ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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決着

 

「杉野先輩!ここならよく見えますよ!!」

 

「わかったわかった、急かすな」

 

撃破された、というか自滅した俺達は回収車により戦車の回収と共に当初の会場へ戻ってきていた

そして試合の行く末が気になるのか1年たちは我先にと会場に設置されたモニターへ早足で向かっていくのだが俺は今阪口に手を引かれて半ば強制的に急かされていた

 

「もぅ〜、センパイ

急がないと試合終わっちゃいますよ?」

 

「焦らなくてもそんなすぐに決まったりはしねぇよ」

 

先頭集団からこちらを見かねてか宇津木が横までとてとてと駆け寄ってそんな事を言うがそれはそれであり得ない

そう確信してる為に言ったのだが、真意がわからなかったのかゆっくりと前を歩く集団からぞろぞろと1年たちが困惑した表情で戻って来る

…丸山はなんかモニターも見ずに全く関係ない方角の空を眺めていた、猫かな?君は…

 

「すぐに決まらないって、どういうことですか…?」

 

前から戻ってきた大野にそんな事を聞かれるが言葉の通りである

というのも、基本的に動く戦車にはそう安々と砲弾なんて当らない

ましてや低速なチャーチルとはいえそれを操るのはグロリアーナのベテランだ、先程までは西住達が逃げる側だった為に利用できていた市街地と言うレイアウトも攻守が変われば当然逆の意味で作用する

 

「砲身は潰した、と言っても攻撃手段がなくなっただけで向こうはまだ負けてない───

本気で逃げたら速度差が倍あるとは言え簡単には当てられねぇぞ」

 

「え…それじゃあ負ける可能性も?」

 

「いや、それはない」

 

そう言うと澤が不安そうにし出した為、そこはハッキリと断言しておく

大洗の戦車道メンバーの中でも西住達が乗る隊長車のIV号メンツは飛び抜けて練度が高い

冷泉は天性の操縦センスがあるし、砲手の五十鈴も集中力と砲撃条件が揃った際の命中精度は思わず舌を巻く

そして西住は逆境や土壇場においては全国の戦車道チームの中でもトップを争うレベルで奇策を練りだす天賦の才がある

 

「グロリアーナの隊長車は弾切れ狙いで逃げ回るだろうが

──それより早く決着はつくだろう」

 

言っている最中にも逃げるチャーチルの装甲に一発、二発とIV号の砲撃が着弾する

しかしそのご自慢の硬い装甲で何とか撃破は免れて逃げ延びているのだ

 

「どうにも攻めきれてなさそうですね…」

 

「ありゃグロリアーナの操縦手が良いんだよ、上手く照準が定まり切る前に回避運動で軸線から外れるようにしてる」

 

同じ砲手としては見ていて思う事があるのだろう、やりにくそうだなと言った感じで山郷が呟くので逐一訂正を入れておく

そしてそんなこんなで話しながらモニターを見ていた時に事態は大きく動くことになった

 

(お──ここで決めに行くか…!)

 

一度砲撃を辞めたIV号は車体一気に加速させ、更に狙いを澄ますようにチャーチルへ急接近していく

今までの照準重視と違い接近することを重視して動くIV号はみるみるうちにチャーチルとの距離が300m、200mと詰まっていく

 

ドンッと一発、おそらくは牽制半分と距離が詰まったことで照準に僅かなズレが生じていないか確かめるように砲撃がチャーチルを襲う

しかしその砲弾は車両後部の砲塔装甲に防がれて装甲に凹みを作る程度に留めた

 

更に距離は詰まり凡そ100m前後、再びIV号から放たれた砲撃はチャーチルの車両後部

砲塔と車体の隙間に吸い込まれていき軽快な音と共に白旗を上げる

 

「やったあああっ!」

 

「すごいすごいッ!勝ちましたよ杉野先輩!!」

 

ワイワイキャーキャーと喜色に満ちた声を上げる一年たちを尻目に、何とか勝てたことに安堵した

こんな無茶をしなければ勝てなかったのだ、やはり強豪校の壁は高い

まだまだ先が思いやられるなと思いながら皆と一緒に西住たちを出迎えに行った

 

 

 

「次弾装填──急げますか!?」

 

「勿論です!!」

 

激しく揺れ動く車内で、私は逃げ回るチャーチルから視線だけは話さずに声を張り上げて装填手の秋山さんに指示を出す

 

(っ…せっかく杉野さんがチャンスを作ってくれたけど、やっぱりそれで楽に勝てるような相手じゃない!)

