生徒会の青春   作:ハクヨウハ

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五月第四週「振り返る生徒会」

 

「過去にとらわれてばかりじゃ駄目!未来を見据えて歩くべきよ!」

 

 机を挟んで反対側。小学生みたいな我が先輩が、どっかで聞いたことのある言葉を、さも自分が考えましたって顔で胸張って叫んでいた。普段ならすぐに話題を提示する先輩だが、今日は何故か役員の目を順繰りにじっと見つめてきた。

 

「え、ええと……?」

 

 当然、困惑する一同。何か言葉を発してくれれば、もしくはそのままふんぞり返っているだけならば、杉崎さんあたりがきちんと反応してくれるのだろうが、【何か】をしている先輩に対して困惑しかできていない。そして、最後に僕と目を合わせ終わると、大きな声で宣言した。

 

「第一回、チキチキ、親睦を深めよう会~!どんどんぱふぱふ~♪」

 

「「……はい?」」

 

 先輩以外の五人の声が、完全にハモった。何やら場を盛り上げようとしている先輩に対して、誰もついていけていない。

 

「ほら、深夏!ムードメーカーなんだから、一緒に盛り上げてよ!」

 

「え、と……いえ~い?」

 

「一年生の二人も!」

 

 飛び火してきた。まあ、【親睦を深めよう会】……面倒くさいから【親睦会】というからには生徒会の中で親睦を深めようという意図なんだろうし、そうだとしたら、人見知り気味な僕たち二人は一番親睦を深める努力をする必要があるのだろう。……普通、親睦会をやるなら、発足直後にするものだと思うので、相変わらず、戸惑いはあるが。

 

「ええと……ぱちぱちぱち」

 

「わあーたのしみだなー」

 

 物凄い棒読みになってしまったが、先輩は気にした様子はない。杉崎さん、さっさと舵取りして下さい。先輩の思いつきに噛みつくのは杉崎さんの仕事でしょう。……まあ、この間の学内風紀の問題の時みたいに先輩が杉崎さんへの嫌味を冒頭に入れることがちょくちょくあったから、そんな習慣になっただけでしょうけど。

 他にも、紅葉さんの先輩の行動に対する基本スタンスは【見守る】だから、最初期の舵取り役を担ってくれないからという理由もあるのだけど。

 未だに皆が先輩の言葉に呆然としている状態のまま、先輩はホワイトボードに【親ぼく会】と書きこんだ。

 

「先輩、【ぼく】は【目】書いて【陸】の右側ですよ。」

 

「そ、そのくらい知ってるもん!」

 

 妙に焦った表情ではあるため知っていたとは思えないが、ここで書きなおすと漢字がわからなかったと自白するようなものだとものだという考えでも浮かんだのか書きなおそうとはしなかった。妙に締まらない見た目である。いっそ全部ひらがなで書いてたら逆にアリな気もするが。…………【しんぼくかい】。

 

「また、どうしてこの時期に親睦会なんて……」

 

 ちなみに今がどんな時期かというと五月第四週の木曜日。生徒会発足から、結構経っている。しかも、毎日駄弁っているだけみたいなもんなので、毎日親睦会やってるようなものだ。時期云々も確かにそう思うが、今年の生徒会が、生徒会内で親睦会をわざわざ宣言して行うことも物凄い違和感がある。

 

「ふと思ったんだけど、この生徒会メンバーって、お互いのこと殆どよく知らないのよね。」

 

「いつも一緒に駄弁ってるじゃねーか。」

 

「甘いわね、深夏。世間話とかは確かによくしてるわ。」

 

 親睦会って、普通世間話とかするもんじゃないのだろうか。やったことないから知らないけど。

 

「……でも、単純に【人となり】という観点では、実はよくわかってないのよ。私が知ってる深夏っていうのは【男口調で運動得意な高校二年生】とか、アキだったら【女の子に間違われると怒りだす人見知りの高校一年生】とか、それだけってことなのよ。」

 

「なんか問題でもあんのか?普通そんなもんだろ?」

 

 なあ?とか、僕を振り向いて言わないでください。椎名さん知ってるでしょう?僕、コミュ障ですよ?

