君臨するは我にあり! ~菓子姫平定録~   作:ペンギンフレーム

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episode2-18 凄い奴

 樹霧の仲良しグループから昨日の件を問い詰められたり、枡米にしつこく粘着されたりと色々あったものの、今日も無事学業は終わって放課後を迎えた。

 沖嶋は先に行って待ってると言うように、こちらをチラリと一瞥してから教室を出て行った。

 それに倣って俺も如月の方に一瞬視線を向け、アイコンタクトでわかっているなと伝えてから帰り支度を始める。

 

 対沖嶋攻略に協力するという約束で如月は一時的に俺の旗下に入っていたため、ダンジョンから脱出後スムーズな協力体制を築くために連絡先は交換済み。

 例の沖嶋のタイプを聞くという約束を放課後に果たすと朝のうちに連絡しておいたため、普段は桜ノ宮や小堀と雑談を始める如月だが今日は俺と同じように帰り支度を始めている。

 

「あれ? りりちゃんもう帰るの?」

「珍しいわね。何か用事でもあるの?」

「そーそー、ちょっと外せない用事があって!」

 

 小堀と桜ノ宮に声をかけられた如月が、わざとらしい声をあげながら視線をあちらこちらに散らす。

 わざとやってるのか無意識なのか知らないが、かなり頻繁に視線がこちらを向いてしまっている。

 

「ふぅん、そう。頑張ってね」

 

 それに気づいた桜ノ宮が一瞬俺の方を見て、小さく微笑んだ。

 うん、隠し事が下手過ぎるわ如月。ダンジョンの中ではボロを出してなかったのに、あれは極限状態で本来の力を超えた演技力を発揮出来ていたのか、それとも隠し事を気にする余裕すらなかっただけか。

 

「氷室くん! 今日はどうしますか?」

「適当に校内を回って良さげなホルダーがいないか探す。手分けするぞ」

「手分けするんですか? フリーなのか生徒会連所属なのかわかりません!」

「とりあえず写真撮って俺に送れ。こっちで判断する」

 

 これは嘘じゃない。沖嶋のタイプを聞くのなんて大して時間はかからないだろうし、終わった後にメンバー候補を探す予定だ。

 

「樹霧は各クラス、特に一年生を重点的に見てくれ。俺は特別教室を回る」

「わかりました! それじゃあ早速行ってきます!」

「生徒会の連中に喧嘩売られたらぶちのめして俺の名前を宣伝しとけよ」

「了解です!」

 

 一年生を重点的に調べさせるのは、ホルダーであることを隠している生徒が一番多いと推測できるからだ。

 生徒会がホルダー狩りを始めたのは今年の5月。恐らく前生徒会のOBが卒業するのを待っていたため去年は大人しくしており、そして今年度すぐに動き出さなかったのは新入生が警戒して異能を隠すのを避けるため。

 一月もあれば、意識して隠す気のないホルダー以外は大体わかってくる。だが一月程度なら、隠す気はなかったが運良く露見しなかったって奴も少なくはないはずだ。俺たちが狙うのはそういう層。当然生徒会の連中も注意して探してはいるだろうから、どっちが早く見つけるかの競争だ。

 

 とはいえ、見つけたところでそいつが素直に仲間になるとは限らないし戦力になるかもわからないけどな。

 

「さて、俺も行くか」

「ちょっと氷室! 今日は用事あるって言ったよね!」

 

 通学鞄を持って席を立とうとした俺の行く手を遮るように枡米が立ちはだかり声をかけてくる。

 

「話は聞いてやるよ。けどその前に先約がある。ここで待ってろ」

「先約ってどれくらいで終わんの?」

「長くても30分はかからねーよ」

「あっそ。早く戻って来なさいよ」

 

 本当に自分勝手で迷惑な女だ。こっちに用事がなければ関わりたくなかったが、昨日樹霧と話して、改めて情報が足りてないことを再認識した。関わりたくはないが、背に腹は代えられない。

 

「大崎ー、こいつが後つけて来ようとしたら眠らせてくれ」

「いいよー!」

「そんなことしないし!」

 

 いいやするね。牽制入れなければ確実にこいつは後をつけてくる。じっとして大人しく待っているような女じゃない。

 樹霧の仲良しグループに詰められたのは面倒だったが、大崎が枡米を眠らせていたという情報を聞けたのは幸いだったな。

 

 キーキーと猿のようにうるさい枡米を無視しつつ教室を出て、渡り廊下を通って特別教室棟へと歩みを進める。

 時間にして精々5分という程度か。うちの学校はそれほど広いわけでもないし、さほど時間はかからなかった。ただ、前の時より歩幅は小さくなったから少し早歩きになったけどな。

 

 図書室の扉の前には既に如月が到着していて、中にいる人物から隠れるようにしゃがんでいた。

 

「ドアはあけっぱにしとくからこっそり入れ」

 

 小声でひそひそと指示すると、如月は無言でコクリと頷いた。

 

「うーっす」

 

