仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ THE LOST CHILDREN 作:黒井福
喫茶Hamelnにて再会を果たした仁達一家と翔とアシュリィ達は、店の奥のテーブルにて改めて互いに挨拶を交わしていた。
「改めまして。門守 仁だよ。こっちが俺の奥さんの亜矢さんで、子供達の雄司と愛衣」
「門守 亜矢です。この度は、私達の子供達が本当にお世話になりました。ありがとうございます、アシュリィさん」
「天坂 翔です。こちらこそ、アシュリィちゃんが危なかったところを助けていただきありがとうございます」
「天坂 アシュリィ……よろしく」
門守一家と翔達が挨拶を交わすと、待ってましたと言わんばかりに章太郎が顔を輝かせながら身を乗り出した。
「ねぇねぇ! お兄さん達も仮面ライダーなんだよね? どんな仮面ライダーなの?」
矢継ぎ早に説明をせがむ章太郎に、亜矢はそう言えば落ち着いたら説明すると言って宥めていたのを思い出し乾いた笑いを浮かべた。アシュリィは自分より年下の子供ながら尋常ではない熱量を感じさせる章太郎の勢いに思わず体を仰け反らせる。
その一方で、仁と翔は互いに顔を見合わせるとふむと考え込んだ。
「……今後の事を考えれば、情報共有の観点でも互いの能力とかを話し合うのは無駄じゃない、か」
「ですね。共通の敵を相手にする訳ですし、連携の事を考えればお互いの事を知る事は必要だと思います」
「じゃあッ!」
期待を込めた章太郎の笑みに、仁と翔は揃って苦笑を浮かべながら自分達の変身アイテムを卓上に置き各々のライダーシステムについて話し始めた。
「俺が変身する仮面ライダーデイナは、このベクターカートリッジっていう物を使って変身するんだ」
「ベクターカートリッジ?」
「どういう物?」
「スッゲェっ! ビルドのフルボトルみたいだッ!」
言うまでも無く初見のアイテムであるベクターカートリッジを不思議そうに眺める翔とアシュリィに対し、章太郎は見知った仮面ライダーの変身アイテムとどこかに通った雰囲気のそれに目を輝かせた。
フルボトルと言う耳慣れぬ単語に若干興味を引かれつつ、仁はカートリッジの一つを手に取り説明を始めた。
「このカートリッジの中には、超万能細胞って言う特別な細胞が入ってる」
「超万能細胞?」
「そう。まぁ、一切の拒絶反応も無くどんな人のどんな細胞にも馴染む特別な細胞と思ってくれればいいよ。その細胞に、色々な動物の遺伝子をインプットしたのがこれだ。俺も亜矢さんも、これを使って変身してる」
仁が卓上に置いたベクターカートリッジを、翔とアシュリィ、章太郎の3人が興味津々と言った様子で見ている。代表する様に翔が目線だけで手に取ってみてもいいかと訊ねれば、仁は無言で頷いて見せた。彼から許可を得られ、翔とアシュリィは恐る恐る、章太郎は嬉々とした様子で手に取って色々な角度から眺めた。章太郎は手に取ったカートリッジを何やら頻りに振っている。
「ん~? 似てるけどフルボトルとは違うんだ?」
「そのフルボトルって言うのがどんなのかは知らないけど、これは振ってもあまり意味は無いよ」
「どうやって使うんです?」
「これはね……」
翔からの質問に仁が答えようとしたその時、彼の息子の雄司が徐にカートリッジの一つを手に取り先端のコックを捻り押し込んだ。
〈BUFFALO〉
正しい手順で起動させたカートリッジを、雄司は自分の手の甲に挿し込もうとした。その瞬間、仁は息子の手からカートリッジを取り上げ亜矢と人格を入れ替わった真矢は息子の頭をペシンと叩いた。
「コラッ!」
「い゛ッ!?」
