ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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あんま長くなりすぎないようにしてるので結構終わりが中途半端かもしれません


練習試合の朝

日曜日の快晴の空の下、大洗の学園艦の路上を青みがかった深緑色が特徴的な1台の乗用車が学園へ向けて走っていた

 

「試合の日に晴れてよかったね」

 

助手席に座る少女、西住みほから発せられた言葉に「おー」と気のない返事を返したのはこの車両を運転する杉野直緒

その視線はまっすぐに道路(正確には背が影響して視界が低くハンドルとメーター)を見ている

 

「眠かったりする?」

 

「んにゃ?単にこんな晴れた日曜は試合じゃなくてゆったり過ごしたかったな〜って」

 

眠気があるのかと心配する西住を他所に杉野がそう答えると暫し沈黙が流れた

だがそれも一瞬のこと、すぐに杉野が口を開く

 

「──このままサボってどっか行っちゃーか!?」

 

「さ、流石にそれは怒られるんじゃないかな?」

 

冗談めかした言葉もこちらが乗り気なら本気でドタキャンして全く別方向に車を走らせ始めるかもしれないため軽く咎める程度で済ます

再度シートに深く座り直した西住がふと後ろの席に目を向けるとそこには普段は積んでいない紙袋が後部座席に置かれていることに気づく

 

「あれ?何ですか…この紙袋───」

 

「あぁ…ほぼ使わないだろうけど、一応な」

 

気になった西住はそーっと腕を伸ばして紙袋を取り、それを自身の膝の上に乗せた

 

「あ、もしかしてPJですか?」

 

「そう、前使ってたやつな?

っても大洗にPJが無い今、俺1人だけ着てても浮くから持ってきたは良いけど使わないんだけどね」

 

中身を見てみるとそこに入ってたのはモスグリーンを基調にしたセパレートのPJ

パイロットキャップ、ゴーグル、そして紫色のマフラーだった

 

343(剣部隊)に居たときのやつだよね…

私が初めて杉野さんを見た時もこの格好だったかも、こうしてみると色んな物が通常のPJと違うな〜」

 

「パイロットキャップとゴーグルなんて支給されてたのウチくらいじゃねぇかな」

 

「うん、少なくとも私は見たこと無いかも」

 

「でもパイロットキャップは防寒具としては性能いいし視界の妨げにもならないし、ゴーグルはゴーグルで車長の目を保護するのに役立つからスゲェ理にはかなった装備なんだけどな」

 

へぇと相づちを一つうち、衣類を分けていた西住の手は紫色のマフラーを手に取ったところで止まった

 

「あれ…このマフラー、もしかして絹ですか?」

 

「うん、それは松山に居た時に仲の良かった食堂の女将さんが俺の隊全員に作ってくれたんだよ

生地屋で買ってくるよりよっぽど上等だからって嫁入り道具の着物から作ってくれたんだ」

 

マフラーについての詳細を聞きながらも、西住はふと気になってか畳んであったそのマフラーを広げる

マフラーの端に『勝利 杉野直緒』ともう片側には四文銭と九文銭が括り付けられていた

 

「勝利?…あとこれ相当昔の硬貨ですよね」

 

「それはマフラーを作って貰った時に各隊員の好きな言葉を入れてもらったの」

 

「え、それじゃあ杉野さんは『天下の流浪人ヤークト虎徹』じゃないんですか?」

 

「それ俺がスクール通ってた時にPJに入れてた刺繍だろ、それ作って貰った時にはもうヤークトティーガーなんて乗ってなかったしな」

 

だから単純に好きな言葉の刺繍と笑った杉野に釣られて西住も笑う、そしてもう一点の気になっていた部分を聞いてみることにした

 

「古銭が括り付けてあることには意味があるんですか?」

 

「それは気を利かせた女将さんが、語呂合わせも含めて安全を祈って着けてくれたものなんだよ」

 

ほら、戦車道って事故多いし…と呟いた杉野に西住は内心で納得する

いくら安全面が考慮されてるとはいえ何十トンもの鉄の塊である戦車を実弾を使って動かす以上怪我や事故は常につきまとう

片手で収まる範囲とはいえ、それでも年に数人の死傷者が出てしまうのが現実だ

 

「『どうか死線(4銭)を越えてください、どうか苦戦(9銭)を乗り越えて下さい』

そういう意味を込めてくれたらしい」

 

「──素敵な女将さんですね」

 

