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配下三人が各々動き出したのを、アウラは食事をしたテーブルで見送っていた。
そしてそこに残り、対応するレーベの姿があった。
「アーちゃん、紅茶でも如何ですか?」
「気が利くわね、頂くわ」
何処からか取り出したポットから、湯気が立ち上っている。
カチャ、と音を立てながらカップをアウラの前に置き、そのポットから紅茶を注ぎ始める。
赤茶色の液体がみるみる内にカップを満たし、ふわりと独特の香りが漂った。
「……うん、相変わらず良い香りね」
アウラは目を瞑り、その香りを楽しんでいるようだった。
その嗜好品を楽しむ様子は、魔族らしからぬものであった。
「アーちゃんはミルクとお砂糖でしたよね?」
「ええ」
パチ、と目を開いたアウラの前で、まず小さな壺から砂糖がスプーンに乗せられ、紅茶のカップへと入っていく。
続いて似たような壺がカップに向けて傾けられ、そこから乳白色の液体が注がれていく。
レーベはそれをゆっくりとかき混ぜていく。
赤茶色だった紅茶は乳白色が混ざった事で、明るめの茶色みがかった灰色へと姿を変えていく。
カチャ
やがて程好く混ざった所で、レーベはスプーンを抜く。
そしてカップをアウラへと差し出して、
アウラはそれを気にする事なく、カップを手に取り、その香りを胸いっぱいに吸い込みながら、優雅に口をつけた。
「……ん、美味しい。これが楽しみで魔王軍の集まりに出てたまであるからね、懐かしいわ……」
「今日のお茶菓子はスコーンですよー。イチゴジャムつけても美味しいです」
そう言ってレーベが差し出したのは小麦色の焼き菓子。
ほんのり暖かい、まだ出来立てであるだろうスコーンからは、香ばしい匂いが漂っていた。
そのスコーンを持ってきていたレーベの後ろにいるレーベは、アウラに一礼すると、そのまま地面に吸い込まれるように消えていった。
「……相変わらず見事な魔法だわ。
「はい!何処にでも出せますよ」
「惜しむらくは……戦闘能力がまったくない事ね。本当に、宝の持ち腐れだわ」
「あはは……手厳しいですね」
アウラは、呆れたように肩を竦め、スコーンを口に運ぶ。
サクリ
スコーンの小気味良い音が響き渡った。
レーベの使う魔法、『
その土地で種を蒔いた時に取れる最大値の量を、普通よりも早く、安定して実らせる、という効果である。
そして
この効果は前世である、サブカルチャーを楽しんでいた現代人としての記憶が大いに影響している。
具体的には、超有名海賊漫画の自分の部位を咲かせる能力と、超有名忍者漫画の経験を共有出来る分身能力。
それらの記憶が、それが出来るという確固たるイメージをレーベにもたらしていた。
故にレーベは何処にでも自分自身を実らせ、いくらでも増やす事が出来る。
現在、リュグナー達と会話していたのもその実らせた分身達である。
ただし、軽く小突いただけで消えてしまう上に、本体の魔力を等分してしまう為、非常に燃費が悪い。
また、その自分自身は本当に本体そのまま、それ以上の事は一切出来ない。
魔族故に一般人よりは身体能力は高いが、戦闘力はほぼ皆無。
それらを改善する事が出来れば相当有用な魔法となり得るのだが……本人にその気がまったくなかった。
農業する時、人手がいくらでも作れて便利、としか思えなかったのだ。
研究者気質の魔族達はそれを惜しく思いつつ、自分達なりにその魔法を形にしようとしていたが……。
どれも形になる事はなかった。
故に、有用なのは間違いないが、非常に
「本当に惜しいわ、使い方次第で今のこの世界の勢力図は変わっていた筈だもの」
「あははは、そう言われると困っちゃいますね……でも、私戦いとかはちょっと……」
「わかってるわ、服従させたけど、貴女を戦力として使う気は欠片もないもの。
もっと有用な使い方がいくらでもあるからね」
ふふん、とアウラは笑う。
これがいれば、自分の勢力が食事に困る事はない。
ミルクティーを優雅に啜り、その深い味わいに笑みを深める。
更にはこの味の良さ。
これをこれから常に味わえるのだから、堪らない。
過去、レーベが畑仕事で忙しく、茶を出さなかった時の集まりなんて、互いに牽制し合うギスギスとしたものだった。
いや、違う、本来魔族は実力主義、それが当たり前だった。
魔王様の元、争う事はないけれど、互いに仲間意識なんてものはほとんどなかった。
魔王という旗の元に集った、個人主義の集まり。
それが魔王軍であり、それが魔族だった。
そんな魔族すら解きほぐす、レーベが、その食がおかしいだけ。
カチャリ
カップをソーサーに戻し、改めてアウラはレーベを見つめる。
また注ごうとするレーベを手の平を向けて止め、アウラは一応、とレーベへと問い掛けた。
「レーベ、貴女、戦えるようになってみたくはない?
