なんか、おかしかったんだよ。
え、何、杉崎?これじゃダメ?どうしても?う~……えと、じゃあ、もう一回いくよ~
なんか、アキが、おかしかったんだよ。
何よぅ~、杉崎が言ったんじゃない、主語がないとワケが分からないって!魔法少女に勧誘しようとする詐欺士見たいに!ちゃんと入れたよ?主語。えと、今度はどうおかしいのかが分からないって?全くもう、しょうがないな~、りかいりょくの足りない杉崎の為にもっと分かりやすく言ってあげるわ!
なんか、アキが、子犬さんみたいにプルプル震えてて、可愛かったんだよ。
え?内容が変わったって?気にしない、気にしない。些細な問題よ。そんなこと。あっ、コラ!杉崎何やってるの!?え、アキに文句って、何でよ?……っ!だから、私は杉崎の彼女とかじゃないから!別にツンデレのツンとかじゃないから!全くもう……
……コホン。まあ、冗談は置いといて。なんていうか、うん。杉崎に問い詰めてた時のアキの様子ね。他の人たちは気づかなかったと思うけど、会長たるこの私の目はごまかせなかったのよ!あのときは、杉崎から真面目に話を聞く方が先決だと思ったからあえて何も触れずにいたけど、勿論気づいてたわ。
……うん、ムリにテンションあげるのはやめましょう……
私は、あの瞬間、アキに怯えられていた。
真正面から、怖いものを見る目を向けられた。それは、杉崎を問い詰め終わったら無くなったけど。なんで怖がられたのかはわからない。もしかしたら私があのまま杉崎を本気でクビにしようとしてると思ったのかもしれないけど。そんなわけないじゃない。
そんなことしたら、私が役員の手綱も握れないダメな生徒会長みたいじゃない!
まあ、そんなことはさておき……うるさいよ、杉崎!…………むぅ~、さ・て・お・き!アキのことの方が、杉崎への対応の何倍も重要だよ!まったくもう……あれ?なんの話だったっけ?
そうそう、アキに何でか怖がられてたって話よ。そう、あの時のアキは、確かに怖いものを前にした時みたいだった。でも、お化けとかと相対したような怖さじゃないような気がするのよ。…………え?お、お化けなんて本当に居るわけないじゃない!!お、大人な私は、お、おば、お化けとか!ゆ、ゆう、幽霊とか!そんなものに怖がったりとかはしないけど!!
……コホン。とにかく、あの時のアキは、私を怖がっていた。でも、それは怪談を聞いたとか、お化けを見たとかの怖さじゃに気がするの。どっちかっていうと、親から怒られるのを待っている、悪いことをした子供みたいな感じ。理由?勘よ、勘。…………自分がそうだからですか?ってどういう意味よ!私はもう大人よ!親から怒られる年齢じゃないのよ!大体、私、超完璧だから、親から怒られたこととか、ないし。
え?どうしたの、杉崎?妙に疲れた表情して。え?もういいの?だって深夏とか毎回結構この幕間で色々書いてるじゃない。まだ私ちょっとしか喋ってないよ?え?文章にしたら長くなるの?深夏や真冬ちゃんくらいになる~?じゃー、今回はこのくらいでいいや、それじゃ、お願いね、杉崎ー!
私の大人らしい完璧な会長っぷりを余すところなく書きつくすのよ!!