「……とまぁ、こういう手順で直挿しするのも一つの使い方だ。この場合人間はカートリッジにインプットされた生物の特性を持つ怪人であるファッジになる」
「ファッジ……!?」
「ショウ、これって……!?」
翔とアシュリィは、そう言えばフォッシルメタローもベクターカートリッジやファッジと言う単語を口にしていた事を思い出した。ここで2人は漸く、フォッシルメタローがどこからベクターカートリッジを手に入れたのかを理解した。
「そうか……あのメタローは最初に仁さん達の世界に行ってたのか」
「ん? カートリッジやファッジの事知ってるの?」
「ここに飛ばされる前に、私達の世界に現れたフォッシルメタローって奴が持ってたの」
2人の言葉に仁は険しい顔になる。恐らくそのフォッシルメタローは、仁の世界で出回っていたベクターカートリッジを何らかの方法で手に入れたのだろう。悲しい事に、或いは恥ずかしい事に、彼の世界ではこのベクターカートリッジが世界中の裏組織に流通してしまっている。何せ未だに犯罪組織などでベクターカートリッジを用いた犯罪が起こっているくらいだ。そんな世界から、カートリッジを一つ二つ掠め取るくらい造作も無い事だろう。
何だか居た堪れなくなり、仁は思わず2人に頭を下げてしまった。
「何か、ゴメンね? 俺らの世界の物が、君らに迷惑を掛けたみたいで」
「あっ!? い、いや、そんな事無いですよッ! 悪いのはこれを悪用した奴らなんだし」
「そう言ってもらえると助かるよ」
その後仁は、このベクターカートリッジには様々な動物の遺伝子があり、戦闘ではそれら様々な動物の能力を組み合わせて戦う事などを彼らに話した。
「なるほど……相性の良し悪しだけでなく、状況に合わせて色々な組み合わせにする事で戦いの幅が広がるんですね」
「理解が早くて助かるよ」
「やっぱりビルドみたいだ!」
粗方仁の変身する仮面ライダーとその変身アイテムに関する説明が終わると、今度は翔達の番となった。
翔はアプリドライバーとマテリアフォン、そしてマテリアプレートを取り出しテーブルの上に置き説明を始めた。因みにアシュリィの変身アイテムであるピクシーレイピアは隠している。あれはどう見ても剣なので、ともすれば何も知らない一般人に見られる危険を冒す訳にはいかないからだ。ここは仮面ライダーが物語でしか存在しない平和な世界。平和な世界では、武器の類は持ち歩かないのが基本である。
「僕が変身するのは、アズールと言う仮面ライダーです。このアプリドライバーとマテリアプレート、マテリアフォンと言うのを使って変身します」
翔がテーブルの上に置いたマテリアプレートは全部で5つ。『ブルースカイ・アドベンチャー』『ロボットジェネレーター』『鬼狩ノ忍』『ワンダーマジック』、そして『ギガント・エクス・マギア』だ。本当は他にも色々あるのだが、全部をこの場で出す訳にもいかないのでこれだけを出した。
仁は特に変身の要となるのがマテリアプレートにあると即座に見抜くと、それら5枚のプレートを興味深そうに眺めた。
「マテリアプレート、ね……」
「何だか、ゲームソフト? に見えるわね」
「実際、これらは僕らの世界でアプリゲームとしても存在しています。僕が変身するアズールは、これらゲームをモチーフとした能力を駆使して戦うんです」
翔の説明に仁達は興味をそそられ、断りを入れてからその一つを手に取ってみた。手に取ったそれを、仁は様々な角度から眺めてみる。
「ははぁ……なるほどね……ゲームの内容に則した能力とは、確かに違う世界の技術なのかもしれない」
「ゲームの能力ッ! それってエグゼイドみたいじゃんッ!」
「……エグゼイド?」
