ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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ワレ、訓練戦闘ニ参加セントス(下)

 

「ほ、本当にいた…!」

 

眼の前に吊り橋が見える位置まで来た頃、キューポラから顔だけ出して辺りを警戒していた澤が吊り橋のど真ん中にⅣ号を発見した

それと同時に視界にはそれを囲むように八九式、Ⅲ突、38tの姿が飛び込んできた

 

「まだまだ俺の勘も捨てたもんじゃねぇなぁ」

 

「すご〜い…!」

 

ドンピシャリで当たってしまった為、若干引いてる澤と対称に横で待機してる宇津木は目を輝かせていた

よし、ここで更なる小細工をしかけるか

 

「澤、一度阪口に止まるよう言って」

 

「は、はい!」

 

澤がすぐさま内線で阪口に指示を出すとまもなくしてM3リーは停車した…よし

 

「すぐ戻るよ」

 

俺はそうとだけ言い残して疑問符を浮かべてる澤を押しのけてキューポラから車外へ脱出する

目指すのは車両後部、そのまま外板を伝って回り込んでいく

 

「…あった」

 

回り込んだ先にあったのは何でもない、ただの排気管だ

しかし相手にバレないよう近づくには排気音のようにどうしても音の鳴るものに小細工を仕掛ける必要がある

 

…というわけで

 

「割と買ったばっかだから汚したくなかったんだけどなぁ…ま、一年共の良い経験になるなら安いもんか───」

 

その場で両足の靴を脱いで排気管にねじ込み、外側を補修用のアルミテープでぐるぐる巻きにしてやる

さぁ、これで隠密性アップだ

 

「ただいま〜」

 

「杉野先輩、結局何して…いや、本当に何してるんですか?」

 

足は靴下のみで先程まで履いていた靴が無くなって戻ってきた俺に澤は思いっきり苦い顔をしていた

何か園ちゃんみたいな顔するようになってきたなこの子

 

「消音器代わりにマフラーに靴ねじ込んできた」

 

「いや何してるんですか!?」

 

やってきた事を正直に答えたらドン引きされた

げせない、ちゃんと意味あることなのに…

 

「まぁまぁ…じゃ、予定通り奇襲を掛けようか」

 

「あぁ…はい」

 

しかしそんなこと言ってても始まらないため、ひとまずは流して作戦決行を促すと何やら諦めた顔の澤は内線で阪口へ指示を出し始めた

 

「…あれ?」

 

「どうした?」

 

「音、急に静かになりました?」

 

「…そうなるように靴詰めてきたの」

 

38tへ肉薄していく車内で澤が呟く、まぁさっきの反応からあまり意味はわかってなさそうだったから種明かしもやっておくか

 

「さっきマフラーに靴を詰めてきたと言ったろ?

ありゃマフラーから排出されるガスの量を強制的に減らしたってこと、排気音はほぼ排圧関連でその大きさが左右されるから

無理くり抑えて静かにしてきたってわけ」

 

「すごい…そんなことできるんですか…!」

 

「って言ってもその状態で回転数をやたら上げれば排圧過多で吹き返してエンジンにダメージが入るかもしれないからリスクはあるし、気づくやつは気づくから多様も出来ない、虚仮威しもいいところだけどな」

 

それでも西住以外の奴らにはきっと有効な筈だよと付け加える、きっと西住くらいになると一度でも手の内を見せたら次回から対策済みになるだろうから末恐ろしいものだ

彼女の過去の実績を振り返れば嫌でも目につく、それは西住流の得意とする緻密な集団戦術とはかけ離れた個々が起点となるトリッキーな格闘戦を得意とする流派からしたら異質な才の持ち主だ

 

「多分、途中で西住は気づくだろうが撃っては来ないから安心して38tに近づけ」

 

「…敵が多いですからね、こっちが潰し合う分には手を出してこないって事ですよね?」

 

「その通り、いいねだんだん冴えてきたな」

 

現状3輌に取り囲まれてる西住はどうにかこの状況を打破しようと必死に思考を巡らせてることだろう

そこで俺たちが38tに近づいても西住にとっては敵が3輌から2輌に減るだけでありわざわざこちらも相手取って砲撃するメリットなんてない

ちょっと考えればわかることでも一発で見抜く辺りやはり澤が車長で良かったと思う

 

「砲手は砲撃準備、照準を合わせ始めろ

主砲だけじゃ心もとないから副砲と合わせて斉射で行くぞ」

 

「はい!」

 

「…あの、照準を合わせるってどうしたら…」

 

