転生先で必死に生き残った結果、原作厨厄介オタク女が殺しにかかってくる   作:サノア

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1話

 店の給仕が運んできた、茶の注がれたカップに口を付ける。渋みが強いが、十分に旨いと言えるものだった。

 カップを置き、ふと視線を店の外に移す。商人たちの馬車も行き交い、通りは賑わいを見せている。大きな戦が終わり、街の活気も戻ってきていることを肌で感じられる。

 

「なぜ、そんな浮かない顔をされているのです? お口に合いませんか?」

 

 抑揚のない低い声で問いかけられる。声の主は目の前で同じく茶を啜っている男。モノクルのレンズの奥から冷めた目がこちらを覗いている。はっきり言って目つきの悪いこの男は、今俺たちが居座っている、この店のオーナーであるオースティンだ。我が家の御用商人でもある。

 

「いや、茶は旨いよ。ただ最近父が喧しくてね。次はどうはぐらかそうか考えているんだ」

 

「辺境伯殿が? 先の戦争でも武勲を上げ、王家の覚えも目出度い一人息子にこれ以上何を求められているので?」

 

 からかうような口調で、世辞の混じった疑問を投げかけるオースティンに顔を顰めながら答える。

 

「嫁を取れとさ」

 

「あぁ、それはそれは・・・・・・」

 

 得心がいったように、真面目くさった顔に戻ったオースティンは、再びカップを口に運んだ。

 

「そういうことならば、私も納得ですな。隣国との戦も終わりましたし、身を落ち着けるタイミングとしては良い時期なのでは?」

 

 視線も合わせず事も無げに言い放つ商人に苦笑する。

 

「他人事だと思って、簡単に言ってくれる」

 

「そんなことはありません。次期辺境伯殿の奥方がどのような方になるかというのは、我が商会にとっても大きく関わりのあることです」

 

「もし決まったら、この店にも連れてくるよ。何年後になるかは分からないけれど」

 

「ぜひともそうしてください」

 

 冗談めかした発言に、真面目くさった返答が返ってくる。

 俺こと、ルーツ=ロッソメルには誰にも口外していないことだが、前世の記憶があった。

 辺境伯の称号を持つロッソメル家の長男として生を受けて十数年経ち、すでにその記憶は薄れている。最早、ただの妄想なのか、いつか見た夢を記憶だと取り違えているだけなのか分からないレベルのものだ。ただその記憶や知識のお陰で、命を落とさずに済んでいるといっても過言ではない。

 

 あるときは父の対立派閥である貴族から、毒殺されそうになったのを、銀の装飾品を持ち込むことで回避した。

 またあるときは、父に恨みをもったとある王族に、クソ辺鄙な戦場に送り込まれ、部下ともども壊血病になりかけたのを、現地に自生する柑橘類をかき集めて生きながらえた。

 ・・・・・・ほとんど父親のせいだわ、ふざけんな。

 

「それで、すでに候補はいらっしゃるので?」

 

 鬱々と父に対しての恨みを燻らせていると、オースティンから声がかかり、我に返る。

 

「まぁ、父の伝手で数人。あまり気乗りはしないけれどな」

 

 そんな父が勧める婚姻相手だ、教科書に載せたいレベルの政略結婚の相手ばかりだった。

 王族の外戚となるためのものに始まり、既にある友好関係を強固にするためのもの、逆に対立派閥と友好を結ぶためのものまで選り取り見取りだ。

 

「最終的には父の言いなりになるんだろうな。今まで通りだ」

 

 自嘲するようにぼやく俺に、オースティンは何も言わずに一つため息を吐く。

 彼は我が家の御用商人ではあるが、父よりも俺寄りの人間だ。・・・・・・と、勝手に俺は思っている。幼い頃より「父が俺に与えたいもの」よりも「俺自身が真にほしがっているもの」をくみ取って調達してくれる人材だった。インテリヤクザのような風貌だが、俺はオースティンを信用している。

 だからこそ、こういう個人的な愚痴をこぼすなら、彼の店でと決めているのだ。出店に際して、俺も個人的に出資しているということも無関係ではない。

 

「辺境伯殿が見繕った候補ではなく、ルーツ様自身が見定めた候補はいないのでしょうか、という意味だったのですが」

 

「そんなもんいるわけないだろう。戦が終わったと思ったら、辺境に引きこもっている人間だぞ」

 

「自覚をお持ちならば王都の社交界にでも顔を出せばよろしいのに。ルーツ様の評判ならきっと歓迎されるのでは?」

 

「いやだね。俺が王都で何度殺されそうになったか知っているだろう」

 

「であればでロッソメル領で開かれれば良いでしょう。・・・・・・ふむ、我ながら良い考えです。もし実現するのであれば、我が商会に是非準備させて頂きたい」

 

 社交界、それもホスト側ともなれば、準備には多大な費用がかかる。なにせ衣服や装飾に加え、食事などもそこに加わるのだ。それをオースティンの商会に任せるとなれば、想定される利益は膨大なものになる。

 

「我が領で社交界? そんなこと父が許すと思うか?」

 

「全く脈がない訳ではないでしょう。それに・・・・・・いつまでお父様の顔色を窺うおつもりです?」

 

「煽るなよ。自分が思いついた儲け話が空論になりそうだからって」

 

「それは否定しませんが。僭越ながら、これについてはルーツ様のためを思ってのことでもあるんですよ」

 

「というと?」

 

「お父様が亡くなられた後もご一緒になられる方です。その選択に、一切ご自身の意思がないというのはきっといつか後悔されますよ」

 

 最もらしいことを言われ、俺は何も言えなくなる。

 

「伯が見繕った候補が既にいるのは結構。ですが、それはあくまで振るいに掛ける、といった程度の候補でしょう。その中でもせめて最終的にはルーツ様自身が、生涯連れ添う相手を選ぶべきです」

 

「・・・・・・先に言っておくが、俺は女を見る目は無いぞ」

 

 我ながら情けない告白をする。そもそも前世から数えようものなら数十年レベルの、年期の入った奥手童貞だ。異世界で多少生まれが良くなり七光りで武勲を立てたところで、社交界でブイブイ言わせて女性を侍らせられるわけがないのだ。

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