ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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最初はちょっとだけシリアス?な描写あります




そこは慣れと技術かな

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あの日、川で溺れた幼少の俺は

ユウカとマツの二人の手を離すまいと必至に濁流の中で藻掻いたが荒れ狂う水流には敵わず水底で離れ離れになってしまった

何とか息継ぎをしようと光の射すほうへ錐揉みになりながらも泳いで行き───。

そしてたどり着いたのは、朝の時間だった筈なのに日が落ちた後のように暗い見たこともない河原だった

 

「ぶはぁっ──ハァ──ハァ…こ、ここは一体──!?」

 

川の中からやっとの思いで這い上がり、荒れる息を整いながら

少なくとも地元ではないと感じさせる見知らぬ河原を見渡し、そこで感じたのは一つの違和感だった

 

というのも、こんな周りに何も無い河原なのに大人から子供まで多数の人がある一点に向かって長蛇の列を作っていたからだ

 

「──ッユウカ!?」

 

そしてその列の中に、先ほど離れ離れになったばかりのユウカの姿が視認できた

 

「良かった、無事だったんだな!

──マツはどこだ?見てないのか?」

 

「……」

 

すぐさま駆け寄り話しかけるもユウカは青い顔をして何も答えず、ただ俯いたまま列に沿って歩き続けた

 

「お、おい?ユウカ──ッ!?」

 

痺れを切らしてユウカの手首を掴んで引き止め、同時に彼女に触れた瞬間

あまりにも残酷な事実に俺は暫し声を失い、腕を掴まれたことでようやくこちらを認識したユウカはこちらを振り向いた

 

「お前──冷たいぞ

 

ユウカの肌は底冷えするように冷たく、いや違う

全く持って体温を感じられなかった

その表情もよく見れば生気を感じさせず、虹彩は死人のようにドロリと濁っていた

 

「ねぇ、ナオちゃん…私……こわいよ」

 

「…ッ」

 

列に並んだままの彼女は小さく震えて、その瞳からツツと涙が溢れる

ふと列の先頭が薄っすらとであるが視認できるようになっていた為目を凝らすと、列の先頭にあるのは川と船頭がいる小さな手漕ぎ舟複数隻

その舟は列の人々を乗せると次々に川の向こう側の暗闇に消えていく

 

「そう…か、ここは三途の川か───

俺達死んだんだ…」

 

こんな光景を見てしまえば流石に察しがついてしまった

俺達はあの時、濁流に飲まれて溺死した

そして今、三途の川を渡りあの世に行くだけの魂の残滓に過ぎないのだと

この時になってようやく理解した

 

俺はユウカとマツを巻き込んでしまった

彼女達を無理に誘わなければ、きっとこんな暗く寂しい場所に来させる事も無かったのに…

 

「──なぁ、ユウカ」

 

マツの姿は見当たらなかった、この列ではないのか

はたまたこんな場所で一人ぼっちのまま、舟に乗せられ先に逝ってしまったのか

だが見つからないのなら、せめてユウカの恐怖心を少しでも取り除く

それが今の俺に出来る精一杯の詫びだった

 

「恐れるな、大丈夫俺が一緒だ」

 

「ナオちゃん…ッ!」

 

強く彼女を抱きしめると堰を切ったようにユウカはわんわんと泣く、そんな彼女の恐怖を解かせるならと強がって彼女には笑ってみせた

 

「なに、怖くないさこんなとこ

もっとスゲェ冒険してきたじゃんか俺達───」

 

「…うん!」

 

手を引いて川に入る、こんなとこに来て列を守って順番待ちにあの世だなんてバカバカしかったから

 

「あっちへ行こう!向こうの舟のが空いてるぞ」

 

踝程までの浅瀬の川を二人で歩いていき、目ぼしい舟を見つけてバシャバシャと足で水を蹴り上げながら向かっていく

 

その時…

 

────お前はまだだ…

 

そんな声とともに俺の身体は何者かにドンと前に突き飛ばされ、その衝撃で直前まで握っていたユウカの腕を離してしまった

 

「ナオちゃん…!」

 

「ユウカ!俺をおいていくのか…!?」

 

先程まで一緒に乗る予定だった舟にはユウカが乗せられ、俺は1人置いてけぼりで舟はどんどん暗闇に消えていく

 

────お前にはまだ大事な使命がある

 