 

反撃することは現在のチャーチルには不可能なため、その動きを見切るためにジッと敵を観察することになる

そうすることで嫌でも敵の隊長車の練度と言うものを思い知らされる

重く鈍重な筈のチャーチルが、とてつもなく機敏に左右へと照準をつけられないように動く

 

(どうしようか…)

 

このまま少し距離を取ったほうが向こうが路地などに隠れても追うことが出来るが離れてる分命中率は低い

反面、近づけば命中率は上がるが咄嗟に曲がられたりしたらちょっとの遅れで逃げられるかも知れない

 

「…西住殿…伝えにくいんですが───」

 

「──こっちも伝えておくことがある」

 

ウンウンと唸っていた私に大変言いにくそうな顔で秋山さんと正面を向いているためその表情は見えないが麻子さんから声がかかる

 

「砲弾の残量が先程の砲撃で残り10を切りました」

 

「こっちの燃料も心許ない、巡航なら30分前後───

全開で動けばいいとこ10分程度だろう」

 

私達の乗るIV号戦車は試合開始から最前線で動き続け揺動などで砲弾も他のチームに比べて多く撃っている

そのツケが今になって回りは始めて来ていた

 

「…距離を詰めて勝負を決めましょう

麻子さん、燃料は気にしないで良いです

チャーチルに目一杯近づく事は出来ますか?」

 

「わかった」

 

「連続での射撃は装填の早さがものをいいます、秋山さん

少し無茶をお願いしますがもっと早く装填してもらうことは出来ますか?」

 

「喜んで!」

 

「五十鈴さん、精密射撃は神経を使いますがここで仕留めたいです

お願いできますか?」

 

「任せてください、決めてみせます」

 

私の言葉に3人は力強く応えてくれる

あぁ、私は本当にいい友達を持ったなぁ

 

今この瞬間だけは、私は何も怖くない

そう思えた

 

 

「これより最終局面に入ります───」

 

私の言葉に頷くようにIV号の車速が上がる

みるみるうちにチャーチルとの距離が詰まり、数度の砲撃がその巨体に吸い込まれるが距離を詰めても尚当たらなかったり当たっても装甲によって防がれたりする

 

「次で決めます…!」

 

視界に捉えるチャーチルとの距離は更に詰まり残り200

再度放った砲撃は惜しくも砲塔に当たって凹みを作るだけに留まった

しかしコレで距離を詰めたことによる照準補正も終わったようで、五十鈴さんは真剣な表情でそういった

 

__ズドンッ

 

大きな音と共に放たれたIV号戦車の主砲は狙い通り砲塔と車体の隙間に吸い込まれ

五十鈴さんの宣言通りチャーチルに白旗を上げさせることに成功した

 

あとから秋山さんから聞いた話だがこの時点で残りの弾薬数は僅かに5発

更に徹甲弾は1発で残りは対戦車戦にはあまり向かない榴弾だったというのだから本当にギリギリのところでの撃破だった

 

 

「──負けましたわね…」

 

撃破され、行動不能に陥ったチャーチルの中で

私は1人そう呟く

あぁ、負けた…負けたのだ

つい先日戦車道を復活させたばかりのチームに、栄えある聖グロリアーナの我々が

それも相手の数に合わせたとは言え本気のメンバーを集めたというのに

 

「ダージリン様──!?」

 

横に控えたオレンジペコが驚いたようにこちらを覗き込む

不意に頬を伝う温かいものに気づいた、…私は泣いてしまっていたようだ

 

「──悔しい!