元気よく返事する大野と反対に困った様子で口を開く山郷は照準はどう合わせるのかと聞いてくる

もちろん、二人が最初からできるはず無いため説明に入ることにしよう

 

「うん、まぁそこからだよな、まず砲弾を撃つだけなら簡単だ

砲弾を装填して撃発レバーを引く、しかし当てるとなれば話は別になる───

狙って撃たないと絶対に当たらない、照準を合わせるのが基礎知識がないと難しいからな」

 

「はぁ…」

 

相槌を打ちながら聞いてる山郷とは別に大野は携帯を取り出して動画を起動し始めた

…メモじゃなくて動画派か

 

「あ、先輩すいません

後で見返して覚えたくて」

 

「うん、まあ良いよ…続けても?」

 

「お願いします」

 

話を戻そう

 

「砲弾と言うのは弧を描きながらじゃないと距離を飛ばす事が出来ない、真っ直ぐだとせいぜい500m程度飛べば良い方だ

ま、ちゃんと撃てばどこまでが射程距離になるかはwikiとか漁れば出てくるだろうから帰ってからでも把握していてくれ」

 

「「はい」」

 

あー…懐かしいなこの感覚

戦車について詳しく誰かに教えるのなんてそれこそ戦車スクール以来だ

昔と同じくらいちゃんと教えられてるかな〜…久々だからすげぇ不安だ

 

「足元の方についてるペダルと砲塔脇のハンドルで砲身を動かしたり砲塔を旋回させたりする、主砲は旋回できないから可動範囲がネックだな

基本はペダルで大まかな調整をし、ハンドルで微調整だが慣れればペダルだけでもなんとかなる」

 

ちなみに俺が撃つなら圧倒的にペダル派だ、なにせ剣部隊の時は乗ってたのがチハだった為に火力強化しているとは言えスナイプすることがほぼなかったし、訓練でもない限り砲手を務めることもなかった

とにかく一秒でも早く大体の標準を合わせて、実際に撃った砲弾の着弾距離から逆算してその都度修正して撃ってたしな

ハンドルで砲身を動かしたのなんてそれこそスクールでヤークトティーガーに乗ってた時くらいだがそもそもヤークトティーガーにはハンドルしかついてないから話は別だ

 

…え?俺が車長だった時の砲手への指示?

そんなもん照準を合わせる必要ないレベルでの超接近戦に持ち込んで射撃させてたに決まってんだろ

 

「で、さっきも言ったがただ照準を合わせるだけじゃダメだ

砲弾が弧を描くように撃つ、その為に照準器にはメモリが刻んである、覗けばわかるが数字が刻んであるんだ

それが照準している距離を示しているから敵との距離と同じメモリに照準器を調節してから狙う」

 

「でも一体どうすれば…」

 

考え込むように黙っている大野とは裏腹に頻繁に質問を返してくれるのは山郷だ

まぁ専門的な話にもなってくるが動画回してる大野はわからないことがあれば聞くか調べるなりしてくれるだろうから良いとするか…聞いてくれるよね?大丈夫だよな?

 

「照準器の端にある数字はレンジでこの数字を目標との距離と同じにする、照準器上の黒い線は軸線、要はレンジの数字と軸線を合わせるんだな

肝心の距離だが照準器の真ん中に三角の印があるからこれで相手との距離が計算でわかるようになる」

 

さてではこれから唸るように首を傾げてるこの二人にその計算方法を教えようか

とは言ってもシュトリヒ計算なんてものは一度覚えれば案外簡単だからそう難しく捉えることもないが

 

「この三角はシュトリヒという角度単位を基準にしている

真ん中は高さと幅が4シュトリヒの三角、横の線は2シュトリヒ、それぞれの空きは1シュトリヒ───

じゃあシュトリヒって単語の数値はなんじゃらほいって話しだがこの1シュトリヒって角度で1000mが1mって話しになる」

 

「「はい?」」

 

うん、最初は困惑するね

大丈夫、それが正常だ

けど本当にこう言うしかないから困ったものだ

 

「例えば1シュトリヒのまま2000m離れたなら2m、4000mなら4mだ

…さっき中央の三角は4シュトリヒと言ったが、中央の三角の半分に1000m離れた位置で照準を合わせた場合は何シュトリヒある?」

 

「えっと…1シュトリヒが1000mの時が1mで

中央が4シュトリヒだから…」

 

「その半分で2シュトリヒ?」

 

「──正解」

 

ちょっとヒヤヒヤしたが無事にシュトリヒ計算の仕方は身についたようだ

さて、それではここからいよいよ本題だ

 

「それじゃ、これから二人にはシュトリヒ計算を用いた相手との距離の測り方を教える」

 