再度どこからともなく声がする、先程までユウカの腕を掴んでいた手のひらには

彼女の着ていた服の切れ端だけが残されていた

 

────時が来たら、乗せてやるよ

 

そうしてその声を聞いたのを最後に

俺の意識はそこで途切れた

 

 

 

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(──案外、近々なのかもしれねぇな…

その時ってやつはさ)

 

お守りのネックレスを握り込んだまま、ゆっくりと瞳を開けて揺れ動く車内と各々警戒は解かないまま順次休養を取っているのを確認した

 

「ッ!?」

 

その直後にドンッと強い衝撃と共に車体が大きく傾き

思わず座っていた通信席から投げ出される

 

()っつぅ…ッ、何だ!?」

 

「敵襲です!グロリアーナの戦車隊に追いつかれました!!」

 

「何だって!?」

 

外の様子を伺っていた澤の言葉に思わず聞き返してしまったが、一度彼女と代わりキューポラから顔を出して確認する

すると後方約数100mの位置にこちらを狙うマチルダⅡを2輌確認できた

 

(バカな…!何で鈍足なマチルダが倍近い速度で走るM3に追いつける!?)

 

マチルダの最高速度は24km/h、戦闘を考慮して燃料を抑えておきたければ巡航速度はかなり低くなる

対するM3は最高速度39km/hで巡航速度も30km/h前後は固い、本来であれば一度振り切った状態から追いつかれることは絶対にありえない

 

(──いや、待てよ?俺は大洗の地形には明るくないから何か見落としてるんじゃないのか…?)

 

もうすぐで市街地、こまごまと旋回する必要のある状況下ではたとえ速度で勝っていても操縦技術に優れた搭乗員の乗るマチルダⅡには追いつかれるかも知れない

 

「桂利奈!回避運動!!」

 

『あいー!!』

 

澤は車長としての使命を全うしようと内線で阪口に指示をだし、それを確認した阪口の操縦によって車体は右に左にと大きく揺れ始めた

 

「澤、この辺の地図ってあるか?」

 

「はい!」

 

状況を掌握するべく、そのためには地図が必要な為澤に声を掛けると事前に貰っていたようで

車長席の後ろから取って手渡してくれた

 

(──いや、やっぱり変だ

戦車が通れるような通路は存在しない…)

 

しかし地図を見て解るのはこの状況とは全く異なるものだ

最初の高台から現在地に至るまでは国道と呼べる戦車も余裕で通す道幅がある

反面、ショートカットになるようなコースは戦車では通れない細道ばかりだ

 

(強いてあげるなら、外壁を破壊すれば本来かかる時間の半分程度で降りてこれるだろうが───)

 

そこまで考えて、ふと地図を見ていた手を止める

まさか、本当にそうか?いやいや──。数多な否定の言葉は尽きないが

どうにもそうすることでしかこの結果は思い浮かばない

加えて、民家や公共物を破壊した場合は全部自腹弁償なタンカスロンとは違い

現在はおこなっているのは保険の効く公式戦車道だ、その程度の無茶をするなど造作もない事かもしれない

 

(まさか──!?ぶち抜いてきたっていうのか!民家の外壁を!?)

 

確証はないが確信はある、しかしこれではどれだけコチラが高速性を利用して逃げ回ろうと意味がなくなってしまう

加えて阪口は数日程度の運転で運転の仕方はわかっていても特段上手いわけではない

それこそ曲がり角の減速ではスピードを落としすぎており返ってマチルダのが早く曲がってくる

更に肝心な直線でも砲弾に対する回避運動により左右にジグザグに動いているため車速が乗らず思ったより差をつけられない、こんなことでは近いうちに至近距離まで捉えられてしまうだろう

 

__ドンッと更に立て続けに横殴りの衝撃が車体を襲った

 

『きゃああああ!』

 

一方的にいいようにやられて再び恐怖がピークに達したのか、車内の至るところから悲鳴が上がる

 

「大野!反撃は出来そうか!?」

 

「すいません!これだけ動いてると照準が合わせられません!!」

 

唯一砲塔が回せるのは副砲の37mmのみな為、副砲砲手の大野に反撃を促すもただでさえやったことのない行間射撃に加えてこちらも回避運動を取っているため厳しいと返ってくる

 

「杉野先輩!何か手はないんですか!?」

 

「ねェよ、持たねーぞコリャ」

 

