生徒会の青春   作:ハクヨウハ

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生徒会の青春
五月第一週「駄弁る生徒会」


「世の中がつまらないんじゃないの。貴方がつまらない人間になってしまったのよ!」

 

 机を挟んで反対側。小学生みたいな我が先輩が、どっかで聞いたことのある言葉を、さも自分が考えましたって顔で胸張って叫んでいた。まあ、この先輩なら、仮に世界が滅茶苦茶つまらないものになったとしても楽しそうに生きていられる気もする。甘いお菓子さえあげてれば。そういう意味で。いや、そういう意味じゃ無くてもこの先輩は【つまらない人間】ではないだろう。うん。そんな感じに結論を下す自分をよそに、

 

「じゃ、童貞もそんなに悪くないってことですか?」

 

「「ぶっ!!?」」

 

 一コ上の先輩が、とんでもないことを口走っていた。お菓子のインターバルに飲んでいたお茶を噴き出す先輩。そして、【ンp】とよくわからない文字列を打ち込むことになった僕。

 

「せ、先輩、とりあえずティッシュどうぞ。」

 

「あ、ありがとう……アキ……」

 

 受け取ったティッシュで机をフキフキしてる先輩から視線を外し、先ほどのトンデモ発言をかました杉崎さんへ向ける。

 

「えと、杉崎さん?参考までに、なんであんな台詞が飛び出てきたのかを質問しても?」

 

「甘いな、アキ。俺の思考回路は基本まず、そっち方面に直結するんだよ!」

 

「文脈関係ない繋ぎ方しないでください……」

 

「いやいや、文脈関係なくはないぞ。【会長の今日の名言】からの完璧な返しだと自負している。」

 

 

曰く、経験を積むことで新鮮さや初々しさが失われていくことで人間はつまらなくなっていく

つまり、経験のない人間と言うのは物事を新鮮に、面白く感じるものである

性交渉の経験のない童貞は、つまらない人間ではない

 

 

「杉崎さん、凄いですね。感心しました。」

 

「そうだろうそうだろう」

 

「アキっ!?」

 

 僕の発言に杉崎さんは得意げに、先輩は「裏切られたっ!?」って顔になっている。

 

「自らが童貞であることを告白するなんて、なかなかできないですよ。感心しました。」

 

「「そっちに食いつくんだ!?」」

 

「そりゃそうでしょう、生徒会でハーレムを作る!と豪語して憚らない先輩が、高校二年になって未だ性交渉の一度もないという事実は致命的な問題ですよ。」

 

「そ、そんなはずはない!!この俺のハーレム計画に問題など存在しない!!」

 

「……そもそも私たちが誰も杉崎のハーレムに入りたいと思っていないことが一番致命的な問題だよ」

 

 あ、言っちゃった。その惚れてる惚れてないの話題は凄いめんどくさいから避けてたのに。ちょっと離れよう。先輩、自分で振った話題なんですから、自分で処理してくださいよ。

 

 

 

 

 

碧陽学園生徒会議事録  生徒会の青春 1

「駄弁る生徒会」

 

 

 

 

 なんか、しばらく放っておいたら、話題が変わっていたようなのでそろそろ混ぜてもらうことにする。

 

「一途なんです!美少女に!!」

 

 やたらと括りの大きい、抽象的かつ大規模な群れに一途とのたまうこの人は、自称ハーレム王の杉崎鍵。ちなみに副会長で2年生。おそらく、絵師さんの力で超イケメンと化しているだろうけど、現実には世界を、ダサメン・フツメン・イケメンの三つに分けた時に、イケメンに問題なく入れるくらいの顔立ちである。

 

「複数の人間に告白してる時点で誠実じゃないのよ!!」

 

 そしてこちら、現在は正論を唱えることができている我らが生徒会長。愛称赤ちゃん、ああ、いやアカちゃん。正式名称は桜野くりむ。こちらは小学生に見える高校3年生。おそらく、絵師さんの力で超美少女と化しているだろうけど、現実には超美幼女と称すべき外見と性格とスペックである。

 人気投票による選挙なんてぶっ飛んだシステムを採用している碧陽学園の生徒会長であるということは、通常【最も尊敬される生徒】が当選されるらしいのだが、今年については間違いなく【最も愛される生徒】が生徒会長に就任したのだろう。理解不能のカリスマを発揮してる姿は何度か見てるが、仕事ができるとは思えないし、思われてないだろう。

