君臨するは我にあり! ~菓子姫平定録~   作:ペンギンフレーム

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episode1-30 挟撃

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【Name】

 氷室 凪

【Level】

 49

【Class】

 菓子姫

【Core Skill】

 ☆君臨する支配

【Derive Skill】

 ◇菓子兵召喚 Lv1

 ◇フレームイン『チェイン』 Lv1

 ◇星杖起動 Lv1

 ◇マスカレイド Lv1

 ◇お願いカミサマ Lv1

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 玉座にふんぞり返りながら、出しっぱなしにしているステータスウインドウに目を向けると、かなりレベルが上がっているのが確認できた。目論見通り、奇襲は成功したようだ。

 レベルがギリギリ50に届かなかったのは残念だが、新しいスキルを覚えたとしても今から作戦に組み込めるかは見てみなければわからないため、大した問題はない。元々そんな不確定な要素に期待するような作戦は立てていない。

 それに、残りのモンスターを倒すころには超えているだろうし今はこれで十分だ。

 

「ぷはぁっ!! し、死ぬかと思った……!! ちょっと氷室! あの中息できないなんて聞いてないんだけど!?」

 

 最前列で杖を構えたまま仁王立ちしている桜ノ宮(・・・)の影から、顔を真っ赤にした如月が姿を現し息を切らせながら喚き始めた。その後に続いてゼリービーンソルジャー・ブラックも、まるで水中から上がるようにぬるりと桜ノ宮の影から現れる。

 

 

 

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◇闇渡り Lv2 +

闇の中に潜み、半径20m内の闇へ移動することが可能。

移動する闇は地続きである必要はない。

一定範囲内に闇がなくなった場合強制解除される。

・潜伏対象+1

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 ブラックの闇渡りは偵察には向かない。本人が見聞きした内容を伝える術を持たないし、誰かを一緒に連れて行けばそれだけ消耗が増え、長時間の活動が出来なくなる。

 逆に言えば、短時間であれば問題はないということでもある。使い手をブラックに限定するのなら、このスキルの本領は奇襲だ。闇に紛れ、人知れず忍び寄り、致命的な一撃を与える。最深部に突入する前に影の中に潜り、壁に立てかけられた照明の影を渡って、敵の懐に入り込む、その程度の短い時間なら問題なく活動できる。

 

 つまり、あのエルフに向かって杖を構えライトニングと唱えたのは如月ではなく、髪型をサイドテールにした桜ノ宮だったわけだ。杖は道中手に入れた光魔石の杖から魔石を取り外したもので、力強い詠唱はライトニングの使い手が目の前にいるとエルフに誤認させるための演技。本物の如月は星の杖を手に、ブラックの闇渡りによって敵の側面、9時の方向に陣取る部隊の更に左側を取り、エルフの防御魔法を無視して側面から直接敵の部隊を叩いていた。

 

 偵察によれば9時の方角と10時の方角の壁裏に布陣していたモンスターは、ゴーレム2、ワーウルフ3、ハーピー2、エレメント約30、メイジー約15、ゴブリン約30、コボルト約10。レベルの上がりぶりを見るに相当数を落とせているだろう。

 

「そりゃ悪かった。けど話は後だ」

 

 闇渡りの同行者が呼吸出来ないなんて仕様は知らなかったが、今はそんな言い訳をしている場合じゃない。

 

「あーもうっ!! 覚えときなよ!!」

「油断はしないでね氷室くん。まだ始まったばかりよ」

 

 文句を言いながらも如月は桜ノ宮と連れ立って玉座の後方へ下がっていく。桜ノ宮に言われるまでもなく、油断なんてしていない。敵の配置的に、直線状に発射されるライトニングに巻き込めたのは9時、10時の方角に配置された部隊のみ。11時の方角の部隊は丸々残っており、魔法攻撃は今も止んでいない。

 あの方角の部隊の構成はゴーレム1、ワーウルフ1、メイジー約5、エレメント約15、ゴブリン約20、コボルト3だったはず。ここにエルフも加えるのだから、油断などしたくても出来るわけがない。

 それに、今のでライトニングが連発出来ないことはバレた。出来るなら何度も出たり消えたりを繰り返して撃ちまくるからな。その程度のことに気づかないほど、エルフというモンスターの知能は低くない。

 

「×××××××、××××××××××××××。×××××!!」

「カミサマ! バリアを前に集中させろ!! デカイのが来るぞ!! 行け、お前ら!!」

 

