仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ THE LOST CHILDREN   作:黒井福

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第5話:望んだ再会

 時は少し遡り、デイナの世界では1人取り残された仁が途方に暮れていた。愛する妻と子供達が見た事も無い怪人と共にこの世界から光に包まれて消える瞬間を目撃した彼は、最初即座に彼女達が消えた場所に近付きどこへ消えたのかを探ろうとした。最初かれは、光に紛れて光学迷彩の様に姿を消したのではないかと思ったのだ。

 

 しかし…………

 

「…………くッ、駄目だ。何の痕跡も無い……」

 

 新人類へと覚醒を果たした仁は、変身しなくてもある程度であれば自身の能力を自在に弄る事が出来る。最初彼は嗅覚を増大させて、残された亜矢達の匂いを辿ろうとした。例え姿が見えなくても、匂いまでは隠せず追跡できると考えたのである。しかし彼の考えは外れ、匂いどころかありとあらゆる痕跡を見つける事は叶わなかった。亜矢達は正真正銘、この世界からプツリと姿を消してしまったのである。

 

 こんな事は彼にとっても想定外の事態であり、流石の彼もどう対処すべきかと頭を抱えずにはいられない。

 

「くそ、どうする? どうすれば…………」

 

 その場に佇み、どうすべきかと考え込む。未だ嘗てない不可解な事態。しかし彼は、嘗ての傘木社との戦いの日々で何度も苦境に立たされ、その度に乗り越えてきた。ならば今度だって何とか出来る筈と自分を信じた。信じる事で、冷静さを保とうとした。

 

 だが彼の思考は突如横槍が入って中断させられる事となる。全く唐突に何処か古さを感じさせる着信音が周囲に響き渡り、何事かと辺りを見渡すと何もなかった筈の場所に電話ボックスが目に入った。記憶にある限り、あの場所に電話ボックスは無かった筈である。

 如何にも妖しい。ともすれば罠すら疑う状況だが、仁は敢えてその電話ボックスに近付いた。そもそも、電話ボックスに着信が入っていると言う状況がすでにおかしいのだ。普通、電話ボックスに誰かが電話を掛ける事も、電話ボックスが何処からか着信を受けることもあり得ない。

 

 そんな電話ボックスに仁は敢えて入った。無論罠の可能性もあったが、それとは別の可能性を仁は考えていた。その可能性とは、亜矢達が消えた原因に対抗する何者かの介入だ。亜矢達が消えた原因の怪人に、何らかの形で対抗しようとする何者かが自分とコンタクトを取ろうとしているのではないか? 仁はそう考え、鳴り続ける受話器を取った。

 

「(まぁ罠だったらその時はその時、望むところだ)……もしもし?」

 

 今となってはすっかり見る事も無くなったレトロな受話器を耳に当て受話器の向こうに向け話し掛ける。すると受話器からは、予想外な事に子供の声で返答があった。

 

『助けてッ! 仮面ライダーッ!』

「ッ! 君は誰だ? 今どこに居る?」

『助けてッ!? 仮面ライダーッ!!』

「もしもし? 聞こえてるか?」

 

 受話器の向こうからは子供の声で只管に仮面ライダーに助けを求める声だけが響いていた。仁は相手の子供に応答を求めるが、相手はただ仮面ライダーに助けを求めるのみ。仁も仁で懸命に応答を呼び掛けていたのだが、不意に違和感を感じて周囲を見渡し、そこに広がる光景に彼は思わず受話器を持ったまま電話ボックスの外に出てしまった。

 

「なっ!? こ、ここは……?」

 

 そこは彼が先程まで居た場所では無かった。見渡して目に入る景色が今までと明らかに違う。外に出ればよりよく分かるが、感じる匂いまでもが先程とは異なっていた。

 一体自分の身に何が起きたのかと困惑した仁は、この状況に電話ボックスと受話器の向こうから助けを求める少年が関わっているのではないかと振り返った。が、そこには電話ボックスは影も形も無くなっており、持ったままだった筈の受話器すら何時の間にか姿を消していた。

 

