ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
八ヶ月も猶予があったにも関わらず虎の子のストックはこの14話までしか作れませんでした
ま、仕方ないね(´・ω・`)
追記
くっそしょうもない話ではありますが、ガルパンもアニメだと初期の頃の呼び方安定してないので適当に合わせてお茶濁します
「はぁ…生き返るなぁ」
温泉の湯に肩まで浸かってゆったりと寛ぐ、戦車を動かしたすぐ後に入る風呂も久々なものだ
最近は誰かと一緒にいることが多かった為、たまには一人でのんびりするのも悪くはない
(日曜だけど他に人もいないし、こりゃ貸し切りだな)
ふぅと息を一つ吐いて首元までお湯が浸かるように深めに座り直す
(…あー、平和だ)
こうしてプライベートな時間を謳歌しているとまるで先程まで戦車で撃ち合いしていたのが嘘のようだ
今までは朝から寝る直前まで訓練やその後行う戦車の整備でワザと考える時間を取れないようにしていた
「…戻ってきちまったんだよなぁ、
ふと視線を落として右の手のひらを見ると微かに震えている
それがどこか気に食わなくて、ギュと力を込めて握り込み無理やり震えを抑える
(はは…やっぱり怖ぇな、もしかしたら今度こそ…)
視線を移して右手から腹部へ、そこには左脇腹のほぼ全域に掛けて古い大きな傷跡が残っている
その傷跡に指を這わせてツーっとなぞり、途中で止めると大きく息を吸って深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから腕をだらりと身体の横で脱力させた
(…いや、縁起でもないことを考えるのはやめよう
大丈夫、きっと大丈夫だ)
何度も大丈夫と心の中で反芻して、無理やり不安な気持ちを押さえつける
こんな姿はカッコ悪すぎて西住達には見せられやしないなと自嘲しながら、2年前の
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今から約2年前の7/28日、長崎県大村
その日は珍しく剣部隊司令部に一人で呼ばれていた俺は
人の出払った会議室にて、机を囲んで向かい側の部隊司令官の
「…それは、俺に剣部隊を去れと言うことでしょうかッ!?」
先に説明のなされたことに納得のいかない俺は一度ドンッと机を叩くも、そんな子供の癇癪のようなものは問題児の扱いに慣れている源田司令と志賀副司令には通用しない
「──あぁ、そう解釈して構わない」
あくまでも淡々と、高齢を感じさせない猛禽類を思わせるような鋭い眼光で俺を見据えて源田司令は口を開く
「いったい何故…!?」
「わからんのか、聡い君なら__本当は気づいてるはずだ」
君の精神はとっくに限界を迎えている__そう続けた源田司令の言葉に直ぐには言い返せず一瞬押し黙るが、それでもと精一杯食い下がろうと口を開く
「──いえ、俺はまだ戦えます
まだまだこれからです、
しかしその反論も源田司令は顔をうつ向かせながら
あくまでも諭すように返す
「このままでは君は本当に死んでしまうぞ、わかっているだろう?」
「だからと言って引き下がる人間でないことも源田司令はご存知でしょう!?」
それがいったい何だと言うのだと言わんばかりに、納得のできない俺に対して源田司令はあくまでも淡々と述べていく
「…杉野、今日も君は試合の重圧に耐えかねて
試合終了後は身体の震えから立ち上がることもままならず、戦車から一人で降りることすら出来なかったそうじゃないか」
そこまで精神を病んでしまってる今、もはや部隊に置いておくことはたとえ隊長格としても不可能だと
どこまでも正論でどこまでも厳しい事実だけが告げられる
「だとしても、引けないんですよ…俺にはもうッ」
それでも尚引き下がらない俺に、源田司令は瞳を閉じて天井を一度仰ぐ
一瞬間が空いてから視線を戻してまるで子供のように駄々をこねる俺に努めて優しげな声色で口を開いた
「…なぁ杉野、我々は多くの仲間を失ってしまったな
当初はあれだけいた搭乗員も怪我や事故で大勢の者が去っていき、100輌集めた改良チハ二型も今では稼働可能なのは僅かに20輌前後だ」
「だからこそ、余計にこんなところで引き下がれないんじゃないですか!」
いいや、違うと源田司令は首を横に振って否定する
「もはや残っている隊長は君一人だけだ
だからこそ、私は君を死なせるわけにはいかない
このまま君が試合に参加し続ければ、いずれ修復不能なほど精神を壊してしまう
試合で死ぬのが先か精神を病み身体を壊して死ぬのが先か、今の私には判断がつかないが…十中八九そうなってしまうだろう」
「っ!」
またもや言葉に詰まってしまい、俺はその言葉にすぐに言い返すことが出来なかった
それほどまでに源田司令の言葉はただひたすら正論だったから
「…元々、俺をスカウトしたのは源田司令…あなただ
公式戦の戦車乗りが、そもそも
その上で、俺の覚悟を預かると言ったのは源田司令ではありませんか!」
「…あぁ」
「ならば…!その覚悟は結局何だったんですか!?