 これまでエルフが攻撃に参加していなかったのは、ライトニングを警戒していつでも防御魔法を展開できるようにしていたからだ。そのライトニングの連発がないとわかった今、エルフが攻撃用の魔法スキルを発動するのは必然。

 モンスターにはモンスターの言語があるらしく、何を言っているのかはさっぱりわからないがそれはスキルの名称だったのだろう。エルフがひとしきり口を動かし終えると、奴の手の上の空気が渦巻き始め、次第にその勢いは強くなっていく。まるで台風を小さな球体に押し込めているかのように、耳障りな轟音を発しながらどんどん回転は速く、それでいてサイズは小さくなっていき、そしてとうとう飴玉ほどにまで圧縮されたそれが弾丸の如き速さで俺たちに向かって解き放たれた。

 

【偉そうに……! まったく不敬なやつだ!!】

 

 俺の指示に従って前方へ集中した強固なバリアと、圧縮された台風球が衝突する。その瞬間、押さえ込まれていた空気の奔流が凄まじい勢いを伴って解放され、バリアを破壊せんと襲いかかる。その暴風はバリアの裏にまで向かい風が吹くほど強烈だ。バリアで一時しのぎをして台風球の軌道から退避することも考えたが、これでは肉体を強化するホルダーや召喚獣以外の者は下手に動けない。バリアの裏にいるからこの程度で済んでいるが、一歩外れれば途端に吹き飛ばされてしまうだろう。

 

【ぐぅぅっ!? 小娘ぇ! 次を撃たせるな!!】

 

 バリアからミシミシと軋むような音が漏れ聞こえている。

 傍目には今にも破られそうな感じだが、どうやらこの一撃だけなら凌げるようだ。次を撃たせるなとはそういう意味だろう。

 

「上出来だ」

 

 如月の異能と違い、魔法スキルにクールダウンは存在しない。だから今この瞬間にもエルフは再度スキルを発動しようとしているだろう。もしくは別の強力な魔法スキルを使うという可能性もある。だが、そうはさせない。

 

「マスカレイド・シルバー!!」

 

 如月の闇渡りライトニングが成功し、連発不能であることを見抜いたエルフが攻勢に出て来た場合、加賀美の強襲によってエルフを妨害することはあらかじめ決めていた。だから俺の簡単な号令を合図に加賀美はとっくに飛び出していた。

 こっちのバリアとエルフの魔法がぶつかり合う瞬間、彼我の戦力差が、どちらが優勢なのかがハッキリする重要な一瞬。その意識の間隙をついて、加賀美は銀色の強化フォームに変身しながらエルフに向かって切り込んだ。

 

「×××! ××! ×××!!」

「ハッハー! んな見え見えのが当たるかよ!!」

 

 強力な魔法はスキル発動前の詠唱が長くなる傾向があり、距離をとっての撃ち合いでなら大した影響はないが、息もつかせぬ近接戦闘となれば長々と詠唱をしている暇はない。飛び込んできた加賀美の一撃をギリギリで気づいて回避したエルフは、加賀美に向かって低級の魔法スキルを連発して迎撃を試みるが、加賀美はそれを手持ちの鎌で受け流しながら距離を詰めようと迫る。

 

 そんな加賀美を阻止するように、恐るべき俊敏性と反応速度を誇るワーウルフが壁の側面から姿を現し襲い掛かろうとするが、いつの間にか地面を這って忍び寄っていた鎖がワーウルフの全身に巻き付いて縛り上げ、その動きを封じた。

 

「壁の前に出てたのは失敗だったんじゃないかな?」

 

 如月のライトニングを警戒するあまり自分だけ壁の前にいたせいで、エルフは最初から味方と分断されていた。そんなエルフを助けようとするワーウルフの動きは、沖嶋からすれば容易く読めるものだったのだろう。坑道の時と同じように、ワーウルフは完全に鎖で雁字搦めにされて一切の抵抗が出来なくなっている。

 

「よくやった沖嶋、引き寄せろ」

 

 坑道の時とは違い完全な君臨する支配のバフを受けているため、もしかしたらそのまま縊り殺せるかもと思ったが、すぐにそうしないのなら出来ないということだろう。どういう意味で出来ないのかはこの際置いておく。

 

「やれ、ブラック」

「×××――」

 

 伸ばされていた鎖が機械仕掛けのような勢いで巻き取られていき、未だにカミサマのバリアと押し合いを続けている台風球を避けるような軌道を描いて、縛られたワーウルフが引き寄せられた。