私は今、猛烈に悔しいのよ!!」

 

「…え?」

 

これがまだ練習試合だから良かった

いや良くない

大会までには対策すればいい

いやそんなことで飲み込めるほどの現実ではない

どれだけ肯定的に捉えようとしてもそのすぐあとには否定的な気持ちがこみ上げる

 

「彼女たちを見なさい!我々よりも明らかに劣った戦車で

搭乗員の練度だって劣ってる、だけども勝ったのは彼女たちよッ」

 

あぁ、悔しい

本気で悔しい、これが悔しくなければなんと言うのか

 

「しかし──認めなければならない」

 

そう、いくら悔やんだところで結果は変わらない

彼女たちが勝者で私達は敗者、それに実際に戦えばわかる

戦車道を始めて数日だというのに、彼女たちは非常に優れた戦車乗りだということを

 

「だからこそ、この結果を受け入れなければならない」

 

今年の夏の公式戦には彼女たちも参加するのだろう

その時こそ、この悔しさを彼女たちに突き返すチャンスなのだ

 

(この借りは高くつきましてよ───!)

 

 

 

会場の方へ戻ってくると皆が私達を出迎えてくれた

 

「いや〜…まさか本当に勝っちゃうとはね」

 

流石に最初の試合で勝てる可能性は低いと踏んでいたのだろう

生徒会長は嬉しさ半分、困惑半分といった様子だった

あははと軽く愛想笑いをして辺りを見渡す

お目当ての人物はすぐに見つかった

 

「お──西住…見事だったな、お疲れ様」

 

そう言って笑いかける彼女…杉野さんに、努めて冷静に私はこういった

 

「うん──ひとまず正座してくれるかな?」

 

「へ?」

 

気の抜けた彼女の声が辺りに響くが、私は至極真面目だ

 

「正座」

 

「あ、はい」

 

短くもう一度促すと彼女は渋々ながらその場に正座で座り込む

その姿がやけに堂に入っており、明らかに慣れていることが伺い知れる事から相当似たように怒られてきたのだろうなと言うのが察せられた

 

「何で怒ってるかわかりますか?」

 

「いや、心当たりがあれば正座する前に謝ってるが──」

 

「──本当にわからないんですか…?」

 

「怖っ、ちょっ!?どっから出したそんな声!!」

 

今回の試合においてのMVPは間違いなく杉野さんだ、それは間違いないのだが

一年生達を導く先輩として、又は一人の戦車乗りとして無茶をしすぎた、だからこそ本来ならば彼女に感謝したいのに怒らざるを得ない

それをわかってくれない彼女に対してどうにも悲しくなって、自分の感情を抑える事もままならなくなって、気づけば自分でも驚くほど低く威圧的な声が出ていた

 

「…無茶し過ぎなんですよ、あの勢いでチャーチルと衝突して

そのまま横転したM3を眼の前で見せられた私がどんな気持ちだったかわかりますか…?」

 

「はぁ…まぁ」

 

一息ついてようやく私の気持ちも落ち着いて、言いたいことがちゃんと伝えられるようになった

でも彼女はバツが悪そうに視線を逸らすだけだ、あぁきっと似たような場面になったら同じことをするんだろうなと言うのは手に取るようにわかる

今なら彼女がスクールで戦車を廃車にしまくってクビになったことの真実がわかる気がする

あの頃私は杉野さん自身をあまり知らなかったし、言ってしまえば映像の向こうの人という気持ちのが強かった

彼女の試合を初めて生で見たあの引退試合の時までその気持ちは強く残っていた

しかし彼女の人柄に触れ、彼女と接すれば接するほど毎度のことのようにあんな戦い方をされては見てるこっちの精神が持たないのだ

 

「──でも、杉野さんのお陰で勝てたと言うのも大きいですし…お説教はここまでにします」

 

「お、おう…」

 

「ただし、罰として撤収作業が完了するまでそこで正座していてくださいね」

 

正座の継続が決定して「えー…」と不満げにする彼女だったが文句は言わせない

撤収作業を済ませるべく一度持ち場に戻ろうとしたところ背後から「待ってください」と声が掛かった

 

「あれ…Dチームのみんな、どうしたの?」

 

そこにいたのは澤さん達をはじめとしたM3の搭乗員全員だった

横一列にずらりと並び、何も言わず一斉に私に向かって頭を下げる

 

「えっ…ちょっ」

 

「すいません、西住隊長…私達の話を聞いてくれませんか?」

 

悲痛な面持ちで皆を代表してそう語る澤さんに私はただわかったと頷くことしか出来なかった

 

「実は私達…試合の途中に戦車を放りだして逃げようとしたんです」

 

「え…」

 

そのことに関しては流石に驚かざるを得ない内容だった

しかし私に話が入らなかったということは特に杉野さんは咎める必要がないと踏んで黙っていたのだろう

 

「それを必至に止めてくれたのは杉野先輩です、車長の私が止めなきゃ行けなかったのに私には止めることが出来ませんでした」

 

「……」

 

何も言えずにふと杉野さんの方を見ると即座に視線を下に移した

…本人は別にそれは仕方のないことだと思ってる節はあるのだろう、まぁわからなくもないけど

 

(…あれ?)