 

「ふらふらしてる主人公よりは、最初から【ハーレムルートを狙う】って宣言した方が潔いでしょう?」

 

「残念ながら貴方はギャルゲのモテモテ主人公とはスペックが違うわ!!」

 

 いや、意外と有能ではあるこの先輩は、スペックだけなら平和なアニメの主人公(ヒロインが憂鬱なやつとか、女バスのコーチやるやつとか)には手が届きそうではある。でも問題は、

 

「じゃあ、何の主人公だと言うんですか!こんなに女の子が好きなのに!顔はいいのにぃ!」

 

「杉崎さん、そんな台詞をサラッと言えちゃうのは、むしろ顔はいいのに女の子はみんな主人公に持って行かれちゃう親友ポジションですよ。」

 

「そ、そんなバカな!?」

 

「ほら、試しに会話の最後に【それと便座カバー】って言ってみてくださいよ。きっと凄く似合いますから。」

 

「声優ネタですらない!?」

 

「あのゲームで一番好きなヒロインのシナリオやってるとき、【それと便座カバー】さんがキスを拒んで問いただしたシーンはカッコよかったです。」

 

「俺にそれをやれというのか!?」

 

「そんな男らしい行動を取れれば、もうモテモテですよ杉崎さん」

 

「ほ、本当か!?いや、しかし……!!」

 

「モテない男に。」

 

「そんなのにモテたくないわ―!!」

 

 うがー!!と杉崎さんが叫んでいるうちに、僕は何故か床に転がっているティッシュを拾ってごみ箱にシュートした。ガチなシュートフォームで、膝まで使って。

 

「そんなきれいなフォームが必要なの?ごみ捨てるのに……」

 

「シュートは膝を使って打つものですよ。必要に決まってるじゃないですか。」

 

 ちなみに、膝まで使った結果は、飛距離が出過ぎて壁にぶつかり、【燃えないゴミ】の中に落ちた。

 

「だめよ、アキ君。ごみはちゃんと分別して捨てなきゃ。」

 

 入室と同時に声をかけてきたのは先輩とは逆の意味で高校三年生には見えない紅葉知弦。役職は書記である。おそらく、絵師さんの力で超美少女と化しているだろうけど、現実には艶を感じさせる超美女である。いい意味で女大生とか、OLとか、女社長とか言われても納得できる。

 

「す、すいません……。」

 

 入れ直そうとごみ箱の方を向いた時には、杉崎さんがもうごみ箱に手を入れて分別し直していた。仕事が早い。

 

「しかし、今日はどうにも集まり悪いですね、俺のハーレム。」

 

「キー君のハーレムじゃなくて生徒会よ。」

 

「椎名が特別教室の掃除なんで、それ待ちじゃないですか?」

 

 会計の椎名真冬とは同じクラスなので、それくらいは覚えている。たしか椎名は地学教室の掃除だった筈だ。入学して一カ月と少し。授業で使われているのを一度も見たことはないが。しかし、部活動の活動場所ではあるため、多少は汚れる。あそこを使ってる囲碁部と山岳部が掃除すればいいのに。何故一年の担当掃除区域なんだ。

 

「ああ、地学教室ね。掃除時間より、鍵の受け取りと返却の方が時間がかかることで有名な。」

 

「ええ、最近、山岳部と囲碁部にお願いして、放課後は毎日どちらかが地学教室使うように活動日を調整するように打診してます。鍵の返却に職員室まで行かなくてもいいように。」

 

掃除終了後部員に手渡せばいいのだ。月・水・金はそれができるし、そうしている。

 

「む~……」

 

 そして、話に参加していない先輩は甘いお菓子は飽きたらしい。宿題に取り掛かっている紅葉さんが開けたスナック菓子に手を伸ばしている。

 

「先輩?太りますよ?」

 

「うぐっ、だ、大丈夫!栄養を背と胸に回すんだもん!」

 

「回せなかった結果が今の先輩ですよね?」

 

 ついでに、多分脳にもあんまり栄養を回せてないと思う。

 

「う、うるさ~い!ハムッ!」

 

