ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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ワレ、杉野一番

 

『こちら四号車Dチームの宇津木です

周囲に敵の姿はありません、合流したいので隊長車の現在位置を教えてください』

 

マチルダⅡ2輌、チャーチル1輌の計3輌に後ろを塞がれ

前は工事で行き止まり、そんな絶体絶命な状況の中かすかな希望のように私の受信機にDチームからの無線が入った

最後に通信をした時は杉野さんが担当していた筈だけど、今は何故か1年生の宇津木さんからの連絡だった

 

「──こちらAチーム、現在行き止まりで3輌に囲まれています

合流は…難しいかもしれません」

 

もしかしたら他の車輌と合流する間もないかも知れない、そう思うとふと額から嫌な汗が伝い落ちるのを感じ取る

敵の3輌との少しの睨み合い、それを破ったのはチャーチルのキューポラから顔を出した敵チームの隊長の姿だった

 

「──こんな格言を知っている?イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない」

 

「…!」

 

纏う雰囲気が変わった、まずい

この状況はまずい、正面から3輌を相手にしたらどうあがいても勝ちは拾えない

 

しかしその状況は思いもよらぬ形で好転することになる

 

『さんじょ〜〜うッ!』

 

無線越しに生徒会長の一見して呑気とも取れる声が響くと私達のIV号戦車と聖グロの編隊の間に横の路地から飛び出てきた38tが割って入り37㎜砲が火を吹く

…が、ダメ、撃った砲弾はあらぬ方向へすっ飛んでいった

 

『…桃ちゃんここで外す?』

 

無線が繋がりっぱなしになっているからか静まり返った車内で副会長がそうつぶやいたのが聞こえた

直後3輌からの一斉砲火を浴びて38tから即座に白旗が上がった

 

(…だけど、上手く隙は出来た…!)

 

しかし先程までは3門の砲塔から睨まれており身動が取れなかったが聖グロの編隊とIV号の間には先程38tが出てきた十字路が一つある

38tに遮られ、再照準が完了する前なら逃げ切ることも可能な筈だ

 

「前進!一撃で離脱してくださいッ」

 

冷泉さんと五十鈴さんに指示を飛ばしてIV号でマチルダⅡ1輌へ肉薄し、一撃を入れて十字路を左に入る

五十鈴さんは当初の指示通り砲塔と車体の隙間(・・・・・・・・)を狙って砲撃してくれた為、離脱時にふと後ろを見れば攻撃を入れたマチルダⅡからは黒煙と白旗が上がっているのが見えた

 

(…まさか本当にこれをやることになるなんて───)

 

 

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時は遡ること、試合開始前

麻子さんを連れてきた杉野さんは少し話せるか?と言ってから切り出した

 

 

 

「来る途中にチャーチルの装甲をどう抜くか考えてたんだがな───「砲塔と車体の隙間」、ここを狙えればさすがのチャーチルも撃破できるんじゃねぇかと思ってよ」

 

 

「…確かに、それならチャーチルの装甲は抜けると思うけど…」

 

杉野さんの考えた攻撃方法はどんな戦車でも共通の弱点と呼べる場所だ

なるほど確かにそこを狙えれば今の戦力でもチャーチルの装甲を無効にできる

 

「厳しい事はわかってるさ、なに、俺も絶対にそれをやれと言っているわけじゃ無ぇ───

ただ頭に可能性の一つとして留めておいてくれればいいさ」

 

ニッと笑ってそう言う杉野さんだが私の考えはまた違った

そもそも私は今までの経験上至近距離からの撃ち合いと言うものはあまり経験していない、それは前の学校が隊列戦闘を重要視し

硬く火力の高い戦車での撃ち合いに重きを置いていたため、距離を詰める必要が無かったと言うのがある

まぁそれでも回り込めたりしたのなら至近距離から砲撃を浴びせた方が効果的なため全く無いわけではないけど、その点でいくと彼女は私と違ってほぼ0距離での接近戦をメインに戦い続けていた為に目をつける所は少し違うようだ

 

(──杉野さんはああ言ってたけど、マチルダⅡならともかくチャーチルを相手取った場合

0距離でも普通に砲撃したら一撃で仕留めるのは難しいよね…)

 

