仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ THE LOST CHILDREN   作:黒井福

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第7話:動き出す悪意

 仮面ライダー達がこの世界での拠点を手に入れ、日中の戦いの疲れを癒していた頃、彼らがこの世界に来る原因となった2体のメタローは街の外れにある廃墟となった工場で対面していた。

 

 スコーピオンメタローはフォッシルメタローの姿を見ると、自分の計画が狂った原因となる仮面ライダーを連れてきた相手に苦言を呈した。

 

『お前か? この世界に他所の世界の仮面ライダーを連れ込んだのは?』

『それはこちらのセリフだ。お前が余計な事をしてくれたおかげで、各個撃破するつもりだった仮面ライダーの数が増えてしまったではないか』

 

 どうやら彼等はお互いの存在をここで初めて知ったらしい。互いに別々の思惑をもってこの世界に足を踏み入れたが、予期せぬバッティングにより敵を増やしてしまった事はそれぞれにとって不幸と言う他ない。

 

『何を……!』

『何だ?』

 

 お互い一触即発となるメタロー達。スコーピオンメタローはデイナにより切断された尻尾を揺らし、フォッシルメタローは体のあちこちから様々な恐竜の化石を浮き上がらせる。

 

 今正に不毛な潰し合いが起ころうとしたその時、両者の間に糸の塊のようなものが飛んできた。糸の塊は地面に当たると、両者の足元に広がりそれぞれの足を拘束する。

 

『ん?』

『あ?』

 

 突然の事に面食らうメタロー達。そこに暗がりから新たな異形が姿を現した。下半身がクモ、上半身が人間の所謂アラクネと言う架空のモンスターとしか言えない異形は、片手に切断されたスコーピオンメタローの尻尾の先端を持ち近付いた。

 

『アンタか』

『何をしに来た?』

 

 突如現れた異形、その名はアラクネデリーターは言葉を口にせず、メタロー達の足を拘束している糸を外すとスコーピオンメタローの尻尾を掴み切断された部位を手の平から出した糸で接合した。一見すると糸で繋げただけの様に見えるが、糸が特殊なのかそれともメタローの体質が特別なのか、繋げられた尻尾の先端は自在に動き接合部が目立つ以外は元通りと言っても差し支えない状態になっていた。

 失われた尻尾が元通りとなった事にスコーピオンメタローは喜びの声を上げる。

 

『おぉっ! ありがてぇ!』

『協力してくれる、という事か?』

 

 アラクネデリーターはメタロー達が所属する魔人教団とは別の組織・ヴァンダルリーグに所属する怪人だ。彼らは魔人教団を始めとした並行世界を股にかける組織と協力・取引している組織であり、この世界でも既に来訪した仮面ライダー達と何度かぶつかり合っていた。

 

 フォッシルメタローの問いにアラクネデリーターが無言で頷く。彼らヴァンダルリーグの力が借りられるとなればその力は百人力だと、メタロー達は意気込みを新たにした。

 

『よっしゃ! ヴァンダルリーグが手を貸してくれるならこっちのもんだ。あの双子を連れ帰って、新しい怪人を作る!』

『双子はどうでもいいが、ヴァンダルリーグの力が借りられれば増援の無い仮面ライダーなど恐れる必要も無い。その力、期待させてもらう』

 

 フォッシルメタローが確認するように言えば、アラクネデリーターは承知していると言う様に再び無言で頷いた。感情を感じさせないその様子に面白みの無さを感じつつ、同時に頼もしさを感じてメタロー達は喉の奥で笑いながら互いに顔を見合わせた。

 

『で、これからどうする?』

『決まってんだろ。仮面ライダー共に仕掛ける。アイツらはこっちに強力な戦力が入った事を知らねえんだからな。これを利用しない手はない』

『然りだな。理想を言えば奴らが分かれた時を狙いたいが……』

『奴らも俺達を放置する事はしないだろう。だが双子を放置するとも考えられん。俺達を探す者と双子を守る者に分かれる筈だ』

『なら、狙うのはそこだな』

 

 メタロー達が今後の予定について話し合うのを、アラクネデリーターが人間の頭と蜘蛛の頭で静かに見つめていた。

 こうして人知れず、悪の計画が胎動していたが、その事に気付く者は誰も居なかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日、仁と翔の2人は街へと繰り出していた。目的は彼らをこの世界に連れてきた原因であるメタローの捜索である。スコーピオンメタローは雄司と愛衣を狙っているし、フォッシルメタローは明確に仮面ライダーの命を狙っている。仮面ライダーが存在しないこの世界で、奴らを放置する事はあまりにも危険すぎると言う事で2人はパトロールも兼ねて街へと捜索に出ていたのだ。