他にこの場を切り抜ける方法はないかと澤から聞かれるが現状方法はない

速度と火力では勝ってるかも知れないが、その他の搭乗員の技量は天と地ほどの差がある

それはそうだ、向こうはきっと幼少期からずっと戦車道をやっていて、コチラは始めてまだ数日なのだから

 

(…厳しい勝負になるとは思ったが…あぁ──なんだか)

 

悔しいな、ふと自然と思い浮かんだそんな単語に自分自身で驚き

次第に笑いがこみ上げてきた、なんだ、やっぱり俺は未練たらたらだったんじゃないか

 

(こんなザマ見られた日にゃ、アイツラに笑われちまうな

…諦めるのは俺らしくねェよな───)

 

首元に巻いた紫のマフラーに手を触れる、かつて一緒だった仲間たちと統一にしたそれは

今尚俺に勇気を与えてくれるから

 

「杉野先輩…これ以上は逃げ切れませんッ」

 

横に座る澤から悲痛な声が聞こえる、ジグザグに走行しているため今はまだ直撃弾はないが車体に走る衝撃の感覚が狭まり一層強くなっていることから至近弾で済んでいるものの向こうの射撃精度が上がってきているということだ

こちらの走行にも遂に対策が完了してきたのだろう

 

「も、もう無理だぁ〜!ごめん、ごめん…みんな…」

 

操縦席からは阪口からの嗚咽混じりな声にならない声が上がった

俺は澤に席を外すとだけ声を掛けてゆっくりと操縦席に近づいていった

 

「もう、ダメか?阪口」

 

「杉野先輩…もうこれ以上は無理です、ごめんなさい…」

 

泣きながら言う彼女に俺は更に操縦席に近づき、彼女の両脇から身体を抱えあげて無理やり操縦席から立たせる

へ?と言う気の抜けた彼女の声が少しだけ張り詰めた空気だった周囲の緊張を解いた、そんな気がした

 

「そうか…なら、替われ

 

「杉野先輩!?」

 

そして驚く阪口を避けて半ば無理やり操縦席に座り込んだ俺はアクセルを数度吹かして履帯の動力を司るレバーを握り込んだ

 

『杉野先輩!M3操縦したことあったんですか!?』

 

「──ねェよ!M3の整備も試運転も自動車部の管轄だったからな」

 

操縦交代は流石に予想外だったのか内線越しに澤からそう問われたが生憎生まれてこの方M3なんて操縦したことはない

他の戦車と比べると二段砲塔な分トップヘビーなのが少し気になるところではあるがこちとらクソ重い砲塔を積んだヤークトティーガーでさんざん無茶をした口だ、バランスの悪い戦車にはなれてる

 

「いいか阪口、よく見てろ───

──撃破されたくなかったらなッ」

 

「…ッ」

 

操縦席の窓からすぐ先は曲がり角になっているのが見えたがそんなモノは気にしない、アクセルを床まで踏み込んで履帯の動力を左右とも全開で伝える

ドルンッと大きく唸るエンジン音と共にフロントが一瞬宙を向いてM3は加速を始める

端から見れば壁に向かって全開で突き進んでいく光景に横の阪口が息を呑む音が聞こえた

 

「──こうやって操縦するんだよッ!!」

 

そうしてアクセルを一瞬戻し曲がる方向の履帯動力を切り真横に車体をスライドさせつつ、途中でアクセルを全開にし履帯動力も再び左右を全開

履帯駆動のON/OFFだけでコーナーをクリアして路地に入ると狭い道を全開で駆け抜けていく

 

「俺のその時(・・・)は、こんなところじゃねぇ!!」

 

『きゃあああッ!!』

 

先ほどとは比べ物にならないレベルで大きく揺れ動く車体に別の意味で悲鳴が木霊しながらそれでも全速力でM3を走らせ続けること数分

遂に背後で鳴っていた砲撃音は一切聞こえなくなった

 

 

 

 

「Dチーム応答願います、Dチームッ!」

 

揺れ動くIV号戦車の中で、通信手の武部さんの必至な問いかけも虚しく応答はなかった

 

(考えたくはないけど、撃破されちゃったのかな…)

 

まさか杉野さんが、とは思ったものの彼女は通信手兼指南役で戦車の役割は1年生の子たちが担当している為にありえない話ではなく

それが一層嫌な予感を掻き立てた

 

