フリ魔転生!~穏やかに暮らしたい~   作:如月SQ

46 / 50
説き

「凄い、倒してきたんですね!」

 

 レーベは驚きと笑みを浮かべて、フリーレンを見つめた。

 わざとらしいその態度に、眉間に皺が寄る。

 

「彼はすっごく強かった筈でしたのに、倒されるとは思ってもみませんでした! 流石は『葬送のフリーレン』ですね!」

 

 なんとも空虚な言葉だった。

 傍目には朗らかに見える。

 笑みも柔らかく、他の魔族のように嘘にも見えない。

 

 けれど、何処かズレを感じる。

 決定的に、何かを間違っているような、そんな感覚だった。

 

 他の魔族とは確かに違う。

 この魔族にはちゃんと心があるように思う。

 けれど同時に、どうしようもなくズレている。

 人とも魔族とも噛み合わない、異質さを感じていた。

 

 何よりも周囲で起きている惨状、生き残っていた人達が蔦や木の幹に捕らわれていく光景の中で、身体中から血を噴き出して、それでも朗らかに笑う精神性は、フリーレンには……人には理解しがたいものがあった。

 あまりにも滅茶苦茶、世界を覆い尽くしている程の魔力を持ちながら、いたぶるように戦い、捕らえ、見たところ命を奪う様子もない。

 目的が、見えてこなかった。

 

 だからか、フリーレンは思わずそれを口にした。

 

「お前は、何をしたいの?」

 

 もう既に勝った気でいるのだろう、終わった気でいるのだろう。

 レーベは面白そうに笑みを浮かべたまま、フリーレンを見つめていた。

 

 現状既に戦場に立つ人影は少なく、立ってる人影にも角が生えているものばかり……。

 既に状況は絶望的、ここから逃げる事さえ難しいだろう。

 それでもフリーレンは聞いてみたかった。

 あの時、アウラを自害させた直後に現れたレーベの嘆きと涙には、嘘がないように感じていたから。

 

ズキンッ

 

 ……頭が、痛い。

 

 それでも真っ直ぐ、フリーレンは血塗れのレーベを見つめていた。

 

 レーベは嗤う。

 朗らかに、壊れたように。

 その瞳の奥に秘めた感情は、フリーレンには見通せなかった。

 

パンッ

 

 レーベは唐突に両の手をうちならした。

 そして笑みを深め、ゆっくりと口を開いた。

 

「そうですね! 折角なのでお教えしましょう! 私が望むのはただ一つ!」

 

 目を開いて、真っ直ぐにフリーレンを見返して、レーベは言葉を紡いだ。

 

「私はただ、穏やかに暮らしたいんです」

 

 その瞳は、他の魔族同様空虚だった。

 

 フリーレンの片眉がピクリと震えた。

 言葉の意味はわかるのに、理解出来なくて、困惑を隠せなかった。

 

「……意味がわからない。それならずっと何処かで引きこもっていれば良い。穏やかに過ごせる秘境なんて、いくらでも……」

 

「引きこもってましたよ? 人里離れた場所で農業していた私の居場所に現れて、私を営みに組み込んだのは貴方達人間です。そして、私から奪うんです、容赦なく、際限なく」

 

 口元の笑みが消える。

 

「貴方達人間の欲望は限りないですね! 私が与えたそれを当然と思い込み、気付けば私の作るものは全て奪い、それが当たり前のように振る舞うんですよ!」

 

 その様子に、フリーレンは二の句を継げなかった。

 一方で行動の理由の片鱗も理解してしまって、思わず顔をしかめた。

 施しを当然と、与えられた日常を当たり前に思い込む事には、自分にも覚えがあるから。

 

「……まあ、別に良いんですけどね、なれてるので」

 

 けろりと、微かに溢れでていた狂気が唐突に霧散する。

 目を細め、頬を吊り上げ、笑みを作った。

 

「ただ、私の作物が争いの種になるのは嫌でした! 私はただ穏やかに暮らしたいだけなのに、周りの人にもそう過ごして貰いたいだけなのに、もっと栄えたい、もっと富みたい、豊かになりたいって、争いの火種を作り出していくんです! それが、どうしても許せなくて……だから……」

 

 レーベは語りながら、ゆっくりと目を見開いていく。

 笑みを浮かべたまま、首を傾げて、フリーレンを真っ直ぐ見つめて……。

 

 見開かれたレーベな瞳は、何も映していなかった。

 

「人の、人としての営みを終わらせようと、思ったんです」

 

「……はぁ……? 何を――」

 

 フリーレンが呆けた声を洩らした瞬間、すぐそばの結界……不死なるベーゼの結界が砕け散った。

 かつてフリーレンが数日がかりで仲間と共に打ち破った結界……思い出せばノイズが走り、何故あの結界を解除する事が出来たのかは思い出せないが、今の自分でも容易くはないのは確かだ。

 そんな結界を打ち砕き現れたゼーリエに感嘆の思いを抱くが……その姿に目を見開いた。

 

「ゼーリエ……!?」

 

 おびただしい出血の跡に、喪われている左腕、顔色は悪く、その表情には焦燥が滲んでいる。

 フリーレンが魔力の揺らぎが見える程に、ゼーリエに余裕はなかった。

 そんな初めて見る姿に思わず声を漏らした。

 