──覚悟なんてクソ喰らえだったじゃねぇか!!」
もはや言葉遣いさえろくに取り繕えず、ただひたすらに感情の赴くままに俺は吠えた
源田司令はそんな俺を見ても咎めるような事もなしに席から立ち上がり、俺のすぐ真横へ来るとそのまま深く頭を下げた
「本当にすまない、だがわかってほしい
──この通りだ───!」
「…やめてくださいよ、何で源田司令が頭を下げるんですか…?
…何でっ…何で…そんな……っ」
ポタリポタリと気付かないうちに頬に熱いものが伝い落ちていき、床にシミを作る
「あれ…?何で俺…っ…泣いてんだ…?何だってこんな時に…」
冷静にならなければいけないのに、落ち着かないといけないのにどうにも目から溢れる雫を止めることが出来なかった
「…杉野、もう一度言う
君はもう戦える状態ではない、命を落としてしまう前に
「…これは、命令でしょうか?」
源田司令の言葉にもはや震える声でしか返せなかった
あぁ、ダメだ…気を抜くとみっともなく声を上げて泣いてしまいそうだった
「あぁ…命令だ」
「…わかりました、元より俺は戦闘戦車隊の隊長に過ぎません
司令からの命令とあらば、その意向に従う他はない身です」
一瞬間をおいて、それだけは何とか震えていない声で伝わるように
必至に感情を押し殺して言うと、ようやく源田司令はゆっくりと顔を上げ、惚れ惚れするような美しい所作で俺に対して敬礼をし、志賀副司令もそれに続いた
「──【猛将】杉野直緒、まことご苦労であった」
「──下に恥じぬ戦いは出来たと、自負しております!!」
即座に背筋を伸ばし、二人へ答礼する勿論目線は源田司令に合わせて絶対に外さず
まっすぐに見つめる
「
あとの事は任せろ、ゆっくり療養に励め」
こうして俺の長かった戦車道、及び強襲戦車競技で歩んだ道のりは
一度幕を下ろしたのだった…
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(──結局、引退後一月と経たずに剣部隊は無期限の活動休止
2年経って俺も戦車道復活、か…)
着替えの制服に袖を通しながら、一人考えに耽る
引退してからも自分の中で折り合いをつけるのは大変で、少しでも考える時間があれば去っていったアイツらと残してきてしまったアイツらの事を思い出してしまうから
だから何も考えないようにひたすら何かに没頭しようと夢中だった
(けど、皮肉なもんでそうすればそうするほど───
──忘れられた日は片時もなかった)
ひたすら考えないように本を読んだ、ひたすら考えないように飛行機や車を修理・改造して考える暇を無くした
ひたすら考えないように戦車道のない大洗の学園を受験した、ひたすら考えないように絡んでくる者を相手に乱闘騒ぎを起こした
それでも一応の折り合いをつけるまで丁度一年程掛かってしまった
(…なぁ菅田、今のお前が俺を見たら失望するか?
林隊長、赤淵隊長…今の俺を見たらなんて励ましてくれます?
ユウカ、マツ…今の臆病な俺を見たら幻滅するだろうか──?)