(返答がないっていうのも、おかしな話だよね)

 

今回は練習試合のため、撃破された車両を審判が読み上げることはないが

それなら通信手を担当している杉野さんから撃破されたと連絡があるはずだ、彼女ほどのベテランが報・連・相をしないはずがない

 

(便りがないのは無事の知らせって言うけど…)

 

なら何かトラブルだろうか、考えうるのは無線の故障

又は敵車両と交戦中で無線を触る暇もないか

 

「──!B、Cチームが各1輌撃破したって!!」

 

「やりましたね!」

 

私がウンウンと唸っていると他チームから入った報告に武部さんと秋山さんが声を上げる

…おかしい、八九式じゃ今回の試合で抜ける戦車はない…と言うことは───。

 

『Cチーム走行不能!』

 

『Bチーム撃破失敗!及び走行不能!すいません!!』

 

2輌が撃破された報告は武部さんのとは別に私の無線機にも入ってきた、やっぱり八九式の撃破は誤認

Ⅲ突は1輌撃破したものの別の車輌にやられてしまった

2輌を失って1輌撃破、これで相手は4輌

コチラは確定で残ってるのが我々IV号と38tの2輌、M3が生き残っていれば3輌残っているためまだまだやりようはあるけど連絡がつかない今あまり期待しないほうがいいかもしれない

 

「…ッ」

 

ふと周囲を警戒するためにキューポラから顔を出せばこちらを射程に収めようと後方からマチルダⅡ2輌が追いかけてきているのが確認できた

 

「囲まれたらまずい…」

 

「どうする?」

 

「とにかく振り切って!」

 

「りょーかい」

 

麻子さんはダブルクラッチを切ってIV号を加速させる

背後では幾度か砲撃音が響くが地元民である冷泉さんは音と同時に近くの路地へ入っていき危うげ無く砲撃を交わしていく

 

(…!あれは…ッ)

 

いくつか路地を曲がっていくとその途中で1輌が店に突っ込んで離脱、あと1輌を振り切ればと言ったところで隊長車のチャーチルが編隊に合流

更に距離を取ろうともう一つ路地を回ったところで

その先は工事中で行き止まりだった

 

(…しまった、道を知ってる麻子さんの知識が裏目に出た!)

 

本来であれば通れる道も、麻子さんを始め私達は普段は学園艦で過ごしており頻繁に帰ってくるわけではない

そのため前回の下船時には通れた道も、船の上にいる間に工事が始まったのでは情報は一切入ってこない

そのため頭の中に入ってる地形がアップデートされないまま、今回最悪の形で目の前に現れてしまったのだ

 

 

時を遡ること少し前

 

『1輌射程内に捉えました…あれは、M3です!』

 

別部隊として隊列から離れて移動していたマチルダⅡ2輌から入った通信に私は口元が緩むのを抑えられなかった

いけないいけない、歯を見せて笑うなど淑女にあるまじき行為よダージリン

聖グロリアーナの生徒たるものいついかなる時も優雅でいなければ

 

(それにしても、簡単に捕捉されるとは大したことありませんのね)

 

試合前に感じた威圧感はやはり私の勘違いだったようだわ、と肩を竦めて2輌にM3の撃破を命じる

先程の高台周辺で5輌のうち1輌でも撃破出来れば良かったが、やはり速度が倍近く出る相手チームの戦車には逃げに撤せられてしまうと少々やりにくい

 

(……)

 

私はM3の撃破報告を待ちながらゆっくりと紅茶の入ったカップを片手にゆったりとした時間を過ごしていた

しかし5分経っても10分経っても撃破報告は一向に上がってこない

 

「──M3はどうなっていますの?」

 

報告を催促することも本来であれば褒められた事ではないが

痺れを切らした私はつい無線の送信機に触れて言った

しかし返ってきた返答は驚くべきものだった

 

『申し訳ありません!射程内に捉えてはいるのですが───』

 

『──とてつもない動きで逃げ回っており照準が間に合いません!』

 

「……なんですって?」

 

思わず私は聞き返した、だってそうでしょう?

