アキ君へのアドバイス
その1 椎名姉妹をからかってみろ
結果:
ラジオ放送時にキャラクターソングをBGMとしたことを利用して、一応は達成。私にも飛び火させようとしてきたことには驚いた。
【椎名姉妹の姉妹でユリユリ♪】で、BGMを使わないでからかっていたのを見た時は少し嬉しかった。嬉しすぎて、加勢してしまったけど。まあ、いつも通りの私と言えばいつも通りではあるから問題はないのだけど。
実際、BGM選んだりしてるときはともかく、『燃え過ぎなんですよ、二人とも。適当に棒読みですませとけばよかったのに。あんな濃厚な絡みまで披露して……』と言っていた時は、声には出てなかったし、予想外の人物から攻撃を受けて焦っていた椎名姉妹は気づいてなかったようだけど、かなりビクビクしてたし。
……さて、次はどんなアドバイスしてあげようかしら?
――以上紅葉知弦のアキ君アドバイス手帳より抜粋――
「えと、岸野君?」
「……何?椎名」
今、真冬は非常に珍しい光景を目にしています。
岸野君が教室に居ます。
いえ、これが授業中とかだったら別に珍しくも無いのですが。休み時間に教室にいる岸野君というのは、岸野君の顔を覚えてからは初めてなのです。
「今日のお昼休みは教室なのですか?」
「……まあ、たまには。」
「えと、珍しいですよねっ!岸野君が教室でお昼ご飯食べるのって!」
「…………まあ、たまには。」
そういえば、生徒会室で杉崎先輩で遊んでいる姿ばかり見ているうちに忘れかけてましたけど、岸野君って人見知りでしたね。そういえば。教室で誰かとおしゃべりしてる姿も殆ど見ませんし。
……まあ、真冬も教室で気軽にお喋りする相手はいないんですけど。
いえ、いけません!このまま会話を切るのは、真冬、あまりよくないと思います!
「えと、岸野君は、お昼いつも何を食べてるんですか?」
「…………野菜ジュース?」
「飲み物だけですか!?」
「……お腹、空かないし。」
結構衝撃的でした。クラスの男子を見てると、休み時間にお弁当を食べて、お昼休みに購買に走ってパンを買いに行ってるような人までいるのに。女子でも飲み物だけとかは見かけませんし。まるで生活苦の大学生みたいな昼食事情でした。
そして、宣言通り紙パックの野菜ジュースを鞄から取り出してストローを刺し、チューチューと吸い、ものの20秒で飲み切り、ゴミ箱に紙パックを捨てに行き、椅子に着き、「ごちそうさま」と小さく手を合わせて、それ以降何も取り出す様子を見せませんでした。
「本当に、それだけなんですね……」
「……うん。」
岸野君と生徒会で初めて会った時はこんな感じの喋り方でしたけど、杉崎先輩相手にいじり倒している姿をよく見ている真冬としては、物凄い違和感です。まだ一月くらいしか経ってないんですけど。というか、真冬相手でも生徒会室でならもっと会話になるのに、教室だと質問に答えるくらいしか喋ってくれません。……場所が何か関係あるのでしょうか。
「えと、普段は昼休み何処にいるのですか?」
「……校舎の中。」
「いえ、校舎の中に居ない可能性とか、真冬は考慮してなかったのですが……」
「……特定の場所にいるとかじゃないから。」
「歩きまわっているのですか?」
「……一応。」
「えと、今日は何で普段のように歩き回らないんですか?」
「……迷惑だった?」
「え?」
なんで、今の会話の流れで迷惑なんて言葉が出てくるのでしょうか……
「……別に、無理に話しかけてこなくてもいいよ。」
「いえ、別に真冬は無理とかしてませんよ?岸野君に話しかけるために歩き回っているわけではないですし」
席もお隣ですし。
「……なら、いい。」
「えと、それで、結局なんで今日は教室に居ようと思ったんですか?」
「……放送。」
「放送?えと、何かありましたっけ?」
「……昨日、録音した、ラジオ。」
「え?」
「……今日の昼に、放送するから。」
「え?」
もしかして、昨日生徒会でやった、あのラジオ、この時間に放送するってことですか?えと、あれ、リアルタイムで放送してたんじゃ……あ!そう言えば会長さん「聞いてる人少ないだろうから、明日のお昼にも放送する」って言ってました!?
え!?本当にアレを放送するんですか!?
