私は表現するなら底辺VTuberというものをやっている。チャンネル登録者数は未だに0人、知らない人に動画を見てもらえているかどうかも怪しい水準。それでも行動に意味があると毎日動画を作って投稿している。
それにしても、私がVTuberという存在から目を背けている間に色々な変遷があったことを実感する。あの時、黎明期と呼べるあの時代を生きた存在は企業所属と呼ばれるVTuberに視聴者を奪われ、今では過疎配信者と表現できてしまう。
企業所属、確かに資本主義経済の中では高品質な物と者を提供しなければならない。中途半端な品質を提供する存在は趣味、同人という括りに入ってしまう。
に○さんじ、ホ○ライブ、7○4inc.……日本での最大手VTuber事務所、どこからこんな人材を引っ張り出してくるのかと驚いてしまう程の粒揃い。個性で武装したVTuberが企業所属という後ろ盾を得て水を得た魚になっている。私のような蛙には輝いて見えすぎる。
企業所属、自分もそれになれれば……なんていう弱い自分に蓋をして、市場のリサーチを開始する。
大前提として我々新参のVTuberというのは完璧に乗り遅れている。それこそ黎明期に精力的に活動していたならば千人程度の登録者は確保できたかもしれないが、個人勢の男性VTuberという存在はあまりにも需要が少なすぎる。そして、供給が酷く多い。
この場合は具体的な生存戦略を考える必要がある。私の強みと呼べる部分を剣にし、ノーガードで突き進むのが現状の最適解だとは思うが、私は没個性的な人間……。
「うーむ……なるほどなぁー」
最近のVTuber業界は凄い。VTuberを研究するVTuberまで存在している。
ライブ配信の同時接続を増やす方法や動画の方向性、トークをする時の心構え、キャラクター性を模索する時点で思いついていたことが多いが、他者の意見を聞くことで間違っていないという安心感が出てくる。
だが、この方々が語ることは過去の自分を呼び起こしてしまう。自分のことを面白いと思い込んでいる人は傷つくからVTuberにならない方がいい。この世界は甘くはない。
「……まるで私ではないか」
顎を人差し指と親指でさすりながら現状を打開する方法やら行動方針を組み立てる。
……結果は特に無い。
「私の強みはもう出尽くしている強みなのだな……」
中途半端という言葉は私にピッタリだ。この業界には研ぎ澄まされた経験で武装した配信者が大量に存在する。逆に研ぎ澄まされていないことを武器にする配信者も大量に存在する。
……極論、人間は極端が好きなのだ。
「さてはて、何か打開の方法は無いだろうか?」
現状、私がやるべきこと……それが見つからない……。
客観的な視点で自分を見つめ直すと絶対に出てくる「つまらない」の一言。アニメや映画に出てくるヒーローのようなヒロイックな一面を持ち合わせていない存在にファンができるわけがない。
ダメ押しで付け加えるなら、私は圧倒的に浅いのだ。
解説系動画で頷き、ウィキペディアで驚愕し、ニュースで唖然とする。
浅く広くを歩いている私には研磨する何かが足りない、もしくは無い。
「困った困った……心が折れそうになる……」
知恵熱を凍える右手で冷やす。
趣味の世界は甘くはない。その趣味に企業が介入しているのも辛さを助長している。
元来、オタク趣味というのは酷くアンダーグラウンド、知識が浅い企業と呼ばれる存在が立ち入ることが難しい場所なのだ。コミックマーケットなどが良い例だろう。生産者である企業が素材を提供し、同人誌という形で才能あるオタクがそれを綺麗に調理して振る舞う。もし、これに企業が一枚噛むにしても、オタクに寄り添っているというアピールにしかならない。そういうのを嫌う層も一定数存在している。
では、VTuberというジャンルで企業が受け入れられている理由は何か? それは選びぬかれたタスク・フォースが配信するという強み。金銭が発生する労働という行為なのだから、低水準な存在は絶対に拾わない。その部分が動画投稿者、動画配信者という区分にマッチしたのだろう。
そして、何よりもVTuberというのがアングラから外れた存在であることも……。
「……私も路地にある定食屋よりチェーン店を選ぶ気持ちはわかる」
言ってしまえば品質、個人が努力して発表する作文より企業が提出する論文の方が説得力が勝る。
個人勢と表現されるVTuberは一芸に秀でてなければ水底より深い闇に隠れ、そして陽の光を浴びることはない。私は浅く広くをポリシーに生きてきた人間、どんな話しにもある一定の情報を留めておくが、深くまで立ち入らないというソレが裏目に出た形。
本当に人より麻雀が得意で、それ以外はオタクに踏み入れていない……。
さて、私はどうしたらいいのだろうか? 人気者になりたいという願望は無い。それでも、行動を起こしたのだからある程度のリターン、この場合は自分にライトを当ててくれる視聴者という存在にめぐり逢いたいというのが率直な感情。
収益だとか、グッズだとかは一ミリも考えていない。この世界で何か爪痕を残せないかと思考を巡らせている段階。
『今伸びてる子はSNSの使い方が上手いのよね』
とあるVTuberがそんなことを語りはじめた。
確かに配信者はSNSとの付き合い方が上手いということは知っている。そして、私はSNSの類が酷く苦手、それでもSNS活動をしなければ陽の目に当たる可能性は酷く下がる。
生唾を飲み込み、有名なSNSサイトを立ち上げる。
アカウントを制作し、自分と同じ新人VTuberの投稿に目を通してみる。
そして、ハッシュタグに見慣れない言葉が綴られていた。
「……VTuber準備中?」
私は知らなかったのだ。これからVTuberになる前段階、それがある種の宣伝になること……。
さてはて、私は動くイラストをもう入手している。それを使用して動画も投稿している。この甘美なタグを使用する権利が消失していると表現してもいい。
これは困った。私が体験したVTuber黎明期には存在しなかった文字列、今ではこれがスタンダードなのだろう。ネットで検索すれば星の数程のコレが散見される。
極論、私は古いタイプの人間だったのだ。
「……ええいままよ!」
私は自己紹介の中にVTuber準備中というハッシュタグを付け、その隣にVTuber準備完了というハッシュタグを付け加えた。
VTuberの世界は奥深い、私が知らないところで色々な進化を遂げている。
だが、土台は出来てきている。だからこそ、私は挑戦者になるのだ。
「挑戦者……意味だけは格好がいい……」
西ノ風マカロニ、麻雀系VTuber……この大海で泳ぐことが目標……。