君臨するは我にあり! ~菓子姫平定録~   作:ペンギンフレーム

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episode2-16 No.2

 種を明かしてしまえば非常にシンプルな話だが、要は俺自身がシロップスライムの骨格となることで、単純に跳びはねるよりも遥かに大きな膂力を生み出したというわけだ。

 右腕にまとわりついたシロップスライムが樹霧のチェーンソーを白羽取りのように押さえ込み、動きを止めた樹霧に対して左の拳を叩き込んだ。

 

 命名するなら、シロップスライム・コーティングとでも言ったところか。

 

 とはいえ、こうも綺麗にハマったのは樹霧が伏兵への警戒を薄めていたからだろう。

 俺の菓子兵召喚は召喚対象の名前を口に出す必要がある。そしてそれは恐らく樹霧も気づいていた。

 だからこそ、まだ控えの召喚獣がいる可能性はあっても、あの最後の瞬間は出て来ていないと考えていたはずだ。

 実際、俺はシロップスライムを新しく召喚したわけじゃないしな。

 

「……っ」

 

 にしても……、――――いってぇぇぇぇっ!!

 痛い痛い痛いっ! 痛すぎる!

 歯ぁ食いしばってねぇと立ってられねえ!

 

 全身にズキズキときつく締め上げられたかのような痛みがあり、ちょっと動いただけで涙が出そうなほどの激痛が走る。骨が砕けてるんじゃないだろうか。マジで痛い。

 俺自身が骨格になるということは、より出力を上げようとするシロップスライムのパワーをモロに受けると言うことでもある。多少ダメージを食らうことも覚悟はしていたが、まさかここまでとは……。練習と本番は違うということか。

 

 召喚獣を使うタイプのホルダーは本体が明確な弱点であり、だからこそそれを逆手に取ることで痛烈なカウンターを浴びせることが出来るわけだが、このやり方は駄目だ。万が一失敗した場合、自分だけが一方的に行動不能になる。リスクがあまりにも大きすぎる。

 

「~~~~っ、癒しの……、ひかり」

 

 途切れ途切れになりながらも何とかホワイトに指示を出して回復スキルを使用させる。

 もしもHPが見れたら瀕死の状態かもしれない。ヒーラーが全滅していなくて助かった。

 

「あはははは!! 辛そうじゃないですかぁ! 氷室くぅん!!」

「っ!?」

 

 四つの光源から浴びせられる癒しの光によってジワジワと痛みが引いて来たところで、地面に崩れ落ちた樹霧が楽しそうな笑い声をあげ、勢いよく立ち上がる。

 あれを食らって無傷なのか!? 危険だから沖嶋や加賀美相手には試さなかったが、異能強度5の身体強化持ちでもかなりのダメージのはずだぞ!?

 

「楽しくなってきましたね! 続きを、やりましょうか!!」

 

 樹霧は楽しそうに笑顔を浮かべて若干ふらついた幽鬼のような足取りで近づいてくる。効いていないわけではない。だが、まだ余力はあるというところか。

 

 いつの間にか、チェーンソーは樹霧の手の中に戻っていた。九十九憑きかどうかは不明だが、あれもただのチェーンソーではないのだろう。聖剣や魔剣のように持ち主の手を離れてもワープして手元に戻ってくる武器は珍しくない。

 

「おもしれえ」

 

 ホルダーは、大変革以前からは考えられないような超常的な力を持っている。

 しかし大半の者は、ただ力を手に入れただけの凡人だ。それをうまく利用できずに腐らせてしまうこともあるし、気性が荒事に向いていないことだってある。強力な異能を手に入れて調子に乗っていたホルダーが、ぶちのめされて以降はすっかり大人しくなるということもある。

 

 それに比べてどうだ、この女は。

 足取りがおぼつかなくなるくらいのダメージを受けて、人によっちゃ泣き叫びたくなるような痛烈な反撃を受けて、それでもなお笑っていやがる。あれはハッタリなんかじゃない。本気で、もっと遊ぼう(・・・)と言っている。

