「頭で書くんじゃないの!心で描くのよ!」
会長さんがいつものように真冬よりもちっちゃい身長を背伸びして大きく見せようとしながら、何かの本の受け売りを偉そうに語ってます。そして真冬の左隣では、カタカタと私物のノートパソコンを軽快に叩いている岸野君。右斜め向かいでは、「うー」と呻り、額を抑えている杉崎先輩。今、お二人は、「執筆」という、真冬みたいに趣味でやるならともかく、【やらされる】には余りに過酷な作業を、会長さんの思いつきのもと行っています。
ちなみに、何故二人も執筆者がいるかと言えば、何処でそんなワードを知ったのか会長さんが「コンペ形式でやるわよ!」と最初にのたまいやがったからです。そして、杉崎先輩は会長の指揮のもと、【とても真面目な青年・副会長 杉崎鍵】を語り部とした会長さんを絶賛するだけの嘘ストーリーを書かされています。岸野君は、「最終的に杉崎さんの書いたものと競い合わせるんだから、全く同じ物書いてもしょうがないじゃないですか。なので、僕は議事録を元にして書いていきます。気に入らなければ不採用にすればいいだけの話ですよ。」といって、あの精神的凌辱を回避してました。
お二人が執筆中に、特にやることのないはずの真冬たちはというと――――
「最終話の【とても優しい生徒会】は今までの真面目な内容を一転、実は懐の深いところと、庶民的なところを見せつけることで、生徒の心をグッと掴むのよ!」
『そうですねー』
会長さんの妄言を否定せずに、適当に肯定しておくだけの簡単なお仕事にいそしんでいるのです。会長さんの暴走を止める気力なんてありません。会長さんの案の対処は完全に杉崎先輩に丸投げです。さらに言うなら、会長さんの案を潰してくれるように岸野君に応援の視線を送っておくのです。
「…………うぷっ」
……見えません。なんか、吐き気を催し始めた杉崎先輩なんて、見えません。
「最後の文章は、【私立碧陽学園生徒会は、今日も華麗に活動している】がいいわね」
『ほんと、そうですねー』
真冬たちは、会長さんの妄言を否定せずに、適当に肯定しておくだけの簡単なお仕事にいそしんでいるのです。……簡単なお仕事であるのは確かですが、まるで同意できないシナリオのプロットを延々聞かされた挙句、ツッコミも入れられない現状は、真冬たちのSAN値をガリガリ削っているのです。そもそも、以前のトランプ騒動は真冬が何となく持ってきたトランプが原因の一端でもあったので、多少の諦めもつくというものですが、今回は完全に、最初から会長さんの思いつきなのです。具体的に言うと、
数日前、会長さんが「新聞部問題に鋭く切り込む手はないものかしら」とか呟いているのを発見する
↓
何処で着想を得たのか、「私たちも出版しましょう!そうよ!紙媒体でうち負かせばいいのよ!」と言い出す
↓
真冬たちが「しまった……」とか、「手を打っておくべきだったわ……」と後悔しだす
↓
「曲りなりにもコンクールで優勝するような部活なんだから、新聞じゃ勝ち目はないわ。だから、私たちは逆に物語で勝負するのよ!日々の活動を描いた半ドキュメンタリーでいきましょう!」
↓
真冬たちは会長さんの妄言プロット会議でSAN値直葬、杉崎先輩は会長賛美ストーリーの執筆でSAN値直葬、岸野君はヤマも谷もオチも無い会議という名の雑談を小説化するために悪戦苦闘←イマココ
真冬たちの過失なんて、まるでありません。むしろ、真冬たちのターンさえありませんでした。あえて言えば、会長さんの「新聞部問題に鋭く切り込む手はないものかしら」という死亡フラグに気づくことができなかったことでしょうか。あそこで気づいていれば、真冬たちにも発言するターンが回ってきていたはずなのです!……だれか、この、どうしようもない感じを打破して欲しいのです。そう思っていた真冬たちに、ついに、ついに!その救いの手が差し伸べられたのです!
「あの、すいません。一応、先輩以外の方も、キャラ描写とかに関して希望とかあれば言って欲しいのですが。」
岸野君の一言で、真冬たちの目に、再び生気が宿ったのです。会長さんの妄言を否定せずに、適当に肯定しておくだけの簡単なお仕事はもうお終いです!これから、真冬たちのターンです!一瞬のアイコンタクトの後、まずはお姉ちゃんのターンから始まることで三人の意見が一致しました。さあ、出撃なのです!
