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「……何?……誰……?」
声は聞こえたものの、不思議とその出所がわからない。
何処から聞こえているのか、キョロキョロと辺りを見回しても、人影すら見えなかった。
フリーレンが困惑の色を浮かべているフリーレンに対して、声は再度発せられた。
「貴女が受けた魔法は、『
その声はフリーレンの反応を気にする事なく、言葉を続ける。
そして、その内容にフリーレンは眉を寄せた。
「意味がわからない。そんな魔法を受けたとして、今の私の状態に関係があるとは思えない。そもそも、そんな魔法、受けた覚えはない」
声の言う通りだとして、その魔法を受けたとして、そんな効果の魔法を受けたところでなんだというのか。
適当な事を言うその声に、フリーレンの苛立ちが募る。
「『断頭台のアウラ』を倒した後の事、覚えていないでしょう?」
だが、その言葉にハッとさせられた。
記憶自体は数十年単位で昔の事が朧気だが、それが発生、自覚するようになったのは……確かにあの戦いの後だったからだ。
そしてその言葉通り、フリーレンはアウラを返り討ちにして自害させた……その後の事をあまり覚えていない。
気付けば朝になっていて、何も覚えていないのだ。
フリーレンの警戒心が、少し遅れて警鐘を鳴らす。
「お前……何を知ってる?」
それに、アウラを自分が倒した事を知っている……。
口止めした訳でもないが、言い触らしている訳でもない。
緊張感がフリーレンを包んだ。
壁に背を預けつつも、体をゆっくりと起こし始めた。
「『
その一つが、自分の分身を実らせる、という使い方。覚えがあるんじゃないかしら」
「……!」
分身、その言葉でフリーレンの脳裏に過ったのは二つ。
クヴァール、それと地下牢でドラートを処理した後、突如現れた魔族の事……。
あの二人の消え方は同じだった。
そして、自分に異変が起きたのはその声が言う通り……アウラを自害させた後……となれば。
「レーベ、だっけ……あの魔族の魔法か」
そう考えるのが自然だ。
今思えば……あのレーベという魔族を殺した記憶はないにも関わらず、探して始末しよう、なんて思わなかった。
魔族が生きているのに、見逃していた。
それは普段のフリーレンを思えばおかしな話であった。
「そう。その使い方は私も……そしてクヴァール師匠も会得してる」
フリーレンはその言葉にやっぱり、と頷いた。
いくつかの疑問が解消されていく。
魔族間とはいえ、同じ魔法を使ってる事に違和感はあれど、あのクヴァールならそうおかしな事でもない。
同時に師匠、とかいう気になる情報も出てきたけれど……今は置いておく。
突如現れたこの声の持ち主の正体がうっすらとわかっただけで、今は良い。
「……薄々思っていたけど、やっぱり魔族か。分身なのかもしれないけど、よくゼーリエのお膝元であるこの街にいるもんだね……良い度胸だ」
「ゼーリエ様にもそう言われたわ。エルフ同士気が合うのね」
表情は見えないが、笑っている雰囲気を感じて、フリーレンの眉が不愉快だと言いたげに寄った。
「やめてよ、私まで子供みたいじゃないか」
フリーレンの言葉を否定も肯定もせず、声は言葉を続ける。
不満そうなフリーレンの様子等は見えていないのだろう。
「ふふ……話を戻すわね。『
クヴァールが危惧した魔法……その事実にフリーレンの身に緊張が走った。
「それを受けないように、と師匠なりに警告していたらしいのだけれど……聞かなかったみたいね?忠告は素直に受けとるものじゃない?」
子供じゃあるまいし、と付け足された言葉に、フリーレンは不愉快そうに眉を寄せた。
「魔族の忠告なんてまともに聞く訳ないでしょ。余計なお世話だ」
「その結果が今の状況なのだけど……くすくす……今、どんな気持ちなのかしら」
此方を煽るような言葉を続けるその声に、フリーレンの不愉快度は増していく。
姿も見えないし感知も出来ないけれど、近くにはいるのだろうから手当たり次第……。
杖を手に取りながら、そんな思考になり始めたフリーレンに対して、声はそれを知ってか知らずか、焦る事なく言葉を続けた。
「その効果は、
「……!!!」
フリーレンの目が見開かれる。
頭の中で全てが繋がっていく。
この、ハッキリしない靄に包まれた記憶、それは、思い出せない……というのは正しくない。
「覚えてないでしょうけど、アウラと戦った後、貴女はその場に現れたレーベも始末しようとした。迷いの無さは端から見てて爽快だったわ。
けれど……そのせいでトートが目覚めた。貴女はその身に『
文字通り、奪われたのだ。
フリーレンは、無意識に自分の胸に手を当てていた。
ひどく胸元が疼いた。
「……それが本当なら……逆に、なんで私は今こうして生きてる……?」
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「やめろトート」
フリーレンから
ピクリと、トートの目尻が震えた。
