仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ THE LOST CHILDREN   作:黒井福

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第4話:遅れてきた男

 辛くもフォッシルメタローを退けた亜矢と翔の2人は、この世界で出会った少年・藤堂 章太郎の案内により一軒の喫茶店を訪れていた。喫茶店の名前は『Hameln』……彼の叔父であり両親の代わりとなってくれている男性・藤堂 権兵衛の経営する店である。

 

 移動の最中、ある程度回復した亜矢は翔の肩を借りる事無く章太郎の後に続いて店へと入った。

 

「おじさん、ただいまー!」

「おぅ、お帰り……おや?」

「失礼します」

「お邪魔します」

 

 章太郎の声に反応して顔を上げた権兵衛の目に、来店した亜矢と翔の姿が映る。彼は甥を除いた2人の内、亜矢の姿に思わず目を見開く。それは彼女の美しさもそうだが、何よりも服や体が傷だらけだったからである。

 

「ちょっ!? 章太郎、この人どうしたんだ!?」

「さっき近くで降って来た」

「降って来たッ!?」

 

「あ、あはは……」

 

 まぁ、実際彼の言い方は間違っていない。亜矢はスコーピオンメタローの次元移動に無理矢理ついて言った挙句、空中に放り出されて地面に落下した。この傷は戦闘のもそうだが、その時地面に落下した時に出来たものも含まれている。

 だから彼の言葉を否定する事は難しかったのだが、権兵衛には別の意味に聞こえたのか大慌てで店の奥から救急箱を持ってカウンターの後ろから出てきた。

 

「そんな暢気な事言ってる場合かッ!? 兎に角これで出来る限りの手当てをして、それから病院に……」

 

「あ、あのっ!」

 

 慌てふためく権兵衛により大事になりそうな気配を察した亜矢は、救急箱を持ってきた権兵衛を必死に宥めた。

 

「私は大丈夫です。この傷も、その……き、木から落ちてこうなっただけですし……」

「木から落ちたって……」

「そうそう。門守さん、木の上に登って下りられなくなった野良ネコを助けようとして、その時にちょっと木の枝とかに引っ掛けて傷付いただけなんで」

 

 亜矢が必死に権兵衛を宥めようと適当な言い訳を考えていると、翔が援護射撃をしてくれた。確かに木の上から落ちた事も降る事に繋がる。それにこの店に入る時、亜矢はしっかりした足取りで歩けていたので、彼の言い方で権兵衛も一応は納得してくれたらしい。

 それでも尚体のあちこちに血を滲ませている彼女を心配してか、救急箱だけは置いて行ってくれた。その事に彼女は感謝しつつ、章太郎と共に店の奥の席に向かった。

 

「ふぅ……」

「咄嗟にあんな事言っちゃいましたけど、本当に大丈夫ですか?」

 

 椅子に座り大きく息を吐く亜矢の姿に、改めて翔が訊ねた。さっきは彼女に合わせてしまったが、ここに来る途中まで彼女は自力で歩く事も儘ならない怪我人だったのだ。それが途中からいきなり普通に歩けるようになった事に対して、彼は未だに信じられないと言う気持ちが拭えなかった。

 

「えぇ、心配しないでください。私達、普通の人よりちょっと体が頑丈なので」

「だって仮面ライダーだもんね! 仮面ライダーはどんな目に遭っても最後には勝つんだ!」

 

 揶揄でも何でもなく亜矢と彼女のパートナーである仁は人間を文字通り超えているので、常人であれば瀕死の重傷であっても少し時間があればすぐに回復できる。だが章太郎はそれを別の意味で捉えたらしい。テンションを上げる彼の姿に、亜矢も翔も苦笑しつつ改めて自己紹介した。

 

「改めまして、門守 亜矢です。先程はありがとうございます」

「天坂 翔です。お礼を言うのはこっちですよ。門守さんが居なかったら、アイツを追い払う事も出来なかったかもしれません」

 

 互いに謙遜し合った2人は、途中権兵衛が持ってきてくれたコーヒーで唇を湿らせつつ互いに情報を交換し合った。

 

