仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ THE LOST CHILDREN 作:黒井福
多少の苦戦を強いられながらも、協力してスコーピオンメタローに勝利を収めることに成功したルーナとピクシー。
その2人の元へ、それぞれが愛するパートナー達が合流した。
「アシュリィちゃん!」
「亜矢さん、真矢さん。皆、無事?」
「ショウッ!」
「仁くんっ!……勿論!……と、言いたいところだけど、私はちょっと厳しいかな?」
共に無事を喜び合うアズールとピクシーに対し、ルーナは少し申し訳なさそうに自分の足を見た。スコーピオンメタローに毒液を掛けられた事で焼かれた足は、幸いな事に溶けて無くなるという事になってはいないが変身していても尚痛々しい。装甲とアンダースーツが解けて焼け爛れた様子に、改めてそれを見たピクシーとアズールが仮面の奥で顔を顰めた。
「うわ……亜矢さん、大丈夫ですか?」
「ゴメン、アヤ……私を庇って……」
「気にしないでください。暫くの辛抱ですから」
「暫くなんて時間かけなくてもいいよ。俺が何とか――――」
デイナが負傷したルーナの治療の為に”あるフォーム”になる為のカートリッジを取り出した。今変身するのに使用しているカートリッジの片割れと同じ、白いヒューマンベクターカートリッジ。同じ種類のカートリッジを使用して至る事の出来る最強の姿になろうとした彼だったが、その直前飛んできた糸の塊が彼の手からベクターカートリッジを弾き飛ばした。
「うわっ!? くッ、誰?」
まるで気配を感じさせず、出し抜けに行われた攻撃にデイナだけでなくアズール達も周囲を警戒する。
その彼らの前に姿を現したのは、先程まで戦ってきたメタローとは全く違う存在感を放つ異形の存在。人間の上半身に、下半身は腰から下が丸々一匹のクモと言う姿のそれは、アラクネと言う怪物を思い起こさせる。
その怪人、アラクネデリーターの出現にデイナとアズールは最大限の警戒心を向けた。本能で察したのだ。あれはヤバいと。
「亜矢さん、真矢さん。ゴメン、暫くそのままで待ってて」
「ご心配なく。この状態でも皆さんの援護は出来ます」
「無理しないでください。アイツは僕達で相手をしますから」
「ショウ、来るよ」
4人の仮面ライダー達が身構える前で、アラクネデリーターが動き出す。下半身のクモの体にある8本の脚を素早く動かし、大柄な見た目に反する機動力で仮面ライダー達に肉薄した。
「ッ! くッ……」
「仁さんッ!」
予想以上……と言う程でもない速度で迫るアラクネデリーターを前に、真っ先にデイナが動いた。彼は一早く一行から離れると、ライフルモードのハイブリッドアームズで挑発する様にデリーターを撃った。挑発と言っても、狙いは正確で銃弾はどれも胸や頭部など威力を発揮すれば確かなダメージが見込める場所を集中して狙っていた。
しかし彼の撃った銃弾は、どれも命中こそしたが全て弾かれ表面に僅かな傷をつける程度の威力しかなかった。頭を多少揺らし体を軽く仰け反らせる事は出来たが、所詮はその程度である。
尤も彼自身、この攻撃でコイツが倒せるなどとは思っていない。彼の目的はアラクネデリーターの進路を変更させる事にあった。あのまま直進を許しては、足を負傷して満足に動けないルーナやその後ろのHamelnにまで被害が及ぶ危険があった。それを回避する為、彼は危険を承知で単身その場を移動しながら攻撃をして注意を引いたのである。
彼の行動が功を奏し、アラクネデリーターの向かう先が単独行動をしたデイナの方に向いた。その事に彼は内心でガッツポーズをしつつ、同時に迫るアラクネデリーターをどう対処したものかと言う悩みを抱える事となった。
(見た所クモの能力を強く持つ奴みたいだ。となると地上での機動力はこっちの遥か上を行くな)
クモと言えば一般には木の間や部屋の隅に巣を張って獲物を待つ、動きの少ない虫という印象を持たれがちだがそれは誤りだ。クモは優れた感覚器官と8本の脚を巧みに使った、陸上でも屈指の機動力と索敵能力を持つ虫なのである。イエグモとして室内によく姿を現すクモでさえも、自身の何倍もの高さ・距離を跳躍する事が出来るハエトリグモに、素早さにおいては上位に入るものを持つゴキブリをも捕らえる速度で走るアシダカグモなど挙げれば幾らでも出てくる。