括り付けられた古銭の意味、正しく激戦の最中にいた杉野達にこれほど当てはまりゲン担ぎにもなるものも中々ないだろう

そう思った西住は自然とそんなふうな言葉が口から漏れていた

 

「…あれ、誰だろ」

 

ふと西住は自身のケータイに現在進行系で着信が入っていることに気づき、すいませんと杉野に一言声をかけてからケータイを開く

そこに書かれた差出人の名前は「武部 沙織さん」と表示がされていた為、一瞬何か問題が発生したかと表情を強張らせながら通話ボタンを押した

 

「──はい、もしもし?」

 

『あ、もしもしみほ?──ごめん、近くにナオいる…よね?』

 

おそらく電話越しに杉野の駆ける車の音は武部に届いており、近くにいるのなら変わってほしいと言われた西住は通話をスピーカーモードに切り替えて対応することにした

 

「今杉野さん運転中だから、とりあえずスピーカーモードにしたけど…」

 

『OK、ありがとうみほ───…ナオは聞こえてる?』

 

「おうバッチリだぜ?どーした?」

 

お互いに聞こえていることを確認してから、電話越しに武部は深々とため息を履いた

 

『今マコん家なんだけど、やっぱ起きなくてさ』

 

「──わかった、今校舎は見えたから…西住を降ろし次第すぐ向かうよ」

 

やはり危惧していた通り、冷泉はいまだに寝ているとのことだった

しかし時間は時間、予定では学校に集合してから各自戦車を動かして下船に向けて車両甲板まで移動させなければいけない

まぁこれ自体は他にも動かせるものが対応すればいいため、西住がいれば問題なくⅣ号を動かすこと自体は叶うはずだ

そのため杉野は眼の前に校舎も見えてきたため西住を降ろしてから武部に指示された場所まで単独で戻るルートを選ぶ予定であった

 

「と、言うわけだ

ちょっくら行ってくる」

 

「わかりました、お願いします」

 

校舎の前で車を路肩に停車させ、西住を下ろす

その際校舎側出入り口付近に丁度秋山が片手に喇叭を持って突っ立っているのが見えたため杉野は声を張り上げて秋山を呼びつけた

 

「秋山ァ!丁度いい、その喇叭(ラッパ)持ってちっと()ォ!!」

 

「ふぇ!?、ふぁいッ!」

 

離れていた為に声を張ったのが思ったより響いたようで不意を突かれた秋山は声が裏返りながら全力ダッシュで駆け寄ってくる

 

「な、なんでありましょうか?」

 

「悪いんだけど、これから冷泉起こしに行くから手伝ってくれ」

 

怯えたように視線を逸らしながら言う秋山に杉野は今度からもっと段階を踏んでから声を掛けようなど反省しつつ手伝いとして連れて行く事を告げて喇叭を指差した

 

「奥の手は考えてあるけど、近所迷惑だから先にそっち使おう」

 

「あー…なるほど」

 

来てもらった理由を説明すれば納得してくれたようで

秋山がようやく助手席に乗り、杉野はベルトをしめたのを確認してからゆっくり車を走らせた

 

 

 

「もう!マコ起きてよ試合なんだから!!」

 

「ねむい…」

 

「単位はいいの!?」

 

「よくない…」

 

学園から少し離れた冷泉の暮らしいている一軒家の女子寮では寝ていたい冷泉と何としても起こしたい武部の激しい攻防が繰り広げられていた

 

__〜〜♪〜♪〜〜〜♪

 

「あ…」

 

その最中、窓の外から軽快なラッパの音が鳴り響き、武部は思わず先程まで冷泉から剥ぎ取ろうとしていた掛け布団を手元から落とした

 

「おはようございます!」

 

「あれ?ナオは?」

 

「はい、今来ますよ」

 

窓を開けるとそこに立っていたのはラッパを片手に持った秋山であった為に、杉野が来る予定しか聞いていなかった武部は当然のごとく疑問を口にした

それに対して秋山答えた直後

 

__ゴォアアアア…バラバラバラッバシューンッ!!

 

まるで地響きのような轟音と共に、普段とは比べ物にならない爆音を立てながら車に乗って現れた杉野はゆっくりと冷泉宅の前で停車した

 

「──遅れてわりぃな、すぐそこでサイレンサー全部抜いてきた」

 

窓越しに武部へ一言謝罪を入れた杉野はコンソール側に生えた「CAUTION」とステッカーの貼られたトグルスイッチを「ON」と書かれた上側へ倒した

そして車体フロント部分より油圧の作動音とバキンッと言う音が響いたのを確認した杉野は「REVLIMITER」と書かれた黒い箱型の機械の赤い回転スイッチを回して9の位置に合わせた

 

「武部!秋山!耳塞いでろ!!」

 

「「!?」」

 

杉野から放たれた怒号に近い声色の指示に二人は条件反射で耳を塞ぐ、その瞬間…

 

_ウギャァアアッギャァアアッギャァァアアアッパパパパパパンッ!!!