難しいのなら杉野さんの案を元にやるしかない、でもどうやって?とそんな考えが頭を支配する

そもそもそんな距離までの接近を許すほど聖グロリアーナの練度は甘くない

__ならどうする?どう攻める?そう考えた時、ふと今日の作戦概要

その後半に行うこと(・・)が頭をよぎる

 

(市街地を利用し、身を隠してから至近距離での遭遇戦に引きずり込むこの作戦の流れの中で上手く組み込めれば…)

 

もちろん上手くいく可能性は低い、何故か数日程度の練習でそこそこの練度まで上がってきている大洗戦車道チームであるがそれでも流石に聖グロリアーナ相手では練度の差がありすぎる

それでも少しでも勝率が上がる可能性があるなら、賭けてみるのは決して悪くないはずだ

 

 

「──じゃ、俺はそろそろ行くわ」

 

頭の中でどう取り入れているか組み立ててる中、そう言って杉野さんはM3に向けて踵を返した

 

「うん、それじゃあ杉野さん、また試合で」 

 

おう、と短く返して徐々に遠ざかるその姿はここにいる誰よりも小さいはずなのに

その背中は、不思議と誰よりも大きく頼もしく見える

 

(…やっぱりカッコいいよなぁ、杉野さんは…)

 

ふとそんな事を思ったがすぐに試合には関係のないことだと一度深呼吸して気持ちを落ち着かせる

今すべきことは試合の運び方、私的感情はひとまず隅に追いやらなければならない

 

「──五十鈴さん、攻撃方法について少し相談があるんだけど…」

 

「はい、なんでしょう…?」

 

 

 

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(距離があるなら五十鈴さんの判断での砲撃、ただし0距離近くまで近寄れるなら徹底して砲塔と車体の隙間を狙う───)

 

それが私が五十鈴さんにした砲撃の相談だ、なぜ距離が空いていると砲手判断での通常攻撃かというと単純に範囲が小さすぎるから

下手に狙いを固執して外すなら、外れる可能性がある場合は通常の砲撃の方が都合がいいと判断した

 

「マチルダⅡ1輌撃破!やりましたね!」

 

「これで残りは3輌…」

 

秋山さんが喜びを顕にする反面、五十鈴さんは噛みしめるように呟く

その表情は真剣そのもので正しく戦闘モードと呼べるだろう

 

「──こちらAチーム、Dチーム応答できますか?現在の状況を教えてください

問題がなければ合流しましょう」

 

喉元のマイクのスイッチを入れてDチームと合流出来ないか無線を飛ばすが、すぐに返答はない

 

『────こちらDチーム四号車、宇津木です

現在マチルダⅡ1輌に追われていますが距離は空いてるので問題はないと思います、現在地は__のxx番地です』

 

(…思ってたよりも近くにいる、追ってるのも1輌なら…!)

 

宇津木さんからの報告だとM3の位置は今のIV号の位置と数分程度で落ち合える位置だった

1輌追ってくる車輌がいるとのことではあったけどマチルダⅡならまだやりようがあるし離れているなら落ち合うまでには振り切っている可能性もある

 

「──その次の十字路を左折してください

道なりに走りながら逐一連絡をお願いします、合流しましょう!」

 

『了解しましたぁ〜!』

 

間髪入れずに宇津木さんから返答がありひとまず安心する

一度顔を出して後ろを見ると少し離れた位置にチャーチルが、その左後ろにマチルダⅡがそれぞれ1輌見えた

 

『──こちら四号車Dチーム!左折して道なりに走行中

隊長車、現在敵との距離はどれくらいだ!?』

 

(…杉野さん?)

 

ちょうど残る2輌との距離を見ていた時、無線に響いたのは先程までとは違い宇津木さんではなく杉野さんの声だった

 

「──こちらAチーム、グロリアーナ編隊とは500mないし600m程距離があります

先頭はチャーチル、その左後ろにマチルダです」

 

『了解、撃破されずにそのままの距離を維持することは可能か?』

 

現状麻子さんが頑張って回避行動を続けながら逃げ続けているおかげで後続2輌は攻めあぐねており、砲弾の消耗を抑えておきたいからか砲撃の感覚は疎らだった

…これなら合流するまで逃げ切ることは可能だろう

 

「──わかりました、何か策があるんですか?」

 

『──あぁ、神風を吹かせてやる!』

 

この時は杉野さんの言葉の真意が見えなかった

 

「──xxの00地点の曲がり角が見えたら右折してください」

 

『あいよ!』

 

