ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
「ど〜やって動かすのぉ?コレェ」
「知ってそうな友達に聞いてみよっか!」
「ネットで聞いたほうが早いんじゃない?」
現在格納庫に入り一年生達Dチームに割り当てられたM3リーの周りで宇津木、阪口、大野の3人が呟いていた
「ネットねぇ、現代っ子だな〜」
「あ、あの…杉野先輩───」
「うん?」
今や聞けば何でも答えてくれるインターネットなんて大変便利なものがある時代だが、だからと言って本当に事実だけを教えてくれる訳でもない
面白おかしく冗談しか言わない輩だって一定数存在する、ネットは便利だが間違った知識と正しい知識を判断できないといけない
さてどうしたものかなと肩をすくめた所で俺を呼ぶ声が聞こえた為に振り返ってみると、そこには不安そうな面持ちの澤が佇んでた
「おぉ、どうした?」
「あの…私達戦車のことまるっきりわからないんですけど」
「だろうな、色々役割があるんだけどその辺も?」
「はい…」
わかっていた事だが一年生達は、いや大洗全体が素人集団だ
普通は前もって適正試験みたいなのがあったりするが今回はそれもない
よって役割分担は完璧な独断と偏見で行うことにする
「澤は真面目そうだし責任感も強そうだから車長な」
「え?私ですか…?というより車長って一体どういう事をするんでしょうか」
「簡単に言うと、他の隊員をまとめ上げて搭乗する戦車を指揮する役割だな」
「えぇ!?」
途端に首を横に振って無理だとわめき始めるがこればっかりは譲れない、ある程度以上周りをまとめる力があって責任感が無いと車長なんてものは務まらない
あいにく、一年生達の中で澤以外に務まりそうなものが見当たらないため仕方がないのだ
「いや、それこそ杉野先輩がやればいいんじゃ…」
「馬鹿か?俺が指南役で乗るって言ったの忘れたのか?
俺が車長なんて務めたら俺が降りる時大変なことになるだろ」
「あ…そうですね」
強引にではあるがなんとか納得してくれたようで良かった
俺もいつまでも一年生達の指導で終われる訳がないとは思ってる、時が来れば何でもこなしてやれる自身があるが
他の搭乗員たちが俺についてこれないだろうからまだ先のことにはなるに違いないだろう
「何何!?何の話してるんですかー!?」
「役割の話だよ、今車長は澤に決まった」
そうこうしてるうちに阪口達がこちらへ駆け寄ってくる
結局動かし方はわかったのだろうか
「うーん…まだ返信つかないな…」
最後尾の大野がつぶやきながら携帯とにらめっこしてる、こりゃダメそうだ
「はい!皆早く乗り込んで」
蝶野さんが手をたたきながら急かしてくる、まどろっこしくなってきたなあの人
「…M3運転したいやついる?」
「あいッ!私やってみたいです!!」
これで操縦手は阪口に決まり、小柄だしあまりじっとしてるの苦手そうだから操縦手を選んでくれて助かる
まぁこの子にすら身長は余裕で負けてるがそこは気にしない、多分この子は出番が来ないとあまり仕事のない他の仕事には向かなそうだ
あとは…
「ん…?どうした丸山」
「……」
不意に肩を指先でツンツンと押され、振り返るとそこには丸山が立っている
無言で何かを訴えるような彼女は右腕を上げて少し力み、力こぶを作った
「…わかった、一度装填手で運用してみよう」
「……」
俺がそう言うと丸山は相変わらず無言であったがどこか満足げであった、いやコレでいいのかよ
「あとは主砲装填手と、各方の砲手か」
うーんと短く考えながら未だ携帯とにらめっこしてる大野とその様子を隣で見てる宇津木、そして不安そうに辺りを見渡す山郷に声をかける
「主砲の砲手は山郷、副砲砲手は大野───
俺が通信手をやるから、宇津木は主砲の装填手をしながら俺の補助、できそうか?」
山郷と大野は問題が無いらしくすぐ頷いてくれた
二人とも澤程ではないにしろ、多少は真面目そうだし射撃とゆうのは相手を辛抱強く狙って撃たないといけない
二人なら出来そうだから引き受けてくれて良かった
反面あまり納得言ってなさそうなのは宇津木だった
「何で私はやることが二つなんですかぁ?」
「澤にも言ったがある程度練度を積んだ段階で俺はM3を降りる