 

停止状態の車の後輪が勢いよく回り始め辺りにはけたたましい爆音とタイヤが空転した事による夥しい白煙

そして高回転域で無理やり制御を掛けている為にマフラーからアサルトライフルを乱射させたような炸裂音が響き渡った

 

『うわぁ!?何だ!!』

 

あまりの爆音と連続で響いた炸裂音にあたりの家から人が出てくる、その姿を見て杉野は車外へ降りてぺこりとお辞儀をした

 

「どーもすいません、寝坊助の友達を起こしに来ました」

 

「あー!ナオちゃん、久しぶり!」

 

「それなら良かったよ!」

 

「また今度家の車見てくれる!?」

 

飛び出してきた周囲の住民を見て、狭い学園艦である為に見知った顔であったことから特に怒られるどころか簡単な説明だけで納得して何人かは安心したように帰っていった

 

「…うるさいだろ、流石に近所迷惑を考えろ」

 

唯一寝癖だらけの頭を整えもせずに出てきた冷泉にだけはジト目でお小言を言われることとなった

 

「まぁお怒りは後で聞こうじゃないの───

もう他のチームは下船の為に戦車を移動し始めてるぞ」

 

「──大変!早く準備しないと、ほらマコもやっと目が冷めたなら早く着替えて」

 

やることやった為苦言の一言二言くらい甘んじて受け入れるとは思えど、もうすでに当初集合時刻を大幅にオーバーしているため優先すべき所は違うのだと言っては杉野に同意するように武部が冷泉の着替えを手伝う

 

「──んじゃ、俺等は車で待ってるから

準備終わったら車まで来てくれな、行くぞ秋山」

 

「はい!」

 

それだけ言い残して踵を返した杉野は冷泉宅の庭で現在進行系で待機してる秋山に声をかけてから車へ戻る

待つこと約十分程、寝癖を整え制服に着替えた冷泉が武部に肩を押されながら家から出てきた

 

「おまたせ!ある程度は終わらせてきたんだけど朝食食べる時間なかった!」

 

「別にこぼさなきゃ車ン中で食っていいぞ?」

 

シートを倒して助手席後ろに冷泉、運転席後ろに武部、助手席に秋山と普段とは違い中々に珍しいメンツで出発した

 

 

 

西住より既に他の戦車道メンバーは下船が完了したとメールにて報告を受けたのは学園艦の車両甲板についたのとほぼ同時だった

 

「一足先にあいつ等は街に降りてるってさ」

 

「合流は会場になりそうですね〜」

 

甲板から大洗市街へ抜ける通路は久々の寄港に街へ行く人々の運転する車でごった返しになっている

 

「会場近くに駐車場あったっけ?」

 

「空いてるかはわかりませんが会場近くのマリンタワーか、10分程度歩きますが大洗サンビーチの駐車場も無料で開放してますのでどうでしょう?」

 

後ろに乗ってる武部は周囲を見渡し、冷泉は少しでも休めるならと目を半開きにして後ろの内装に肘をかけて項垂れている

そのため俺の会話相手はもっぱら秋山になった

 

「…いや会場近くだと交通封鎖が掛かってるかも知れねぇ、サンビーチの駐車場を目指そう」

 

「了解であります!」

 

「…おい、うるさくてロクに休めないぞ

もっと静かにならんのか」

 

「サイレンサー抜きっぱとはいえバルブは締めてんだ、文句言うな」

 

後ろの席から苦情が入ったりしたがそんなこんなで船を降りて港から海を目指して車を走らせる

と、その時あたり一面を大きな影が覆った

 

「あ?…あれは───」

 

「聖グロリアーナの学園艦です」

 

「デカっ!!」

 

辺りを覆った影の正体はアークロイヤル級を模した対戦相手である聖グロの学園艦だった

いやぁ…話には聞いていたが他校の学園艦はデケェな…、その大きさに思わず声を上げた武部に内心は同意する

うちの瑞鶴を模した学園艦と比べてしまうと聖グロが実際の空母として例えるのならうちのはまるで駆逐艦だ

一回り二回りで効く差ではない、まさしく大人と子どもほどの違いだった

 

