「怖くても、一歩を踏み出してみる勇気!それこそが人類を繁栄させたのよ!」
机を挟んで反対側。小学生みたいな我が先輩が、どっかで聞いたことのある言葉を、さも自分が考えましたって顔で胸張って叫んでいた。たしか、女子中学生ハーレムを形成した子供教師の漫画の一巻と十一巻でそんなような台詞があったような……チラリと周りを見渡すと、杉崎さんが呆れた目を向けていた。多分、一月前の会議での発言でも思い出してるのだと思う。「疲れるのはやだよぅ」っていう、現状に満足しきっていたゆるゆるな姿を。
まあ、こんな発言をしだした経緯なんて、僕がこの間先輩に海賊王を目指す少年が主人公のジャンプ漫画を強烈にお勧めしたくらいしか思い浮かばないのだけど。
「生徒会も、既存の生徒会と同じ活動ばかりしていちゃダメだと思うの!」
「そうですねー」「さっすがー」
私、いいこと言った!みたいな顔している先輩とは対象的に、役員の人間はみんな棒読みで適当に同意している。……多分、思考はそこに介在していないけど。椎名は半眼、椎名さんは目も向けず返していることからもわかるだろうけど。ちなみに、現段階では、どんな議題になるのか、先輩以外誰も知らない。ホワイトボードに議題を書かれるまで決定ではないし、先輩の名言と議題に全く関連性を見いだせない日なんて珍しくもないし。
そして、今この瞬間!ついに今日の議題が明らかになる!!
「……また、面倒そうな……」
議題をみた第一声が、椎名さんが思わずといった具合にこぼれたソレだった。なんて身も蓋もない……ちなみに書きだされた議題は【生徒会の新しい活動を模索する】だった。
「でも以外ですね、こういう新しいことにチャレンジ!みたいな議題はむしろ椎名さん好みなんじゃないかと思ってたんですが。」
「いや、まあ、確かに、そうだといえばそうなんだけど、な……」
「?何か理由でも?」
「いや、すげー下らない理由だから、そんな聞き返されても困るんだが……」
具体的な話を聞いていくと、そもそも、一応は紅葉さんや先輩に対して年上であるにもかかわらず、礼儀知らずというわけでもない椎名さんがため口である理由も含めて話してくれた。昨年の生徒会(先輩と紅葉さんが副会長で、椎名さんは会計。そしてもう卒業した人では会長が真面目で有能な姫椿りりんさん、書記が合理主義者の桃月小夜子さんというらしい)は今年度の生徒会とは違って、とにかく熱い議論を戦わせるような真面目でカッチリした生徒会だったらしい。
そんな中で一年間交流を持っていることで、椎名さん自身の性格も相まって敬語なんて面倒なものを使っていられなくなっていったらしい。
対して今の生徒会はとても緩い空気が基本であり、さらにはそれに居心地の良さを感じてしまっているために、どうにもたま~に先輩が思い出したように真面目な議題を持ちだして来るとテンションが下がるらしい。
「以上、杉崎鍵がお送りしました。」
「「は?」」
急に、妙な部分から喋り始めた杉崎さんに椎名さんとそろって首をかしげる。杉崎さんはそんな僕たちの反応を予想していたのか、さらりと、爽やかな笑みを浮かべながら返答した。
「気にするな、いつものように生徒会を……俺のハーレムメンバーを脳内で弄んでいただけだから。」
「気にするわ!アキとちょっと話してるだけの間すらお前のエロは抑えられないのか!」
「男子高校生だからな!」
「杉崎さん、僕まで括って巻き込まないでください。」
「まあ、俺の精力が常人の三倍あることは自他共に認めるところだが……」
「んなこと誇らしげにいうな!」
「その精力による恩恵は、お前だって受けられるんだぜ?」
「【恩恵】と呼ばれるモノを本気で拒絶したいと思う日が来るとはな……」
「素直じゃ無いな……はっきり言えばいいじゃないか、【鍵が欲しいと】。」
「杉崎さん、【鍵が欲しいです】。」
「アキに言ったんじゃねーよ!というか、今【ケン】じゃなくて【カギ】って言ったよな!?何の鍵が欲しいんだよお前!?」
「【皇の鍵】が。」
「新シリーズになって以降全然ゲーム化されないカードゲームアニメのキーアイテム!なんで俺がそんなもの持ってると思ったの!?」
「……杉崎さんなら、あるいは、と。」
「もってねーよ!アストラル世界と俺の間に何の接点もねえよ!」
「そうなんですか?【監察結果その27:人間の男は、複数の女性に対して同時に性的衝動を感じることができる……記憶しておこう】とか言ってたじゃないですか」
「それ、地球外生命体が言うような台詞だよな!?俺、地球の人間だから!」
「なん……だと……!」