なぁ、教えてくれよ───
◆
「…あ?誰だこんな時に」
温泉施設の建物から出て土産物屋をぶらつきながら
いくつか目ぼしいものを適当に購入し、一段落ついた時に手持ちのケータイが鳴り響く
「…武部?こんな時に何なんだ全く…」
画面に表示される通知に短く二文字、「武部」と表示されているのを見て
距離のある場所に行くことを伝えていたはずなのにいったい何のようなのだと通話ボタンを押した
『あ!もしもし?ナオ!?』
「──何だ?休日を謳歌中のこの俺様に一体なんのようなんだ?」
少し嫌味な出方になってしまったかも知れないが仕方がないだろう
全く何のつもりなのだと会話をしていると、武部は大変なことになったと言って切り出した
『実は皆で街を散策中に華のお母さんと偶然会ったんだけど
カクカクシカジカで…』
「──なに?それは本当か?」
聞けば五十鈴は戦車道を選択したことを親に黙っていたようで
花を生ける繊細な手で戦車を、と母親は卒倒してしまったらしい
どうにも嫌な予感のした俺は急ぎ武部からその後向かった五十鈴家の住所を聞き出した
「その母ちゃん、戦車道に良い印象抱いてなさそうなら悪い方向に話が進むかも知れねぇ
今から俺も向かう…ちょっと待ってろ」
『でも、筑波からならもしかしたら…』
「間に合わなかったらそれはそれで仕方ないが、今言ってもしょうがねぇだろ
なるべく急いでいくわ」
電話を切って急ぎ足で車へ戻り、荷物を助手席の足元に置く
エンジンを掛けた頃に武部からのメールで詳細な住所が送られてきた為、覚えてる限りで大洗の地形から場所を割り出していく
(…なるほど、あっこか
急げば多分間に合いそうだ)
いつもと違い今日は車内に俺一人、多少の無茶をしても何かあった時に批難を受けるのは俺だけな為まだ気が楽だ
(五十鈴はあれで気が強いからな…口論にでもなって売り言葉に買い言葉で変なことにならなければ良いが…)
クラッチレバーを蹴飛ばしてギアを1速に入れ、2速で徐行
駐車場から大通りへ出てから、全ての制御と抵抗を取り払った全開セッティングでアクセルを踏み抜いた
◆
「すいません…私が口を滑らせたばっかりに」
「そんな、私が母に…ちゃんと話していなかったのがいけなかったんです…」
私達の間にお通夜のように重たい空気が流れる
ことの発端は私を含め武部さん、五十鈴さん、秋山さんの4人で大洗の街を探索していた時
五十鈴さんのお母さんと奉公の新三郎さんと遭遇
秋山さんがついうっかり口を滑らせてしまったことで五十鈴さんのお母さんが卒倒してしまい
現在私達は五十鈴さんの実家の応接間で待機していた
「あのさ…私、取り乱しすぎてナオに電話かけちゃったんだよね…」
その空気に耐えかねてか、強引に何か話題を作ろうと踏んだのか
武部さんがそう切り出す
「…それ、マズくないですか?」
秋山さんが武部さんの切り出した話を聞いてサァ…と顔を青くさせた、よく見ると五十鈴さんも少し青くなってる気がする
(…あ、そうか)
一体何故二人がそんな反応をしているのか気づいていなかったが、ちょっと考えれば納得がいく
杉野さんはこういう誰かが困ってる時は必ず来てくれるだろう、そういう人が見捨てられるような性格ではないことは知ってる
しかし、普段からの粗暴な言動と何者にも迎合せず
何なら気に入らなければ誰だろうと突っかかっていく好戦的な面がある
厳格そうな五十鈴さんのお母さん相手には極めて相性が悪そうだ
「…私達は慣れてますけど、初対面で杉野殿を見てしまったら
五十鈴殿のお母さんの印象は恐らく余計に悪化するかと」
「あ!…どうしよう……」
秋山さんに言われてどうやら武部さんも事の重要性に気づき始める、自分が杉野さんを呼んだために余計話が拗れてややこしいことになるかもと手で顔を覆って俯いた時
____ゴォオオオオオッバシューンッバラバラバラ…
外から聞き覚えのある爆音な車の排気音が聞こえた
「──えぇ、
はい、いつもお世話になっております」
時間を空け、玄関の方から五十鈴さん家の新三郎さんと杉野さんが会話をしているのが
応接間の襖を少し開くことに寄って聞くことができた
「…ねぇ、あれ誰?」
全くいつもと違う口調で、まさに余所行きであることの伺える丁寧な口調の杉野さんの話し方をこっそりと聞いて武部さんがポツリと呟く
「お嬢、お嬢の客人を名乗る方が来られてますが」
「通しなさい」
少ししてから新三郎さんが一度私達のいる応接間に戻ってきてそう伝え、それに五十鈴さんが短く返し、更に数分時間を空けてから杉野さんが応接間に通された
何故か杉野さんはいつものような不機嫌そうなしかめっ面では無く、ニコニコと愛想よく笑みを貼り付けている
「──あら、皆様お揃いでしたのね」
(いや、一体何があったの!?)