 

不意に一年生のほとんど(丸山さんを除いて)の顔色が悪く変にやつれていることに気づいた

 

「…みんな、体調とか大丈夫ですか?

今回の試合は色々と厳しい場面がありましたけど…」

 

「あ、いえこれは違うんです…いや、ある意味では違わないですが───」

 

実は__と口を開いた澤さんの口からは驚くべき内容が語られた

曰く敵戦車に追い立てられ、もうダメだと思った時杉野さんが操縦を変わったのだという

 

「え…じゃああの時操縦してたの杉野さんだったの?」

 

チャーチルに体当りする直前、やけにM3の動きがいいと思ったし

無線でも本来通信手の杉野さんではなく途中まで宇津木さんが担当していた訳だ

 

「最後の方は情報の入れ違いがあるといけないからと内線と受信機と通信機をくっつけて交信してました」

 

「だから途中から杉野さんが出てたんだ…」

 

そして、と付け加えて澤さんは言う

 

「チャーチルへの体当り、最初に提案したのは杉野先輩ですが

取り下げようとするのを押し通したのは車長の私です」

 

「……」

 

そう言われると言葉が出ない

あの体当たり、まさしく全盛期の【デストロイヤー】と呼ばれた杉野さんの戦い方そのものだった

だからこそ一年生の子たちを巻き込んだなら、と思ったのだがそれを車長が受け入れたというのなら話は変わってくる

 

「皆を巻き込んだというのなら私の責任です、杉野先輩は可能性の一つとして作戦を提案しただけですから───

危険なことなら戦車から逃げ出そうとした私達こそ叱咤にあうべきです」

 

「…顔を上げてください」

 

再度頭を下げる澤さん達に私はそれしか言うことが出来ない

 

「ごめんなさい杉野さん、少し思い違いをしてたみたいです

それに澤さんたちも、そこまで反省出来てるなら私が更に怒るのも違うと思いますから」

 

恐る恐ると言った様子で澤さん達は顔を上げてお互いを見合わせる

その時───

 

「──宜しいかしら?」

 

私の背後から急にそんな声が掛かった

 

 

「──貴女が隊長さんですわね」

 

「あ、あぁ…はい」

 

眼の前でおどおどと自信なさげに肯定する彼女に、私は試合前にも感じた既視感を覚える

 

「貴女、お名前は?」

 

「西住…みほです」

 

彼女から名前を聞いて合点が行く、彼女は西住流の姉妹の妹の方だった

何で今まで思い出せなかったのかが不思議なほどだ

高校の試合でならまだしも中学の試合では一度は顔を見てる筈だった、きっと既視感を覚えたのはそのためなのだろうけど

 

「…ずいぶんお姉さんとは違った戦い方をするのね」

 

少し嫌味な言い方になってしまったかも知れないが、私は好意的な意味でそう言った

黒森峰の流儀とは反してはいるが彼女の戦い方はまた別の意味で磨きが掛かれば強敵となり得る存在だから

 

「…それとM3の操縦手の方はいらっしゃいます?」

 

あれだけ手を焼かされ、敗因の一番の元凶となった相手を知っておかねば帰れない

そんな思いが強くて隊長の彼女へ聞くと彼女の後ろに立っていた6人の中でも小柄な子と少し話をして手を引いて私の前まで連れて来る

 

「Dチームの操縦手の阪口桂利奈さんです」

 

「桂利奈です!」

 

しかし彼女を見て私は逆の意味で驚く事となる、後ろに控えるオレンジペコと同じ程度の身長だからということではない

彼女の受け答えにあまり知性を感じられないということでもない

彼女からは強者特有の独特なオーラというものが感じ取れなかったからだ

 