「この問題の答えは……【メタボリックシンドローム】っと。」

 

「あれ?そうなんですか?俺、そこは【肥満】かと思ってましたけど。」

 

「…………」

 

 紅葉さんと杉崎さんの間で先輩いじりのコンボが繋がった。かつて、こんなに美味しく感じられないお菓子があったのだろうかと先輩に聞いてみたい。ちなみに、確か、肥満は病気じゃないはずだ。肥満とは体重・体脂肪が過剰に蓄積した状況そのもののことで、それを原因とした諸症状の有無は問わないはず。体質性の肥満と言うものもあるので、一概に肥満=不健康とはいえないのだ。対してメタボは内蔵型肥満に高血糖・高血圧・脂質異常症の内二つ以上を合併させた状態のことで、完全に不健康状態である。

 

「多分紅葉さんの方が正解だと思いますよ。」

 

保険の問題としても、先輩がお菓子を食べ続けた結末としても。

 

「う、うぐ……」

 

「でも、アレですよ先輩、逆転の発想ですよ。太ったら美少女のカテゴリーから外れることができるんですよ。」

 

「絶対嬉しくないよ!それ!」

 

「そうだぞアキ!会長が美少女じゃなくなったら……美少女じゃなくなったら……俺のハーレムに留まれなくなってしまうじゃないか!!」

 

「あ、なんかアキの言うとおり急に太ってもいいような気がしてきた。」

 

「………」

 

 この切り返しの速さというか、杉崎さんへの対応は発足後一週間で生徒会のメンバー全員が身につけたものだ。三週間以上もこんな対応を受けてもなおハーレム宣言できる杉崎さんのメンタルは凄いと思わなくもない。「皆好きです。超好きです。皆付き合って。絶対幸せにしてやるから」と入室直後にぶちまけた杉崎さんだが、告白されてる側の対応はあんな感じだ。椎名姉妹と紅葉さんは一応、以前に杉崎さんと会ったことがあるとは言っていたけど、先輩は生徒会の顔合わせが初対面だと言っていたし。開き直ってスナック菓子をパクつく先輩と、それを一目見て癒しを得た後に宿題に本気で取り掛かる紅葉さんに、崩れ落ちている間にそんな状況の変化に取り残された杉崎さん。そして、自前のノートパソコンをいじっている僕。美少女との雑談を生きがいにしている杉崎さんには悪いけど、椎名姉妹が来るまで待っててくださいね。それまでには紅葉さんの宿題も終わるだろうし、先輩もお菓子食べつつも話に積極的に入ってくるし。

 

カリカリ

 

カタカタ

 

ポリポリ

 

ギシギシ

 

「杉崎さん?その擬音は何やってる音ですか?ああ、いいです。自家発電ですね。ご苦労様です。」

 

「違うよ!それならシコシコだよ!って何言わすんだよ!」

 

「先輩、ドン引きですよね。」

 

「そうだよ、杉崎!不潔だよ!」

 

「椅子の背もたれに体重かけただけで不潔とか理不尽すぎるー!!」

 

 そんな感じに杉崎さんで遊びながら生徒会メンバーがそろうのを待っていた。そして待つこと5分。

 

「おっくれましたぁー!」

 

「す、すいませんー」

 

 椎名姉妹が到着した。

 活発なツインテールの女性が、運動部のスケットとして引く手数多である一コ上の先輩である椎名深夏。杉崎さんのクラスメートでもある生徒会副会長である。おそらく、絵師さんの力で超美少女と化しているだろうけど、現実には超人と称すべき性格とスペックである。美しさも人知を超えている女子高生だが、少女と呼ぶのが憚られる戦闘力だ。

 一方肌の色から髪の色まで色素が薄めで、筋肉・脂肪ともにあんまりついていないのが、椎名さんの妹である椎名真冬。僕のクラスメートでもある生徒会会計。おそらく、絵師さんの力で超美少女と化しているだろうけど、現実にも超美少女だ。あえて言うなら病弱美少女っていうのが一番イメージに近い。