若干錯乱気味だった真冬の耳に、会長さんと岸野君による元気なタイトルコールと、お姉ちゃんのキャラクターソングである【ライジングエア】の音楽が流れてきました。
というか岸野君、これを普段の行動を変えてまで聞きたかったのですか……
――以上椎名真冬による追加記述――
「今日の放送は大好評だったねー!」
例の番組の放送があった後の放課後。会長さんは大満足の顔で、いつもの席に座ったままふんぞり返っていた。知弦さんは楽しそうにニヤニヤし、アキはいつも通りの様子だ。……しかし、あたしと鍵、真冬の三人はすっかりげんなりしている。
「(おい、深夏……。あれ、好評だったように見えるか?)」
鍵が会長さんに聞こえないようにか小声で話しかけてきた。それにあたしも応じる。
「(いや……少なくともうちのクラスはドン引きだったよな)」
「(ああ、守や巡でさえ食欲なくして昼飯食えてなかったしな。)」
「(何を持ってして会長さんは大好評だと思ってんだ?)」
「(会長たちのクラスでは気を使って愛想笑いしてたんじゃないか?)」
「(ああ、なるほど)」
確かに、会長さんは押しも押されもしない子供らしさで人気第一位を獲得した人だ。そういう状況になるのは容易に想像できたな、そういえば。
「深夏たちのクラスではどうだった?みんな大絶賛だったでしょう!」
「う……」
この純真な目で見つめられると、言えない。そして、おそらく愛想笑いしてあげたであろう会長さんのクラスメートの気持ちがわかってしまう。……頼む、鍵。なんとかごまかしてくれ。あたしには無理だ。
「え、ええ……。大人気でしたよ」
「そうでしょう!」
「ええ、いうなれば小学生の将来の夢ランキングにおける【会計事務】と同じくらい大人気でしたよ!」
「それ人気なの!?」
グッジョブだ鍵!会長さんを傷つけることなく、嘘を言うことも無く上手く誤魔化せた!
「真冬ちゃんたちのクラスでも人気だったよね?」
「え」
真冬がカチカチに固まった。そして目線をアキに向けた。多分、さっきあたしが鍵に向けたであろうアイコンタクトと同じだ。
「まあ、人気でしたよ。遊戯王における【モリンフェン】ぐらいには。」
「ソレは本当に人気と言えるの!?」
「人気ですよ。架空デュエルで登場すれば弾幕が発生するくらいには。」
アキも上手いことかわしたな……でも、モリンフェンと言うことは妙なとこに信者がいたのか、真冬のクラスには。しかし、今のあたしたちの返答を聞いた会長さんは「そっかそっかぁ」と満足げにうなずいている。……これ、まずいんじゃないか?
「じゃあ、二回目もやらないとね!」
「…………」
嘆息した。今度は知弦さんも一緒に。アキは……無反応……だと……!?今、鍵や会長さんへの対応の為に、あたしたちがものすごい速さで習得したアイコンタクトを使うときが来ていた。参加の意思を示さなかったアキを除く4人でのアイコンタクト会議では全員二回目へのモチベーションは0だった。むしろ-(マイナス)だった。時間がない!こうしている間にも会長さんは上機嫌で次回の企画を練ってやがる!
「先輩。」
この静寂を切り裂いたのは、アキだった。鍵への口撃から頭の回転はある程度保障されてる!いけ、アキ!会長さんを丸めこむんだ!!
「すぐにラジオの第二回をやるのは遠慮してもらえますか?」
「(ストレートに言った――――!?)」
あたしらの誰もができないことをやらかしたアキだった。真剣なその瞳は、魔王に挑む勇者もかくやというほどの真剣さだった。
「?なんでよ?大好評だったじゃない。生徒が第二回を望んでいるのよ!尻込みする理由なんて無いわ!」
そうだ。真正面からの突破は、今回に限り会長さんに分がある。アキを含むあたしら自身を含めて、会長さんの周りの全ての人間が『あのラジオは大好評だった』ということにしたのだ。本当に生徒から第二回を望まれるほどに好評だったのなら、確かに取りやめる理由なんて存在しない。……一体アキはどうやって今の会長さんを説得する気なんだ!?