 亜矢は元居た世界でスコーピオンメタローに愛する我が子を攫われ、それを取り戻す為に次元移動をしようとするメタローに無理矢理ついていった結果ここに辿り着き……

 

 対する翔は、フォッシルメタローにより恐らくはこの世界に飛ばされた恋人のアシュリィを助ける為同じ世界に飛ぼうとしたメタローについていった。

 

 共に同じような理由で世界を渡ってしまった事に、2人は親近感を感じずにはいられない。

 

「それでそれで? 2人はどんな仮面ライダーなの?」

 

 一頻り話が終わったと見て、章太郎が異様に高いテンションで2人に詰め寄ろうとした。大の仮面ライダー好きの彼からすれば、異世界の仮面ライダーの存在は街中で偶然遭遇した推しのアイドルに匹敵する存在なのだ。ジッとしてなどいられない。

 

 しかし今は火急の事情がある。ここを紹介してくれた彼に付き合ってあげたい気持ちもあるが、今はそれどころでは無いので真矢が表に出て章太郎を宥めた。

 

「ゴメンね、もうちょっとだけ待って? そうしたらなんでも答えて上げるからさ。ね?」

「え~?」

 

 心底残念そうにする章太郎ではあったが、聞き訳は悪くないのか渋々引き下がってくれた。ただお預けを喰らって面白くはないのか、不貞腐れた様にジュースを飲む姿に真矢はまだ幼くもヤンチャな我が子の姿を重ね微笑ましくその姿を見る。

 

 一方翔は、亜矢から真矢に人格を切り替えた彼女に違和感を覚えた。彼はまだ真矢の存在を知らないので、雰囲気が変わった事に違和感を覚えたのだ。

 向けられる視線に気付いた真矢は、彼が自分の存在に気付いた事を察してちょっぴり嬉しくなった。

 

「あ、もしかして気付いた?」

「え?」

「亜矢と雰囲気が違う事に気付いたんでしょ?」

「え、それ……」

 

 困惑する翔に、真矢は姿勢を正し門守 真矢として自己紹介した。

 

「二度目の改めまして、門守 真矢よ。亜矢の中に居るもう1人の人格、それが私よ。よろしくね」

 

 ちょっぴり茶目っ気を出してか、右目でウィンクをしてみせる。先程までの芯が強くも優しい穏やかな女性と言う印象からガラッと変わった真矢の姿に、翔は目をパチクリさせながらも何とか口を開いた。

 

「に、二重人格ってやつですか?」

「そう言う事。初めて見た?」

「は、はい……」

 

 翔の知り合いに二重人格者は居ないので彼がこんな反応になるのは当然と言えば当然なのだが、改めてこうして驚かれるとちょっと面白いと真矢がクスクス笑う。

 

 だが章太郎は違った。彼は亜矢が真矢と言うもう1人の人格を持った二重人格者であると知ると、バッと顔を上げて物凄い勢いで食いついた。

 

「二重人格ッ! もしかしてもしかして、それぞれの人格に分裂して変身したりも出来るのッ!」

「ぶ、分裂ッ!?」

「ご、ゴメン、流石にそこまでは出来ないかな~……」

 

 章太郎の勢いに翔が仰け反り、真矢が顔を引き攣らせる。彼女の答えに章太郎は改めて残念そうに肩を落とすと椅子に座り直し、彼が落ち着いてくれた事に2人は安堵の溜め息を吐いた。

 

「「ふぅ~……」」

 

「あ、それで……え~っと、どこまで話したっけ?」

「お互いこの世界に来た経緯を話したところまでですね」

「あぁ、そうそう」

 

 差し当たってまず2人が目指すべきなのは、この世界に連れ去られた真矢の子供達とこの世界に飛ばされたアシュリィとの合流だろう。特に幼い子供の2人は、このままだとどうなるか分かったものではない。スコーピオンメタローはあの2人を使って怪人を作ると言っているのだ。

 

(お願い、どうか無事でいて……)

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 真矢と翔の2人が話を纏め終え、体力を回復させ逃がしたメタローや連れ去られた子供達、そして未だ行方不明となっているアシュリィを探そうと言う事で話を纏めていた頃…………

