ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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毎日投稿してるとやはり少しずつでも着実に伸びるものですね
とりあえず当面はお気に入り100件、UA10000を目標に頑張ります。


強豪校の洗礼

試合も始まり、開けた荒野を5輌の戦車が隊列を組んで走行していた

それは当然我らが大洗女子学園戦車道の隊列、ちなみに日曜を迎えるにあたり変更点が一つ

今後修理や改修をしていくなら「各戦車を番号で管理したほうがやりやすいだろう」と近藤さんが言った為に既にあるA〜Eまでのチーム名とは別に各車一〜五までの番号が振られ、砲塔脇にペイントが施されている

西住達AチームIV号は一号車、俺達DチームM3リーは四号車だ

 

「遂に始まりましたね…」

 

本日の俺の役目は通信手として初めて仕事をすることだ

そのため車長席の横、澤の右隣に待機している

その為不安そうに顔をうつむかせて膝の上に置いた手でスカートを握り込む彼女のその姿が目に入ってしまう

 

「不安か…?」

 

「…どう、なんでしょう…でも凄く怖いんです」

 

1年達の中で飛び抜けて真面目な性格をしている澤はその性格が災いして深く考え込みすぎてしまう質がある

他の面々は戦闘が始まっていない為か操縦担当の坂口以外は割と好き勝手に時間を謳歌しているためことさら澤の心配性は少し異質に見える

…が、本来であれば澤が正解だ

馴れていない戦車道、加えて初の試合ともなれば澤までと行かないまでも常にリスクを考えて行動するのが正しい

そこで言えば呑気な他の面子は些か図太いとは言えるが、肩の力を抜くと言う面ではこちらも全部が全部悪いわけでもない

 

「澤、深呼吸して肩の力を抜け───

心配性は美徳だが心配しすぎるのも実力を発揮する弊害になる」

 

「はい…」

 

次いで深く深呼吸をする澤を横目に、俺は通信席へ改めて腰深に座り込む

現在は作戦の第一段階の陽動で移動中なため、指示が来ないことにはこちらの仕事はない

ふと宇津木の方へ目を向けるとヘッドホンの上から手を添えて入ってくる通信を聞き逃さないように今か今かと待ち構えていた

さて、本来通信機にはヘッドホンは一つしかついていない

しかし後々宇津木が装填手と通信手を兼任するようになる為、どういう風にこなせばいいのかというのを教えるために俺が使う通信手用のヘッドホンにプラスしてもう一つ後付けした

もちろんやり方を教えるだけなので音声を一緒に受信する機能しかついておらず、宇津木から音声を発信することはできない

 

「それで、どうするんでしたっけ〜」

 

現在陽動に向かっている最中だと言うのは先程述べた通りだが、しかし試合が開始されてからヘッドホンは一度も音声を受信していない

つまり試合前に粗方な説明はされているが復唱はされていない、これではもしも仮に通信手の誰かが作戦概要が頭から抜け落ちてしまった時は悲惨な結果になる

なので俺はすかさず通信機の送信機の電源を入れて口元へ寄せた

 

「──こちら四号車Dチーム、通信手の杉野だ

試合が始まって少し時間が開いた、今のうちに作戦を復唱したほうが良いと思うが、隊長車応答願います」

 

『──はい、先ほど説明した通り

今回は殲滅戦ルールが適用されますので、どちらかが全部やられたら負けになります』

 

元よりそろそろ復唱のタイミングを伺ってたのだろう、言ってからすぐに西住からの無線が返ってくる

作戦は先ほど説明した通り、一度集団で敵編隊を視認できる位置に陣取り、そこから隊長車以外は高台に退避

隊長車のⅣ号が少し離れた場所から敵編隊に砲撃を加えて離脱、その際に速力で劣る向こうがギリギリ見失わない速度で逃げ回り、各車が待機してる高台へおびき寄せるというものだ

 

(…とはいえ、向こうはおびき寄せられてるのに気づいて敢えて乗ってくるだろうな)

 

向こうからすればきっと、今まで何度も経験した作戦の一つだろう

故に逃げるⅣ号は囮であるということをわかって尚、高台に集まっているこちらをまとめて撃破するチャンスだとわざと飛び込んでくるはずだ

 