こちらに関してもこの世界に似たモチーフの仮面ライダーが居るのか、章太郎の顔が物理的に輝くのではと言う程明るくなる。興奮した様子でマテリアプレートの一つを手に取り色々な角度から眺めるその姿は、待望の玩具を手に取った子供そのものだ。見た目相応に興奮した様子の章太郎に、しかし翔は何やら違和感を感じたらしい。気になった仁が訊ねるが、彼自身もその違和感の正体を掴みかねているのかはっきりした事は分からないようだ。
「ん? 翔君、どうかした?」
「いや……何か……何だろ? 何て言うか、聞いた事があるような無い様な……?」
翔の様子に仁も首を傾げるが、まぁビルドも聞いた事があるかないかで言えば何処かで耳にはする言葉なので、エグゼイドも何処かで彼が耳にした言葉なのだろうと言う事で自分を納得させた。翔自身も違和感を感じるだけでそこまで気にするような事でもないようだし、長々と気にしても仕方ない。
そんな中で、雄司もマテリアプレートに興味をそそられたのか手を伸ばして取ろうとしていた。だが章太郎位の年齢ならともかく、本当の意味で幼い雄司が手に取るのは色々な意味で危ないと真矢に止められる。
「ダ~メ! 勝手に触って、動かしちゃったりしたら危ないでしょ?」
「え~、ぼくも~!」
「我儘言わないのッ!」
興味を抑えきれないのか、真矢の腕の中で暴れる雄司。一方同じ双子の愛衣は我関せずと言った様子でアシュリィの隣でジュースを飲んでいる。
騒ぐ息子の姿に、仁は手の中のマテリアプレートを眺めながら翔に訊ねた。
「これって、単体だと何か特別な事は出来るの?」
「仁さんが心配してるのは、マテリアプレートがベクターカートリッジみたいに怪人を生み出す事に繋がらないか、ですね? でしたら安心してください。確かにマテリアプレートで怪人になる事もありますが、それもプレートから能力を引き出す為のツールが無いと意味が無いので」
翔とアシュリィが元居た世界にもデジブレインと言う怪人が居たが、マテリアプレートでデジブレインになる為にはガンブライザーと言うツールが必要だった。つまり、マテリアプレートだけであればある程度なら弄っても何も問題はないと言う事になる。
まぁ、あまり乱暴に扱って壊されては堪ったものではないだろうが、流石に幼い子供が手に取っただけで壊れるような事はないだろう。
問題無いのであれば少し手に取るくらいは許してやろうと、仁は自分が持っていたマテリアプレートを雄司に手渡した。雄司は仁から受け取ったマテリアプレートを瞬きも忘れるくらいつぶさに観察し、先程までの暴れっぷりが嘘のようにおとなしくなった。我が子ながら好奇心の塊としか言いようのない姿に、父親ながら仁は翔に頭を下げた。
「ゴメンね、壊さない様に気を付けさせるから少しの間貸してもらえる?」
「アハハ……大丈夫ですよ」
「本当にごめんなさい」
我が子の我儘に付き合わせる事になってしまい、仁と亜矢は親として翔に申し訳なく思った。そんな2人に彼は頭を上げるように言った。
「気にしないでください。そう簡単に壊れる物じゃありませんし」
「そう言ってもらえると助かるよ」
これ以上は謝罪合戦になってしまうのを察して、仁は翔の厚意に甘える形で話を終わらせた。
そして話が一段落すれば、次は今後の行動に関する話になる。取り合えずそれぞれ大切な者と合流する事が出来た今、次の目標はこの世界に渡る事になった最大の原因である2体のメタローとの決着にあった。無論最終的な目標はそれぞれの世界への帰還だが、それは飽く迄最終目標であり今優先すべきは未だ健在なメタローの討伐である。
「翔兄ちゃんと仁兄ちゃんはこれからどうするの?」