――以上桜野くりむによる追記(代筆・杉崎鍵)――
なにやら、アキ君の怯えの正体が一瞬垣間見えた。
新聞部がキー君の中学時代のことにして記事にしたのに、結果として何故かアキ君のことがわかってしまう不思議。何故分かったかといえば、キー君をアカちゃんがいわゆる【会長モード】で詰問した時。アキ君が、目に見えて怯えた。普段のキー君なら一回くらい誤魔化そうとボケに入っただろうに、そうせず素直に答えたのは、アキ君の行動が故だろう。アカちゃんに怯えたアキ君が、詰問されているキー君の服をつかんだのだ。まるで、怖い人から隠れるように母親へとすがりつく子供のように。決してアカちゃんは誰かを責めていたわけではなかったのに。だからこそ、アキ君の怯えの元に幾つかの推測を立てることができるようになった。アカちゃんの会長モードと、通常時の差異がどんなものであるかを考えれば、おのずとアキ君が【何】に対して怯えているのかがわかるようになるはず。差異として考えられるのは、まずは何と言ってもこれだろう。
アカちゃんの会長モード発動中は、からかいに対して年相応の対処ができる。
……いえ、誰も見ないであろう自分のメモ帳でボケるのはやめましょう。まあ、さっき書いたのも事実ではあるのだけど。
一番考えられる部分で言えば、通常時のアカちゃんが【子供らしい感性と感情】を行動の軸にしているものの、会長モードのアカちゃんは【実年齢らしい理性】を行動の軸にしているという点かしら?「教えて欲しい」が故の行動であっても、普段なら【子供の駄々】に見えるけど、会長モードなら上級生(私なら同級生)らしく見える。
もしも、それが理由だったとするなら、【年上の人】に対して怯えているということかしら?それなら一応、同級生の真冬ちゃんには怯えている様子がないことも頷けるけど。だとするとキー君とすぐに打ち解けられたのは何故?これかしら?
キー君を、先輩と思えない。
……どうしようかしら。正解な気がしてきたわ。初対面では、人見知りの範疇だと思ってたけど、キー君に対してもビクついてたのは確かだし。女の子に間違われて、抱きつかれて、告白されてからだったような気がするわ。キー君に対して辛辣n……気安くなったのは。
アキ君に怯えられなくなる方法がそれのほかにないのだとしたら、私たちはどうすればいいのかしら?
当たり前のように女子トイレへ一緒に行くように誘えばいいのかしら?
結構危険な賭けね。タイミングを見誤ると【男子を女子トイレに連れ込もうとする痴女】だし。もう少しいい案が思い浮かぶまで待ってましょうか。それじゃあアキ君からの例の相談のアドバイスでもしに行こうかしらね。
――以上紅葉知弦のアキ君アドバイス手帳より抜粋――
鍵の二股記事が報道された翌日。新聞部は、新しい新聞を作成し、配布した。既に、鍵の二股云々の話題はクラスを始め、学校の何処でもされていない。朝一の授業後にトイレに行っていた鍵は新聞部の部長と会ったとか言っていた。そこで聞いた話ではこの今日配られた新聞は昨日、その部長が一人で徹夜して書き上げたらしい。ちなみにシリーズ扱いだった生徒会の疑惑特集でやり玉に挙げられていたのはアキだった。【生徒会常任委員岸野アキ・女性疑惑!?】とか。アキが中学時代、女子トイレに入っていたという証言を得たが故の記事だった。
変態扱いされないのは、アキの人徳だろうか。それとも、未だにアキが女子だと本気で信じているヤツらばっかりなのだろうか。
二年B組でも、今回の記事の話題で結構盛り上がっている所はある。「やっぱりな~、そうだと思ったよ。……よし、俺、今日、アキちゃんに告白してくるぜ!」とか言ってる男子バスケ部のエースは本気なんだろうか。本気なのだとしたら大丈夫だろうか。……バスケ部のエースとしては、あたしに1on1で勝てないとか、大丈夫とは思えないが。
でも、まあ、徹夜の理由はこっちの記事じゃなくて【保健室で目撃!?看病をしたがるナース幽霊!】っていう方らしいが。アキの記事はついでらしい。
「てか、アキが女子トイレに入るとか、全然理由が想像つかねー」
鍵相手に下ネタで突っかかりまくる姿をよく見る(昨日も鍵があたしに殴られて性的快感を感じた云々とか言ってボケてたし)が、アキ自身がエロい事を考えてるて言うのは、何故か全くイメージできないしな。掃除か?でも普通、女子トイレの掃除は女子がやるし、なんか事情があって女子トイレを掃除することになった――――とか?……どんな事情だよ。移動教室の授業が終わり、自分のクラスに向かう途中、そんなことを考えていると、何故か、手ぶらのアキがいた。
「え?アキ、お前、何でこんなとこにいるんだ?ここ一年の教室がある階じゃないだろ?」
「……え、あ、う……」
めっちゃ、おどおどされた。
なんか、もう一カ月以上生徒会で話しているっていうのに、こういう対応をされると、結構心にくる。なんだ?あたしアキになんかしたか!?
