生徒会の青春   作:ハクヨウハ

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五月第三週「更生する生徒会」

「人生やり直すのに遅すぎることなんて無いのよ!」

 

 机を挟んで反対側。小学生みたいな我が先輩が、どっかで聞いたことのある言葉を、さも自分が考えましたって顔で胸張って叫んでいた。個人的には、否と言いたい名言ではある。

 

「そうっすね。」

 

 おそらく、この生徒会室で多数決を取れば、最も人生をやり直すべきだという票を獲得できると思われる人が、先輩の言葉に全面肯定していた。

 

「貴方に言っているのよ、杉崎!」

 

「杉崎さん、今の言葉に肯定するなら、真人間として人生やり直してからにして下さい。あ、ムリですよね、椎名さんの半袖の奥に意識向けたあなたでは。」

 

「ばらすなよ!あのままなら俺は……俺は背中か頬で深夏の胸の感触を感じることができたというのに!」

 

「確かに、こいつ早急に人生をやり直す必要があるよなー」

 

 杉崎さんの首を絞めようとしていた椎名さんが、今の言葉を聞いて止めていた。そして、腕をぐるぐる回しだす。……準備運動だろうか。

 

「いいわね。今のキー君も悪くはないけど、更生したキー君というのにも少し興味あるわ。」

 

「更生って!俺は元から真面目……あの、アキ?一体君は何をしているんだい?」

 

「いえ、椎名さんのお手伝いでもしようかと。」

 

 今何をしているのかって?杉崎さんを羽交い絞めにしているんだよ。

 

「真冬も、見たいです。杉崎先輩が真面目になったら、す、素敵だと思います!」

 

「な、何気に……い、今の俺を全否定された気がするよ、それ。」

 

 杉崎さんの声は若干震えている。まあ、もはや椎名さんは拳を引き絞り、いつでも殴れる状態だ。『背中か頬で深夏の胸の感触を感じることができた』という杉崎さんの発言がよほどいらついたんだろう。杉崎さんは椎名へSOSの視線を向けていた。

 

「お、お姉ちゃん……殴っちゃだめですよ?岸野君も巻き込まれちゃいますし……」

 

「む……」

 

「ほっ……」

 

 SOSが通じたのか、姉を諌める椎名の発言で場はなあなあで済まされようとしていた。だが、甘い。甘過ぎるのですよ杉崎さん。

 

「椎名さん……やってください……」

 

「アキ?」

 

「僕ごと、やってください!!」

 

「……!アキ……!」

 

「ちょっと!?何そこでバトル漫画のちょっといいシーンを繰り広げちゃってるの!?」

 

 たしか、かの孫悟空さんもやっていた行動だが、基本的にはライバルキャラがとる熱い行動である。では、仕上げっと。

 

「それで、世界が救えるのなら……僕は、本望です!!」

 

「岸野君……!」

 

「アキ……お前の覚悟、そして犠牲を……無駄になんかさせやしない!!うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

「まて、みな……ぶふぐごあおおああぁあぉぁあぁ!?」

 

 計画通り……!!とニヤケたい場面ではあるのだが、残念ながらそんな余裕はなかった。今回の件についてあえて誤算があったとすれば、椎名さんのパンチ力であろう。リアルで人間二人を殴った衝撃で壁まで吹き飛ばせるとは思わなかった。壁と杉崎さんにサンドイッチされ、頭まで打ったのか、意識が飛んだ。まあ、これも気がついた時の状況から起きたことを判断したにすぎないのだけれど。

 

「う、うぅ……いたた……」

 

 やたらと重たい布団を弾きとばし、起床する。先輩の本日の名言とか、雑談話題という名の今日の議題を書くホワイトボードの下らへんに自分は居た。おかしいな。長机の真中らへんにいたはずなんだけど。

 

「お、よかったよかった。知弦さん、アキは無事みたいだぜ?」

 

「杉崎先輩はまだ起きてませんけどね……」

 

 よく見ると、さっき自分が弾きとばした重たい布団と思っていたものは杉崎さんだった。

 

「……え?椎名さん、殺っちゃいました?」

 

「……殺っちまったか、な?」

 

「ちょ、深夏!杉崎に人生やり直せとは言ったけど、一回終わらせろなんて言ってないわよ!どうするのよぅ、生徒会長の責任問題になったら……ああ」

 