そんな事を頭の片隅で考えながら銃撃しつつ距離を取っていたデイナに向け、アラクネデリーターは徐に手を向けてきた。不可解な行動に彼が仮面の奥で訝しげな顔をしていると、その手の平にある穴から無数の意図を束ねたような塊が飛び出し彼に向けて飛んできた。
「うぉっ」
寸でのところで躱したデイナだったが、彼を通り過ぎた糸の塊はそのまま素通りして彼の背後にあった街灯にくっつく。糸の塊が直撃したにしては明らかにおかしな音を立てたそれに、彼が思わず背後を振り返っていると次の瞬間アラクネデリーターは自身が放った糸を今度は巻き取るように引っ張った。デリーターの体の中からモーターが回るような音が響いたかと思うと、発射した糸が見る見るうちに今度はデリーターの掌の中へと引っ込んでいく。すると当然デリーターは糸に引き寄せられ、結果としてデリーターはデイナに向けて一気に突撃する形となった。
「あ、ちょ――」
予想以上の速度で突っ込んでくるアラクネデリーターにデイナも反応が僅かに遅れ、糸を巻き取る速度を利用したタックルを回避する事が出来ず轢かれるように撥ね飛ばされた。
「ぐぁっ!?」
「仁くんッ!?」
「ショウッ!」
「うんッ!」
デリーターに撥ね飛ばされ壁に叩き付けられたデイナを援護すべく、アズールとピクシーが攻撃を仕掛ける。街灯から糸を外してデリーターが振り返ると、2人の仮面ライダーがそれぞれ剣を振り下ろして斬りかかった。
「ハッ!」
「ヤァッ!」
風を味方につけ鋭い斬撃を放つアズールに、軽やかな身のこなしで刺突を繰り返すピクシー。その合間にルーナが狙撃し徐々にダメージを与えていくが、見た目以上に頑丈なのかアラクネデリーターに弱る様子が見られない。
それどころか、デリーターは次第にアズール達の動きに慣れてきたのか攻撃されるよりも先に腕や前足の部分についた鋭い爪で反撃してくるようになった。
「うわっ!? くッ!」
アラクネデリーターはクモの下半身と言う自身の体の構造を活かし、蜘蛛の体の後ろの6本の脚で体を支えて2本の前足と腕での攻撃で逆にアズール達を追い詰めていく。見た目以上に素早い動きで前線に出た2人の仮面ライダーを翻弄しつつ、チクチクと狙撃してくるルーナに対しても糸を放ち絡め取ろうとしてくる。
「くそ、このッ!?」
「アヤ、危ないッ!?」
「あ……!?」
アズールとピクシーはアラクネデリーターの苛烈な攻撃にその場に釘付けにされ、動けないルーナへの援護が出来ない状態に陥っていた。このまま彼女が糸で絡め取られたら、最悪盾にされてこちらの攻撃が妨害されてしまう。
だがそうなる前に、最初にデリーターのタックルを受けて壁に叩き付けられていたデイナが復帰し、糸に絡めとられる前にルーナを横抱きにするようにしてその場から離れた。
「あぶな、大丈夫亜矢さん?」
「はい。仁くんは?」
「何とか」
デイナはそのままルーナを章太郎たちの近くまで運んだ。残念だが素早い機動力を持ち且つ中~遠距離への攻撃手段も持つアラクネデリーターに対し、機動力を封じられたルーナは的でしかない。これ以上戦う事は彼女自身だけでなく、彼女をフォローするデイナ達をも危険に晒してしまう。故に彼は彼女を店まで下がらせることにした。
「亜矢さん達はここに居て。後は俺達で何とかするから」
「すみません、役に立てなくて」
「そんな事無いよ。今は休んでて」
そう言ってルーナの頭を撫でたデイナは、章太郎たちに彼女を任せるという様に頷きかけるとハルバードモードのハイブリッドアームズを構えてアラクネデリーターとの戦いに加わった。
「ゴメン、遅れた」
「いえ。それより、コイツ……!」
「くっ! 強い……」