「……帰る手段が分からない以上、暫くはこの世界に滞在する事になりますね」
「そうだね。……慌てて出てきたから金なんて殆ど持ってないし、多分この世界じゃカードも使えないだろうし……そうなると何処に滞在するかが問題か」
仁1人であれば別に野宿でも何の問題も無い。仁は仕事でフィールドワークに出る事も多く、その場合野宿する事もザラであった。だが幼い子供達は勿論、未成年の翔とアシュリィにまで野宿を提案するのは気が引けた。せめて彼らだけでもカプセルホテルか何かに押し込もうにも、肝心の手持ちが心許無い為そう長い時間滞在する事は出来ない。
まさか戦力以外の事で頭を悩ませるとはと仁が頭を抱え、翔もどうしようかと腕を組み天井を仰ぎ見る。亜矢とアシュリィは子供達を気に掛けながら自分達も何か案をだそうと考えを巡らせていると、唐突に章太郎が声を上げた。
「それならいい方法があるよ!」
「どんな?」
「ウチに泊まればいいんだよッ!」
章太郎の提案に、翔も仁も揃って目を点にしてしまう。彼の言っている事の意味を理解した亜矢は、腕に雄司を抱えながら章太郎に身を乗り出して彼の提案に対して否と答えた。
「だ、駄目ですよそんなのッ!? 見ず知らずの他人である私達を、そんな勝手に……」
「大丈夫大丈夫ッ! 前にもこの世界に来た仮面ライダーの人達を泊めた事もあったしッ!」
「前にも?」
「そう言えば章太郎君、この世界には仮面ライダーが特撮でしか存在してないって言ってた割に僕らを見ても直ぐに馴染んでたね」
「うん! ムゲン兄ちゃんや燐兄ちゃん、女ライダーの沙夜姉ちゃん何かが家に泊まった事あるんだ。だから今度も大丈夫ッ!」
決して大きくはない喫茶店だろうに、幼い子供2人を加えた総勢6人を泊めると言う。これには仁も翔も申し訳なさを感じずにはいられない。
「でも、迷惑じゃないかな? 亜矢さんも言ってたけど、僕達見ず知らずの他人だし、君の叔父さんだって困るんじゃない?」
翔が言外に自分達は出ていった方が良いのではないかと告げると、何時の間にか近くに来ていた権兵衛が新しいコーヒーを持って章太郎の提案を受け入れる旨を伝えた。
「大丈夫さ。さっき章太郎も言ってた通り、前にも何度か仮面ライダーを泊めた事はあるからね。もう慣れたもんさ」
何て事はない風に言いながらカップに温かなコーヒーを注ぐ権兵衛に、亜矢が本当に良いのかと驚きを露にしながら訊ねた。
「あの、本当に良いんですか? この子達に気を遣っているのであれば、申し訳ないんですが……」
「まぁ、小さい子供達を外に放り出すのに気が引けないと言えば嘘になるがね。だけど、こう言っちゃなんだけど、君らが仮面ライダーだって分かってからはこうなるんじゃないかと思っても居たんだ」
章太郎は超が付くほどの仮面ライダー好きだ。そんな彼が、本物の仮面ライダーを自分の傍から離れさせるわけがない。これまでだってそうだったのだ。こういう展開になるだろう事は予想していた。
それに、色々な打算もあった。一つはまたこの世界に本当に現れた怪人から、章太郎を守ってもらえると言う期待。彼ら仮面ライダーがこの世界にやって来たのなら、これまでに起こった事件の時の様に警察などではどうにもならない本物の怪人が出現すると言う事。それらが猛威を振るった時、近くに対抗できる力を持つ仮面ライダーが居てくれた方が遥かに安全だ。
そしてもう一つは、彼の家庭環境にも起因していた。
「前に、別の仮面ライダーの子達にも言ったんだけどね。この子は親が居なくて寂しい筈なのに、こうして明るく真っ直ぐに育ってくれた。そんなこの子が心から笑えるのなら、仮面ライダーを家で面倒見るくらい訳ないさ」