 個人的に、【責任を取る】という言い回しはしっくりこない。責任は【果たす】ものであり、事件が起きたから何処かに責任を与えたりする類のものじゃないと思うからだ。事件があろうとなかろうと、保持している地位に応じた変わらない果たすべき責任があるのだ。事件の責任が誰々にあって、その責任を取って辞任なんて納得できない。果たすべき責任を果たさなかったから事件が起きたというだけの話だというのに。まあ、生徒会長としての監督責任を果たすことができなかったから、能力不適格につき罷免、という流れなら僕も納得できる。

 

「というわけですので、辞表を書くなら受理しますよ。お亡くなりになった杉崎さんの代わりに。」

 

「いえ、アキ君。早まることはないわ。隠せばいいのよ。此処に居る五人で。幸い書き手のアキ君は無事なんだし、これからは【○UT】的な展開で読者の獲得に努めましょう。」

 

「ち、知弦?私も見たことないくらい活き活きした顔してるのは何で?」

 

「杉崎さんの保険金の受け取り主って誰なんでしょうね……」

 

「えと、岸野君?なんでそんなこと気にするんですか?」

 

「wikiの○UTの関連項目が【保険金殺人】と【バラバラ殺人】だったからかな?」

 

「ふふ……惜しいわね、アキ君。まず気にするべきはそっちじゃないわ。まずはキー君の四肢を切断――」

 

 

「されてたまりますかああああああああ!!あだっ!?」

 

 

 もの凄い勢いで杉崎さんが起床した。勢いが良すぎて起きた直後に机に思いっきり頭を打ち付けていた。ツッコミした傍からボケに回るとは、恐るべし杉崎さん!そんなことを思いながらボーっと見つめていた。そして、椎名さんがポツリと呟き、沈黙を破る。

 

「あ、生き返った。つまんねーの。」

 

「軽くね!?俺の生死の扱い軽くね!?」

 

「まあ、杉崎さんが実はマゾで椎名さんに殴られたときにエクスタシーを感じていようがいまいが、僕にはどうでもいいことですし。」

 

「その精子じゃねえよ!?てか、アキは本当俺を下ネタで弄るの好きだよな!?」

 

「ねえ、アキ君?確かここにノコギリがあったと思うんだけど、何処に行ったか知ってる?」

 

 棚の下を見ながら紅葉さんが聞いてくる。……杉崎さんの四肢を切断するために探したのだろうか?当の杉崎さんは紅葉さんの言葉に顔を青くしているが。ちなみに、そこにあったノコギリはこの間、生徒会室の備品を整理している時に発見し、過去の生徒会の人の持ち物ではないかと職員室に持って行った。……あれ紅葉さんのだったのか。何の為に置いてあるんだ……。

 

「よ、よかったですぅ……お姉ちゃんが人殺しにならなくて、本当によかったですぅ」

 

「そっち!?」

 

 一連の流れの中で、杉崎さんが最も傷ついた表情をしていた。椎名の、一切の邪気がない一言が一番ショックだったらしい。無邪気な一言は、大抵ギャグにならないから心を抉るのだろうか。無邪気といえば、一切発言のない先輩はどうしたのだろうか。

 

「会長……」

 

「杉崎……」

 

 え?何が起きたんだろう?何故杉崎さんと先輩が見つめ合っているのだろう?しかも真剣な表情で。

 

「……ボクは、死にません。あなたが、好きだから。」

 

「杉崎………………はぁ」

 

「?」

 

 唇を突き出した、残念丸出しの杉崎さんを見て溜息をつく先輩。そして、着席後、再び溜息。

 

「はぁ、ちょっとは期待したんだけどなぁ……」

 

 何をだろうか。この「あ、やっぱりファーストキスは二人きりが良かったですか?」とか言ってる杉崎さんに、一体何を期待したのだろうか。

 

「【馬鹿は死ななきゃ治らない】っていうでしょ?一回臨死体験したらマトモな人間になるんじゃないかって期待したの!」

 

「大丈夫ですよ、会長。俺はマトモです!」

 

「それが既にマトモな人間の発言じゃないわよ!」

 