 生かしておいても良いことなど一つもないため、護衛兼ワープ要員として待機させてるブラックに指示を出す。

 なにかモゴモゴと声を発していたが、スキルを発動させないように口は特に厳重に縛らせたため、抵抗らしい抵抗も出来ずにワーウルフの首は落とされた。

 

「エルフも行けるか?」

「無理だ、これ以上鎖が近づけない」

「んがっ!? クソ!! いてぇ!! ちょこまか逃げんな!!」

 

 残った敵の部隊も黙って加賀美とエルフの戦いを見ているわけではない。とくに魔法攻撃を使えるエレメントやメイジーは、エルフに当たるのもお構いなしで加賀美に魔法をぶっ放しており、加賀美は加賀美でそれを避けるでもなく時に鎌で弾き、時に直撃を受けながらエルフと戦っている。

 エルフは魔法耐性が高いから誤射前提で戦ってるのも不思議ではないが、加賀美も負けず劣らずの頑丈さだ。エルフに魔法を撃たせないよう攻めまくるのが役目だとは伝えていたが、ここまでするとはな。流石に改造人間なだけはある。

 

 そんな加賀美に対して沖嶋の鎖は魔法攻撃を受けきれるほど頑丈ではないらしい。ワーウルフの拘束に使われていた鎖は一本で、沖嶋はあと三本の鎖を操れるが、先ほどから何とかエルフに近づけようとしては魔法攻撃に巻き込まれて吹き飛ばされてしまっている。

 

「ちっ、やっぱりエレメントがネックだな」

 

 ゴブリンやコボルトなどの近接メインのモンスターには、加賀美の邪魔をされないようゼリービーンソルジャーズを差し向けている。さっき加賀美が飛び出して行ったタイミングでイエロー、パープル、ホワイトの3体も一緒に向かわせた。足の速さに差があるため加賀美が先行して戦うことになったが、少し遅れてゼリービーンソルジャーズたちも敵部隊の元にたどり着き大立ち回りを繰り広げている。加賀美がエルフ、メイジー、エレメントのヘイトを一手に引き受けているお陰であいつらは余裕そうだ。

 

 ゴブリンとコボルトが片付けばメイジーも時間の問題だろうが、エレメントだけはゼリービーンソルジャーズや加賀美、沖嶋の力では倒せない。今のところ戦況は拮抗、ややこちらが優勢かというように見えるが、加賀美が潰れれば一気に劣勢になるのは間違いない。あのマスカレイドシルバーとかいう強化フォームは5分しかもたないらしいから、如月のライトニングが回復する前に加賀美がダウンする可能性はある。

 

【小娘! この鬱陶しい風はいつまで続く!!】

「俺が知るか! いいからとにかく耐えろ!!」

 

 台風球は徐々に勢いを落としているが依然としてカミサマのバリアをガリガリと削り取っている。やはりエルフの使う魔法スキルは一味違う。加賀美が負ける前に手助けをしなければいけないが、エレメントに対処するにはまずこの押し合いに勝たなければならない。

 

 今、この瞬間動かせるのは沖嶋の鎖とブラックのみ。だがブラックは下手に動かして失うわけにはいかない。

 

「沖嶋、」

 

 俺は魔法攻撃が集中しているエルフと加賀美の戦いに直接割り込むのは難しいと判断して、鎖の攻撃対象をメイジーに変えるよう指示しようと口を開いた。

 

「××××××××××××――」

 

 だがそれを言い終えるよりも、エルフが先ほどまでの隙の小さい魔法の連打による牽制をやめて、早口で詠唱を始める方が先だった。

 恐らくこちらと同じように、エルフもこの瞬間が勝敗を決する分岐点であることを理解して行動を起こしたのだ。

 

「もらった!!」

「――っ、×××××××××××!!」

 

 加賀美はその隙を見逃さず、魔法の連打が途切れたタイミングで勢いよく踏み込んでエルフの首を落とそうと鎌を振るったが、切り落とせたのは庇うように間に挟まれた両腕のみだった。

 エルフはそれでも詠唱を止めることはなく、欠損した両腕から勢いよく血を流しながらも最後に叫ぶように言い切ると、広間の一部、俺たちの後方の壁が土砂崩れでも起こしたかのように崩れ落ちる音が聞こえ、続けて複数の足音が聞こえて来た。

 

 伏兵、挟撃だ。

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