「そのレベルで驚かなきゃいけないほどなのかよ!」
「いや~やっぱり杉崎さんで遊ぶの楽しいですね~」
「後輩だよな?お前俺の後輩だよな!?」
?なんども言ってるじゃないですか、そんなこと。
「年上だけど性別間違えるなら人権ないよねっ」
「アニメのタイトル見たく言っても騙されねえから!俺にだって人権くらいあるわ!」
杉崎さんが「今日はそれっぽいこと言ってないのに」とか言って黄昏てるが、僕以外の生徒会の皆さんが、その日一日くらいハーレム云々の発言が出てなくとも、杉崎さんのことをハーレムと叫ぶ変態野郎という認識を持っていることとなんら変わらないのですよ。
そして、僕が杉崎さんいじりに満足した様子でも見て取ったのか、杉崎さんは何かをあきらめた様子で会話を切り上げた。そして、議題発表から軽く顔を伏せて考え込んでいた紅葉さんが話を切り出した。どうやら、先輩の提案に対してある程度の部分を詰めて考えていたらしい。
「まず、勘違いしてると困るから言っておくけど、マニュアルというのは本来、先輩達から受け継がれた珠玉の知識集なの。だから、マニュアル通りに物事をこなすことは決して悪いことではないし、アドリブや冒険を成功させる人だけが優秀な人間というわけではないのよ?それはいい?」
「あ、う、うん。そう……だね。」
今日は珍しく始めから舵取り、というか軌道修正を始めた紅葉さん。先輩の「何が何でも素晴らしいアイデア出さなきゃいけないのよ!」と言わんばかりの勢いを、まずは削ぎにかかった。冷静さを取り戻した今の調子なら、勢いのままに自分の意見をごり押ししようとはしないはず。そう考えると、舵取りというよりは減速の方が正しいか。
「じゃあ、その上で考えましょうか。新しい活動。そうね、こういう議題ならブレインストーミングするのがいいんじゃないかしら」
「ぶ、ぶれ……」
【ぶれ】以降の音を発音しないその姿は、どう見ても、ブレインストーミングを知らない上に、ちゃんと聞きとれていないと簡単に予測できるものだった。まあ、小学生にブレインストーミングなんて言葉も概念も難し過ぎるのだろう。年齢上は高校生のはずだけど。
そして、案の定というか、椎名がブレインストーミングの説明をするのを見てポカンとしている先輩。いや、むしろ冷や汗ダラダラだった。
「あれぇ?会長さん、もしかして知らなかったんじゃあ……」
「そ、そんなことあるはずないじゃない!知ってるわよ!ぶれ……」
「ぶれ?」
「ぶれ……みん……ぐ」
どっかの左手の法則みたいになっていた。というか、素直に「知らないわよそんなの!」とか言えば、「まあ、高校生ぐらいだとみんながみんな知ってるわけじゃないですからね~」という流れになるのだろうけど。この場にいる人間の中で知らないのが先輩だけという状況だけを理解してしまった先輩が、勝手に自分で追い詰められているというのが現実である。追い詰められている先輩をみるここの人たちは、助けようとせず、愛で始めるものだから先輩はなかなかパニックから帰還できないのだ。まあ、泣きだす前に紅葉さんが助け船を出してくれるだろうという予測があるからこそなのだが。そして、何時まで経っても紅葉さんが助け船を出そうとしないというときは、先輩が開き直って(癇癪起こして)強引に話を進めるのだ。
「とにかく!方法はともかく、会議を始めるわよ!【アイデア出す方法を考えるのに時間を浪費】することほど無駄なことはないんだから!」
まあ、学者・研究者の中には、【適切なアイデアを出す方法に関する研究】をする方もいるので必ずしもそうとは言えないが、たしかにこの生徒会内でそんな堅苦しいこと考えるのもらしくないとも思う。
そんなわけで、質より量の精神で自由にアイデアを集め、批評や否定をせずに大量に集めたアイデアを、後に統合していき、アイデアを完成させる……という方法のはずの、ブレインストーミングが始まった。そう、【否定をせず】という原則があるはずのブレインストーミングが。
「じゃあ、まず私から。放送部に協力してもらって、毎日昼休みに【今日の会長】というビデオ映像を……」
「却下です」
第一歩で、挫折した。誰も、先輩の援護には回らなかった。皆、当然だなって顔で頷いている。まあ、人気投票で選ばれたメンバーなのだから【今日の生徒会役員】とかだと、ちゃんと需要はありそうではあるが。そして、味方がいないことを察した先輩は引き下がり、矛先を変えにかかった。
「じゃあ、聞くけど、杉崎はなにかいい案あるっていうの?」
「よくぞ聞いてくれました!」
先輩のフリを受けて杉崎さんが勢いよく立ちあがった!
