ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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後半はアットウィキ風の杉野の過去解説入りますがみたい人のみ見ればいいです
見たくない人は飛ばしても多分話自体にはついていけると思われますので




嗚呼、大洗戦車道 ★【挿絵有り】

 

「あはははははッ!!」

 

「あぁーッ38tが!Ⅲ突が!!M3が八九式がなんか別のものにぃー!!!」

 

雲一つ無い快晴の空の下

晴れやかな風が心地良い午前の校庭に杉野さんの爆笑と秋山さんの悲鳴が響き渡っていた

その視線の先には…

 

「──カッコいいぜよ…」

 

「支配者の風格だな───」

 

赤やら黄色やら浅葱色やらと纏まりのないカラフルな塗装と旗を装着したⅢ突や

 

「これで自分たちの戦車がすぐわかるようになった〜!」

 

「やっぱピンクだよね〜」

 

車体全体をショッキングピンクに全塗装が施されたM3リーとその横にカラーリング自体は変わっていないもののボディ全体に【バレー部復活】と書かれた八九式

 

「この勢いでやっちゃおっか───」

 

「──は、連絡してまいります」

 

そして目が痛いまでの金色に身を包んだ38tだった

 

「私達も塗り替えれば良かった〜!」

 

「んはははっ!やっぱコイツら本物のアホだな!!」

 

Ⅳ号は他の戦車とは違いデコレーション?カスタム?は車内のみに留まってる

つまりはⅣ号1輌のみ、その他の戦車と違って外見上は一切手を加えていなかった

その事に不満そうな武部さんの叫び声を尻目に杉野さんの笑い声が一際大きくなった、両手でお腹を抱えて今にも地面に転がりそうな勢いだ

 

「あんまりですよねぇ!?」

 

秋山さんも信じられないというような目でこちらを見てくるが私としてはこんなに自由に戦車道を純粋に楽しもうとする機会がなかったから

これはこれでありだと思う

 

「──ふふっ」

 

「西住殿…?」

 

「楽しそうでいいなぁ…!」

 

「西住殿…!?」

 

…まぁ、これから試合とか始めて行くなら

いい的になっちゃうから私はやらないけど…

 

 

 

午前の選択授業開始時刻になり現在全車輌が編隊走行の訓練に励んでいた

 

「しばらくは俺もお役御免そうだな」

 

「杉野先輩、こういう時のコツとかってありますか?」

 

俺の仕事と言えば通信手と技術指南なのでこういう所は特に個々のわからないところ等を知らないと教えようもない

その為手持ち無沙汰で通信席で暇を謳歌しつつダラダラと身体を伸ばしていたところ澤から仕事を貰った

 

「そうだな基本は坂口の技量と相談しつつ繰り返しの慣熟訓練で慣らしていくしか無いけど───

ま、最初から上手くいく奴なんてほぼいねぇよ、多少隊列から遅れても良いから確実にこなしていけ」

 

「はい!」

 

にしても大洗のメンツは中々粒揃いだな

僅か二日目にしてぎこちないながらもある程度隊列を組んで走行出来る

この人材達が幼少の頃から戦車道をしてたら今頃どんな化け物に仕上がっていたか_____。

 

 

(──いや、それを考えるのは無しだな

車内まで砲弾を通さないとはいえ、衝撃までは完全に殺すことはできない…)

 

それにキューポラから身を乗り出して敵を探す車長や、修理中の事故、戦車ごと高所から落下する転落事故だって起こり得る

上げればキリがないくらい戦車道と怪我は切っても切れない関係だ、それこそほぼ起こらないとは言え最悪な事態が起きることもある

それらを踏まえればもしかしたら、ここにいる何人かはこの場に居なかったかも知れない

 

「次は射撃訓練をやるみたいです」

 

「おぉー、聞こえた聞こえた」

 

澤から次の訓練内容が届き、意識を思考のそこから現在へ切り替える

離れた搭乗口をそっと開けてみれば河嶋が拡声器片手にがなっているのが耳に届く

 

「昨日教えたシュトリヒ計算、まだ頭に入ってるか?」

 

「はい」

 

「なんとか」

 

通信席を立って砲手席へ足を伸ばせば山郷と大野が照準器を覗き込んでるのが見える

ひとまず基礎が抜け落ちてないか確認は取ったが大丈夫そうだな

 

「動いてない的に当てるだけなら昨日教えたやり方と何も変わらん、あとは肩に余計な力が入っていたり

焦れば思考が凝り固まって一点しか見えなくなっちまう

砲撃の瞬間に深く深呼吸して気持ちを整えとけ」

 

「「了解です!!」」

 

射撃訓練の方も結果は上々

ここまで飲み込みが早いといっそのこと面白く感じてくる

 

その後の訓練では河嶋が「開けた場所では遮蔽物に身を隠せ」など思わずお前が言うなと言いたくなる中々に面白い冗談を披露してくれたので無線越しに鼻で笑ったら聞き取るのが困難な勢いで怒号が飛んできた───

耳がキーンなったわ、そもそも聞き取りづらいわで仕方なく無線の電源を落としておいた

澤には苦笑いされたがなぜだろう?俺またなにかやっちゃいました??

 

次に渡河訓練や勾配のあるぬかるみを登ったりなどの訓練があり二日目の授業も終了

 

「──今日の訓練、ご苦労であった」

 

『お疲れ様でした~』

 

「…急ではあるが今度の日曜日、練習試合を行うこととなった」

 

授業後の全体集合、号令をかけていた河嶋からの発言は本当に急なものだった

 

「はぇ〜、そらまたずいぶんと突拍子もねぇ───

相手にもよりけりだろうがよく受けてくれるところがあったな」

 

「相手は聖グロリアーナ女学院だ」

 

うん?おかしいぞ

ちょっと上手く聞き取れなかったな、俺突発性難聴にでもなっちまったか??

 

「──聖グロ?西グロじゃなく?