本来なら宇津木を通信手にしたいところだが、俺が装填手をやってしまったら俺が抜けたあとに1から鍛えなくちゃいけないだろ?」
「…装填手って私にもできるんですか〜?」
「一年生チームは一番人数が多いって言っても俺がいてようやく定員だ、俺が抜ければ当然一人足りなくなる───
遅かれ早かれ兼任でできなきゃいけないだろ」
一応は納得してくれたの宇津木はそれっきり不満は言わなくなった、さてコレで各員役割が決まったわけだ
「ひとまず、総員配置につけ」
パンッと一度手をたたき、各々の持ち場につかせる
乗り込む直前で戦車の操縦方法について返信があったと大野が笑顔で口にしたがその手段が片やぐうの音も出ないど正論とクッソしょうもない冗談だった為か苦い顔をしていた
「あははは!まぁそうなるだろうな───
いいよいいよ、俺が教える」
通信機を片手に阪口の真横に移動しながら既に表情が死にかけてる他の搭乗員に目を向けた
「…どうした?」
「暑〜い〜」「狭いです…」「鉄臭いです」
どうしたのかと聞いてみれば宇津木、大野、山郷から元気の無い声が帰ってきた
まぁそりゃそうか、防弾性を上げるために気密性を上げ、耐久性を考慮して車内にもふんだんに金属が使われている
「脇にも扉付いてるだろ?流石に戦闘が始まったら閉めなきゃだけど、それまで開けとけば?」
耐えきれなかったのか言ったのと同時に宇津木と大野がそれぞれ左の扉を全開にした
「んじゃ、まず操縦の仕方教えるな?」
「あい!」
さていざ操縦となったところで待ちくたびれた様子の阪口から元気よく返事が返ってくる
うん、いい返事だけど後半でバテるなよ?
「まずこの目の前の計器盤に刺さってる鍵を右に回して」
「こうですか?」
「カチッて音がして回らなくなったらその下のSTARTボタンを押す」
言われた通りの手順で阪口がボタンを押すとドルンッとエンジンが掛かる
エンジンは好調そのものでアイドリングのバラつきも無ければタペット音も出ていない
(一晩でここまでやるってのは自動車部も中々変態集団だよな)
思わず苦笑いが溢れるが、まぁそれほど心強い味方もそういないと言うことで
さて、戦車と言うのはMT車であり、多少の操作の違いはあるが大まかなところは自動車と変わらないのである
「右脇にあるのがシフトレバー、左下にペダルがあるだろう?それがクラッチペダルな
そこにパーキングブレーキのレバーがあるからそれを先に降ろす
右下にあるペダルがアクセルで踏み込むとエンジンの回転数が上がる、クラッチペダルを踏み込んで戻す途中に動力が伝わるところがあるから、回転数を合わせながらゆっくりとペダルを離す」
まぁ、感覚が掴めなければ大体は少し動いてエンストするのが関の山だ
たまにエンストせず高い回転でギアが繋がりそのまま暴走してしまう事があったりするが普通に事件が起こるためそのへんも踏まえてしっかり教えておく
「左右に履帯、わかりやすく言うとキャタピラが付いてるだろ?
この目の前の2つのレバーはそれぞれ左右の履帯を独立で管理してる、前へ押せば動力が伝わって手前へ引けば遮断、曲がりたい時は曲がりたい方向の履帯から動力を遮断すればいい
片方だけ履帯が動くから曲がる事ができる、左履帯のギアだけを入れると左が動いて右は惰性で動き、引きずられる
だから右に曲がる、右だけの場合はその反対、ブレーキは足元の真ん中」
「お、覚えることが多い…」
阪口の頭がパンク寸前になってるので操縦方法を教えるのはこれでおしまいだ
しかし最低限は叩き込めたのであとは使ってるうちに慣れるだろう、とはいえその前に一つやることが残っている
「とりあえずM3外に出して」
「わかりました!」
ギアを一速に入れた阪口はアクセルを無駄に煽りながら前進を始める、そのため
「きゃああ!」
「おしり痛い!」
「酔っちゃう〜!」
「こ、これなんとかならないの〜!?」
動きが尋常じゃないほどギクシャクしていた
…はぁ、そりゃそーだ
「阪口、もうちょい丁寧に出来ないか?」
「試してるんですけど!難しいです!」
「…そーだよなぁ───」
とりあえずなんとか校庭まででた為、ここで上で車長席に座っている澤に指示を飛ばすことにする
「澤、キューポラからちょっと顔だして周り見えるか」
「は、はい」
「周りの障害物を見つけたら車内無線で阪口に教えてあげてな?
