フリ魔転生!~穏やかに暮らしたい~   作:如月SQ

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計り

 ヒンメルとアイゼンが切り結び合う中で、フリーレンは援護をしつつも、マハトのほうを気にしていた。

 フリーレンはその昔、一度マハトと戦った事があり……完全な敗北を喫している。

 そんな存在が突然現れたのだから気が気ではないものの、そこは熟練の魔法使い、僅かに意識を向ける程度で戦いをこなしていた。

 

 そんな最中、マハトの決定的な一撃が、レーベを穿った。

 胸の中心を貫いた刃に、包囲する無数の黄金の刃、かつて相対した時よりも明確に、本気で『殺し』にかかっている姿に戦慄しつつ……レーベの討伐を確信していた。

 

 だが次の瞬間、レーベの口が弧を描き、言葉を紡いだ瞬間にそれは間違いだったと知るのだった。

 

「『楽園へと導く魔法(アンシレーシエラ)』」

 

 覚えのある魔法に、フリーレン、アイゼンの両名の目が見開かれた。

 

「……! まさか、あいつ、グラオザーム……!」

 

「グラオザームだと……!」

 

 魔王討伐の旅で、相対した事のある七崩賢の一人、『奇跡のグラオザーム』。

 先程まで確かに存在していた麦わら帽子を被った魔族の姿はほどけるように消えていき、見覚えのある黒髪の魔族がその代わりに刃に貫かれた姿で現れていた。

 それと同時に、刃を突き立てていたマハトはその場に崩れ落ち、宙に浮いた無数の刃も音を立てて落ちていく。

 その光景に、横目で様子を伺っていたアイゼンは、作戦の失敗を察したのだった。

 

 口元を血で汚したレーベ……改めグラオザームは倒れ付したマハトを見下ろし、そのまま体を塵へと変えていく。

 マハトの一撃は間違いなく致命傷だった。

 しかしその相手を、致命的に間違って、いや、間違えさせられていた。

 笑みを浮かべたままグラオザームは塵と化し、入れ代わるように先程までの姿……麦わら帽子の女性の魔族がその姿を現す。

 

「あは、マハくんだ」

 

 レーベは笑い、ゆっくりとしゃがみこみ、その手を眠るマハトの背にあてた。

 優しく、静かに一撫でして、その目を細めて、歪んだ口元を開く。

 

「『実らせる魔法(フォールネス)』」

 

 ビクン、マハトの体が跳ねる。

 だが、夢見るマハトは目覚める事は出来ず、レーベの魔法は執行されてしまう。

 マハトの全てが結実していく……誰もそれを阻む事は出来なかった。

 

 やがてレーベの手には、黄金色の果実が現れていた。

 鈍く光を放つそれを、レーベはまじまじと見つめ、そして――。

 

「あー」

 

しゃく

 

「うんうん……甘い。やっぱり、グラくんの夢を見てる子は美味しいね」

 

しゃく

 

「蕩けそうな程に甘い、甘い……」

 

しゃく

 

「幸せの味……♡」

 

しゃくっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……あ……」

 

 マハトを追ってきていたデンケンとヴィアベルは、そこで繰り広げられていた光景に二重三重に言葉を失っていた。

 マハトの壮絶な魔法も、何処か見覚えのある人間と戦うフリーレンと戦士らしきドワーフ姿も、姿の見えないゼーリエも、明らかに怪しい結界も驚きの連続だった。

 だが、今回の戦いの目的の魔族、麦わら帽子を被った女魔族がマハトに貫かれた時は、思わず拳を握り締めていた。

 安心こそ出来ないものの、今回の襲撃の主犯があの女魔族で確かならば、これで戦いは一先ず終わる。

 その後いくつも懸念すべき事柄はあるが、とデンケンは師の背中を見て複雑な思いを抱き……そして、その体が崩れ落ちた事でその目を大きく見開いた。

 

 倒れ伏すマハト、その背から黄金の果実を造り出した女魔族。

 そしてそれを食らい恍惚の笑みを浮かべる女魔族に、デンケンは言葉に出来ない感情を抱いた。

 心が揺れている、明らかな動揺を抱いている。

 自分の状態をそう分析し……そして理解した。

 自分は、かつて師と仰いだ魔族の勝利を疑っていなかったのだと。

 そんな、信じていた師の敗北はデンケンが思うよりも心を揺さぶり、強い動揺を見せてしまった。

 

「……おい、爺さん! 俺があいつを止める……! その間に、まだあからさまに油断しきってる間に仕留めろ……! あのバケモンを仕留めるのは、それしかねぇ!」

 

「あっ……ああ……ああ! すまん、頼む!」

 

 だからこそ、ヴィアベルの言葉にも反応が遅れ、動き出すのが遅れた。

 それは、致命的な遅れ。

 マハトを下したという事は、人類にとってマハト以上の脅威となるのと同義だというのに、元よりあの魔族を討伐する為の戦いだったというのに、動揺から動き出すのが遅れてしまった。

 

「あ、は♡」

 

パキィイイイインッ

 

 愉悦にまみれた、おぞましい笑い声が響いた瞬間、黄金に覆われた世界が、一瞬で元の色を取り戻した。

 

「っ……!」

 

 立て続けに起こる、デンケンの思考を上回る現実。

 声が漏れなかったのは、奇跡に近い。

 動揺を圧し殺し、『魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)』を放とうとした時にはもう、遅かった。

 

「『実らせる魔法(フォールネス)』」

 

シュルルルルッ!

