「……否定するよ」
フリーレンは一瞬の逡巡の後、ハッキリと否定を口にした。
レーベの笑みが、凍てついたかのように固まった。
「お前のそれは、あまりにも独善的過ぎる。人の意思を、想いを無視して未来を奪うなんて……ただの傲慢だ。私はそれを認められない」
杖を構えるフリーレンに、レーベは首を傾げた。
心底不思議そうに。
「……うーん、モデルにした二人もでしたが、何故否定されるのでしょうね? 皆幸せになりますし、もう争いも起こらない。皆永遠に幸せになれる、完全無欠のハッピーエンドですよ?」
「未来がないからだよ。お前自身が言ったように、それは閉じた未来だ。お前の行為は、もしもこの先人間の時代が続いた時に、そこに生きるだろう人達の存在を全て奪っているんだ。生まれただろう新たな命、料理、文化……そして魔法。それらが生まれる可能性を全て潰して……何が皆幸せだ。私はそんな未来は真っ平だ」
吐き捨てるフリーレンに、レーベは微笑みを浮かべたままだった。
「そんな未来もどうせ奪われるのですから、意味のないものだと思いませんか? なら今生きる者達だけで幸せな夢を見続ければ良いじゃないですか。それに、未来を新しく創造する事を思う人の夢ならばきっと、新しい物もいくらでも生まれてきますよ!」
「……そこに、本当の意味で創造性があるとは思えないけどね……はぁ、ダメだね、やっぱりお前も魔族でしかない。話が通じる気がしない」
チャキ、とフリーレンの杖がレーベに向けられる。
レーベは微笑みを浮かべたまま、微動だにしなかった。
「確かに人は愚かだよ、長命でもないのに直ぐに感謝や痛みを忘れて、愚行を繰り返す。でもそんな人間だからこそ、色んな未来が生まれていくんだ。その未来を……お前の身勝手な理想で潰されたら堪らないよ。……まだまだ、私も見たこともないような魔法が生まれるかもしれないんだから」
魔力を滾らせるフリーレンに、レーベは僅かに顔を歪めた。
「……意外ですね、貴女はそんな事を言うような方だとは思いませんでした。まるで、物語の主人公みたいじゃないですか」
「そうだね……私らしくはないかも。でも、私はお前の前に立ちはだかるよ、絶対に」
その瞬間、レーベの目には、フリーレンの姿に別人の姿が重なるのが見えた。
「だって、勇者ヒンメルならそうしたと思うから」
涼やかな、青銀の青年の像が、微笑みを浮かべていた。
瞬間、バキリと、何かが折れるような音がした。
既に血だらけだったレーベから、その口から、真っ赤な血が垂れていく。
その表情は微笑みを浮かべたまま……けれど、その瞳の奥に隠しきれない何かが覗いていた。
「……何も、何も覚えていない筈でしょう……? 取り込んだだけで勇者を完全再現出来るくらいの、強い思い出の全てを奪ったんですよ……? なんで、なんでそんな事が言えるんですか……?」
ブツブツと、誰に言うでもなく、瞳を忙しなく揺らしながら、レーベは呟く。
「意味がわからない。気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ……! これが主人公補正って奴ですか!? なんで私が善かれと思ってやってるのに逆らうんですか!? 今を生きる人を死なないようにしてあげてるのに……! 所詮悠久を生きるエルフにはわからないって事ですか……!」
ガリガリと頭をかきむしるレーベの瞳は、暗く、淀んでいく。
かきむしった所から出血しながらも気にする事なく、歯を食い縛ってフリーレンを睨み付けた。
「死ななくて済むんだから、平和に平穏に生きてられるんだから、それで良いじゃないですか! 身勝手で独善的なのは貴女のほうですよ!」
ビシリと必死な形相でフリーレンを指差すが、フリーレンは微塵も揺らがない。
ただ哀れなものを見るように、眉を寄せていた。
「ああ、もう良いです! そもそも、貴女はいらないと思ってました……でもやっぱり可哀想だから、まぜてあげようと思い直してたのに! そんなに傲慢に私を見下して否定するなら、貴女はいりません! 貴女の全てを、しゃくしゃくしてあげます!」
醜く取り乱した姿は、あまりにも哀れだった。
フリーレンは一度目を伏せ、小さく口を動かした。
その魔力は、不思議な程に凪いでいた。
「……傲慢なのは、お前のほうだよ」
呆れたように半目で呟かれた言葉に、レーベの表情はぐにゃりと歪んだ。
「ッ……!『
「『
フリーレンの放った光線が、レーベの放った無数の植物の蔦と衝突した。
そして……拮抗は一瞬だった。
しゃく
それを横から眺めていたトートの口が動いた瞬間、フリーレンの放った光線は跡形も無く消えていた。
目を見開くフリーレンが魔法を再展開するより早く、圧倒的な質量に、四方八方から伸びる蔦に、フリーレンはあっという間に飲み込まれていった。
いっそ、呆気ない程に。
「フーッ…………フーッ…………」
かつてない程に険しい表情を浮かべ、レーベは肩を大きく上下させ、深く呼吸を繰り返していた。
そこには今まさに、圧倒的な力で相手を押し潰した者とは思えない程に、焦燥した姿があった。
ポタリ、ポタリと自らの血で大地と根を濡らしながら、覚束無い足取りで、フリーレンを飲み込んだ蔦の部分へと足を進めていく。
一歩踏み出す度にふらつきながら、焦点の合わない目で虚空を見つめていた。
「……大丈夫、大丈夫……主人公だからって、必ず勝てる訳じゃないです……上手くいく、全部上手くいく……ゼーちゃんもトートちゃんが実らせてしゃくしゃくしました……人ももう9割は捕らえました……だから、だからもう大丈夫……私を阻むものはないです……!」
すがるように、言い聞かせるように呟きながら手を伸ばすレーベの目前に、蔦がその身をうねらせた。
そこに目を閉じたフリーレンが、蔦に完全に捕らわれた状態で姿を現していた。
レーベはそれを確かめると、頬を緩ませた。
「……これで、漸く私の夢が叶う……」
そう呟いて、フリーレンへとゆっくりと手を伸ばした。
それをトートは黙って眺め……レーベの口が開いた瞬間、そっと目を伏せた。
「『
「え?」