転生先で必死に生き残った結果、原作厨厄介オタク女が殺しにかかってくる   作:サノア

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4話

 

「そういえばお話の途中でした。私は広間へ戻らせて頂きますが、ユーリ殿はいかがされます?」

 

「私はもう少しルーツ様にお話することがありますので」

 

「そうですか、それではお先に失礼しますね」

 

 王女は言葉通りに席を立ち、扉へと向かった。部屋の内側から扉を軽く叩くと、外にいた使用人が扉を開けて王女は廊下へと出て行った。

 

「それで、腹を割って話したいのだけど……。あなた何者なの?」

 

 扉が再度閉まったのを見届けてから、ユーリ殿は今までとは明らかに異なる口調で俺に問いかける。

 

「意図が分かりませんね」

 

「あくまでとぼけるわけね。じゃあ、先にこちらから自己紹介でもしましょうか」

 

 俺の態度を鼻で笑ったあとに、少女は言葉を続ける。

 

「ユーリ=カンテ。元帝国領にてカンテ自治領の統治を任されていました。……それと、前世の記憶を持つ転生者よ、あなたと同じ、ね」

 

 姿勢を正して、王女がいたときまでのような上流階級然とした口上をしたかと思えば、最後に元の年相応な口調に戻る。『転生者』という言葉に心臓が跳ねるが、これまでの状況証拠からある程度推測できていたこともあり、表情にまでは出さずに済んだはずだ。

 

「ユーリ殿自身がその転生者だと言うだけなら、まだ愉快な冗談だと済ませられるのですが。私も同様だと?」

 

 なかなか思い切りの良い少女だと、少々場違いなことを考える。ここまで確信を持っているのだから、何かしら証拠を掴まれているのだろうが、それの証拠を聞き出すためにも、最後のあがきとしてしらばっくれてみた。

 

「ええ、外れてはいないと思うのだけど。原作だと、ルーツ=ロッソメルは十歳にもなる前に死亡しているはずだもの」

 

「原作、ですか」

 

「ええ、あなたのお蔭で元のシナリオからは、大分かけ離れているけどね」

 ユーリ殿は一つ溜息を吐くと、「あなたが日本って国の出身だということを前提で話すけれど」と前置きをしたうえで、この世界について話し始めた。

 

 この世界は創作物、俗に言う乙女ゲーの世界だということ。その中だと、先の王国と帝国の戦争は数十年規模で継続されるはずだった。少女のいう『原作』とは、その激動の異世界における、貴族たちの恋愛を描いたものらしい。そして俺こと、ルーツ=ロッソメルという人間は本来、その幼少期に暗殺されている存在だということだった。

妄言だと一蹴するのは容易い。しかし、彼女の中で結論が固まっていることは明らかで、たとえ俺が否定したところでもはや意味はないだろう。

 

 前世ではサブカルチャーも嗜むオタクよりの趣味ではあった。しかし転生したのが、よりにもよって、あまり縁のなかったジャンルとは運がない。

思わず苦笑すると、少女はその様子を見て口角を上げた。

 

「認めるのね?」

 

「まあな。それにしても乙女ゲーか」

 

「結構有名な作品だと思うけれど。……念のための確認だけれど、TS転生とかではないのよね」

 

「違う違う」

 

 もはや彼女に対して整えた態度や言動は意味をなさないだろうと、砕けた口調で応対し始めた。

 

「じゃあ知らないのも無理ないか……」

 

 つまらなそうにぼやく少女。その作品のファンだったりするのだろうか。

 

「シナリオがどうって話していたが、ここからの情勢とかも分かったりするのか? 無法地帯に駐屯するなんて御免だし、何とか避けたいんだが……」

 

「さっきも言ったけれど、誰かさんのせいで原作とはすでにかけ離れてる。予想なんてつかないわよ。……まぁ、おかげで私も開き直って原作介入し始めたんだけどね。じゃなきゃ、好きな作品の展開を自分が変えるなんて恐れ多いわ」

 

 ユーリは先ほどまでの淑女のような微笑みではなく、皮肉っぽく口角を上げた。彼女の発言からすると、俺の予想通りその原作のファンのようだ。

 

「帝国側の人間なんてただの敵側としてしか描写されないし。大体、何が楽しくて推しの敵に生まれなきゃなんないのよ」

 

 不貞腐れたようにぼやく少女は年相応にいじける少女そのものにも見える。中身の年齢がいくつなのかは、この際考えないことにした。

 