口元に手を当てて上品に笑う杉野さんなど見たことがない
きっと私が思ったことも皆同じなのだろう、私以外の3人も口を空けてぽかんとしていた
「な、ナオ…何か悪いものでも食べたの?」
「嫌ですわ武部さん、
いや全然違う!!!と心の中で盛大に突っ込んだが
身のこなし方などしゃなりしゃなりと擬音が着きそうなほど洗礼された物で、明らかに見様見真似で身につくような代物ではない
…あれ?もしかして杉野さんの家って結構良いところ?
「一度奥様の様子を見てきます」
そんなこんなで話をしていると新三郎さんは五十鈴さんにそう声を掛けて部屋から去っていく
その瞬間、杉野さんは今まで携えていた微笑みをやめていつも通りなぶっきらぼうで不機嫌そうな様子に切り替わった
「とりあえず武部は頭持って
「い、いつものナオだ!?」
そして眉間に青筋を立て、先ほどとは違い好戦的な笑みを浮かべながら握り拳を作った為
武部さんは直ぐに物陰に隠れながら平謝りをしていた
「杉野殿の意外な一面を見れてしまいました」
「余所行き用なんだよ、忘れてくれ」
感嘆な表情でそう言った秋山さんに杉野さんは一気に苦虫を噛み潰したように渋い表情を浮かべる
あ、やっぱりさっきの余所行き用なんだ…
「杉野さんってもしかして結構良いところの家なの?」
「地元じゃそこそこ名の通ってる名家っちゃ名家だけど、名が通ってるだけで財政とかは厳しいから
やたら躾にうるさい普通の家って感じだな」
思わず聞いてしまった私に杉野さんは苦笑いしながらそう言って、兄妹・姉妹の多い分普通の家よりも貧乏かもと付け足した
「へぇ〜、ちなみに何人くらいいるの?」
「上に兄ちゃんと姉ちゃんが一人ずつ、あとは下に妹が二人」
「多っ」
ちょっと気になって聞いてみたら思ったよりも多く、思わず呟いた武部さんの意見に同意した
5人兄妹ならそこにお母さんとお父さんが入り最低でも7人家族と言うことになる、なるほど確かにそれほど家族が多いなら経済的に厳しい家庭と言われても納得がいく
「…因みにお兄さんってどんな人?」
「──や ら ん ぞ ?」
「どんな人か聞きたいだけじゃん!?」
お兄さんがいると聞いて武部さんが詳しく聞こうとするものの即座に拒否されていた
「もぅー、そう言うのブラコンって言うんだよ?」
「なんか言ったかね?喧嘩なら勝ってやるぞ、値引きは無しだ」
「い、いえなんでもないです…」
あんまりな対応に冗談交じりに武部さんがブラコンだと杉野さんを煽るとにっこりと笑顔になった杉野さんは両の拳を胸元でバキバキ鳴らして武部さんを威圧する
流石に気圧されたのか武部さんはそのまま正座して縮こまってしまった
「!」
「うわっ変わり身はやっ」
トントンと襖がノックされ、一瞬で余所行きモードに切り替わった杉野さんはあぐらをかいた状態から即正座になってピシッと背筋を伸ばした
あまりの変わり身の早さに武部さんも呆れて苦笑いしている
「──お嬢、奥様が目を覚まされました…お話があるようです」
「…私、もう戻らないと」
「お嬢!」
襖を開き、向かいにいたのは新三郎さんで
どうやら五十鈴さんのお母さんが目覚めた為呼びに来たようだった
先程から不安そうな表情で押し黙っていた五十鈴さんは絞り出すようにそう言うとお母さんからの呼び出しを拒絶する
「お母様には…申し訳ないけれど」
俯き、私達の見たことのない程弱々しく呟く五十鈴さんに何か声を掛けようかと思えど
何も思い浮かばなかった
「差し出がましいようですが、お嬢の口からちゃんと奥様にお話したほうが宜しいかと思います…!」
「っ…」
恐らくは長く使えてきたことで二人の性格をよく知る新三郎さんは、自分の身の上が下であるというのを分かりきった上で五十鈴さんへ進言する