デイナがルーナと共に戦線を離れている間、アズールとピクシーはアラクネデリーターを2人だけで倒そうと奮闘していた。だがしかし、アラクネデリーターの力は彼らの予想を遥かに超えていた。多脚である事を活かした素早い動きはアズールの目をも翻弄し、図体の割に壁などに貼り付ける身軽さはピクシーの刺突を難なく回避した。その上奴はなかなかに狡猾な戦いをしており、自分が元居た場所に何時の間にか糸のトラップを用意して2人を絡め取ろうとしてくるのだ。
「ッ!? アシュリィちゃん、そこ離れてッ!」
「と、わっ!?」
風を操った際に僅かに感じる振動から、アズールが糸のトラップの存在に気付き巻き込まれそうになっていたピクシーに警告する。お陰でギリギリのところで糸に絡めとられる事は防げたが、その際に出来た隙をアラクネデリーターは見逃さなかった。動きを止めたピクシーに、アラクネデリーターが飛び掛かり圧し掛かるようにして上から押さえつける。
「うぁっ!?」
上から押さえつけられ、8本の脚がそれぞれ彼女の手足を挟み身動きを封じる。地面に磔にされ抵抗すら塞がれたピクシーの目に、アラクネデリーターの下半身のクモの頭の牙が映った。ギチギチと音を立てて蠢く鋏角に生理的嫌悪を感じた彼女は、拘束から逃れようと身を捩るが手足をがっちり挟まれ抑え込まれている為逃げる事が出来ない。
「くっ!? この、離してッ!?」
自分の下で藻掻くピクシーの姿はさながらクモに囚われた蝶も同然。アラクネデリーターは捕えた獲物を貪ろうとするかのように食らい付こうとするが、それはデイナとアズールが許さなかった。
「させるか、よっと」
「アシュリィちゃんから離れろッ!」
デイナの斧槍とアズールの剣による一撃が、アラクネデリーターを浮かせピクシーを拘束から解放する。その隙に転がるようにして抜け出したピクシーは、デイナとアズールの相手に夢中になっているアラクネデリーターにお返しとばかりに背後から刺突を見舞おうとする。が、彼女が剣を構えて飛び掛かった次の瞬間、クモの腹の先端から糸が飛び出し空中にいたピクシーの体を絡め取ってしまった。
「あっ!? しま、くっ!?」
糸は藻掻けば藻掻くほど体に絡みつき彼女の自由を奪う。その状態でアラクネデリーターが体を振り回せば、ピクシーの体はそれに引っ張られて振り回され周囲の壁や地面、街灯に何度も叩き付けられる。
「うぁっ!? あ、ぐっ!? あぁぁっ!?」
「ヤバい……!?」
「止めろぉッ!」
このままではピクシーが危険だ。そう察した2人は彼女を救うべく連続で手にした武器を振り下ろす。鋭いアズールの斬撃に、コンクリートを粉砕する威力のデイナの一撃を何度も喰らってアラクネデリーターはピクシーへの攻撃を止め2人への反撃に移る。
この瞬間をデイナは待っていた。
「翔君、今だ」
「はいッ!」
アラクネデリーターがピクシーを振り回すのを止め、前方の2人に反撃しようとクモの前足を振り上げる。その瞬間デイナは1人アラクネデリーターの真下に回り込む様にして押さえつけると、その間にアズールがアラクネデリーターの背後に回りアシュリィを拘束している糸を切断。そのまま傷付いた彼女を連れ後方へと下がった。
「アシュリィちゃん、大丈夫?」
「う、うぅ……ん、うん」
何度もあちこちに体を叩きつけられたダメージから、ピクシーの変身が解除されてしまった。全身傷だらけになりはした彼女だったが、辛うじて意識は残っていたのかアズールからの問い掛けに小さく頷く事で応える事が出来た。まだ彼女が意識を保てる程度にはダメージが抑えられていた事に安堵の溜め息を吐くと、彼は彼女を連れてルーナの元へと向かい権兵衛に預けた。
「すみません、アシュリィちゃんをお願いします」
「あ、あぁッ! 任せろッ!」
「おねえちゃんッ!?」
アシュリィを休ませるべく奥へと引っ込む権兵衛に、彼女に懐いている愛衣が続く。アズールはそれを見届けると、1人アラクネデリーターの相手をしているデイナに加勢する為即座に引き返した。
デイナは1人でアラクネデリーターと戦っていたが、流石に一度に複数の仮面ライダーを同時に相手取って優位に立てる相手に1人で戦い続けるのは彼でも厳しいらしくかなりの苦戦を強いられた様子だ。それこそゲノムチェンジして他のフォームを使う余裕すらない程に。
「ハッ、くッ!? ぐっ!?」