――以上椎名真冬による追加記述――
アキ君へのアドバイスも、ついに5まできた。
まあ、これの読者には1の「椎名姉妹をからかってみろ」しか見せていないんだけどね。
残りの4つ、私がどんなアドバイスをしたのか、悶々として過ごすがいいわ。
まあ、勘のいい読者なら、最初の私のアキ君へのアドバイスから、アキ君の相談内容に見当を付けることができているかもしれないし、その推測からどんなアドバイスをしたのかとか考えているのかもしれないけど。
そう簡単に教えるわけないじゃない。
そもそも、明確なコレという答えをだしてあげられるような相談事でもないし。だからこそ、わたしがしてきたアドバイスも的外れではない自信こそあれど、それでいいのかって不安にもなってるし。生徒会で私以外に相談するわけにはいかないだろうとはいえ、私自身からすれば、決して得意分野ではなかったし。
人間関係とか、私自身、失敗した経験がある出来事だし。
あ、【青春】書きあげた段階ではもう私のことバレちゃってたけど、この幕間だとまだキー君が昔のことを初めて話したくらいの時期なのよね。どうしましょう。少しネタばれしちゃったわ。
碧陽クルセイダーズとして、大人相手に廃校問題に挑んだこととか、バレちゃったかしら。
まあ、そんな些細なことはどうでもいいわね。別に地球が滅んだわけでもないのだし。大したことじゃないわ。ただ、私にできることは、アキ君の願いを応援してあげて、その願いを叶えるための参考程度の指針を示してあげることくらいしかできないのだから。
人間関係みたいな、自分がどうこうするだけじゃなくて、相手がどう思うかが大切なモノは、相談されても、具体的にはそんな程度のことしかしてあげられないのだし。でも、私から見れば対人恐怖症レベルの人見知りに見えるアキ君が踏み出そうとした一歩なんだから、なんとか報われてほしいとは思うわ。それは、本当に。
――以上紅葉知弦による追加記述――
「ねえねえ、そこのキミたち!ちょっと俺らとお茶でもしない?奢るからさ~」
そんなことを言われたのは、親睦会をやった次の土曜日。街で買い物をしている時に、偶然、ゲームショップ帰りの真冬ちゃんとアキに偶然出会って、そのまま、少し三人で買い物でもしようって話になった。……アキは一言も喋ってなかったけど。「一緒に行く?」って聞いたら、無言で頷いてた。ちなみに、アキは私服だと余計に女の子っぽかった。淡い紫色の長袖シャツに少しタイトなジーンズを合わせ、足もとはダークブラウンの靴で、ボーイッシュな女の子として完璧なコーディネートを見せつけていた。
真冬ちゃんがとってもガーリーで目を引く美少女で、アキがボーイッシュな美少女に見えて、さらには私という完璧なる美を体現する美少女がいる。そんな三人が街を歩いていると、さすがに結構目立つらしい。碧陽の生徒ではない、男子高校生三人がナンパしてきたのだ。最初に書いたとんでもなく古臭いセリフと同時に。
でも、真冬ちゃんは杉崎以外の男には今でも本当に臆病だし、人の行き交いが多い場所だからアキはビクビクしたままだろうし、と思って、私が彼らと対峙して断り続けてた。だけど、私たちが碧陽の生徒だとわかると、わたしたちとの共通の話題でも見つけたと思ったのか、笑いながら、とてつもなくムカつくことを話しだしたんだ。
どうやら、そいつらは、杉崎と同じ中学校だったらしい。杉崎は義妹さんが入院した時、看病のために不登校になった。それを、こいつらは、嘲って、自業自得だと笑って、ムカついたから、三年生の一年間、杉崎をサンドバッグみたいにしてたって、面白そうに喋ってた。杉崎は、そんな風に理不尽に殴られても、何も文句を言わなかったらしい。真ん中のノッポが他校にまでそんな杉崎の噂を流して、最終的には近くの色んな中学校から、杉崎を殴りに集まるようなヤツまで出てきたって。それでも、杉崎は、反抗しようと、抵抗しようとしなかった。杉崎の話を聞いたから、理由がわかる。義妹さんと、幼馴染のことを傷つけてしまったと思っていたから。贖罪……のつもりだったんだと思う。
それを、彼は、嘲った。イラつくって。そして、まだ、言葉を続けようとしていた
「――ああ、あんた等もさ!ストレス溜まったらアイツにぶつけるのがいいよ!同じ学校なんだろ?だったら今度――」
私が聞けたのは、ここまで。次の瞬間には、そいつは思いっきり殴られていたから。……アキに。
「今度といわず、今ぶつけましたよ。たまったストレス。イラつくヤツに。」
それを見た真冬ちゃんは即座に眼の前の男に平手打ちを、わたしはトリとして最後に【グー】で、腰のひねりまで加えて殴ってやったわ。
まあ、即座にまわれ右して逃げ出したけどね。でも、きっと、深夏とか、知弦があの場に居たとしても、絶対同じことをしたと思うわ。
…………何を話そうとしてたんだっけ?
