転生先で必死に生き残った結果、原作厨厄介オタク女が殺しにかかってくる   作:サノア

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5話

 

「それで、話したいことは終わりか? わざわざ王族経由で招待状を用意してまで、ご苦労なことだな」

 

 獲得した新領地の支援に、自分以外の転生者という存在。今後の対応に困る事案が同時に二つも降って湧いた。これ以上に何かあるとするならば、できれば日を改めてほしいところだ。

 

「私としては、今日のところはそれくらいね。旧帝国領の復興についての具体的な話は、また後日話を詰めましょう」

 

「なぁ、やっぱりその駐屯の話、本気なのか? この領地で親父の後継ぐまで、のんびりする気満々だったんだが」

 

「そうなの? 急に社交界染みたものを開くから、国内で勢力争いでもするのかと思ってたわ」

 

「ただの嫁探しだよ、ほっとけ」

 

 俺の情けない告白に呆れているのか、少女は苦笑している。

 

「それで、いい人は見つかったの?」

 

「それどころじゃない状況にしておいてよく言うよ」

 

「まるで悪者みたいに言うのね。あなたが安請け合いするからでしょう」

 

「くそ、その点は何も言い返せないな……。大体、俺が常駐する必要はないだろう? 傭兵でも使って警備させてろよ、傭兵団を数年雇うくらいの金なら支援するからさ」

 

 ユーリが言うことは尤もだが、そう簡単に引き下がるのも癪だった。なんせ俺のお気楽ライフプランが破綻してしまう。

 

「出来たら最初からそうしてるわよ。外様の私が傭兵なんて集められるわけないでしょ。不穏な動きあり、なんて勘繰られたらたまったものじゃない。先の戦争できちんと戦果を挙げた王国の貴族が兵を出す、ってことが重要なのよ」

 

「そうはいっても、ロッソメル家でもなく俺個人で動かせる兵力なんてたかが知れてるぞ」

 

「その点は大丈夫。ルーツ=ロッソメルが常駐してることさえ分かれば、帝国は手を出してこないはずよ。あなた、帝国兵から化け物扱いされてるし」

 

「そんな異常なことしてないはずだけどな。この世界なら魔法を使った戦闘行為なんて普通だろう」

 

 この世界では一定数魔法使いという存在がいる。魔法とは武力にもなり、こと王国貴族にとっては才覚を示す指標としても持ち出されることもあった。

 

 俺が帝国兵を殺めた手段に使ったのはその魔法だが、それはこの世界において、別に責められるようことではない。

 

「手段というより数の問題じゃない? あなた何人焼き殺したと思ってるの」

 

「戦争でそんなの数えていられるか、せいぜい二部隊だ」

 

「連隊だと考えたら一部隊千から千五百ってところかしら? 三千人近くやってるってことになるわね。その戦術が誰でも再現できるものなら、別にあなたが直接赴く必要はないかもしれないけれど」

 

 少女は意地悪そうに眉を持ち上げる。

 

「その時のあなたの部隊は何人いたの? 本隊は辺境伯が率いてたわけだから、まともな規模の部隊にはならないはずよね。手段は? 焼死体が散乱してたって噂は耳に入っているからやっぱり炎魔法を使ったのは確かよね」

 

 真っすぐ俺を見て問い詰めるユーリ。

 

「手の内を教えろと? 無理を言うな」

 

「同郷の人間でも?」

 

「当たり前だろう、同郷だろうとこの世界での敵味方は関係ない」

 

 前世の記憶なんてものは、いくら魔法の存在するファンタジー世界だからと言って、自分以外の人間に話せば狂人扱いされるものだ。

 むしろファンタジー世界だからこそ『悪魔付き』などと呼ばれて迫害されるかもしれない。この世界に来て十数年一度も口外はできず、実際に自分自身を狂人なのではないかと疑うときさえあった。

 

 しかし、ここにきて同じ境遇の人間が現れた。彼女は俺が狂人ではなかったという証明そのものだ。彼女自身だってもしかすると同じような感情を、俺に抱いているかも知れない。彼女の俺に対しての軽薄と言える態度はその裏返しなのでは、という邪推もしている。

