仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ THE LOST CHILDREN 作:黒井福
因みにアズールは現在投稿されているストーリー後の時間軸ですが、デイナの方は現在連載しているコガラシの時間軸となります。
世は西暦2042年。その日、国立生命工学研究所に所属し日々を研究に費やしている1人の科学者、門守 仁は自宅の机で息子の雄司を膝に乗せた状態で自室のパソコンと向かい合っていた。
「ふむ……」
彼が見つめるパソコンの画面には、彼がこれまでに関わって来た仮面ライダーと傘木社に関係する事件の内容が表示されている。
ここ最近、彼はこうして傘木社の、延いては雄成の影を追う様に調査を個人的に進めていた。
(雄成さんは……何で……)
世界中の人間を、半数以上を犠牲にしようとも新人類として覚醒させようとした雄成。多くの者は彼を狂気に囚われた哀れな研究者と認識していたが、仁は違った。雄成は道を踏み外したが、それでも仁は未だに彼に対して同じ科学者としてある種の尊敬に近い感情を抱いていた。その彼が、ただ狂気に囚われただけであんな事をしようとしたとはどうしても思えなかったのである。
何故雄成はあんな事をしようとしたのか? 彼は亡くした妻を超万能細胞で蘇らせ、その妻が生きていける世界を作る為に全人類を強制的に新人類に覚醒させようとしたが、果たしてそれが全てなのか? 仁にはとてもそうは思えなかった。表には出ていないだけで、実際には何か別の理由の様な物があるのではないかと彼は暇な時間を見つけてはこうしてこれまでに起きた傘木社絡みの事件なども踏まえて雄成の影を追っているのだ。
仁が難しい顔をして画面と睨めっこをしていると、彼の膝の上に座って同じようにパソコンの画面を見ていた息子の雄司が画面に映った雄成の顔写真を指差した。
「ね~パパ~。あのおじさん誰~?」
「ん? この人? そうだな……パパが憧れてる人の1人……かな?」
世間一般には、世界を混沌の陥れ人類の半数以上をウィルスで虐殺しようとした大悪党でしかない。そんな相手に憧れを抱くのは、子供の教育に宜しくないかもしれないと思わなくも無かったが、彼は自分の息子の聡明さを信じた。親馬鹿かもしれないが、それでも彼は自身が尊敬する科学者2人……父である『司』と敵対したが何かが違えば分かり合えた『雄』成、2人から名前を取って名付けた息子が、間違った道に進む事はないと。
仁の説明に雄司は「ふ~ん」と気の無い返事を返した。一見すると興味なさそうにしているように見えるが、父親である仁には分かる。これは決して興味がない訳ではなく、入ってきた情報を自分の中で消化する為他の事に対する反応が疎かになっているだけなのだ。自分がそうだからよく分かる。流石我が子だと変に感心してしまう。
一心不乱にパソコンの画面を見つめる雄司に仁は苦笑しながら我が子の頭を撫でてやると、部屋の扉がノックされた。椅子を回転させてドアを見ると、雄司が膝から飛び降りてドアを開けた。雄司がドアを開けると、そこには仁の最愛の妻であり雄司の母親である亜矢が立っていた。
亜矢はドアを開けて顔を出した雄司の姿に、小さな笑みと共に溜め息を吐いた。
「あぁ、やっぱりここに居た。雄司、パパのお仕事の邪魔をしちゃ駄目でしょう?」
「ん~?」
叱って来る母親の言葉に、しかし叱られている本人は分かっていないのか首を傾げている。無邪気な我が子の姿に亜矢は溜め息を吐き、仁はそっと近づくと雄司の頭に手を置いた。
「んぅ?」
「大丈夫だよ。別に仕事だった訳じゃないし」
「そう言う問題じゃありません。仁くんは少し雄司を甘やかし過ぎですよ?」
「そんなつもりは……」
仁としては、子供には伸び伸びと育って欲しいと言う思いがある。彼の父である司がそうであったし、何より雄司が仁の傍に居るのは様々な事を学ぶ為である。幼い子供には難しすぎるだろう内容でも、雄司はその知識を少しでも取り込もうと貪欲に知ろうとした。そんな将来が楽しみになる我が子から、学ぶ機会知る機会を奪う気にはなれなかったのである。
尤もそんな仁の姿勢が、亜矢には彼が子供を甘やかしているように映ってしまうのだろうが。