河嶋お前、西呉王子グローナ学園のこと間違えて聖グロリアーナ女学院って言ってたりしないよな?

聖グロと西グロじゃ紅茶とコーヒーくらい違う学校だぞ?」

 

「正真正銘聖グロリアーナ女学院だ」

 

え?ガチな方なのかコレ

いやいくら練習試合とは言えなんでほぼ無名のうちと試合組んでんだよ聖グロ

本当にあいつ等紅茶の飲み過ぎでイカれちまったんじゃねぇのか

例年の優勝校候補が地方の無名校との練習試合受けてんじゃねぇよ

 

「とりあえず、みんな解散───」

 

「まて杉野貴様勝手に仕切るな」

 

本当に聖グロとやり合おうってならあまりにも無茶が過ぎる話だ

もはや河嶋の発言をこれ以上聞く価値もないだろう、流石に数日しかまともに訓練していない状態でまともな試合になる筈がない

そう思ってパンパンと手を叩いて各員に解散命令をかけるが案の定河嶋に阻止されてしまう

 

「ねぇ…ナオがのっけから諦めモードになるくらい凄いところなの…?」

 

「聖グロリアーナ女学院は全国大会で準優勝したことのある強豪です…確かに今の状況では厳しい戦いになると思います」

 

視界の端ではAチームの武部と秋山が聖グロについて話しており、その内容に五十鈴が手を口元に当てながら驚いたような表情を見せていた

 

(これ本当にやらなきゃ駄目なのか…俺も西住もいるとは言え…)

 

決まってしまった以上、そして生徒会メンツの性格上

試合を避けることが無理なのは本心ではわかっている

ただこのバカみたいに格上へ挑むことに何ら疑問を抱かない奴等への意趣返しになればと態度に示しただけだ

 

(──いや待てよ、だが相手の出方次第では…

可能性は低いが──ソレに賭けるなら勝機も少しはあるか…?)

 

聖グロが絶対的強者であることは間違いない、だがやりようによってはそこに綻びを生じさせる事も出来ないことは無いはずだ

 

(ならば──!?やることは一つ…)

 

生じさせた綻び、おそらくは針の穴のように小さく見え隠れする突破口をついていく

気の遠くなるような話であってもおそらくはそれ以上のやり方はない

 

それに───

 

(…圧倒的不利な状況ってのは、俺が一番場数を踏んでる状況じゃねぇか)

 

思えば今まで最初から有利という状況で戦闘を始めれた事のほうが珍しい、少しでも勝率を上げる方法くらいは熟知している

なに、例え99%負ける戦いであっても残りの1%を最初に引けばいいのだ

 

 

 

初めて練習試合をする相手は聖グロリアーナ女学院、そう説明がされた際に一瞬で諦めモードに入った杉野さんに私も同意したかった

 

とは言え決まってる以上覆す事は恐らく無理と察してか、考え込むように腕を組んで瞳を閉じ、眉間に皺を寄せながらうんうんと唸る彼女を私は黙って見ていることしか出来なかった

 

(──確かに聖グロリアーナは強敵だけれど、見て学ぶという点で考えてみれば理想の相手でもある…)

 

聖グロリアーナ女学院が扱う戦車は彼女たちのルーツとなっているイギリス製戦車の中でも特出して速力に優れているわけでもましてや火力に優れるわけでもない

まぁ火力に関して言えばうちと比べてしまったらそれでも雲泥の差と言えるけど…

一番特出しているのは装甲の厚さ、ひたすら硬く堅牢だ

そしてその守りの強さを生かした浸透強襲戦術を得意とする

 

ふとその時、思考を終えた杉野さんの目がゆっくりと開かれるのを私は見た

 

(…ッ)

 

その瞬間私は背筋に冷たいものを感じた

三日月のように鋭くニッと口角を上げた杉野さんは私の本能が無意識のうちに警鐘を鳴らす程に獰猛な笑みで嗤っていた

 

「…杉野さん?」

 

「──ん?あぁ─西住か、どうかしたか?」

 

「…いえ、何でも」

 

声を掛けて振り向いた杉野さんの表情は、いつも私に向けるものと変わらない穏やかに微笑んだ優しい表情だった

ふとした拍子に忘れがちになる、私は彼女の優しいところしか知らないが本来の彼女は狂犬のように凶暴な戦闘狂の側面がある

 

(だけど少し違和感が…何か策があるってことなのかな)

 

そうこう考えている間に河嶋先輩からの説明も進んでいき、練習試合のある日曜日は朝の6時に学校へ集合だとアナウンスされるがここで事件が起きた

 

「…やめる」

 

IV号戦車の操縦を担当してくれる冷泉さんが突然戦車道を辞めると言い出してしまった、…あ、今杉野さんが一瞬で顔を伏せた

 

武部さんが冷泉さんは朝が弱いということを教えてくれて、それでみんなが必死に起きれるように案を出していくが冷泉さんの意思は硬いようだった

 

「──朝だぞ、人間が朝の6時に起きれるか!」

 

「ブフッ」

 

あまりにも堂々とした立ち振舞で、あたかもそれが一般世間の常識だと言い放った冷泉さんに顔を俯かせたままの杉野さんは遂に堪えきれなくなったのか吹き出してしまった

…いや、たしかに6時は早いけど割と普通なような…

 

「…いえ、集合が6時なので起きるのは5時台になるかと…」

 

「……人には出来ることと出来ないことがあるんだ

短い間だったが世話になった」

 

「だーっはっはっはっは!!!」

 

そこに追い打ちをかけるように秋山さんがさらに短縮した時間を伝えた事で一瞬冷泉さんはクラリと倒れそうになったが何とか持ち直すと完全に辞める方向へシフトしてしまいその唐突ぶりがツボに入ったようで杉野さんは崩れ落ちてお腹を抱えながらゴロゴロと転がっていた

 

「うわっ…ナオその笑い方は完全に乙女捨ててるって…」

 

その様子をジトッとした目で見つめながら武部さんの呟いた言葉に私は内心で同意する

豪快な人だと言うのはわかっていても流石にこれはその一言で済ませられないと思う

 

「あーもう!マコがいなくなったら誰が操縦すんの!?