阪口には本当に目の前の限られた視界しか確保できてないから」
「わかりました!」
うん、いい返事だ
こちらも操縦席脇に取り付けておいた無線機に電源を入れて内線にしておく
外線用の物とはまた別物だ、本来は無いものだがM3備え付けのものを少し改造してもう一つ用意した
備え付けられてる物と同じやつだから戦車道の規定に引っかからないって寸法よ
「澤、周囲に他の戦車はいないな?」
「はい、大丈夫です」
「よし」
というわけで、だだっ広いここでM3の挙動に慣れてもらうために少しだけ阪口に全開で振り回して貰うことにする
「ちょっと阪口に無茶させるから皆しっかり掴まってろ」
「えぇ!?何させる気ですか…」
「ひとまず全開、フルスロットルで前進」
「わ、わかりました!」
途端にエンジンが一際大きくドルンッと唸り車速がどんどん上がっていく
「ここでブレーキ!」
「あいっ!」
耳障りで不快な金属音と共に車体が急停車、停車直前にクラッチペダルを踏むかギアを抜くことを忘れていた為かそのままM3リーはエンストしてしまった
「…エンストしないようにすることを癖つけるようにな?」
「あ、すいません」
「良い良い、最初は皆そんなもんだ
よし、旋回してもう一発」
再びエンジンをかけた阪口は今度はゆっくり丁寧に出力を絞って、操縦桿を左右で異なるように倒して車体を旋回させた
「お、今の上手かったよ流石」
「えへへ…」
照れくさそうに頭を掻きながら満更でもなさそうに笑う、いつの時代も後輩というのは可愛らしいものだ
「もう一回行きます!」
「おー…」
操縦桿を前へ倒してアクセル全開、車速が上がり
車内がけたたましく揺れ動く中、今回は特に阪口も焦った様子は無い
「ブレーキ!」
「あいッ!」
先程同様、耳障りで不快な金属音と共に車体が急停車する
前回との違いは今回は停車寸前に阪口がクラッチを踏み抜いた為エンストせずに済んだこと
「いいね、お見事」
「あ、ありがとうございます!」
さて、急発進急ブレーキはこんなもんでいいか
あと一つ、最低限のスキルとしてスムーズな旋回性くらいは会得してもらいたい
「次は定常円旋回、ある程度の速度まで車速が上がったら右か左、どっちでもいいんだけどブレずに綺麗な円を作れるように操縦すること───」
「あい!」
「澤!上から円描けてるかちゃんと見てあげてて
出来てなかったら無線で言って!」
「わかりましたー!」
再び前進、操縦桿で調整を施しながら
まずは右に円を書き始める…が、これは
『円がめちゃくちゃです…』
『うーん、そうだろうな
中からでもある程度わかるけどこれは…』
やはりというか、無線で返ってくる澤の情報だと円自体は描けてるには描けてるがぐちゃぐちゃらしい
だろうねぇ、ある程度慣れてれば横Gの掛かり方が一定かどうかとかでわかったりするもんだけど
これただ旋回し続けてるだけだもんな
◆
さて、現在俺たちDチームは地図にて指定された場所まで来ていた
阪口はなんとか右の定常円までは会得できたが左の定常円を練習中に痺れを切らした蝶野さんから無線で急かされた為中断して配置に向かったのだ
しかしそのおかげか阪口は運転初日とは思えないレベルで操縦がスムーズになった
まぁ明日には7割方抜け落ちてるだろうから反復練習は必須だけどな
「うん、ひとまずここまでできれば合格だな」
「や、やったー!杉野先輩のお墨付きだ」
「よしよし、褒めてしんぜよう」
そのまま阪口の頭に手をのせてわしゃわしゃと撫でてやれば「きゃーっ」と嬉しそうに目を細めていた、犬かな?