「マチルダⅡが4輌…チャーチルが1輌か、こうしてみると戦力差やばくね?」

 

「あ、あはは…」

 

揺れ動く聖グロの船内で移動をしている戦車が見えた為、あれが本日の対戦相手かとその車両を特定する

が、ここでも戦力差は絶望的以外の感想しか出てこない俺に横にいる秋山も流石に苦笑いしていた

マチルダⅡであれば長砲身の三突、M3の主砲・副砲の同時砲火、もしくはⅣ号で多少距離が空いててもまぁまだ抜ける装甲だろう

しかしチャーチルとなるといいとこ三突が抜けるかどうかの装甲だ、M3と短砲身のⅣ号じゃゼロ距離で側面を狙っても厳しいだろう

──え?38tと八九式?あんな豆鉄砲で抜ける装甲は今日の試合には存在しねぇよ

 

(チャーチルの硬さはあの中でも頭一つ抜けてるからな…やはり厳しいか…?)

 

大洗サンビーチへ向かう道中の車内で俺はひたすらに考える

非力な戦車で重戦車と呼べる戦車の装甲を抜くにはどうするか

考えて考えて───

 

「あ」

 

「どうしたんですか?杉野殿」

 

「いや、なんでもねぇ」

 

ある一つの事を思い出した、だが当然それでも状況は厳しいことには変わらないし

こなそうにも難易度は高い、下手に周知して上げて落とすよりかは倒せる可能性の一つとして試合前に西住に多少話しておく程度に留めよう

 

「ま、気負いすぎると普段通りの力も出せなくなるだろうから

ここはドーンと行こうぜ?」

 

サンビーチの駐車場へ入りつつ、そんな事を口走る

というのも俺は勝ちたいという皆には悪いが今回に関して言えば勝とうが負けようがどっちでもいいと思ってる

いや、正確には勝てるならそれに越したことはないが

状況が状況な為一旦勝敗よりも素人だらけの大洗戦車道メンバーを実戦に少しでも早く慣れさせたいと言う気持ちが強い

実際に他校と勝負して戦車道に対するさらなる興味関心を引き出し、全体的なモチベーションを上げることに俺は今回焦点を当てることにする

 

ま、そっちもそっちで上手くいく保証はねぇけどな

 

 

「──待たせたな、眠り姫を連れてきてやったぞ」

 

「あ、杉野さんお疲れさまです」

 

辺りを案内の放送が響き渡る中会場入りして少し歩くと、大洗陣営が見えてきたため四人で少し急ぎ足気味に合流を果たした

現在は車両の最終点検の真っ只中であり、周りで慌ててるものもいないため特には問題は起こっていないようだった

ひとまずは話したいこともあった為に西住の元へ向かったが軽く話した感じ変に緊張しているとかもないようなので一安心だ

 

「西住、ちっと話せっか?」

 

「…うん、まだ試合開始まで少し時間があるから大丈夫だよ」

 

「来る途中にチャーチルの装甲をどう抜くか考えてたんだがな───」

 

俺はここに向かってくるまでに思い出したことを西住に伝えると西住もそこは特に考えていなかったのか少し呆気に取られた様子だったがすぐにいつもの調子に戻る

 

「…確かに、それならチャーチルの装甲は抜けると思うけど…」

 

「厳しい事はわかってるさ、なに、俺も絶対にそれをやれと言っているわけじゃ無ぇ───

ただ頭に可能性の一つとして留めておいてくれればいいさ」

 

とは言えやはり難易度の高さから西住もあまり乗り気ではない

まぁそりゃそうか…だが俺のやることは変わらない、できれば言い出しっぺのこちらからチャンスを作ってやりたいところだが

それも1年たちの技量とも相談だな

 

「──じゃ、俺はそろそろ行くわ」

 

「うん、それじゃあ杉野さん、また試合で」

 

「おう」

 

そして一旦西住に別れを告げて1年たちの元へ移動しながら懐からしまっておいたマフラーを取り出して首へ巻きつける

…白と緑を基調にした大洗の制服に紫色のマフラーと言うとはいささかチグハグな色味にはなるとは思うが、試合の時は毎回身につけると作成者と約束してしまった為致し方ない

 

「よーっす、朝早くの集合なのに誰も欠けてねぇとは偉いなお前ら」

 

「あ、杉野先輩!おはようございます!!