「「お願いしま〜す!」」

 

うん、いい返事だ

と言っても距離の測定はシュトリヒ計算さえ身についているのならすごく簡単なものである

 

「距離の求め方は距離=対象の大きさ÷シュトリヒ×1000だ

相手の戦車の寸法さえわかっていれば簡単だろう?」

 

「えぇ…?」

 

「そうですか??」

 

…何故だ思ってたより反応が悪いぞ

 

「あ〜…、じゃあこうしよう

…澤、阪口に停車するように言って!」

 

「は、はい!」

 

仕方ないが多少は自分でも考えて貰わなきゃ後々困るので、照準器を覗き込んで38tとの現在の距離を確認

思っていたより近づき過ぎたのでここで停車だ

 

…さて、今の38tとの距離はというと…

 

「38tの横幅は2.15mある、当然近づけば近づくほどシュトリヒは大きくなるのはわかるな?」

 

「はい…」

 

「なんとなくですけど…」

 

「んじゃ、2.15mの38tが照準器で4シュトリヒまで近づいた時、その距離は??」

 

「えーと…540くらいですか?」

 

「え?そんなもん??」

 

戦車の大きさとシュトリヒまで出してやれば山郷は暗算で算出して見せる、うん大体合ってるからそんな不安そうな顔しなくて良いよ

反対に大野は乏しくないようだ、…仕方ない

 

「よし、大野は一旦動画止めて携帯の電卓で計算してご覧」

 

「…わかりました」

 

言葉通り動画撮影を辞めて大野は変わりにポチポチとケータイで数字打ち込み始める

 

「──山郷はほぼ合ってたよ…多分537.5って出ねぇか?」

 

「やった…!」

 

「…本当に537.5でした」

 

はい、というわけで敵戦車との距離の測定方法でした〜

簡単だったね〜!…簡単でしょ〜?

……簡単だよね??

 

「はい、じゃあ照準器を実際に見てみようか」

 

「「は〜い」」

 

照準器を使ってみよう、そう二人に声をかけると二人共持ち場について照準を覗き込む

 

「…あれ?」

 

最初にそのことに気づいたのはどうやら山郷のようだった

 

「さっきの問題と…距離が同じ?」

 

「…本当だ!」

 

実は先程の問題は直前に俺が照準を覗き込んだ際に読み取った38tとの距離のものをそっくりそのまま使った、遅れて気づいた大野は悔しそうに顔を歪めた

…まぁそりゃ使い回すよ、時間もったいないし

 

本来ならここで照準器のズレや見越し射撃についても話しておきたいが…

一度に詰め込みすぎるのも良くない、これらはまた後で話すことにしよう

 

「よし、そしたら実際に砲撃をしてみよう

宇津木、ドア閉めてきてくれるか?」

 

「わかりました〜」

 

「澤、今現在の状況を確認したい

一瞬でいい、替われるか?」

 

「了解です!」

 

外気を取り込むために開けていた左の扉を宇津木に閉めて来てもらい、その間に戦況を確認すべく一時的に澤と交代して車長席から身を乗り出す

複数の砲撃音が耳に飛び込んできたのはほぼ同時だった

 

「…!…ありゃあ、ちっと不味いな」

 

前後を塞がれ身動きの取れない西住の乗るⅣ号は吊り橋の上で立ち往生

3方向から攻撃をされ、一部のワイヤーが切れて車体が落ちかかっていた

 

「早めにかたをつけるぞ、澤は戻って戦果確認

──山郷、大野、出番だ行けるか!?」

 

「はい!」

 

「いつでも行けます!」

 

「任せてください!」

 

特殊カーボンは砲弾こそ通さないが衝撃までは吸収できない

あの高さの吊り橋から落ちれば大怪我、最悪打ち所が悪ければ本当に死んでしまうかもしれない

急いで俺は3人へ指示を飛ばし車長席を澤と交代し、持ち場に戻りがてらベンチレーターのスイッチを入れた

これで本当にいつでも砲撃の出来る準備は整った

 

(…もう二度とあんな思いだけは御免だぜ)

 

 

主砲と副砲から放たれる轟音を聞きながら、頭に過ぎるのは忘れることが出来るのならどれほど楽になれるかと何度も思った光景だ

 

(──林さん…今なら少しだけ、貴女の気持ちがわかる気がします…)

 

『Cチーム、Eチーム行動不能!』

 

沈みそうになった気持ちを振り払うべく、無線から聞こえてきた蝶野さんの声から無事にこちらが38t、そして西住達がⅢ突を仕留めた事を確認した

 

「戦果、38t撃破確認!お前ら良くやったな」

 

「「やった!!」」

 

「お〜!」

 

 

山郷と大野が喜びながらお互い抱き合いながらガッツポーズをとり澤が安心したように胸を撫で下ろす

その様子を見ながら宇津木はニコニコと拍手をしていた、君たち気を抜くのが早すぎるな

 

「澤、無線で阪口にこの場から離れるよう指示してくれ

まもなく八九式も撃破されるだろう、次に狙われるのは俺たちだぞ」

 

「は、は(ry『Bチーム、行動不能!』

 

クソが思ったよりも早い!