(ちょっとだけ似てるな…)
顔も性格も全く違うのに、どこが昔の部下に似たところがある
___杉野隊長ッ!
「──うっ…」
「…?杉野先輩?どうしたんですか??」
そんな事を思ってしまったからだろうか、聞こえるはずのないそんな声が聞こえた気がして
思わず動機が激しくなり、手を止めた
「…大丈夫、問題ないよ」
「そう、ですか?」
「うん、それじゃあ俺は配置に戻るから───
あとは澤から無線で指示を仰いで?」
「…わかりました」
未だ心配そうな目を向ける阪口を片手で制して持ち場に戻る
ふと自身の掌へ視線を向けると微かに震えている事に気づく、はぁとため息を一つ
強く拳を握り込むもまだしばらくは収まる気配がない
(案外、まだトラウマだったりすんのかねぇ
時間が解決してくれると思ってたけど、甘かったなぁ)
そのまま震える手を自身の胸元まで持っていき、普段は制服で隠してる自作のネックレスのもとへ手をのばし
ネックレスの先端、幼い頃に作ったため不格好な袋状の御守をそっと握り込む
(少しの間だけ、過去に打ち勝つ勇気をくれよ…ユウカ、マツ)
そう祈りながら瞳を閉じる、蝶野さんから訓練内容の無線が入ったのはその直後の事だった
『皆、スタート地点に着いたようね!
ルールは簡単、全ての車両を動けなくするだけ───
つまりガンガン前進してバンバン撃ってやっつければいいわけ、わかった?』
「うーん、この適当さがやっぱ蝶野さんだなぁ」
補助のために脇で待機している宇津木にも無線内容が聞こえていたのか、流石に笑みが引きつってる
気持ちはわかるけど、あの人はそういうもんだから慣れてね
『戦車道は礼に始まって礼に終わるの
一同、礼!』
「「「「「「「よろしくおねがいします!!」」」」」」」
さて、とうとう始まった
ひとまず全体戦とのことなので今回は俺はやることはない、通信手だもの
どう時間を潰したものかねと考えていると、車長席から澤が降りてきた
「あの、杉野先輩…どうしたら良いでしょうか」
「それを考えるのが車長の役目だぜ?
ましてや今回は試合ですら無いただの訓練だ、そう肩肘張らずにやってみたいようにやれば良い───
その都度フォローはちゃんとするから」
「わ、わかりました…やってみます!」
多少困惑しつつも覚悟が決まったのか澤は力強く返事してくれた
さてこちらも仕事するとしようか
「丸山と宇津木は今のうちに装填を済ませておけ、敵を見つけてから装填したんじゃ遅い
いつでも撃破できるようにしておかないと最悪装填してる間に逃げられるなんて笑い話にもならない事になるぞ」
「わかりました!」
「……。」
「えっと、紗希ちゃんもわかったって言ってます」
「うん、何となく分かる」
相変わらず無言で見つめ返してくるだけの丸山だが悔しいかな
何となく言いたいことはわかってしまう
とりあえずは二人共無事に装填を終えた為、今度は澤に声をかけることにした
「澤、顔を半分だけ出して周囲の警戒だけは怠らないように、周りを見てないせいで回り込まれて撃破されましたじゃ笑い話だぜ?」
「わ、わかりました…顔を少し出すだけでいいんですか?」
「戦車の中は特殊な加工してあるから安全だけど、生身である以上身を乗り出したら危険が付き纏う
上半身さらけ出してまで辺りを警戒するやつもいるがそういうのは勝手がわかって本当に慣れてきた頃のほうが良い」
やはりどこか勘づいていたのだろう、危険と言った瞬間澤の肩がビクッと震えた
そうそう当たるものではないが絶対ではない、戦車なんて何十トンもの鉄の塊を動かして実弾を撃ち合ってる以上怪我なんて日常茶飯事だし、ひどい場合は身体のどこかが欠損したり半身不随になったやつも知ってる
それこそ全国規模で年に片手で収まるが死人が出るときだってあるのだ
「澤、手ぇ出せ」
「え…」
困惑しながらもおずおずと差し出された手をそっと、極力優しく両手で包み込む
「震えてるな、怖いか?」
「え、えっと…」
「大丈夫、怖いと感じる君は正常だ───