 まあ、確かに、この手の話は自己申告じゃあダメだと思う。【私決して怪しいものではございません】とか、怪しい人間しか言わない。逆によくあるパターンだと、【いいのか?こんな怪しいヤツをそんな簡単に信用して?実はすげー悪いヤツかもしれないぜ?】というキャラは【本当に悪い人は、そんなこと言いませんよ?】と返してくれるものだ。

 杉崎さんはというと、先輩の言葉にしかたないなあという雰囲気を漂わせながら、僕たちに尋ねてきた。

 

「皆、俺、まともだよな?」

 

「…………」

 

 だれも、何も答えなかった。紅葉さんと椎名姉妹はさらに、凄くリアルな気まずさを示しながら視線を背ける始末だ。

 

「…………あ、う、いや、アキ!アキ、お前は……視線を背けないでいてくれるんだな!」

 

「…………」

 

 僕は、何も答えない。ただ、真っすぐに杉崎さんの眼を見つめて、一歩づつ近づいていく。

 

「あ、アキ?あの……アキさん?」

 

「…………」ジー

 

「えと、その……」

 

「杉崎さん?」

 

「っ!アキ!?何だ!?」

 

「まともの意味を知らないのですか?」

 

「…………おふっ……」

 

 杉崎さんが地に伏した。椎名が「岸野君、鬼です……」とか呟いているが、これは椎名がさっきやったことを参考にしたのだから、その椎名からそんなことを言われるのは心外だ。杉崎さんの弁解ターンが終了したのを見計らったのか、先輩が仕切り直しの咳払いをする。……似合わないことこの上ない。むしろ一週回って偉ぶりたい小学生っぽく見えて可愛いと言えなくもない。

 

「とにかく、杉崎は更生するべきなのよ!仮にも生徒会副会長なんだから、それなりの威厳が必要なのよ!」

 

「威厳……ねえ……」

 

 杉崎さんの言葉に全員が先輩の姿を舐めるように見る。ムリだ。先輩から生徒会長としての威厳を感じるなんて、通常モンスターによるフルモンスターデッキでパーフェクトゲームを達成する以上に不可能だ。比喩はともかく、見ている五人全員が同じことを考えた。

 

「と、に、か、く!今日は杉崎の性格を改善するのよ!」

 

「どうしたんですか?急にそんなことを言い出すなんて。」

 

 確かに。ハーレムハーレム言ってる杉崎さんへ辛辣な対応をするのはデフォルトだし、性格改善の話題も初めてではないけど、今日の先輩は随分強情だ。現に椎名さんなんかは『別にもういーじゃねーか。諦めよーぜ』って顔をしている。だが、どうやら先輩には何としてでも敢行したい理由があるようで、鞄を漁りだした。

 

「これよ!この記事!」

 

 取りだしたのは新聞部が発行している新聞である。今日新しいモノが発刊されたのは知っていたが、中身は全く見ていない。えーと、どれどれ……

 

「なになに?【シリーズ・第32代生徒会疑惑特集!】んで見出しが【生徒会副会長・杉崎鍵は、昔二股をかけていた!】だぁ?」

 

「あらあら、たいへんねえキー君。」

 

「酷い記事です!抗議しないと!す、杉崎先輩はそんなことする人じゃ……。…………。……ごめんなさい。」

 

「気づいたんだね。杉崎さんの場合、むしろ二股かけようとするほうが自然なんじゃないかという事実に気づいてしまったんだね。」

 

 そして、僕たち全員の反応を確かめた後、先輩は新聞を机に叩きつけて杉崎さんを指さし叫ぶ。

 

「生徒会役員ともあろうものがこんな記事を書かれて!」

 

「読んだ感じだとタイトルだけはセンセーショナルですけど、肝心の中身はスカスカですよ?この分量の文章書いておいて、杉崎さんが中学時代二股をかけていた可能性が高い以上の情報がないというのも凄いですけど。」

 

 【証言者A】や【友人B】なんていう情報源を示しつつも、二股をかけられた女子がどんな人なのかも分からないし。文章のセンスがあると言っていいのかは知らないけど、妙に持って回った言い回しをしてみたり、特に根拠の示されていない推測をそれっぽく書きだしたりして字数を稼いでいるものの、書き手が断言しているものは【証言者A】と【友人B】の情報に基づく【杉崎さんが中学時代に二股をかけていた】ということだけである。