 

「「「「おはようございます!!!!」」」」

 

少し内々で話し込んでた1年たちへ声を掛けるとそれに気づいた澤が、一瞬遅れてその他のメンバーがあいさつを返してくれた

うん、若者は元気があって大変よろしい限りだ

…丸山からは会釈のみ、まぁあの娘はそういうキャラだから仕方なし

逆に元気よく返されたらギャップで俺が風邪引いちまう

 

「あれぇ〜?そのマフラー…イメチェンですかぁ〜?」

 

そしていつもしていないマフラーをつけてることを宇津木に目敏く見つけられた

 

「あーいや、これは…試合の時は毎回身につけるようにしてんだ」

 

「珍しい色のマフラーですね」

 

「なんで試合の時はつけるんですか?」

 

あとから気づいた澤やら坂口やらにあれよあれよと囲まれて質問攻めを受ける

そういう約束だというだけではあるが実は貰った時にいた部隊はやめてしまっている今、本来であればつけているのは筋違いなのかもしれない

なにせその部隊にいた時に、隊員全員の無事を祈って作られたのがこのマフラーなのであるからそこから約2年の空白期間を経て別の部隊でつけるというのは些か変な話であるというのは理解してる

しかし何故だかこの試合が決まって、真っ先にこのマフラーは着けようと思った

それは久々の試合に心の何処かで緊張して過去の栄光に縋りたかったのかもしれないし、彼奴等を忘れず一緒に戦いたいと思ったのかもしれない

今の俺には言語化できないソレを、1年に説明するのにさてどうしたものかと考えた結果

ちょっぴり格好をつけさせてもらうことにする

 

「俺がこのマフラーをつけてる理由はな、戦車道においてそれをすることが俺が杉野直緒だっていう証明になるからだよ」

 

「…ちょっと何言ってるかわからないです」

 

「なんでわかんねぇんだよ」

 

まぁ…あれだ、カッコつけすぎてしまったみたいだな

澤、山郷、大野あたりは何か考える素振りを見せていたが阪口にはきっぱりと意味がわからないと切り捨てられてしまった為に思わず普段はしないツッコミ役に回ってしまった

 

「あ、集合かかったので私ちょっと行ってきますね」

 

辺りに微妙な空気が流れる中、試合開始時刻に近づき各車の車長が呼ばれて澤がいなくなった

と、同時に遠くの方から先程下船する時に見かけた4輌のマチルダⅡとチャーチルが1輌近づいてくるのが見える

 

(試合前の挨拶か…?しっかしまぁ締まらねぇ光景だなぁ)

 

ふと自軍の隊列へ目を向けると、威厳に満ちた聖グロの編隊と比べるとどうにも気が抜ける

というのもⅣ号以外の各戦車に施された特殊ペイントのせいだ

M3に関して言えば俺も言えた話ではないし*1、砂漠仕様と考えればまだ頷けるのだが…

 

「ま、もうそろ始まんべ?

俺等は各自で配置についとくか」

 

「「「「はーい!」」」」

 

ぞろぞろとM3へ乗り込み各々の配置へ、それを見習ってか他の車両でまだ外に出ていた者たちも自車へ戻っていく

少しして西住達隊長格+河嶋の前にその5輌が眼の前で停車し、中から赤を基調としたPJを着た金髪の女が降りてくる

 

「あれが向こうの隊長か、ありゃ強ぇな───」

 

「わかるんですかぁ?」

 

キューポラから顔半分を覗かせて相手の一挙手一投足を観察し、その立ち振舞を見て自然と漏れ出た言葉に反応したのはすぐ横で待機していた宇津木だった

 

「長く戦ってると初見の相手でもある程度の実力はわかるようになるんだよ」

 

「そうなんですか…」

 

実に2年ぶりの復帰戦一発目、付け加えて大洗の車両を考えれば強敵とは言えるが

2年前はあのレベルをほぼ毎日のように相手をしていたのだ、楽しみであっても恐怖はない

…まぁ車両の完成度も搭乗員の練度も月とスッポン屁と原爆ぐらいの違いがあるがそれを言っても始まらないだろう

 

「それにしても…なんであいつ頭の後ろにポン・デ・リングぶら下げてるんだ?