「先輩、しばらく、ラジオを録ってる余裕なんてなくなるんですよ?」
ん?なんだ?この嫌な予感は?さっきの会長さんの満足気な頷き以上に感じる不穏な気配は?周りを見ると、それを感じていたのはあたしだけではなかったようだった。鍵も、真冬も、知弦さんも、この不穏な流れを感じ取っていた。
「映像用の機材が放送部から届けられました。ラジオに取り掛かるなら、これを使い終わった後、きちんと企画を詰めてからにして下さい。」
「ようやく来たのねっ!それじゃあみんな!生徒会のPRビデオの撮影にかかるわよ!ラジオは……次回を心待ちにしてる生徒には悪いけど、一か月くらい経ってからね!」
アキによって机の上にドンッと置かれる大きなビデオカメラと集音機(ダスキンみたいなヤツ)。さらに会長さんから告げられる『次回』の予定。一か月だと、もう飽きて忘れている可能性はあるが、同時にキチンと覚えている可能性を否定しきれないくらいの期間だ。
「え?」
あたしたちは信じられないものを見るような目で二人を見つめ、固まる。
会長さんは、一人、ニッコリと微笑む。
アキは、当然のようにビデオカメラの設定を弄っていた。
「さぁ、これからが本番よ~!」
……………………
「いやあああぁああぁぁああぁぁぁぁああぁぁあぁ!!!」
おかしいな……あたしら、誰も獅子座じゃないのにな……。
なんで、世にも奇妙な物語っぽい事件に巻き込まれてんだよ……。
真っ黒いサングラス架けた男なんて、見かけなかったのにな……。
――以上椎名深夏による追加記述――
「ただいま~」
「おかえりなさいひまさん。」
「暇じゃないけどね。すっごく忙しく動き回ってるんだけどね。なんなの?何で毎日のように学校の校庭にクレーターができるの?」
「今日は二年B組が午後から体育でしたからね。」
「おかしいよね!?クレーターが出来上がる理由を聞いて、その返しは絶対におかしいよね!?」
「実際、観測班からの連絡によりますと、二年B組の椎名深夏が全力で幅跳びに挑戦した結果踏み切り時にクレーターが発生したとのことですので。」
「女子だったんだ!今まで深く気にしてなかったけど、あのクレーター作ってるの女子だったんだ!しかも不可抗力!?」
「あ、ひまさん、仕事です!」
「今度は何!?また書記の子が殺人事件にでも首突っ込んだの!?」
「いえ、生徒会役員は今全員校舎内に居ますよ。」
「じゃあ、ブランド立ち上げろとか、わいせつ物陳列で補導されたとかも無いのね!?」
「はい。では改めまして。ひまさん、仕事です。明日までに、撮影機材貸出の用意をして下さい。」
「一体なん……」
『桜野くりむの!』『オールナイト全時空!』『放送範囲でけえ!』~♪~♪
「これ!?これが何か関係あるの!?」
「私には理由を知るすべはありません。」
「え~と、撮影機材って、具体的には?」
「ビデオとマイクです。見かけはテレビ撮影に使用するくらいゴツイ方が都合がいいとのことです。」
「ここの生徒に貸すんだよね!?テレビ撮影用のビデオ用意して一体誰が使えるの!?」
「生徒会副会長か常任委員のどちらかではないかと。」
「なんだろう……確かに使えるかもって思っちゃった自分は間違ってるのかな……でも、皆基本はいい子だし、それを裏から支えてあげるって考えれば――――」
『椎名姉妹の姉妹でユリユリ♪』
「何やってるの生徒会!?仕事しないで何してるの!?ねえ!!それ学生が学校の機材使ってやっていいことじゃないよね!?お願いだから私が手配するビデオでAVとか取りださないでよ!?」
「杉崎鍵がいる以上、あり得なくはないですね。」
「あり得ないって言って!レイちゃん、そこは気休めでもあり得ないって言ってよ!」
『岸野アキの学園5・7・5』
「ねえ、レイちゃん。私、このコーナーにメール送ろうかと思うんだけど、大丈夫だよね……?」
「まあ、わたしは許容範囲内ではあると思いますが。」
「…………【真面目にさ 仕事をしろよ 生徒会】っと。ラジオネームは…………これでいいや。」
「【プレハブ小屋より愛をこめて】ですか。どんな愛をこめているのですか?」
「えっと、大人が子供にむける慈愛?みたいな……」
『一般生徒の素直な意見来た――――!』
「…………えと、私、一般生徒じゃないんだけど……」
「生徒会役員に自覚はあったのですね。てっきり無自覚かと思っていたのですが。」
『不愉快だわ!このコーナー終了!』
「くりむちゃんは自覚無かったみたいだね。」
「では、お仕事始めましょうか。」
『では、今日の知弦占いを。
当校の獅子座のあなた。近日中に『世にも奇妙な物語』っぽい事件に巻き込まれるでしょう。注意して下さい。真っ黒いサングラスをかけた男性からは全力で逃げることをお勧めします。
ラッキーカラーは【殺意の色】。各々のイメージに合った【殺意の色】であれば大丈夫です。どす黒くても、真紅でも。
ラッキーアイテムは【核】。常に持ち運ぶのがベスト。あなたがメタルギアや鉄腕アトムならそれも可能でしょう。
最期に一言アドバイス。
死なないで
以上、今日の知弦占いでした。』
「…………ねえ、核って、どうやって持てばいいの?非核三原則を掲げてる日本で。」
「?えと、ひまさん?」
『獅子座あああぁぁぁああああぁああぁあぁぁぁぁ!!』
「私、獅子座だよ――――!どうしようレイちゃん――――!」
「仕事すればいいんじゃないですか?どうせいつものブラックジョークなんですし。」
――以上用校舎裏トラブル解決室での会話ログ――