「俺は!生徒会主催による、【第一回美少女水着コンテスト】の開催を提案します!!」
「却下だよ!私の案よりよっぽど問答無用で却下だよ!」
美少女コンテストだけなら、まあ、よそ様でもやってるところはやっているかもしれないけど、さすがに学校(生徒会だけど)主催で水着審査とかやっちゃうのはまずいと思う。
「というよりも、碧陽学園で美少女コンテストなんてやる意味あるんですか?どうせここの四人で上位独占ですよ?」
「ふっ……アキよ、お前はいいところに気がついたな!そして、会長、今のアキの言葉こそが、安易に却下するのは早計だとする理由です。」
「?どういうこと?」
「先ほどアキが言った通りに、碧陽学園で美少女コンテストを開催するとなれば、選抜された美少女の集まりであるこの生徒会メンバーの中から優勝者が出る可能性は極めて高い。その上、コンテストと称される以上は、優勝者や上位入賞者へ賞品ないしは賞金を与えることになります。」
「ま、まさか!?」
「この、主催である俺達生徒会が決定できる賞品や賞金の獲得者は、この生徒会の誰かになる確率がきわめて高い!裏を返せば……」
「す、好きなものが手に入ります!」
杉崎サンハ演説ヲ唱エタ!
生徒会ノ美少女達ハ陥落シタ!
実は一番わかりやすいいい子である先輩だけは少しの間【私利私欲のために予算を使うのはダメ】と言っていたが、杉崎さんのやたらと熱い説得を前に屈服した。
しかし、この提案には裏がある。賞品や賞金の自由というのはフェイク。なぜなら、その利点は男子には無縁であるからだ。ならば男子は何を求めるのか。……ずばり盗撮だ。
盗撮とはいっても、決して犯罪的なものではない。更衣室に盗撮用の機材を仕込むというような倫理に反することはしない。あくまで審査中の水着姿を撮影するのだ。
会長も美少女コンテストまでは許可しても、さすがに撮影はNGを出すだろう。だからこそ、不許可撮影を敢行するという意味で、盗撮だ。
会場設営の陣頭指揮をとり、撮影のベストスポットを確保。そして撮影者には藤堂リリシアを潜ませる……!