状況をすべてひっくり返す神の風が吹き荒れるまで、時間は刻一刻と迫っていた

 

『右折したぞ───』

 

入ってきた連絡からM3の現在位置とこちらの位置を頭の中で組み立てる

もうお互いにかなり近い位置まで来ていた

 

「次のT字路を左折してください!」

 

「わかった」

 

麻子さんから短い返答があるとその先の十字路を左へ、キューポラから顔を出すとその視界にはこちらへ向かって爆走するピンクのM3とその後ろ、距離約1000m前後の位置にマチルダⅡを確認することが出来た

 

『──ワレ、コレヨリ突入ス───ワレ、杉野一番!!』

 

杉野さんは私達の乗るIV号とすれ違い速度を一切落とさずに先程私達が曲がってきたT字路へ右向きにスライドしながら突っ込んでいく

 

(杉野さん…!?)

 

M3はT字路へ侵入すると右側へ砲身を向けて主砲と副砲をそれぞれ1発ずつ撃つとそのトップヘビーが影響してかM3の車体は左に大きく傾き俗に言う片輪走行の状態に陥る

そしてその直後…

 

 

___ゴッシャアアアンッメキメキメキ…

 

 

片輪走行のまま後続で追いかけてきていたチャーチルの前部装甲部に乗り上げると勢いそのままに分厚い鉄を無理やり引き裂くようなけたたましい音を立ててチャーチルの砲身をM3の履帯で轢き潰した

 

「な…えっ!?」

 

驚愕のあまり声にならない声しか出ない私を他所にM3はチャーチルにぶつかりながら乗り上げたことで急激にバランスを崩してそのまま横出しの状態になったままズルズルと地面を滑走しT字路の突き当りの壁に突っ込みながらも更に10mほど滑走してようやく停車した

夥しい量の土煙を巻き上げて横転状態で鎮座するM3からは軽快な音と共に白旗が上がる

 

『──四号車Dチーム、搭乗員は全員無事だ

あとは任せたぜ、大将───ッ!』

 

 

 

通信手用の通信機の操作方法を宇津木に教えて交信を試みた結果、ようやく無線の不調も完治して無事に西住たちと無線がつながったようだった

 

『──こちらAチーム、現在行き止まりで3輌に囲まれています

合流は…難しいかもしれません』

 

しかし状況はあまりよろしくなく、現在3輌に取り囲まれた状況だと同じ内容を受信した澤から操縦手用の内線機に返答が来る

 

(チッ…やっぱり甘くねぇな、いくら西住でも3輌を相手取った状態では無事では済まなそうだ)

 

3輌に包囲されてるだけでも厳しいが付け加えて行き止まり、これでは流石に撃破されるのもやむ無しか…そう思ったところでふと後ろから猛烈に嫌な気配(・・・・)を感じ取り俺はその気配が消えるまでM3の車体を大きく横にスライドさせた

 

その直後に先程まで走行していた位置にスドンッと大きな音を立てて砲弾が命中した

 

『敵襲です!マチルダⅡ1輌が追ってきてます!』

 

「クソッ!しつこい奴らだなチクショウが!!」

 

囲まれていると言われた時点で気づくべきだった、全く考えるべきことが違っていた

相手は4輌いて西住達が囲まれていたのは3輌、残る1輌はこちらを撃破する瞬間を虎視眈々と狙っていたという訳だ

 

「全速力で逃げるぞ、西住から連絡があったらその都度教えてくれ!」

 

『わかりました!』

 

速力を上げて入り組んだ路地へ入っていき、決して一直線上にマチルダⅡの照準器に収まらないように縦横無尽に駆け巡っていく

照準にさえ収まらなければマチルダⅡ程度の速力なら引き離しこそすれ距離を詰められることはない

そんなこんなで逃げ回っていると

 

『──こちらAチーム、Dチーム応答できますか?現在の状況を教えてください

問題がなければ合流しましょう』

 

澤からの内線で西住がこちらと合流したがっていると報告を受けた

何とか囲まれた状態からは逃げ出せたのだろう

 

(しかしIV号の後ろにはチャーチルとマチルダⅡはまだいるんだろうなぁ…)

 

加えてこちらも距離はだいぶ離れたとは言えマチルダⅡに追われている状況だ

下手に合流すれば挟み撃ちの形になるかも知れないが…

 

(──いや、待てよ?これはもしかして)

 

やりようによってはチャンスかも知れないと頭の中で状況を組み立てていく───

そして上手く行けばグロリアーナ編隊を一網打尽にできるかも知れないと思ったところで一つ大きなハードルがあることに気づく

 

(1年たちを巻き込むにしてはあまりにも危険だな…)

 

ではどうするか、他に現状を打破する方法はあるのか?