 

「――――きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 アズールの世界から、フォッシルメタローにより異世界に飛ばされたアシュリィがこの世界に放り出されるように飛び出してきた。真矢の時と違いそこまでの高さから放り出されなかった彼女は、光の門から飛び出すとそのままの勢いで地面の上を転がってから止まった。高さが低かったからか落下の衝撃はそこまででもなく、転がる途中で服などが汚れはしたがそれでも大した怪我も無く済んだ。

 

「う、いたた……ここ、何処……?」

 

 辺りを見渡しても、そこに見覚えのある景色はない。見知った帝久乃の街とは違う景色に、そして隣に翔の存在を感じられない事に、アシュリィは不安な顔をせずにはいられなかった。

 

「ショウ…………うっ!」

 

 今し方の現象、そしてフォッシルメタローの言葉を信じるなら、ここは彼女の知らない異世界と言う事に他ならない。頼れる者も知る者も誰も居ない場所にたった1人で放り出され、思わず心が挫けそうになった。

 

 その時、覚えのある光の門が視界の端に突如開いた。フォッシルメタローにより蹴り飛ばされる形で放り込まれた際、一瞬だが見えた世界を渡る光の門。それを見た瞬間アシュリィは息を呑み視線が険しくなる。

 

「ッ! まさか、あいつ……!」

 

 最初に考えたのは、フォッシルメタローが自分を追いかけてきたと言う可能性だった。この世界に飛ばされる直前、フォッシルメタローは自分を始末すると言っていた。翔や姉妹を始め、誰の助けも来ない異世界。確かに確実に始末するには最適の場所だろう。

 

 状況はハッキリ言って絶望的だ。誰の助けも無く、そして相手の力は未知数。しかしその状況が逆に彼女の覚悟を決めさせた。伊達に苦難を乗り越えてはいない。

 

 身構えつつピクシーレイピアを手に取るアシュリィだったが、光の門から出てきたのは彼女が予想していたのとは別の存在だった。

 

『よ、っと! 到着ッ!』

 

 光の門から姿を現したのは、フォッシルメタローとは違いサソリの様な姿の怪人だった。見るからに硬そうな甲殻としなやかに動く尻尾。その尻尾の先端と思しき場所には鋭い針が付いている。

 

「あれ、は…………あっ!?」

 

 最初現れたのがフォッシルメタローではない事に怪訝な顔をしたが、よくよくその怪人……スコーピオンメタローを観察してアシュリィはある事に気付いた。スコーピオンメタローの鋏が無い方の手と尻尾にそれぞれ子供が1人囚われている。まだ齢10にも満たない幼さの子供2人は、スコーピオンメタローの腕と尻尾の中でピクリとも動かない。一瞬死んでいるのかと肝を冷やしたが、直後に揺らされてか子供達の手や足が僅かに動いた。どうやらどちらもまだ生きているようだ。

 

 アシュリィが見ている前で、スコーピオンメタローは2人の幼い子供……雄司と愛衣を抱えたまま、凝った肩を解す様に首を回した。

 

『さ~て、邪魔な奴もどこかに行った事だし、コイツ等をゆっくりと「何するつもり?」……あ?』

 

 奴は子供達に悪意を持って接している、そう直感したアシュリィは迷わずスコーピオンメタローの前に立ちはだかった。突然目の前に立ち塞がるアシュリィを見て、スコーピオンメタローは訝し気に首を傾げた。

 

『何だぁ、お前?』

「答えて。その子達、どうするつもりなの?」

 

 ピクシーレイピアの切っ先を向けながらアシュリィが問えば、スコーピオンメタローは警戒心を剥き出しにして逆に何者かを聞いて来た。スコーピオンメタローはここがどういう世界かをある程度知っている。ここは仮面ライダーが物語としてしか存在しない世界。銃刀法は厳しいから一般人が刃物を持ち歩く訳がないし、何より怪人を前に恐れず姿を晒して剰えナイフ以上の武器を迷いなく向けてくるような常識知らずが居る訳がない。

 もしそんな奴が居るとすれば、そいつは現実を見ていないイタイ奴か、頭の可笑しい異常者。

 