 だが、だからと言って、それだけを理由に答えられないこともあるのだ。

 

「意外と警戒心はあるのね」

 

「暗殺されかけた経験だけは豊富なんでね」

 

「そうだったわね……まぁいいか。だったら直接来てもらうしかないわけだし。噂がどこまで本当かはしらないけれど、その噂のおかげであなたの名前は十分に抑止力として機能するの」

 

 ごねた結論としては何も変わらないことが分かり、溜息をもらす。

 

「やっぱりそこに行きつくよな」

 

「そんなに嫌そうな顔しないでよ。勿論、あなた、というかロッソメル家にも得はあるんだから」

 

「……王女主導の国家事業へ参画する名誉ってところか?」

 

 皮肉っぽくそう言うと、今度はユーリが溜息を吐く。

 

「それだけで満足するほど、王国への忠誠心がある人間なの、あなた」

 

「返答に困る聞き方をするなよ。俺を不敬罪で殺す気か」

 

 勿論言うまでもなく、国に対しての忠誠心なんてないに決まっている。俺は領地を継いで穏やかに暮らすことしか考えていない。しかし、それを口に出せば不敬罪とも取られかねない。ユーリは俺の返答を聞くと、軽く鼻で笑って言葉を続けた。

 

「復興が終わった暁には、新領地の一部をロッソメル家に割譲するつもりよ」

 

「……焼野原になった荒廃した土地を分けられてもな」

 

「焼き払った張本人がそれをいうのね……。そこそこの生産量を誇っていた穀物地帯だから損にはならないはずよ」

 

「それは、父なら喜ぶだろうな」

 

「いつかはあなたの領地になるんだから、あなたにとっても悪い話じゃないでしょうに。あとこれは口外しないようにね。他の貴族が報酬目当てで首突っ込んできたら面倒だから」

 

 聞いたところ、彼女の言う通り悪い話ではなさそうだ。どちらにせよ断れないのだから、もらえるものは貰っておいて損はないのかもしれない。しかし他の貴族をシャットアウトして『あなただけに耳よりの情報があります』なんてものは、詐欺の常套句にも聞こえる。

 

 頭の中で彼女の口にしたメリットを反芻していると、「ああ、そうだ」と思いついたような声に続き、次の話題が投げかけられた。

 

「そういえば、ルーツって炎魔法の才能がないって描写されてた気がするんだけど? 炎魔法の扱いに長けた辺境伯家の出にしては珍しく、ね。……だから父親である辺境伯からもあまり愛されなかったって」

 

 突如、こちらの能力、ひいては家のことを探るような、無神経にも思える少女の発言に眉をしかめた。

 

「そういうのもバレてるのかよ。原作知識って思った以上に厄介だな。……悪いけど、さっきも言ったが、手の内を晒すほど気を許したわけじゃないからな」

 

「……これは失礼。ただ単に、大器晩成型の人間が原作だと幼少期に殺されちゃったってことなのかしらね」

 

「想像にお任せするよ」

 

「そう、それじゃあ、次の会合の日程が決まったら手紙を寄越すわ」

 

「ああ、わかった」

 

 顔を顰めたままの俺を、特に気にした様子もなくユーリは立ち上がる。会合というのは考えるまでもなく、復興開発の具体的な話し合いのことだろう。ただ、そうすると疑問なのはどこで集まるかだ。

 

「ちなみに、その会合ってのはどこで開くつもりなんだ? カンテ領か?」

 

「王女も顔を出すんだから、そんな危ないところに呼び出せるわけないじゃない。特にまだ決まっているわけじゃないけれど、無難に考えれば王都じゃないの。それがどうかした?」

 

「……殺すつもりかよ。俺が何度、王都で襲われたと思ってるんだ」

 

「どうでしょうね。でも、殺されたら殺されたで、原作通りの闇落ちした王女が見れるかも知れないって考えたら、ありかもしれないわね」

 

 冗談にしては趣味が悪すぎることを口にして、少女は部屋を後にした。

 俺は廊下に控えていた使用人に、すぐさまオースティンを呼ぶように伝える。

 

 

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