(本当の勝負はその後だが…1年は砲撃戦を一回も経験してない上に今回敵は複数いる

恐怖でパニックに陥らなければいいが───)

 

校内模擬戦の際、我らDチームは撃った撃たれたの砲撃戦を唯一経験していない

いや砲は撃ったし撃破されてる以上撃たれてはいるが、一方的に撃って撃破し、一方的に撃たれて撃破された

それは駆け引きを駆使する砲撃戦を経験したとは言えない

そんな中いきなり複数と撃ち合いともなれば、結果はお察しな事となるだろう

 

(これに関してはあれ以降模擬戦がなかったから仕方ないとも言えるが…ちゃんとした戦闘を経験させてやれなかったことは俺の失態だな)

 

グロリアーナの壁は高い、おそらく射撃も精密だろう

きっと大なり小なり1年たちの恐怖心を煽ってしまう事に変わりはない、パニックを起こして変なことにならなければいいのだが…

 

 

 

 

 

現在俺達は離れの高台で西住達Ⅳ号が誘き寄せたグロリアーナ隊を一網打尽(多分無理)するべく待機

ここまでの道のりは長かった、まず作戦名を決める時に西住の意外な一面が見れた、それは西住は作戦概要を簡潔に纏め、且つわかりやすい作戦名を立てるのは得意だが代わりにネーミングセンスは壊滅的だと言うことだ

今回の作戦名はこそこそと行動するから「こそこそ作戦」らしい

思わず噴いてしまったが直前に通信機の送信ボタンを解除していたので西住に不快な思いをさせずに済んだが変わりに思いっきり澤と宇津木には見られて苦笑いされたしまった

 

その後高台から様子を伺い、最初はこちらも遠目でグロリアーナの動きを見ていたがまぁ練度が高い

こりゃまともにやったら100回やろうが100回負けるなと確信するほどだ

戦車の性能が劣り、練度でも負けているのだから仕方はないが

…だがその分まともにやりさえしなければまだやりようはあると思う

ある程度動きを見たところで俺達含めた4輌は高台へ向かい、グロリアーナ隊を釣り上げた西住の連絡が入るのを今現在進行系で待っていた

 

(にしても…)

 

「革命〜♪」

 

「しまったどうしよう〜」

 

こいつら本当に自由だなぁ…

現在M3リーの搭乗員は俺を除いた全員が大貧民に勤しんでいた、先程はあれだけ心配そうにしていた澤もちゃっかり混ざってるあたり彼女も結構図太いと思う

 

(こんなチーム見たことねぇよ…)

 

そう思いながら別のところに視線を向ければBチームこと三号車八九式の搭乗員がバレーに勤しんでいる

ちなみに順番的にはCチームのⅢ号突撃砲が三号車になるのだがごっちゃになってまどろっこしいということから八九式と入れ替えて二号車としてペイントが施されている

 

(…おっと)

 

流石にトランプやバレーはする気にはなれないが確かに待機時間は暇だ、つい昔の癖で胸ポケットに手を伸ばすが大洗の制服には胸ポケットなんてついてないし

お目当てのものも剣部隊を去った時に辞めたのを思い出して小さくため息を吐いた

 

「杉野先輩もこっち来て一緒にやりましょうよ〜」

 

「──いや、俺くらいは警戒してなきゃまずいだろ」

 

俺が手持ち無沙汰なのに気づいたのであろう、1年たちから声が掛かるがどうにもそろそろ通信が入る気がしてならないため断りを入れることに

 

(───微かにエキゾーストが聞こえ始めてきた、この音はⅣ号だな…近づいてくる)

 

砲塔の上に立ち瞳を閉じて周囲の音に耳を済ませる

砲撃の音自体は先程から聞こえているが、こうすることで徐々にこちらまで近づくⅣ号の排気音が風に乗せられて微かに聞こえてくる

 

「──ほら、そろそろ西住達が戻ってくるぞ、各員配置につけ〜」

 

「え〜…革命起こしたばかりなのに…」

 