確かに相手に合わせて私は5輌の編成にした、けど搭乗員達は歴戦をくぐり抜けてきたベテランであり

たとえマチルダが遅かろうと足の早い他の車両を包囲することなどもはや手慣れたことだった筈だ

 

『あぁ──駄目です!』

 

『逃げられました!』

 

「なんですって!?」

 

そしてそんなベテランが今度は振り切られたと言うのだから思わず私は声を上げて立ち上がり、コホンと一つ咳払いをして車長席へ座り直す

取り乱してはダメよダージリン、いついかなる時も優雅に

それは聖グロリアーナの教えであると同時に、私についてくる下の子達の自信にも繋がるのだから

頭が不安定なチームでは下は育たないしついてこない

だからこそ上に立つ私は常に冷静で、余裕の現れたる優雅さを持って行動しなければならないのだ

 

『すいません、撃破されました!』

 

『こちら被弾につき現在確認中!』

 

しかし続いて入ってきた報告に私は今度こそティーカップを取り落とすこととなった

誰も言葉を発しない静かな車内にガシャンッとカップの砕ける音だけが響く

 

「──おやりになるわね、どうやら少し舐めてかかってしまったみたいだわ」

 

どうやら無名だと侮っていたツケが高くついたようだ

いや、侮ったというのは少々語弊がある

私達はどんな相手から挑まれようが逃げないし気など抜かない、しかし無意識下では名の売れてる他校と練習試合をするときと比べてどうしても甘い算段をしていた節がある

しかしそんな状況で冷水をかけられたようなこの現状、完全に目が冷めた

彼女たちはこちらが策を弄するに値する本物(・・)

 

(…!向かいの路地に車影…?あれは───!?)

 

気持ちを新たにキューポラから僅かに顔を出してあたりを探る、すると自車の進行方向に1輌、マチルダⅡでは出せない速度で走っている戦車の車影が見えた

そしてよく目を凝らしてみると壁が少し低くなったところでその車両のカラーリングがピンクであることが確認できた

 

「ピンクのM3…あれを追いなさい!」

 

おそらくあの速度で逃げ回られてる以上は壁越しに撃っても無駄玉になる

こちらが向こうの動きを完全に把握できない以上は一度表に出て追いかけ回したほうがいい、そう思った私は操縦手に指示を飛ばして路地を回りM3を追走する

 

「アッサム!」

 

「はい!」

 

M3を捉えてすぐに装填手のオレンジペコが装填を完了させ、何時でも砲撃の体勢が取れるよう整っている

向こうのキューポラからは誰かが周囲を警戒している様子もない、ついでに進行方向は回避運動も取らずに無防備にもまっすぐ走っている

あとは砲手のアッサムが決めるだけ

…それだけの筈だった

 

「…!?」

 

ズドッと大きな音と共に発射された砲弾は、M3とは全く的はずれな場所に着弾しアッサムの表情が凍りついたのがわかった

ついで少し間を空けて2発、3発と砲撃を行うがどれもM3の至近弾にすらならない距離に着弾する───

その様はまるで砲弾が戦車を避けている(・・・・・・・・・・・)ように見えた

 

「そんなバカな…!」

 

思わず声を荒げたアッサムに対して誰も文句を言うものはいないし言えない、まっすぐ逃げる相手へ砲撃しているのに当らない

そんなイリュージョン紛いな芸当をしてくる相手に誰も撃破できるビジョンが思い浮かばなかったから

 

「M3が離れます…!」

 

「くっ…」

 

最高速度に劣るチャーチルではたとえ向こうの巡航速度でもこちらがついていく事は出来やしない

また相手チームも報告が入っていない分を含めるとまだ3輌残っている為に多くの無駄玉を生むであろう事がわかっていて無理にM3をここで撃破するのは得策ではないと踏んだ

 

(この屈辱…絶対に忘れられませんわ)

 

初心者集団の操縦する戦車に速度で劣るとは言え隊長車である私の車輌が、一度は完全に射程圏内に抑えておきながら手も足も出せずに逃げられる

こんな無様な事があるだろうか?こんな屈辱が他にあるだろうか?