 不可解な事態の連続に混乱が頂点に達しそうになる仁だったが、彼はそれを気合で堪え努めて冷静に状況を分析しようとした。

 

「すぅ……ふぅ…………よし、大丈夫。大丈夫だ、落ち着け」

 

 必死に自分に言い聞かせ、心の平静を保つ。

 

 その直後、離れた所から薄っすらとだが聞き覚えのある声が聞こえてきた。そう、彼が躍起になって探そうとしていた最愛の女性との間に生まれた掛け替えのない子供達。

 同時に微かにだが漂ってきた子供達の匂いに、仁は取り戻し掛けていた冷静さを思わず手放してしまった。

 

「ッ!! 雄司、愛衣……!」

 

 子供達の声と匂いのする方へと駆けていくと、そこでは1人の恐らくは女性の仮面ライダーがサソリの怪人から雄司を取り返している光景が見えた。そこから少し離れた所には愛衣の姿も見える。

 

「ッ、よし!」

 

 仮面ライダー……仮面ライダーピクシーがサソリの怪人……スコーピオンメタローから雄司を奪い取る。だがそこで激昂したスコーピオンメタローが振り回した尻尾の一撃を喰らい、ピクシーは壁に叩き付けられてしまった。衝撃で雄司は振り落とされ、壁に叩き付けられたピクシーはダメージが祟ったのか変身が解除されてしまった。

 変身解除され元の姿に戻ってしまったピクシーに変身していた少女のアシュリィに、スコーピオンメタローがゆっくり近付きトドメを刺そうと尻尾を持ち上げる。滴る毒液が、アシュリィの傍の地面を溶かし煙を上げた。

 

 それを見た瞬間、仁は腰にデイナドライバーを装着しながら駆けだし走りながら二つのベクターカートリッジを装填しレセプタースロットルを引き仮面ライダーに変身した。

 

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

「変身ッ!」

〈Congrats! Birth of a new life, MINOTAUR. Open the door〉

 

 仁が変身する仮面ライダーデイナ・ミノタウロスライフ。白いボディースーツに重厚な赤い鎧を纏った戦士は、変身と同時に手に取った斧槍ハイブリッドアームズでスコーピオンメタローの尾を切断した。パワーが優れていたのもあるだろうが、ピクシーが必要にメタローの尻尾を攻撃した事で強度が大幅に落ちたからだろう。切断された尻尾の断面からは、体液らしき液体が零れ落ち切断された尻尾がアシュリィの顔の近くに落下しビチビチと跳ねる。

 

 直前まで目を瞑っていたアシュリィはスコーピオンメタローの尻尾が切断されたのを見て目を輝かせて顔を上げ、そして見上げた先に居たデイナの姿に困惑した顔になった。

 

「ショウッ!……って、え?」

 

 いうまでも無くアシュリィはデイナの事を微塵も知らないので、見知らぬ仮面ライダーが自分を助けてくれた事に咄嗟に言葉が出て来なかった。

 が、2人の子供達は違う。雄司と愛衣はデイナが自分達の父である事を理解しているので、父が助けに来てくれた事に喜びの笑みを浮かべた。

 

「「パパッ!」」

 

 子供達の声に、デイナは答えるよりも先にまずはスコーピオンメタローをどうにかすべきと、尻尾を切断された痛みに悶えているメタローを蹴り飛ばした。

 

『ぐほぉっ!?』

 

 尻尾の切断があまりにもショックだったのか、スコーピオンメタローはデイナの動きに反応する事が出来ず無様に蹴り飛ばされ地面の上を何度か跳ねながら転がっていく。デイナは転がるスコーピオンメタローを油断なく睨み付けている。

 

『うぐぐ……くっ!? き、貴様ぁ……!』

「まだやる気?」

 

 尻尾の切断面から体液を滴らせながら、スコーピオンメタローは立ち上がる。対してデイナは、その場に佇んで斧槍の石突で地面を突いた。明らかな威嚇であり警告。これ以上戦うつもりであれば容赦はしないと言う気持ちの表れであった。