「…貴女がチャーチルに体当りした操縦手さん?」

 

口外に「本当にそうなのか?」という疑問の念を抱きながら彼女に聞いてみたところ

彼女はすぐに首を横に振った

 

「普段は私が操縦手なんですけど、あの時操縦してたのは───」

 

彼女が後ろを振り返り、釣られるように後ろの5人も振り返る

そこにいたのは…

 

「え?…なに?」

 

正座の状態から立ち上がりスカートの裾についた砂汚れを手で払ってる更に一際小柄な少女だった

 

(っ!?)

 

しかし一見子供と見間違えるほどの、高校生とは思えない姿の彼女は纏うオーラはかつて見たことないほどの雰囲気を漂わせている

というか…

 

(あれ試合前に目が合った子じゃありませんこと!?)

 

あの時感じた嫌な気配は当っていた

 

(しかし…見れば見るほど目つきが悪い…顔立ち自体はかなり整っているようだけれど)

 

彼女はとてつもなく目つきが悪い、視線がこちらに向いただけで思わず身構えてしまう程だ

ふと後ろを振り返ればアッサムも表情を固くしているし、オレンジペコに至っては顔を青くしてる

 

「…貴女、お名前は?」

 

後ろ向きな気持ちを押し殺すかのように私は彼女の名前を聞く

 

「──杉野、杉野直緒だ」

 

しかし彼女の名前は過去に戦った強豪校等の情報とは残念ながら合致しなかった

 

(…あのマフラー、どこかで見た覚えはあるのよね)

 

ただ、彼女の身につけるマフラーには見覚えがある

紫色のマフラーを巻いていた戦車乗りを私は一人知っている

記憶の中の人物が中々に思い出深い人だからか、思い出すのにそれほど時間は掛からなかった

 

「──宮さんはお元気?」

 

「宮さん?…あぁ、ミヤブンのことか」

 

眼の前の彼女はうん?と少し考えるように首を捻るがすぐに納得したように呟く

どうやら知り合いで間違いないようだ

 

「なんだミヤブンの知り合いだったのか」

 

「私達の地元は横浜ですから、それで」

 

「あぁ、そう言えばあの人は横須賀戦車スクールの出身だったっけ」

 

そう言って懐かしむように語る彼女に私は少しだけ違和感を覚えた

 

「知り合いってか、前の部隊では一緒だったけど───

2年近く会ってないからな、たまーに連絡は来るけどそれも稀だし…」

 

「…そう」

 

少し残念だ、最後に彼女を見た時に巻いていたマフラーと同じものを身に着けているこの少女なら

彼女の直近を知っていると思ったのだが…

 

「聞きたいのはそれだけか?」

 

「ええ、たくさん収穫はありましたもの

充分です」

 

それと、と付け加えて

彼女ににっこりと笑いかける

 

「──次は、負けませんわよ?」

 

「…おぉ、こわっ」

 

 

 

 

少し時間が立ち、撤収準備が済んだため私達は聖グロリアーナの学園艦に戻ってきていた

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

しかし何故か付き従う二人の空気は重たい、オレンジペコは顔色が悪いままだしアッサムも表情が固いままだ

こんなことでは私の気も滅入ってしまいそうだった

 

「ダージリン様は───」

 

「何かしら?」

 

「──あぁ、いえ、お気づきになられていないのかなーと…」

 

ふと口を開くオレンジペコに私は疑問に思いながらも特に思い当たる節がない

しかし全てわかってると言うふりをするために、オレンジペコから出された紅茶を優雅に余裕の表情で一口含む

 

「…あれ、【デストロイヤー】ですよ?杉野デストロイヤー」

 

「は…?」

 

どうにも煮えきらないオレンジペコの様子に痺れを切らしてそう切り出すアッサムに私は完全に固まった

 

「別名【イエローファイター】、【魔王スギノ】とも呼ばれてる方ですね

その多くは非公式戦でのものですが、単独撃破400輌以上、共同撃破も400輌以上───

単純な撃破数だけなら日本最多撃破王と呼ばれてます」

 

ついで補足するように言うオレンジペコの言葉に私は背筋が一気に凍るような思いがした

 

そう言えば、最後に宮さんに合った時に彼女はなんと言っていたか?

