『
自他共に認める、七崩賢最強の『黄金郷のマハト』が使用する魔法。
魔法の効果は言葉通り、どんなものも黄金にしてしまうという恐るべきもの。
そして、そうやって出来た黄金には、不変の性質が付与される。
マハトの魔法によって作り出された黄金は、どんな方法を用いようと加工する事が出来ないのだ。
黄金が、地面を、植物達を侵食していく。
地面に根を這わそうとした蔦が、黄金に変えられていく。
蠢く命に溢れた緑は黄金と化し、その動きを止めていく……。
マハトが通る後に残るは、命無き黄金のみ。
例え、世界を包み込む事が出来ようとも、マハトの黄金だけは、決して変わらない。
どれだけ魔力を注ぎ込もうと、黄金に果実を実らせる事は出来ない。
レーベの魔法、『
「っ……!」
どうしようもなく、天敵なのだ。
マハトの操る黄金の刃が、苦しそうに表情を歪めた眼前の者へと、容赦なく放たれた。
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その時、戦場の各所で魔族達の動きに変化があった。
戦場の一点を見て、そちらへと向かおうとし始めたのだ。
それをソリテールは、事前の策とも呼べぬものが上手く行っている事に気付き、改めて気を引き締めていた。
「そっちにも行かせてあげない。さて……マハトが仕事を終えるまで……魔力、保つかしらね」
ソリテールは背を向けた魔族を吹き飛ばしながら、ボソリと呟く。
目の前の魔族達は、大魔族である自分からすればそう大した相手ではない。
大きな労力なく、容易く倒してしまえる相手だ。
けれど、それを消耗無く行える訳ではない。
このままの状態が続けば、まだ余裕はあるとはいえ、いずれ魔力か体力かはたまた集中力が尽きてしまうだろう。
そうなれば、地に伏せるのは自分になる。
ほんの僅かに見えた自分の末路の一つの可能性。
それでもソリテールは、変わらず、粛々と対応を続けていた。
「人形に負けるのはどんな形でも癪だから、マハトにはさっさと勝って貰いたいわね」
背後から切りかかってきた魔族を切り捨て、糸を絡めとりながら切り裂き、放たれた赤毎吹き飛ばす。
即座に新たな魔族が
その一方、同じようにマハトの参戦を感じたリヴァーレは、更に戦意を滾らせた。
ほんの僅かに自分から意識を外した眼前の一人を切り捨て、返す刀で距離を詰め、新たに生成されはじめていた天秤を砕いた。
「――ッ! もうッ!」
苛立ちを隠さずに振るわれた刃を素手で受け止め、お返しとばかりにその頚を切り落とす。
――これでアウラの頚を落としたのは何回めだったか……。
崩れ落ちる頚のない体から視線を外せば、塵になっていくのにあわせて、また新たなアウラが
「まったくもって、冒涜的……というのか、悲しいと言うべきか、哀れと言うべきか……」
呆れたように呟くリヴァーレだが、そこまで余裕がある訳ではない。
相対するは七崩賢のかつて欠けた3つと最近欠けた1つ。
有象無象の魔族は物の数ではないが、七崩賢はモノが違う。
魔王様が見初めた、一際特殊で特別な魔法を扱い七の魔族。
思うがままに奮われただけで、人の軍勢等容易く壊滅する事だろう。
事実、アウラの『
故にリヴァーレに出来る事は、先手をとって殺し続ける事のみ。
魔法が放たれるよりも、何かが形作られるよりも、魔力が滾るよりも早く、速く、全力で殺し続ける。
それは恐らく、リヴァーレにしか出来ない。
「くはははっ、悪くない。クヴァールも良い戦場を用意してくれたものだ。精々最後まで踊ってやるとしよう」
もしも一手遅れれば、即座に致命傷になり得る戦場で、リヴァーレは躍る。
歯を剥き出しに獰猛な笑みを浮かべて、踊り続けていた。
そして、人間達は既に壊滅寸前であった。
死者こそいないが、怪我人を始め、『
今そんな彼等が無事なのは、戦場に到達したマハトが丁度良くそれらと相対していた魔族達を黄金へと変えたからだった。
最早絶体絶命と言えるような状況だったヴィアベルとデンケンは、その信じがたい光景に目を見開いていた。
特にデンケンの狼狽えかたは尋常ではなかった。
黄金の正体を二人はほぼ同時に察したものの、抱く感情はまるで違うもの。
辺りの様子をまったく気にする様子もなく進んでいく魔族、マハトの姿に、デンケンは口を何度か開くが、それが言葉になる事はなかった。
「……あれは、こっちについた、って事で良いのか?」
此方を一瞥すらしない、魔族のみを害した黄金、そこから判断するものの、悪名もよく知っているヴィアベルは冷や汗を流しながら呟いた。
ちら、とヴィアベルに視線を向けられたデンケンは、口を閉じると暫し逡巡する。
コツコツとマハトが黄金と化した大地を進んでいくのを暫く眺めた後、デンケンは絞り出すように言葉を紡いだ。
「………………見極めるとしよう。今は儂らしか動けん。追うぞヴィアベル」
「ああ、わかった」
グルリと辺りを見回した時、殆どの者達はその場に棒立ちしたまま、無事だった者達がそれらを回収してはいるが、そもそも動ける人材が今どれだけ無事なのかもわからない。
虚ろな瞳でぼうと立ち尽くすエーレとシャルフを見て顔をしかめながらも、ヴィアベルは頷いた。
今は、自分に出来る事をするしかない。
そう自分に言い聞かせ、二人はマハトの後を慎重に追うのだった。
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「くっ……あぁっ! マハト、マハト! みんなからそうやって、命を奪って! 貴方は何故そんな事が出来るんですか!」
自分を襲う黄金の刃の嵐をかわしながら、苦しそうに顔を歪めて言葉を吐き捨てた。
それを追うマハトは、何も感じていない様子で、冷徹な目を向けた。
「……わからないな。お前が人
ガギャギャギャギャギャギャ!
黄金の刃と地面が擦れあい、耳障りな音を響かせる。
それでも黄金の地面には、傷一つつかない。
「そこに俺とどんな差異がある? 黄金となった人間と、植物となった人間……それは人間達にとっては等しく『死』と呼べるのではないか?」
ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!
異常に成長した植物が、新たに実った魔族達が、黄金へと立ち向かうも刃の嵐に抉られて消えていく。
眼前に突き出された刃を、身を反らしてどうにかかわし、マハトを鋭い瞳で見つめ返した。
「私はただ、平穏に過ごしたいだけです! 誰も飢えず、傷つかず、穏やかに過ごす日々があれば、それで良いんです! 貴方の願う共存だって、私達が作り出す世界なら簡単に叶うんですよ!? それで良いじゃないですか!」
その叫びとともにマハトへと無数の植物の蔦が向かうも、容易く切り落とされて、黄金と化し、また新たな刃へと姿を変えられてしまう。
あまりにも悪い状況に苦い表情を浮かべも、マハトは手を緩める事はない。
間髪入れずに襲い掛かる刃をどうにかかわすが……そもそも直接的な戦闘を殆ど行っていなかった身では、流石に限界があった。
気付けば目の前には刃を後ろに引き、突きだそうとしているマハトの姿があった。
黄金の刃の嵐に紛れ、近接していた事に遅れて気付き、その瞳が大きく見開かれた。
「まだ、俺は人を、感情を理解出来ていない。俺の願う共存は、お前の作る世界にはない」
そのまま突き出された刃は。
ドシュッ
真っ直ぐ、胸の中心を貫いた。
「あっ……」
「疾く死んでくれ、『豊穣のレーベ』」