やがて世界に終わりをもたらす、らしい。

 

 だがその企みはなんらかで、何者かが阻む事に成功した、とも言われている。

 

 正しい事はわからんが、今も世界が終わっていないから真実なのではないか?

 

 それが、大魔族『終極の聖女トート』の始まりだと言われている。

 

 『豊穣の聖女』の名が伝わっていないのは、当時の人間達がそれだけ聖女を恐れたからだろう。

 

 人々に恵みを与える『豊穣の聖女』と終わりをもたらす『終極の聖女』……二面性を持つ聖女は今もまだ、生きている。

 

 そして、もう間も無く行動を始める……らしい。

 

 シュラハトは詳細は話さなかったが、この時を逃せば人も魔族も等しく滅ぶと語っていた。

 

 俺達は未来の魔族の為に戦う、お前達は人間の未来の為に戦えばいい。

 

 力を振るう理由になっただろう?

 

 老いぼれだろうが、いや、老いぼれだからこそ、戦え、アイゼン。

 

 南の勇者との約定によって、奴は人に手出し出来ん筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強い人間が必要だ。もう一度言おう、アイゼン。共に戦場で踊ろう」

 

 そう高らかに言い切ったリヴァーレは、焚き火に手を突っ込み、じゅうじゅうと音をたてる骨付き肉を引っ張り出した。

 

「俺はそこで自分の全てを燃やし尽くそう、相手にも不足はない。

 好き勝手生きた老いぼれなりに、未来の魔族へとプレゼントといったところだな」

 

むしいっ

 

 骨付き肉に歯をたて、噛み千切るリヴァーレは笑う。

 楽しくて仕方ないと、自分を待つ戦場が楽しみだと。

 

「お前はどうするアイゼン」

 

 アイゼンは話を聞き終え、腕を組み目を瞑って思案し続けていた。

 何が正解が、どうすればいいのか。

 

 暫し悩むも、瞼の裏に浮かぶのは、かつての仲間、仲間の忘れ形見、そして……自らの弟子の姿だった。

 ならば……悩む事もない。

 

 バチ、と目を見開いたアイゼンの顔を見たリヴァーレの顔が、喜色にまみれ、獰猛に歯を剥き出しにして笑った。




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