確かタンカスロン限定の新しい部隊からスカウトが掛かり、新天地で仲良くなった食堂の女将さんの懇意で全員分のマフラーを作って貰ったのだと

久々に神奈川へ帰省した際に嬉しさ半分気恥ずかしさ半分で語っていた

 

その部隊の名は───

 

「松山343戦車隊剣、彼女はその中の戦闘301戦車隊

──別名新選組で隊長を務めてた人物です」

 

アッサムの言葉に一瞬くらりと意識が遠のく

あ、やばいこれストレスがマッハだ、しばらく胃薬を飲まないとやっていけそうにない

 

「でも流石ダージリン様ですね、そんな方を前に一切怯みもせず逆に笑顔で煽っていましたから───」

 

(あああああッ!!!)

 

 

清々しいほどのいい笑顔で言うアッサムに思わず叫びそうになってしまう、貴女絶対私が知らなかったのわかって言ってますわよね!?

 

仕方ないでしょう!誰があんな辺鄙な所に厄災級の魔王がいるなんて思いますの!?

 

て言うか彼女宛にティーセット送っちゃってるんですけど!?

思いっきりライバル宣言しちゃってるんですけど!!?

 

「…勿論、彼女ほどの強敵は中々いないわ

だから彼女宛に、別途でティーセットをお贈りしましたのよ?

──あれは私の獲物だと周知させる為に」

 

しかしそんな事は悟られてはいけない、何故なら私はダージリンなのだから

上に立つには相応の器がなければならない、下のものがついてくるには上の人間は弱音を吐くことは許されないのだから

 

…だからお願いペコ、そんな感極まったような瞳で私のことを見ないで頂戴?

それとアッサム?貴女さっきから顔を伏せて笑ってるのバレバレですのよ?

帰ったらお話がありますから私の部屋にいらっしゃい

今夜は帰しませんからね??

 

 

 

所変わって当の厄災級の魔王はと言うと───

 

「…あの、なにこれ?」

 

眼の前で土下座する生徒会長の角谷を相手に普段の生徒会に対する厳しい当たりも鳴りを潜めてタジタジになっていた

 

「──まさか本当に勝つとは思って無くて、もう杉野ちゃんと西住ちゃんの名前であんこう踊りの登録済ませちゃってました」

 

「いや何してんのホント!?」

 

「スンマセンした!!」

 

罰ゲームとは、真面目に頑張った意味とはと疑問を浮かべる杉野を相手に流石に完全な自分の不手際だと角谷はひたすら土下座で謝り倒してた

 

「…俺は恥かくくらいまだいいけどよ

──西住にはなんて説明する気だ??」

 

「いやスンマセン本当」

 

「スンマセンじゃなくて!何かしらの打開策は提示しろよ!?

全部俺に投げんじゃねぇ!!」

 

そしてそんな風にギャーギャーと騒いでいると騒ぎを聞きつけた西住達隊長車グループと澤達一年組、そして小山と河嶋の生徒会組がなにかあったのかとやってきた

 

「…とりあえず角谷は一度西住に謝っとけよ」

 

「ごめんね西住ちゃん」

 

「え?…え?何の話ですか?」

 

西住へ向き直り仰々しく土下座を繰り出す角谷に意味がわからないと当の西住はその横にいる杉野に視線を送る

深々とため息を吐いた杉野は土下座して縮こまってる角谷へ視線を落としながら言った

 

「…グロリアーナにガチで勝つとは思わなくて俺と西住の名前であんこう踊りの登録を前もって済ませちゃってたんだとよ、この大馬鹿者は───」

 

『ええーっ!!?』

 

途端に驚きの声が上がる、隊長車グループから武部が

一年組からは澤がものすごい勢いで角谷に詰め寄っていく

 

「どういうこと!?何で前もって済ませちゃってるんですか!」

 

「というか、それ今からでも取り消しできないんですか!?」

 

「い、いやー…毎年ただでさえ踊ってくれる人たちがいなくて

一度登録したらもう取り消しできないみたい」

 

ほんとごめん、と改めて西住に土下座を敢行する角谷だが西住は思いっきり引き攣った顔で苦笑いしてる

 