「それにまだ連絡も入ってませんよね?なんで来るってわかるんですか?」

 

「女の勘てやつですか〜?」

 

いまだ大貧民に勤しむ1年たちへ手を叩いて準備を促すと大野、山郷、宇津木が不満そうに呟いた

はぁ、全くコイツラは…

 

「Ⅳ号の音が聞こえてきてんだよ、もう来るぞ」

 

『──Aチーム、敵を引き付けつつ待機地点にあと三分で到着します!』

 

ちょうどヘッドホンを片手にそんな事を言っていたおり、西住からの無線が入った

その為、尚の事急かして1年たちへ声を掛ける

 

「今西住から連絡きたよ、あと三分で現場入りだ

わかったら早く車内に戻れ」

 

「えぇ…本当に連絡きた

何でそこまでわかっちゃうんですかぁ───」

 

俺の場合は過去の長い戦車戦の経験から聞こえてくる砲撃音や戦車の排気音である程度の位置を逆算するくらい造作もなく行える、何なら公式戦等ではどういう見解になるか知らんが相手の無線電波を傍受してノイズや電波の強弱からでも距離を測れるし砲撃する際の砲身が生む太陽光の反射などでも距離や着弾位置を割り出せる

しかしそんな事もまだ日の浅い1年たちには異様に映るのだろう、皆口には出さないが表情でわかるレベルでドン引きしていた

 

「いいから、早く配置につけ

俺達が外にいようがいまいがこの位置じゃ向こうには見えねぇだろうし、そのまま砲撃戦が始まったら危険なことくらいわかるだろ?」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

ここまで言ってようやく、渋々と言った様子で1年たちが車内に乗り込んでくる

ふと他の車両の様子を見てみると同じ西住からの通信を聞いた河嶋が辺りに檄を飛ばして車両に戻らせている

怒鳴って指示を出すのは俺のキャラではないが、こういう時は素直に周りが言うことを聞く河嶋のような立ち位置は羨ましく思う

 

「もう近いな…丸山、宇津木───装填準備行けるか??」

 

「わかりました!」

 

「……」

 

「紗希ちゃんもわかったって言ってます」

 

相変わらず丸山は無口で宇津木が一応は通訳をしてくれるが、俺が声をかけたあと一度視線をこちらに寄こしたので伝わってるのは確認はしてる

良いのか悪いのかはわからんが口数の少ないこの子でも見てれば言わんとしてる事はわかってきてしまう

いや、本当会話がないから良いのか悪いのか判断が難しいけどな

 

「大野と山郷は何時でも砲撃出来るように下に向けてある程度照準を合わせてくれるか?」

 

「わかりました!」

 

「任せてください!」

 

続いて砲撃開始時すぐに撃てるよう、照準の暫定合わせを指示してこれに大野と山郷が応え砲身を動かし始める

何度か経験したからか初期の頃に比べれば徐々に動かし方に迷いが消えてきている、これは思っていたより早かったな

いい傾向だ

 

「澤、多分車長の君のとこにも河嶋からの合図が来るだろうが

Dチームの砲撃開始合図は俺が出しても良いか?」

 

「は、はい…構いませんけど…」

 

当初予定ではAチームが敵をおびき寄せて戻ってきた際、河嶋が出した合図で砲撃開始ということになっていた

しかしこの状況下、ただでさえプレッシャーに弱くパニックを起こしやすい河嶋が指示を出すとなるとどうにも不安でならないため

M3は俺の独断で指示を出すことにした

 

(──来た)

 

そしてそうこうしているうちに徐々にこちらに近づいてくるⅣ号とその後ろにはグロリアーナ隊の車輌が目に入ってきた

 

「Ⅳ号が見えた、その後方にグロリアーナの編隊…」

 

「こちらも確認できました、タイミングを見て合図をお願いします」

 

澤と二人でキューポラから交互に顔を出して確認を取る

先行のⅣ号が射程内に入り、いよいよこちらも砲撃のタイミングを探ろうかと言ったところで俺と澤の通信機に河嶋からの通信が入った

 

『撃て撃てぇー!!』

 

「あ、あの…杉野先輩」

 

