君臨するは我にあり! ~菓子姫平定録~   作:ペンギンフレーム

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episode2-4 お抱え魔術師

 力強く宣言した俺の言葉に、如月と加賀美、それから小堀が困惑したような表情を浮かべてこちらを見た。

 

「冒険者になる気はないって、あんた現実逃避でおかしくなっちゃったんじゃない?」

「氷室ってもう冒険者になったんじゃなかったのか? 俺またなんか勘違いして覚えてた?」

 

 如月は、あちゃー、とでも言いたげな様子で首を横に振り、加賀美は不思議そうに小首をかしげており、小堀は何も言わないが激しくコクコクと頷いて二人と同意見であることを主張している。

 少し言葉足らずだったな。ここで言う冒険者にならないってのはそういう意味じゃない。

 

「職業冒険者になるつもりはないってことだろ、氷室?」

「ああ、もちろんホルダーの種別としては俺は冒険者だけど、だからって冒険者業をするかどうかは別の話だからな」

 

 沖嶋には俺の意図が伝わっていたようだが、如月たちにもわかるように補足する。

 

 言葉通り、冒険者の力に目覚めた者が必ずしもダンジョンに挑むとは限らない。

 今回のダンジョンアサルトだって、巻き込まれて冒険者になってしまった生徒はそれなりにいるだろうが、だからって全員が全員将来は冒険者として働きますとなるわけじゃない。

 世の中には自分の異能とは全く関係ない仕事をしている者も多いし、そもそも異能を持たない者だっている。異能が職業選択の全てではないんだ。

 

「けど、じゃあ平定者になるのは諦めるのか?」

「ふん、わかってねーな沖嶋。この俺が、一度絶対にやると決めたことを投げ出すと思うのか?」

 

 ま、ダンジョンを協力して踏破したと言っても、こいつらとは大して親しいわけでもない。

 俺がどういう奴かなんて知りもしないだろうし、そういう疑問を持つのも当然と言えば当然か。

 

「……だよな。でも、だったらーー」

「氷室くん、使えるのね? 今、ここで」

 

 どこか弾んだようにも感じる声音で言葉を続けようとした沖嶋を遮って、それまで沈黙を貫いていた桜ノ宮がそう問いかけてきた。

 相変わらず底の知れない女だ。俺がこう言い出すことも、それが何を意味するのかもお見通しって訳か。

 

「いつ、どこでもな」

「そういうことなら別室で話しましょう。これ以上は沖嶋くんたちを巻き込むことになるわ。それは本意じゃないでしょう?」

 

 ダンジョン内で桜ノ宮が言っていた、知ってるのと知らないのじゃ話が違う、ってことだな。

 今後起業して金の分配をするのに表向き仲良くする必要はあるかもしれないが、それは別に俺の仲間になるってわけじゃない。

 なし崩し的に巻き込んじまうってのは筋が通らねえ。

 

「少し氷室くんと話があるから、みんなは自由に寛いでて。必要なものがあったら、あの弥勒に言えば用意してくれるわ」

 

 無言で頷き立ち上がった俺を先導するように桜ノ宮も立ち上がり、部屋の隅で控えていた執事を指し示して歩き出す。

 

「ちょ、ちょっと待って。俺もその話、聞いちゃ駄目かな?」

「それは氷室くん次第ね」

 

 部屋を出て行こうとする俺たちを沖嶋が慌てて呼び止め、その問いかけを桜ノ宮が俺へとパスする。

 

 沖嶋、こいつは相変わらずわけのわからんやつだな。

 説得するでも懐柔するでもなく最初から俺の旗下に入っていたのも、ここ数日の検証で明らかなイレギュラーであるとわかった。

 その検証にも文句も言わず付き合ってくれたしそのお陰で色々わかったこともあるが、こいつの目的は未だにわからない。

 

「……駄目だな」

「なんで? 知る知らないなんて今更だろ」

 

 沖嶋からすれば、検証結果は自分も知っているのだから今更と言いたいのだろう。

 だが、俺は何も沖嶋だけを相手に検証していたわけじゃない。だからこそ沖嶋は俺が職業冒険者にならないと言ったとき、平定者を諦めるのかなんて馬鹿な疑問を抱いた。

 

