「や、久しぶり」
「あ、ああ……」
意外な再会に、思わず変な返事をしてしまった。都留岐涼花、幼稚園のころから知り合いの、いわゆる幼馴染というやつだ。俺がトレーナー養成学校に入ってから特に連絡を取ったりはしていなかったが、まさか半分俺の上司みたいな立ち位置になって再会するとは思っていなかった。
「取り敢えず入る?」
「そうだね」
二人で、駅のすぐ近くの繁華街にある居酒屋に入る。今日はあくまでも、水入らずでお互いに話すだけだ。だが、やっぱり少しきんちょうしてしまう。相手が、U.A.F.の運営総責任者というのもあるし、なにより彼女と話すのは数年ぶりだ。話題があるか怪しい。
取り敢えず、失礼のないようにはしないと行けない。これを心に深く刻み込みながら、暖簾をくぐった。
「じゃ、二人の再会を記念して、カンパーイ」
「カンパーイ」
お互いにジョッキを合わせて、一気に飲む。ちょっと前まではビールなんか苦手で飲めたものではなかったが、こうして飲めるようになったのも大人になった証拠というものだろうか。
「……くぅ〜やっぱり仕事終わりのビールは最高だよ〜!」
涼花は口元に白い髭を作りながらそう言う。
「そういや広告代理店だっけ?」
もう話題がないので、仕事の話題を振ることにした。食事の場で仕事の話しをするのもどうかと思われるかもしれないが、もう話題が見つからない俺の心中を察してほしい。
「そうそう、結構大変だよ〜……そういえばキミはトレーナーになったんだね、それも中央の」
「まあね」
「スゴイじゃん、中央って結構倍率高いよね!?」
涼花が目を輝かせてこちらを見ながら言う。
「まあ、俺の場合はたまたま運が良かっただけだよ」
「そんな事言わずに〜!……今の担当の娘のこととか知りたいな」
「……この間G1取ったよ」
「え!?もしかしてあの娘の担当なの?スゴイ!……キミはやっぱり凄いな。思えば小学生のときも、中学生のときも、高校生のときも、二人で成績トップを争ってたよね……まあ私は一回も勝てたことないけど」
ふと、昔の記憶が思い出される。確かに毎回テストのときは「勝負しよう!」っていつも言われたなあ。……実を言うと俺は涼花に負けたくなかった一心で勉強していただけなんだよな。本人には言わないけど。
「ああ、そういえばそうだったな。……でもキミのほうが出世してるじゃないか。現にU.A.F.の運営総責任者なんてそうそう就けない役職だよ。……俺にはそういうリーダーみたいなことはできないし、俺が思うに、それが【涼花】の凄いところなんじゃないかな」
「……!」
急に涼花は黙って、俺の方を驚いた目で見る。
「どうしたの?」
体調が悪くなったのかと、心配になって涼花に尋ねる。
「い……いや、その今でも『涼花』って呼んでくれるのがちょっとね……」
俺はハッと気がつく。そういえば高校の時の呼び方だった。失礼だったと思い、俺は頭を下げる。
「ご、ごめん。気づかなくて」
「いや、別に嫌とは言ってないし……その……むしろ私の名前をそうやって呼んでくれるのはキミくらいだし……」
赤面した顔をうつむかせながら、彼女はブツブツなにか言っている。
「そ、そうなのか?……じゃあ涼花って呼ぶけど……」
「……うん」
会話が途切れる。居酒屋だから、他の席の笑い声とか、店員の「はい、いらっしゃっせー」という、大きい声で接客しているのが聞こえる。
その時、突然ピリリリリリ、と電子音が鳴り出した。
俺のスマホかと思ってポケットから取り出すが、鳴っていない。
「はい、もしもし」
涼花が電話に出る。どうやら彼女のが鳴っていたようだ。
「─────あの件は確か田中さんに任せたはずだけど……確認してもらえるかしら?─────」
「─────……なるほど、じゃあ明日、それの修正案について一緒に話しましょう─────」
ところどころ電話の内容が耳に入る。盗み聞きは良くないが、それでも少し内容が気になってしまう。
5分ほど彼女は電話していた。
「……ふう。ごめんなさい、どうやら運営の見積もりでトラブルが出たみたいで」
「そうなんだ……なんだが電話だとだいぶ印象が変わるね」
なんというか、ちょっとだけ電話相手にはクールな感じがあった。俺にはそんな雰囲気は一度もなかったはずだ。社会人になって性格が変化したのかな?
「そう?むしろ私はいつもああいう感じだよ?」
「そんな風には見えないけど」
「まあ、キミにはそういう態度はしてないよ。だって唯一愚痴を聞いてもらえる相手だもん。……それに、私の……その……そういうところで……嫌われたくないし……」
またもやモゴモゴ言っているが、今回は聞き取ることができた。
「いやいや、俺は別に涼花のこと、嫌いになんかなったりしないよ」
「ひぇ!?……そ、それはどうも……」
なんか思っていた反応とは少し違っていたが、まあいっか。
「ふえ〜…………」
「大丈夫?」
「らいじょうふ、らいじょうふ(大丈夫、大丈夫)」
居酒屋を出て、俺は涼花を介抱している。なぜこうなったのか、経緯を話すと、あの後なぜか急に涼花の飲むペースがが上がって、俺はてっきりいつもそれくらい飲むものかと思って放置したら凄い泥酔していた。
「その返事は多分大丈夫じゃなさそうだな……俺が家まで送るよ。家は何処なの?」
「ふえ?送ってくれるの?嬉しい〜!」
涼花は思いっきり俺に抱きついてくる。
「ちょ、苦しい苦しい。あと絵的にまずい!離して!」
抱きつつかれてわかったけど、彼女もしっかり成長しているんだなと感じました。(何が、とは言いません。ただ、肩から下にあるものが俺に強く押し付けられてわかっただけです)
……そういえば、今日は涼花について色々しれたな。普段はちょっとだけ周りに冷たい。でも別に嫌っているわけじゃなさそうだし、仕事も真摯に取り組んでいる。
またこうやって再会できたのだし、暫くは彼女との時間を大事にしてみようかな。
俺はそう思いながら、涼花と腕を組みながら、駅のタクシーのロータリーへ向かった。