君臨するは我にあり! ~菓子姫平定録~   作:ペンギンフレーム

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episode2-22 No.4、古條うつり

(はわわっ!? モテ期到来!? 凪様絶対、私のこと好きじゃないですかー!! 私もしゅき!!)

 

 こいつは俺が貰う宣言を受け、古條の脳内は激しく荒ぶっていた。

 そもそも可愛い女の子に目がない古條は、何の心の準備もしていなかったところに滅茶苦茶タイプの美少女から凄まじく距離感の近いスキンシップを取られた時点で脳が焼かれていた。

 

 気合で奇行をねじ伏せることで何とか常人が驚いている程度の擬態に成功していたが、実際の脳内では

 

(え? カワイ! え?? 可愛好き! なんですか!? 凄い甘い良い匂い可愛い! 可愛過ぎ! 顔面国宝? 声良っ! ていうか誰!? タイプ過ぎる! 好き!)

 

 完全にパニック状態に陥っていた。

 なんとか氷室凪という単語を聞き取ることには成功し、そういえば全校集会で表彰されていたウルトラ可愛すぎ救世主の名前が氷室凪様だったなと思い出したのである。

 

 何故かはわからなかったが、恐れ多くもめちゃかわ凪様が親し気に肩を組んでくれているのだという事実を認識した古條は、命の恩人その2を前にして失礼な態度を取ってはいけないと、何とか冷静さを取り戻しつつあったのだが、そこに来て俺が貰う発言である。思考は冒頭へ戻るというわけだ。

 

「な、ななな、凪様? お、お、俺が貰うとは?」

「言葉通りだ。お前は生徒会連にゃ勿体ない。俺と一緒に来い」

「はぅぅぅ~~~っ!」

 

(凪様! グイグイくる俺様系なんですね! 見た目とのギャップで可愛さと格好良さマシマシです~~!!)

 

「お、おい? どうした? 大丈夫か?」

「ぜんっぜんっ大丈夫です!! どこまでも! いつまでも! 一生付いて行きます!!」

 

(先輩、すみません。私、私のことを好きになってくれる女の子が好きなんです。命を助けていただいた御恩は決して忘れません。忘れませんけど、私は凪様と生きます! 放課後は二人でお洒落なカフェを巡って、パフェを食べさせあったり、ドラマの感想を言い合ったり、時には喧嘩することもあるけれど、すぐに仲直りするんです。休日は一緒にアパレルショップでお互いの服を選んだりファッションショーをして、お揃いコーデで出かけましょう。夏休みには二人で海に行って、私がちょっと露出の多い大胆な水着で凪様を誘惑したら、凪様は俺以外にうつり(・・・)のこんな姿見せたくないって怒らせてしまって……、夜は独占欲を剥き出しにして強引に……)

 

 別に恋仲でもなければアプローチされてるわけでもない先輩に対して心の中で謎の謝罪をしつつ、これからの恋人生活、果ては初夜にまで妄想の翼を羽ばたかせ始める古條。

 

「……そういうわけだ。わかったらさっさと失せな」

「お、覚えてろ!」

 

 古條がそんな妄想をしているとはつゆ知らず、あまりにも元気の良い返事に若干引き気味の氷室が武田にそう促す。

 ここは形勢不利と判断してか、武田は気絶している茂山を抱えてクラスを出て行った。

 

「氷室くん、どうするつもりですか?」

「色々あって今仲間を集めてるんだよ。ちょうどあと一人欲しいと思ってたんだけど、生徒会連に真っ向から喧嘩売れる人材なんてそうはいないからな。良い拾い者したぜ」

「これで生徒会ともまともに喧嘩出来そうですね!」

「……氷室くん、樹霧さん、喧嘩は駄目ですよ。それに古條さんもその辺よくわかってないと思います」

「どっちにしろ手出しちまった時点でこいつは目付けられるだろ。だったらつるんでた方が身も守りやすいじゃねえか」

「降りかかる火の粉を払うだけですよ!」

「……とりあえずそろそろ離してあげたらどうですか、氷室くん」

 

 ああ言えばこう言う二人を説得するのは難しいと判断してか、委員長はそれ以上小言は言わず、組んでる肩を離すよう提案する。

 

「いや、俺はもう力入れてないぞ。むしろ古條の方がグイグイ引き寄せて来るっていうか」

 

 異能込みの実力はともかく、単純な筋力は氷室よりも古條の方が上らしく、どうやら氷室の方が捕まえられていて離れられないらしかった。

 

「はぁ~~。古條さん、古條さん!」

「はい! 誓います! って、あれ? ここは? 私、高校時代にタイムスリップしちゃいました? わっ、この頃の凪様ってこんなに小さかったんですね~!」

「しっかりしてください。こっちが現実で古條さんが見ていたのは妄想です。はい、一度氷室くんから離れて」

 

 妄想と現実の区別がつかなくなりつつある古條の肩をガクガクと揺らし、委員長が今の状況を説明する。

 

「そ、そんな……、凪様は男性……? さっきのは仲間の勧誘……? そ、そんな、そんなのって……。……」

 

 事情を知った古條はガーンという擬音が聞こえそうなほど目を見開きぶつぶつと独り言を呟いたかと思えば、ジロジロと氷室の全身を観察し始めた。

 

(正面から見ても可愛! 天使? 天国と間違えて天使が来ちゃったんですか? て、ていうかですよ? お、お、おっぱいもありますけど!? これで本当に男性なんですか!? 性別を確認するためって言ったら、さ、さささ、触れたり――いやいや、男性だったらむしろイケメンということで、イケメン死すべし慈悲はないですよ!? イケメンのおっぱいなんか触っても何も嬉しくないどころか気分が悪くなっちゃうじゃないですか!)