 ここで彼が敵を見逃すのは、慈悲とかそんな優しさからではない。今の彼にとっての最優先事項は子供達の保護であり、ここで全力で戦えばその子供達と子供達を守る為に戦い傷付いたアシュリィが巻き込まれる危険性があった。敵の力は未知数であり、次に戦った時どうなるか保証は出来ないが、この場で無理に戦い続けて敵を倒す事と子供達の安全を天秤にかけた結果、彼は子供達の方を取ったと言うだけの話である。

 

 自分と本気で戦う事より、力の無い子供達とアシュリィの身の安全を優先させたデイナの考えを理解してしまったスコーピオンメタローは、悔しさに歯軋りしながらも今は退く方が無難と撤退を選んだ。

 

 その際に捨て台詞を吐く事を忘れない。

 

『覚えてろ、仮面ライダーッ! 貴様ら全員、必ず始末してやるからなッ!』

 

 スコーピオンメタローはそう言って並々ならぬ憎悪を滾らせながら姿を消した。その後ろ姿に、やっぱりこの場で仕留めておくかとデイナはハイブリッドアームズをライフルモードに変形させて背中を狙うが、引き金を引く寸前に光の門の中に消えられたので仕方なく銃口を下ろした。

 

「ふぅ……」

 

 一先ず戦いが終わった事に仁が一息ついていると、雄司と愛衣の2人が父親の足元に駆け寄り抱き着いて来た。目の前で母親が倒され、怪物に連れ去られて怖い思いをしたからだろう。子供達の背を抱いてやれば、2人共体が震えていた。

 

「大丈夫、もう大丈夫だ」

「うん……」

「パパぁ……」

 

 仁は一頻り子供達をあやし、安心させると一度2人から離れアシュリィの方へと近付いた。仁が子供達をあやしている間に自力で立ち上がった彼女は、自分に向けて近付いてくる仁に若干警戒した様子を見せた。否、警戒と言うよりは緊張か。子供達相手ならともかく、自分よりも圧倒的年上を相手に平然としていられるほど彼女は大人ではない。

 そんな彼女の警戒心に気付いているのか、仁はある程度近付いたところで足を止め深く頭を下げた。

 

「え……」

「ありがとう、この子達を守ってくれて。途中から見てたよ。君が、雄司を助けてくれた事もね」

「あ、いや、私は……」

 

 こういう時、どう言う反応をするのが正しいのか分からずアシュリィは困惑する。するとそれを見た仁は、小さく微笑むと子供達を手招きし改めて彼女に向けお礼を言わせた。

 

「ほら、2人共。このお姉ちゃんにお礼を言って」

「うん。お姉ちゃん、ありがとう」

「ありがとう、お姉ちゃん! カッコ良かったよッ!」

「あ……う、うん。どういたしまして……!」

 

 子供達からの素直なお礼の言葉に、アシュリィも心からの笑みを浮かべられた。その様子に安堵した仁は、改めて彼女に感謝しつつ自己紹介をした。

 

「改めて、ありがとう。俺は門守 仁……仮面ライダーデイナだよ。こっちの男の子が息子の雄司で、女の子が娘の愛衣」

「僕、ゆうじ~」

「あたし、めい~。お姉ちゃんは?」

 

 仁に続き子供達2人が自己紹介し、愛衣がアシュリィの名を訊ねる。2人の様子に肩の力も抜けたのか、アシュリィも自然な様子で己の名を口にした。

 

「天坂 アシュリィ、仮面ライダーピクシーよ」

「よろしく、天坂さん」

「アシュリィでいい」

「じゃ、俺の事も仁でいいよ」

「ゆうじ~」

「めい~」

 

 仁とアシュリィを真似るように、雄司と愛衣も名の方で呼べと言う様に抱き着きながら告げてくる。その様子に仁とアシュリィは揃って笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一通り自己紹介を済ませた4人は、一先ずその場を離れることにした。耳を澄ませば遠くからパトカーがこちらにやってくる音が聞こえてくる。ここでの騒動に、周辺住民が警察に通報でもしたのだろう。現状をよく理解している仁とアシュリィは、今警察の厄介になるのは不味いと言う事で意見が一致しその場を離れた。

 