知弦が、呆れた目でこっちを見てるよぅ……まあ、確かに杉崎に任せた私の幕間が微妙な感じになってたから、今回も、今度は自分で書きたいって少し無理言ったんだけど。
えと、とにかく、私たちは散々杉崎の文句言ったりしちゃってるけど、でも、なんだか、他人が杉崎の悪口言ってると、ビックリするほどイライラしちゃうんだよ!
注目されるのが苦手で、学内風紀の更生の演説を頼もうとしたら、結構本気な涙目で勘弁してほしいって言ってきちゃうくらいのアキが、人通りもそれなりにある往来で、他人を殴っちゃうくらいに。
杉崎以外の男性を極端に怖がり、女の子に対してだってビクビクしちゃう、少し前まで男性に触ると腐ると信じていたくらいの真冬ちゃんが、勢いだけじゃなく、アキに続いて思いっきり平手打ちを男に放っちゃうくらいに。
杉崎を、生徒会の大切な仲間を、ヘラヘラした態度で馬鹿にされることが、許せなかった。
な、なんかこれじゃ、私たちが杉崎のこと好きみたいになってない!?大丈夫!?違うからね!ただ、わたしたちは仲間を大切にしてるんだよって話だからね!ああ、もう!とにかく、杉崎はいいヤツだ。それだけわかっておくように!
杉崎は、頭の中エロい事とか、モテるためのこととか、人を笑顔にするためのこととかしか頭にない馬鹿だけど。だからこそ、杉崎の頭の中には【幸福】しかないのよ。だからこそ、来年の生徒会にも、杉崎の姿があることを祈っている。杉崎なら絶対。絶対、面白い学校にしてくれると思うから。
え?なんか幕間じゃなくてシメの挨拶みたい?そ、そんなことないよ!だってこの小説の主人公は私だよ!杉崎のこと書いて終わりなんてはずないじゃん!大体、まだ【生徒会の青春】は折り返し地点くらいでしょ?シメにはまだまだ遠いわ!
――以上桜野くりむによる追加記述(校正・編集 紅葉知弦)――
・怪談流布による猜疑心増大プロジェクト 失敗
・定例の昼食動向調査 奇妙な校内放送による妨害により失敗
・生徒会へのスキャンダルによる牽制 効果認められず
・杉崎鍵の思想に準ずる形での学園干渉 失敗
・スタッフ作戦会議 我々の苛立ちを煽る結果に(生徒会室監視が裏目に)
・生徒会の近況 団結力が増大した模様。もはや予断を許さない
○今年の生徒会に関する総合的な所感
一言で言って非常にまずい。
しばらく様子を見守っていたが、今年の生徒会は確かに厄介なようだ。
本人たちに自覚がないのは不幸中の幸いだろうか。いや、自覚がない分余計タチが悪いとも捉えられる。
なんにせよ、本腰を据えて早急に対処法を検討すべきである。
結果だけ見れば、今年度の我々の成果は惨憺たる状況である。【スタッフ】の思想統制がとれていないことも、ここにきて歪みとして現れ始めた。
やはり、あの生徒会は危険である。【企業】の未来のためには、排除は必須
かといって、あまり直接的に動きすぎては【ルール】に反してしまう。もどかしい。このもどかしさが【スタッフ】全員の不協和音につながり、その隙はあの生徒会に活躍を許し、また【スタッフ】の苛立ちの原因となる。
完全なる悪循環。
最早、猶予はない。
そろそろ、あの生徒会を、本気で潰さなくては。
――以上スタッフ活動レポート 其の九十七より抜粋――