 以上、常任委員という具体的に何をするのかよくわからない役職についている自分、岸野アキを含めた6名がこの碧陽学園生徒会のメンバーである。このうち、杉崎さん以外の5人は我が校の特殊な選挙によって推挙された。人気投票である。人気第一位=会長、人気第二位及び三位=副会長、人気第四位=書記、人気第五位=会計というのが長年のスタンスだった(らしい)。しかし、今年は成績優秀者による推薦枠を利用して生徒会入りを果たした杉崎さんを副会長に据えたために、人気第五位の役職が無くなってしまった。そこで割り当てられたのが常任委員なんて役職である。というか、制度として作ったくせに推薦枠を使用した人間がいたときの対応とか特に決まってなかったというから驚きだ。まあ、何はともあれこれでやっと生徒会のメンバーが全員そろったのだ。杉崎さんもイキイキし始めるだろう。僕もノートパソコンを閉じて会議に集中(雑談と呼ばないのは最後の意地)する。

 

「そうそう、深夏と真冬ちゃんは【初めての時は面白かったのに】ってことある?」

 

「ん?なんだよ?それ?」

 

「本日の会長の名言が【世間がつまらなくなったんじゃなく、貴方がつまらない人間になってしまった】だったんですよ。」

 

 細部の違いは無視してもらおう。

 

「ちなみに杉崎さんは童貞マンセーと答えてました。」

 

「…………鍵……」

 

「そんな言い方してねぇよ!」

 

「つまりそんな内容のことを言ったんですね、杉崎先輩……」

 

「いつになく真冬ちゃんの視線が冷たい!?ちくしょう!アキ、お前俺に何の恨みがあるって言うんだ!!」

 

何のって、そりゃあ色々ありますよ。具体的には

 

「初顔合わせの時に僕の性別間違えられた恨みがあります。」

 

「あ~、あったな~そういや……」

 

「【アキちゃん、君だけは俺の味方なんだね。ありがとう、好きだ!】と言って抱きつかれた恨みがあります。」

 

 あの時の椎名の目がやたら輝いていたのは見間違いだと信じたい。ああ、もし碧陽学園の関係者以外、もしくは僕のことを知らない後世の誰かが読んでいる可能性は0ではないので言っておこう。

 一年にして人気投票第5位を獲得した、平均以下の身長と運動神経・体重を保有している黒髪の僕は岸野アキ。椎名(妹)のクラスメートでもある生徒会常任委員である。おそらく、絵師さんの力で超美少女と化しているだろうけど、現実には男(これ重要!)である。女性及び、変わった趣味の男性からの投票によって椎名と2票差のデッドレースを演じた。

 後から聞いた話になるけど、僕は1年女子の投票数の85%、椎名は1年男子の87%を占めていたらしい。まあ、上位三人もある程度決まった層からの得票を独占しているらしいが。例えば椎名さんは二・三年運動部所属生徒の76%、紅葉さんは二年生(運動部除く)の79%及び三年男子マゾの100%(どうやって調べたんだろう……)。そんななか、特定の支持基盤があるわけでもない先輩が一位というのも凄い。僕たち4人が取りもらした人の90%以上は先輩に投票していたらしい。

 

「現実にアキレベルの男の娘がいるとか思わなかったんだよ!」

 

「男の娘とか言わないでください!!」

 

 現実逃避に今年の選挙の開票結果を思い出していたというのに!!

 

「大体【自分以外全員美少女のコミュニティ】に入るために入学当初ほぼ最下位だった成績を一年でトップにまで上り詰めるまでにしたっていうのに、そこに男子がいるとかあり得ないだろ。」

 

「まあ、事実このシステムが採用されて10年くらいらしいけどその間に男子生徒が生徒会入りしたのは2~3人だって話だし、それも全部優良枠だっららしいしね。」

 

「僕も生徒会とか目立つの好きじゃないんでお断りしようかとも思ったんですが、先輩が会長だと聞いて楽しい集団になりそうだな~と思って思いとどまったので、会長が別の人ならその伝統は維持されたままだったかもしれないんですよね。」

 

 紅葉さんが会長だったら怖くて入りますとは言えなかったかもしれないし、椎名さんが会長だったらやっぱり怖くて入りますとは言えなかったかもしれないし、杉崎さんが会長だったらそれもやっぱり怖くて入りますとは言えなかったかもしれない。椎名が会長なら入りますと言えそうだけど、男子が苦手だと公言している椎名が会長なら入りますといって嫌な顔をされるかもと怖くて言えなかったかもしれない。