そう言って章太郎以外の6人を見渡す権兵衛の目は、何処か温かく身を委ねたくなるような心の広さを感じさせた。
まるで父親の様な包容力を感じさせる権兵衛の姿に、仁と翔は頷き合うと彼らの厚意に甘えることにした。
「それじゃあ、すみませんが……」
「お世話になります」
「応ッ!」
こうして新たにこの世界に迷い込んだ4人の仮面ライダーと2人の子供は、この世界の住人である権兵衛と章太郎の下に身を寄せる事となるのだった。
***
その日の夜、仁と翔は2人共店を閉めた後の喫茶店の床に寝袋を用意して床に腰を下ろして体を休めていた。この喫茶店にも住居部分に空き部屋はあるのだが、元々大人数で過ごす事を前提にしていない為寝泊まりに使える程の部屋は一部屋しか空いておらずしかも決して広くはない。子供2人を含めた6人が一度に就寝するのには少々狭く、最大でも子供を含めて4人が限界であった。
それならば一家で一つの部屋を使うべきと最初は翔とアシュリィが店舗の床で一夜を明かそうとしていたのだが、他ならぬ仁がそれに待ったを掛けた。曰く、自分は寝袋での就寝にも慣れているし、何より亜矢と子供達を助けてくれた恩人2人を床で雑魚寝させる訳にはいかない、と。
どういう割り振りにするかで仁と翔があれこれ意見を交わしたが、結局最終的には男女+子供達で分けると言う事で子供2人と女性2人が部屋を使う事になり、仁と翔が閉店後の店舗の床で雑魚寝と言う形で落ち着く事になった。
「すまないね。本当は君も部屋で休んでもらいたかったんだけど」
「気にしないでください。それに、流石のあの空間に男の僕が1人って言うのは少し居心地が悪いんで」
「だろうね」
別に翔の事を疑う訳ではないが、亜矢もアシュリィも揃って女性としての魅力に溢れている。そんな空間に男が1人放り込まれるのは、ある意味で地獄の様な状況だろう。少なくとも気を張り過ぎてまともに休む事は難しい。それならば多少寝心地が悪くとも、床に寝袋を敷いて雑魚寝する方が余程心身ともに休める。
それに、この状況はある意味で仁にとって都合が良かった。出会った時から、仁は翔とゆっくり話をしたいと思っていたのだ。
「……ところで翔君、実は君にずっと聞きたい事があったんだ」
「はい、何でしょう?」
自分が変身する仮面ライダーに関する事は、章太郎が居る場である程度だが話した。他に何が聞きたいのか分からず首を傾げる翔に、仁は少しの間口元に手を当て言葉を選ぶように考え込み、話す内容が纏まったのか顔を上げて口を開いた。
「あまり遠回しな言い方だと逆に警戒させるかもしれないから、敢えて直球で言わせてもらうね」
「はい……」
「翔君、君…………アシュリィちゃんもそうだけど、普通の人間じゃないよね? あぁもちろん、仮面ライダーだからとかじゃなくて、生物学的な話で」
「ッ!?!?」
仁の指摘に翔は目を見開き体をビクンと跳ねさせた。それは彼の指摘が事実だからに他ならない。翔もアシュリィも、過程は違えど同じアクイラの細胞を埋め込まれた存在。見た目こそ普通の人間だが、その中身は他の人間と比べると異なる。
問題は別の世界の人間である筈の仁が何故それを言い当てる事が出来たかであった。アシュリィを助けてくれた上に家族を愛する彼が悪人ではないと理解しているが、不可解な状況に翔の仁に向ける視線に険しさが宿る。
警戒されてしまった事に、仁は無抵抗を表す様に両手を上げ答えた。
「ゴメンよ、警戒させちゃって。安心して、別にその事を知ったからって君らをどうこうするつもりは無いから」
「……何で、僕とアシュリィちゃんの体の事が分かったんですか?」
「簡単さ。俺と亜矢さん、それに子供達も普通の人間じゃないからね」