これから先、戦車に乗る時間が増えると感覚が麻痺してそういう気持ちは起きにくくなるかもしれない、けれど」
つとめて冷静に、本心からの言葉の意図を組んでもらえるように俺は澤をじっと見つめる
こればっかりはいくら話しても自分で気づかないことにはダメだから、もしものときのために心の奥底に留意しておけるように
「怖さは忘れちゃいけないぜ?」
「…はい!」
「よし、良い返事だ」
さてこれで少しは気が紛れたかな、と思ったがすぐに澤から「あの…」と声がかかった
「私、攻勢に出てみたいです…作戦を一緒に考えて貰えませんか?」
「…お、そう来るか」
大事なことではあったが、まさかさっきの話を聞いて初手に様子見ではなく攻勢に出るとは思わなかった…それもどこか西住に似て気が弱そうなところのある彼女が、だ
…しかし面白そうではある、それに一年生達を手っ取り早く戦闘に慣れさせるにはいい機会かもしれない
「オーケー、そしたら最初に蝶野さんから配置の地図貰ってたろ?まだ持ってるか?」
「はい」
聞けば澤はすぐさま俺に地図を手渡してくれた為、受け取った地図を広げて大まかな地形を頭に叩き込む
(てっきり書かれてるのはDチームの配置だけと思ったが…全車の配置も載ってるのか)
そこは少し意外だなとも思ったが、蝶野さんの性格を知ってれば理解は出来る
というのも自車だけの位置しか記載がなければ必然と遭遇戦になってしまい時間が掛かる
しょうもない小細工抜きで撃ち合って勝負しろって事だ、めちゃめちゃ蝶野さんしてる
「一番近いのは生徒会チームの38tか…」
「生徒会ですか…手強そうですね」
「んー…そうか?」
俺がそう言うと意外そうな顔をする澤、そうか…まだ一年生達は入学してすぐだから生徒会を過大評価してやがんな…
「生徒会チームはハリボテもいいとこだぞ、真面目にやりゃめっちゃ仕事できるだろうに角谷はサボり癖がついてるから実質二人で動いてる頃だろうよ」
「えぇ…そ、それでも河嶋先輩と小山先輩は…」
「河嶋はなぁ…頭の回転は早いし物を覚えるのは苦手だが地頭も決して悪くないが、一度こうだと決めたものは状況に応じてひっくり返す事が出来ないくらいには頭硬い、まぁシナリオ通り戦わなきゃいけないのなら強いかもしれんが…崩れた瞬間脆い、付け加えてプレッシャーに弱くキレやすいしパニクりやすい」
あまりにも想像とかけ離れてるからだろうか、本当なんですかと怪しむようにこちらを見てくるが嘘は言ってない
おそらくだが比較的落ち着いており真面目な小山が操縦手、それ以外をほぼ河嶋がワンオペし、角谷はその後ろでふんぞり返って干しいもでも食ってるだろう
そこまで断言してやるとようやく澤は納得してくれる
「脅威は小山の操縦技術だがそこは奇襲を仕掛けて短期で決めれば良いし、ダメなら一時的に離脱して期を伺えば良い
なに、それ以外を河嶋一人で動かしてるなら砲弾も当たらんさ」
「わかりました、これより生徒会チームに攻撃を仕掛けます!」
第一目標を定めた後、澤は地図とにらめっこを開始
大まかに進路を決めると車長席付近に後付けしておいた内線にスイッチを入れて坂口へ進路を伝えてからまたこちらへ戻ってくる
「…杉野先輩、ちょっと私の意見聞いてもらえないですか?」
「おぉ、なんだなんだ」
澤が話してくれたのは他の戦車を含めた状況の話だった
全車配置が書かれている以上はその場に留まり続けてるアホはいない
よって参加車両は既に別の場所へ移動していると見るのが吉だ
「…ですが、こういう読みは何分初めてなので
あまり自身をもって言えないのですが、こことこことこの辺りが怪しいんじゃないかと思うんですが…どうでしょう?」
「うん、良い読みだな」
残念ながら澤の読んだ他車と会敵するルートの中に俺がここだと思った場所は無かった、しかしきちんとこうなるだろうと仮説を立ててからどう動くか感じれてる時点で彼女に戦車乗りとしての素質が充分あるのはわかった
「じゃあ…!」
「しかし惜しいな、俺はここだと思う」