単位はいいの!?このままじゃ進級できないよ!?」

 

痺れを切らした武部さんが背を向けて立ち去ろうとする冷泉さんの背中に向かって声を荒げた

痛いところを突かれたからだろうか、冷泉さんはその場でピタリと立ち止まった

 

「私達の事先輩って呼ぶようになっちゃうから!

私のこと沙織先輩って言ってみ!!?」

 

「うっ…さ、沙織…せんぱ…い」

 

「──よぉアイツ(武部)意外と容赦ねぇどえな?」

 

危機感を持たせるためか結構言いにくいことをズバズバと言う武部さんに対して杉野さんがボソリと呟く

まぁ幼馴染って話だったから遠慮なしに言えるんだろうけど

 

「…それに、ちゃんと卒業出来ないとおばあちゃんめっちゃ怒るよ」

 

「お、おばぁ…」

 

「さすが武部やり方が汚い」

 

「もう!ナオさっきからうるさい!全部聞こえてるからね!?」

 

おばあちゃん子な冷泉さんの急所をついてくやり方に杉野さんが冗談めかして言うが全て聞こえていたらしい武部さんに怒られてわざとらしく肩を竦めた

あれは絶対に反省していなさそうだなと思いながら話を聞き続ける

どうやら先程の武部さんの一言が決定打となったようで、冷泉さんは観念したようにやると言ってくれた

 

 

 

私を含む各車両の車長は生徒会の3人に呼び出されて生徒会室まで足を運んでいた

 

「なんで俺も呼ばれたの?」

 

正確には車長と杉野さんだ、各車長が生徒会に呼ばれた際

是非意見が聞きたいからと名指しで指名されていた

俺はただの指南役なのに…と愚痴を零しながら用意された椅子に深く腰掛けて乱雑に足を組みその場でふんぞり返る

河嶋先輩が説明にホワイトボードを引きながら現れたため私も姿勢を正して話を聞く体勢へ入った

 

「相手の聖グロリアーナ女学院は強固な装甲と連携力を活かした浸透強襲戦術を得意としている───

とにかく相手の戦車は硬い、主力のマチルダⅡに対して我々の方は100m以内でないと通用しないと思え」

 

キュッキュッとホワイトボードにペンを走らせながら

河嶋先輩はこの短期間で調べ上げたであろう相手校の得意戦術、主力の防御装甲の厚さ、対するこちらの保有する戦車の火力不足まで説明混じりに解説していく

 

「そこで、1輌が囮となってこちらの仕組んだキルゾーンに引きずり込んで高低差を利用し、残りが敵の本体を叩く」

 

ボード上に表した聖グロ編隊をバンッと手のひらで叩き

パーフェクトだ、と河嶋先輩自信満々な様子で不敵な笑みを浮かべた

他の車長のみんなも行けると踏んだか前のめりに話を聞いていた

その反面杉野さんだけは終始険しい顔をしている

 

(聖グロリアーナが弱点である接近戦や至近距離からの待ち伏せに対して対策を取っていない筈がない…

多分杉野さんは気づいてる、よね…?)

 

実際、私が黒森峰にいた頃は聖グロリアーナ女学院には負けたことがないとはいえ楽に勝ったことは一度もない、今代の高等部の隊長は会ったことないと思うけれど

装甲の硬さ以外は飛び抜けた強さのない戦車で全国大会で毎年優勝候補に入る程、歴代の隊長各は軒並み戦術を立てるのがずば抜けて上手い

そもそもが周りの長く研鑽を積んだ普通の戦車道チームと比べればこちらはどこまで行っても烏合の衆でしかない

作戦を立てたからと言ってあまり慢心はしない方が身のためであり手札は数があればあるだけいいはずだ

 

「…西住ちゃん、どうかした?」

 

「あぁ…いえ───」

 

「いいから、言ってみ?」

 

生徒会長に意見を求められた私は一瞬言葉に詰まってしまった

河嶋先輩が立てた作戦を現実的じゃないと否定するのは簡単な話だけど、短い間によく調べたとは思う

それを全て無にしてしまうのは幾分気が引けてしまった

 

「聖グロリアーナは当然こちらが囮を使って来るのは想定すると思います、裏をかかれて逆包囲される可能性もあるので…」

 

「あ〜、たしかに」

 

私の意見は小山先輩達には納得の行くものであったようだった

ちらりと杉野さんの方を伺って見ると深く頷きはしてくれたものの、しかしそれを加味してもまだ表情は険しいものだ

 

「──黙れッ私の作戦に口を挟むな!

そんな事言うならお前が隊長をやれ!!」

 

「ふぇえ!?」

 

刹那河嶋先輩の怒号が響く、私は先輩の地雷を踏み抜いたようだった

 

「─うっ」

 

しかしそれも一転、河嶋先輩が言葉に詰まって視線を逸らす

何事かと辺りを見渡すと眉間にシワを寄せていつになく不機嫌そうな杉野さんが河嶋先輩を睨みつけてる

彼女のこう言うところは本当に優しく頼りに思う反面、彼女は美人といえど強面なので彼女に睨まれるというのは精神衛生上洒落にならないだろう

特に一度掴み合いまでしてる河嶋先輩なら尚更

 

 

「──まぁまぁ…」

 

生徒会長は二人を宥めるようにして、私に向き直る

 

「けど、隊長は西住ちゃんが良いかもね───」

 

「はい?」

 

「西住ちゃんがウチの指揮取って」

 

生徒会長に抜擢され私は隊長になってしまった、ふざけた様子で言っていなかった為本気なのだろう

周りに拍手で歓迎されたが不安だ、ふと杉野さんの方を見るとウンウンと頷きながら拍手していた

荷が重いから変わって欲しい…

 