こりゃ撃破されんのは時間の問題になってきたか?

いや、一刻も早く物陰に隠れて気を伺えばまだ勝機はあるはずだ

 

(…まさかこんな時にスタックか??)

 

先程からM3リーのエンジン回転ばかり上がっていき、動く気配を感じない

ついでにそろそろエンジンの振動が酷くなってきた

 

「ストップだ阪口」

 

「…え?」

 

操縦席の方へ降りてペダルやレバーと一生懸命格闘している阪口へ近づき待ったをかける

このままの勢いだとエンジンの回し過ぎでパンクさせそうな勢いだった

 

「スタックしてる時に力任せに動かしても絶対に出られねぇよ

出力を絞って、ゆっくり左右同時に履帯へ動力を繋げ」

 

「は、はい!」

 

言われた通りに操作をし直してようやくM3リーが動いた気配を感じた

…が、しかしまぁ

 

「ここまでだろうな…」

 

そう呟いた瞬間、ドンッと大きな衝撃が車内に走り車体が大きく傾いた

なんてことはない、この大きな隙を見逃さずにⅣ号から放たれた砲弾が命中したのだろう

 

『Dチーム、行動不能!

よってAチームⅣ号の勝利ッ』

 

無線から聞こえてきた蝶野さんの声に張り詰めていた緊張が解けて不意にハァ…と大きなため息が出た

何だかんだ皆に怪我のないように気を張ってたからか変に疲れてしまったな

 

「あー…次からはぬかるみの上では停車しないようにしような?」

 

「す、すみません…」

 

わずかに見える外の景色から、先程スタックした場所がぬかるみだったことが伺える

そりゃその上で通常通り発進させようとしたらスタックする訳だ

 

「あぁ、別に怒ってる訳じゃないから勘違いすんな

それどころか最初にしてはみんな凄い頑張ってたと思うよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

実際、一年生たちは初心者で今日はじめて戦車を触ったとは思えない働きをしてくれた

素直にそう伝えてやると阪口はパァアッと目を輝かせた

 

「勿論だとも、さぁ、時期に回収車が動けない戦車を回収しに来るようだから

俺たちはこのまま格納庫まで歩いていくぞ」

 

「はい!」

 

 

 

さてそんなこんなで戦車道履修生一同は格納庫の前に集まっていた、集団へ向き直るように列の一番前には蝶野さんが

列から外れ近藤さんが格納庫の壁へ背を預けながら腕を組んで聞き耳を立ててる様子が伺える

 

あ、なんか蝶野さんが「グッジョブベリーナイス」とか訳わからん事を言ってる

 

「…Aチームは言うまでもなく上出来として───

Dチームの活躍にも眼を見張るものがあったと思うわ、ナオちゃんの指導が効いたのかしら?」

 

「そりゃどうも、っても俺は口しか出してませんから

口頭で伝えてその通り動かせる一年の子たちが優秀なんすよ」

 

事実を伝えたまでだが蝶野さんには含みのある笑みとともにあいかわらずだと言われた

はてなんのことやら記憶にございません

 

「まぁそれらは置いておいて、あとは走行訓練と砲撃訓練に励むように!…わからないことがあったら何時でもメールしてね?」

 

「一同、礼!」

 

『ありがとうございましたッ』

 

これで無事最初の訓練は終了だ

初心者集団な為正直なところ全チームまだまだと言わざるを得ないが、それでも光るものはあると思う

あとは大会までにどれだけ練度を上げれるかが肝になるな…

 

「チョク」

 

「っと…近藤さん」

 

そうだった、訓練が終わったのでこちらの話もかたをつけなければならない

一応は集団は解散が掛かり既に人もバラけ始めているがまだ角谷は帰っていなかったため急遽呼び寄せることにした

 

「角谷〜!ちっとこれっか」

 

「…今朝の話?」

 

察しが良くて助かる、いやまぁ見た目相応なわがままさに目を瞑れば普段から頭のキレる凄いやつではあるが…

 

「改めて近藤若菜だ、戦車だったら何でも触れるぞ」

 