 

「まあ、新聞部の部長といえば【事実を伝えるのは他人任せ。事実を基にしたエンターテイメントで皆を楽しませてこその学校新聞】なんて豪語してる人だからな。美少女だが。」

 

 美少女なんですか。その情報は今言う必要があったのですか。あれだろうか。これまでもこんなような個人を攻撃する記事を書いたことがあったけども美少女だから許してきたとか、そういうオチだろうか。

 

「杉崎!まずはその記事が本当のことなのかどうか、はっきりしてもらうわよ!」

 

 !久しぶりに見る、先輩の会長モード!?

 

「…………杉崎さん」

 

「!?…………はぁ、まいったな……」

 

 溜息交じりの苦笑の後、杉崎さんは先輩に向き直り、返答した。

 

 

「結論から言うと、事実です。俺は昔、二股をかけてました。」

 

 

 ギャグでもおふざけでも無い杉崎さんの言葉に突っかかって来る人はいなかった。

 

「杉崎は、詳しい経緯を話す気はある?」

 

「いえ、今はちょっと、勘弁して下さい。」

 

「でも、事実なのね。」

 

「はい」

 

「弁解する気はある?」

 

「ありません」

 

「そう」

 

「はい」

 

「……ん。わかった。じゃ、この件はこれでお終いっ!」

 

 先輩はそう言うと同時に背伸びをして、空気が戻った。僕は掴んでいた杉崎さんの制服の裾から手を離した。僕も一つ深呼吸して、いつもの自分に戻す。

 

「さて、さっそく更生するために色々するわよ!こんな記事が何度も書かれちゃ困るんだからね!」

 

「そうですね、更生はともかく、表面を取り繕うくらいはしましょうかね」

 

「杉崎さん、そんな軽く表面だけ取り繕うくらいじゃあ、学校で友人とエロ本の観賞会してる変態っぷりは隠せませんよ?」

 

「そんなことしてねーよ!?何僕は全て知ってますよ……見たいな雰囲気出しながら嘘言っちゃうの!?」

 

「すみません。でもエロゲの貸し借りはしてますよね?」

 

「してねーよ!!」

 

「じゃあ、そこの鞄から見えるパッケージは何ですか?」

 

「…………鞄漁るのはダメだと思うんだ、俺。」

 

 自白した。うん、満足満足。

 

「えっと、で、結局更生って具体的に何するんです?」

 

 アウェーな空気になったことを察した杉崎さんが議事を取り始めた。議事を進めたところで非難を受けるだけだというのになあ!とか考えながら多分ドヤ顔している僕だが、杉崎さんは腕組みしている先輩を眺めながらあほ面をさらしていた。そして案の定先輩にそれを見とがめられる。

 杉崎さん更生プロジェクト第一回戦は杉崎さん対先輩でゴングが鳴らされた。

 

「杉崎、まずはその変態的なことを考えている時のあほ面を何とかしようか。」

 

 先制は先輩。ジト目つきの攻撃!

 

「む、俺はいつだってまじめに思考していますよ!」

 

「真面目に思考するテーマがいつも変態的なのよ!」

 

 杉崎さんのボケという名のカウンターが決まった!ツッコミ役に回されてしまった先輩は防戦一方だー!!

 

「……そういう頭おかしい発言禁止!」

 

「そんな!そんなことしたらこの物語かなりオーソドックスですよ!」

 

「書き手は杉崎じゃなくてアキだもん!アキが何とかしてくれるよ!」

 

 ここで先輩ダウン――――!力尽きた!しかし、力尽きる前に僕に妙なバトンをブン投げてきた――――!