 

「まあでも、僕の生徒会メンバーの認識だって美幼女、美女、美少女、超人、変態って感じですからね。それで特に困ったことも無いので、そんなものだと言われればそんなものなんだろうな~と思っている程度ですが。」

 

「容赦なく俺だけ扱きおろしてったな!」

 

「いやまて、あたしの超人っていう認識にも一言モノ申したいんだけどっ!」

 

 この間の、【くりむぞんの悲劇】の終結時…………うん、大げさに言うの止めよう。【大トランプ大会~先輩が勝つまで帰れまテン~】の翌日に椎名さんが杉崎さんを殴った時、僕に人類の夢たる飛行を生身で強制的に叶えさせられている姿を見せられたとあっては、超人というほかないでしょう。それ以前から思ってたけど。

 

「まあでも、深夏の言うとおり、普通友人関係ってそんなものよね。それ以上と言ったら、精々趣味とか、嗜好とか、血液型や家族構成くらいかしら?」

 

「ダメなのよそれじゃあ!ただの友人関係ならそれでいいでしょうけど、私たちは生徒会なのよ!学園を背負って、社会の軋轢とか、大人たちの作ったルールと戦う精鋭集団なのよ!いわば選ばれし戦士たち!つまりは戦友!」

 

 いつ、生徒会はそんな壮大なものと戦う集団になったのだろうか。そして仮にそんな壮大なものと戦う集団であるのだとしたら、毎日のんびりお茶すすってうさまろ食べてないで、もっとしなくちゃいけないこととかないのだろうか。うさまろ食べてるのは先輩だけだけど。……そう言えば、最近は僕以外にもうさまろの補充をしている人がいるらしい。先輩は相変わらずのペースでパクついてるのに、僕が補充する回数が、なんか減っている気がする。

 

「だからこそ!そんな背中を預け合う戦友同士、お互いを深く知らないっていうのは大問題なのよ!だからこそ、今こそ親睦会を!!」

 

「はい、先輩。」

 

「?アキ、どうかしたの?」

 

「深く知るって、具体的にはどんなことなんですか?そこらへんしっかりしとかないと、ここぞとばかりに杉崎さんが【スリーサイズ】とか【理想の初体験は?】とか聞いてきますよ。」

 

「俺のターンを先回りして潰してきたっ!?」

 

「違うわよ!なんでそうなるのよ杉崎!」

 

「俺なの!?そこで今矛先が向かう先は俺なの!?」

 

「あとは【告白は待つか、するか】とか、【今日のパンツ何色?】とかもしそうですね。」

 

「親睦会というよりフィーリングカップルじゃない!」

 

「フィーリングカップルでパンツの色聞くヤツがいるかああああああ!」

 

「変態からの無差別電話のネタですよね。昔、僕の携帯にかかってきたこともありました。……杉崎さんから」

 

「岸野君、その話くわしくっ!!」

 

「だからサラッと俺の過去を捏造するなよ!そして真冬ちゃんは本当にどうしてそういうネタだけは物凄い勢いで食いつくのかなあ!」

 

 杉崎さんがツッコミ回って疲れたのか肩を落としたのを見計らい、先輩が声をあげる。

 

「だからね、杉崎が言っているようなものでは全くなくて……」

 

「だから、今日俺は何も……いや、もういいです。」

 

 僕の勝手な予測の上の言葉が、先輩の中では全て杉崎さんが発言したことになっていた。そして、杉崎さんはそれを諦めて受け入れていた。……なんかすいません。多分、これからも自重はしませんけど。

 

「私としては、お互いの、えーと……そう、お互いの昔のこととか語りあったらいいんじゃないかなって――――」

 

 だらっとしながらも気楽にボケ倒していたそれまでの生徒会の空気が、変わった。強烈な緊張感に包まれる。紅葉さんは目を伏せ、杉崎さんは誰とも目を合わせようとせず、椎名姉妹は表情を消した。僕も、多分、今までどおりでは、ない。どんな表情を、浮かべているかなんて、自分では、分からないけど。一応、他の、役員の状態が、視界に入っている、から、顔は、あげている、と思う。

 

「――!――!!――!」

 

 わたわたと慌てている先輩、何を言っているのか、僕は理解できていない。でも、少なくとも、他人のトラウマに触れてしまう可能性を考慮しての発言ではなかったのだろう。この間の杉崎さんの二股騒動のときの行動を考えれば、先輩は基本的には誰かが触れて欲しくない部分に不用意に触れないという方針ではあるはずだし。少し驚いたのは、【過去】のキーワードに全員が反応したこと。全員、結構深くまで刺さった棘が過去にあったらしい。【自分が特別】なんていうつもりはなかったけど、【ありきたりではない】過去であると思ってはいたから。