「……その推しってのは?」

 

「……ヘルミナ王女よ」

 

 ユーリは気まずそうに目をそらしながら答える。

 

「乙女ゲーなんだよな? イケメンキャラとかを推すもんじゃないのか?」

 

「別に良いでしょ。……王女はね、本来、主人公と対立する悪役令嬢ポジなわけよ」

 

「余計に理解できないんだが」

 

「……このゲーム、攻略キャラだけじゃなくて、主要キャラのほとんどに好感度設定があって、王女も類に漏れず好感度上げられるのよ。攻略キャラを落とすために、関連キャラの好感度を一定以上にあげるっていう条件があったりするからなんだけれど」

 

「結構凝ったゲームなんだな」

 

 要は攻略キャラにだけ良い恰好していても、周囲のキャラからの評価が低かったら警戒されるということだろう。現実にもありそうな妙にリアリティのあるシステムで興味が湧いた。ポジティブな反応をしたことに気をよくしたのか、ユーリは先ほどよりも語調を速めて言葉を続けた。

 

「でしょう? その中で王女は許嫁、つまりはあんたを殺されて人間不信で闇落ちしてるっていう過去があってね。色んな思惑があって、主人公とか一部のキャラと対立してたわけ。大体、こういう乙女ゲーの悪役令嬢のテンプレートって、傲慢だったり純粋に性格が終わってるだけってことがあるんだけど、彼女は対立するだけの背景とかもしっかり描写されてて共感できるというか、むしろ彼女こそ悲劇のヒロインと言っても過言じゃないわね。大体、前世には王女よりもクソな女なんていくらでもいるし、そんなのに比べたらむしろ聖女? みたいな……」

 

 途中で勢いを増すも、話し終わり我に返ったのか、気恥ずかしそうに声のトーンを落とした。

 

「なんか文句ある?」

 

「いや、別に……」

 

 彼女は微笑まし気に眺める俺に気付いた途端、不貞腐れたように呟き、射貫くような視線をよこす。俺はそれから逃れるように目を反らした。

 

「というか、私の話はどうでもいいの。原作にも登場しないモブなんだから。それよりもあんたの話よ、なんで殺されてないの?」 

 

 重要性の判断が原作に登場するか否かというのはどうなんだ、という言葉は飲み込みつつ返答する。

 

「何度も殺されかけてるよ。毒殺にしろ、闇討ちにしろ、数えたら切りがない」

 

「そういえば、本来の死因は毒殺だったっけ」

 

「父と対立している貴族派閥の主催のパーティに呼ばれたから、警戒して銀の指輪を調達したんだ」

 

 銀製品は毒物が付着すると反応して変色する。前世の創作物でよく使われる話だ。

 今も左手の小指につけている指輪をユーリに見せる。家紋が彫られたもので、貴族が身に着けるものとしても不自然のない出来栄えのものだ。

 

 一口飲み物を飲むふりをして、唇に付着した液体を手で拭い、この指輪に付ける。今では自然とこの動作を行えるようになった。

 

「現代知識を使った対策ってこと? そうだとしてもヒ素以外の毒だったら意味ないんじゃないの、それ」

 

「……そうなのか? てっきり有毒なものならある程度、反応するのかと」

 

「生き残れたのは、少なからず運も関係してるみたいね」

 

 ユーリは呆れたような表情で苦笑する。

 

「実際に生き残れているんだからいいだろう?」

 

「たしかに毒殺でよく使われるのはヒ素だって聞くし、それだけにでも対策できれば十分と言えるのかしら」

 

 俺が言い訳として口にした結果論ともいえる言葉に、少女は意外にも考え込み納得しかけている。

 

「……ねえ、その指輪、予備とかあれば貰えない?」

 

「あるにはあるが、サイズが合わないんじゃないか」

 

 万一毒物に反応した場合、変色した指輪をそのまま着けるわけにもいかないため、ストックは常に持ち歩いていた。俺は胸ポケットに入れていたそれを取り出すと、ユーリに手渡した。

 

「これって純銀製? 結構重いのね」

 

 少女は感心したように、手の上で重さを確かめるように転がす。いくつかの指に当て、やがて一つの指にそれを嵌めた。

 

「人差し指ならちょうど良さそう。これ、頂いても?」

 

「最初からもらうつもりだったんだろう、別にいいさ」

 

「まぁね、ありがとう」

 

 ユーリは銀の指輪を付けた自分の右手を眺めながら、満足そうに笑った。

 

 

 

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