「あら、クヴァくん。余計な事しないでって、言ったよね?どれだけ私達の邪魔をすれば気が済むの?」
笑みを浮かべながら、トートは突然目の前に姿を表した少年姿のクヴァールを見据えた。
笑顔……ただし目の奥は笑っておらず、クヴァールへの圧力が増していく。
だがクヴァールは歯を剥いて笑みを見せた。
「いいのかよ?南の勇者との誓約破っちまって。
フリーレンはアウラを倒した。それならお前達が人類に手を出すまでの猶予はまだ先……そうだろ?」
トートはその言葉に笑みを浮かべるのをやめた。
忌々しい、とでも言いたげに口元を歪め、じっとクヴァールを見返す。
クヴァールも視線を反らさず、暫し二人はその場で睨み合う形となった。
そして……先に視線を外したのはトートのほうだった。
呆れたように目を閉じて肩を竦めたトートは、深く息を吐き出した。
「ふぅー……わかったよ。レーベちゃんを苛めたこいつは生かしておきたくなかったけど……仕方ない」
トートの手から力が抜けたのを確認し、クヴァールはその手をゆっくりと離した。
白銀のリンゴを持った手が、ゆっくりと下がっていき……。
「けど、ペナルティくらいは受けて貰うね。私の気が済まないから」
次の瞬間、素早い動きで、白銀のリンゴはトートの口の前に差し出されていた。
その一瞬の出来事にクヴァールも反応する事は出来ず……。
しゃく
白銀のリンゴの一部は、トートによって齧られてしまった。
残りはそのまま地面に倒れている白いエルフ、フリーレンの体へと落ちる。
そしてフリーレンの体の中へと、溶けるように消えていったのだった。
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「貴女は一体何を齧られたのかしら?何を奪われたのかしら?
それを自覚した今、何を思うのかしら?聞かせてくれる?」
「…………」
「憤怒、苦悩、後悔……?あとは、絶望?
そうね、貴女の想定している通り、齧られた部分は戻る事はない。
仮にトートを殺した所で、ね。貴女は一生、永遠にそのまま……。可哀想にね」
「…………!」
ギリ、とフリーレンの噛み締められた歯が音をたてる。
失ったものは失ってから、本当に大事だとわかるとは言ったもので。
元々大事なものであった……らしい事も加味され、フリーレンの心はひどく空虚であった。
その声の言うとおり、怒っている。
同時に酷く悩み、深く後悔していた。
声はそこで、一つの爆弾を落とす。
「それはそうと、そろそろクヴァール師匠がトート討伐に踏み切る。私がここにいるのもその一環……協力者を募っているの。
ゼーリエ様も快く受け入れて下さったわ」
その言葉に、フリーレンは焦った。
何せ今丁度、自分の失われた記憶が永遠に消失するかもしれないと、暗にそう言われたのだから。
ゼーリエが魔族に協力する事を決めた、というのも驚愕に値する話だが……。
「……どうしたら私の記憶は元に戻る……」
それが、今のフリーレンにとっては一番大事な事であった。
すがるような、力のない声色だった。
「……ふふふ!そうね、クヴァール師匠は元々貴女にも戦わせるつもりだった……。
でもそんな状態じゃ戦えないわよね?人は戦う為に理由が必要だものね?
……あは!だから、一つだけ、可能性をあげる」
そんなフリーレンに対して声はトーンをあげ、早口に、楽しそうに謳う。
フリーレンのその反応が、自身の探求心を刺激していたから。
今はそういうタイミングじゃないのに、どうしても
それを誤魔化すように、高らかに声は続ける。
その声には……隠し切れない愉悦が滲んでいた。
「活かすも殺すも貴女次第……楽しませて、ね?」
フリーレンの顔は、ひどく強張っていた。
「フリーレン!やあっと見つけたぜ。大丈夫なのか?」
辺りが既に薄暗くなった頃、フリーレンの元にヴィアベルが駆け付けていた。
あのように突然逃げたにも拘わらず、自分をわざわざ探してくれていたらしい。
その人の良さに、思わず強張っていた顔が綻んだ。
「……うん、心配かけたみたいだね。大丈夫だよ」
「はぁ、そうかよ。置いてった魔導書はシャルフの奴が持って……ん?なんだまだ持ってたのか?どんだけ魔導書好きなんだよ」
フリーレンの腕の中にある魔導書を見て、ヴィアベルは呆れを滲ませて笑った。
シャルフが苦労して抱える量があったというのに、まだ持っているのだ。
この調子なら、きっと荷物は魔導書でいっぱいなのだろうなと、そんなくだらない事が頭を過った。
「……うん、大丈夫。私のやるべき事はわかった」
「……?」
ヴィアベルは何処かズレた返答に首を傾げる。
しかしとてとてと歩き始めたフリーレンに気付き、まぁいいか、と続いて歩き出したのだった。
腕の中の魔導書を持つ手が、思わず強まる。
フリーレンの揺れていた瞳が覚悟の色に染まる。
「(必ず、全てを取り戻す)」
未だに胸に穴が空いたような空虚感を感じる。
だからこそ、必ず、やりとげてみせる。
一つの決意と共に、強く腕の中の魔導書を握った。