「戦争だ」
一級魔法使い……此度の試験で合格した者達も含めた……が一堂に会する一室で、壇上に立つゼーリエはそう宣言した。
反応は様々ではあるが、その殆どが納得の色を浮かべていた。
近郊に魔族の集団が現れたのは、殆どの者が理解している。
更には、オイサーストに張られたゼーリエの結界が破壊された事も。
そんな状況で戦いが起こらない等と楽観する者は、誰もいなかった。
「決戦は明日。それまでに一般市民の避難を終わらせておけ。後は他の街……いや、人類の生存圏の全てに文を送っておけ」
「……何と送られるのですか?」
傍らに佇んでいたゼンゼの問い掛けに、ゼーリエは不敵な笑みを浮かべて答えた。
「目覚めた『終極』に人類の存亡をかけた戦いを挑むだけの話だ」
幾人かの息を飲む音が聞こえる。
ゼーリエの顔は笑顔ではあったが、決して冗談を言っているようには聞こえなかった。
「最初に言っておく。怖じ気付いたならば一般市民と共に逃げろ。責めはしない。なんせ相手は私よりも長く生きている……神話の時代の化け物だ。南の勇者との約定で奴は人類を直接害する事は出来ない筈だから、死にはしないだろうが……それ以外は何一つ保証出来ない。奴の考えは独特で読めんしな」
「……そのような相手に、どう戦うのですか……?」
ゲナウの問い掛けは恐らくその場の総意だった。
この場の者達の殆どはゼーリエと戦うイメージすら出来ない者達ばかりだ。
それは決して責められるような事ではないが、ゼーリエをして『化け物』と呼ぶような未知の敵を相手どるには、その心得では不足と言えた。
……勿論、例外は存在するが。
だが、今この場では、次の戦いでは不要な心得だと、ゼーリエはより笑みを深くした。
「簡単だ、私が奴を滅するまで耐えろ。それだけで良い」
「おぉ……!」
ざわっ
ゼーリエが出る、それは彼等に安心感を与えた。
文字通りの生きる伝説……彼女が出るのであれば、勝利は間違いないだろう。
それだけの信頼が、ゼーリエにはあった。
感嘆の息を漏らす者達を見渡し、ゼーリエは言葉を続ける。
「だが、もしも少しでも私の力になってくれるのならば……私が奴を討つまで、露払いを頼むとしよう。……レルネン。やってくれるな?」
「はっ……貴女様がお望みであれば」
恭しく頭を下げたレルネンに、ゼーリエは微笑みを浮かべた後小さく頷いた。
そして、改めてその場の面々に向き直り、口を開いた。
「もう一度言う、決戦は明日だ。それまでに避難を終わらせ、戦争に参加する者達は覚悟をしておけ」
そこでゼーリエは一度言葉を切り、僅かに逡巡する様子を見せた。
ゆっくりと瞬きをした後、視線を俯かせたまま、ゼーリエはそれを言葉にした。
「繰り返しになるが、これは人類の存亡をかけた戦いになる。……既に一つ、グラナト領近くの村が奴の手にかかっていたようだ。住んでいた村民達は生きてはいるようだが……
調査の結果……と言うよりは丁度その情報が伝わってきたと言えるだろうか。
グラナト領に程近いとある村が、
そこは近年、とても美味しく新鮮な野菜が卸されている事で有名であった。
故にとある商人がまた買い付けにきたところ、緑に覆われた村を発見したとの事だった。
まるで数百年経ったかのような緑化具合と、ほとんど劣化していない家屋の残骸がひどい違和感を醸し出していた。
そして、その村には傍目には人が存在していなかった。
故に村人は全滅したと判断されていた。
だが調査の結果、それは間違いである事がわかった。
村に存在する
「……わかるか? 人が生きたまま植物にされたのだ。それを容易く出来る相手という事を理解しろ。奴は、人の常識では測れん化け物だ」
ゼーリエは言葉を失う面々を後目に、クルリと踵を返した。
背中ごしの目線からは、今まで彼女から感じた事のない感情が溢れているような、そんな気がした。
「……改めて明日までに、覚悟を済ませておけ」
大事な者達との別れも、な。
そう言い残して……ゼーリエはその場をゆったりとした足取りで去っていった。
残された面々は多少呆気にとられつつも、今自分がするべき事をゆるゆると、それぞれが行い始めた。
ある者は民間人の避難誘導をしに、ある者は裏付けを取るために情報を探りに、またある者は明日に備えて休息をとりに。
その中の一人であるフェルンは、一先ず旅の仲間と合流する為にその場を後にするのだった。
表情に浮かぶのは、隠しきれない不安の色。
最近何処かおかしかった師は、昨日本部に入ってから帰っていない。
緊急で集められたこの場に呼ばれているのかと思えば、ここにもいない。
気にしないでとは言われていたものの……心配の種は尽きない。
一級魔法使いに合格した特権として貰った魔法を自慢したかったのに、と自分のローブを引っ張り鼻先に埋めた。
まるで洗った直後のようなフローラルな香りがした。
思わず笑みを浮かべるも……それを自慢する師は、褒めてくれる師はいない。
「……フリーレン様」
笑みを引っ込め、とぼとぼとフェルンは歩いていく。
向かうのは、もう一人の仲間、頼れる前衛である戦士のシュタルク……。
今この街に迫る危機を知れば、彼は間違いなく立ち上がってくれる。
「いや、ちょっと違うかも」
恐らくシュタルクは戦いが起きると言われたら、相手が魔族の大群だと知ればビビり散らかすだろう。
泣きながら、逃げようぜ、なんて言うかもしれない。
それでも……そうやって怯えながら、喚きながらも立ち上がり戦ってくれる……そんな信頼があった。
彼は、そういう人だから。
「……取り敢えず、シュタルク様と合流しなきゃ」
まずは会う事だと、フェルンは足を速めていく。
今この街に迫る脅威を、シュタルクに伝える為に。
なお、シュタルクの反応はフェルンの想像通りであった。
そんなシュタルクを、呆れたように、けれど微笑ましく見つめていた。
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「皆さん! キャンプ楽しんでますか?」
「交渉は残念ながら決裂しちゃいました!」
「フリーレン? ってエルフを引き渡してはくれませんでした!」
「ゼーちゃんもケチくさいですね……どうせ数十年後には全部なくなるのに……」
「まぁ、こうなってしまったからには仕方ありませんね」
「明日、あの街ごといただくことにします!」
「なので、今日は美味しいご飯を食べて英気を養ってくださいね」
「……うん、えへ、そうですね……今夜はバーベキューにしましょうねぇ」
「キャンプの夜と言えばバーベキューですよ!」
「いっぱい食べてくださいねぇ!」
「あ、ただ明日は人間達に危害は加えないようにしてくださいねぇ」
「……はい、そうですね。皆、頼りにしてます!」
「さあ明日、みんなではりきって行きましょうね! みんなからしたら久々の戦、ですね!」
「みんなの勇姿楽しみにしてますよ!」
「戦争です!」