「どうする?角谷のヤロー、簀巻きにして学園艦の艦首から吊るしとくか??」

 

「いやそんな物騒な…昔の大罪人じゃないんだから」

 

冗談ではなさそうな声色で聞く杉野に西住は大丈夫だと断りをいれる、乗ったら最後本当にやりそうな為こういう時は慎重に返答しなければならないなと西住は思った

 

「…幸い、代打や減らす事はできないけど増やすことは出来るみたいだからさ───

アタシら生徒会の責任ってことでアタシらセンターで踊るから」

 

「「会長!?」」

 

まさかの飛び火を食らったことで小山も河嶋も驚いて角谷へ振り返るがごめんごめんと手を合わせる角谷に文句は言えないようだ

 

「私達も踊るよ!」

 

「そうです!お二方だけに辱めは受けさせません!!」

 

隊長車グループからは武部と秋山がそう言って全員参加が決定

 

「わ、私達も踊ります」

 

「無理しなくて良いんだぞ?恥かくのも先輩の役目だ」

 

「でも、少しでも早く先輩方と肩を並べて戦いたいんです

その為には同じものを見て同じことをするくらいの気持ちじゃないと…」

 

一応は止めた訳だが結局澤達一年組も混ざり総数15人という大世帯であんこう踊りをこなすことになった

 

「角谷あとでメシでも奢れよな!?西住達の分もだぞ!

それで俺は勘弁してやる!!」

 

「お、それくらいならお安い御用だよ〜」

 

なんだかんだ大人数でバカをやるのは思ってたよりも楽しかったと思いながらも、…まぁあんこう踊りは二度とごめんだとも思った杉野だった

 

 

 

あんこう踊りも終わり、午後7時までは自由時間ということで皆のびのびと気儘な時間を過ごしていた

 

「買い物に行こう!」

 

私達IV号の搭乗員に+1名で杉野さんのいつものメンツで固まっていた中

武部さんが突如としてそんな事を言った

 

しかし直後に麻子さんと杉野さんが予定があると立ち上がった

 

「マコはどこ行くの?」

 

「おばぁに顔見せに行かないと殺される」

 

「あー…ナオは?」

 

「春休み以来の内地だからな、筑波に温泉でも入りに行ってゆっくり命の洗濯してくるよ」

 

杉野さんは車で来てる為、一度筑波の方まで降りて日帰り温泉に行ってくるのだと言った

…いつも皆で大浴場に行くとき杉野さんはなんだかんだと断っていた為、てっきりあまりそういうの興味がないのだと思っていたけど違うようだった

 

「も〜、そういうの誘ってくれれば良いじゃん!」

 

それを聞いて明らかに武部さんは不機嫌になる、武部さんお風呂好きだもんね

私も好きだけど…

 

「ダメダメ、お前ら連れてくってなると定員オーバーだもん

学園艦ならいざ知らず、流石に定員オーバーで内地の一般道走るのは危険すぎる」

 

ぐうの音も出ないような正論で返されては流石に何も言えず、武部さんは膨れっ面のまま杉野さんを無言で見ていた

そう言えば…

 

「…あんまりにも慣れすぎてて頭から抜けてたけど

杉野さんってまだ16歳だよね?免許って───」

 

「勿論持ってるぞ」

 

「あるの!?」

 

驚愕のあまり思わず大きな声が出てしまった

いや、しっかりしてる人なのに歳的には無免許だよねとは思ったのに持ってるんだ…

 

「中学の時に戦車用に大特免許取ったからな

裏技で大特取ってから3年、又は技能知識が伴えば1年で普通自動車の限定解除が出来る」

 

「そ、そう言えばそんなのあったような…」

 

ちなみにこれは車に限った話ではない為、よくよく思い返してみれば前の学校でも一年生のうちから自分でヘリコプター等を操縦して陸まで移動していた子がいた気がする

 

「ってもその技能講習がめちゃめちゃ厳しいから9割以上落ちるし、毎年講習があるから18以下で取るやつあんまりいねぇんだよな」

 

それはそれで大変そうだけど、ひょっとしてそれに合格する杉野さんってかなり凄いんじゃ…

 

「…そう言えばナオって成績学年次席だったっけ」

 

麻子さんは学年首席、杉野さんは学年次席…

あれやっぱり私のお友達ってすごい人多くないかな??