「え?」
困惑する翔に、仁はベクターカートリッジを一つ取り出して説明した。
「詳しい内容は省くけど、この超万能細胞の影響で俺も亜矢さんもその細胞に適合した所謂新人類になったんだ。その恩恵で、普通の人間に比べて色々と感覚が鋭くてね。亜矢さんを探してる時に感じ取った君の匂いに、僅かにだけど人間のそれとは明らかに違う”何か”を感じたんだ。アシュリィちゃんからもね。それでもしかしたらって」
「そう、だったんですね」
言われてみれば翔も合点が入った。ここに来る途中、亜矢の傷の治りが明らかに早かったのはその新人類だからなのだ。
分かってみると、何だか彼らに対して親近感が湧いた。同じ人間という枠から外れた者同士だからか。毛色は違うが、それでも先程よりは距離が縮まったような気になった。
「あの、差し支えなければ、どんな感じだったか聞いても?」
「新人類になった時? まぁ、大変だったよ。何せ体の内側が遺伝子ごと書き換わる訳だからね。あの時は正直きつかった」
「仁さんもそうだったんですね」
「も、って事は君も?」
「はい、まぁ」
翔もまた、アクイラの細胞が覚醒し肉体が変化した時はかなり苦労したのを覚えている。しかもあの時はアシュリィが記憶を取り戻し、それが原因で翔の元を離れたりと大変な事が重なっていたので忘れる訳も無い。今になればいい想い出……とも言えないが、あの出来事を乗り越えて今があるのだから無碍にも出来ない想い出だった。
こうして話すと、自分達は共通点が多い事に気付いた。共に人間を超え、そして愛する者が居る。2人の違いを世界以外で挙げれば、後は結婚して子供が居るか否か位だろうか。
「その、仁さん」
「ん?」
「子供が出来るって、どんな感じですか?」
「……それは、アシュリィちゃんとの事を考えて?」
アシュリィは翔と同じ苗字を名乗っているが、2人の関係は血の繋がった兄妹などではなく恋人同士。そして行く行くは本当の意味で同じ性を名乗る間柄となる。その時、2人の間に新たな命が宿る事を考えると、近い境遇を持つ先達である仁に子供を持つとはどういう事かを聞いて見たくなったのだ。
その問いに対して、仁の答えは至極単純だった。
「いいもんだよ。凄くね……。可愛くてたまらない。きっと、君にも分かる時が来るよ」
そう答えた仁の表情は、とても暖かく慈愛に溢れたものだった。いずれ自分もそんな顔をするのだろうかと思うと、翔も自身の頬が綻ぶのを抑えきれない。
気付けば彼は仁に対して手を差し出していた。
「短い間かもしれませんけど、改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ、頼りにしてるよ」
同じ境遇を持つ者同士、2人は年齢も住む世界も何もかも違うが、それでも確かに共感できる相手に固い握手を交わすのだった。
一方女性陣の方はと言うと、宛がわれた一室で既に寝る支度を整えていた。子供達も合わせて風呂も済ませた彼女達は、急遽用意した寝間着代わりのジャージに身を包み敷かれた布団の上に横になる。
その際愛衣はアシュリィに抱き着く様にして眠っていた。アシュリィの身長の割に豊満な胸に顔を埋める様にして無防備な寝顔を見せる愛衣に、アシュリィは堪らず彼女をそっと抱きしめ背中を優しく撫でていた。
その様子を亜矢は微笑みながら見ていた。
「アシュリィさん、本当にありがとうございます。この子達を助けてくれて」
「気にしないで。放っておけなかっただけだから」