「…何もいうな」

 

それは半狂乱になった河嶋の悲鳴にも似た砲撃指示だった

重ねて言うようだが現在はⅣ号がこちらの射程内にいるがグロリアーナ隊はまだ射程内に収まっていない

しかしそんな状況であっても指示を出すのが河嶋であったが為にM3以外の3輌は味方のはずのⅣ号に向かって砲撃を開始した

 

『味方を撃ってどうすんのよーー!!』

 

案の定Ⅳ号で通信手をしてる武部がブチギレて怒号が無線越しに響いたが河嶋には届かず以降もとにかく撃てとだけ指示が飛んでくる

 

「ハァ〜〜……」

 

「えぇっと…」

 

あまりの酷さに手で顔を覆ってわざとらしく深々とため息をつくと澤が気まずそうに話しかけてくる

 

「あんな風にはなっちゃいかん」

 

「はい…」

 

まぁ前向きに考えれば河嶋を悪い例として反面教師にすれば成長に繋がるかも知れない

今の河嶋のようにはなるなと伝えると悲惨なこの状況で肯定以外出来るわけも無く澤が小さく応える、さてそんなこんなで砲撃を待機していたこちらのM3だが

話してるうちにグロリアーナ隊も遂に射程に収まるようになった

 

「…そう言えばまだ見越し射撃教えてなかったな」

 

砲手の大野と山郷に指示を出そうとしたところでふと思い出す

そう言えば模擬戦は止まってる38tに対しての砲撃、その後の訓練も止まってる的に対してのものだった

これもまた俺のミスだなとため息まじりに大野と山郷に声を掛ける

 

「ぶっつけ本番だけど、今から見越し射撃について教える」

 

「「今ですか!?」」

 

「まぁ時間がねぇからざっくりとだけどな」

 

あまりにも急であるためか大野と山郷がハモってそういった

しかし教えておかないと当たるものも当たらないし、今日までに教えて置かなかった俺が悪いのであって

ちゃんと言われたとおりに練習してた大野と山郷が当たらずに嫌気がさしてしまったらそれこそ目も当てられない

 

「いいか、今までやった練習と違って今回の相手は動いてる

砲弾は撃ってから実際に当たるまでにタイムラグがあるから、いつものように戦車に照準を合わせちゃダメなんだ」

 

「まぁ…それはなんとなくわかりますけど」

 

「本当にぶっつけ本番なんですね」

 

大野と山郷の二人は思いっきり顔が引きつりながら乾いた笑みを浮かべていた、その顔には本気でこのままやらせる気だと書かれているがもちろん本気ですとも

 

「んで、まぁ今回の相手は最高速度20km/hのチャーチルと24Km/hのマチルダⅡだから必然的に速度は15〜20km/h前後になる、ということは砲弾が当たるまで1秒ごとに約4.1〜5.5mほど当初の照準位置からズレるわけだ

ここまではいいか?」

 

「はい」

 

「…なるほど」

 

実際に今回ぶっつけ本番で見越し射撃をさせても相手が足の遅い方のイギリス戦車なためまだやりようがある

これが一般的な40km/h近く出る戦車に当てはめると秒速単位での移動距離が一気に伸びるため照準を合わせる難易度が一気に上がってしまう

 

「見越し射撃ってのは、その名の通り砲撃が当たるまでに相手が移動する未来位置を見越して照準を合わせる」

 

「…確かに知ってないと当てられなそうですね」

 

「でも今回は足の遅い戦車が相手ってことは…」

 

「あぁ、少しズラすだけで大丈夫だ」

 

そこまで言うと思っていたよりは難しくなさそうで安心したのか、大野と山郷は自信有りげに笑みを見せた

 

「ちなみに、上を取ってる今なら勝負できるが

回り込まれたら向こうの硬い装甲を抜くのに至近距離まで近づかなきゃ行けないからあまり現実的じゃない

高所で勝負をつけられなかったら履帯が壊れるように足回りを狙え」

 

「「は、はい!」」

 