 

 とは言え、手掛かりになりそうなものは何もない。最初は仁が嗅覚強化で匂いを辿ろうとしたが、連中は空間を移動出来る為匂いが途中で途切れてしまい追跡する事は不可能に近かった。

 

 しかし不可能に近いが、奴らの匂いが風に乗って仁の元まで届けば大まかな居場所や痕跡を辿る事は出来る。

 

「どうです、仁さん? 何か感じ取れました?」

「ん~……ダメだね。今のところ何も感じない」

 

 暫く街中を彷徨いながら仁が空気の匂いを嗅ぎ、スコーピオンメタローの存在を捉えようと意識を集中させる。だが成果は芳しくなく、今のところは無駄足を踏んでいると言わざるを得ない状態であった。

 

 午前中一杯探し回り、何の成果も得られなかった2人は休憩も兼ねて近くのファミレスに入り軽く昼食をとることにした。手持ちはそんなに多くは無いが、それでもファミレスで軽く食事を摂る事が出来るくらいの資金はあった。

 

「見つかりませんね」

「多分だけど、連中も昨日の戦いの傷を癒す為に大人しくしてるんだと思う」

 

 翔はサンドイッチ、仁はパスタをそれぞれ口に運びながら捜査に行き詰っている現状に意見を出し合う。

 

「アシュリィちゃんをこの世界に送ったフォッシルメタローって奴は、僕と亜矢さんとの戦いで翼を傷付けられました」

「俺とアシュリィちゃんが戦ったスコーピオンメタローって奴は、尻尾を切り落としてやった。だから次に戦えるようになるまではまだ時間が掛かる筈」

 

 無論それは相手に急速に傷を癒す手段がないことが前提の話である。敵の戦力の詳細が分からない以上、気を抜くのは危険だと仁も翔も食べながら警戒を怠っては居なかった。

 

 それが功を奏したのだろう。2人は店の外で起きた異変にすぐさま反応する事が出来た。

 

 突如店の外の通りで起こった爆発に、同じ店で食事をしていた客が騒然となる中、2人は一早く立ち上がると叩き付けるようにレジに料金を置いて外に飛び出した。

 

 2人が店の外に出ると、そこではプテラノドンを始めとした様々な翼竜の化石が空を飛び回り、街に向けて火球で空爆をしている光景が広がっていた。

 化石が自在に空を飛び回ると言うあまりにも現実離れした光景に、しかし翔は見覚えがあった。

 

「これはあのフォッシルメタローって奴のッ!」

「どうやら本格的に動き出したらしい。問題は本体がどこに居るかって事だけど……」

 

『お探しかな?』

 

 2人が逃げる人々の邪魔にならないよう注意しながら周囲を警戒していると、徐に物陰などから様々な化石が出てきて集まり、人型の怪人を形作る。

 程無くしてそこには、アシュリィをこの世界に放り込み翔をこの世界に引き込んだ張本人であるフォッシルメタローが姿を現した。

 

「フォッシルメタローッ!」

「コイツか……お仲間は一緒じゃないんだな?」

『フンッ、スコーピオンメタローの事か。奴は奴でやる事があるのでな』

「……マズイな」

「仁さん、まさか……!」

 

 フォッシルメタローの物言いから、スコーピオンメタローが別行動している理由に2人は見当がついた。スコーピオンメタローは別行動している雄司と愛衣を改めて攫おうとしているのだ。今2人は章太郎の店で、亜矢とアシュリィと共に留守番をしている。あちらにも2人の仮面ライダーが居るので今すぐどうにかなると言う事はないだろうが、敵側に新たな戦力が参加していないと言う保証はない。

 

 2人は一瞬互いに目配せすると、小さく頷き合いそれぞれのドライバーを取り出した。

 

「フォッシルメタロー……これ以上お前達の好きにはさせないッ!」

《ブルースカイ・アドベンチャー!》

「この世界は、子供達は……俺達が守る」

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

 

 仁と翔が腰にドライバーを装着し、変身アイテムを起動させる。それに対しフォッシルメタローは周囲を飛び回っていた翼竜の化石を呼び寄せ、その身に鎧の様に纏った。

 あちらも本気で戦うつもりなのを見て、2人も決戦に臨むつもりでその言葉を口にした。

 