 それか若しくは…………

 

『お前……一体何者だ?』

「……答える気が無いならいいよ。その子達だけは、力尽くで放してもらうから……!」

《オトギガールズ・レヴュー!》

 

「う、うぅ……」

「ん……?」

 

《ヒア・マイ・ソング! ヒア・マイ・ソング!》

『なっ!?』

「変身ッ!」

 

…………この世界に迷い込んだ、本物の仮面ライダーか、だ。

 

《Action! フォニック・マテリアライド! オトギガールズ・アプリ! 歌激なる御伽女、カーテンレイズ!》

「ハァァッ!」

『何ッ!? 何故この世界に仮面ライダーがッ!?』

 

 アシュリィが変身した仮面ライダーピクシーは、スコーピオンメタローに突撃するとその顔に向けてピクシーレイピアを突き出した。鋭い刺突が眼前に迫る光景に、スコーピオンメタローは慌てて体を仰け反らせる。その際にバランスを崩し、腕に抱えていた愛衣の拘束が緩んだ。

 

『うぉぉっ!?』

「んっ! ん~ん~!」

『あっ!? おい暴れるなッ!?』

 

 拘束が緩んだのを見て、愛衣は小さい体で精一杯暴れて逃れようとする。それにスコーピオンメタローが気を取られていると、ピクシーは空かさずレイピアを薙いで顔を切りつけ怯ませる。甲殻が攻撃を防いでくれたとは言え、顔への攻撃は咄嗟に対応できるものではなく思わず目を瞑ってしまう。そこに追撃で彼女が腕の付け根の関節部分を切りつければ、奴も堪らず愛衣を完全に放してしまった。

 

『ぐぁっ!?』

「今だッ!」

 

 ピクシーはメタローが手放した愛衣を素早く引き寄せ、腕の中で強く抱きしめながら距離を取る。レイピアを向けながら後退するピクシーをスコーピオンメタローは忌々しく睨み付ける。その感情が現れているかのように、スコーピオンメタローの尻尾が巻き付けている雄司ごと持ち上げられ先端の針からは毒液が地面に滴り落ちる。

 その尻尾の先の毒針を目覚めた雄司がジッと見つめていた。

 

「……」

 

『こ、の……アマぁ……!?』

「大丈夫? 怪我は無い?」

「ん、うん……」

 

 スコーピオンメタローの動向を警戒しながら、ピクシーは腕の中の愛衣に優しく話し掛ける。恐らく怖い思いをしただろう彼女を気遣っての事である。愛衣はそんなピクシーに、感謝を示す様にギュッと抱き着いた。とりあえずは大丈夫そうだと分かり、ピクシーはホッと安堵の溜め息を吐く。

 

「もう1人捕まってるあの子は、君の友達?」

「雄司……」

「……そう、分かった」

 

 愛衣の名前も知らないピクシーだったが、この子にとって雄司が大事な相手である事は分かった。ならば余計に傷付ける訳にはいかない。絶対に助けてみせる。

 

 安全の為愛衣を下ろしながら決意を新たにするピクシーだったが、そんな彼女の前でスコーピオンメタローは信じられない行動に出た。何と尻尾で捕まえている雄司を自身の前に持ってきたのだ。ピクシーに対して雄司を盾にする形だ。その行動に彼女は仮面の奥で顔を顰めつつ、怒りに震える声で相手を非難した。

 

「お前……汚い……!?」

『何とでも言え。さぁどうする? 今俺を攻撃すれば、このガキが無事で済むかな?』

「くっ!?」

 

 勿論これはブラフである。スコーピオンメタローの目的は新人類の子供である雄司と愛衣から新たな怪人を生み出す事であり、その為には2人を生かして連れて帰らねばならない。だから必然的に2人の命にかかわるような事は出来ないのだが、ピクシーはメタロー側の事情を知らないので雄司を盾にされては満足に攻撃できなくなる。

 

 目に見えて動きが鈍ったピクシーを見て、スコーピオンメタローはニヤリと笑いそのまま雄司を盾にしながらピクシーに鋏を振り下ろした。

 