 

 やはり俺の目に狂いはなかった。それでこそ、

 

「No.2に相応しい。フォーメーション――」

『待て、緑。やはり何かおかしい。ずっと気になっていた』

「もー! 何ですかフライデイ! 良いところなんだから邪魔しないでください!」

 

 残った召喚獣たちに命令を下そうとしたところで、唐突に樹霧の持っているチェーンソーから声があがった。ただのチェーンソーではないとは思ったが、喋れるのか。まさか本当に九十九憑き? いや、けどチェーンソーは一般に普及するようになってからまだ100年経ってないはず……。

 

『あの氷室という女子、俺の軍門に下れ、と言ったな?』

「そうでしたっけ? それがどうかしました?」

『俺の右腕になってもらうと。その時から何かおかしいと思ったが、今の言葉で確信した』

 

 時間が経つ分には俺の回復が進むだけだから構わないのだが、何やら妙な感じになって来たな。

 命の取り合いというわけでもなし、流石にここで不意を打つほど無粋ではないが、そういう話し合いは始まる前に済ませておいて欲しいもんだ。

 

「勿体ぶらないでください!」

『奴は生徒会の人間ではない。そうだな?』

「ああ、もちろん生徒会連でもないぞ。一言もそんなこと言ってないだろ?」

「え゛っ? えええぇぇぇーー!? 違うんですか!? 生徒会の刺客じゃないんですか!?」

 

 ……? やけにオーバーなリアクションだな? 相手がどこの所属とか、そういうことを気にするようなタイプには見えなかったが……。

 

「生徒会の連中とは無関係だ」

『やはりな』

「やはりなじゃないですよ! 氷室くんもなんで最初に言ってくれないんですか!!」

「いや、所属なんて大して関係ないだろ? お前を勧誘してるのは同じなんだし」

「全然違いますよ!」

『しかしだとするとお前はどこの所属だ? いや、緑をNo.2にということはまだ存在しない……?』

「? 結局どこの勧誘なんですか?」

 

 ほう、勘のいいチェーンソーだ。どうやら持ち主より頭は回るらしい。

 

「俺の、俺による、俺のための勢力。名前はまだないし、構成員も今のところ俺一人だけどな」

「? ?? え? どういう……?」

『部活や委員会でもないのか?』

「違う」

 

 学校内で勧誘をする以上は何かわかりやすい形にした方が良いのか? それこそ、部活を作るとか。

 今回は理解力のある相手がいるから話が通じてるが、樹霧みたいなのが単体だった場合説明が難しい。

 

「俺の目的は平定者になることだ。そしてそのためには信頼できる仲間がいる。今やってるのはその仲間集めってわけだ。改めて言うぞ。俺の軍門に下れ、樹霧」

『……平定者とは大きく出たな』

「氷室くんそれ、本気だったんですか?」

「それってどれだよ」

「平定者になるっていっつも言ってましたけど、ホルダーじゃなかったじゃないですか? 冗談なのかと思ってましたよ」

「俺はずっとマジだったぞ」

 

 まあ、俺がどういうルートで平定者を目指してるかなんて一々説明してなかったし、傍目には平定者になるなんて言っておいて、特に何かしてるわけでもない無能力者(ノーマル)に見えても仕方ないか。

 

「なるほどなるほど、そういうことですか。樹霧は氷室くんのことを勘違いしてたみたいです」

「別に過去の話はどうだって良いけどな。それで、俺が生徒会の所属じゃないことはわかったみたいだけど、続きをやるか?」

「いえ、それならもう良いです。本当は最後までやりたいですけど、生徒会の人たちに横やり入れられるのは嫌ですから」

 

 たしかに、このまま続ければお互いに疲弊しきって、運悪く生徒会や生徒会連に見つかりでもしたら二人まとめてあの会計の餌食になる可能性はある。

 