「「変身ッ!」」

《Alright! マテリアライド! ブルースカイ・アプリ! 蒼穹の冒険者、インストール!》

〈Congrats! Birth of a new life, MINOTAUR. Open the door〉

 

 変身した仮面ライダーアズールと仮面ライダーデイナは、共に武器を構えフォッシルメタローと対峙する。対するフォッシルメタローも、両手に何らかの化石の爪を手甲の様に纏い臨戦態勢を取る。

 

 睨み合う両者はそう間を置かず、互いに突撃し刃と爪をぶつけ合うのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 時は少し遡り、喫茶店Hamelnは久し振りの盛況となっていた。その理由は臨時でこの店でバイトとして働く事になった亜矢とアシュリィにある。

 

「いらっしゃいませ! こちらの席へどうぞ!」

 

 亜矢は元の世界で学生時代にマドンナとして男子生徒から注目を集めていた。その彼女が笑顔で接客する事で、あっと言う間に噂が広まり男性客を中心に店には多くの客が訪れていた。美貌は元より、元々人当たりの良い性格である亜矢は相手に合わせて真矢と入れ替わり、あっと言う間に男性客の心を掴んでしまった。

 

 一方、アシュリィはこちらはこちらで亜矢とは別の人気を博していた。

 

「どうぞ……」

 

 亜矢と違い愛想を振る舞う相手を選ぶ彼女は、一見すると不愛想で客商売には向かないかのように見える。だがぶっきらぼうな中にも彼女なりの確かな気遣いがあり、それが彼女の美しさと可憐さ、そしてドライな中に存在するギャップとして一部の客の心をこれまた鷲掴みにしていたのである。

 

 2人が店でバイトとして働いている理由は、偏に一宿一飯の恩を返す為。元の世界に帰れる見込みが今のところない以上、当面はここで世話になるしかない。仁と翔がメタロー達を探す為に席を外している今、穀潰しになる訳にはいかないと言う事で2人は店を手伝うことにしたのである。

 

 この盛況ぶりに、店主である権兵衛は以前この世界に訪れた仮面ライダーの少年たちの事を思い出していた。

 

「いやぁ~、燐君達が来た時の事を思い出すねぇ。あの時は女性客が多かったけど、今度は男の客だらけだ」

 

 嬉しい悲鳴を上げながらも、ひっきりなしに入って来る注文を的確に捌く権兵衛。

 その忙しさは午前中一杯続き、昼も過ぎた頃に漸く落ち着きを取り戻した。

 

「はぁ~……疲れたぁ……」

「人、沢山来たね」

「2人共、お疲れさま。まぁこれでも食べて」

 

 予想以上の客入りに仮面ライダーとして戦ってきた時とは別の疲労を感じ、テーブルの上に突っ伏する2人に権兵衛が賄いで作ったカレーライスを差し出した。カレー特有のスパイシーな香りが、疲れた体を刺激し空腹が体を動かす。

 

「ありがとうございます。いただきます」

「いただきます」

 

 普段家で作るのとはまた違う喫茶店のカレーの味。ルーに使うスパイスを特別に配合しているのか、レトルトや固形のルーとはまた違った味わいに2人はスプーンが止まらなかった。

 

「んん! 美味しいッ!」

「ホント、凄く美味しい……!」

「口に合ってくれたようで良かったよ」

「ありがとうございます。寝る場所を貸してくれたばかりか、子供達の世話まで見ていただいて」

 

 現在雄司と愛衣の2人は、章太郎が面倒を見ている。幸運にもこの日は学校が休みの日だったので、暇を持て余していた章太郎に2人を任せる事が出来たのだ。

 恐らく今頃は居間で仮面ライダーのDVDでも見ている事だろう。好奇心旺盛な雄司はともかく、アシュリィに懐いている愛衣が我儘を言ったりして迷惑を掛けていないだろうか?