協力を取り付けるのは簡単だ。ただ、【撮影した写真を利用した写真集の作成・販売の許可】を出せばいい。
それだけで全ての問題をクリアできる!あとは、撮影してもらった写真を受け取り、家でじっくり……
これこそまさに……神の不在証明・パーフェクトプラン!」
「地の文と見せかけて実は喋っていたという古典的失敗を犯してなければな!」
「なにいいいぃぃぃ!?」
「というか、僕の一人称の小説なんですから、杉崎さんの心中は地の文じゃなくてカッコ書きで書かれるんですが。もうちょっと作者に優しいボケかましてください。」
今ここで、杉崎さんの野望は完全に潰えた。
「水着……スク水……パレオ……ビキニ……レオタード……ヌーディストビーチ……巫女服……バニー……眼鏡……ライダースーツ……他校の制服……ナース服……キャビンアテンダント……スパッツ……ブルマ……だせよ……二次創作なんだから本編でやってないこういう要素入れていけばいいじゃねーかよ……無理やりにでも出してくれよぉ」
「そういうメタネタは僕の十八番で、杉崎さんはそれにツッコミ入れるのがいつも通りだと思うんですが。……それほどまでに欲しかったんですか、水着写真。」
「じゃあ、キー君は放っておいて会議進めましょうか」
「「はーい」」
紅葉さんの号令に元気に返事をする、杉崎さんを除く生徒会一同。このままだと杉崎さんを放置したまま会議が進みそうだという空気を感じたのか話に参加しようと顔をあげていた。まあ、まだテンションまでは回復しきっていないようだけど。
「じゃあ、真冬ちゃんは何かある?」
一旦、完全に会話が切れてしまったので、先輩が新たに話を振り直した。そして矛先を向けられた椎名はおずおずと提案してくる。
「真冬は、生徒会で【お料理教室】がしたいです」
真面目な意見としてとらえるには、若干微妙と感じるあたりを突いてきた。ツッコミを入れようと思えば入れられる(生徒会の活動のくせに自分たちのスキルアップオンリーか!?みたいな)からボケかもしれないけど、ブレインストーミングというからには、このくらいのズレた意見は採用範囲内だ。というわけでホワイトボードに書き加えよう。
ちなみに、生徒会室の空気としては、どうリアクションすればいいんだろう……っていう感じだった。ボケにもシリアスにも振りきれていない、こういう微妙なラインの発言の扱いが苦手な人ばかりらしい。
この微妙な空気を感じ取ったのか、それとも僕がホワイトボードに採用の意見として書きくわえようとしているのを見たからかは分からないが、椎名が「あわあわ」言って慌てだす。今年度の生徒会役員選挙で椎名に投票した生徒がこの姿を見れば悶えまくるだろうことは想像に難くない。そして、
「や、やっぱり違くて!えと、えと、真冬は……その、あの、【テレビゲーム大会】とかしたいかなって……」
「「……」」
今度は、多分ボケだということは何となく伝わる発言に切り替えてきた。でも、内容を勘案すると、安易に「駄目だよ!」とも言えない微妙なラインには変わりなかった。そして、杉崎さんや先輩への対応の為に習得したアイコンタクトが飛び交うことになった。まさか、椎名の発言の為に使うことになるとは思っていなかったが。
(び、微妙よね、真冬ちゃん……)
(ブレインストーミングという前提がある以上、アカちゃんやキー君くらい突飛じゃないとツッコミが成立しないのよね……)
(いっそ、何も言わずに採用してしまおうという僕の行動も不味かったですかね。)
(ああ、どうやら真冬としてはボケのつもりだったようだしな。真冬は天然ボケなだけに狙ったボケにはムラがあるんだよなぁ)
(おいおい、誰か真冬ちゃんのフォローしてあげようぜ。なんかも涙目だよ、真冬ちゃん。)
(ハーレム王カッコ笑カッコ閉じさん、頑張ってください。)
(アイコンタクトでわざわざ【(笑)】まで入れるなよ!)
(言い出しっぺの法則。)
(ああ、もう!わかったよ、やるよ!やってやるよ!)
今すぐにでも涙を流しかねないほどに水分が盛り上がっている瞳に見つめられたじろぐ杉崎さん。
「えぅ……。……あの、じゃあ、【漫画貸し借り推進週間】とか、どうでしょう?」
「…………」
