転生先で必死に生き残った結果、原作厨厄介オタク女が殺しにかかってくる   作:サノア

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2話

 我が屋敷の中でも滅多に使われることのないホールにて、着飾った若者たちが一堂に会している。

 

 社交界を我が領で催したいと父に進言した際、その反応は意外にも「好きにしろ」というものだった。驚きはしたものの、これ幸いと、すぐに御用商人オースティンに連絡を取り手配をさせた。彼と相談した結果、名目は少なからず俺が手柄を上げた、先の戦の戦勝会という形になった。

 

 今回、国内貴族の子息、息女を中心に招待状をバラまいた。中には有力な商人の息子や、王族に名を連ねるものもいる。後者に関しては、こちらから送って良いものか判断に迷った。しかしながら、どこからか噂を聞きつけた相手方からのご希望もあったため、招待するに至った。

 

 貴族の中でも最も低い位が『騎士』である。その肩書きは世襲されず、領地もない。王族や高位の貴族に長年雇われた信用のある軍人に授けられることが多く、その他にも国のために偉業を成し遂げた一個人に授けられることもある。商人なんかの中には、箔を付けるために騎士爵を『買う』ものもいるようだ。

 

 そういった騎士爵の者も、今回の会には数人だが声を掛けた。つまりは、家柄を重視しない会だ。王族のような方に足を運ばせるのは如何なものだという考えがあった。

 

「さすがはロッソメル家主催のものですね」

 

 ホストということもあり、開催にあたって簡単な挨拶を済ませた俺に、タイミングを見計らっていたように声を掛けてくる青年。

 

「ノルト卿。今回は足を運んでくれてありがとう。まさか来て貰えるとは思っていなかった」

 

 青年の名はノルト=エクリエ。エクリエ公爵家の当主だ。年は俺とそれほど変わらない。彼は今回の戦で先代と兄を亡くし、エクリエ家の当主に収められた。父と兄を亡くした戦の会ということに加え、当主の継承で多忙のため不参加になるだろうと思っていたのだが・・・・・・。

 

「ロッソメル家に招待されたのであれば、何にも優先して足を運びますよ。後で我が妹にもご挨拶をさせて頂きたい」

 

 その顔に穏やかな笑みが浮かんでいることに安心する。どうやら無理をしているわけではないようだ。

 

「そう言ってくれるとうれしいよ。だが、招待状にも書いていただろう。今回は家の名ではなく、『俺個人』の名で開いたものだ。会場として父に屋敷を借りている形にはなるが」

 

「次期当主の名であれば、それは家の名と同義では?」

 

 彼は穏やかな笑みを貼り付けたままだ。彼の言い分はその通りではあるが、そのまま首肯するには危うい言葉だった。変に、現当主である父への反意をもっていると疑われかねない。しかし、否定もするわけにはいかない。俺以外に辺境伯家の継承権のある人間はおらず、ここで俺が妙な回答をすれば俺の他に隠し子でもいるのでは、という詮索を生むことになる。アホくさいが貴族というのはこういう言葉の節々を取り上げての噂話を好むのだ。 俺は周囲を軽く見渡し、小声であれば他の者に聞こえることはないことを確認して言葉を続ける。

 

「なあ、反応に困ること言うなよ。周りに聞こえたらどうすんだ」

 

 急に砕けた口調になる俺に驚くこともなく、ノルトは口角をさらに持ち上げた。

 

「別に噂なんて気にする玉じゃないだろう」

 

「するさ、俺は小心者なんだ」

 

 公の場ではお互いの立場もあるため格式ばった言葉を使うが、ノルトと俺は学び舎を共にした顔なじみでもある。

 

「敵軍を千人単位で焼き殺した英雄が小心者ねぇ」

 

 本来の皮肉っぽい言い回しをするノルトに苦笑する。

 

「それにしても、第四王女まで来てるとは思わなかったよ。よく招待したね」

 

 青年の視線は、広間の中央で人だかりを作っている一人の女性に向けられている。

 

 第四王女、ヘルミナ=アンベルク。輝く銀髪を流し、この広間で最も豪奢な装飾を身につけた彼女こそが、わざわざこの社交界の噂を聞きつけて招待状を『取り寄せた』王族だ。 穏やかそうに周囲の貴族息女と談笑しているものの、その気の強そうな目だけは一切笑っていない。

 

「仕方ないだろう。向こうから話題に出されたら招待しないわけにいかない」

 

 苦々しげにそう口にすると、ノルトは鼻で笑う。

 

「主催者を差し置いて、流石の人気だな」

 

「俺が主催なら殿下は主賓だ。比べてどうという話でもないだろう」

 

「まあ、それもそうか。しかし、わざわざ相手方から来たがるとは意外といえば意外だね」

 

「それには同意する。王族の中でもよりにもよって・・・・・・」

 

 言葉の途中で、ヘルミナ王女の冷たい目がこちらを射貫いた。途端に心臓が握られるような感覚が生じ、声が詰まる。俺は彼女のあの視線が苦手だった。恐れていると言っても

過言ではない。

 

「『元婚約者』であるヘルミナ様が来るなんて、って?」

 

 ノルトは俺が言おうとした言葉を続ける。

 

「わざわざ口にしなくていい」

 

 眉を顰めて友人の発言を諫める。

 ノルトの言うとおり、ヘルミナ王女は俺の元許嫁だった。王族と縁を持ちたい父と、辺境伯という軍事力の首輪を強固にしたい王の間で決まった政略結婚。幼い頃に決まった婚姻だったが、それはすぐに破談となった。