「…………えと、た、ただの、さんぽ……です。」
「散歩って……たった十分間の休み時間を授業の準備もせず一人で他学年の階まで来る理由なんて無いだろ?」
「…………いつも、そうしてますし。」
「いつもって……アキのクラスに真冬いるだろ?話したりしないのか?」
「…………しません。人が、たくさんいるところが、苦手で。」
休み時間の教室っていえば、まあ、確かに2~30人くらいは人いるけど……。あれか?アキは真冬みたいに人見知りで、一人でいる時間が好きって言うタイプか?
「例えば、この廊下とかも苦手だったりするのか?」
「…………はい。……かなり。」
顔は俯けたままで、人見知りを真冬以上のレベルで発動させているのに、あたしの問いには直球で現状への不快感を示してきた。
「…………椎名さん、と一緒……だと、皆さん、こっちを……窺うように、見てきますし。」
しかも、微妙に、あたしが一緒に居る現状がキツイとか言いだした。
「…………人気のないところなら、生徒会室と同じくらいには喋れますよ?屋上とか、校舎裏とか、放課後の教室とか……」
「いや、告白じゃねーんだから。」
「路地裏とか。」
「カツアゲでもねーから!なんか例示の中にそれが入るだけで前の三つも物騒に聞こえてくるな!」
人見知りでボソボソした喋り方なのに、割といつも通りの会話のノリになってた。
「…………そういえば、」
「ん?どうした、アキ?」
「…………昨日の今日で、また新しい記事書いたんですね。新聞部。」
「ああ、その話か。アキはもう読んだか?」
「…………いえ。まだ読んでないです。別段、特に読む気も、無いです。」
「そうなのか?なんか、新しいヤツではアキがスポットされてたぜ?」
「……っ!?な、何が書いてあったんですか!?」
「ふえっ!?ど、どうしたんだよ、急に!?これだよ、【岸野アキ女子疑惑】。」
あまりの剣幕と、それまでとは一変した声の大きさに、なんか変な声が出てしまった。そして、新聞部の新しい記事を手渡すと、空気が抜けたように元に戻った。
「…………はっ…………ふー…………」
「だ、大丈夫か?お前?」
「……はい、すいません。急に。」
「まあ、生徒会室でもなかなか聞けない大声だったしな。てか、さっきまでより目立ってるぞ、今。アキの大声のせいで。」
「……………………」
俯き加減くらいだったアキが、もう真下を凝視しているレベルで顔を伏せている。相当、今の状態が辛いらしい。
「あ、そうだ、なんか、この記事、アキが中学の時に女子トイレに入ってたとか書いてあるんだけど、何でアキはんな状況になったんだ?」
時間も時間だし、そろそろ教室に向かわなきゃ危ない気もするけど、ちょうどさっきまで考えていたことだったので、ついでに聞いてみることにした。
「………………見間違えじゃないですか。それ。僕にそっくりな女子が、中学一年の時に同じ学校に居たので、そんな噂がよく流れてました。逆に、その女子が男子トイレに出入りしてるとかいう噂も。」
「へ~……なるほどな。あ、じゃ、長々と話しちまって悪いな。また今日の生徒会でな。」
「…………はい、では、失礼します。」
ん?アキってたしか生徒会の挨拶の時、北園中出身だって言ってたような気が…………。もう一度新聞部の書いた記事に目を落とすと、『【証言者B】(岸野アキが通っていた荊北中の卒業生)』と書いてあった。
「荊北中って何処だ?」
少なくとも、このあたりではあまり聞かない名前だ。
「昔、引っ越しでもしたのかな、あいつ?」
ま、んなこと気にしてもしゃーないか。なんかあれば言ってくれるだろ。今だって、知弦さんに何か相談を持ちかけてるんだから、何が何でも問題を一人で抱え込もうとするタチでもないだろうし。そう思い、アキのことから気持ちを切り替えて、自分の教室へと走って向かった。
…………廊下は走るなって?しょうがないだろ。チャイムがなるまで、一分を切ってたんだ。
――以上椎名深夏による追加記述――
「先輩、学園への調査・干渉プロジェクトですが、なかなか芳しくありません。」
「【干渉】については仕方あるまい。開始間もないプロジェクトだ。……しかし、調査もか?」
「はい。今年度に入ってから失敗の報告が数多く上がっています。」
「くっ……それが滞れば、我々は【企業】からの信頼を失うことになるのだぞ!何故、調査さえまともにできない!?」
「…………原因の特定は、一応はできています。」
「言ってみろ!」
「これまでの調査・干渉プロジェクトの失敗は、現生徒会の活動によって妨げられています。」
「生徒会だと!?ふざけているのか!!あんな職務に不真面目な集団のお遊びに我々の活動が妨げられているとでも言うのか!!」
ダン!!