 と言っても、揃って特別何処か当てがある訳ではない。何しろここは文字通り住む世界が違う。世界が違えば、見知った場所も頼れる場所も無いと言う事であり、そうなると当然目的地も定める事は難しい。

 どうしたものかと歩きながら考える仁。その腕には雄司を腕に乗せるように抱えていた。

 

「パパ~、ママは~?」

「そうだね。ママも探さないと」

 

 生憎と亜矢の居場所をスコーピオンメタローから聞き出す事は出来なかった。アシュリィの話では、奴がこの世界に来た時点で彼女の姿はなかったとの事なので、どこか別の場所で逸れたのだろうと予想出来る。

 それがこことは別の世界でない事を、彼は密かに願っていたが……

 

 ところで、雄司は仁が抱えているが彼の手元に愛衣の姿はない。彼の娘が今どこで何をしているかというと…………

 

「愛衣ちゃん、疲れない? お父さんに抱っこしてもらわなくて大丈夫?」

「ん~ん、アシュリィおねえちゃんと一緒がい~い」

 

 愛衣は助けられた事ですっかりアシュリィに懐いてしまったのか、態々アシュリィと手を繋いで歩いていた。幼い子供の体躯故その歩みは非常に遅く、彼女に合わせる為に仁もアシュリィもゆっくり歩かざるを得なくなっていた。

 アシュリィが愛衣を抱っこしながら歩けばもう少し歩く速度も上げられただろうが、変身していなければ彼女も見た目相応の体力しかない。そして愛衣はまだ幼いとは言え育ちざかり、抱っこして長時間歩くのは大人でなければ少し厳しい。仁は娘の恩人にそこまでの無理をさせる事は出来なかった。

 

 最悪の場合は、多少ぐずられても自分が愛衣を抱っこして移動しよう。そう思った矢先、彼の上昇させた嗅覚が二つの匂いを感知した。一つは愛する妻の匂い。そしてもう一つは、今隣を愛衣と手を繋いでいるアシュリィのそれと同じ匂いだ。同じ人物が2人居る……と言う訳が無いので、この場合はアシュリィの匂いを付けた何者かという事になるだろう。

 

「アシュリィさん」

「ん、何?」

「この世界に一緒に来た人って誰か居る?」

「え?」

 

 仁の言葉に一瞬困惑するアシュリィだったが、その言葉の意味を理解して彼女は首を横に振った。

 

「私は、1人でこの世界に飛ばされてきたから……」

「その時元の世界に他の人は居た?」

「うん……」

「なるほど」

 

 彼女との会話で仁は合点が入った。どうやら彼女も一人ぼっちと言う訳ではない事を確信し、彼女を連れて一軒の喫茶店へと歩を進めた。

 

 看板に書かれている店の名前は……Hameln。逸る気持ちを抑えて仁がアシュリィと共に扉を開けると、そこにはそれぞれが求めて止まなかった愛する人物が居た。

 

「ショウッ!」

「アシュリィちゃんッ!」

 

 互いの存在に気付いた翔とアシュリィは、すぐさま互いに駆け寄って存在を確かめ合う様に抱きしめ合った。その際に取り残された愛衣が駆け寄ろうとするが、仁はそれを宥めつつ亜矢へと近付いていく。

 

「仁くん……雄司……愛衣……!」

 

 亜矢は声を震わせながら、何日間も歩き続けた後の様にやや覚束ない足取りでやってくる。仁は空いてる方の腕でそんな彼女を抱きしめ、自分と子供達の無事を彼女に知らせた。たった1人で放り出されたかと思っていた世界で、愛する者達と再び再会できた喜びに彼女は涙を流した。

 

「よがっだ……! 皆、ほんどに、良かったぁ…………!」

「ゴメン、来るのが少し遅れちゃった」

「ママ~!」

「ママだいじょうぶ?」

 

「ショウ……来てくれたんだ……!」

「アシュリィちゃん……無事で良かった」

 

 それぞれ愛する者達と抱きしめ合い、無事を確かめ合う。その温まる光景に、章太郎と権兵衛は困惑し目を白黒させるのだった。

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