フォローにむかった杉崎さんが黙り込んだ。もう、椎名はしばらく黙った方がいいと思う。むしろ、このタイミングでギャグとして優秀な意見を出してきても、ウケるとは思えない。完全に、滑るしかない流れだ。もう、素直にそう告げてあげるのも一種の優しさで、それ以上の行動をフォロー役に求めてもいなかった僕だが、どうやら、僕は杉崎さんという人のスペックを見誤っていたらしかった。
~三分後~
「真冬は生まれてきてはいけない子だったのです……。人類の皆さん、平均点を下げてしまってごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
杉崎さんの【フォロー】という名の言葉のナイフは、椎名の人相を変えるレベルで切り裂いていた。
「【こういう何も写さない瞳】って初めて見ました。これが所謂【レイプ目】ってやつなんですね。」
「ば、馬鹿な!?俺の【励ましトーク】の何処に不備が……!?」
「どこに不備があるかというか……むしろ、どこに【はげましトーク】の要素があったのかも怪しいくらいですけど。」
「……確かにな。あたしも、鍵のナンパが成功しない理由がまた一つ理解できたよ……」
「馬鹿なっ!?」
馬鹿なっって、むしろ、こっちのセリフである。まあ、椎名は完全に廃人と化し、励ましてどうにかなるレベルじゃなくなってしまったので、もういっそ放置でいいかという流れになっている。楽しくワイワイしてれば復活するんじゃないかという打算も多少はあるけど。
「んじゃ、次はあたしの番な!」
先ほど、緩い空気に慣れてしまって、どうにも真面目な議題だとテンションが上がらないとかいっていた椎名さんだが、なんかノリノリで挙手しだした。多分、椎名さんは気づいたんだろう。
「あたしは、生徒会主催で【天下一武道会】の開催を提案するぜ!」
議題が真面目に見えたとしても、会議が真面目なものになるとは限らないということを。そして、椎名さんは活き活きとした表情で趣味丸出しの提案をし始めた。
「全校生徒でトーナメント組んで、誰が最強名かを今こそ決定しようぜ!」
「決定してどうするのよ……」
しごく真っ当だと思われる先輩の呟きに、しかし椎名さんは不満を隠そうとせずに喰ってかかった。
「そこ!そういう指摘は禁止!」
「え?」
「最強を決めるのに意味なんて求めちゃダメだ!そんなことしたら、大半の格闘漫画はストーリーが無くなっちまうだろうが!」
「うぐ……」
「それに、強い人間のぶつかりあいって言うのは、それだけで充分エンターテイメントなんだ!血沸き肉躍る戦いを楽しもうぜ!」
「深夏はこの学校をどうしたいのよ!」
「ああ、たのしみだなあ……この学校のことだから、第一回戦から【大亀流】とか、【スネークバイト】とか使えて当たり前のレベルなんだろうな~……決勝ともなれば、もう覇王色の覇気使いがデフォルトなんだろうな~……」
「うちの生徒にそんな異常な生徒はいないし、居て欲しくもないよ!」
先輩は居ないと豪語しているが、実は先輩以上にツッコミ役へ回ることが多い杉崎さんは何か考え込んでいる様子だった。多分、先月の、【性風紀の乱れを少しは自粛して】要請をした朝礼で、生徒の誰かから手裏剣投げられたり、クナイ投げられたり、果ては雷遁の術まで飛んできたことでも思い出しているのだろう。というか、あの忍者ってまさかうちのクラスのクノイチじゃないだろうかと、僕は疑っている。
「ふぅむ……」
ちょっと考察にふけっていると、何やら先輩も考え込んでいたらしい。そして、思いついたように告げる。
「少なくとも、水着コンテストよりは健全よね。」
「そうだろう!」
マジだろうか。これは男女間の意識差によるものなのだろうか。絶対に、殴りあいよりも美少女コンテストの方が、健全だと思ってたのだけど。【殴り愛】なんて美しいものは、現実にはそうそう、存在してないんですよ?というか、実際にやったら、美少女コンテストよりも結果がわかりきっている気がする。……絶対椎名さんが優勝する。対抗馬もクソもない。椎名でも人質にとらなければ。
「じゃあ、それはそれとして保留にしておきましょう。とりあえずは、沢山意見出すっていいう趣旨だもんね。」
改めて思ったのだけど、この生徒会でブレインストーミングはやめといた方が良かったのではないだろうか。こんな、ダメダメな意見も意見として採用されるか、ブレインストーミングという前提さえ吹き飛ばす勢いのボケが出るかしかないのだから。とりあえず順番に意見出しをしている状態だし、紅葉さんには会議の結論をどうにかして欲しいという個人的な思惑もあるので、次は僕が発現することにする。