 もっとも、巻き込まれる覚悟があるのなら如月や加賀美には聞かれても構わない。ただし沖嶋と小堀は別だ。先のことはともかく、今この段階ではこいつらに異能の詳細を知られるのは好ましくない。

 

「お前は俺の敵になるからだ」

 

 俺のこれからの方針は当初の想定から大きく変わった。

 それによって沖嶋と小堀の二人は潜在的な敵となった。

 

 

 

・   ・   ・

 

 

 

「どうぞ、好きなところにかけて良いわよ」

「それじゃお言葉に甘えて失礼するぞ」

 

 応接間へと通された俺は対面するように並べられた二人がけのソファの近い方に腰を下ろす。

 軽く周囲を見渡してみれば、絵画やら彫刻やらの美術品が主張しすぎない程度に配置されている。

 芸術的センスなんぞ持ち合わせていないし知識もない俺にはさっぱりだが、お高いものなんだろう。

 

「それで、二人でどんな内緒話がしたいんだ?」

「あら、ご期待に添えなくて申し訳ないけど二人きりじゃないわよ。出てきて良いですよ」

 

 俺の正面に腰掛けた桜ノ宮のその言葉を聞いて、今度は勢いよく周囲を見渡すが、タンスやクローゼット、ロッカー、押し入れというような人一人が隠れられそうな場所は見当たらない。

 

「あはは、こっちこっちー。こないだぶりだね凪くんちゃん!」

 

 誰もいないじゃねーかと視線を正面に戻すと、いつの間にか、本当にいつそこに現れたのかもわからない間に、桜ノ宮の隣に一人の女性が腰掛けていた。

 

 毛先がカールした長いブロンドヘアに、紅蓮の瞳が特徴的な大人の女性だ。オーバーサイズのTシャツにロングスカート、小さなポーチを膝の上に乗せ、けらけらと笑いながら手を振っている。ちょっとギャルっぽい、どこにでもいるようなラフな格好の女子大生という雰囲気だが、俺はこの人物が只者でないことを知っている。

 

「……どうも、フィクサーさん」

「? フィクサー? なんのこと?」

「こないだ会ったときそう名乗ってましたよ」

 

 軽くペコリと頭を下げて挨拶するが、当の本人は頭に疑問符を浮かべたような間抜けな表情をしており、桜ノ宮にそう言われてようやく合点がいったというようにポンと手を叩いた。

 

「あはは! そういえばそんな偽名も名乗ったね! じゃあ今回の偽名は(しのび)ちゃんでよろしく!」

 

 偽名のつもりだったのか。コードネームか何かかと思ってたんだが。

 

「ともかく、こないだは助かりました」

「良いよ良いよ、仕事だからね~。ちなみに今日も仕事だよ~」

 

 このへらへらとおちゃらけた感じでふざけているようにも見えるギャルの姉さんは、桜ノ宮お抱えの魔術師だ。

 偽装工作や情報の封鎖、隠蔽に長けた特化型の魔術師であるらしく、対策本部から事情聴取をされるにあたって桜ノ宮から紹介を受け、嘘を看破する異能を誤魔化す魔術を施された。

 その効果は絶大で、聴取の際は桜ノ宮の用意したシナリオ通り嘘八百を並べ立てたにもかかわらず、少しもバレないどころか不審に思われた様子すらなかった。

 当然国家や行政も嘘看破を誤魔化したり妨害する異能が存在することは認識しており、重要な場面ではそれらの妨害を感知する異能持ちを同席させたりと対抗策を講じると言われている。桜ノ宮曰く、俺たちの事情聴取の時もかなり腕の良い魔術師が妨害や偽装を感知する魔術を使っていたのだとか。

 だが、この人の魔術は全てを欺いて俺たちの嘘を本当であると信じさせた。桜ノ宮が言うには、この手の魔術に関しては右に出る者がいないほどの魔術師らしい。

 

「さっきまで隠れてたのも魔術で?」

「そうそう! ここにあたしはいないってことにしてたんだよね。視覚情報、聴覚情報、その他諸々偽装してさ」

 