 少し時間を開けて、ある程度冷静さを取り戻すと、状況を把握しなおす。おそらく、先輩の意図した【過去の話】っていうのは「中学の修学旅行で秋田に行ったんだけど、何故か初日に登山やって筋肉痛に悩まされながらの日程になっちゃったんですよ~」「あはは~災難だったね~私の修学旅行は函館だったんだけどね、夜景見ようって時に雨に降られて、集合写真を合羽来て撮ることになっちゃったんだよね~」みたいな軽い思い出話で盛り上がれたらいいな~くらいのつもりだったのだろうと思う。生徒会の皆も、冷静になった今ではわかっているだろう。先輩が単純にもっと仲良くなりたいという程度の意図で親睦会をやろうとか、過去を語り合おうとか言いだしたのだということも。

 

 

 でも、感情は追いつかない。

 

 

 頭ではわかっているから、なんとかフォローしようとか、場の空気を元に戻そうとか考えている。僕だけではなくて、杉崎さんも、皆も。まだ少し暗い表情ながらも何とか顔をあげた紅葉さんや、ぎこちないながらも先輩に笑いかける杉崎さんや、何か喋ろうと口をもごもご動かしている椎名さん、そして、落ち着かない様子で手をもじもじしている椎名を見れば、そう思える。でも、誰も具体的な行動に起こせない。だって、理性ではどうにかしなきゃと思っても、まだ感情の整理はつけれてないのだから。さらに言えば、この空気の中、最初に発言してしまったら、おそらく――

 

 

「ぶっちゃけ俺には、美少女の義理の妹と、これまた美少女の幼馴染がいたりします!……以前の二股騒動のときの二人なんスけどね。あはは……。」

 

 

 結構、深い話をすることになってしまうから。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 杉崎さんの話を簡単にまとめると次のようになる。

 

 

 中学時代、幼馴染である飛鳥さんと義理の妹である林檎さん以外の女性に対し、杉崎さんは殆ど興味を持っていなかった。そんな杉崎さんに、当時、飛鳥さんが告白した。以前から、その他の女性と比べるべくもなく愛していた女性の一人である。受け入れるのは当然の流れだったのだろう。しかし、それに耐えられなかった少女がいた。もう一人の、その他の女性と比べるべくもなく愛していた女性(しかし、その当時まではあくまで家族として)である林檎さんである。彼女は自分の大好きな兄を、幼馴染にとられることが耐えられず、入院が必要なほどに、その心身を不安定なものにしてしまった。そして、杉崎さんは飛鳥さんと比べても変わらないほどに大切な人である林檎さんにつきっきりで看病した。恋人となった飛鳥さんを完全に差し置いて。

 周囲に二股だと言われた状態はこうして生まれた。いや、杉崎さん自身、二人の女性を同じように愛そうとして、【大事な順番】を付けようとして付けることができず、そして、完全な破綻を迎えてしまった。だから、二股であると認識しているらしかった。

 

 

 そして、第二部。生徒会との邂逅編。

 

 

 え?と思ったが、そう言えば先輩以外の生徒会の人とは生徒会入りする前に一回会ってたって以前言ってたな―と思いだしていた。のだけど、語りだしたのは、杉崎さんが一年だった時の春に、先輩と出会っていたという話。

 

 

 飛鳥さんは内地へ、林檎さんとは面会謝絶となり、すっかり自暴自棄になっていた杉崎さんが出会ったのは、本に埋もれて視界0となっていた先輩。そこで杉崎さんは中学時代のことを軽く話したらしい。そして、先輩の返答は「主人公精神の足りないあなたは、恋愛シュミレーションゲームをやりなさい!」というようなことを言ったらしい。多分、当時のマイブームかなんかだったんだろう。全年齢対応で大ヒットし、アニメにもなったギャルゲが、確か去年の年度末くらいに発売されてたし。ちなみに、先輩本人はそんなことを言った記憶など遥か彼方までぶっ飛んでいた上に、杉崎さんがエロゲ・ギャルゲ漬になった理由の一端(というか直接的な原因)を担っていたという事実に大いに打ちひしがれていた。さっきと違って、空気はギャグテイストではあるのだが、先輩が顔に浮かべた絶望度合いは半端なかった。