 

 そんな事を亜矢が考えていると、店の奥から雄司が物凄い勢いで飛び出し亜矢に抱き着いて来た。その後ろから章太郎と愛衣がついてきて、愛衣はアシュリィの姿に迷わず彼女にしがみ付いた。

 

「わっ!? と、雄司? どうしたの?」

「愛衣ちゃん?」

 

 見ると2人共何だか様子がおかしい。特に雄司は何かに怯えている様に体を震わせていた。権兵衛がどうしたのかと章太郎を見ると、彼も訳が分からないようで自分は何もしていないと両手を上げつつ首を傾げた。

 

「どうした章太郎? 何があった?」

「分かんないよ。雄司君の方が急に飛び出して、そしたら愛衣ちゃんの方もつられて走り出したんだ」

「愛衣ちゃん、どうしたの?」

「う、う~~~~……!?」

 

 アシュリィが優しく愛衣に問い掛けるが、彼女は目に涙を浮かべてアシュリィにしがみ付くだけであった。困惑した彼女が助けを求めるように母親である亜矢を見ると、彼女は怯えた様子の雄司を優しく撫でて宥めながら何やら険しい表情を浮かべていた。

 

「……雄司、落ち着いて教えて。何か来るの?」

「ん、うん……」

「そう、分かった」

 

 短いやり取りの中で亜矢は全てを察すると、アシュリィに向けて無言で頷いた。それを見てアシュリィも何かを察した。亜矢が纏う剣呑な雰囲気、それはこれから戦いがある事を意味するものであった。

 

「愛衣ちゃん、大丈夫。お姉ちゃんがママと一緒に守ってあげるから」

「お姉ちゃん……」

「大丈夫」

 

 優しく言い聞かせるようにアシュリィが告げると、愛衣はやっと落ち着きを取り戻したのかまだ怯えながらもそっと名残惜しそうに離れる。雄司も亜矢により落ち着かされ、離れさせられると権兵衛と章太郎に2人を託した。

 

「この子達の事をお願いします。危ないので、決して店からは出ない様に」

「わ、分かった。けど、一体何が……?」

「今は、危険が迫っているとだけ……」

 

 赤ん坊の頃から、特に雄司は本当に危険な何かが近付いてくる事に対してはとても敏感だった。恐らく今回も、敵の接近に直感でいち早く気付いたのだろう。

 

 亜矢とアシュリィはエプロンを外して店の外に出た。するとそれを待っていたかのように、2人の前にスコーピオンメタローが姿を現した。

 

『よぉ、また会ったな?』

「あなたですか。お仲間は居ないんですね?」

『あぁ、アイツは別に動いてる。今頃はお前らのお仲間を血祭りにあげてるだろうさ』

「ショウはお前らに負ける程弱くない。逆にお前の仲間の方を心配した方が良いんじゃないの?」

 

 スコーピオンメタローに対して、アシュリィはかなり棘のある言葉を口にした。それと言うのも、彼女がこの世で嫌いな物の中にサソリがあったのだ。しかも先日の戦いで彼女はスコーピオンメタローにより痛い目に遭わされた。子供達を解放する事で一矢報いたとも言えるが、サソリを相手に倒された事は彼女にとって酷く業腹な出来事であった。

 

 端的に言うと、今すぐ視界から消えて欲しいとすら思っていた。

 それは亜矢と真矢も同様である。彼女もまた元居た世界でスコーピオンメタローを相手に煮え湯を飲まされ、子供達を一度は攫われた。その時の借りを返したくて仕方が無かった。

 

「ちょうどいいわ、リベンジマッチと行きましょ。アシュリィちゃん、準備は良い?」

「勿論」

 

 真矢とアシュリィは共に不敵な笑みを浮かべて頷き合う。元の顔が揃って美人な2人がそんな顔をすると、言葉では言い表せない迫力があった。

 その様子は何時の世、どの世界でも、女性を迂闊に怒らせてはいけないと言う事を如実に表していた。

 

〈CAT Unite〉

《オトギガールズ・レヴュー!》

 

『……ハッ! 面白れぇ……!』

 

 腰にベルトを巻いた2人が変身アイテムを起動させるのを見て、スコーピオンメタローは再生した尻尾の針から毒液を垂らす。垂れた毒液が地面を溶かし煙を上げるのを見ながら、2人の女戦士が声を張り上げた。

 

「「変身ッ!」」

〈Open the door〉

《Action! フォニック・マテリアライド! オトギガールズ・アプリ! 歌激なる御伽女、カーテンレイズ!》

 

 2人の幼い子供を狙う怪人の企みを阻止せんと、2人の戦乙女が立ちはだかる。

 

 それは奇しくもデイナとアズールが変身したのと時を同じくしていた。

 

 音もなく、示し合わせた訳でもなく、しかし確かに戦いの狼煙が上がった瞬間であった。

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