貴女がその気にさえなれば、相当強くなれる筈よ。
それなりに強くなれば、待遇も変えてあげる」
どうかしら?
首を傾げたアウラに、レーベは笑みを返す。
そして、ゆっくりと噛み締めるように口を開いた。
「いいえ、私はこのままで良いです。
私は本来魔族なんてどうでも良いんですよ。
穏やかに生きて、明日をお腹いっぱいで迎え続けたいんです」
そう言うレーベの瞳は、その朗らかな雰囲気からかけ離れた空虚さで……それが逆に魔族らしくてアウラは笑みを返した。
服従の魔法をかけているのに、こう答えられるのだから、筋金入りだ。
「そうね、魔族はそれくらい身勝手なくらいが丁度良い。
貴女はそれでいいわ。やる気がなければ意味ないし。
その代わり、ご飯の事は頼んだわよ、レーベ」
呆れたような、けれど安心したような、そんな声色のアウラの言葉。
レーベはニコリと目を細めて、アウラへと元気良く返事を返した。
「はい!お任せ下さい!」
その後、それぞれレーベを引き連れたリュグナー達が合流し、困惑する一幕があった。
アウラはそれを笑いながら眺め、物欲しそうなリーニエの顔を見ない振りをして、スコーンの最後の一欠片を口に放り込んだのだった。
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「んー……?なぁに?南の勇者様ともあろうお方が、こんな一魔族に何のご用?始末しにでもきたの?」
「いや、人類への猶予を貰いに来た。暫く……待って欲しい」
「へぇ……そういう結論になるんだ?魔族に頭なんか下げて……。
でもわかってるんでしょ?そろそろ七崩賢が総出で君を殺しにかかるって事」
「わかっているとも。そこで私は死ぬ」
「ふぅん……わかってるのにそれか……面白い。いいよ、待ってあげる。
どうせわかってるだろうけど、既に
今はただ魔王様に義理立てしてるだけ……でもただ無条件で待つのも面白くないなぁ……」
「…………」
「そうだ、人類が七崩賢を倒したら、1人につき10年待ってあげる」
「……短すぎる……40年は欲しい」
「えー、じゃあ15年」
「せめて30年だ」
「じゃあ20年」
「……わかった、それでいい」
「ふふ、仮に全員倒されても140年かぁ、そのくらい待つのは別に構わないよ。精々頑張ってね?君は全員倒せるかなぁ?」
「いや……精々3人だと思っているよ」
「えー?それじゃたったの60年じゃない。あ、だから40年?120、30年くらい先に何かあるのかなぁ?
まぁでも、それなら何かある前に終わっちゃいそうだね?」
「いや」
「ん?」
「人類を嘗めないほうが良い」
「…………ふぅん……そう」
「ではな。もう会うことはあるまい」
「……わかんないなぁ、人類の存亡の為に命を懸けるなんて」
「…………」
「私はただ、平穏に生きて、明日のご飯に困らなければ良い。
生きてるってそういうもんじゃない?自分さえ良ければ他はどうでもいい。
そんな君みたいな生き方、つまんないよ」
「君には……」
「んー?」
「君には……永遠にわからないだろうさ、『終極の聖女』トート」
「そっ。ま、わかりたくもないよ」
「願わくば……君の魔の手が、永遠に人類に及ばない事を願ってるよ」
「……バイバイ、人類最強さん」