五十鈴さんもそうだが、なるほどその家に使えるだけあって新三郎さん自身も意思が強いのだろう
しかし五十鈴さんは押し黙ったまま顔を俯かせるだけで何も応えなかった
「──五十鈴さん、
沈黙が流れる中、口を開いたのは杉野さんで
五十鈴さんを諭すように先程の余所行きの貼り付けたようなものとは違う、いつも私達に向けてくれる柔らかな笑みでそう言った
「でも───」
「
何十トンもの車輌を動かし、規制がなされてるとはいえ実弾を使うのです
砲手とはいえ、万に一つ億に一つがないとは言い切れません
──わだかまりや遺恨を残して、次に合う時は無事なのかすらもわからないのですよ?」
確かに公式戦ですら怪我や事故は割とある
更に杉野さんの場合は最低限の安全しか保証されていない非公式戦を主戦場に駆け抜けてきたのだ、そう言うケースも少なからず見てきたのだろう
「貴女はそれで良いかも知れません、けれどそのようなことがあった時に残される家族がどう思うかまで考えなさい」
きっと、五十鈴さんがそうなった場合
お母さんはやはりあの時無理にでも止めていればと強く後悔することになるのだろう
だからこそ否定されようが肯定されようが、自ら話しておかなければならない
「…杉野さんの、言う通り…ですね」
緊張した面持ちであることには変わりはないが
やはり自身でも思う所はあったのだろう、五十鈴さんは立ち上がって新三郎さんと一緒に応接間を出ていった
◆
「…流石に盗み聞きは趣味が悪いと思うぞ」
「しー、偵察よ偵察」
五十鈴さんが呼ばれた部屋の前で私、武部さん、杉野さん、秋山さんが待機しており
言い出しっぺの武部さんはこっそり襖から内部の様子を伺っていた
その様子をやんわりと杉野さんが咎めるが武部さんは聞く耳を持たないため肩を竦めてわざとらしく呆れたような顔をする
「──申し訳ありません」
「どうしてなの…?華道が嫌になったの…?」
部屋の中まではあまり距離がないため襖越しにも二人の声は充分に届いてくる
「私…生けても生けても、何かが足りないような気がするんです」
「そんな事はないわ、あなたの花は可憐で清楚
五十鈴流そのものよ」
「でも…、私はもっと力強い花が生けたいんです!」
やはり五十鈴さんはこうと決めた時は強い
同じ家元の娘でもお母さん相手に何も言うことが出来なかった私とは大違いだ
「あぁ、素直で優しいあなたはどこに行ったの?これも戦車道のせいなの?」
「……」
お母さんの言葉に五十鈴さんは何も答えず、無言のままそれでも目線だけは逸らさなかった
「戦車なんて…野蛮で不格好で、うるさいだけじゃない!
戦車なんて…みんな、鉄クズになってしまえばいいんだわ!!」
「鉄屑…!」
「秋山ステイ」
次いで放たれた言葉に反応したのは五十鈴さんでは無く、隠れてる筈の秋山さんの方で
思わず瞬時に飛び入ろうとしていたのを杉野さんに止められていた
「止めてくださるな杉野殿、ここは突撃あるのみであります…!」
「短気を起こすな、知波単かお前は
口調もなんか寄ってるし」
杉野さんに両肩を捕まれ無理やり抑え込まれながら「突撃、突撃」とうわ言混じりにジタバタと暴れている
それでもお互いバレないように小声で話しており気を使ってるのか使っていないのかわからない
「──わかりました、だったらもうウチの敷居は跨がないで頂戴」
二人のやり取りを思わず苦笑いしながら見ていると事態は急展開を迎えていた
「奥様…!それはッ」
「新三郎はお黙りッ!」
…五十鈴さんは一度お母さんに深々と頭を下げてから立ち上がりこちらへ向かってくる
──急すぎて忘れてたけどこれ不味いんじゃ?