 

「ま、今度予定が合う時連れてってやるから」

 

「わかった、お土産よろしくね」

 

ちゃっかりお土産を催促する武部さんにわかったわかったと杉野さんは笑いながら去っていった

 

「それじゃあ行こうか!」

 

「うん…あ、ちょっと待ってて」

 

二人減りはしたもののさて買い物に行こうかといったところで

視界の端の方で一年生の澤さんが歩いてるのに気づいて、私はそれだけ言い残して駆け足で追いかける

 

「──澤さ〜ん!」

 

「あれ?西住隊長、さっきはお疲れ様でした」

 

「澤さんこそ」

 

私にはどうしても気になって澤さんに聞きたかったことがあった、なにせ先程話していた時は聖グロリアーナの隊長さんに話を遮られてしまって強制的に話を切らざるを得なかったからだ

 

「ごめんね?さっきの話でちょっと気になるところがあって、すぐ済むんだけど」

 

「私に説明が出来ることでしたら…」

 

澤さんも思うところがあるのだろう、聞かれてちゃんと話せるところまでという条件はついてるが了承はしてくれた

 

「さっき途中からM3の操縦は杉野さんが担当してたって話だったよね?

──どうだったのかなーって思って」

 

「どうだったか…ですか?」

 

「私、杉野さんが戦車操縦してるの見たことないから…」

 

私が杉野さんを知った頃には既に彼女は車長として有名になっていた、でも本来操縦も出来るって言うのはネットでみたし

実際にはどれほどの技量があるのか気になるところではある

 

「…私は操縦のことはわかりませんが、実は高台から西住隊長達と合流してチャーチルに体当りするまでに3回会敵がありました」

 

「3回も…ですか?」

 

思わずゴクリと喉が鳴る、集めた情報を知る限り杉野さんが過去にM3に乗った等の記述はない

つまり慣れない戦車を動かしていたということに他ならない

 

「ですが、その全てを杉野先輩の操縦で逃げ切ってます

──あの技術は、詳しくない私が見ても神業だと思いました」

 

速度で勝っているとは言えど慣れない戦車、それも実に2年ぶりの実戦で操縦自体で言えば何年も乗って無かった筈なのに

それでグロリアーナ隊を3回も振り切った…?

もしかして全盛期から何一つ衰えていないのではないのだろうか

 

「普段の澤さんから見た杉野さんってどんな感じ?」

 

「いや物凄く良い先輩ですよ」

 

…ついでと言ってはなんだけど、一年生達から見た杉野さんについても話を聞いておこう

 

「まず基本的に絶対怒らないんですよね、なにか失敗してもその原因を探って「こうすれば大丈夫だから」って逐一アドバイスをくれます

成功したら必ず褒めてくれますし、あとは不安な時とか落ち込んでる時も毎回気づいて励ましてくれるんですよ」

 

だからこそ、時折それが凄く怖く感じることがあると澤さんは語った

 

「色んなことを知ってますし教えてくれます、失敗しても諭して訂正してくれます

…ただ時折思うんです、期待に応えられなくて───

もしこれほどまでの人に見放されたら…と」

 

そう思うと逆に失敗して酷く叱られるよりも頑張らないとと思うと続ける

…なるほど杉野さんの性格的に絶対そんなことはないだろうが、知らずの内に下につく人のやる気を自ずと出させている当たり育て方が上手いなと感心されられる

しかしそれが通用するのも一年生の皆がちゃんと意欲があって活動してるからでもある

思わぬ形でDチームの士気の高さを知れたのは大きい

 

「色々教えてくれてありがとう澤さん」

 

「あ、いえ…何かのお役に立てたなら」

 

一通り聞きたいことも聞けたため澤さんと別れ

武部さん達のもとへ戻る、このあとは買い物も含めて私の初めての大洗探索だ

 

 

 

 




二次創作特有の表面上は余裕ぶっこいてるけど内心は愉快なことになってるダー様が好きです
あと勝ちはしましたがプラウダでのみんなが決意を固める描写で困るのであんこう躍りを踊らせる運びとなりました

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