椎名さんの意見が保留とはいえ採用されたことで、椎名のテンションはさらに下がっているが、処置の施しようはない。自虐極まり過ぎである。【序盤だけはギリギリで出番があるものの、中盤になるや否や二軍落ちを余儀なくされ、回復スキルもフィールドスキルも無いからメニューでも使えない役立たず】とか、【真冬しか使わないでプレイとかファミ通のやりこみ特集にあげられるくらいの典型的最弱キャラ】だとか。
「じゃあ、僕は【杉崎鍵の殴るなら俺を殴れ】のイベント化を提案します」
「「「採用。」」」
「ちょっと待てーーーー!!それアレだよな!あのラジオのコーナーだった【校内で誰かを殴りたくなるくらいイラっとしたら、とりあえず俺を標的にして発散しよう】ってヤツだよな!?」
「ええ、わかってるなら内容の説明は不要ですね。まあ、具体的には……そうですね、僕たちが誰かを殴りたいほどイラついている人を見つけて、杉崎さんはその人達の所を順に渡り歩いて、さらには色々な人に殴り飛ばされる姿を僕たちが録画して、後日お昼の放送で流します。」
「「「採用。」」」
「だから、ちょっと待てって言ってるだろがーーーー!!それに会長たちも黙って採用しないでくださいよ!」
「だって、水着コンテストよりも健全じゃない」
「イジメじゃないですか!!美少女コンテストよりもよっぽど不健全ですよ!!」
「杉崎さん、アリを踏む子供を見て、いじめちゃダメだって注意しますか?」
「そういうレベル!?俺はムシケラ扱いされてんのか!?」
「いえいえ、他意はありませんよ?まあ、自分がムシケラだという自覚があるなら、そういうことなんじゃないんですか?」
「そんな自覚ねーよ!なんか、お前回を増すごとに辛辣さと悪辣さが増していくな!?」
「【杉崎鍵の殴るなら俺を殴れ】っと。」
「知弦さん、さらりと採用アイデアとしてホワイトボードに書き込むのはやめてくれませんか!?」
ちなみに、同学年である僕の意見までも採用されてしまったからか、椎名がさらに落ち込み始めた。【真冬の戦闘力なんてマイナス37くらい】とか。ちなみに、マイナスとは、勝手に戦闘不能状態からの敵に介抱されるのコンボを決め始める戦闘力のことらしい。果ては【真冬なんて、物語が一段落ついたと同時に名前はおろかエキストラ的な出演さえも無くなってしまう主人公の仲間みたいになっちゃえばいいんですよ!】とか言っていた。あまりの壮絶な覚悟を伴ったセリフに、杉崎さんは完全に圧倒されていた。
「じゃあ、そろそろ私の意見を言わせてもらおうかしら。」
完全に打つ手なしと判断された椎名から、発言者である紅葉さんに全員の視線が集まった。まさに、気を取り直して真打登場!という形だ。
そして、一瞬の沈黙の後、紅葉さんは不敵な微笑みを浮かべて、告げた。
「私は、今の生徒会の有様こそが冒険だと思っているわ。だから、このままがいい。」
「え?」
先輩がかなり驚いた様子で声を上げた。他のメンバーも視線を紅葉さんに向ける。椎名も含めて。
「新しい活動を模索するのは立派で正しいことだと思うけど、ね。私個人の感情としては、その【新しい活動】の為に生徒会がとても忙しくなって、今の状態が壊れてしまうのだとしたら、私の個人的なワガママとして、このままがいいわ。この生徒会は……今のままで充分魅力的だと思うから。」
そう語る紅葉さんの顔は、それまで僕が見てきた中で、最も年相応な、笑顔だった。高校生らしい、自分の大切なものを誇る顔。紅葉さんにとって、生徒会は部活やサークルのような気の置けない仲間と集まってワイワイできる場所だという。だからこそ、身を粉にしてまで【不特定多数の生徒】を思いやった無償奉仕をしたいとは思っていないと。
「生徒会が生徒会としてこなすべき業務は当然こなすべきだと思うし、その上で新しい何かを作るべきなのかもしれないわ。それこそ、アカちゃんが言ったようにね。だけど、今のダラダラしたペースを崩して無理をしてまで、【今】するべきことだとは、私は思わないわ。」
僕は今年の生徒会や碧陽学園しか知らないが、去年と今年とでは大分違うらしい。去年の生徒会長は有能で真面目だったとか、熱い議論を交わすことが多かったというようなことはさっき椎名さんに聞いたばっかりだし。それにつられてか、碧陽学園全体の空気も今の様なユルユルでポカポカした感じではなく【THE☆学校】という様相だったらしい。
