フリ魔転生!~穏やかに暮らしたい~   作:如月SQ

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殺す

「お前、は……!」

 

 その歯……いや、その魔力は……!

 

「気張れよ、フリーレン。もう一息だ」

 

 ギザギザした歯の少年はそれだけ言うと、手をひらりと振った。

 

「待っ……!」

 

 そしてそのまま、私が止める間も無く白い煙となって消えてしまった。

 残るのは目の前の、大きな通り道。

 枝も根も全てが破壊され、中心へと伸びた真っ直ぐな道。

 その巨大な破壊の跡は、私から放たれた魔法だとは思えなかった。

 ……戸惑いは一瞬。

 即座に飛行魔法を起動し、その出来た道に突っ込んだ。

 破壊された跡がピクピクと動き出していたのが見えたからだ。

 

 悩むのは、考えるのは後で良い。

 今はただ、あの怪物を止めなければいけない。

 その一心で、その通り道を突っ切っていった。

 背後で枝や根がのろのろと動いているのを感じながら、真っ直ぐ、全力で。

 やがて見えてくる、未だに悶えるレーベと、それを宥めようとするトートの姿が見えて……即座に杖を構えた。

 

「『魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)』」

 

 やるなら、今。

 レーベは錯乱状態、トートは背中を向けている、格好の狙い目。

 単発で決まるとは思っていない……アレは正真正銘のバケモノだ。

 だから、最初から全力だ……!

 

 無数の光線を無防備な奴らにぶちこむ。

 手加減も様子見もなし、今出来る全力で……!

 

 そうして放たれたいくつもの光線はトートの背後に殺到し――

 

グリンッ

 

――その頭だけが別の生き物のように不自然に此方を振り返った。

 

「っ……!」

 

 そのあまりにも不気味な姿に背筋に寒気が走った。

 そして、その口が開いた。

 

シャクッ

 

 響く、咀嚼音。

 何度も聞いた不気味な音が響いた瞬間、私の放った『魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)』はかき消えてしまう。

 ……信じられない事だけど、やはりこいつらは魔法を食っている……。

 

「バケモノ……」

 

 あまりにも常識外れな光景に、歯噛みした。

 トートは顔は固定したまま、体を少しだけ此方に向ける。

 その動きは妙に滑らかで、それがまた気持ち悪かった。

 生理的嫌悪感に身を震わせる。

 

「……もう来たの。今は貴女にかまっている状況じゃないって、わからない……?」

 

 放たれる圧力は変わっていない。

 凄まじくおぞましい魔力に晒されて冷や汗が滲む。

 ……どこから何をしても、通じる気がしない。

 

「魔族の都合に合わせる訳がないでしょ。お前達の自分勝手な妄言、ここで終わらせてやる」

 

 けれど怖じ気づいてはいられない。

 もう、この状況をなんとか出来るのは私しかいないのだから、膝を折っている暇はない。

 あえて強い言葉で自分鼓舞しつつ杖を構え、魔力を滾らせたその時、フッと、頭上に影がさした。

 

 離れた所ではトートが此方に手を向けていて、見上げれば……。

 

「いい加減五月蝿いよ、蝿が」

 

 巨大な手のひらが、私目掛けて振り下ろされている所だった。

 

「『美食の手(グルメハンド)』」

 

 これは……魔法、じゃない、魔力を感じない。

 幻影……でもない、物理的な圧を感じる……!

 早い、避けられない……!

 

 即座に防御魔法を展開し、その正体不明の手を止めようとした。

 球状に強固に展開した防御魔法が、迫ってくる手のひらと衝突し……。

 

バリンッ!

 

「なっ……」

 

 一瞬の拮抗もなく、防御魔法はガラスのように粉々に砕け、驚く暇も避ける暇も無く、全身に凄まじい衝撃が走った。

 

「落ちろ」

 

「ッ!!!」

 

 全身がバラバラになりそうな衝撃と痛み。

 地面に向けて加速しながら落ちていく感覚。

 意識を半ば飛ばしながらも、この後にくる新たな痛みに向けて歯を食い縛った。

 

ズドンッ!