「ま、それはそれとして杉野ちゃんからも意見を聞きたいんだよねぇ」

 

ピタリと杉野さんの動きが止まった───

想定していなかったと言うわけではないだろう、現に彼女はここに来てからずっと考え込んでいたのだから

 

「厳しい、の一言に尽きるんだが───

お前らはそんな言葉求めてないんだろうな」

 

「よくわかってんじゃん」

 

素直に一言言ったはいいが生徒会長に一蹴された為、はぁ、と杉野さんは深々とため息を吐いた

 

「まず河嶋の作戦なんだが、実はあながち間違いじゃないんだよな

というのも浸透強襲戦術ってのは本来なら完璧格下を相手に想定した完全舐めプだから」

 

あ、河嶋先輩の顔が一気に嬉しそうになった

 

「だから囮を使って待ち伏せってのは同格かそれ以下の相手がこの浸透強襲戦術を使ってきた時は有効的なんだ

短期間で短所を把握した河嶋は素直に凄いと思うぞ」

 

「ふ、ふん!」

 

ここに来て杉野さんに褒められた為か照れたように顔を真っ赤にして後ろを向いてしまった

 

「しかし今回は相手がな、西住の意見通り聖グロレベルの練度となると当然弱点は抑えてくる───

まともに戦ったら勝てない、それならバカ正直に真っ向から挑むんじゃなくて遭遇戦にした方が勝率は上がるだろうな」

 

杉野さんの考えは私と似ているものだった、しかし遭遇戦を行うならどこで仕掛けるかと言う話にもなる

 

「…ちなみに杉野ちゃんが仮にみんなを率いる立場だったとして、杉野ちゃんの納得の行く練度だったらどう戦う?」

 

「ん…?それなら…」

 

黙って聞いていた生徒会長が口を開く、杉野さんへの質問は大洗戦車道チームの練度がちゃんとあって、杉野さんが指揮官を務めた場合の作戦だ

 

「──現状の戦車は5輌だから、2輌と3輌の2チームに別れての遭遇戦だろうな…公式戦車道なら保険も降りるし市街地が無難か

集団から1輌ずつ誘き出して2チームで囲んで確実に撃破することを目指すが…」

 

「…たしかにそれをやるには練度が足りないね」

 

現状、大洗の戦車道チームはやっと隊列を組んだ編隊走行が出来る程度

杉野さんが考えるチームワークの戦い方をするのにはまだまだ練度は足りない、しかし…

 

「市街地での戦闘は、まだこちらの利を活かせるんじゃ無いでしょうか?」

 

杉野さんが提案した市街地戦闘、これは聖グロリアーナを相手にして唯一大洗が上手く立ち回れる方法だと思う

 

「うん、うちの学園の殆どは大洗が地元だからね

──戦車道履修生も変わらない…となれば」

 

「地の利があるのはこちら側です、立ち回り次第では勝つと断言するのは難しくてもそうそう負けることも無いかと思います」

 

杉野さんの意見で大まかな作戦概要は決まった、何なら市街地まで相手チームを誘い込む囮作戦として河嶋先輩の作戦を最初に盛り込むのも良いかもしれない

 

「市街地へ向かうルート上にある高台で、河嶋先輩の提唱する待ち伏せ作戦にて敵を誘導します───

この時に敵を何輌か撃破できればいいですが、これがハマってもハマらなくても最終的に決戦場は市街地内での遭遇戦と想定して作戦を立てましょう」

 

 

 

「厳しいのはわかってるけどさ、やっぱどうせやるなら勝ちたいじゃん?」

 

作戦概要も粗方決まりそろそろお開きムードが漂って来た頃、角谷が爆弾を投下した

 

「日曜日の練習試合、勝ったら素晴らしい景品を進呈しようじゃない」

 

「え、何ですか…」

 

というわけで、と角谷は西住がやる気になるようにかは定かでは無いが勝てばそれなりの景品を出すと言った

小山が即座に聞き返している辺り他二人には事前に何も知らせれていないのだろう

 

「干し芋3日分!」

 

「そりゃオメェの欲しいものだろ」

 

ずばりとでも言いたげに指を立てて自信満々に言い放つ

いやそりゃ角谷からしたら豪華かも知れんが西住からしたらどうだい

 

「あの、もし負けたら?」

 

ここでそれまで黙っていた八九式の車長がおずおずと質問する

まぁ、勝って景品が出るなら負けた時もなんかあるか

 

「──罰ゲームとして大納涼祭りであんこう踊りでも踊って貰おっかな〜」

 

「え!?」

 

「あの踊りを!!?」

 

角谷が提示した罰ゲームに俺と西住以外の車長3名が目を見開いて驚愕する

…え?何あんこう踊りって───

みんな知ってる感じ?知らないのは俺と西住みたいな県外から来てるやつだけ?

そんな有名なのそれ

 

「澤、そんな有名なのか?そのあんこう踊りってのは…」

 

「え…杉野先輩知らないんですか…?」

 

近くの澤に聞いてみるも逆に知らないことを驚かれる始末だった

ガチで知らない俺がおかしいのか??