『まぁ俺は攻撃させてもらうけどなッ!』

「くっ!?」

 

 迫る鋏をピクシーは紙一重で回避。そして反撃の斬撃を放とうとするが、その瞬間スコーピオンメタローは斬撃の軌道上に雄司を持っていく。刃の軌道に差し込まれた雄司にピクシーは寸でのところで剣を振るう腕を止め、動きを止めた瞬間前蹴りで腹を蹴り飛ばされた。

 

「うぐっ!? がはっ!?」

『クククッ! どうした、動きがさっきと比べて鈍くなってるぞ?』

「ぐぅ……くっ! コイツ……!」

 

 卑怯な戦い方をしてくるスコーピオンメタローに、ピクシーは仮面の奥で苦い顔になる。とにもかくにも雄司を傷付けずに救助する事を念頭に置かねばならない都合上、どうしても彼女には行動に制限が付く。俄然、苦戦は免れない。

 とは言え彼女も一方的にやられてばかりではない。スコーピオンメタローの動きは大振りなものが多い為、軽やか且つしなやかに動く事でやり過ごす事が出来ている。それにピクシーには相手の攻撃を衝撃としてそのまま返せる能力がある。その為に何度かトリガーを引きながらナックルガードで受け止め、相手の攻撃を無力化すると同時に威力を吸収して反撃の時を待っていた。

 

(だけど……)

 

 しかしやはり何にしても、雄司の存在が懸念となってピクシーに攻撃を躊躇させた。迂闊に強力な攻撃をして、その余波で雄司が負傷する事を恐れてしまうのだ。

 

 何とかして雄司をスコーピオンメタローから助け出さなくては。その為にどうすべきかと頭を悩ませていた時、徐にスコーピオンメタローが雄司を巻き付けたまま尻尾を持ち上げた。まるで自分が捕らえた獲物を掲げて見せつける様な動きにピクシーが訝しんでいると、突然奴はその尻尾を薙ぐ様に振り回した。当然尻尾に巻き付かれている有事も一緒に振り回されるのだが、彼は悲鳴一つ上げずジッと尻尾の先端の毒針を見つめていた。

 

 何をするつもりなのか分からなかったピクシーだが、奴が尻尾を振り回した瞬間散弾の様に毒液が飛んできたのを見て慌ててその場を飛び退いた。

 

「わっ!?」

 

ギリギリ回避は間に合い、一滴も毒液を受ける事無く済んだが代わりに飛び散った毒液が掛かった地面は煙を上げて解け始めた。あんなのを少しでも喰らえばただでは済まない。ピクシーが仮面の奥で冷や汗を流していると、スコーピオンメタローは再び尻尾を持ち上げた。

 

『クククッ! 何時まで逃げ続けられるかな?』

「う……!?」

 

 これまでの戦いでピクシーも大分消耗している。これ以上戦闘が長引けば、終いには回避が間に合わずあの毒液を喰らってしまう。そうなったら…………

 

 自分があの毒液を諸に喰らう瞬間を想像して、思わず身震いする彼女の姿を嘲笑いながらスコーピオンメタローは今度こそ命中させようと毒液を放った。

 

『喰らえッ!』

「くっ!」

 

 スコーピオンメタローが尻尾を振るい、毒液を飛び散らせようとする。ピクシーはそれを見て回避の為身構えるのだが…………何故か毒液は飛び散る事はなく、スコーピオンメタローは無駄に尻尾を振り回すだけであった。

 

『何ッ!? な、何故……なぁっ!?』

 

 何故毒液が出なかったのかとスコーピオンメタローは自身の尻尾の先の毒針を見た。するとそこでは、何と雄司が毒針の付け根に手を伸ばしその部分をギュッと掴んでいた。

 先程から雄司は先端の毒針を観察していた。そして彼は、毒針が毒液を出す際に根元近くが僅かにだが膨らんでいる事に気付いたのだ。絡繰りに気付いた彼はそこを掴んで握り、毒腺を詰まらせ毒液が飛び散らないようにしたのだ。

 

「できた~」

 

 自分の考えが正しかったと、場違いにはしゃぐ雄司にスコーピオンメタローは僅かな時間呆気に取られる。が、それも次の瞬間には怒りに変わった。

 