「…帰りましょうか」
しかし襖が空いてしっかり盗み聞きしていたことがバレて尚、五十鈴さんは堂々としていた
つい先程勘当を言い渡されたばかりの筈なのに
…何て強い人なんだろうか
「いつか、お母様を納得させられるような花を生けることが出来れば…きっとわかってもらえる」
「お嬢ッ」
それだけ言って振り向かず立ち去ろうとする五十鈴さんを新三郎さんが呼び止める
その声色は涙で震えて…というよりもはや号泣の粋だった
「笑いなさい新三郎、これは新しい門出なのだから
──私、頑張るわ…」
「はいッ!」
泣きじゃくる新三郎さんに五十鈴さんはそう言って朗らかに笑ってみせた
「五十鈴さん──」
「はい?」
そんな彼女が眩しくて、そう在れる彼女が羨ましくて
自然と私は五十鈴さんを呼び止めていた
「私も…頑張る」
◆
「…あ、悪ィ忘れモンしたわ───
ちっと待っててくれっか?」
五十鈴さんの家の玄関まで来たところで杉野さんはそう言って再び家の奥へと踵を返した
因みに余所行きモードじゃないのは現在五十鈴さんと新三郎さんは先に外へ行ってしまってるからだ
しばらく会えないのだから二人でよく話したほうが良いと杉野さんが提案し、帰り道は五十鈴さんは新三郎さんの人力車
私達は杉野さんの車ということになっていた
(…あれ?でもそっちは)
少し後ろから様子を伺っていると杉野さんは応接間をスルーして先程までいた五十鈴さんのお母さんがいる部屋へ直行していく
「──みぽりん?何してんの?」
「あ、武部さん…」
恐らく私と杉野さんが出てくるのが遅かったからだろう
先に外へ出ていた武部さんが私達を呼びに戻ってきていた
「──実は杉野さんが」
私は杉野さんが忘れ物を取りに戻ると言って、そのまま五十鈴さんのお母さんの部屋に向かっていった事を伝えると
先程の勘当騒動があった手前なにか良からぬことが起こるのではと顔を青くした
「み、みぽりんはナオを見といて
私は華を呼んでくる…」
「わかりました」
急ぎ足で去っていく武部さんの姿を見ながら
しかし恐らくは想像のように悪いことは起こらないのでは?と言う不思議な確信があった
その時、襖を数回ノックする音が聞こえ
慌てて視線を戻した先で杉野さんが五十鈴さんのお母さんの部屋の前にいるのを確認した
「入りなさい」
「失礼します」
自宅の為に恐らくは家の者と思ったのだろう、入室許可が出てからひと声かけて襖を空けた瞬間
こちらからは一切部屋の中は見えないのに五十鈴さんのお母さんが固まったのが場の空気でわかる
「──失礼、どなたですか?」
「お初にお目にかかります、五十鈴華さんのお母様───
どうぞお見知りおきを」
正座の状態から戸を空け、一応一旦は入室許可は取っているものの
再度家の者ではないということを知った上で許可を取ってから入ろうと踏んだのだろう
その場で思わず見惚れるような洗礼された動きで三つ指をついてゆっくりとお辞儀をする
「──これはご丁寧に、しかしいきなり来るのは少々不躾では?」
それはそれとして、初対面にも関わらず使いなどを通さず直に来たことに関しては思う所があったようで少し咎めるように五十鈴さんのお母さんは言った
「はい、ですが失礼を承知でここへ参りました」
「…良いでしょう、要件を伺います」
しかし当の杉野さんは失礼なことをわかって来ているのだとにっこりと微笑んだ
こんな事を平然と言ってのけるあたり杉野さんも杉野さんでだいぶ肝が座っているが、どうやら五十鈴さんのお母さんのお眼鏡にはかなったようで入室許可が降り
深々と頭を下げてから杉野さんは部屋の中へ入っていった
「──みぽりん、今…どんな感じ」
「…丁度五十鈴さんのお母さんの部屋に入っていったよ」
話の内容を聞き取ろうとこちらも部屋に近づこうとしたところで背後から武部さんから声が掛かる
振り返ると少し息を切らせた武部さんと五十鈴さん、そして何故か五十鈴さん以上に不安そうにしている秋山さんだった
「と、とりあえずナオが余計なこと言いそうになったら皆で拘束して連れて帰ろう」
さて、万が一…恐らくないとは思うが五十鈴さんが勘当された手前杉野さんが五十鈴さんのお母さん相手に挑発するような言動を取るかも知れない可能性がある
そのためもしそんな事態になったらどうしようか等を考えながら再び武部さんを先頭に部屋へ近づいていき襖越しに聞き耳を立てるのだった
「────と言ったように、華さんは学園の方でもしっかりやられております
「ふふふっ、お上手ね───
しかし私の目の届かないところでもしっかりやっている様で安心したわ、ねぇもっと学園での華さんのこと聞かせていただける?」
杉野さんと五十鈴さんのお母さんはこの僅かな間で物凄く仲良くなっていた
え?さっきまでピリピリした空気が漂ってたのに何があったの…!?