そう考えたところで一つ大きくため息を吐く、そんなものがあるならここまで思い悩まないと最初からわかっているから

 

「──澤、相談がある、君の意見が聞きたい」

 

『え…?は、はい!なんですか…?』

 

俺は澤に思いついた策を伝え、その上での判断を彼女に任せることにした

本来の俺の役目は通信と指南役、何も伝えずに作戦を立てて実行するのはあまりにも勝手が過ぎる

それは彼女たちの成長には繋がらないし、ただの年配者の押しつけになってしまうからだ

 

「──西住達から合流の指示が来たらそのまま落ち合うと見せかけて素通り、後続で追ってくるグロリアーナ編隊のマチルダⅡを至近距離から砲撃し

チャーチルの装甲に体当りして乗り上げ、砲塔を使い物にならなくさせる」

 

『…それは可能なことなんですか?

──いや、杉野先輩が言うって事は可能なんでしょうね』

 

俺の伝えた作戦概要を伝えると無線越しにわかるレベルで澤の声色は沈んだ

 

「もちろん、そうする手は考えてる…

だけど聞いてわかるかも知れないが───」

 

『──私達も相応に危険な状態になるってことですね?』

 

澤からの返答に俺はああと頷く、戦車内部には特殊カーボンという砲弾を通さない素材が使われ

そのお陰で人が死ぬことはない、極稀にフラッグが上がってからも砲撃を打ち込まれてカーボンが破損することもあるがまぁ公式戦なら万に一つもそんなことはないだろう

ただし、衝撃まではどうにも出来ない

 

「チャーチルの装甲を乗り上げるには相応の速度、M3の最高速度のまま体当たりをかます───

車内にかかる衝撃もそれなりだろうな」

 

『──まさか初めての試合でこんな判断をすることになるなんて…』

 

それについては本当に申し訳ないとしか言いようがない

しかしだからこそなるべく切りたくない手札な為、澤に相談を持ちかけたのだ

誰か怪我をするかも知れない手など作戦の中でも下の下、決して褒められるものではない

 

「すまん澤、あまりにも判断が厳しければ忘れてくれ」

 

『──いえ、やりましょう』

 

流石に酷だったかと策を取り下げようとすると以外にも澤はやる方向で食い下がった

 

「おい、良いのか?危険なことするってのはわかってるんだろ?」

 

『勿論わかっています、でも他にも手があるなら杉野先輩はこんな事言いませんよね?

…それに、杉野先輩がいなかったら私達はM3から逃げ出して既に負けている身です』

 

ならば一か八か、この状況をひっくり返すこの作戦に賭けたいと

澤は真剣そのものな声色で語った、全くつい先程まで逃げ出そうとした人間が僅かな時間で成長したものである

 

作戦も決まった為、宇津木が現在位置を伝えて西住とやり取りをし、澤から内線越しに指示をもらい眼の前の十字路を左折する

 

「澤、内線の受信機に通信機のマイクくっつけて俺の声を西住に届くように出来るか?

通信の食い違いがあっちゃ全て水の泡だから出来れば直接やり取りしたい」

 

『わかりました!』

 

さて、久々に無茶をしなければならないな

コレでミスったら本当にカッコ悪い、1年たちに覚悟をさせたのだ

こちらはこちらでしっかり決めなければならない

 

「──こちら四号車Dチーム!左折して道なりに走行中

隊長車、現在敵との距離はどれくらいだ!?」

 

本来であれば澤に届くこの通信は、通信機に繋げられているため西住に直接届く

あとは西住からもらう敵車輌との位置情報と体当たり直前に見える目視での距離で微調整すればいい

こういう無茶もしばらくして無かったとは言え慣れたものだ

 

『──こちらAチーム、グロリアーナ編隊とは500mないし600m程距離があります

先頭はチャーチル、その左後ろにマチルダです』

 

「了解、撃破されずにそのままの距離を維持することは可能か?」

 