 

「アキ!お前だけは俺の味方だよな!俺のハーレムに協力してくれるよな!」

 

「僕の普段の言動からどうしてそう思えるのか聞きたいくらいですが……」

 

 まあ、いいでしょう。さあ、連戦ですよ。杉崎さん。杉崎さん更生プロジェクト第二回戦、対戦相手は僕がお務めいたしましょう。

 

「そもそも、更生って話ですよね?」

 

「ん?ああ、そうだったな。アキは何かいい案でもあるのか?」

 

「一週回って僕に告白するとかどうでしょう。見た目だけなら美少女ですし。僕。そして同性愛を始めればハーレム野郎の誹りからも逃れられますよ。」

 

「岸野君!!ナイスです!!素晴らしいです!!それで岸野君は攻めですか?受けですか?真冬的には杉崎先輩のへたれ攻めと岸野君の誘い受けがありだと思います!!!!」

 

「話しに割り込んできて早々、一体どうしたの、真冬ちゃん!?」

 

「椎名、別に僕BLのカップリング理論とかに詳しいわけじゃないから断言できないけど、僕はできれば攻めの方がいいな。入れられたくはないから。」

 

「アキはアキで何サラッと対応してるんだよ!?」

 

「なるほど、杉崎先輩の総受け……アリですね!」

 

「無しだよ!!真冬ちゃん、一体どうしたっていうんだよ!?」

 

「それでどうですか?僕への告白、考えてみてくれましたか?」

 

「考えるまでも無くノーだよ!大体お前女子に見られると怒りだす癖になんでそんな発想が出てくるんだよ!?」

 

「女子として見られて告白されるのは願い下げですが、男として見てくれる男から告白されるのは別に問題ないですよ。」

 

「す、素晴らしいです!杉崎先輩も岸野君を見習ってください!」

 

「嫌だよ!何が悲しくて同性愛に目覚めなきゃいけないのさ!というかアキ!お前ホモだったのか!?」

 

「え?ホモ?そんなわけないじゃないですか。」

 

「だ、だよな……」

 

「バイです。」

 

「両刀!?」

 

「ははは、冗談ですよ~…………ジュルリ」

 

「よだれ――――!!」

 

「あ、先輩、岸野君、この本貸してあげます!勉強になりますよ!」

 

「なになに……【私立美少年学院~僕が攻めであいつが受けで~】……って、だから真冬ちゃんは何で俺に同性愛を勧めようとしてるの!?」

 

「へ~……うん、これは心の準備をしてもらうために杉崎さんに読んでもらいましょう。僕は好き勝手に攻めるだけなんで。」

 

「岸×杉…………ポッ」

 

「やめて下さい、俺を汚さないでください!」

 

 目の幅涙で土下座を始めた杉崎さんを見て、攻撃の手を緩める。ツッコミの体力も尽きたのかヒートアップし続ける椎名も放置である。先輩の仇を取り杉崎さんを負かした僕はもう満足したので椅子に座り休憩モードだ。椎名は椎名で自分の席に戻り、自分のノートパソコンと向き合って「杉崎先輩は……胸の、たかな……りを、と。えへへ……」とか言っているが、誰も触れようとしない。というか、

 

「僕のボケにのっかってくる人がいるとは……しかも椎名が……」

 

 でも、今ノートパソコンと向き合っている様子を見る限りでは、ボケに乗っかってきたというよりはBLが本当に趣味だったのだろう。あの方向で最後までボケ倒すのは失敗だったかな?ちょっと反省していると杉崎さんが幽鬼のごとく立ち上がる。

 

 

「更生させるも何も、他の生徒会メンバーも十分変人じゃないか……」

 

 

 杉崎さんの言葉に、先輩唯一人が立ち上がり抗議する。

 

「冗談じゃないわ!私はマトモよ!」

 

「会長、自己申告はダメですよ。」

 

 まったくだ。自分が最初に言いだした理論だというのに。そして、自己申告はダメだと自分で言った自覚は確かにあったのか、先輩はそのまま生徒会の人間に向き直る。

 

「み、皆!私はマトモよね!?」

 

 

 一分後、杉崎さんと同じ愚を犯し、机に沈み込む先輩が居た。

 

 

 ご愁傷様です。沈み込むその瞬間まで無言で先輩の目を見つめ続けていた僕は先輩に合掌する。杉崎さんに言われたくないという思いは多少あったでしょうけど、他人にマトモかどうか聞くなんて、死亡フラグに決まってるじゃないですか。沈みまくっている先輩を横目に、杉崎さんがシメの空気を纏いだした。

 

「個性をなくすのが更生っていうんだったら、俺、ずっとこのままでいい気がしてきました。」

 

 杉崎さんがこの空気を纏いだすと、生徒会の人たちは聞く体勢になる。……椎名の執筆も止まった。

 