振り回される前足と両腕に加え、手や腹から発射される糸がデイナの行動を阻む。既に一瞬の隙を突かれてハイブリッドアームズは手からもぎ取られ、今彼は素手での戦いを余儀なくされていた。流石の彼も2本しかない腕では出来る事に限りがある。しかも相手の一撃はパンチ一つでこちらを壁にめり込ませるほどの威力を持つのだから、攻撃だけでなく防御にも意識を向ける必要があった。
そんな彼の窮地をアズールが救った。彼は真空刃による攻撃でアラクネデリーターを足止めすると、そのままの勢いで飛び蹴りをお見舞いし大きく蹴り飛ばした。
「ハァッ! っと、お待たせしました」
「いや……ふぅ、助かったよ」
「少し休んでてください。ここからは僕が……」
そう言いながらアズールは何時の間にか傍を漂っていた青い宇宙戦闘機の様な物を手に掴み、機首に当たる部分を引っ張った。するとそれは大型戦闘機から小型戦闘機に分離し、さらに小型戦闘機のボディにあるサークル上のプレートをマテリアフォンに翳した。
《ブレイクスルー・ドッキング!!》
音声を聞きながらアズールは分離した戦闘機の機首と本体の内、左手に持った方をアプリドライバーの左側に装着。するとサークルがベルト中央に展開し、続けて彼は機首にあるスイッチを押し込んだ。
《
音声を聞き、アズールがマテリアプレートを挿し込むと左側のユニットの主翼が広がりボディが伸びた。その姿はまるで別の戦闘機の様である。
《ビヨンド・ザ・ブルースカイ!! ビヨンド・ザ・ブルースカイ!!》
「リンクチェンジ!」
《Alright!! ユニバース・マテリアライド!! エタニティ・アプリ!!》
青い極光と煌めく粒子が∞を描きながら動きアズールの全身を包み込む。
それは、己の身に刻まれたある種汚呪いのような力を我が物として未来を切り開いた希望の力。
《夜空に瞬く幾千の綺羅星!! 銀河を彩る神々しき惑星!! 無限に拡がる大宇宙、エヴォリューショォォォン!!》
青い光が漆黒のアンダースーツを形成し、虹彩の粒子がちりばめられたディープブルーのアーマーに装甲の縁が金色で彩られる。それまでの騎士然とした姿から一変、サイバーチックで鋭角のフォルム、しかし同時に神々しさと禍々しさと言う相反する印象を抱かせる造形。胸の中央には緑色の水晶のような物が生み出され、そこに地球の惑星記号が浮かび両肩には右肩に太陽、左肩に月を模した水晶が作られた。
最後に背中から伸びる深青のマントの裏地には星々が描かれ、銀色の相貌を輝かせる姿は救世主とも大魔王とも取れる姿であった。
これこそがアズールの最強の姿、その名もアズールメビウス。嘗て歪んだ欲望を断ち、未来を掴み取った戦士の姿であった。
「行くぞッ!」
《アーカイブレイカー! アズールセイヴァー!》
戦闘機の胴体を模した盾と、通常時のそれよりも拡張・延長された刀身を持つ剣を構え、一気に肉薄する。迫るアズールをアラクネデリーターが糸を放ち迎え撃つが、放たれた糸はアズールブレイカーにより阻まれ彼を絡め取る事が出来ない。
アラクネデリーターに接近したアズールは、手にした剣を一閃し相手を切り裂こうとする。だが相変わらず素早い動きのアラクネデリーターは、ただの斬撃を受ける程容易い相手ではなくあっさりと回避されてしまった。
するとアズールは、ボディの各所にある噴射口から星の様に煌めく粒子を飛び出させ、それが彼の頭上で様々な武器を形取った。
《アズールセイバー!》
《リボルブラスター!》
《スタイランサー・スピアーモード!》
《スタイランサー・ボウガンモード!》
それは彼自身が使う物だけでなく、彼の仲間の仮面ライダー達が使ってきた武器。頭上に展開したそれらの武器は、誰が手に取っている訳でもなく銃弾や矢を放ち次々とアラクネデリーターに襲い掛かった。
「!?」
これには流石にアラクネデリーターも危機感を感じたのか、僅かに目を見開くと全力で回避し攻撃をやり過ごした。だがアズールの苛烈な攻撃は、アラクネデリーターに反撃の隙を与えない。