 ただ、杉崎さんは恋愛シュミレーションゲーム(残念な空気を和らげたいから、エロゲとは書かない。)をプレイして、ある種の指針を得たらしい。ハーレム系の主人公たちが、義理の妹だったり、幼馴染だったりと三角関係になっても、最後の最後には幸福をつかみ取って、女の子たちを幸福を与えてることができている姿を見て。多くの人を同時に笑顔に、幸せにできる、そんな主人公たちのようになるのだと。

 

 

「一年間、自分を磨いてきた俺は、大切な人たちを傷つけることしかできなかったあの時の俺じゃない。大事な人にムリに順番付けたりしないで、苦しくても辛くても、大事なものは全部両手で抱えられるような男に向かって進めているって。だから、自信をもって、こう言えたんだ。『皆好きです。超好きです。皆付き合って。絶対幸せにするから』って。」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 長い、過去語りが終わった。

 第二部と題した話は特に、杉崎さん自身が、ところどころ空気を和ませようとしていたからか、笑顔や笑い声も出始めていた。最後には、いつも通り、杉崎さんを微笑ましげに見つめる4人という構図が出来上がっていた。

 

「まあ、真冬の話なんてどうでもいいことですよね。早く帰りましょう、会長さん。」

 

「お疲れ―」

 

「ああ、知弦!勝手に解散させないでよおー!」

 

「今日の雑務は家でできるヤツばっかだな。よし、じゃあ、俺も帰りますー!」

 

「アキー!鍵も帰るつってるし、ここ鍵閉めちまうぞー!早くでてこーい。」

 

 先輩以外の杉崎さんとの邂逅話を聞きたいとせがむ先輩と、興味をあおるだけ煽って放置し、解散する先輩以外の4人。

 ……自分は、本当に、この人たちの仲間といえるのだろうか。生徒会に入ってからの杉崎さんしか知らない自分は。なんだか、今までよりも、5人の姿が遠く見えてしまって――

 

 

「【出会い】は大切だけど、【出会い方】なんて大した問題じゃねーよ。俺は断言できるぜ?お前を含めてここに居るメンバーとなら、何時、どんな出会い方をしたんだとしても、絶対に今と同じように大切に思えるようになったってな。」

 

 

 杉崎さんが、僕の頭に手を乗せていた。

 

 

「…………子供扱いしないでください。椎名より少し背は低いですけど、精神年齢はそんなに低いつもり、ないですから。」

 

「そうか?悪いな。じゃ、もう帰るぞ。」

 

 杉崎さん、口では言いませんけど、感謝してます。いっつも罵倒しちゃったりしてますけど、変わらず、楽しげに僕と話してくれるあなたに。

 頭に載せられた手を振りほどかれても、軽く苦笑してすぐに笑いかけてくれる、あなたに。

 

 

 

 




オリジナルキャラ:プロフィール

名前:岸野 アキ

1年C組所属男子出席番号7番 碧陽学園人気第5位獲得 生徒会常任委員
身長:会長(140cm)以上、真冬未満。
保有属性:男の娘 メガネ
一人称:僕

呼び方(5月第四週現在)

桜野くりむ:先輩 ⇔アキ
紅葉知弦 :紅葉さん ⇔アキ君
杉崎鍵  :杉崎さん ⇔アキ
椎名深夏 :椎名さん ⇔アキ
椎名真冬 :椎名 ⇔岸野君

【本人情報】
本二次創作作品【生徒会の青春】における碧陽学園生徒会議事録作成者。
現在、知弦さんに、とある相談に乗ってもらっている。
鍵と会長以外の三人と話すのはまだ少し苦手だが、教室の中に居るときよりはフレンドリーに喋っている。場所も関係あるらしい。

【作者より備考】
ちなみに、五月四週を書いている途中で土産読んでたり、図鑑を買ってたりしてます。図鑑に書きおろし小説があるとか、かなりビックリしましたが。

杉崎の過去話中にアキが口を挟むタイミングはないし、原作丸まんま書きうつすわけには当然いかないしでいつもより短くなってしまいました。申し訳ないです。
振り返る生徒会で一番心に残った言葉はハーレム云々の方じゃなくて、「【出会い】はとても大切だけど【出会い方】なんてそんなに重要なことじゃない」っていう地の文だったんですよね。なので、この、ともすればかなりくさいセリフを、口に出して言ってもらいました。
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