「うーん…杉野ちゃんから最初に話を聞いた時はどんなヤバい人が来るかと思ったけどちゃんとしてそうな人で安心したよ〜」

 

全く信用されていない事に正直ビックリだが、恐らくは合格と言うことだろう

 

「ま、正直猫の手も借りたいくらい行き詰まってるのも本当だしね…人が増えること自体は有り難いよ」

 

そこまで言って、角谷は近藤さんへと向き直って深々と頭を下げた

 

「改めて、こちらからもよろしくおねがいします

契約等は学園長へ話を通しますので、後ほど顔を出して貰えれば───」

 

「おぅ、了解」

 

これでひとまずは修理で躓かないような目処がたったな

とりあえず今日はこのあと訓練で壊したところを直すとして…

 

「んじゃあチョク、そろそろ午前に頼んだ部品が届くはずだから

それが届いたら全部仕分けするぞ」

 

「ぇあ!?」

 

「なに間が抜けた顔してんだ?明日には全車組み換えだ

まぁアタシが今日持ってこれた工具には限りがあるから、残りが届くまで世話になるが」

 

「…ハハッ、そういや近藤さんはそういう人でしたね…」

 

余談だが近藤さんはどんな部品も100単位で仕入れる

そして各部品の中で一番精度に優れてる物のみ探し出して組み込む、例えばエンジン部品ならネジ一本、バネ一つとってもだ

そして残りは全て返品、それが許される知名度と整備の腕があり

近藤さんの手を加えた戦車はそのままでもカタログスペック以上の性能を発揮することがザラだ

それを時間が限られてようがやると決めたらそのとおりにキッチリ手を加えねば気がすまない

それが近藤整備長という人だった、そんな事を今更ながらに思い出しては深いため息が口から漏れ出るのだった

 

 

 

 

初の訓練が終わり、湯船で寛ぐ私の横には沙織さんが大きく伸びをしている

私達Aチームの面子は現在学園備え付けの大浴場に来ていた

 

「はぁ〜…ナオも来れば良かったのにね…」

 

「やることあるみたいだから、しかたないよ」

 

実はここに来る前に杉野さんも誘おうと声をかけては見たけれど、これから作業に入るのにまた汚れてしまうと断られてしまった

 

戦車の重整備が出来る為仕方ないことだが昨日から杉野さんとあまり話すことも出来なくなってしまい少し寂しさを感じる

 

「でも戦車ってスゴいんだね、私告白されるよりドキドキしちゃった〜!」

 

「…されたことありましたっけ?」

 

「お父さんはいつも私のこと大好きだって言ってるもん!!」

 

私の意識は武部さんの話に逸れる

お父さん…お父さんか…

転校の時、裏で手助けをしてくれたのはお父さんだった

お母さんも好きだが、幼い頃から私とお姉ちゃんに優しいお父さんが大好きだった

そうか、もうしばらく会えないんだ…

 

「…いいお父さんだね」

 

不意に出た言葉は寂しさからか、取り繕いなど一切ない本心からの言葉だった

 

その後は皆と話し合い今後の車内での分担が決まった

私が車長、武部さんが通信手、五十鈴さんが砲手、秋山さんが装填手となる、だけど肝心の操縦手は空白のままだった

 

というのも…

 

「マコ!操縦手お願い!」

 

「もう書道を選択している」

 

今回の試合で天才的なまでの操縦センスの片鱗を見せてくれた冷泉さんは既に必修選択科目を選び終えた後だった

幼馴染の武部さんの誘いもきっぱりと断りを入れてしまう

 

武部さん以外の全員も何とかならないかと引き止めては見たけどどうしても変える気はないと一足先に上がってしまった

 

のだけど、続く武部さんの「このままじゃ留年」や「おばあちゃん悲しむよ」という言葉に再び浴場へ戻ってきた冷泉さんは戦車道を選択すると言ってくれた

 

「5人揃いましたね」

 

「改めて、よろしくお願いします」

 

これで各員必要な役割は揃った、あとは授業で分野ごとに鳴らしていくしかない

 

「じゃ、あそこ行こっか♪」

 

はてさて明日から何から重点的にこなそうか、そう考えていると武部さんからこれから買い物に行こうとお誘いを受けた

ここに来てから毎日友達と出かけられるから本当に楽しいなぁ

 

「私ちょっと杉野さんに声かけてこようかな」

 

「いいね〜、ナオも誘おっか」

 

「…杉野殿ってそんなにフットワーク軽いんですか?」

 

「割と、かな?」

 

予定が合う時はしょっちゅう送り迎えしてくれるし、何なら遊びに行くときも運転してくれる

…良く考えたら杉野さんに凄いお世話になってる

後で改めてお礼しないと

 

 

 

 

着替えて浴場をみんなで後にする、そして杉野さん達がいる格納庫へ向かったんだけど

私達の目に飛び込んで来たのは衝撃の光景だった

 

「…4番のカムバルブのインテーク側…あー、こっちのがいいか…んじゃコレとコレは…コッチだな───」

 

「これクランクの精度見た??