つい先程まで一方的に攻撃する側だったアラクネデリーターが今は逆に追い立てられる側になっている。その光景にデイナも圧倒され、同時に置いてきぼりにされる形になった事に若干の寂しさを覚えていた。
「は~、凄いもんだ。俺もニュージェネレーションになれればついていけるんだけど……」
肝心のもう一つのベクターカートリッジが見当たらない。先程弾かれた際に何処かへ飛んでいってしまい、見つからないのだ。これでは後の戦闘をアズール1人に任せる形になってしまう。大人として、自分より年下の少年に任せるのは気が引けた。
せめて援護くらいはしようとデイナが隙を見てアラクネデリーターに攻撃を仕掛ける様子を、遠くから章太郎たちが見ている。と、その時何を思ったのか戦いを見守っていた雄司が何処かへと行こうとした。それも店の奥ではなく、戦場の方へ。
これは流石に危ないと、ルーナが我が子を必死にその場に留めようとした。
「ダメよ雄司ッ!? あっちに行っちゃダメッ! 危ないでしょ?」
「ん~! あそこ、あそこ~!」
「あそこ…………あッ!」
雄司が何かを見つけたらしきことに気付いた章太郎が、雄司の視線の先を辿るとそこにあったのはデイナの手から弾かれたベクターカートリッジがあった。雄司はあれを見つけ、デイナに必要だからと拾いに行こうとしたのだ。
それを見た瞬間、章太郎は考えるよりも先に体が動いていた。
「あっ!? 章太郎君ッ!?」
章太郎は危険を顧みず駆けだすと、何時流れ弾や戦闘の余波が飛んできてもおかしくない中で手のひらに収まる程度の小さなカートリッジを拾い、それをデイナに駆け寄りながら投げ渡した。
「仁兄ちゃんッ! これッ!」
「え、ちょ――!」
章太郎が投げてきたベクターカートリッジを受け取りつつ、デイナは彼に近付き危ない事をした彼を叱ろうとした。
「危ないじゃないか。何でこんな……って、これ……」
が、投げ渡されたのが今正に欲していたカートリッジ……二個目のヒューマンベクターカートリッジであった事に、たった今抱いていた叱ろうという気持ちも思わず引っ込んだ。
「何か分かんないけど、雄司君が凄い反応してたから」
「あの子は……全く」
正直、かなり助かる。これがあればデイナも最強の力を発揮できる。そうすれば、アズールと共にアラクネデリーターに対抗できるのだ。その助けになってくれた功績を考えると、頭ごなしに叱るという選択肢を選ぶのは難しかった。
とは言え大人として何も言わない訳にはいかないので、デイナは章太郎の頭を本当に軽く小突きちょっとした小言を口にした。
「助かったのは確かだけど、危ない事をしたのも事実。君みたいな子供がそんな無茶しちゃ駄目だ」
「は~い……」
「……だけど、今言った通り助かったのは間違いない。だから、ありがとう」
「へへっ!」
叱りつつ、同時に感謝を述べるデイナ。仮面ライダーに感謝されるという普通は出来ない経験に無邪気な笑みを浮かべる章太郎に、デイナも仮面の奥で小さく笑った。
「さ、後は俺達に任せて。君は早くここから離れるんだ」
「うん! 頑張ってね!」
そう言って離れていく章太郎の背を見送ると、デイナは立ち上がり二個目のヒューマンベクターカートリッジを起動させた。
〈HUMAN〉
「さて、検証の時間だ」
デイナはバッファローベクターカートリッジを抜き取り、代わりにヒューマンベクターカートリッジを装填しレセプタースロットルを引く。するとベルトのセントラルドグマから飛び出したスーパーコイルが、彼の体を囲み白い光の螺旋の中に囚われた。
〈HUMAN + HUMAN Beyond evolution〉
「ゲノムチェンジ」
〈Break down the wall of evolution. Reach the NEW GENERATION. Open the door〉
光の螺旋が弾けるように消えた時、そこには新たな姿となったデイナが居た。
青いアンダースーツに緑色の装甲を身に纏い、頭部は顎から額に懸けて金と銀の二重らせんが伸び額の部分で二つに分かれている。
首からは白いマフラーが2枚伸び、風に煽られて靡いている。2枚のマフラーが絡み合う様に舞い上がるその姿は、まるで遺伝子の二重らせんの様。