「ですが、事実です。怪談は生徒会会長が本気で忌諱し、それを受けた副会長の杉崎鍵という生徒が沈静化させました。」
「干渉の失敗というのはそれか……!」
「今では定例ともなった月半ば昼食調査ですが、生徒会による珍妙な放送を聞いた生徒が昼食に手を付けなかったせいで、十分な情報を獲得できませんでした。ただ、初めて生徒会常任委員の岸野の昼食事情が判明しましたが。」
「……報告で持ってこられた情報が【野菜ジュース】しかなかったのに唖然としたが、それは岸野の昼食か……だが、そこまで原因がわかっているのならさっさと対処すべきだろう!今まで何をしてきたんだ!」
「はい、それで、生徒会副会長である杉崎鍵が中学時代に二股をかけていたという情報を、ゴシップ記事に注力する傾向のある新聞部へ匿名でリークし、生徒会内での不和、及び人気の失墜を起こそうとしたのですが、十分な効果が認められないまま、部長の藤堂リリシアの手により新しい【岸野アキ女性疑惑】という記事を作成されました。どうやら、藤堂リリシアにとって、我々の干渉限界に抵触しないレベルでリークした内容では不満であったようで、単なる間に合わせの記事として、さっさと新しいモノを作成したいと思っていたようです。一応、新聞部としては追跡調査への意欲は見せていますが、既に生徒の関心は杉崎の二股騒動から離れています。今更蒸し返しても、上手くいくかどうか……」
「くそっ!忌々しい!!」
「どうしましょう……このままでは…………」
「……杉崎鍵が、鍵か。」
「は?」
「どうやら話を聞く限りでは、杉崎鍵が現状の最大の問題であるようだ。違うか?件の校内放送も、杉崎鍵が通常業務を居残って全てこなしているからこそ行われたモノだろう?」
「確かに、そう言われればそうですが……」
「ならば、ソレそのものを利用すればいいのだ。」
「?どういうことですか?」
「次の干渉プロジェクトについて通達する。杉崎鍵が肯定的に受け止める可能性が高い形式での干渉を行う。」
「!」
「杉崎鍵の普段の言動やその思想から考えれば、学園生徒が性に対して奔放になるような干渉……なんていうのはどうだ?ちょうど企業の方からも【若者向け雑誌の特集として取り扱う内容に関連した情報が欲しい】という要望があったところだ。干渉が成果をあげれば、【異性を満足させるテク】だとか【日本人の性事情】なんて特集がいいだろうと返答できる。」
「なるほど……それにその内容でしたら、生徒会からの横やりはあまり効果が出ないでしょうね!杉崎鍵は言うまでも無く言葉に説得力が出ないですし、通常の注意だけなら、一度燃えだした若者の性は留まるどころか、その注意を燃料にしてさらなる燃え上がりさえ期待できますね!」
「声が大きい!いいか、これはプレハブ小屋の連中には、我々が動いていると感づかれるなよ。アレは【スタッフ】には以上な良識や道徳心を行動基準に組み込む連中だ。何らかの異議を唱えだす可能性も0ではない。」
「了解しました。では、全ては【企業】の利益の為に。」
「ああ、しくじるなよ。全ては【企業】の利益の為に。」
――以上職員室内会話ログ――