 勢いよくガラガラと引き戸を開けて図書室へと踏み入る。

 初めて来たというわけではないが、最後に訪れたのは入学直後に校内のマップを確認するため軽く覗いた時なので、もう一年振りくらいになる。

 広さは教室二つ分くらいで、壁には隙間なく本棚が並べられていてギチギチに本が詰まっている。そしてよくある図書館や図書室のイメージと違わず、壁以外にも本棚が所狭しと並べられているため、実際の広さよりはかなり狭い印象を与えてくる。

 

「沖嶋ー、ほかに誰かいるかー?」

「誰も来てないっぽいよ。図書委員もまだみたいだし」

 

 入室してすぐに見渡せる範囲に机と椅子が並べられており、そこには誰もいなかったが奥のスペースで本を選んでる可能性もある。念のために声をかけると、まさしくその奥の方から沖嶋の声が返ってくる。

 

「お、丁度いいな。非常階段の方で話すか」

「随分念入りだな。そんなに人に聞かれたくないわけ?」

「まあそんなところだ」

 

 どっちかというと沖嶋への配慮なわけだが、まさか素直に答えるわけにも行くまい。

 この図書室への正規ルートは当然特別教室棟の廊下の方だが、実はその反対側に非常階段へと繋がる出入口が存在する。

 図書室で話をするより、非常階段の踊り場に出た方が如月も隠れやすいだろう。ずっと図書室の外でしゃがみ込んでたら不自然だしな。

 

 そういうわけで沖嶋と合流した俺はいそいそと非常口の引き戸を開けて先に沖嶋を行かせ、自分が出た後に少しだけ開けたままにする。これで図書室に侵入した如月にも話が聞こえるだろう。

 

「それで、俺が敵になるってどいういう――」

「まあ待て沖嶋。俺とお前は確かに一時共闘したけどそんなに親しいわけじゃない。込み入った話をするにはアイスブレイクが必要だ」

 

 早速本題に入ろうとした沖嶋の言葉を遮ってあらかじめ用意しておいたセリフを述べる。

 

「沖嶋、好きな女のタイプは?」

 

 我ながら完璧な導入だな。これなら少しも怪しくない。案外俺にも、桜ノ宮に負けない話術の才能があるかもしれん。

 

「え、なに急に?」

「恋バナだよ恋バナ。十代の若者が腹を割って話すんならこれ以上のチョイスはないだろ? それとも沖嶋にはまだ早かったかな?」

 

 プークスクスとこれ見よがしに煽ってやる。

 くく、こうしてプライドを刺激してやれば乗って来ざるを得まい。

 

「なんか意外で。氷室もそういう話するんだ」

「なんだぁ? 俺がそういう話をしちゃいけないってか?」

「悪くはないけど、なんか想像できないっていうか、似合わないっていうか……」

 

 失礼だろ

 

「いや、悪い意味じゃないんだけど」

「けっ、言い訳は良いからさっさと答えろよ」

「そういうのって普通、自分が教えてから聞くもんだと思うよ?」

「俺に好きなタイプはない!」

「それありなんだ」

「沖嶋はこの答えじゃ駄目だぞ!」

「暴君すぎる……」

 

 ちっ、中々しぶといな。

 

「うーん、いや、氷室だから正直に言うけどさ、俺あんまりそういうことに興味持てないっていうか」

 

 沖嶋は言い難そうに切り出して、気まずげに後頭部をポリポリとかく。

 

「花の高校生が何枯れたこと言ってんだ」

「俺、昔女子に結構ひどい思いさせられたことがあってさ。それからずっと苦手意識あったんだよね」

「お、おう」

 

 これは茶化しちゃいけない感じのやつっぽいか。

 こっぴどく振られたのか、あるいは虐めでも受けていたのか。

 

「中学ではそういうこともなかったしみんな優しかったから、なんとか友達としてやってくくらいは出来るようになったけど、それ以上の関係はまだ想像出来ないっていうか、踏み込めないっていうか」

「……」

「だから俺も氷室と同じでタイプはないかな」

「そうか」

 

 如月には悪いが、これ以上は深堀り出来ないな。

 つーかこいつ、なんで大して親しくもない俺にそんな重い事情を告白してんだよ。全然アイスブレイクにならないだろ。

 

「あ、でも、憧れてる人はいる」

「へえ、どんなやつだ?」

「難しい目標に向かっていつも一生懸命で、どんなに辛くても苦しくても絶対に諦めない。みんなが出来っこないって言うようなことでも、自分だけは出来るって本気で信じてる。そんな前向きで、怖いもの知らずで、強くて、格好良い人。それが俺の憧れなんだ。俺もいつか、追いつきたいって思ってる」

「そりゃ、随分すげー奴なんだな」

 

 あの沖嶋がここまでべた褒めするなんてな。アスリートかなんかか? それとも超強いホルダーとか? もしかして平定者か?

 まあ、なんでも良いか。これも好きなタイプみたいなもんってことで、如月への約束は果たしたな!

 

「ほんとに、凄い奴なんだ」

 

 どこか寂しそうにも見える笑顔でこちらを見て、沖嶋は噛み締めるようにそう言った。

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