 

 ヘルミナ様の兄である第二王子の派閥によって、俺の暗殺が図られた。その計画は失敗し、主犯である第二王子の罪は白昼の元に晒された。事の原因は、王がヘルミナ様の王位継承権を放棄させなかったことだ。通常であれば、嫁に出すのであれば継承権は放棄させる。それをしなかった理由は色々と風の噂になっている。よく聞くのは、王が子どもの中で唯一、自分と同じ銀髪を持つヘルミナ様を猫かわいがりしていたから、というものだが、王自ら公言でもしない限り、真実は闇の中だろう。

 

 結果として、主犯である第二王子は放逐された。そして新たな火種とならぬように、俺と王女の婚約は破談となった。彼女は未だ王位継承権を持ったままだ。

 

「そう言えば・・・・・・」

 

「どうかしたのかい?」

 

 他の王族について考えたところで、ふと王女の周囲を見て違和感を覚えた。

 

「招待状な、『二枚』送らされたんだよ。ヘルミナ様が来るのなら、てっきり仲の良い第二王女あたりも来てるのかと身構えたんだが・・・・・・」

 

「いらっしゃらないようだね」

 

 ノルトはわざとらしく会場を見渡す。しかし、彼の言うとおり、脳裏に浮かんだ方の姿は見当たらない。ふと、王女の取り巻きに紛れている、黒髪の少女に目に留まった。

 

 この会場にいる人間のほとんどは少なからず顔を見たことがある者ばかりだ。もちろん招待した顔なじみの代理で来ている者もいるため全員ではないが、そういった者は真っ先に主催である俺の元へ来て形式上、代理であることを詫びた上で挨拶をしにくる。

 

 あの黒髪の少女だけが、顔も知らず、誰の代理なのかも不明なのである。

 

「なあ、ノルト。あの黒髪の子、誰か分かるか?」

 

「ん? いや、初めて見るお嬢さんだ。というか、君も知らないのか?」

 

「・・・・・・あぁ。多分、二枚目の招待状はあの子に渡したってことだろう」

 

「王家の方か? いや、そんなわけ・・・・・・」

 

 彼の言うとおり、そんなことはあり得ない。俺たち貴族の子息が見覚えがない王族など、いるはずがないのだ。

 

「少なくとも王女経由で招待状を融通される程度に王家に近い、貴族? 見覚えがないということは、新興の家か?」

 

 ノルトはぶつぶつと推測を重ねる。やがて思い当たる者があったらしく、「あ」と少し間の抜けた声を出した。

 

「わかったのか?」

 

「あぁ、おそらくだが。あの黒髪で思い出した。彼女は・・・・・・」

 

 言葉を続けようとしたノルトは答えを口にする前に息を呑んだ。王女がこちらを見ていたのだ。凍てつくような瞳と目が合う。

 彼女は周囲の者たちに一言、二言話したあと道を開けさせ、こちらに近付いてくる。

 

 ノルトは貼り付けていた胡散臭い笑みを強張らせる。

 

「さて、私はそろそろ外させて頂きます。妹が壁の花になりかけているのでね」

 

「おい、待て」

 

 口調を戻し、ノルトは逃げるように俺から離れていく。代わりに、いつの間にか目の前にはヘルミナ王女が立っていた。その斜め後ろには、先ほど噂をしていた黒髪の少女も控えている。

 

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。随分、ご無沙汰しておりました」

 

「・・・・・・いえ、本来こちらからご挨拶にお伺いするべきところ、申し訳ありません。殿下のお話しているところに割り込むのもどうかと思いまして」

 

 我ながら、言い訳がましく口にする。目が泳いでいるのも自覚しながら、王女に目を合わすことが恐ろしくてできない。ふと逃げた視線の先には件の少女がいた。

 

「それで、そちらの方は? 記憶が正しければ、初めてお目に掛かる方だと思うのですが・・・・・・」

 

 露骨に話題を逸らす俺に、王女は特に気にした様子もなく、少女に目配せをした。彼女は、一歩踏み込み王女の横に並ぶと俺に一礼する。

 

「ユーリ=カンテと申します。お見知りおきを、次期辺境伯殿」

 

「こちらこそ。ささやかな宴ではあるが、是非楽しんで頂ければ幸いです」

 

 精一杯愛想良く取り繕っていいるものの、カンテ家という家名に一切聞き覚えがなかった。やはり新興の家柄だろうかと考えを巡らせていると、王女は補足するように言葉を続けた。

 

「このたびの戦で帝国領主でありながら、我が王国に味方し、勝利に貢献した御仁です。王国に新領として組み込まれた旧帝国領の総督を任せることにしています。そう・・・・・・ルーツ殿が焼け野原にした、ね」

 

 王女の言葉を受け、背中に冷たいものが走る。要は元敵国の領主だ。寝返って戦争終結を早める英断を行ったとして、王家に謁見を許されたと聞いた覚えがある。しかし、まさか元とはいえ母国に対する戦勝祝いの宴に顔を出すとは夢にも思うまい。

 

 それに、王女の棘のある言い方から考えるに、ユーリ殿が俺に恨みを持っていてもおかしくない。なんせ俺は、戦場となった旧帝国領の焼き討ちを行った張本人なのだ。

 

「・・・・・・これはこれは、お会いできて光栄です」

 

 絞り出すように、定型の挨拶を口にする。今すぐノルトの後を追い、逃げ出したくなった。

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