堅牢な戦車といえどエンジンで動かし、悪路も走らせるために必然的に装甲の薄いところが存在し、その装甲が薄い場所は大体上部装甲

故に現在ならギリギリ正面からの勝負が出来るが、誰一人として命中弾を出していないため回り込まれるのも時間の問題だ

そうなると残念ながら正面からの勝負は厳しくなる

 

「準備ができたら撃って宜しい」

 

ついで換気用のベンチレーターのスイッチを入れてこれで何時でも砲撃戦が開始できる

大野も山郷も無言で必死に照準を合わせてるので彼女らの集中力の高さを鑑みれば近い将来結構化けるかもしれない

 

(けどまぁ、教えたところで今日の今日じゃ当たらねぇよなぁ〜)

 

見越し射撃については教えたが、流石に今日の今日当てられるようになるとは思っていない

本当に普段の練習で教えきれなかったことが惜しい

 

「…しまった、外しました」

 

「…こっちもです」

 

2度の砲撃音が鳴り響き、追える限り弾道を追ってみたが主砲と副砲の砲弾はこちらから一番近いマチルダⅡの両側面の地面を削って終わる

 

「しょうがないっしょ、至近弾にはなってるんだから切り替えていこうぜ」

 

「「はい!」」

 

再度丸山と宇津木が砲弾を込め、大野と山郷が砲撃する

しかし2度、3度と回数を重ねても至近弾は出るが当たらない

そうこうしているうちに徐々にグロリアーナ隊に回り込まれ始めた

 

『見えるもの全て撃てーッ』

 

もはやトリガーハッピーになった河嶋の声が無線越しに響く、これは厳しいぞ

グロリアーナ隊からの攻撃も始まった、やはり相当な練度を誇る彼女らの砲撃は精密で初弾からこちらのすぐ目の前に着弾し舞い上がった土煙で視界が塞がれる

 

「澤、これ以上ここに留まるのは無理がある

ここは仕切り直そう」

 

「は、はい!」

 

そんなやり取りの直後、すぐ真横に一発の至近弾が命中し車体が大きく揺さぶられた

 

『落ち着いてください!攻撃やめないで───』

 

「無理ですーッ」

 

「もう嫌〜!」

 

西住からの通信も虚しく、たった一度の至近弾で車体が揺さぶられただけで1年たちはパニックを起こし

そして持ち場を勝手に離れて外に逃げようと搭乗口に殺到した

 

 

 

多数の戦車との砲撃戦、一発の砲弾が近くに落ちてそれは私達をパニックに陥らせるには充分だった

もちろん車長として私が皆を止めなければ行けなかった

でも本心で言えば私も皆と一緒に逃げたくて強く引き止める事も出来なかった

 

バカヤロォッ、何考えてんだッ!!

 

そんな時そんな声と共に開きかけた搭乗口がバンッと強引に閉じられて、私の思考は現実に引き戻される

声を張って皆を止めたのは杉野先輩だった

普段どんな状況でも常に冷静で、どんなに失敗しても優しく励ましてくれた杉野先輩は私達に向けたことのない怒号に近い声を上げた

 

「こんな状況下で外に出て、運悪く流れ弾に当たったらどうする気だ!?」

 

「で、でも…」

 

「デモもストもあるか!

生身に砲弾なんか当たってみろ!?簡単に死んじまうんだぞ!人なんてなッ!!

 

杉野先輩の声は何処か私達よりも焦燥に満ちていて

それが逆に私を冷静にさせてくれた、危険な行動だから私達を止めるために必死なのだと伝わってくる

…そうだ、いつだって杉野先輩は私達の為に動いてくれる

 

「…皆、配置に戻ろう?」

 

「梓…」

 

「うん…そうだね」

 

意を決してそういった私にみんなも賛同してくれる

大丈夫、私はまだ戦える、そう気合を入れ直して私は杉野先輩に向き直る

 

「すいませんでした、杉野先輩」

 

「…いや、澤だけが悪いわけじゃない───

パニックを起こして安易に外に逃げようとしたみんなも、何よりこんな言い方じゃないとみんなを止められなかった俺にも非はあるさ」

 

私の様子と先ほどと違って落ち着いてきたみんなの様子を見た杉野先輩はそう言って私達に深々と頭を下げた

 