「上に立つ私たち生徒会からのんびりしていて、それが生徒にも伝播して……【荒れる】んじゃなくて【ゆるく】なっている、この状況が好きだから。だから……」
「……うん、今は、無理に新しいことを始める時期じゃないってことね。……知弦……ゴメン、私、ちょっと焦ってたかもしれない。」
先輩の言葉を切っ掛けに、僕たちはみんな軽く息を吐いた。表情は、苦笑だったり、微笑みだったり、肩をすくめたりと色々だったけど。少なくとも、悪感情のかけらもなく。
「なんだよぉー、じゃあ今日の会議やあたしの提案全部無駄かよー」
「せっかく、【杉崎鍵の殴るなら俺を殴れ】が現実のものになるかと思ってたんですけどね~……」
「文句言わないでください……真冬なんて、存在自体が無駄なのですから……」
こっちに帰還してきてるから、ネガティブタイムは終了かと思いきや、思いっきり継続中だった。
「椎名さん、妹さんのことは、お任せします。」
「アキっ!?おまっ、逃げる気か!」
椎名のネガティブモードを振り切って杉崎先輩達の方を向くと、こっちはこっちで危険な香りがしていた。
何が起きていたかって?杉崎さんが紅葉さんを【可愛い女の子】扱いしてからかっていた。
そして、照れによる頬の赤みが、怒りによる頬の紅潮へと変質したことに一瞬遅れて気がついた杉崎さんだが、時すでに遅し。
「ふっ……ふふふふふふ……いいわ。下僕が女王様を侮辱するとどんな目に遭うのか、今から、生徒たちへの見せしめとして、キー君の体に刻んであげるわ。」
「え?知弦……さん?」
こういうとき、そう、生徒会の仲間である杉崎さんの危機に、僕たちがどんな行動をとるか。そんなことはもう決まっている。
「お手伝いいたします。紅葉さん。」
「あら、そう?」
「アキーーーーーーーーー!?」
棚に仕舞ってある、○○○○○や○○や○○○○や○○○を紅葉さんに手渡し、自分自身も○○○○○と○○を手に杉崎さんへ向かう。そして、ブツの手渡しのときにアイコンタクトを飛ばしていた椎名と先輩と椎名さんは既に杉崎さんを取り押さえている。
「キー君?【いつか余裕ができたら新しい活動をしよう】って言ってたわよね?」
「い、言いましたけど……」
先ほど、年相応の微笑みを浮かべていた女性と同一人物とは思えないほどに怪しげな笑みを浮かべながら、杉崎さんに問う紅葉さん。杉崎さんはもう汗ダラダラである。
「ふふふ……今がその時よ、キー君。生徒会の新活動、とくとその身に刻むがいいわ!」
「大丈夫ですよ、杉崎さん。安心して下さい。見たところ、これ全部いわゆる【プレイ用】なので、死にゃあしないです。」
「実はお前が一番怖いヤツだろ!てか、何!?そのウィンウィンいってる物騒な機械!!……ってちょ、やめ、ば、まさか、うそ、そんな、ムリっ……ッ――――――!!」
●この日行われた碧陽学園生徒会の新活動
杉崎さんを各種様々な手段によって辱め、その過程をつぶさに記録する
結果として、書記及び常任委員の二名を除く執行者三名が気分の悪化を申し出たため途中で中止。
中止に至るまでの行為だけでも、杉崎さんは紅葉さんや僕に対するトラウマになるのではないかという危惧を三名は抱いた模様であるが、結果として杉崎さんはこの日の新活動について具体的な内容を思い出すことができない状態となり、トラウマという具体的な結果は現れていない。
その手際の良さに、僕は紅葉さんに対する尊敬をさらに深いものにしたのだった。
オリジナルキャラ:プロフィール
名前:岸野 アキ
1年C組所属男子出席番号7番 碧陽学園人気第5位獲得 生徒会常任委員
身長:会長(140cm)以上、真冬未満。
保有属性:男の娘 メガネ
一人称:僕
呼び方(6月第一週現在)
桜野くりむ:先輩 ⇔アキ
紅葉知弦 :紅葉さん ⇔アキ君
杉崎鍵 :杉崎さん ⇔アキ
椎名深夏 :椎名さん ⇔アキ
椎名真冬 :椎名 ⇔岸野君
【本人情報】
本二次創作作品【生徒会の青春】における碧陽学園生徒会議事録作成者。
現在、知弦さんに、とある相談に乗ってもらっている。
鍵と会長以外の三人と話すのはまだ少し苦手だが、教室の中に居るときよりはフレンドリーに喋っている。場所も関係あるらしい。
鍵の扱いだけ辛辣。
【作者より】
勢いとノリでドンドン書いていった一巻部分が終わったため、これからはタグにあるように更新頻度は不定期になると思います。