転生先で必死に生き残った結果、原作厨厄介オタク女が殺しにかかってくる   作:サノア

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3話

 背中から冷や汗が吹き出る。逃げ出したい気持ちを抑えながら、二人の女性に対峙する。

 

「どうしました、顔色が悪いですよ」

 

 冷めた表情のまま、王女は心配する言葉を投げかけてくる。

 

「いえ、そんなことはありませんよ」

 

 言葉に詰まったが、出来るだけ明るい口調になるよう努める。

 

「それよりも……ユーリ殿、料理はお口に合いましたか? 帝国のものとは味付けが大分違うでしょう」

 

「確かに違いますが、私はこちらの方が好みに合うようです。堪能させて頂きました。これだけでも帝国を裏切った甲斐がありましたわ」

 

 黒髪の少女はにこやかに物騒なことを言った。

 

「それならば良かった」

 

 冗談なのかも分からず、こちらも顔を引きつらせながら笑みを浮かべるしかなかった。

 

「ヘルミナ様のお口にも合ったならよろしいのですが。王都のものに比べれば、田舎貴族が用意したものなど、見劣りするでしょう」

 

「いいえ、遜色ないものでしたよ」

 

 そうは言っているが彼女がこの会場で一切、皿に手を付けていないのは確認出来ている。

 

「これらも例の御用商人が?」

 

「ええ、今回の準備は全て彼の商会へ一任しました」

 

「辺境伯家は優秀な人材が豊富で羨ましい限りです」

 

「・・・・・・王女の臣下こそ優秀な者ばかりでしょうに。まぁ、オースティンが優秀なのは認めますが」

 

「そのオースティン様、というのは?」

 

 ユーリ殿が小首を傾げる。せっかくだから紹介しておこうと、オースティンを探す。何かあった際に呼び出せるよう、広間に在駐させていたはずだ。

 

 すぐに給仕の真似事をして客人たちの相手をしているオースティンを見つけた。このワーカホリックめ、という言葉を飲み込み、彼を呼びつける。すると、ユーリ殿がぼそりと呟いた。

 

「あぁ、あの『インテリヤクザ』、商人だったのね」

 

 この世界に来て聞き馴染みのない単語を耳にし、思わず目を見開く。

 もちろん、音としては前世の言葉とはかけ離れているが、この世界では通常結びつくことのない「知的な」といった意味の言葉と「ごろつき」を意味する俗語。

 

「インテ・・・・・・? なんですって?」

 

「あー・・・・・・、強面? とは少し違いますね、人に言えない稼業をしてそうな人相、とでも言いましょうか」

 

 黒髪の少女は、特に気にした様子もなく言葉の意味を王女に説明をする。俺の頭に浮かんだ言葉の意味とほとんど同じもののようだ。

 

「ふふ、失礼ですよ。ユーリ様」

 

 珍しく笑みを浮かべるヘルミナ様にも驚いたが、焦点を当てるべきはそこではない。もしかすると帝国ではそのような言い回しをすることがあるのかもしれないが、目の前の少女が俺と同じように前世の記憶を持った者である可能性が浮上したことにより、彼女への警戒心が自然と高まった。

 

「・・・・・・まぁ確かに人当たりの良い人相ではないですからね。私も初めてヤツを見たときは奴隷商かと思いました」

 

 しかし俺は、平静を装いあえて会話に加わった。

 

「ルーツ様、呼びつけたかと思えば悪口ですか」

 

 呆れた表情を隠そうともせず、側に来たオースティンが言い放つ。

 

「悪い悪い。ちょうど話題に出たから紹介しておこうと思ってな。我が家の御用商人、オースティンです」

 

 モノクルの位置を正したあと、二人の女性に向け一礼するオースティン。

 

「オースティン、ヘルミナ様は分かるだろう。こちらはこの度、新領の総督になられるユーリ殿だ」

 

「これはこれは、お会いできて光栄で御座います」

 

「先ほど話したように、人相は悪いが信用できる男です。もしかすると私の依頼で、ユーリ殿の管轄地にも顔を出すかもしれません。お見知りおきを」

 

「ええ、分かりました。復興した際には歓迎いたしますわ」

 

 笑みを絶やさずに返答するユーリ殿に一先ず胸をなで下ろす。動揺を悟られてはいないようだった。しかし対照的に、ヘルミナ様の表情からは先ほどの笑みがいつの間にか消えていた。いつも通りの感情の読めない瞳がじっとこちらに向いている。

 

「どうかされましたか?」

 

 王女に見据えられ、冷や汗が再度滲むを感じる。

 