 

ぷっ…す、杉野先輩…それは不味いですよ」

 

ふと相手の特徴的な髪型が目に入ってしまい、これは茶化さねば無作法というものと思い立った俺は宇津木に囁くようにいうと一瞬で噴き出した

 

「あ…?」

 

「なんかあの人こっち見てません?」

 

そんな馬鹿な会話をいているとふと目線を感じ、正面へ視線を戻すとガッツリ目の合った敵の大将にジッと睨まれた、え、もしかしてこの距離で聞こえてた…?

しかし一度宇津木とコソコソ話をするために一瞬車内に視線を落とし、もう一度顔を上げると視線は外れており、以降合うことはなかった

そこに審判が号令を務めて各車車長と敵チームはそれぞれの戦車に戻ってきた

 

さぁ楽しいゲームの始まりだな

 

 

その話は突然降って湧いたものだった、遡ること数日前

戦車道関連の連絡専用に配置された電話の呼び鈴が珍しく鳴ったために(わたくし)は受話器を取って電話に出た

電話の相手は大洗女子学園という聞いたことのないチームのもので、一瞬固まってしまった私を見て即座にアッサムが資料を手渡してくれる

 

(…二十年前に廃れたチーム、ね…

それが今になって何故?)

 

疑問は尽きなかったが務めて冷静に振る舞い、まずは復活の祝辞を、淑女たるもの礼節は欠かせませんので

そしてどうやら大洗のチームは私達と練習試合を望んでいるとのことでしたのでこれを快く受けることにした

 

騎士道の精神に則って勝負事から逃げるような真似は致しませんの、それがグロリアーナの矜持ですわ

 

しかし今年復活したばかりとはいえ現在保有数が5輌とは一体どういうことですの?これでは公式戦に出られる最低保有数ではありませんか

 

(とすればこちらも数を合わせる必要があるわね

更にこの少数での戦闘でしたらフラッグ戦より殲滅戦の方が宜しいかしら…)

 

フラッグ戦は一見向こうにも有利ではあるものの、フラッグ車1輌を倒せば良いと言うことだけならばこちらにも言えること

故に初心者チームを相手に下手にフラッグ戦を選んでしまえば即行でフラッグが撃破されるであろう初心者チームの心を折ってしまいかねない

それはグロリアーナ戦車道としては優雅とは言えない、故に向こうが少しでも勝機を見出だせる殲滅戦

なるべく相手の有利な条件下で勝利を収めることがグロリアーナの掲げる優雅さである

 

________

 

____

 

__

 

「個性的な戦車ですわね」

 

いや本当に、もしかしてこの子達は私を笑わせに来てるのかしら?

初心者で右も左もわからないとは言え限度がある、5輌中実に4輌がド派手なペイントに身を包み

そのうち2輌は片やせっかく車高が低く隠密性の高い三突をド派手なカラーリングと旗で台無しにし、もう片方はただでさえ火力が低く狙われやすい軽戦車を金ピカに塗装しこちらも迷彩の意味を全く成していない

 

わ、笑っちゃダメよ私、この場で笑ってしまうのは流石にグロリアーナの隊長として下品が過ぎる

 

(…あら?)

 

視線を感じ、相手チームの1輌

ピンク色に塗装が施された派手なM3リーを見るとキューポラからこちらを覗き込む顔が見える

 

(…ッ!?)

 

彼女と目があった瞬間、背筋に冷たいものが流れるのを感じた

というのも…

 

(な、なんなのあの目つき)

 

すこぶる目つきが悪い、本当に視線を交えただけで思わず恐怖してしまう程

しかし惜しむらくはそれが戦車道においての猛者を表して思わず恐怖に慄いたのか単純な目つきの悪さから来る恐怖心からなのか私には判断が出来なかった事か

 

(は…?)

 

目線が合ってから彼女はニィ〜を口元を歪ませて凶悪そうに嗤う、長らく人心掌握に勤しんだ私には先程の笑みは私を侮辱する意図があるものだとハッキリとわかった

 

上等じゃありませんの、私が誰だか知っての狼藉でして?

一度強く睨み返せば気まずそうに視線を下に逸らした

 

(?喧嘩売ってたんじゃありませんの?)

 

視線が途切れてこちらももう試合開始になる為M3から視線を外さざるを得ない

なんだか凄く釈然としない中、号令と共に試合が始まった

 

*1
元々乗っていた車輌がピンク色の桜を象った撃破ステッカーで車輌後部が埋め尽くされていたため、遠目から見たら後ろ半分がピンク色の戦車だった




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