 

「いやぁ、大納涼祭りってのがある事自体は知ってるけど内容まではさっぱりでさぁ」

 

「──それは貴様が去年船舶科と乱闘騒ぎを起こしたせいで大納涼祭りの時期は停学処分中で下船許可が下りなかったからだろうが!!」

 

割って入るように怒鳴りつけてきた河嶋の言葉に一瞬思考が完全に停止しする、…あぁ、そうだ思い出した

通りでその辺記憶にないわけだ、あったなそんな事も

 

「俺ァそんな昔のことは忘れてたよ」

 

「お前が忘れるなよ…ッ!各所関係者に私が頭を下げに行って、貴様と当該船舶科生徒全員を停学処分ですませたのは大変だったんだぞ!?反省しろ少しはッ!!」

 

チッうっせーな…反省してまーす」

 

「き〜さ〜ま〜ッ!!」

 

飛びかかろうとしてくる河嶋を小山がなんとか抑えるもぎゃあぎゃあと喧しい声が聞こえてくる

残念だが俺はやったことに反省はあっても生徒会に対して申し訳なく思う気持ちは持ち合わせていない

むしろ普段職権乱用で一般生徒に対して迷惑をかけているのだから一層仕事増やしてやりたいとさえ思ってる

 

あ、そう言えばあの時対応した園ちゃんには勿論直接謝罪を入れたが彼女にはこの事も含めて一年の時はかなり手を焼かせてしまった

後で改めてお礼言っとかないと…

 

「んじゃま、そういうわけでよろしく〜」

 

言いたいことを言い切ったのか角谷は手をひらひらと振って話を終了させる

試合前の会議はこれにて終了になったようだった

 

 

「西住〜、()ぇんべよ〜」

 

教室に戻ってきた頃には既に人は誰もおらず、自分の席からカバンだけ取ると背後から声が投げかけられた

 

「あ、杉野さん…今日は整備はいいんですか?」

 

「うん、近藤さんと話したんだけど───

今週末試合なら下手に手を加えて車両特性変えちゃわない方がいいってことになってな」

 

後手でカバンを背に引っ提げて杉野さんが言う、たしかに今現状の状態に慣れていたら操縦手の訓練はまた1から始めなきゃいけない…か

 

「おっ…」

 

「どうかしたんですか?」

 

ふと杉野さんの携帯がなり、彼女は画面を開いて何度がボタンをポチポチと操作する

その拍子に漏れた声が気になり彼女に声をかけると「いやァ〜」と歯切れの悪い返事が帰ってきた

 

「なんか武部が五十鈴と秋山との三人で校舎の外で待ってるってさ、一応今終わって帰るところとは伝えたけどな」

 

「待っててくれたんだ…」

 

どうやら武部さんからメールが入ったようで、3人とも私達の帰りを待っていてくれていたようだった

そしたらちょっと急がないとね…

 

下駄箱まで歩くこと数分、靴に履き替えた私達の視界にも外からこちらを見てる武部さん達の姿を捉えることが出来た

 

「おぅ悪ィな、待たせたみたいで」

 

「遅ーいっ!」

 

外に出て開口一番、杉野さんが片手を上げて武部さんたちに近づいていくと

それに対して武部さんが遅いと冗談交じりの文句を言う

すまんすまんと宥めるように謝罪を入れた杉野さんを先頭に一路駐車場まで歩いていく

 

「で、結局どんな話ししてたの?」

 

「日曜の試合の作戦会議とかまぁ色々?」

 

「うん、大まかにはそんな感じかな」

 

道中武部さんから自販機で買ったと思われる缶ジュースを飲みながら一体何を話してきたのかと聞かれ、杉野さんがこちらを見ながらひどく大雑把に答えた

 

「なんか勝てば干し芋が貰えて負けたら罰ゲームらしいぞ?」

 

「罰ゲーム…ですか?」

 

「生徒会のやることですからね、嫌な予感がします」

 

続けて杉野さんが勝った時と負けた時の事を話すと五十鈴さんと秋山さんがそれに反応した

二人共首をひねりながら訝しみ目を細める辺り生徒会のやることだからと警戒心が強いようだ

 

「おう、負けたら大納涼祭りであんこう踊りだって───」

 

「ブッッ!!?」

 

杉野さんがそういった瞬間、缶ジュースを飲んでいた武部さんが思いっきり吹き出した

 

「あ、あああ、あんこう踊り!?」

 

「いや落ち着けよ」

 

「こんなの落ち着いてられないよ!あんなの踊った日にはお嫁にいけなくなる!!」

 

大声で絶望を顕にするように叫ぶ武部さんに同意するように五十鈴さんと秋山さんが神妙な面持ちで頷いた

 

「ネットにアップされて全国的な晒し者になってしまいます…」

 

「──一生言われますよね…」

 

ベクトルは違えど秋山さんも五十鈴さんも武部さんと似たような反応だ

…そんなあんまりな踊りなんだ…

 

「てか何でナオは落ち着いてられんの!?」

 

「…俺去年大納涼祭参加してないから知らねぇもん」

 

終始落ち着き払った様子の杉野さんに武部さんが噛みつくも即座に知らないと返されて項垂れてしまった

 

「まぁ、知らないほうが幸せなこととかありますから」

 

「え?ガチヤベー感じ?」

 

秋山さんフォローになってないフォローをしたことでようやく負けた場合本当に不味いことになると気づいた杉野さんが聞き返すとようやくかと3人とも苦笑いしていた

 

「てか勝てばいいんでしょ!?」

 

「それはそう」

 

勝てば問題は無い、そう絶叫に近い声色で言い放った武部さんに杉野さんはそれは当然そうと補足する、秋山さんも五十鈴さんもよりいっそう気を持ち直して日曜の試合に望むべく決意を新たにしていた

 

「まぁ、私が一番心配してるのはマコがちゃんと来れるかなんだけどね」

 

「最悪俺が起こしに行くか?」

 

丁度駐車場に着き、その方が早いべ?と指差す先には杉野さんの愛車が佇んでいる───

あぁ、確かにと頷いた武部さんは口にしてから一瞬固まってあれで送り迎えされることに慣れるのってどうなんだろうと呟いた

 

「とにかく、日曜は冷泉が起きなかったら俺か西住にTELしてくれよ

流石に両方出れねぇなんて事はねぇだろうしな」

 

「あ、うんわかった」

 

そんなやり取りを挟みながら車の鍵を開けてから杉野さんはトランクの中にバッグを放り込んだ

 

「ちょいといつもより多いから荷物はトランクだな」

 

杉野さんの言葉に続き私と武部さんと五十鈴さんがトランクの中にバッグを入れる

振り返り秋山さんの方を見るとバッグを手に持ったまま固まっていた

 

「どうした?」

 

「あぁ、いえ…、そのぉ…」

 

おずおずと申し訳なさそうに呟く秋山さんに杉野さんはあぁ、と言ってから微笑んで口を開いた

 

「ほら、それ(バッグ)こっちによこせ?