「ユーリ様の復興という言葉に絡めて、ルーツ殿に一つお願いがありましたの」

 

「ヘルミナ様からのお願いですか。私に叶えられることだと良いのですが」

 

 お願いとはいうものの、王族からの依頼など、田舎貴族にとってはほぼ命令と同じような意味だ。最終的な可否を問わず、一旦は希望通りに動く羽目になるだろう。思ってもいない展開に、身構えながら次の言葉を待つ。

 

「新領の開発にお力添えを頂きたいのです。開発というよりは、彼女の言うとおり復興と言った方が正しいかも知れません」

 

「・・・・・・それは私個人への依頼ということで良いんでしょうか?」

 

「えぇ、そうですね。ロッソメル家への依頼であれば、まずは当主殿へお話いたしますわ」

 

 さも当然とばかりに王女は答える。

 

「であれば、喜んで」

 

 辺境伯家に支援を求めるということであれば、資金にせよ大規模なものが期待されるだろう。しかし、そうではなく俺個人へのものときた。であれば、他の貴族に向けたアピールとして、精々名前を貸す程度のものだろう。

 

 辺境伯家の次期当主が一枚噛んでいるとくれば、他の貴族も面目のために援助を申し出るだろう。見栄に塗れた貴族どもから金を巻き上げる呼び水になるくらいなら、別にどうということはない。実際の損と言えば、形だけ多少の身銭を切るくらいだろう。

 

「言質はとりましたよ?」

 

 王女は意外そうな顔を見せるが、すぐに口元にだけ笑みを湛えて念を押してきた。

 

「我が名が役に立つのであれば、如何様にもお使いください」

 

「それは良かったです。それでは早速、ルーツ様が居を構える城を築きましょう」

 

「・・・・・・はい?」

 

 王女の発言が理解できずに聞き直す。

 

「ルーツ様がお住まいになるための城をすぐにでも作り始めなければ、と」

 

「城、ですか」

 

「帝国との緩衝地帯なのですから、できるだけ強固なものでなければいけません」

 

「ヘルミナ様、おそらく順を追って説明しなければ」

 

 困惑している俺を可笑しそうに眺めながら、ユーリ殿が助け船を出してくれた。

 

「・・・・・・場所を変えてもよろしいでしょうか? 別室を用意します」

 

 屋敷の使用人に応接室を整えさせて、王女とユーリ殿を案内する。

 おそらく窓を開けて、埃っぽい部屋を換気したのだろう。夜風が入り込んだせいか、人が集まっていた広間よりもずっと涼しく感じる。

 

 それぞれ腰を落ち着けたところで、王女は話し始めた。曰く、新領として組み込まれたユーリ殿の領地は、今回の戦場となった地域を挟んだ帝国側に位置するため、早急に王国側からの補給路を確立する必要があるとのこと。

 

 しかしながら、戦場となり荒れ果てた地域の治安が維持できておらず賊が頻出しているらしい。さらには、帝国の偵察と思われる騎兵も国境付近に確認されるようになった。

 

「そこで帝国側に睨みを利かせつつ、治安維持のための軍事力を置く、というのが目的になります」

 

「なるほど、狙いは分かりました」

 

 要は緩衝地に駐屯しろ、陣地だけは作ってやる、という意味らしい。

 

「それでは、戦争はまだ終わっていないということですか。いやはや、私は少々浮かれていたようだ」

 

 戦勝会など開いた自分はさぞ間抜けに見えたことだろう。自嘲する俺に王女は淡々と語る。

 

「いいえ、戦争は終わりましたよ。王国は勝利し、領土を増やしました。そして、その領土を巡って新しい戦争が始まるかも知れない、というだけの話です」

 

 前世で聞いた、「平和とは次の戦争への準備期間」という言葉を思い出す。身をもって意味を知るとは思わなかったが。

 

 一先ず、彼女たちの狙いは分かった。今回の招待状をわざわざ向こうから取り寄せて、俺に接触しようとしたのもきっとこのためだろうと頷ける。

 

 ただ、出来ることなら断りたいというのが本音だ。折角、戦で生き残り腰を落ち着けられると思っていた矢先の話だ。紛争地帯の駐屯部隊など命がいくらあっても足りない。

 

 先ほど王女は「言質は取った」と言った。その場にいたのが王女だけなら、最悪しらばっくれることも視野に入れたが、今回はユーリ殿もオースティンもその場にいた中での発言だ。

 

 己の迂闊な口を呪いながら、せめてそそくさと逃げ出したノルトも巻き添えにしてやろうと策を講じ始める。

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