武部さんに至っては思ってた会話内容と違いすぎた為か思わずと言った様子でズッコケそうになっていた
「それでしたら───そうそう、こんな事もございまして」
まるで友達同士のように話す二人は五十鈴さんの普段の様子について時に笑ったり時に驚いたり、時々呆れたりしながら会話を弾ませていた
そんなことが10分、15分程経った頃だろうか
話が一段落ついて五十鈴さんのお母さんは息を整えるのに一旦間を置いてから口を開く
「──ごめんなさいね杉野さん、あの子の事色々聞いて」
「いえいえ、
「…本当は、他に話すことがあったのでしょう?」
杉野さんの息を呑む声が聞こえた気がした、元は話すことが別にあると五十鈴さんのお母さんはとっくに気づいていたようだ
「すいません、実は
「──あの子に勘当を言い渡したところを聞かれていたのね」
「はい、盗み聞きが褒められたことでは無いのはわかっています
…ですが、あれほど切羽の詰まった様子の華さんを見たことがなかったもので───」
申し訳無さそうに続ける杉野さんに対して五十鈴さんのお母さんは良いのよと言ってから続けた
「…それで?勘当した事を取り下げてもらおうとここに来たのですか?」
「いえ…出来るならそうしたいですが、それは華さんの覚悟に対する冒涜になってしまいます
彼女の覚悟は彼女にしかわからない、勝手に
それに…と付け加えて放った杉野さんの言葉に思わず私達は愕然とすることとなる
「正直な話、華さんが勘当されたことは仕方のないことでもあると
(杉野さんッ!?)
思わず周囲の三人へ視線を移すと武部かさんと秋山さんは驚いたようにポカンとしており五十鈴さんは黙り込んだまま目を伏せた
「…私へのご機嫌取りという訳でも無さそうですね、何故そう思うのですか?」
「家元の娘という立ち位置で一言も無しに勝手に始めた点等は悪手の一言につきます
お母様にも立場というものがございましょう」
しかしその上で、と付け加えて杉野さんは華さんのお母さんへ話し合いをしてほしいのだと続けた
「華さんともう一度、今度はしっかり話を聞いてあげて欲しいのです
すぐでなくても結構です、納得できなくても構いません、ですがどうか彼女の信じた道を信じてあげてほしいです」
「…何故、貴女は他所の家のことにそこまで必至になれるのですか」
私も、五十鈴さんが勘当された時
何か言えることは、出来ることはないかと思った
きっと武部さんも秋山さんも思っていたことだろう、だけど私たちには出来なかった
それは多分他所様の家のことに口を出して良いのかという葛藤が少なからずあったと思う
「…先程、お母様は戦車など野蛮とおっしゃいましたね」
「えぇ」
「確かに、何十トンという鉄の塊を動かし───
安全に配慮されてるとは言え実弾を使う、事故とは常に隣り合わせな武道なので野蛮と言われても致し方ないでしょう」
だからこそ、絶対に安全ではないからこそもしもの時があった際
そのまま納得できるかどうかと、つい先刻五十鈴さんに対して言ったことと似ていることを五十鈴さんのお母さんにも語った
「華さんの砲手という立場は特段危険度の高いものではありません、しかし絶対とは言い切れない───
ですから、二人のわだかまりを少しでも解消しておきたかったんです」
「…」
五十鈴さんのお母さんは黙って聞いていた
そして少し間を開けてから杉野さんは続ける
「
わだかまりを解消できないまま、そのまま二度と話すことの出来なかった知り合いも何人か知っていますし───
──
(__え?)