「杉野先輩…」

 

「私、もう逃げません…」

 

場を収めるためか杉野先輩に頭まで下げさせてしまった

その事実が少し前までの自分に嫌悪感を抱かせる、だけれども今はまだ自己嫌悪に陥ってる場合じゃない

新たにした思いは結果でしか証明出来ないから

 

 

 

(…何とか最悪の状況は免れたか)

 

1年たちの混乱も収まり、再び各員持ち場に戻る

澤が一瞬キューポラから顔を覗かせて周囲を確認することで坂口に遮蔽物の場所を伝えて岩などに隠れて一時的に砲撃をやり過ごす

1年たちは今日まで戦車に乗るにあたり何処か和気あいあいとしていた、その事自体は別に悪くはないのだが

言い換えれば常に本当の意味では本気で物事に取り組めていなかったと言える

 

「澤、状況を確認したい

──替われるか?」

 

「はい!」

 

だが今は違った、練度はもちろんのこと変わらないが

やっと瞳に熱が灯った、もう立派に戦う人間の目をしている

 

(現存はⅣ号、八九式、Ⅲ突…38tは履帯が外れて戦線離脱か)

 

澤と立ち位置を変わってもらい、目を凝らして現存車両の確認

しかし意外にも38tの外れやすい履帯が外れ、修理の為に一時戦線離脱した以外は全車生き残っている

 

『Bチームどうですか?』

 

『何とか大丈夫です…!』

 

そんな折、Aチーム武部から無事な車両の確認のためか各車への呼びかけと呼ばれた車両の通信手の返答がヘッドホンに受信される

 

『Cチーム!』

 

『言うに及ばず!』

 

『Dチーム!』

 

「何とか生き残ってるぞ」

 

『Eチーム!』

 

『無事な車両はとことん打ち返せ〜ッ!』

 

河嶋はまだ混乱から抜け出せていないようだった

しっかしまぁ高低差を失った以上はこのままここに留まるのは得策ではない

 

『私達の後についてきてください!移動します』

 

もちろん西住も同じことを思ったのだろう、通信手の武部からではなく

隊長として自身で無線を使いそう指示が出された

 

「だ、そうだ──行くぞ澤」

 

「わかりました!」

 

お互いに再度確認してから澤が坂口へ指示を出す

だがここで思わぬ事態が一つ、と、言うのも…

 

(敵との距離が近すぎる…)

 

西住達と合流しようにも遮蔽物を切り抜けた先には目と鼻の先にグロリアーナ隊の戦車と続けざまに砲撃が降り注ぐ

 

「澤!坂口に回避運動の指示!」

 

「え、えと回避運動…って」

 

「ジグザグ!」

 

ここでも普段見落としていたものが出てくる

回避運動なんて初歩中の初歩なのに何で教えてなかったかなぁ

ジグザグに進路を取ったことで左右へと揺れ動く車内でそんな事を思った

 

 

「何とか逃げ切れましたね」

 

「あぁ、だが西住達ともはぐれたな」

 

高台から何とか市街地付近まで降りてきて、ようやくグロリアーナ隊を見えなくなるまで引き離したと安堵したのも束の間

今度は西住達とも離れ離れになってしまった

 

(無線も感が悪いな…港が近いから無線電波が入り乱れてノイズがひどい)

 

こりゃこの試合が終わったら無線を重点的に修理だなと思いつつ、ひとまず当分会敵も無いだろうと通信席へと座り直す

何だがどっと疲れたなとホッと小さく息が漏れ出た

 

「次の地点は__で__の方に向かえる?」

 

『あいー!』

 

ふと横を見れば地図を片手に澤が坂口に進行方向について指示を出してる

ひとまず少しは俺も休憩できそうだな、しばらく出番はなさそうだし

 

(思ってたより状況は厳しい、どうすっかな…)

 

不意に首にかけていたネックレスを辿り、首元の位置に垂れ下がるお守りに手を触れる

触れているだけで今は少し心が安らぐ気がすると、そんな事を思いながら

あの日のあの時に思いを馳せるように瞳を閉じた




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