 

「かっ…………は……」

 

 勢いがあり過ぎて受け身すらとれず、地面に叩きつけられた私の口から、声にならない息が漏れる。

 肺の中の空気が全てなくなったみたいに、息が苦しい……。

 全身が痛い……身体中の骨が悲鳴をあげてる……多分かなりの本数が折れてる。

 

 視界が、霞む……。

 

「……まだ生きてるの? しぶとい……流石は主人公ね。でも……これで終わり」

 

 霞む視界の中、トートが手をあげたのがわかる。

 私の上空に、同じように謎の巨大な手が浮かんでいるのも……。

 

 まだろくに呼吸も出来ず、全身に激痛、骨も折れて身体は言うことをきかない。

 次の瞬間にはあの謎の手にぺしゃんこにされてしまうのだろう。

 次の瞬間には死んでるような、絶体絶命の状況に追い込まれた私の感情は……。

 

「さよなら」

 

 自分でも驚く程に、冷静だった。

 

 手のひらが振り下ろされ、私を巨大な手が押し潰す直前、私はトートを見つめ、目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 呆けた声が、トートから漏れた。

 今まさにフリーレンを押し潰そうと手のひらを振り下ろしていた筈のトートは、気付けばその場から背後に数十メートル程弾き飛ばされていた。

 

 不意の凄まじい衝撃……とはいえ体にダメージは皆無。

 たが、抗いようのない謎の力場に、トートの体は吹き飛ばされてしまっていた。

 

「っ……! ちっ!」

 

シャクッ!

 

 舌打ち一つ、トートが口を閉じた瞬間、その力場は消失する。

 それと同時に、トートは確かに見た。

 指一つ動かせぬ程の重傷の筈のフリーレンが、自分を見つめていたのを。

 そして……未だに錯乱したままのレーベの背後に、人影が立っているのを。

 

「あぁっ……!」

 

 トートの口から声が漏れる。

 レーベの背後にいる者の正体に気付いて、そこから感じる魔力がトートに警鐘を鳴らしていた。

 

「クヴァールッ!!!」

 

 人影は手をレーベの背中へと向けて、その手の前には魔法陣が現れる。

 滾る膨大な魔力は、空間すら歪ませていた。

 

「まったくもって、上出来過ぎだぜフリーレン」

 

 少年姿のクヴァールは、ギザギザの歯を剥き出しにして笑っていた。

 おぞましい程に膨大で濃密な魔力は空間すら軋ませ、まだ魔法として形になってもいないにも拘らず、周囲で暴れる根や蔦すら弾く。

 漸くレーベがそれに気付き振り返った時には、既にその魔法は形を成していた。

 

「…………え?」

 

 二人の視線が一瞬だけ交わる。

 レーベの瞳は大きく見開かれ、クヴァールの瞳は冷徹に細められた。

 驚いて見開かれ、すがるように、媚びるように潤む瞳に相対するクヴァールの瞳は、揺らぎもしない。

 その瞳に、情というものは一切存在しなかった。

 

 魔族らしく。

 

「『■■を殺す魔法(ゾルトラーク)』」

 

キィンッ

 

 ほぼゼロ距離で放たれた一条の光線。

 暗く淀み、妖しく輝くそれに対してレーベは反射的に口を開いた。

 そして今までのように、トートと同じようにそれをしゃくしゃくしようとして……。

 

ガチンッ

 

「がっ……!? な、なん――」

 

 弾かれた事に驚愕の悲鳴をあげた。

 光線は止まらず、レーベの体に触れる。

 そして次の瞬間には……その光線はレーベの体を消し飛ばしていた。

 

ズォッ!

 

「――でぇ……?」

 

 腹部の殆どを消し飛ばされ、上半身と下半身で分かたれた体がふわりと宙に浮いた。

 ごぽりと、レーベの口から夥しい血が溢れた。

 

「ッ! レーベちゃんっ!!!」

 

 トートの怒号と共に、暴れ続けていた蔦と根の動きがピタリと止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げほっ……ごぽっ……」

 

「……やっとだ。やっとこれで、てめぇらのくだらねえ企みを殺せた」

 

 上半身だけで血を吐くレーベを抱えて、トートはただその頬を撫でた。

 俯く表情は、クヴァールからはよく見えなかった。

 

「俺が封印され、魔王様が倒され、それでもお前達がずっと生きてると知ってどれだけ気を揉んだか……ソリテールとリヴァーレ、更にはマハトまで力ずくで引っ張ってきてゼーリエにフリーレン(原作主人公)まで巻き込んで漸くだぜ? まったく、シュラハトの奴ももう少しマシなルート見つけろってんだよな」

 

「……レーベ……ちゃん……」

 

 つらつらと言葉を述べながら、クヴァールは二人を見下ろして手を向けた。

 集う魔力の動きは先程と同じ、『■■を殺す魔法(ゾルトラーク)』。

 二人では防ぐ事は叶わない、絶対的な『殺す』魔法。

 

「この世界は俺達転生者の箱庭でもおもちゃでもねえ。それすら理解出来なくなる程に()()()お前達はここで殺す」

 

 吐き捨てるようなその言葉と共に、魔法陣から光が放たれた。

 一切の躊躇も逡巡も無かった。

 

 ただクヴァールは、血塗れの二人を見下ろして……僅かに視線を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い゛だい…………ぐる゛、しい゛、よぉ……」

 

 

 

「だず……けで…………お゛……あ……」

 

 

 

「ト…………ちゃ…………じに……だ……な゛…………」

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