 

「今なら辞退しなくてよかったと思いますよ。皆さん良い人ですし、ここは楽しいですし。先輩と杉崎さんは安心していじり倒せますし。」

 

「「ちょっと待て(待って)!!安心していじり倒せるって何!?」」

 

「ほら、お二人とも真っすぐな性格されてますから陰湿な報復とかされることはないっていう安心感がありますからね。」

 

「いやいや、そもそもいじり倒そうとしないでよ!私先輩だよ!?生徒会長だよ!?」

 

「そう言えば椎名は【初めての時は面白かったのに】ってことある?」

 

「流すなよ!ってかそれはさっき俺が全く同じ内容で振った話題だよ!」

 

「ま、真冬はお化粧ですかね。」

 

「流された!?後輩二人に俺の渾身の叫びを流された!?」

 

 しかし椎名に化粧か。全然イメージがない。スキンケアとかくらいならやっているだろうけどファンデーション塗ったりとか眉毛書いたりとかしてるイメージがどうやっても湧かない。今だって化粧してるようには見えないし。

 

「子供のころお母さんがお化粧しているのを見て憧れてたんです。それで中学生の時に初めて自分のコスメを買った時は嬉しかったんですけど、よく考えると自分を着飾ったりするの好きじゃ無かったらしくて、最近だと最低限のことしかしたくないんですよね。」

 

「というかこの生徒会のメンバーの誰であっても必要以上……というか普段以上に着飾っている姿を誰かに見られたらものすごい騒ぎになりそうだから、ぜひともその方針を貫いていてくれ。戦場の空気を学校で感じたくない」

 

「?」

 

 かなり小さな声で呟いたから聞こえなかったらしい。まあ、聞かれた上で突っ込んでこられても困るわけだけど。

 

「ん~……」

 

「深夏?どうかしたのか?」

 

「アキなんだけどさ、なんか私たちによそよそしいような気がしないか?」

 

「さっき俺や会長を安心していじり倒せるとか言ってたヤツがよそよそしいとか……」

 

「いや、鍵や会長さんと私たち三人の対応の間になんか違和感があるんだよ。」

 

「え″?」

 

「あら?そんな声が出るってことは本当なのかしら?」

 

 ……事実である。自分より年下に見える先輩(だからこそ【会長】ではなく【先輩】と呼んで年上だと自分に言い聞かせている)とか、初対面で告白してきた+先輩や同学年の椎名にもあしらわれているという威厳ダウンのイベントをこなした杉崎さんは話しやすいが、他の三人はもう少し時間が欲しいというのが素直なところだ。表面上そんなそぶりはないようにしてきたつもりだったけど、先輩や杉崎さんにどんどん慣れていった結果二人とばかり(僕の中で)心の距離みたいなものが縮まっていることに椎名さんが気づいたのだろう。

 

「そ、それはアレですよ、ほら、今日の先輩の名言からの話題で言うなら、椎名さん達とはまだ新鮮な気持ちで相対できてるってことですよ!」

 

「俺たちは飽きたとでも言いたいのか!!?」

 

「逆に杉崎さんは飽きたり慣れたりしないんですか?毎日好きな娘たちから手ひどくフラレ続けて。」

 

「フラレ飽きるってなんだ!?フラレ慣れるってなんなんだよ!?」

 

 椎名さんと紅葉さんはまだちょっと何か言いたそうにしていたが、僕と杉崎さんのターンになってしまって喋るタイミングを逃してしまっていた。

 

「え?もうフラレ慣れてるんじゃないんですか?だからもう日常的に普通にフラレてもまた次の日に告白できるんですよね?」

 

「そんなわけあるかぁ!大体、飽きるとか慣れるとか、会長が最初に言ったことこそ俺が一番恐怖することなんだぞ!」

 

 ん?意外な方向に話が進んでる?

