フリ魔転生!~穏やかに暮らしたい~   作:如月SQ

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魔族農場③

 配下三人が各々動き出したのを、アウラは食事をしたテーブルで見送っていた。

 そしてそこに残り、対応するレーベの姿があった。

 

「アーちゃん、紅茶でも如何ですか?」

 

「気が利くわね、頂くわ」

 

 何処からか取り出したポットから、湯気が立ち上っている。

 カチャ、と音を立てながらカップをアウラの前に置き、そのポットから紅茶を注ぎ始める。

 赤茶色の液体がみるみる内にカップを満たし、ふわりと独特の香りが漂った。

 

「……うん、相変わらず良い香りね」

 

 アウラは目を瞑り、その香りを楽しんでいるようだった。

 その嗜好品を楽しむ様子は、魔族らしからぬものであった。

 

「アーちゃんはミルクとお砂糖でしたよね?」

 

「ええ」

 

 パチ、と目を開いたアウラの前で、まず小さな壺から砂糖がスプーンに乗せられ、紅茶のカップへと入っていく。

 続いて似たような壺がカップに向けて傾けられ、そこから乳白色の液体が注がれていく。

 レーベはそれをゆっくりとかき混ぜていく。

 赤茶色だった紅茶は乳白色が混ざった事で、明るめの茶色みがかった灰色へと姿を変えていく。

 

カチャ

 

 やがて程好く混ざった所で、レーベはスプーンを抜く。

 そしてカップをアウラへと差し出して、()()()()()()()()()()()()お茶菓子を受け取った。

 アウラはそれを気にする事なく、カップを手に取り、その香りを胸いっぱいに吸い込みながら、優雅に口をつけた。

 

「……ん、美味しい。これが楽しみで魔王軍の集まりに出てたまであるからね、懐かしいわ……」

 

「今日のお茶菓子はスコーンですよー。イチゴジャムつけても美味しいです」

 

 そう言ってレーベが差し出したのは小麦色の焼き菓子。

 ほんのり暖かい、まだ出来立てであるだろうスコーンからは、香ばしい匂いが漂っていた。

 そのスコーンを持ってきていたレーベの後ろにいるレーベは、アウラに一礼すると、そのまま地面に吸い込まれるように消えていった。

 

「……相変わらず見事な魔法だわ。()()()()()()()()()()のだったかしら?」

 

「はい!何処にでも出せますよ」

 

「惜しむらくは……戦闘能力がまったくない事ね。本当に、宝の持ち腐れだわ」

 

「あはは……手厳しいですね」

 

 アウラは、呆れたように肩を竦め、スコーンを口に運ぶ。

 

サクリ

 

 スコーンの小気味良い音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レーベの使う魔法、『実らせる魔法(フォールネス)』は作物の実りを良くする効果がある。

 その土地で種を蒔いた時に取れる最大値の量を、普通よりも早く、安定して実らせる、という効果である。

 そして()()()()()()()()()事が出来る。

 この効果は前世である、サブカルチャーを楽しんでいた現代人としての記憶が大いに影響している。

 具体的には、超有名海賊漫画の自分の部位を咲かせる能力と、超有名忍者漫画の経験を共有出来る分身能力。

 それらの記憶が、それが出来るという確固たるイメージをレーベにもたらしていた。

 故にレーベは何処にでも自分自身を実らせ、いくらでも増やす事が出来る。

 現在、リュグナー達と会話していたのもその実らせた分身達である。

 ただし、軽く小突いただけで消えてしまう上に、本体の魔力を等分してしまう為、非常に燃費が悪い。

 また、その自分自身は本当に本体そのまま、それ以上の事は一切出来ない。

 魔族故に一般人よりは身体能力は高いが、戦闘力はほぼ皆無。

 それらを改善する事が出来れば相当有用な魔法となり得るのだが……本人にその気がまったくなかった。

 農業する時、人手がいくらでも作れて便利、としか思えなかったのだ。

 研究者気質の魔族達はそれを惜しく思いつつ、自分達なりにその魔法を形にしようとしていたが……。

 どれも形になる事はなかった。

 故に、有用なのは間違いないが、非常に()()()魔法だと思われている。

 

「本当に惜しいわ、使い方次第で今のこの世界の勢力図は変わっていた筈だもの」

 

「あははは、そう言われると困っちゃいますね……でも、私戦いとかはちょっと……」

 

「わかってるわ、服従させたけど、貴女を戦力として使う気は欠片もないもの。

 もっと有用な使い方がいくらでもあるからね」

 