これがデイナの最強の姿、その名も仮面ライダーデイナ・ニュージェネレーションフォームであった。
「ハッ!」
最強の力を発揮したデイナは、一足跳びにアラクネデリーターに飛び掛かりアズールの相手に掛かりきりになっていたところを横から蹴り飛ばした。
「ッ!?」
「仁さんッ!」
「ゴメン、待たせたね」
共に最強の力を発揮した2人の仮面ライダーが並び立つ光景。それを特等席に等しい場所から見ていた章太郎は爛々と目を輝かせた。
「行っけぇッ! 仮面ライダーッ!」
後ろから飛んでくる声援に、2人は顔を見合わせて頷き合うと同時に攻撃を仕掛ける。
「ハッ! フッ! ヤァッ!」
アズールが鋭い斬撃をアラクネデリーターに放つ。その斬撃は先程までのそれと違い、一撃一撃が必殺技に匹敵する力を持つ。その斬撃を既に何度か受けているアラクネデリーターは、アズールの一撃を絶対に喰らわない様にと全力で回避に回った。
「そらっ」
だがそれはデイナが許さない。アズールの攻撃を回避する為にアラクネデリーターが隙を晒せば、そこにすかさずデイナの一撃が飛ぶ。デイナは自らの遺伝子を自在に弄る事で、様々な生物の特性を得る事が出来る。モンハナシャコの特性を自らに付与したデイナのパンチは、目にも留まらぬ速度でアラクネデリーターに襲い掛かりその堅牢な甲殻を一撃で粉砕した。
デイナの一撃に大きく吹き飛ばされたアラクネデリーター。それをアズールは、肉体をスターリットフォトンに変換して粒子化させ移動し再構築する事で行う移動術であるショートテレポートで先回りし、飛んできたアラクネデリーターを空中に蹴り飛ばした。
「ッ!?!?」
空中に蹴り飛ばされながらもアラクネデリーターは尚抵抗を止める素振りを見せない。空中から2人に向け無数の糸を放つも、デイナはそれを全身にワックスを分泌する事で糸が付着する事を防ぎ、アズールは進化したアプリドライバー、アプリドライバー
《スワイプ!!》
「ハイパーリンクチェンジ!」
《ルクシオンムーン、ハイパーリンク!!》
アズールの能力でアラクネデリーターの糸の動きがゆっくりになる。この隙に、彼はこの糸を無力化させるべくデイナに有力な情報を伝えた。
「仁さん、今ですッ! 奴の背中にッ!」
「背中?」
「さっき見たんです。こいつ、糸を出す時背中にウィンチみたいなのが出るんです。多分それがコイツの能力の弱点ですッ!」
「なるほど、そう言う事なら……」
デイナは素早くアラクネデリーターの背中が見えるところまで移動した。するとそこには確かに今までは見えなかった、せり出したウィンチの様な物が見える。デイナはそこに向け手を向けると、何やら液体の様な物を手から放ち付着させた。
「よし。もういいよ翔君」
「はい!」
合図を受けアズールが能力を解除する。これでアラクネデリーターの糸は普通に動けるようになったはずだが、どう言う訳か糸が出し入れする事が出来ない。背中からは何かが引っ掛かるような音がする事に、アラクネデリーターは激しく動揺していた。
「ヌタウナギは敵に襲われると粘性の高い粘液を放出する。そいつを機械の駆動部分に喰らえばどうなるか……」
答えは簡単だ。粘液が絡み動きを阻害されたウィンチは正常に動かなくなり、アラクネデリーター得意の糸を出す事が出来なくなってしまった。
特殊な能力を封じられてしまえば、後は地力での勝負となる。が、それも最早デイナとアズール2人の方が勝っていた。2人もそれを察し、能力を封じたデリーターにトドメを刺すべく空中に飛び上がった。
「これで……」
「終わりだッ!」
〈ATP Burst〉
《アストラルフィニッシュコード!!
「「ハァァァァァァァァァァッ!!」」
デイナとアズール、それぞれの必殺技が同時にアラクネデリーターに炸裂した。アラクネデリーターも最初は抵抗しようとしていたようだが、既にボロボロだった体では2人の最強の必殺技を受け止めきる事は出来ず攻撃を諸に喰らい体を引き千切られた。
「ッ!?!?!?」
声にならない断末魔の悲鳴を上げながら爆散するアラクネデリーター。
その爆炎を背に、2人の仮面ライダーが静かにその場に佇んでいた。