 

「なっ、くそっ……!?」

 

「ヴィアベル! おのれ、むおっ……!?」

 

 視界を遮るように、太い蔦がヴィアベルに絡み付いた。

 ヴィアベルも即座にそれを切り払おうとするも、その動きに合わせたかのようにまた別の蔦が腕に絡み付き、その動きを止める。

 あっという間に身体中を蔦に絡めとられ、身動きの取れなくなってしまったヴィアベルをデンケンが助けようと視線を向ければ、その足元から伸びた蔦がデンケンまでと絡めとった。

 二人はどうにかしようと足掻くも、蔦は次々と絡み付いてきて、やがては指一本すら動かせない程に固められてしまったのだった。

 

 そして、そんな危機的状況の中、絶体絶命の中で、二人が抱いたのは……異様な事に安心感だった。

 暖かな日だまりの中にいるような、温もりに包まれ寝入る直前のような、そんな安心感。

 霞がかっていく思考、自然と四肢からは力が抜けていき、指先に至るまで温もりに包まれていく。

 心地好い陽気、北ではそんな日は稀で……二人はそれに身を任せてしまう。

 どのような強い思いも、蕩けて、解けて、融けて……。

 

 やがて二人の意識は、そのまま暖かな闇に呑まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ早いですかね?

 でももう必要なものは手に入れてますし……

 誓約はどうしましょう?

 アーちゃんがフリーレンにやられちゃったから、本当ならまだダメなんですけど……。

 あは。

 マハくんいないし、もういいですよね。

 マハくん食べたら、マハくんがいないってわかったら私を拒絶する大嫌いな黄金がないってわかったら、もう、我慢出来ません。

 やっちゃいましょうか?

 やっちゃいましょう。

 始めましょう。

 トートちゃんは……まだゼーちゃんと遊んでるんですね。

 仕方ない、先に始めちゃいましょう!

 この世界の、ありとあらゆる生命が、毎日を、穏やかに暮らせるように!

 誰にも、何も奪われない。

 そんな日々を迎えられるようにしてあげます!

 

「『実らせる魔法(フォールネス)』」

 

 この世界の全てを、包み込んであげます。

 

バキッ

 

ブシッ

 

ブチブチッ

 

 誓約を破った事によるペナルティが、私の体に刻まれます。

 骨が折れ、血管が弾けて血が噴き出し、筋肉が千切れていきます。

 視界が赤く染まって、全身に激痛が走って、口いっぱいに血の味が広がります。

 

 それでも私は魔法を使い続けます。

 何せ、これで私の悲願は果たされるのですから。

 トートちゃんと一緒に、一生懸命、長い時間をかけて考えた、私達の計画……。

 

 『神樹計画』を、実行に移す時です。

 

「あはは……」

 

 痛い、痛いなぁ……でももうちょっとの辛抱です。

 

「あはははははっ、ごぼっ……えぶっ……えへ、あはははっ」

 

 溜まった血が、口から吐き出されます。

 塊になってますね……おっきい。

 内臓もズタズタになってるみたいですね……。

 

「あははははははっ! あははははははははははは!」

 

 でも大丈夫!

 平気です!

 まだまだ我慢出来ます!

 このくらい屁でもないです!

 

「さあ、みんなでしあわせになりましょう!」

 

 全てを呑み込むべく、私は血だらけの折れた両手を広げて、そう叫びました。

 

ゴオッ!

 

 そんな私の右腕が、光線に飲み込まれて消えました。

 比較にならない程の激痛が走りますが……私の視線はそれを放った存在へと吸い寄せられていました。

 

 白を基調とした服に身を包み、赤い宝玉のついた杖を構え、白く輝く髪をツインテールにした、耳の尖った少女と見間違うような容姿……。

 

「……フリーレン」

 

「レーベ……」

 

 『葬送のフリーレン』が、私の前に立ちはだかっていました。

 凛とした佇まい、強い意志の感じられる瞳……。

 相対していた筈の青銀の勇者さんは……見当たりませんね。

 魔法使いが勝てるような相手ではなかった思いましたが……そこは『フリーレン』という事なのでしょう。

 無傷でこそありませんが、その美しい容姿は、多少傷付き汚れていようと曇る事なく、輝いてすら見えます。

 ……あは、いつも泥まみれな私とは大違いですね。

 

忌々しい。

 

「……流石、主人公ですね」

 

 私は思わず、そう吐き捨てていた。

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