コレとコレとコレはどう?…じゃあこっちか───」

 

「──バルブの仕分けできてる??」

 

そこには作業に興じる杉野さんと近藤さん、そして自動車部全員が死んだ目で山のように積み重なった部品から目星をつけた物だけ抜き取っていく地獄のような絵面だった

 

「す、杉野さん…?一体コレは…」

 

「…おー、西住か…後で組み付けるエンジン部品の仕分け…

近藤さんが全車の全部品を100単位で仕入れてくれたからまだ全然終わらねぇや」

 

「全部品を100単位!?」

 

聞けばエンジンの主要部品のみならずボルトやバルブ、スプリング等細かいものまですべて同じ数仕入れたと言うのだから驚いてしまう

 

「さすがは近藤整備長殿ですね〜」

 

唯一秋山さんだけは驚いた様子もなく、それがさも当たり前であるかのように受け入れていた

 

「…あぁ、昼間Ⅳ号に乗ってた嬢ちゃんたちか」

 

そんな秋山さんの声に反応してか、近藤整備長こと近藤若菜さんは私達をぐるりと見渡すとガッテンがいった様子で会釈してくれる

恐らく歳が近いからだろうか、見た目も恐らく性格もまるっきり違うはずなのに何故だか遠く離れた実家のお母さんと同じ匂いがする人だと思った

 

「近藤整備長殿に覚えていていただけるなんて光栄であります〜!」

 

「ははは!大げさな娘だな

アタシは別にそれほど大物になった覚えはねぇよ」

 

まさに感無量と声を上げる秋山さんに近藤さんは腕を組んだまま豪快に笑い飛ばす

その様は杉野さんと酷似していて、なるほど彼女の深い知り合いなだけあってそういうところは似ているのだろう

 

「ご謙遜を!近藤整備長殿と言えば───

かつてタンカスロン無敗の杉野殿率いる戦闘301戦車隊を影で支え続けた伝説の整備士ではありませんか!」

 

「あ…」

 

秋山さんが近藤さんを持ち上げるようにそう言った途端に当の近藤さんの表情が思いっきり引き攣った

一体何故…と周囲を見渡してみてそのリアクションに納得する

 

「──秋山よぅ…」

 

「す、杉野殿…?」

 

近藤さんの不可解な反応の理由は杉野さんの表情にあった

それは一見いつも私達へ向ける温和な笑みと大差はない、しかしただ一点、目が全く笑っていないのだった

 

「…お前に悪気がねぇのはわかってるが、あんまり人のいるとこでその話には触れないでくれるか?」

 

「は、はい…すいません……」

 

言葉の通り、秋山さんは尊敬こそすれど悪意を持って杉野さんや近藤さんの事を話題に出したわけではない

それがわかっているからか一つ小さくため息を吐いて軽く咎めることに留めた杉野さんを見て秋山さんもシュンとしてしまっていた

 

「そう、ですよね…やはり杉野殿はまだあのことを───」

 

その時ボソリ、と秋山さんが呟いた

この場で聞き取れたのは恐らく私だけで杉野さんも近藤さんも選別作業に戻り武部さんも五十鈴さんもそれを興味深そうに眺めてるだけだ

 

(あのこと?…私、杉野さんのこと知らないことだらけだ)

 

ふと振り返ると、私はこの学園に来て日は浅いものの杉野さんとはほぼ毎日一緒にいる

だけれど私は彼女のことをあまり、いや彼女の長い戦車道歴の中で私はほんの一握りの断片的な事しか知らないのだった

 

(それが今は酷くもどかしい───)

 

宮城の戦車スクールで頭角を表した天下の流浪人ヤークト虎徹

自分の身を顧みず、自車諸共であっても敵戦車を討ち取るまで止まらない体当たり精神の杉野デストロイヤー

そして敵戦車を自身で一片に惹きつける為に派手な黄色の二本ストライプをあしらったイエローファイター

その常人を逸した闘志で猛将と称えられ、しかし敵対チームには魔王とまで呼ばれる等

杉野さんには沢山の側面がある、ある意味で有名だった為に知ってたことだけど、私自身彼女がタンカスロンを引退する少し前に実際の試合を見始めたので彼女の事はこれらの異名と得意な戦法を知っている程度だ