「っ……フリーレンか……レーベは――」

 

 フリーレンと視線を交わしたゼーリエは僅かに安堵の色を浮かべたが、即座に周囲に向けた。

 ゼーリエは理解していた、既に自分に余裕がない事に。

 手早く、全ての元凶を叩き潰さねばならない、と。

 そしてその目が、レーベを捉えた。

 ゼーリエの瞳が険しく細められたその瞬間……凄まじい魔力が地面から、周辺一帯の地面から迸った。

 

「なっ……」

 

「くっ……!?」

 

 咄嗟に身構える二人を置き去りに、事態は推移していく。

 地面が割れ、そこから無数の太い木の根のようなものがのたうち始めた。

 その全てがおぞましい程の魔力を秘めており、のたうつ度にビリビリと空気が震えた。

 

「あは、丁度良いです。()()()()()()()ゼーちゃんにも教えてあげましょう。私の計画……神樹計画を」

 

 やがてそれらは互いに絡み合いながら一つの大きな、大きすぎる幹となり、天へと枝を伸ばしていく。

 それは、巨大な樹だった。

 戦場となっていたこの場ではいつしか……いつからか、戦いの音は響いていなかった。

 そんな静寂の中現れた巨大な樹木に、誰一人言葉を発する事はなかった。

 

 それに一番最初に気付いたのは、その樹を見上げていたゼーリエだった。

 唐突に現れたその迫力に圧され、内包する魔力に驚愕し……そこに()()()()()()()()()()に目を見開いた。

 

「っ……! お前達っ……!」

 

 そこには無数の顔……目を瞑り、意識のない様子の人の顔がいくつも浮かび上がっていた。

 その中にはフリーレンの見知った顔もいくつか存在していた。

 そしてそこには当然……ゼーリエの元に集っていた魔法使い達も含まれていた。

 

「貴様ァッ! レーベェ!」

 

 憤怒に顔を歪めたゼーリエが、魔力を滾らせた。

 フリーレンをしてまだまだ届かないと思わせる魔法の高み、収束の速さ威力ともに最高峰であり、食らえば塵も残らないであろう、見たこともない魔法。

 

「とある二人の男が夢見た計画を参考にした、世界を平和に導く計画です。人々はこの植物……世界中に()()()()樹の中で生き続けるのです。夢の中で、理想の世界の中で……永遠に」

 

 意に介した様子もなく、レーベはつらつらと言葉を紡いでいた。

 

 それを見てゼーリエは決意する。

 正直に言えば僅かな情がレーベに対して存在していた。

 魔族にも関わらず心を持ち、善性を持った……自分も慕っていた時期があった相手。

 だが、その在り方は既に歪みきっていた。

 情状酌量の余地はない、このまま放っておく選択肢はない。

 わかっていた事だが、ここで塵も残さず消し去るしかない!

 

 歯を食い縛り、ゼーリエは全身全霊をもって、魔法を放とうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『実らせる魔法(フォールネス)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 気付けば、ゼーリエの背後には褐色肌のドレス姿の魔族……トートの姿があった。

 ゼーリエの背中に手を伸ばしていたトートのその手には、ゼーリエから実った、黄金の果実。

 

 ゼーリエの瞳から、怒りが、悲しみが、理性が、消えていく。

 爆発寸前だった魔力が霧散し、そこにはただ一人、エルフが立っているだけだった。

 

しゃく

 

「……深い、絶望の味……。ダメよ、ゼーちゃん……油断しちゃ」

 

しゃく

 

「貴女は別に、私を出し抜いただけで勝った訳ではないのだから……」

 

しゃく

 

「……甘いのね、本当に……」

 

ペロリ

 

 トートが黄金の果実を食べきり、唇を舐めると同時に、ゼーリエは崩れ落ちた。

 フリーレンは、ただその様子を眺める事しか出来なかった。

 ゼーリエを今すぐにでも助け起こしたい、いや、トートが現れた瞬間にゼーリエを助けに行きたかった。

 

 けれど、今目の前で、自分を真っ直ぐ見つめるレーベから目を離すなと、本能が告げていた。

 決して目を逸らすな、と。

 

 そして、レーベは何も起きていないかのように言葉を続ける。

 崩れ落ちたゼーリエなどいないかのように、朗らかな声色で。

 

「人間達は理想の世界で生き続けます。そこはその人それぞれの閉じた世界。誰からも奪う事なく、誰からも奪われる事なく、平等で、平和で、平穏で、穏やかで温かい日々だけが続く、理想の世界……喪われたモノすら、私の創る世界ではいくらでも()()()()みせましょう! もう争いは起きません! 争いを起こす必要はないのです! そう、真の平和になるんです!」

 

 レーベは満面の笑みを浮かべて、謳うように言葉を紡いでいく。

 そこにはただ、彼女の想いがあった。

 全てが幸せになって欲しいと。

 もう奪われないようにと。

 

「これが、私達の計画、『神樹計画』です。如何ですか? 素晴らしいでしょう? 全てが幸せになる、完璧な計画です!」

 

 両の手を広げ、天を仰ぐレーベの体からは、絶え間無く血が噴き出していた。

 それでもレーベは心底幸せそうだった。

 今の自分の状態など見えていないかのように。

 

「貴女は、私を否定しますか? ねぇ、『葬送のフリーレン』」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。