──だが、今はこの状況を受け止めて冷静になるべきなのだ

 

(撃破できるチャンスは必ず来る、ならばその時を逃さずに次こそは必ず仕留めればいいだけよ)

 

しかし、この時意地でもM3を撃破しなかった事を深く後悔することとなるとは

この時の私は微塵も思っていなかった

 

 

 

『──追ってくる戦車はありません、無事に逃げ切れたみたいです』

 

内線機越しに聞こえる澤の言葉に俺はふぅと息を吐く、操縦自体久々とは言えやれば出来るもんだな

マチルダⅡ2輌、チャーチル1輌に射程圏内で追いかけ回されて一発の被弾もなしに撤退出来たのだから万々歳だろう

 

「ひとまずは何とかなったみたいだな」

 

「──すごい!すごいです、杉野先輩!どうやったらあんな風に戦車を動かせられるようになるんですか!?」

 

ふとそう呟きながら横の阪口の方へ視線を向けるとこちらをガン見したまま口をぽかんと空けて呆然としていたが、一瞬で我に返りそう言って凄い凄いと詰め寄ってくる

 

「ま、速力では勝ってるわけだし───

各車両に操作の違いはあるとは言え大きなものはない、慣れや経験だろ」

 

「M3ってあんな速度で曲がれるのも驚きましたし、後ろにいる相手の戦車の動きがわかってるように動くのも、砲弾が避けていったのもどうしてなのか気になります!」

 

「あぁ…それはな」

 

マシンガンのように阪口から放たれる質問に思わず少し引いてしまいそうになるが聞かれてる以上教えてやらねば先輩としての顔も立たない

…と言っても種を明かせば阪口が聞きたがっている3つの事象すべてが単なる操縦技術の延長に過ぎない

 

「速度出して曲がることに関しては簡単だよ、M3って戦車の車格を覚えて車両感覚を掴む───

曲がるときには荷重移動って言って曲がりたい方向に向けて一度制動をかけることで車両重心を曲がりたい方向に移動させるわけ」

 

「車格…?荷重移動?重心ですか??」

 

「簡単に言えば車格は車両の大きさ、荷重移動は走行時において発生する重心の移動を任意に行うこと、重心はその対象物の重量が一番集中してるところだと考えればいい」

 

つまりは車両の大きさを完璧に把握しておけば、たとえ細い路地に入るときでもどの速度なら曲がりきれるか手前で判断できる

そして曲がる直前に制動をかけ、荷重移動で重心を後ろ(基本どんな車両でも走行している以上は重心は車両後部にかかる)から曲がりたい方向へ向ける───

その際重心が移動したことで今までかかっていた重量がすっぽ抜けた車両後部が前部に比べて浮き上がる為、あとは移動した重心を軸にコマの回る要領で車両をクルリと短距離で方向転換させてやる事が速度の出ている状態で曲がるということに対しての手っ取り早い方法だ

 

…まぁこのやり方とこのあと説明するのを応用、組み合わせることで敵戦車に後ろを取られた状態から一瞬で位置を取り替えっこする一対一の格闘戦においての裏技とも呼べる《捻り込み》という技があったりするが教えたところでまだ覚えられないだろうから次の機会にしよう

 

「後ろにいる相手の動きはどうやって掴めば───」

 

「それに関しては俺の場合は鳥瞰(ちょうかん)の応用だな」

 

「…鳥瞰、ですか?」

 

またしても初耳なワードが出たからだろうか

阪口の頭に?が乱立していくのが幻視できる、さてこれは少し説明が難しいな

 

「…例えば、鳥って集団で飛ぶけど

広大な空をあれだけ無数に、密集して飛んでてどうして味方同士でぶつからないと思う?」

 

「え…それが杉野先輩の言う鳥瞰を意味するのはわかるんですが、どういうことなんですか?」

 

「例えるならそうだな───」

 

例えばゲームのプレイヤー視点と言えばわかりやすいだろうか

周りの情報や景色を現在地として頭の中で投影し、そこに自分を置く

視点はゲームのプレイヤーのように自身の斜め後ろから、広く周囲を見渡すように見る

そういう事をやっているから鳥は集団の中でも自分の位置を見失わず、仲間とぶつかることもなく飛び続けることが出来る

 

「常日頃から心がけとくと、やっぱり経験や勘が研ぎ澄まされて精度も次第に上がってくるんだよ

んで、それを応用することで大体は周囲になにがあるかわかるし、後ろに着かれたとしても気配で相手の動きがわかるようになってくるんだな」

 

「…それは杉野先輩だけじゃないですか?」

 

少しスピリチュアルな面があるからだろうか、うさんくせーと言わんばかりに阪口が顔を顰めたがそんなことはない

剣部隊にいた時は聞けば大体みんな似たようなことを言っていたし、歴代戦ってきた中でも強いやつは同じような事を言っていた

何なら西住なんかはそれが鳥瞰だとはわかっていないながら無意識のうちにやっているような節がある

 

「…私にも出来ますか?」

 

「慣れとしか…」

 

「……頑張ります」

 

不意に阪口からそう聞かれたがやってるうちに身に着けていくしかない為、本当に慣れとしか言いようがない

──頑張れ

 

「砲弾が避けていったあれは何なんですか?