 しかしだ

 

「そっちが良くても俺の用事は済んでねえぞ」

「だから、良いって言ってるじゃないですか」

「あん?」

『緑はお前の軍門に下ると言っているんだ』

「ふふん! この樹霧緑が仲間になったからには泥船に乗ったつもりでいてください!」

 

 樹霧が両手を腰にあてて、えっへんとでも言うように胸を張りながら宣言した。

 

『大船だ』

「大船です! えへへ、No.2っていうのも何だか悪くない響きですよね!」

 

 ……なんだか思っていたよりもあっさりしているというか、とんとん拍子に受け入れたな。

 

「言っとくが、これは学生のお遊びなんかじゃねえからな。俺はこれから先一生かけてでも平定者になるつもりだ。それに付き合う覚悟はあるか?」

「はい! むしろ望むところです! でも後出しでそういうこと言うのずるくないですか?」

『負けたら軍門に下れと言うならもっと詳細に説明するべきだな』

 

 ぐうの音も出せん。

 たしかにちょっと強引過ぎた。

 いや、誰にでもこういうやり方で勧誘しようとしているわけではないからな。樹霧が生徒会に対して、自分に勝てたら入るって条件をつけてるの知ってたから、そういう奴なんだなって判断したんだぞ。

 

「過ぎたことは気にするな。それじゃこれからよろしく頼むぜ、樹霧」

「任せてください! これからは氷室軍団副団長の樹霧緑です!」

『ダサいな』

「勝手にダサい名前をつけるな」

 

 ホワイトの癒しの光のお陰でようやく痛みも引いてきたため、樹霧に向けて手を差し出すと力強く握り返される。こいつ、癒しの光の効果範囲外にいるはずなのにもう元気になってないか? もしも続けていたとして、まだまだ結果はわからなかったかもな。

 

「ホワイト、こいつも治してやれ」

「わっ、なんですかこれ!? なんか温かくて気持ち良いですね! この子ください!」

「駄目に決まってんだろ。にしても、そんなに生徒会連には入りたくなかったのか? あいつらとも負けたら仲間になるって約束でやり合ってたんだろ?」

「……氷室くん、生徒会がホルダー狩りをしてる理由は知ってますか?」

「ああ、たしか校内の秩序を守るため、とかそんな感じじゃなかったか?」

 

 全てのホルダーを傘下に収め管理することで、構内での無用ないざこざや争いが起きないようにするとかなんとか、そんなことを言っていたような気がする。

 実際、ホルダー狩りが始まる前までは強力なホルダーが幅を利かせてたし、横暴な奴もいたみたいだから生徒会は結構生徒の支持を得ている。ホルダー狩りと言っても暴力で支配するというのとは少し違うし、客観的に見て善行か悪行かと言えば善行と言える部類だろう。

 

「そうそう、それですよ! ほんっと~~~につまんないですよね!」

 

 屈託のない笑顔で結構毒吐くな。

 

「何ですか校内の秩序って! ちょっと異能を使って喧嘩したくらいで怒るんですよあの人たち! 校内の秩序なんて樹霧の知ったことじゃないですよ! それに比べたら氷室くんの目的はすっごく面白そうですから、共倒れになるくらいだったら仲間になった方が楽しそうじゃないですか!」

『緑、ステイステイ。あまり興奮するな』

 

 なるほど、樹霧は生徒会の目的が気に食わないわけだ。

 

「そういうことならちょうどいいな。これから平定者を目指すうえで、仲間集めと平行してやることがある。まず最初は、生徒会に喧嘩を売るぞ」

「やったー! 流石です氷室くん! それでこそ樹霧の見込んだ男です!!」

「そうだろうそうだろう! もっと褒めて良いぞ! はっはっはっはっは!!」

「なーっはっはっはっはっはー!」

『馬鹿が二人に増えてしまったか……』

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