 ふふん、とアウラは笑う。

 これがいれば、自分の勢力が食事に困る事はない。

 ミルクティーを優雅に啜り、その深い味わいに笑みを深める。

 更にはこの味の良さ。

 これをこれから常に味わえるのだから、堪らない。

 

 過去、レーベが畑仕事で忙しく、茶を出さなかった時の集まりなんて、互いに牽制し合うギスギスとしたものだった。

 いや、違う、本来魔族は実力主義、それが当たり前だった。

 魔王様の元、争う事はないけれど、互いに仲間意識なんてものはほとんどなかった。

 魔王という旗の元に集った、個人主義の集まり。

 それが魔王軍であり、それが魔族だった。

 そんな魔族すら解きほぐす、レーベが、その食がおかしいだけ。

 

カチャリ

 

 カップをソーサーに戻し、改めてアウラはレーベを見つめる。

 また注ごうとするレーベを手の平を向けて止め、アウラは一応、とレーベへと問い掛けた。

 

「レーベ、貴女、戦えるようになってみたくはない?

 貴女がその気にさえなれば、相当強くなれる筈よ。

 それなりに強くなれば、待遇も変えてあげる」

 

 どうかしら?

 首を傾げたアウラに、レーベは笑みを返す。

 そして、ゆっくりと噛み締めるように口を開いた。

 

「いいえ、私はこのままで良いです。

 私は本来魔族なんてどうでも良いんですよ。

 穏やかに生きて、明日をお腹いっぱいで迎え続けたいんです」

 

 そう言うレーベの瞳は、その朗らかな雰囲気からかけ離れた空虚さで……それが逆に魔族らしくてアウラは笑みを返した。

 服従の魔法をかけているのに、こう答えられるのだから、筋金入りだ。

 

「そうね、魔族はそれくらい身勝手なくらいが丁度良い。

 貴女はそれでいいわ。やる気がなければ意味ないし。

 その代わり、ご飯の事は頼んだわよ、レーベ」

 

 呆れたような、けれど安心したような、そんな声色のアウラの言葉。

 レーベはニコリと目を細めて、アウラへと元気良く返事を返した。

 

「はい!お任せ下さい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、それぞれレーベを引き連れたリュグナー達が合流し、困惑する一幕があった。

 アウラはそれを笑いながら眺め、物欲しそうなリーニエの顔を見ない振りをして、スコーンの最後の一欠片を口に放り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「んー……?なぁに?南の勇者様ともあろうお方が、こんな一魔族に何のご用?始末しにでもきたの?」

 

「いや、人類への猶予を貰いに来た。暫く……待って欲しい」

 

「へぇ……そういう結論になるんだ?魔族に頭なんか下げて……。

 でもわかってるんでしょ?そろそろ七崩賢が総出で君を殺しにかかるって事」

 

「わかっているとも。そこで私は死ぬ」

 

「ふぅん……わかってるのにそれか……面白い。いいよ、待ってあげる。

 どうせわかってるだろうけど、既に()()()()()()()()()()()()()()()()からね。

 今はただ魔王様に義理立てしてるだけ……でもただ無条件で待つのも面白くないなぁ……」

 

「…………」

 

「そうだ、人類が七崩賢を倒したら、1人につき10年待ってあげる」

 

「……短すぎる……40年は欲しい」

 

「えー、じゃあ15年」

 

「せめて30年だ」

 

「じゃあ20年」

 

「……わかった、それでいい」

 

「ふふ、仮に全員倒されても140年かぁ、そのくらい待つのは別に構わないよ。精々頑張ってね?君は全員倒せるかなぁ?」

 

「いや……精々3人だと思っているよ」

 

「えー?それじゃたったの60年じゃない。あ、だから40年?120、30年くらい先に何かあるのかなぁ?

 まぁでも、それなら何かある前に終わっちゃいそうだね?」

 

「いや」

 

「ん?」

 

「人類を嘗めないほうが良い」

 

「…………ふぅん……そう」

 

「ではな。もう会うことはあるまい」

 

「……わかんないなぁ、人類の存亡の為に命を懸けるなんて」

 

「…………」

 

「私はただ、平穏に生きて、明日のご飯に困らなければ良い。

 生きてるってそういうもんじゃない?自分さえ良ければ他はどうでもいい。

 そんな君みたいな生き方、つまんないよ」

 

「君には……」

 

「んー?」

 

「君には……永遠にわからないだろうさ、『終極の聖女』トート」

 

「そっ。ま、わかりたくもないよ」

 

「願わくば……君の魔の手が、永遠に人類に及ばない事を願ってるよ」

 

「……バイバイ、人類最強さん」

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