「まさか仁君がここまで子煩悩になるとはね~。正直意外だったわ」
仁が苦笑していると、亜矢の雰囲気ががらりと変わった。まるで人が変わった様に先程までの穏やかな雰囲気から一変、はきはきとして快活な雰囲気を纏い始めた。それは事実人が変わったからであり、仁にはそれが手に取るように分かった。
「そう言う
彼女の名は真矢。紆余曲折を経て亜矢の中に宿ったもう1人の人格であり、今は亡き彼女の双子の姉妹である。因みに子供達は彼女らの事をそれぞれ”亜矢ママ””真矢ママ”と呼んでいた。
「そりゃ大事な我が子だからね。しっかり大事に育てないと。ね~、亜矢?――そうですよ、仁くん。仁くんの考えも分かりますけど、もう少し子供達には厳しくしてください。この間なんて愛衣が……」
「そう言えば愛衣はどうしたの?」
「え?…………あぁ――――ッ!?」
見渡して愛衣の姿が無い事に気付いた亜矢は、大慌てで家の中を駆けずり回りそして雄司の双子の妹を見つけた。
「コラ、愛衣ッ! 洗剤に手を出しちゃいけないってあれ程言ったでしょッ!」
雄司もそうだが、愛衣も気になった事に対しては貪欲に突き進む強い好奇心がある。赤ん坊の頃は分からなかったが、雄司も愛衣も揃って仁の強い好奇心を受け継いでしまったらしく、特に愛衣は己の好奇心を満たす為なら多少危ない事へも平気で手を出す。これが亜矢と真矢にとっては大きな悩みの種であり、日々頭を痛めていた。
廊下を通って愛衣を叱る亜矢と真矢の声が仁の部屋まで届く。その声に仁は困った様に雄司を見て、見上げてくる我が子の頭を軽く撫でると愛衣と亜矢・真矢、それぞれのフォローをすべく雄司と共にそちらへと足を運ぶのだった。
***
それから暫くして、亜矢は雄司・愛衣と共に買い物に出かけていた。仁はもう暫く調べ物をしたいと言うので家でお留守番だ。
我が子2人の手を引きながら歩く亜矢。彼女に手を引かれる双子の内、愛衣の方は先程あれだけ叱られたにも拘らず全く堪えた様子を見せなかった。凝りていないのか、神経が図太いのか。時々分からなくなる我が子に、亜矢は歩きながら溜め息を吐いた。
「全く……愛衣にも困ったわ」
【ま、手の掛る子ほど可愛いって言うじゃない?】
「それはそうだけど……とは言え、このままだとどんな危ない目に遭う事か」
もう少し大きくなって、何が危険で何をやってはいけないかが分かるようになれば少しは大人しくなるだろうと言うのは仁の言葉だった。確かに今の愛衣は、幼い子供特有の無知故の向こう見ずさがあるように思う。だが亜矢には、この子が成長して大きくなっても尚自分達の頭を悩ませてくれる未来しか見えなかった。
そんな母の悩みなど知った事では無いと言わんばかりに、今も愛衣は彼女の手を振り払って何かに近付こうとしてしまう。このままだとまた勝手に動いて危ない事に手を出してしまいそうだが、今度は雄司が居るからそこまで大事にはならないだろう。何だかんだで雄司はそう言う危機感知能力及び危機管理能力が高い。それに愛衣も雄司の言う事は大人しく聞いてくれるので、2人が一緒にいる間は亜矢も肩から力を抜く事が出来た。
そんな雄司が突然立ち止まった。まるで足が地面にくっついたようにその場でピタッと止まって、そこから先へ行くことを拒む様に亜矢の手を引っ張るのだ。何事かと亜矢が愛衣の手を引きながら雄司の方を見れば、珍しく険しい顔で必死に亜矢の手を引いていた。
「亜矢ママ……ダメ」
「雄司? 何がダメなの?」
「ダメ……ダメ……!?」
赤ん坊の頃からあった、雄司の優れた危機感知能力。それはこの年齢になっても健在であり、そんな彼がここまで先へ行くことを拒むと言う事はここから先に何かが待ち受けていると言う事を意味する。
途端に亜矢も周囲を警戒しつつ、元来た道を戻ろうと愛衣の手を引く。だがそれよりも早くに、彼女達の前にサソリの様な姿をした異形が飛び出してきた。
『おっと、待ってもらおうかッ!』
「ッ!? あなたは……!」
そいつが飛び出してきた瞬間、亜矢は雄司と愛衣の2人を自分の後ろに隠した。懐のデイナドライバーに手を伸ばしながら、真矢がつぶさに目の前の異形を観察する。
(サソリを思わせる姿……ファッジ? でも言葉を発した……腕にブレスはついてない。改造された人?)