 そんなことまで出来るとは、やっぱり魔術というのは融通の利く異能だな。

 

「二人とも雑談はそのくらいにしておいて。氷室くん、彼女にも同席して貰うつもりだけどいいかしら?」

「理由は?」

「内容次第では情報の封鎖が必要かもしれないからよ。嘘看破を誤魔化すだけならともかく、どこまでを握り潰してどこまでを流すか、これは事情を知らないと出来ないでしょう」

 

 ……俺はこの人のことをほとんど何も知らないが、あの桜ノ宮があてにしているというとことはそれなりに信頼のおける人物なのだろう。加えて能力の優秀さは身をもってわかっている。

 沖嶋たちにも嘘看破への対策を施して貰っているため、ダンジョン踏破のいきさつは真実を説明している。既に全くの無関係というわけでもない。

 それに、俺としてもこれだけは隠し通さねばらならないと考えていることが一つあるため、この人の協力が得られるのであれば心強い。

 

「わかった。それで本題は?」

「その前に、念のため確認するけどダンジョンの外でも氷室くんは異能を使える、そういうことで良いわね?」

 

 まあ、たしかにその前提が食い違っていたら話し合いもクソもないか。

 

「君臨する支配」

 

 百聞は一見にしかずってやつだ。

 桜ノ宮への返答代わりに異能を発動すると、先ほどまで着用していたボーダーのTシャツとベージュのチノパンが独特な意匠のドレスへと一瞬で変化した。

 ただし膝の上に乗せていた革製の小さなショルダーバッグはそのままなので、身に着けている物全てが変化するというわけでもない。

 

 ダンジョンの攻略中は細かいデザインまで確認している余裕がなかったが、その後家で明と美月にも協力して貰って隅々まで確認し、どうやら洋菓子をモチーフにしたドレスであるらしいことがわかった。

 トップスはクリーム色の生地をベースに、スカーフのようにも見える大きなリボンがクロスするように重ねられている。右肩はエメラルドの大きなブローチが、左肩にはクッキーやケーキを模した小物を寄せ集めたようなアクセサリーが、それぞれリボンの結び目を固定するように取り付けられている。

 背面は細かなレースで飾られており、腰の部分には小型のバッスルがあり、その上に赤い細いリボンが結ばれている。

 スカートは膝下まであるドーム型のシルエットが特徴的で、下に行くにつれて柔らかい生地の3段プリーツになっており、上から順にチョコレート色、ホイップ色、クリーム色をしている。

 袖もまたスカートのようにヒラヒラした素材が何層にも分かれて縫い付けられており、重たいったらない。

 ほとんど美月の知識の受け売りだが、とにかくそんな感じで全体的にボリュームがあって動きづらいドレスというわけだ。

 

 一方でダンジョン内で発動した時のような巨大な玉座は出現していない。

 発動によってどこまでを呼び出すかはある程度俺の意思で決めることができる。例えば今回のようにドレスだけ呼び出すことも可能だし、逆に玉座だけ呼び出すことも可能。さらには玉座もドレスも呼び出さず、一定範囲を支配するという効果だけを広げることも可能だ。今回は見た目のわかりやすさ重視でドレスを呼び出した。

 

 ある程度と前置きしたのはどうしても取り払うことの出来ない部分もあったからだ。実はこの床に引きずりそうなほど鬱陶しい長髪を一度肩の辺りまでバッサリ切ったのだが、君臨する支配の発動と同時にこの長さまで戻ってしまった。何度試してみてもこれは付随してしまうため、今では髪を切ることは諦めて後ろで一括りにまとめている。

 

「えー! すごっ! 凪くんちゃん冒険者なんだよね? なんでここで異能使えんの? てかドレス可愛い~! 凪くんちゃんの趣味? 意外に乙女チックなんだね~」

「そう、よくわかったわ。想定はしていたけれど本当に出来るとはね」

 

 最初は不思議という顔をしていたがすぐにキャピキャピと騒ぎ始めた忍さんに対し、桜ノ宮は冷静な態度を崩さず呟くようにそう言った。

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