君臨するは我にあり! ~菓子姫平定録~   作:ペンギンフレーム

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長らくお待たせ致しました。
菓子姫第二章開始です。
二章本編は書き終わっていますが、今回から試験的に週2回、火曜日と金曜日の更新にします。


二章 校内闘争編
episode2-1 咲良第二高等学校生徒会


 氷室凪と桜ノ宮葵の活躍により異例の早期攻略が達成されたダンジョンアサルトから早数日。人的被害こそ奇跡的に0だったものの、机や椅子などの比較的大きな備品から、チョークやノートなどの小さな文房具まで、様々な物品がダンジョンの中に散らばったことで咲良第二高校は現在授業を再開出来るような状態ではなく、巻き込まれた生徒への心的外傷にも配慮して休校という措置が取られていた。

 

 そのため校内に生徒はほとんどおらず、ダンジョンからサルベージされた様々な備品の確認や再配置のため教員が慌ただしく駆けずり回る様子ばかりが確認できる。

 

 そんな中、取り急ぎ二つの長机と五つの椅子だけが再配置された小さな一室に集まる生徒の姿があった。何を隠そう、彼らは総勢5名からなる咲良第二高等学校生徒会である。

 

「それで、わざわざ休校中に集合なんて何の用ですか?」

 

 くすんだ灰色の頭髪に、小さな翼のようにも見える羽毛を側頭部から生やした少年が、一人の女生徒に視線を向けながら疑問を投げかける。

 

 生徒会書記、朱鷺戸(ときど) 将吉(まさよし)

 彼の瞳は爬虫類を思わせるような縦長の瞳孔をしており、さらに虹彩はブルーとイエローのグラデーションという奇妙なもので、人によっては神秘的とも不気味とも感じられる雰囲気を纏っている。

 

「そーですよー! 良いとこだったのに、会長のせいで流れを逃しちゃったじゃないですかー!」

 

 青みがかった白髪を少し尖った耳の裏あたりで二つ結びにした少女が、机の上にぶちまけられた様々なお菓子を口に放り込みつつ、朱鷺戸に便乗して抗議の声を上げる。

 

 生徒会会計、坂島(さかしま) 耀(あかる)

 頭頂部と側頭部の間辺りから黒い小さな羽が生えており、腰から伸びる黒い尻尾と相まって悪魔という種族を連想させるが、朱鷺戸同様に大変革の影響によるものであり元は純粋な日本人だった。

 

「……」

 

 今となってはむしろ珍しい黒髪黒目の純日本人然とした少女は、能面のような無表情をぴくりとも動かさず、何を言うでもなく、机の上に積み上げられた児童向けの絵本を読みふけっている。

 

 生徒会庶務、黒石(くろいし) 菜々(なな)

 無口で無表情なのはいつものことで、彼女が日々何を考えているのかは生徒会の面々ですら理解出来ていない者の方が多い。

 

「話はショーイチが聞いてますから、俺のことはお気になさらず」

 

 無造作風にセットされたくすんだ青髪のメガネをかけた少年は、普段はあまり遊んでいる様子を見かけない携帯ゲーム機をカチャカチャと操作しており、好きに話してくれという投げやりな態度で会話を放棄する。

 

 生徒会副会長、彦根(ひこね) 正一(しょういち)

 青い髪と瞳以外は普通の日本人といった風貌であり、特段おかしなところは見受けられない。しかし朱鷺戸書記と坂島会計の二人は珍しいものでも見たというような視線を彦根副会長へ向けていた。

 

「今日はメトロノームの方なんですね」

「彦根先輩がゲームやってるなんて珍しいと思いましたけど、いきなりでしたもんね~」

 

 彦根副会長の事情を知る生徒会の面々はそれぞれ納得した様子を見せ、改めて残る一人の少女へと視線を戻す。

 

「急に呼び出しちゃってごめんねみんな」

 

 上から見て、赤に近い茶色から薄桃色にグラデーションしている長髪を肩の辺りで二つ結びにした穏やかそうな雰囲気の少女が、二人の視線を受けて本当に申し訳ないというように眉をハの字にしながらペコペコと頭を下げた。

 

 生徒会会長、舞締(まじめ) 和佳奈(わかな)

 生徒会長と言えば、フィクションであれば高潔な精神を持った凛々しい者や、大らかで包容力のあるお姉さん然とした人物、あるいは一癖ある腹黒というようなイメージがつきものだが、現実的には大概の場合どこにでもいるような普通の人間と大きな違いはない。

 会長職に就く経緯も、劇的な理由や確たる目的がある場合の方が圧倒的に少数派で、たまたま流れで、あるいは内申のため、はたまた思い出作りというような者が大半だろう。

 

 舞締会長もまた、かつてはそんなどこにでもいる一生徒に過ぎなかった。

 

「できるだけ早く方針を決めた方が良いと思って。これからのホルダー狩りについて」

 

 事情を知らない人間が聞けば、普通が服を着て歩いているような雰囲気の舞締会長に似つかわしくない言葉に耳を疑ったことだろう。

 

 ホルダー狩りとは、読んで字のごとく、異能を持ちホルダーと呼ばれる生徒を狩る活動のことだ。

 ただし狩るとは言っても命を奪うわけではない。咲良第二高校には生徒会の活動を手助けする志願生徒(ボランティア)の集団、生徒会連というものが存在する。ホルダーを説得、あるいは力づくでこの生徒会連に所属させ、生徒会の傘下に加えることをホルダー狩りと呼称しているのだ。

 

「例の事件より前は大体9割くらい達成できてたよね?」

「そうですね。抵抗の激しい一部のホルダー以外は概ね生徒会連に所属させ、定期的な異能披露会への参加も義務付けています」

「くひひっ、あれは楽しかったね~。早く残りもボコってよセイギくん」

 