思っていたよりは少しだけ距離が空いているが逃げ回ることを考えるとこのくらいがベストか

しかしこれより離れてると最悪西住を発見した時に一瞬見落とすかも知れないのでその相対距離を保つことは可能か聞いておく

 

『──わかりました、何か策があるんですか?』

 

「──あぁ、神風を吹かせてやる!」

 

勘の良い西住はそれだけで俺がなにかすると気づくだろう

しかし下手に期待させて失敗したら目も当てられないためあくまで何をするかはぼかして伝える

──いやマジここまで来て外したら本当ダッセェよな

 

『──xxの00地点の曲がり角が見えたら右折してください』

 

「あいよ!」

 

西住から指示されたのは現在地から二つほど先の曲がり角

ほぼ全速力で駆け抜けてるため快速なM3だとすぐにその地点まで到達する

 

「宇津木!丸山!砲弾装填行けるか!?」

 

「任せてくださぁい!」

 

「……」

 

内線機は通信機と繋げてしまっている為直接声を張り上げて二人に指示を出す、相変わらず丸山からの返答は無いが後ろで作業する音は聞こえるので大丈夫だろう

 

「右折したぞ───」

 

西住から言われた地点を曲がると奥のT字路から西住達の乗るIV号戦車が左折してくるのが見える

そして壁越しで砲塔見え隠れする程度だがチャーチルとマチルダⅡはまだ曲がり角の向こう、まだ離れた位置にいるようだった

 

(しめた!この距離ならちょうど向こうが曲がる直前にT字路に入れるな)

 

奇襲をかけるには丁度いい距離だと内心ほくそ笑みながら俺は更にアクセルを吹かしてM3を加速させる

速度計は見てないがそろそろ最高速度に到達する頃だろう

 

「総員衝撃に備えろ!ただし砲手はT字路を出た瞬間砲撃するから砲撃した瞬間近くのものに掴まれ!!

砲の照準は敵に合わせなくて良い!右60°仰角は0°固定で指示と同時に撃て!!」

 

「「「「「はいッ!!」」」」」

 

山郷と大野は言われたとおりに照準を動かしそれ以外の者は屈んで近くの物に掴まったり等してその瞬間に備えた

 

「──ワレ、コレヨリ突入ス───ワレ、杉野一番!!」

 

IV号戦車とすれ違った瞬間、俺は西住に向けた通信を送る

頭の回る西住ならこの内容だけで体当りすることに気づくはずだ

…後半はついいつもの癖で言ったしまった完全なる蛇足である

 

「撃てッ!!」

 

T字路の直前にトップスピードのまま一瞬右の履帯に制動をかけることでバランスの悪いM3は左にゆっくりと傾き始める

直後にT字路に入った為砲撃指示、空気を震わせる砲撃の音と共に主砲と副砲を同時に撃った衝撃で傾いていた車体は更に大きく傾き右の履帯が完全に宙を向いた

 

「弾着有効ォオオオッ!!」

 

左に大きく傾いた車輌の中、操縦手用に設けられた小さな窓から二つの砲撃はマチルダⅡに当たり白旗を上げさせることに成功した事を確認、しかし上手くいった事を喜ぶ暇もなく視界いっぱいにチャーチルの砲塔が映り込んだ

 

___ゴッシャアアアンッ

 

大きな衝撃音とバリバリメキメキと鉄を引き裂くような不快な音

そして衝突の強い衝撃が車内を走った

 

『きゃああああっ!?』

 

車内のあちこちから悲鳴が上がる中、M3は左に完全に横転してその直後俺は操縦席から投げ出された

 

(あ…ヤッベ!?)

 

どっちが前か後ろかもわからないごちゃまぜになった空間の中、背中に大きな衝撃が走る

どうやら咄嗟に身体を捻ったおかげか計器盤に背中から落ちたようだ

 

T字路であったため眼の前には石でできた外壁があったが何十トンもの鉄の塊を前にあっけなく倒壊し少しの間ズルズルと地面を滑走してからようやく停車した

 

()ってて…皆、無事かッ!?」

 

停車したことでやっと身動が取れるようになり、計器盤に乗っかった身体を起こすと車内の1年たちに声をかける

 

「梓大丈夫です!」

 

「あやも大丈夫です!」

 

「優季無事でぇす!」

 

「桂利奈絶好調です!」

 

「あゆみも平気です!紗希も大丈夫だって言ってます」

 