ここまで来てお前1人だけ仲間外れなわけねぇーべ?」

 

「は、はい!」

 

瞬間、秋山さんはぱぁあと笑顔になり杉野さんへバッグを手渡す

受け取った杉野さんはそのままトランクへ仕舞うとバタンと蓋を締めてから運転席のドアを開ける

 

「みんな直帰でいいんだろ?」

 

シートを倒して後部座席へ乗り込むようスペースを確保してからそう言って私達に車へ乗るよう指示をする

助手席側後ろに五十鈴さん、真ん中に武部さん、運転席後ろに秋山さんが乗り込み私はいつも通り助手席だった

 

「うん、それでいいよ」

 

「私も問題ないです」

 

このあとの予定などはないよなと確認する杉野さんに武部さんと、五十鈴さんは大丈夫だと答えた

やけに静かな秋山さんは車内の内装やシートを避けるように張り巡らされた鉄のパイプを興味深そうに眺めていた

 

「んじゃまぁ、行くか」

 

「いつも通り安全運転でお願いしますね」

 

私の言葉に任せろ、とだけ返した杉野さんはエンジンを始動

途端に喋りだす色々な装置にすっかり慣れていた私を含めた3人は特に無反応だったけどこういった機械類が好きなのだろう秋山さんは1人だけ感嘆の声を漏らしていた

 

ゆっくりと駐車場をグルリと回って校門へ向けてハンドルを切る、いつものように校門前にいた風紀委員の園さんと目があったためペコリと頭を下げると園さんも返してくれた

 

 

 

「んじゃまた明日な」

 

「うん、ありがとう杉野さん」

 

みんなを送って最後に私が借りてる学生寮のマンションへ送ってくれた杉野さんは降りた私にひらひらと軽く手を振ってから車を走らせて帰っていく

 

次第に遠ざかって静かになる車の音を聞きながら階段を上がり自分の部屋へ

 

「えっと…鍵、鍵…」

 

バッグを漁って鍵を取り出し、部屋のドアの前で一度立ち止まり左右の確認をしてから鍵を開けて玄関へ

 

「そうだ…」

 

鍵をかけてから靴を脱ぎ、玄関の端にバッグを置くと私は一直線に自分の部屋のノートパソコンの前へ座った

 

(昨日は調べそこなってたから今のうちに…) 

 

パソコンを開いてネットへ繋ぎ、検索欄をクリックしてキーボードをタップする

『杉野直緒 戦車道』と打ち込んだ私はそのままエンターをダブルクリックした

 

「あ、結構ある…」

 

マウスをスクロールしてヒットした物が何件あるかある程度確認しつつそのうちの一つにカーソルを合わせてダブルクリックする

 

開いたページはいくつかの杉野さんの写真と大まかな概要が書かれたまとめサイトのようなものだった

 

(え…この頃の杉野さんってこんな…)

 

今よりも髪が短く、更に小柄で、全体集合の写真等では周りとの身長差が顕著だった

しかし何よりも驚いたのは杉野さんの写真写りの悪さだ

どれもこれもすこぶる人相が悪い、ただでさえ目つきが悪く普段から割と不機嫌には見えていたがこの頃の写真は全てカメラのレンズを睨みつけてるような写りのものが大多数を占めている

 

(あ、でもこれとかはいつもの杉野さんっぽいかな)

 

私が見たことないPJを着ているためおそらくはスクール生時代の写真だろうか

それはレトロチックなくすんだ緑色を基調としたPJに身を包んだ杉野さんともう一人、顔全体に残る大きな火傷痕が痛々しい少女とのツーショット写真だった

日常の一幕を切り取ったのであろう、お互いに向き合ってにこやかに話し込んでいるものと

 

【挿絵表示】

 

片方の少女が目線を下に落として笑いをこらえるようにしており、カメラに気づいた杉野さんが珍しく笑って正面から写ってる写真だ

 

【挿絵表示】

 

 

「同じ隊の人だったのかな…」

 

カーソルを動かして下へスクロールすると今度はひっくり返り車体が全体的に大きくひしゃげて大破した深緑色に塗装が施され、車体後部に無数の桜を象った撃破マークを入れたヤークトティーガーの眼の前で仁王立ちしている杉野さんが不敵に微笑んでる写真があった

 

(そう言えばスクール生の時だけでヤークト含めて6輌くらい廃車にしてるんだっけ…)

 

その1個下の写真はこの写真の裏面を写したもののようで、当時の杉野さんの直筆でこんな事が書いてあった

『Stuntは終わった あー へばった 目が眩む』と 

 

「いや普通こんな状況でその程度で済むはずないんだけどな…」

 

思わず苦笑いが口から漏れた

破天荒でどこまでも自由な彼女をたった一言で表すに十分な文章だと感じたから

 

(これは…)

 

更に1枚、スクロールするとヤークトティーガーのキューポラの上で足を組んで座り困ったように眉をハの字にして笑う杉野さんの写真をクリックする

スクール生時代に撮られた写真はそれが最後だった

あとは疎らに戦車同好会の草試合に参加している時のものや剣部隊(343)での写真がちらほらと点在している

 

(うーんやっぱりどれも写りが…)

 

基本カメラを睨みつけて写ってる杉野さんはスクール生時代の写真以降も写真写りは悪いままだった

しかし…

 

(あれ、この人…)

 

剣部隊の写真にも先程見かけた火傷痕のある少女が写っており、やはり彼女とツーショット、もしくは彼女を含めた少数のみでの撮影の時は杉野さんは穏やかな笑みを浮かべていた

 