そう言いながら、アシュリィは優しい目つきで抱き着いている愛衣を見ていた。その様子から、彼女がどれ程優しい心の持ち主なのかが分かる。亜矢はクスリと笑みを浮かべると、自分の腕の中で同じように眠る雄司の頭を一撫でした。母親に撫でられたからか、雄司は心地よさそうな顔で小さく身動ぎする。
優しい母親の顔をして我が子を見る亜矢の姿に、アシュリィは同じ女性で仮面ライダーで、そして母親でもある彼女に興味が尽きなかった。
「ねぇ、アヤ?」
「はい?」
「アヤは最初、どんな気持ちで仮面ライダーになったの?」
アシュリィが仮面ライダーになった時は、翔が彼女自身を助ける為に一時的にだが死を選んだ後の事だ。あの時は愛する翔が命を賭してしまった事への悲しみと、彼への愛しさ、そしてその原因となった久峰 遼とハーロットの野望を打ち砕くと言う決意を胸に仮面を纏う戦士となった。
では同じ女性で、仮面ライダーで、しかも母親にまでなった亜矢の場合はどうなのだろうかと興味を持ったのだ。その問いに対し、亜矢は昔を懐かしむ様に当時の事を口にした。
「私は、そうですね……私は、仁くんを支えたい一心でした」
「ジンを支える?」
「はい」
思えばあの頃は大変だった。仮面ライダーと言う存在が世間に浸透しておらず、警察も仮面ライダーとファッジを殆ど同列に扱っていた。必然的に仁は周囲からの敵意を一身に受け止める形となり、亜矢はそれを見ているだけなのが苦しくて仕方なかった。
「だから、私も仁くんを支えようって思ったんです。危険だと分かっていても、仁くんの為に……」
「そっか」
何だか、分かるような気がした。状況も何もかも自分とは違うが、しかしその根底にあるのは間違いなく愛だ。亜矢もアシュリィも、心から愛する者への愛情を糧に戦いへと身を投じた。
その愛の結晶がこの子達なのだと思うと、アシュリィは自分も彼女達に倣いたくなり気付けばこの言葉を口にしていた。
「アヤ……子供を産むのって、どんな感じ?」
「え?…………翔君との間に産みたいの?」
アシュリィの様子から、彼女の想いを敏感に感じ取った真矢が表に出てそう問い掛ける。ドストレートに問われて、アシュリィは一瞬で顔が茹蛸の様に赤くなりながらも小さく頷いた。
「う、うん……何時か、大人になったら……」
【えっ!? でも翔君もアシュリィちゃんも同じ苗字で……】
「(イヤイヤ、見れば分かるでしょ? どう見ても2人に血の繋がりなんてないって。何か事情があって同じ苗字名乗ってるだけでしょ)」
同じ天坂性なのに翔との子供を望むアシュリィに困惑する亜矢に対し、真矢は2人の間に血の繋がりなどない事を看破。そしてアシュリィが、本当の意味で天坂の名を名乗りたいと思っている事も見抜くと、女性としての先達として彼女に色々と享受する事を決意した。
「よろしい! なら私が好きな男との付き合い方を色々と享受してあげるわ」
「あ、あれ? アヤ、何だか雰囲気違くない?」
「細かい事は気にしない気にしない」
それからアシュリィは、夜が更けるまで真矢から仁と過ごしてきた日々をつらつらと述べていった。その内容にアシュリィは顔を真っ赤にしつつ、気付けば対抗意識を燃やして自分と翔との熱い日々についてを述べ始めた。
何時の間にか部屋では真矢とアシュリィが互いの愛する人との関係に関して自慢し合う展開にまで発展し、それを真矢の内側から聞かされた亜矢はこの場に居るのが女性と寝ている子供達だけである事を天に感謝するのだった。
アズール未履修の方の為に補足しますと、翔君達アズール組はジオウと出会ってその時に翔君はライドウォッチの力でエグゼイドに変身した事がありました。事件解決後歴史が修正された影響でその時の事を翔君達は覚えていませんが、朧気ながらエグゼイドの事は記憶の何処かに微かに残っていた感じです。