杉野さんの放った言葉は私の思考を止めるのに充分だった
もしかしたら思い違いかもしれない…だけれどもまるで誰かに懺悔するように言ったその言葉は私の中に強く残っていた
「…なるほど、お話はわかりました」
何か思う所があったからだろうか、少しだけ間をおいて五十鈴さんのお母さんはゆっくりと切り出す
「確かに…あの子ともう少し話し合いをしなければいけないようですね」
ですが、と区切ってから勘当を取り下げるつもりは勿論ないことも語った
「いえ、それで充分です──ありがとうございますッ」
隠れている私達には見えないけど、恐らくは頭を下げたと思われる杉野さんは礼を述べる
「…一つだけ、誤解のないように言っておくのなら───
私が一番恐れているのは華さんが華道も戦車道も中途半端になることです」
五十鈴さんのお母さんはそう言って深く息を吐いて、一尺開けてから一つだけ訂正するように続ける
「あの子は優秀だけれどまだ華道を極めるという境地には達していません、その中で戦車道にも手を出しました
杉野さん、私が本当に恐れていることはあの子がどの道も極められない半端のまま終わってしまうことです」
「えぇ…おっしゃるとおりです
__ですが華さんは一度こうだと決めたら絶対に曲げない芯の強さがあります
彼女ほどの人ならば、どちらと言わず両方極めてしまうような、どうにもそんな気がしてならないのです」
「…わからないでしょう」
五十鈴さんのお母さんの言葉に杉野さんはどこまでも自信に満ちた声色で「わかりますよ」と言ってから、それに…と付け加えて続けた
「先程お母様は戦車なんて不格好だともおっしゃいました
しかし
ちらりと横目で五十鈴さんの方を見ると俯いている為にその表情までは詳しく窺い知ることは出来なかった
しかしそれでも顔全体が心なしか赤くなっている気がする、思わぬところで好意的に評価されてむず痒く
照れくさくなってしまっているように見えた
「──ふふっ」
会話の折、僅かに訪れた沈黙を破ったのは五十鈴さんのお母さんのおそらく心の底からだと思える無邪気な笑い声だった
ツボに嵌ったのかしばらく笑い続けたあと、ひとまず落ち着いたところでふぅ…と息を整えて喋り始める
「本当に面白い人ですね、貴女は…
気が変わりました、試合が決まったら連絡しなさい
あの子の成長過程は私が見届けます」
その上で、華さんの事を判断をすると少し含んだように笑いながら言う
杉野さんも釣られたように満足気に笑った
「さて、それでは
お話を聞いていただいてありがとうございました」
「えぇ…それと
──次に合う時は素の口調で構いませんよ」
話も終わり、満足行く結果に終わったためか杉野さんが帰ることを告げた時
五十鈴さんのお母さんの放った一言により二人の間に沈黙が流れた
「…気づかれておりましたか」
「私は家元ですよ?他人との腹の探り合いは日常茶飯事です」
少しの間訪れた静寂を破るのは杉野さんで、少しだけバツの悪そうな声色でそう言う
五十鈴さんのお母さんは普段から相手の裏まで読んでるため気づいた様だった
「ただでさえ戦車道のチームメイトと言えば印象は最悪でしょうからね、もしかしたら話すら聞いて貰えないのではないかと言う不安もありました」
「…確かに、実際に話し合いに応じていたかまでは断言できませんね」
五十鈴さんのお母さんは五十鈴さんが戦車道をやっていると言っただけで卒倒してしまった、当然チームメイトの私達に対してもあまりいい印象は抱いていなかっただろう
だからこそ、杉野さんはそれを少しでも払拭するために余所行き用の口調と所作をしていた
そうでなければ取り合ってさえ貰えないだろうからと
そしてそれを裏付けるように、確かにその状況であればそうしていたかも知れないと五十鈴さんのお母さんは少しだけ申し訳無さそうに言った
「…杉野殿って色んな意味でかなり頭の回る人ですよね」
「ね~、最初はどうなるかと思ったけど余計な心配だったかも」
最初の当事者でないということは大きいかも知れないが、今回の一件で一番冷静であり
それでいて五十鈴さんと五十鈴さんのお母さん両方の顔を潰さずに話をまとめ上げたのは杉野さんの功績だ
小声でコソコソとではあるがその手腕には驚かされたというように秋山さんと武部さんは喋り込んでいた
「──では、このあたりで」
「えぇ、道中お気をつけて」
少し目を話している内に杉野さんと五十鈴さんのお母さんの話し合いは完全に終了したようだった
「あ、こっち戻ってきますよ」
「本当だ、逃げよう逃げよう」
杉野さんが一人で五十鈴さんのお母さんの元へ乗り込んだのはきっと、行くといえば絶対についてくるであろう私達を巻き込んでしまうことや
ひょっとしたら曝されていたかも知れない悪感情等から私達を守るため、また若干天邪鬼な気質のある彼女が私達
特に当事者の五十鈴さんがいる眼の前で素直にあそこまで言うかは考えにくい
そんなこんなで短い付き合いながらも彼女の性格を多少なりとも理解している為にコソコソと小声のまま私を含めた4人はそそくさとバレないように退散するのだった
実は名家のお嬢様+家族多すぎて貧乏は元ネタ基準です