俺は澤の読んだルートにほど近い場所にある一本の吊り橋を指差す、自身の読みが当たったのかと一瞬喜色に満ちていた澤だったがすぐに表情を険しくした
「吊り橋…ですか?」
「そう、ここの吊り橋」
「でもここ…戦車で通るには厳しいんじゃ」
「んー…そうだな、俺の読みをまず聞いてくれるか?」
ではここからは俺が読んだ現在の戦況に入ろう
一言澤に断ったが澤も頷いてくれた事だし、先輩としてちゃんと理論を立てて説明してやらなければならない
「まずここの吊り橋に集まると読んだ理由としては、ここに西住達のⅣ号が来るからだ───」
「西住先輩のですか?…それはまたどうして」
「このメンツの中で実戦経験豊富なのは俺以外だと西住になる、だが俺はあくまで指南役だから他の面々の優先順位は低いだろう
その代わりに共闘してでも倒したいほど西住を脅威に思ってる筈だ」
「…確かにそうですね、でも…」
いまいちピンときていない様子で首を傾げて唸る澤、うんまだ気づかないか…
とりあえずは少しずつヒントを与えてどこで気づくか様子見してみよう
「Ⅳ号から一番近い位置の戦車はなんだ?」
「…後方のBチームの方たちの戦車ですね」
「うん、しかし残念ながらBチームの八九式じゃどうあがいてもⅣ号は抜けない…目と鼻の先の至近距離でケツを撃たれたとしても耐えられちまうだろうな」
しかし不利であることを初心者の彼女たちは知らない、だからこそⅣ号を追いかけるはずだ
車両を格納庫から出す時にちらりと彼女たちの様子を確認していたが、彼女たちのリーダー格はかなりの熱血系で根性さえあればなんとかなると思ってる節があった
「さて問題です、Bチームより少し離れた位置にいる戦車は?」
「…Cチームの戦車ですね」
「正解、じゃあCチームがⅣ号を狙って近づいた時、何が見えてくると思う?」
「あっ」
地図を見ながらの説明で、ようやく何かに気づいた様子の澤は声を上げてこちらを伺うように顔を上げる
…思ったより早かったな、やっぱり優秀な子だ
「Bチームに追い立てられる西住先輩達のⅣ号…」
「そうだ、ついでに言うとBチームもCチームもⅣ号を脅威と見てるからお互いには撃ち合わないぞ
共闘してでもⅣ号一点狙いになるはずだ」
そう追加で教えてやると澤は食い入るように地図を覗き込む、どうやら伝えたいことは伝わったようだな
「そうなると西住先輩達は退路を完全に塞がれる…」
「その状況を打開するにはその場で2輌を相手取るか、吊り橋を渡るかだな」
だが流石に2輌同時に相手取るのはリスクが大きい、何故なら西住以外は…秋山はどうかわからんがてんで素人の集まりだ
加えて確かスタート時車長を務めているのは武部だ、勝手のわからない最初の訓練で2輌に囲まれれば高確率でパニックに陥る
「嫌でも先輩達は吊り橋を渡らなくちゃいけない、そう言うことですね?」
「その通り、けどそれだけじゃないぞ」
さてこれで西住と他の戦車が吊り橋に集まると言うのは納得してもらった、さあでは38tが何故ここに来るかの説明だ
…っても凄い単純な話だけどな
「西住を脅威に見てるのは生徒会だって同じだ、そうなると西住達が吊り橋を丁度渡ってる頃に───」
「…前からEチームの戦車」
「お、冴えてるね」
西住達を狙おうと生徒会チームが前進させれば否が応でもでも吊り橋を渡ってるⅣ号が目に入るはずだ
そして流石にそんな格好の的となったⅣ号を生徒会が追撃しない筈がない
「そういうわけで、生徒会を叩くならこの吊り橋に現れるって読みだ、理解できたか?」
「…一応は、それにしても凄いですねここまで読めるなんて」
「経験と勘だよ、割と馬鹿に出来ねぇぜ?」
話は纏まり、しっかりと澤も納得してくれたようで、内線機で吊り橋に向けた進路を阪口へ伝える
「あいッ!」と元気よく返事があったので恐らく大丈夫だろう
さぁて、3輌に囲まれた西住達は撃破されずに残ってるかなーっと…
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