 

「今はこの生徒会というハーレム状況が楽しくて仕方ない。けど、いつか、こんな恵まれた環境を恵まれていると感じられなくなってしまったら、当たり前だと感じるようになってしまったらと思うと……」

 

「それはなんか賛同者がいそうな意見ですね。杉崎さんの発言には珍しく。生活習慣とか食生活にも通じることですし。」

 

「あー。確かにね。私もわかるわ。生活ランクって話なら。うちのお父さん経営者だから良くも悪くも収入の浮き沈み激しいし。」

 

「でも生活ランクは高い水準から下がらないんですね。この間僕から美少年の情報を買ったのはその高い収入を得ていた時のことが忘れられずに?」

 

「そんなことした覚えも頼んだ覚えもないわよ!杉崎じゃあるまいし!」

 

「じゃあ会長、男の頬を札束で叩く性癖はどうしたんです?」

 

「どうしたんです?じゃないわよ杉崎まで!私そんな貴族じゃないし!」

 

 はぁはぁ、と全力で叫んで疲れた先輩が倒れ伏した。まあ、もはやさっきの話題に戻る空気ではないだろう。椎名さんや紅葉さんも今の話に乗るようだった。

 

「ま、真冬はそんな風にはなりたくないですけど、どうすればいいかよくわかりませんね……」

 

「最終的には【悟り】みたいな精神の極みの境地に至るしかないんじゃないかしら。」

 

「えー、なんかつまんねーな、それ」

 

 確かに、悟りの境地なんてレベルになるとむしろ一週回って先輩が最初に言った【つまらない人間】に戻ってる気もする。

 

「絶望に濡れながらも惰性でなんとか生きてる人と、世の中には客観的には不幸であるにも関わらず一滴の幸福感を糧に生きているたくさんの人と、何処かで妥協してそこそこ幸せだと感じて満足しようとしてる大多数の人と、いわゆる勝ち組と呼ばれるいつになっても上を目指せる超超ごく一部の人で世の中構成されてますからね。」

 

「最初の二つをわざわざ言う必要あったのか?」

 

 まあ、高校生らしからぬ発言内容な気はしてましたけど。

 

 

「駄目だな。俺は、美少女ハーレムを作る!!」

 

 

「どの流れでその発言が出てきたんですか、杉崎さん?」

 

「そこそこの幸せで妥協だなんて駄目だっていうことさ!妥協するにしても俺ははるか高みで妥協してやるぜ!美少女をはべらせ、【もう美少女に飽きたな】って言えるところまで上ってから妥協してやるのさ!!」

 

 なんか、生徒会の皆さんが杉崎さんを微笑ましい感じで見ている。その内容云々とか、対象云々を抜かせば凄く高校生に響きそうな言葉ではあるからね。確かに。でも、すみません、杉崎さん。僕は、先輩についていきます。

 

「えー、あんまり頑張るのは疲れるよぅ」

 

「人間、妥協って大切ですよね。今の国会を見てると本当にそう思います。70点の答案持ってる人が68点の答案持ってる人にお前は何もわかってないって言ってるあの感じ。もっと自分の考えと他人の出来に妥協すればいいのに。」

 

「ん?アキ、どういうこと?」

 

「三か月だけ販売してもう二度と日の目を見ることがないスナック菓子に完璧な美味しさを求めちゃいけないってことです。それなりに美味しくて、話のタネになって、食べて幸せならそれでいいってことですよ。また食べたいとか、もっと美味しく作ってよとか言っちゃだめってことです。」

 

「あーカ○ビーのお菓子のことね。私あの、店の棚見るたびに新しいお菓子になってるというスタンスは素晴らしいと思うわ。」

 

 こんな人間が、世の中には客観的には不幸であるにも関わらず一滴の幸福感を糧に生きているたくさんの人だったり、何処かで妥協してそこそこ幸せだと感じて満足しようとしてる大多数の人になったりするのだ。別に後世に名を残す大人物になる必要なんて僕はないと思うし、なれるとも思わない。幸せなら、それでいい。この先輩を見てると、本当にそう思えるのだ。僕の発言はともかく先輩の姿を見た杉崎さんや椎名姉妹に紅葉さんも『この子たちダメだわ~でもまあ、幸せならそれでいっか。うん単純単純』みたいな顔で頷いている。そして、元をただせば紅葉さんが宿題のお供に買ってきたはずのお菓子(ポテ○リッチ こだわりの和風マヨ味)が先輩と僕のおなかに収まる(カル○ーの話題を振ったときに先輩から「アキも食べる~?」って差し出されて貰った。とても美味しかったが、どうせこれも三カ月の命なのだ。すぐなくなるという点はやはり妥協が必要か)とふにゃりとしたまま先輩は宣言した。