あれこそ技術じゃなくてマジックでも使わないと無理かなって思うんですけど」

 

「いや、あれこそ純粋な操縦技術だよ」

 

阪口は先ほどからチャーチルから逃げ切った際に砲弾が避けていったと言っていたがそんなことは一切ない

種明かしすればつまらないことかも知れないが砲弾はきっちり砲手が照準を合わせた所に飛んでる、じゃあ砲手の腕の問題かと思うかも知れないがそういうことでもない

 

「俺が元いたところじゃこの操縦方法に関しては《横滑り》って呼んでてな」

 

「横滑り…ですか?」

 

種明かしをすると、この技術は相手との距離が近ければ近いほど意味をなさない

今回は近いとは言え数百mは離れていたから使えた技術だ

 

「動力レバーを前に倒せば戦車ってのは前進するけど、両方前に倒せばまっすぐ走るってわけではないよな?」

 

「まぁ、そうですね…」

 

そう両方前に倒せば同じだけ左右の履帯に力が加わるが、地面の状況や車両の体勢などでどうしても右に左にと車両は振られる

その差があればまっすぐには走れない為にどんなに小さく振られても操縦手というのは無意識に進みたい方向へ進むべく補正を入れながらレバーを調整する

 

「そこでな、頭で考えた行きたい方向と逆の履帯を動力全開

曲がりたい方向の動力は逆側と比べてほんの少しだけ控えめに出力する、この辺は感覚の話になるけど…

そうすることで車両はまっすぐ進んでいるように見えるのに実際には右に左に進んでるってことになるわけよ」

 

「あ…真っ直ぐ進んでるように見えるから…」

 

「相手はまず気づかないだろーぜ

操縦手は無意識のうちにこっちの動きに合わせて補正して、砲手はこっちが真っ直ぐ動くもんだから照準器に映るとおりに砲撃する───

自分も一緒に動いてるとは夢にも思わないだろうからな」

 

本来、左右に動く敵を撃破するのに砲手は相手の車両の未来位置

つまり前の車輌が次は左右どっちに行くのかと見越して照準を合わせなければいけない

だが相手が真っ直ぐ動いているのだから当然真っ直ぐ照準を合わせて砲撃する

しかし実際に車輌は僅かながらでも左右に横滑りしている為、真っ直ぐ走ってる戦車に対してあたかも砲弾が戦車を避けるように右に左にとズレて着弾しているように見えるのだ

 

「ま、わずかとは言え文字通り横に滑ってる分速力は多少落ちるし、M3みたいにある程度速度が出る戦車じゃないと同じことをやるのは難しい」

 

そしてこれが一番の問題であるが───

 

「最低でもさっきみたいに数百mは相手との距離がないと使い物にならねぇ

──ってのも、距離が空いてるから着弾までのタイムラグで当らないわけで

距離が近ければ単純に発生するはずの誤差が少なくなるから、多分100〜150m位まで近づかれたら避けれずに当たっちまうよ」

 

気づかせずに横に戦車を走らせて見越し射撃を封じることは簡単に言えば自身の過去位置に砲弾を打ち込ませること

当然距離が詰まれば過去位置から現在位置までの距離が短くなる為当たってしまう

 

「どの状況下なら使えるのかっていうのもやっぱり経験や、相手に自分も横に滑ってるって事を自覚させない技術が必要な訳だ」

 

「すごいです、聞けば聞くほど出来る気がしません」

 

ひとまずは理解してくれればと懇切丁寧に解説してみたが阪口からの返答には思わずずっこけそうになってしまった

まぁ…後日それとなく練習させてみるとしよう

 

「──あ、そうだ

街に入ったから無線繋がるかもしれん、澤、宇津木に少し替われるか」

 

『わかりました!』

 

通信席から移り、操縦席にいる俺には通信機のヘッドホンは届かない

今回の試合だけは宇津木に通信手も兼任してもらおう

さて、無線が壊れてなければいいが…

それと今は一体何輌やられて何輌残っているんだろうか…?

 




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