全員から無事だと各所で声が上がりひとまず胸を撫で下ろす

かなり手荒なやり方ではあったがけが人は誰一人として出ていない、なによりだ

 

「──四号車Dチーム、搭乗員は全員無事だ

あとは任せたぜ、大将───ッ!」

 

中の人は無事だったとは言えチャーチルとの衝突、横転時の衝撃、外壁を破壊して尚滑走した衝撃により車体のダメージは深刻であった

現に車輌からは白旗が上がっており、行動不能だ

しかしお膳立てはできた、搭乗員の無事とあとは任せたい旨を西住に通信を送り内線機の電源を落とす

 

砲撃の出来ないチャーチルなど脅威ではない残るマチルダⅡも1輌のみなら西住にとって脅威たり得ないだろう

 

「──杉野先輩!回収車来ましたよ!!」

 

「おう!今行く〜」

 

澤から声がかかり車内から出る、さぁ出番の終わった役者は舞台袖に戻るとしよう

 

 

 

「ありえませんわ…!」

 

チャーチルの中で誰かがそうボソリと呟く、周囲の声が霧がかって遠くそれが誰の発したものかは検討がつかない

 

「ダージリン様…」

 

横に控えていた装填手のオレンジペコに名を呼ばれてハッと我に返る、心配そうに見つめる彼女の表情で私の思考は現実に戻された

 

(震えている…?私が…?じゃあもしかして…)

 

少し冷静になれば自身の身体が小刻みに震えていることに気づく

こんな事もわからないほど周りが見えなくなっていたなんて隊長失格だと自嘲しながら

先程の呟きも無意識のうちに私自身で出してしまったものだと検討をつける

 

ほんの少し前まで4対2の圧倒的に優位に立っていたはずが今ではこのザマ、全くどこで戦い方を間違えたと言うのだろうか

 

(…消耗を抑えるべくM3の撃破を後回しにしたこと、これが完全に裏目に出たわね)

 

敵の隊長車を包囲する前、私達の車輌は一度M3を完璧に射程内に収めていた

しかし並ならぬ卓越した操縦に砲弾がかすりすらせず、消耗を控えるべく見逃したのだ

今思えば意地でも追いかけ回し撃破していれば流れも違っただろうがもはやこうなっては遅い

 

『申し訳ありません…撃破されてしまいました』

 

残るマチルダⅡ1輌からも撃破されたと報告が入る

包囲網から敵のIV号戦車が逃げる際にマチルダⅡ1輌が、そして先程T字路に侵入した瞬間に同じタイミングで飛び出してきたM3からの主砲と副砲の同時射撃により更にマチルダⅡ1輌が

今は残っていた先程までM3を追いかけていただろう隊列から離れていたマチルダⅡ1輌がIV号戦車により撃破された

 

これで残るは一対一、しかし正確には先程のマチルダⅡ撃破直後のM3からの体当たりで砲身があらぬ方向に捻じ曲げられ砲の撃てないチャーチルといまだ健在のIV号戦車だ

──コレではいくらなんでも勝負にはならない

 

(…ゲームセット、と言ったところかしら───)

 

グロリアーナ隊としてはここは無駄な抵抗はやめて大人しく撃破されるのが優雅なのだろう

負けるとわかっていて最後まで悪あがきをするのは優雅ではない

…しかしなぜだろう、それが校の教えであり誇りだとわかっていて尚

全くその気にはなれなかった

 

「急ぎ転身、全速力にて逃げなさい

向こうの弾切れを狙えればまだ勝負になるわ」

 

「ダージリン様、宜しいのですか?」

 

私の出した指示を即座に聞き返すのはアッサム、この娘は長年私の右腕を務めていただけあり

この判断がグロリアーナの校風にそぐわないことに気づいているのだろう

 

「──良いのよ、これは私の判断です

仮に上から何を言われようと私が抑えましょう

…それに、ここまでやられて安々引き下がれるほど潔白な思考は生憎持ち合わせていなくてよ」

 

「…それもそうですね」

 

顔を見合わせて暫し笑い合う、やはり彼女のように裏表なく話せる存在は好ましく思う

軽口を叩き合えばいつの間にか身体の震えは完全に収まっていた

──さぁ試合を再開しよう

手負いの獣が恐ろしいということをアイツラに理解させてやれ───

 

それが私達グロリアーナ隊の恐ろしさなのだから───。

 

 

 

 

 




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