「特別仲の良かった人…になるのかなぁ?」

 

少しだけ胸の奥がチクリとした、変な話だよね

普段私達に向けてくれる優しげな笑顔を、単に昔の仲の良かった人にも向けているってだけなのに

 

「…ここからが本ページか」

 

ブラウザバッグしてマウスをスクロール、そこには概要と書かれたページがありそこをクリックすると概要本文が画面に出てくる

 

《杉野直緒は日本の戦車道選手、記録されているものは非公式戦が多くを占めるが日本最多の戦車撃破王の一人として数えられる

 

渾名は「天下の流浪人ヤークト虎徹」、「杉野デストロイヤー」、「イエローファイター」、「狂犬」、「猛将」、「魔王スギノ」、「チハ大佐」

 

宮城県出身で幼少の頃から後の問題児ぶりを遺憾なく発揮しており腕っぷしが強く喧嘩っ早く気に入らなければ上級生であろうが男子だろうが平気で殴りに行った

 

しかし一方で暴力を振るう相手はいじめっ子が大半であり弱いものに手を上げることは一度も無かった

 

兄妹仲や姉妹仲はとても良く、気性が荒い一方で兄妹・姉妹間で喧嘩した事は一度も無かったという》

 

「昔から変わらないんだなぁ…」

 

脳裏によぎるのは大洗に転校してきてからの今日までの杉野さんとの思い出だ

私のように気弱な子には優しい一方で無理難題を押し通そうとした生徒会には厳しく対応してる

きっと彼女の正義感の強さは昔から変わっていないのだろうと思いながらマウスをスクロールして続きを読む

 

《元はエアレーサーを目指すパイロット志望であったが身長制限に引っかかり断念

江田島戦車スクール北関東支部宮城分所70期戦車練習生として入門

 

江田島戦車スクールの同期には後にタンカスロン専門の特殊チーム松山第343戦車隊(以後、剣部隊と表記)にて二代目戦闘407戦車隊『天誅組』の隊長を務めた林美啓とかつて存在した日本帝國学園(以後、日帝学園と表記)*1戦車道チームにて最初の体当たり隊*2を率いた関行江

更に3つ上の代には剣部隊で戦闘701戦車隊『維新隊』隊長を務めた赤淵桜がいた》

 

「へぇ…杉野さんって元はパイロット志望だったんだ…意外だな〜

───ん?体当たり…隊?」

 

今でこそ杉野さんと言えば戦車の印象が強いが、元は戦車ではなく航空機の方が興味関心が強かったというのは初めて知った

…だから杉野さんの秘密基地には飛ばせる状態で戦闘機が一機置いてあったのだろうか

そんなこんなで目を通していた説明欄に書かれた中の一行、杉野さんとは全く無関係な筈の不気味なその一文を見てとても嫌な予感がした

 

(いや、こっちはまた今度調べてみよう)

 

今は優先することが違うと画面の文字を見つめ直す、今は杉野さんについて知る時間であり

そういう補足事項のことはまた時間を見つけてじっくり調べることにした

 

《スクールでは士官候補生コースを選択

小学卒業と同時に日帝学園中等部に推薦がされ、高等部卒業と同時に戦車隊率いる三等陸尉が目指せる自衛隊希望者に向けたエリートコースだった、しかしその状況下で奴ははっちゃけた

 

とにかく機敏ですばしっこく身体能力は元から高かった杉野は厳しい訓練の中才能を開花させ、それは同時に破壊神誕生を意味した

 

訓練初日に操縦マニュアルを読んで勝手に旋回方法を覚えて数日で上級生と並んで編隊走行をこなし砲術訓練も成績優秀、通信手としても早々に無線の取り扱いやモールス信号の打ち方をマスター、しかし彼女が真に実力を発揮するのは車長として戦車に乗った時だった》

 

「…そういうことだったんだ」

 

思えば不思議なことではあった、通常の戦車乗りは最初に適性検査をして自身に最も合った役職を伸ばしていく

即ち大抵が一芸に秀でた存在であり、自分の得意分野以外はからっきしと言うのが殆どだ

確かに私が元いた学校では不測の事態に備えて全員が全ての役割を担える訓練を積んでたりもしたがそんなのは稀も稀

他ではそんな事は一切聞いたことが無かった

その点を踏まえても彼女が1年生チームの総合指南役になったのは多少は知識として頭に入ってるからだと勝手にそう思っていた

彼女は、杉野直緒はオールラウンダーだった

その中でも飛び抜けて車長としての才能があっただけ、だからこそ他の分野もちゃんと深く教えることが出来る

 

《初の練習試合では特別講師として日帝学園卒業生で当時三等陸尉だった蝶野亜美を相手取った一対一の模擬戦を行っており、杉野が車長を務めた戦車のみ唯一蝶野教官車を撃破している

 

しかしこれは周りの車長が教本通りの戦い方を一貫する中、杉野1人だけ衝突上等で超至近距離からの格闘戦に持ち込んだ為

 

慌てた蝶野車が緊急回避した隙を狙って攻撃を行った為である、それを証拠に蝶野教官を相手に勝利を収めたのはこの時のみ》

 

「えぇ…あれ本当だったんだ」 

 

ついこないだの校内模擬戦で教官として訪れた蝶野教官は昔杉野さんに撃破されたことがあると確かに言っていた

あの時はちょっと信じられないなって思ったけど、こうやって改めて記録されていると一気に現実味を帯びてくる

 

《公式での初の実戦では敵戦車14輌を杉野車単独にて撃破し、スクール内で表彰され早くも戦車撃破王としての片鱗を見せる

が、そこで終わらないのが彼女である

 

当時の江田島戦車スクールには日本帝國学園直下であった為に日本軍で使われた戦車と同盟国ドイツの戦車を保有していたが初期の頃に搭乗していた三式中戦車は続く2回戦の試合終了直後に無茶な操縦指示が祟り、左側面をほぼ最高速度で突き刺さるようにぶつけて車体が大きくくの字に折れ曲がり大破