『こ、このガキッ!? ただで済むと――』

 

 怒りに任せ雄司を痛めつけようと手を振り上げるスコーピオンメタローだったが、この瞬間奴は完全にピクシーの存在を忘れていた。自分から意識が完全に逸れているのを見て取ったピクシーは、この隙を見逃す訳にはいかないと剣を振るいながらトリガーから指を放した。瞬間ピクシーレイピアの柄のマイクから音符の記号を模したエネルギーが無数に放たれ、雄司を避けるようにスコーピオンメタローに命中し弾けた。

 

『ぐあぁぁぁぁっ!?』

 

 何度か攻撃を受け止めた事で力を溜め込んだ音符の威力は絶大で、直撃した箇所は甲殻が大きく罅割れる程であった。その攻撃に雄司を捕えている尻尾の力も緩んだ。それを見てピクシーは尻尾の関節部分に剣を突き刺しながら雄司を引き剥がした。

 

『ぎゃぁぁぁぁっ!?』

「ッ、よし!」

 

 助け出した雄司を胸に抱きながら心の中でガッツポーズをとるピクシーだったが、彼女がレイピアを尻尾から引き抜くと次の瞬間スコーピオンメタローは自由になった尻尾を振り回して力の限り彼女をぶっ飛ばした。雄司を助ける事に全力を注いでいたピクシーは自身の防御にまで対処が回らない。結果彼女はスコーピオンメタローの一撃に大きく吹き飛ばされ、殆ど威力を殺す事無く壁に叩き付けられた。その際彼女は雄司だけは守ろうと、衝撃を全て自分で受け止める形で壁に叩き付けられる。

 

「あぐっ!? あぁぁぁぁっ!? ぐ、ぁ……」

「わぁっ!?」

 

 壁に叩き付けられた衝撃で雄司が振り落とされ、壁を大きく罅割れさせる威力で叩きつけられたピクシーはゆっくりと壁から離れると力無く前のめりに倒れそのまま変身を解除されてしまった。全身ボロボロの姿で倒れたアシュリィは、これまでの疲労とダメージで立ち上がる事が出来ずにいる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……くっ!?」

 

 何とか立ち上がろうと手を地面につくアシュリィだったが腕に満足に力が入らない。立ち上がれず藻掻く彼女を、スコーピオンメタローは舌なめずりする様に尻尾を揺らしながら近付いていく。

 

『クソが、やってくれたな仮面ライダー! だがそれもここまでだ』

「ぐ、ぐぅ……!」

 

 アシュリィの前に立ち、自慢の尻尾を持ち上げる。滴る毒液が地面をゆっくりと溶かしていく様子に、目を見開く彼女を満足そうに眺めてから毒針を突き刺す為に振り下ろす。

 

『じゃあなっ! 仮面ライダーッ!』

「ッ!? ショウ……!」

 

 迫る自身の死にアシュリィは堪らず目を瞑り、愛する少年の名を呼んだ。すると閉ざされた視界の中、彼女の耳がスコーピオンメタローの悲鳴を聞いた。

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

「……え?」

 

 何事かとアシュリィが目を開ければ、それと同時に何かが彼女の眼前に落ちてきた。何かと見てみれば、それは中程で切断されたスコーピオンメタローの尻尾であった。何者かがスコーピオンメタローの尻尾を切断した。その事実に気付いたアシュリィは、一瞬翔が助けに来てくれたのかと笑みを浮かべて顔を上げた。

 

「ショウッ!……って、え?」

 

 だがそこに居たのは彼女の愛する翔が変身する仮面ライダーアズールではなかった。

 

 白いボディースーツの上から赤い鎧を身に纏い、額からバッファローの様な角を生やしたハルバードを構えた戦士。その姿を見て唖然とするアシュリィに対し、雄司と愛衣は希望に満ちた笑みを浮かべていた。

 

「「パパッ!」」

 

 愛する我が子達に呼ばれながら、現れた戦士……仮面ライダーデイナはスコーピオンメタローを威嚇する様に得物のハイブリッドアームズを一振りしたのだった。

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