 

「あ、ああ、あのぉ、そのぉ、男性には見えない、というかですねぇ、その、ほら、む、胸? も、ありますし……」

 

 全然性的な意味ではなくて他意はありませんよと、なんでもないことのように聞こうと意識するあまり凄まじくどもりまくってむしろ怪しくなりながらも、何とか言い切る古條。

 

「そりゃ元は男だけど今は女だからな。ほら」

 

 氷室はそんな古條に対し、さっき啖呵切ってた時とは別人みたいだなという疑問は感じつつも、とくに気にした様子もなくあっけらかんと答え、証明するように古條の手を取って自分の胸を触らせた。

 

(え、ちょ、柔、夢? やばい!)

 

「や、やめてくださいよ凪様ー! セ、セセ、セクハラですよもー!」

 

 流されたら学校生活が終わるという危機感が古條の欲望にブレーキをかけた。

 名残惜しい気持ちを振り切って凪の手を振り払い、顔を真っ赤にして桃源郷から手を離す。

 

(女の子じゃないですか!! 元は男だかなんだか知りませんけど! 今は完全に女の子じゃないですかー!! なんですか今の感触!? 私のつるぺたな胸と全然違いましたよ!? ていうかですよ!? 女の子のおっぱいって触っても良いんですか!? そういうものなんですか!? 漫画ではそういうシーンもありましたけど、あれって本当にやって良いものなんですか!?)

 

 古條うつりはド田舎暮らしである。

 中学を卒業するまで同年代の友人は一つ上の少女とさらにもう一つ上の少年のみであり、三人で兄妹のようにいつも仲良く遊んでいた。

 共に野山を駆け回り、虫取りや川遊びに明け暮れ、道場で身体を鍛える日々。テレビや両親の持っているコミックを楽しむこともあったが、アウトドアと比べるとかなり頻度は低いものだった。

 今時の子供としては少数派であることは間違いないが、普通の子供がどういう遊びをするのか詳しく知らない古條にとってはそれが当たり前の暮らしだった。

 

 そして第二次性徴を迎えるころ、特別な切っ掛けがあるわけでもなく、古條うつりはいつの間にか少女を恋愛対象として好きになっていた。

 ネット環境とは無縁の世界で育ってきた古條にとって、自分の暮らす田舎以外のことはテレビや漫画でしか知らない未知のものであり、一般常識にはかなり疎い部分もあったが、恋とは男女の間で生まれるのが一般的だということくらいはわかっていた。それでも、まるで古條うつりにとってはそれが当然であるかのように少女に恋をした。

 

 しかしその恋が実ることはなかった。古條よりも一足先に成長していた少年少女はお互いを想い合い、古條の知らぬ間にその想いは通じ合っていた。

 

 そうして恋破れた古條は数年の後、もっと素敵でドラマチックな恋をするために田舎を出たのである。

 好きだった幼馴染をもう一人の幼馴染に取られるという脳破壊を食らった古條は、きっと自分の運命の人はどこか違う場所にいると考えたのだ。

 

 そんなド田舎と幼馴染カップルが生み出してしまった悲しき百合童貞モンスター、それが古條うつり(・・・)なのであった。

 

「今のってセクハラになるのか?」

「相手が嫌がってるならなりますよ」

「ふーん。嫌だったんなら悪かったな」

「えっ! あの、い、嫌だったとかではないです」

 

(な、なるほど。相手が嫌がってたらセクハラ、そうじゃなければセクハラじゃないと。えっと、凪様は自分から触らせたわけだから嫌がってないですよね? じゃあ私の方から触りに行ってもセクハラじゃない? セーフ?)

 

 古條も自分の本心を隠すために適当にセクハラなどと言っただけだったため、いまいちあれが本当にセクハラだったのかは理解できておらず、さらに委員長の発言を曲解して自分の都合の良いように認識しつつあった。

 

「てか氷室くん、こないだ触られた時はめちゃ怒ってたのに古條ちゃんなら良いんだー」

「はあ? あいつと古條は別だろ」

 

 それまで黙って話を聞いていた大崎が面白そうにニヤニヤ笑いながら問いかけると、氷室は当たり前だろと言わんばかりに答えた。

 

(……え? それってつまり、好きじゃないですか。私のこと、好きってことじゃないですか。はいはい、なるほどですね! そういうことですね! 仲間としても伴侶としても私が欲しいと、そういうことですね! 凪様! 全部わかりましたよ!)

 

 もちろんそんなわけがなく、単にこの前の愛川は男で古條は女だからという程度の意味しかないのだが、そうとは知らない古條は、自分だけはおっぱいへの接触が許された=私のこと好き、という方程式を完成させ、やっぱり凪様は私のことが好きなんだと確信する。

 

「先輩、色々説明してくれてありがとうございます。森羅万象を理解しました」

「素直に全部わかったって言って貰えますか?」

「それでどうする? 俺の仲間になるのか、ならないのか」

「大丈夫です凪様、皆まで言わなくてもわかってます」

 

(凪様ってば、さっきはあんなに大胆にアプローチしてくれたのに恥ずかしがり屋さんな一面もあるんですね! そんなところも可愛い、好き。みんなの前で何度も愛の告白をするのは恥ずかしいですもんね。流石に私も、いくら凪様が私を好きだとわかっててもここで告白する勇気はないですし……)

 

「もちろん私も協力します! 共に邪知暴虐なる生徒会を打倒しましょう!」

 

 最近走れメロスを知ったばかりの古條うつりである。

 

「それは短期目標であってメインは俺が平定者を目指すのに協力しろって話だけどわかってるか?」

「はい!」

「この学校生活だけじゃなく、一生かけて目指す目標だぞ?」

 

(一生俺の傍にいろってことですね~~~! 凪様、ロマンチック……!)

 

「望むところです!!」

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