 生徒会の備品であるノートPCを開き、残るホルダーの情報を再確認する朱鷺戸書記に、坂島会計が煽るような言葉をかける。

 

「……残りの連中に逃げられてるのは大体君のせいだが」

「しょーがないじゃーん。発動条件があるんだからさぁ」

 

 力づくでとは言っても、世紀末や不良漫画ではあるまいに、喧嘩で負けたからと言って大人しく相手の言葉に従うわけがない。しかしその常識を覆し、敗者を服従させる異能を坂島会計は持っている。ただ、その異能が既に学校中に知れ渡っており、一部な強力なホルダーには対策を取られてしまうため足踏みをしているという状況だった。

 

「それもそのうち考えなきゃだけど、問題はそっちじゃないよ」

「例の事件ですか」

「例の事件って、こないだのダンジョンのやつ? あれがどうかしたんですかー?」

 

 ほんの数日前に咲良第二高校を襲った大事件、ダンジョンアサルト。

 生徒会の面々も揃って巻き込まれており、二人の蛮勇とも言える勇者の活躍によって事なきを得た。

 また、ダンジョン踏破者という英雄の影に隠れてあまり話題になっていないが、ダンジョン内で被害者を統率し回収していた生徒がいた。舞締会長もまたその集団に合流し、脱出のその時まで多くの生徒と行動を共にしていた。

 

「ホルダーはダンジョンの中じゃ異能を使えない。だからあの集団の中で何の役割も与えられないで守られてた子たちは、冒険者以外のホルダーってことになるよね?」

無能力者(ノーマル)であればダンジョンアサルトに巻き込まれた時点で冒険者になっているはずですし、そういうことになりますね」

「あーっ! なるほどー! 会長あったま良いーし鬼畜ー!」

 

 朱鷺戸書記は早い段階で舞締会長の思惑に気づいていたようで、問いかけに淡々と答えながらPCのキーをカタカタと叩いており、少し遅れて理解した坂島会計は心底楽しそうに笑い声をあげた。

 

「あの先導で隠れてたホルダーが炙り出されたよ。それに、新しく冒険者になった子の顔も大体は覚えてる」

「優先すべきは前者ですね。表向きの目的を考えるなら後者は後回しにする方が自然です」

「だねー。新米冒険者はぼちぼち勧誘してけばいいでしょ。どうせこっちじゃ弱っちいんだし」

 

 現生徒会長、舞締和佳奈は校内に存在する全てのホルダーを生徒会の制御下に置くことを公言し、実際に次々とホルダーたちを生徒会連へ組み込んでいる。

 その理由は、異能という武器を管理し校内の治安と風紀を守るためとしており、実際異能を用いたイジメや決闘行為はこれにより減少傾向にある。そのため多少強引なやり方ではあったが舞締会長を支持する声も決して少なくはない。

 そうした観点で言えば、これまで異能をひけらかさず、むしろ隠して穏便に学校生活を送ってきたホルダーを炙り出してまで生徒会連に所属させるというのはやり過ぎと言える。ここからは舞締会長のやり方に疑問を覚える者や批難の声も増えることだろう。

 

「それにしても、死人が出なかったのは不幸中の幸いだったね。自粛ムードになってたら、流石にこれ以上は厳しかったかも」

「……恩を仇で返すようなやり方になりますが、良いんですね?」

「嫌なら抜けても良いよ。生徒会連には入って貰うけど」

「あははっ! セイギくんへの発動条件は満たしてまーっす!」

「いえ、今更抜けるのはないです。それと坂島、君が世界を開くより僕が剣を振る方が速い」

「冗談じゃ~ん。真に受けないでよセイギ(・・・)くん」

「け、喧嘩は駄目だよ二人とも」

 

 バチバチと視線で火花を散らし始めた二人に、舞締会長が慌てて仲裁に入る。

 朱鷺戸書記と坂島会計は仲が悪いわけではないのだが、お互い次期生徒会長を目指している二年生であるため、朱鷺戸書記は相手に対抗意識を持っており、坂島会計は相手を蹴落とせる機会を虎視眈々と狙っている。

 

「炙り出されたホルダーを優先して狩る。そういう方針で良いんだな? と、ショーイチが言ってます」

 

 若干話が本題から逸れ始めたところで、未だにゲーム画面から一切視線を外していない彦根副会長が他人事のようにポツリと呟いた。

 

「うん、結論はそうなるね。とりあえず私が覚えてる生徒を共有するから、みんなも情報があったら共有して。統合して、抜けてる情報は例の新聞部から買うから」

「……枡米ですか」

「うえー、あいつきらーい。会長に任せまーす!」

「あはは、しょうがないなぁ」

 

 枡米は咲良第二高校有数の嫌われ者であるのと同時に、腕だけは確かな聞屋(ぶんや)だ。舞締会長はダンジョンを逃げ回っていた集団の中に彼女も混ざっていたのを確認しており、情報のすり合わせを行うのなら適任だろうと考えている。会長自身も個人的には苦手なタイプの相手だが、好き嫌いは言っていられない。

 

 その後、誰がどのホルダーを担当するかや、生徒会連の動員、例の事件より前から残っている厄介なホルダーへの対処、現状手荒な対応は避けるべき相手などを話し合っているうちに日も傾いてきたため、舞締会長が今日の会議はここまでと締めくくり、最後に意気込みを告げた。

 

「それじゃあみんな、休校明けから早速動き出すよ。それで絶対見つけて倒すんだ。最悪の怪人、マスカレイドを」

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