 

幸いにも乗組員は杉野を含めて全員無傷だったが三式中戦車は修理もままならず廃車となった》

 

「──初陣で14輌撃破…?」

 

もうすでに情報の多さで頭が痛くなってきた

戦車はお互い動くし砲弾も動きながら微調整するため実際の戦闘時には狙ってもめったに当たるものではない

そのため一人前の車長を示す撃破王という単語は主に5輌以上の戦車を撃破した経験のある車長がそう呼ばれるようになる

それで言えば杉野さんは初陣で撃破王になっていると言うのだからもはや情報が渋滞を起こしてきていた

 

《スクール時代初期は三式中戦車とⅣ号戦車を乗っていたがあまりにもすぐ壊すためほぼ使われていなかった重く頑丈なヤークトティーガーが彼女の愛車となったが後にこれも廃車にしている

 

ヤークトティーガーに乗り始めたこの頃の杉野はヤークトティーガー()をもじり、また自身を名刀『長曽祢虎徹』になぞらえてPJに【天下の流浪人ヤークト虎徹】と刺繍を入れた

 

その為そのまま通り名として宮城にはとんでもなく腕の立つヤークト乗りがいると噂がされていた

またこの頃あまりにも戦車を壊しまくった(スクール時代で6〜7輌、高価で貴重なヤークトティーガーも3輌廃車にした)為同じスクールの同期には後まで語り継がれる【デストロイヤー】の異名で呼ばれていた

 

当時を知るスクール生の証言によると「私がいた遠く離れてる筈の大分宇佐の戦車スクールまで噂は届いていた為、多分全国規模で悪名が轟いていた」とのこと》

 

「あ…そうか、この頃からなんだ」

 

何ならスクールどころか全く関係ない流派の私のところまでその2つの異名は届いていた為

全国的に有名というのもあながち嘘ではないと思った、多分容姿や本名を知らなくても当時の戦車道履修者でデストロイヤーとヤークト虎徹を知らないのは多分いない

 

《ヤークトティーガーとしては珍しい深緑色の単色迷彩が施された杉野車は試合を重ねる事に車両後部に撃破マークとして桜を象ったステッカーが増えていき、スクール時代も後半になる頃には緑の車体の後ろ半分はピンク色に染まっていた

 

当然編隊戦闘をこなす際このカラーリングはとてつもなく目立った、当時杉野は身長120cm台前半と歴戦の勇士とはかけ離れた非常に小柄な体型をしていたが、エースを討ち取ろうと血気盛んな他スクールの腕利き達などが杉野車へ押し寄せたがその尽くを返り討ちにしている

 

当時の様子を知る人物は杉野をこう評した

「その小柄な容姿から、見たところ戦車とは無縁な田舎娘といういで立ちでしたが、一度チョーク(車止め)を外して出撃すると向かうところ敵無しで、大抵の敵を撃破して帰ってきました」

 

しかし一方で搭乗戦車を破壊しまくる癖だけはどうにも治らず(弾切れを起こした際はヤークトの超長砲身で敵の軽・中戦車を引っ掛けて横転させて無理やり撃破する等戦車は打撃武器な扱いを度々披露している)それが影響して中等部に進学間近にスクールを強制的に脱退させられている

 

その為杉野は日帝学園ではなく地元の公立校に通いながらの戦車道継続を余儀なくされている》

 

「あはは…」

 

戦績はいいのに問題児すぎてクビになるところが、なんか凄く杉野さんらしいなと思えて自然と口元が緩んでしまった

 

「あ、いけない今日はそろそろ切り上げよう」

 

ふとパソコンの時刻を見てみればかなり夜も遅くなって来ていた

集中しすぎると時間を忘れてしまうのは悪い癖だなと我ながら呆れながらページを一時的に落とす

続きはまた今度だ

 

 

*1
日帝学園について

原作には登場しない架空の学園

正式名称は「日本帝國学園」、日本で初めて戦車道の授業を取り入れた学園で大日本帝國陸軍の戦車と同盟国ナチス・ドイツの戦車を保有している

戦車道の科目には士官コースと呼ばれるものがあり知識と頭脳も求められ高等学校の卒業と同時に陸上自衛隊に推薦がなされて3等陸尉が目指せる「上士官コース」と頭脳が求められない分現場叩き上げで戦闘方法を身体に染み込ませる「下士官コース」の二つが用意されていた

公式で明言されていないため本作において蝶野教官はまだ栄華を放っていた頃の日帝学園卒という設定

日本で初めて戦車道を取り入れた学園なだけあり嘗ては輝かしい航跡を歩んだが徐々に戦車道取り入れ始める学園が多くなり次第に戦績が落ちぶれていく

その状況を打破するべく本編開始5年ほど前に特殊部隊「体当たり隊」を編成するようになるが当然ながら多くの死傷者を生み2年ほど前に無期限活動休止となった

*2
体当たり隊

自車の前部装甲に128mmを括り付け敵戦車へ体当りする

もはやヤケクソと言える日帝学園の一部の狂気が生み出した人権無視の戦法

体当りすることにより敵戦車を一発で撃破出来るが砲弾をつけている自車は敵戦車よりも多くの被害を被ることにより幸いにも相手チームからは出たことはないが日帝学園戦車道チームからは多くの死傷者が出ることになり

世間から多くの批難の声が上がり、これがきっかけで日帝学園戦車道のチームは無期限での活動休止を余儀なくされた

早い話が特攻隊である




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おまけ

雑談中のスクール所属時代の杉野直緒(左)と副隊長の菅田翔希(右)

【挿絵表示】


カメラに気付いて二人の視線がこちらに向く瞬間

【挿絵表示】


【挿絵表示】


「いつから撮ってたんだよ」と呆れたような声が聞こえてきそうな直緒と笑い堪えるように視線を下げる菅田翔希副隊長

【挿絵表示】


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