 

「じゃあ、今日は解散しますか~」

 

 この子ダメ人間だわ~って目で先輩を皆が見つめるが、僕も終了くらいはしゃきっとして欲しい気持ちがあった。しかし、妥協の必要性を説いた身としてはこの生徒会に籍を置くならそこが妥協すべき点ではないかと思いなおす。いやでも……

 

「杉崎さん、僕は生徒会長のあり方についても妥協した方がいいですか?」

 

「いや、妥協しちゃだめだ。しかし、同時に美少女だからたまにであれば許されるべきでもある。」

 

 そして、なんだかんだでみんな先輩の一言がきっかけで解散と相なった。

 

「はぁ、まあ、美少女との雑談の為にここまでする杉崎さんですから、僕みたいなすぐ妥協しちゃうヤツを駄目人間に感じるかもしれませんね。では、杉崎さん、こちら、生徒会常任委員としての妥協の産物です。雑務頑張ってくださいね。」

 

「……毎度思うんだが、アキはこの作業をいつやってるんだ?今日俺が入室してからこんなことやってる姿見てない上に、今日なんか話題にずっと絡んでたのに。」

 

「杉崎さん。」

 

「ん?」

 

「女は秘密を纏って美しくなるそうですよ?」

 

「お前男だろ!?」

 

「はい。戸籍上は。」

 

「生物学上は違うとでも言うのか!?まさかのアキルート再浮上!?」

 

「では、僕ももう帰っちゃうので。あ、ボイスレコーダー持ちかえりますね。この会議を記録する意味あるのか知りませんけど。」

 

「ああ、じゃあまた明日なアキ。」

 

「ええ、杉崎さん、また明日。」

 

 でも、杉崎さん。やっぱり妥協って必要ですよ。杉崎さんが美少女との雑談の為に妥協しなさ過ぎて雑務の全てを生徒会活動終了後にこなしていることで、他でもない美少女が杉崎さんに対する負い目を感じたり。その負い目に対して、彼女たち自身が自分自身に妥協してしまったり。そんなことを強いていると気づかないと、ハーレムの主は名乗れませんよ。杉崎さん自身が雑務のために残ることを気にして欲しくないと望んでいることを先輩や紅葉さんたちに気づかれていて、その望みを叶えてあげるために、たった一人に雑務を押しつけて帰る自分自身を無理に納得させて妥協していることに、気づいてあげてください。貴方が愛していると公言する人たちを、客観的には不幸であるにも関わらず一滴の幸福感を糧に生きているたくさんの人の仲間入りさせたりなんかさせないでくださいね。

 まあ、雑務から解放されるっていうのは客観的には幸福であるのかもしれないけど。事実僕はこれ幸いと、雑務に精を出す杉崎さんを横目に帰宅するわけだし。

 

 また明日。つまらない人間同士集まって、楽しく雑談して、それなりの妥協の元解散しましょう。杉崎さん。

 

 

 

 

 




オリジナルキャラ:プロフィール

名前:岸野 アキ

1年C組所属男子出席番号7番 碧陽学園人気第5位獲得 生徒会常任委員
保有属性:男の娘
一人称:僕

呼び方(五月第一週現在)

桜野くりむ:先輩 ⇔アキ
紅葉知弦 :紅葉さん ⇔アキ君
杉崎鍵  :杉崎さん ⇔アキ
椎名深夏 :椎名さん ⇔アキ
椎名真冬 :椎名 ⇔岸野君

【本人情報】
本二次創作作品における碧陽学園生徒会議事録作成者。
会議の録音に使用しているボイスレコーダーはアキの私物だったりする。

【作者より備考】
アイディアの出所は原作「生徒会の火種」にて知弦さんが言及していた【引っ込み思案で生徒会を辞退したいと熱望していた今年の五位の子】。
作者が書いてるうちにどう見ても初期の真冬ちゃんよりもアグレッシブに喋りまくり、毒を吐くキャラになってしまったが、原作でも生徒会を辞退したいと(希望ではなく)“熱望”できるくらいにはアグレッシブな子だったらしいのでいいかと流して修正しないことにした。
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