 

(帰ったら少し調べてみようかな…)

 

これも実家にいた時はできなかった事だった、何せ杉野さんの戦い方は普通の戦車道の理念から考えれば邪道も邪道

実家で調べた日にはお母さんになんて言われるか想像もつかない

 

「ナオ…それまだ結構掛かるよね?」

 

「んー…まだまだ掛かりそうだな、どうかしたのか??」

 

「皆さんでお買い物にでも行こうかと思って、お誘いしに来たのですが…」

 

ふと気づけばここに来た目的を武部さんと五十鈴さんは杉野さんへ打ち明けていたが、見てわかるほどの忙しさを誇る杉野さんを前に気が引けてしまってるようだった

うん、私もこれじゃあ誘えないなって思ってたかな

 

「──悪いな、手ェ離せそうにねぇや」

 

「チョク、行ってきても良いんだぞ?」

 

「…いや、せめて全車エンジン組み上がるまでは行けねぇっすよ」

 

遊んできても良いと近藤さんは言ってくれるがそれは杉野さんが納得できないようで

せめて今選別してる部品を組み付けないことには手は離せないと作業を続行する

…私達の使う戦車なのに何だか申し訳なくなっちゃうな

 

「ま、明日には組めるだろうから

それ以降はボチボチ暇にはなるだろ」

 

「え?そんな早く…?」

 

「当たり前でしょ?見切りつけてさっさとやらないと今年終わっちゃうって───」

 

あまりにも早い作業日程に思わず聞き返すもじゃなきゃ終わらないと杉野さんは苦笑いをする

近藤さんも自動車部のみんなもウンウンと頷いてるためこの人たちは本気で明日一杯で全車のエンジンに手をいれるらしい

 

「私達は私達で買い物行こっか」

 

武部さんは仕方ないと小声で呟き、Ⅳ号搭乗員メンツだけで買い物に行こうと提案をしてきた

杉野さんの手が空かない今は仕方ないか…

 

「…あれ、そう言えばⅣ号以外の戦車が見当たらないような」

 

「塗装が擦り切れてるから各々塗り直すって持っていったぞ」

 

ふと気づくが格納庫の中にはⅣ号以外の戦車は見当たらなかった、その事を杉野さんに聞けばリペイントするから各チーム事に持っていったのだという

…何だかんだみんな楽しんでるんだなぁ

 

「私達も塗り直そうかな?」

 

「今のジャーマングレイも味があって良いですよ」

 

「同じ色にリペイントでも良いんじゃない??」

 

みんな塗り直すならⅣ号だけ綺麗じゃないのはちょっと嫌なので後で塗り直そうかと呟く、秋山さんは今のままでも味があっていいと言うけど、私は武部さんの言う通り同じ色に塗装し直したいかな

 

「じゃあ行こっか」

 

武部さんの一言で私達は格納庫から出て、買い物へ向かった

 

 

 

「ふぅ…終わった」

 

西住達が帰ってから早数時間が経ち、時刻は日付を跨いですぐのこと、ようやく全車分のエンジン5基が組み上がった

 

「スゲェ〜、こんな内容1日で終わらせれる奴初めて見た

私達だけじゃ絶対無理だったな───」

 

一息ついて横で呆れたようにホシノさんが呟く、何だかんだエンジンの1基1基がかなり手が加えられてフルチューニングが施されてると言っても過言ではない仕上がりになっている

エンジンのボーリング加工*1にホーニング加工*2と平面加工*3と生産終了されてた補修部品のオーバーサイズピストン*4とそれに対応したピストンリング

各部品の重量合わせ*5と鏡面加工にポート研磨*6、バルブ研磨にすり合わせ*7、カム加工*8に純正改造強化バルブスプリング*9

 

…振り返ればよく一日で終わったなと思うような内容だ

まぁみんな腕が良いからな…

 

「にても良かったのか?こんなに弄り倒して…

生徒会長には口酸っぱく改造厳禁って言われてたから戦車道のルールって厳しいんじゃないのか?」

 

「あぁ、厳しいには厳しいかな社外部品は使えないし」

 

だったら不味いんじゃないのか?と言いたげに顔を顰めたホシノさんに大丈夫、と付け加える

 

「戦車道で使える部品は純正か二次大戦中に採用が検討されたことのある部品っすよ

規定には条件さえ満たせば自由って書かれてる始末なんで、純正を応用した改造がダメなんて一言も書かれてないんだぜ?」

 

「あー…悪いねぇ───」

 