「俺だけじゃなくて、此処にいるメンバー全員ちょっと頭おかしい部分があるでしょう?」

 

「ちょ、だから私はマトモだって――――」

 

 先輩は立ち上がり、一分前に否定されたことを主張しようとしていたが、杉崎さんは満面の笑みで気にせず続ける。

 

 

「でも、俺、此処に居る頭おかしいメンバー、大好きだよ。」

 

 

 みんなの視線が、一瞬、緩んだ。おそらく杉崎さんにとっては残念なことに、一瞬だったけど。何故一瞬だったかって?杉崎さんの言葉が、ここで終わらなかったからだよ。

 

「俺のハーレムは多少性格に何があっても容姿が良ければ無問題なのさ!ああ、なんて心の広い俺!さあ皆!遠慮しないで俺の胸に飛び込んでおいで!」

 

 一瞬で、みんなの緩んだ視線は元に戻り、各々の作業に戻って行った。

 

「可哀想なんで、僕、杉崎さんの胸に飛び込んであげましょうか?足から。」

 

「ドロップキックじゃねーか!」

 

 先輩、やっぱり、今日の名言はダメでしたね。人間、【やり直し】なんてできないんですよ。【いびつに積み上げた積木は一度全て崩さなきゃ、元には戻せない】なんて言ったりもするけど、それは【やり直し】じゃない。0からのスタートではなく、【失敗を経験した】スタートなのだ。決して、過去が無くなったことにはならない。

 人生で言うなら、【心機一転して新たな気持ちで再出発】することは不可能ではないかもしれない。でも、やっちゃいけないとも思うのだ。心機一転しようが、過去にしてきた行いが変わるわけではないのだから。

 だから僕は、【リスタート】することができずにいる。過去の延長線上にいるのだ。少なくとも、自分自身の意識の上では、そうでなくちゃいけない。過去の自分の行いに何らかの思いを抱いている誰かから、想いをぶつける先を奪っちゃいけない。

 やり直しちゃいけない。先輩風にいうなら、【人生にリセットボタンはない】のだから。でも、人生のリハビリや軌道修正は、いつからでもできるとは思いますよ。まあ、軌道修正やリハビリした結果が【個性をなくす】だったなら、杉崎さんは同じことを言うんでしょうけど。

 

 その日は、それ以降、杉崎さんの更生の話には一切触れられなかった。

 

 ちなみに、先輩が小さく「いいわよ、杉崎は。そのままで。」と呟いていたが、どうやら杉崎さんには聞こえなかったようだった。

 

 

 




オリジナルキャラ:プロフィール

名前:岸野 アキ

1年C組所属男子出席番号7番 碧陽学園人気第5位獲得 生徒会常任委員
保有属性:男の娘 メガネ
一人称:僕

呼び方(5月第三週現在)

桜野くりむ:先輩 ⇔アキ
紅葉知弦 :紅葉さん ⇔アキ君
杉崎鍵  :杉崎さん ⇔アキ
椎名深夏 :椎名さん ⇔アキ
椎名真冬 :椎名 ⇔岸野君

【本人情報】
本二次創作作品【生徒会の青春】における碧陽学園生徒会議事録作成者。
会議の録音に使用しているボイスレコーダーはアキの私物だったりする。
現在、知弦さんに、とある相談に乗ってもらっている。
鍵と会長以外の三人と話すのはまだ少し苦手。
それでも、教室の中に居るときよりはフレンドリーに喋っている。

【作者より備考】
アイディアの出所は原作「生徒会の火種」にて知弦さんが言及していた【引っ込み思案で生徒会を辞退したいと熱望していた今年の五位の子】。
作者が書いてるうちにどう見ても初期の真冬ちゃんよりもアグレッシブかつ毒を吐きまくるキャラになってしまったが、原作でも生徒会を辞退したいと(希望ではなく)“熱望”できるくらいにはアグレッシブな子だったらしいのでいいかと流していたが、教室内では全然喋らないという設定が最近ついた。(当初の予定では【授業以外で教室に居ることがほとんどない】というだけだった)
アキが投入された1年C組の話を書いてみたいが、本編でアキの過去話が出るか、幕間の知弦さんへの相談がひと段落するかしないと書けない。
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