嘗て傘木社がまだ健在だった頃、仁と共に立ち向かった亜矢と真矢は何体ものファッジと戦ってきた。その中で言葉を発する事が出来るのは、専用装備のベクターブレスを用いるか肉体に直接手を加えた特別な存在だけであった。
そう、嘗て会社に所属していた志村 希美の様にである。
だがファッジにしては違和感のあるその姿。そこで彼女が思い浮かべたのは、最近何かと騒ぎを起こしている謎の怪人に関する事であった。確か仁は、そいつらの事をクセジと呼んでいるらしいと言っていた。
詳細は分からない。だが今この場で確実に言える事は、コイツは絶対に友好的な相手ではないと言う事だ。こうして対峙していると肌にヒシヒシと威圧感を感じるし、何より雄司がここまで警戒すると言う事はそれだけ危険な相手と言う事になる。亜矢は何時でも変身できるようにと身構えた。
「あなたは何です? 一体何の用が?」
警戒しながら亜矢が問い掛けると、目の前に立つサソリ型の異形はすんなり口を割った。
『俺様の名前はスコーピオンメタロー! 栄えある魔人教団の一員だッ!』
「スコーピオン、メタロー? 魔人教団?」
どちらも聞いた事のない単語だ。またもや傘木社の残党が何か組織を立ち上げたのかと思ったが、どうもそう言うのとは根本的に何かが異なるような気がした。
亜矢が警戒しながらあれこれ考えていると、彼女と交代で真矢が表に出た。
「……で? その魔人教団とやらが、私達に何の用なの? 生憎と私達はごく普通の一般人よ?」
新人類に覚醒して、更には仮面ライダーをやっておきながら一般人は無理のある言葉であったが、見知らぬ存在を前に全てを明かすほど彼女も愚かではない。まずは様子見程度に留めようと、時間稼ぐする意味も込めて真矢はスコーピオンメタローとの対話を試みた。
するとスコーピオンメタローは、彼女の言葉を鼻で笑い一蹴した。
『お前達が一般人? ハッ! 冗談も休み休み言ってもらおうか。この世界の仮面ライダー』
「! この……世界?」
この世界と言う単語を聞いた真矢が思わず首を傾げると、スコーピオンメタローは親切にもその言葉の意味を教えてくれた。
尤もそれは純粋な親切心からではなく、これから死に行く相手に対する冥途の土産的な意味合いが強かった。
『そうとも! お前達が知らないだけで、こことは異なる異世界が無数に存在している! 我ら魔人教団は、それら数多の世界を征服する為に存在するのだッ!』
「つまり……あなた達は今度はこの世界を支配しようと、そう言う事ですね?」
実を言うと亜矢達は子供達が生まれる以前に別の世界に渡った事があるのだが、今は敢えてその事を口にする事はしない。態々そんな事を教えてやる義理は無いからだ。
再び亜矢が表に出て確認する様に問い掛ける。もう隠しておく必要も無いので、ドライバーを取り出し腰に装着して何時でも変身できるようにした。
亜矢の考えは半分当たっていた。確かに魔人教団は、ゆくゆくはこの世界も征服するつもりでいる。だが今回奴が彼女らの前に姿を現したのは、別の理由があった。
『確かに、この世界もいずれは俺らが征服する。だがその前に、俺はそのお前の後ろに居る双子に用があって来た』
スコーピオンメタローの発言に亜矢はヒュッと息を呑み、狙われている2人の子供は亜矢の後ろに隠れて彼女の服の裾をギュッと掴んだ。
『そいつらは他の世界を探してもそう見つからない、強靭な生命力を持った子供だ。人間を超えた人間、その子供を使えば、更に強い怪人が生み出せる! そいつらはその為の生贄とする為に連れていくッ!』
「そんな事、させる訳がないでしょうッ!」
〈CAT〉
これ以上は話を聞く必要は無い。要はコイツは愛する我が子達を狙う敵だ。亜矢も真矢もそれだけが分かれば十分と、立ち上がるとキャットベクターカートリッジを起動させやって来た自律型ガジェット・ユナイトキャットを変形させてカートリッジを装填してドライバーに装着した。
〈CAT Unite〉
「変身ッ!」
〈Open the door〉
亜矢は子供達を守るべく、白を基調としたネコ科動物の遺伝子を持つ戦士、仮面ライダールーナ・ユナイトに変身した。彼女が変身すると雄司が愛衣の手を引き、邪魔にならない所まで下がる。