10t以下と言うレギュレーションさえ守れば何してもOKなタンカスロンと違い公式ルールには多少の縛りが設けられている

しかしそれだってモノは考えようなのだ、社外のカスタム部品が駄目なら純正に手を加えてチューンナップしてやればいい

 

「けど意外と人ってのは思考が固くてな、レギュレーション内で純正か採用が検討されたことがある部品って言われると額面通りにしか捉えられないもんなんすわ

中等部の頃何回か他所の学校のチームと戦ったことあるけどみんな手を加えてない吊るし状態だったからなぁ」

 

「違反してるか分かりづらいってリスクもあるんだろうけどねぇ、ま、たしかに弄っていいなら弄らせて貰った方がこっちとしてもやりがいがあって良いけど───」

 

ニッと悪戯っ子のような笑みを見せるホシノさん、ここの自動車部の連中は本当に

自動車というか、機械が好きな奴らの集まりだな

さぁ、今日も忙しくなりそうだ

 

 

 

 

 


 

 

公式風キャラ説明②

 

 

名前 近藤(こんどう)若菜(わかな)

 

所属校 →県立大洗女子学園戦車道専任整備士

 

担当 整備主任者

 

身長 165cm

 

現住所 →大洗女子学園教員寮

 

年齢 31歳

 

趣味 機械の点検・修理・改造

 

日課 朝イチに工具の状態を確認すること

 

好きな花 ピンクグラジオラス(たゆまぬ努力)

 

好きな戦車(判断基準が触って面白そうかどうかな為決めれない)

 

座右の銘 知識と技量があれば機械は必ず応えてくれる

*1
ボアアップ加工、エンジンブロック、シリンダーブロックの穴を広げボアアップ(排気量を上げる)ことで出力向上、エンジン本体の性能の底上げを図る

*2
専用砥石でシリンダー内壁を磨き仕上げする工程、このホーニング工程で磨き仕上げ時にシリンダー内壁に付けられたキズをクロスハッチと呼び、この溝にオイルが溜まり潤滑作用を行い、ピストンの焼き付きを防ぐ仕組みとなる

*3
エンジンブロック・シリンダーブロック・シリンダーヘッドの合わせ面、製造時にどうしても生じる微かな曲がりやバリを専門の機械により研磨し文字通り平面を出すことでエンジン組み上げ時の精度上昇、気密性確保、圧縮比等を向上させエンジンの出力向上・耐久性を上げる

*4
かつて存在した補修用のビッグボアピストン、エンジンを長く酷使すればシリンダー内に無数の傷が生じそこから不具合を起こしたりする、そのためかつてシリンダー内を研磨し再利用、ピストンは広げたサイズに合わせた純正よりも大きなものが補修部品としてラインナップされていたが意図せぬ排気量アップと組み込み精度の難易度、部品も高額であったことから現在は部品丸ごと交換が主流であり補修部品で排気量アップは廃れた手法となった

*5
エンジンバランス取り、オーバーサイズピストン・ピストンピン・スナップリング・コネクティングロッド・メタル・ピストンリングの各部品重量を合わせる、元より精度の高い部品を選んではいるもののどうしても0.1〜1グラム単位程度で差が生じる為完全に重量を合わせることで回転抵抗を低減し出力向上、レスポンスアップ、エンジンの耐久性向上を図る

*6
シリンダーヘッドの給排気ポートの研磨及び鏡面加工、ポートを研磨し広げることで吸気側と排気側に流れる空気の流速を早め、エンジン出力向上と高出力化に伴う為の限界点を高める土台を作り、鏡面加工を施すことで一切の給排気の抵抗を無くす

*7
皿状になっているバルブを極力平らになるまで研磨することにより一回の吸気・排気で燃焼室に入れる空気又は燃焼室から排出する空気の量を増やし、気密性を高めるためにバルブとシリンダーヘッド側の当たり面を光明丹と呼ばれる研磨剤ですり合わせて仕上げる、ポート研磨をするなら一緒にやっておくべき行程

*8
リフト量を司るカム山ではなく全閉区間を削り、全閉でのバルブクリアランスを最適に調整してやれば吸排気時は削った分高くなる、つまりリフト量を高くする「ハイカム」と同じ作用を得られる

*9
純正バルブスプリング硬化加工、耐荷重を上げ実質的なバルブスプリングのレートを上げる

ただし、サージング等の不具合はバルブスプリングの上下運動とその周期的な運動により発生する周波数が起こす波動とが一致すると起こる為、その周期をずらすためにスプリングに熱を入れバリアブル(不等ピッチ)に巻き直し。内側にもう一つ巻き直したスプリングを入れてツインスプリング方式にすることで高回転での高い荷重にも耐える






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