一方ルーナと対峙するスコーピオンメタローは、彼女が変身しても尚余裕そうな態度を崩さなかった。
『フンッ! 子供2人を攫うだけのつまらない仕事だと思っていたが、こうなれば話は別だ。少しは楽しませてもらうッ!』
「甘く見ないでくださいッ!」
ルーナは太腿のホルスターから専用装備の銃剣付き二丁拳銃・リプレッサーショットⅡを抜き素早い銃撃をお見舞いした。これまでに幾多のファッジの表皮や甲殻を撃ち抜き、仕留めてきた銃弾がスコーピオンメタローの甲殻に突き刺さる。
しかし…………
『ん~? こんな物か?』
「なっ!?」
幾つもの銃弾がメタローの甲殻の上で弾け火花を散らすが、火花と煙が晴れた先には傷一つない姿のメタローが佇んでいた。その光景にルーナは思わず言葉を失う。
だが次の行動に移るのは早かった。これまでの戦いの中でも、普通の銃撃が通用しない敵は存在した。その時の経験から、彼女は素早く二挺の銃を連結させてライフルモードにして引き金を引いた。狙うのはこれ見よがしに硬さが予想される甲殻部分ではなく、比較的防御の弱そうな関節部分。そこを狙って引き金を引くと、放たれた銃弾が見事に関節部分に突き刺さりダメージを与えた。
『ッ!? チッ、流石にこの世界でも長く戦っている仮面ライダーか。伊達じゃない』
このまま押し切ろうとルーナはその場に片膝をついて銃撃を続けたが、スコーピオンメタローも馬鹿ではない。このまま遠くからの銃撃を許してはならないと、腰の後ろにあった尻尾を持ち上げる。サソリらしくその先端には鋭い針が付いており、針の先からは黄色い毒液が滴り落ちている。滴った毒液が地面に落ちると、地面が溶けて煙を上げる。
スコーピオンメタローはその尻尾を頭上に持ち上げた。その光景にルーナは過去に見たある光景を思い出し、盛大に嫌な予感を感じた。
この場を離れようと振り返ったその時、彼女の目に母親を心配してか隠れていたところから身を乗り出している雄司と愛衣の姿を見た。それを見た瞬間彼女は2人の我が子に覆い被さった。
「ッ! 2人共、伏せてッ!?」
ルーナが我が子を守る為に覆い被さると同時に、スコーピオンメタローは持ち上げた尾の先端を振り回した。同時に撒き散らされた毒液が雫となってルーナに襲い掛かり、背中を毒液で焼かれ悲鳴を上げる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「「ママッ!?」」
自分達を守って悲鳴を上げる母親に雄司と愛衣も泣きそうな顔になる。子供達を心配させまいと激痛に零れそうになる悲鳴を必死に押し殺し安心させようとするルーナだったが、そんな彼女を何時の間にか背後に近付いていたスコーピオンメタローが蹴り飛ばした。
「あぐっ!?」
『さて、この2人だな。ではコイツ等は貰っていく』
スコーピオンメタローは鋏が無い方の腕で愛衣を掴み、雄司の事は尻尾を巻き付けて持ち上げその場を離れようとする。母親が倒され、怪物が自分達を何処かへ連れていこうとしている状況に雄司は暴れて愛衣は鳴き声を上げた。
「やだっ!? やだぁぁぁっ!? ママッ!? ママぁぁぁっ!?」
「くっ!? 待ってッ!?」
毒液に背中を焼かれる激痛のあまり変身を解除された亜矢は、痛む体に鞭打って立ち上がり子供達を取り返そうとスコーピオンメタローに立ち向かう。メタローはそんな彼女を無視して怪しい光の門を開くと、その中へと入っていった。
このまま子供達を連れていかれてなるものかと、亜矢は躊躇せずその後に続いて光の門の中へと入っていく。
その直後、異変を感じて家を飛び出した仁が現場に到着した。彼が来た時、子供達はメタローと共に光の門の中へと消えて行き、亜矢もまたそれを追って門の中へと入ってしまった。
「くッ!?」
亜矢と共に子供達を取り返そうと駆ける仁だったが、一歩遅く彼が駆け出したと同時に光の門は閉じメタローとそれに連れられた子供達、そしてメタローを追った亜矢の姿が消えてしまった。
「亜矢さん、真矢さん……雄司、愛衣……!?」
まるで最初からいなかったかのように愛する家族が消えてしまった。その事実を前に仁は途方に暮れてしまうのだった。