ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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まさかの初投稿から14日も猶予があって、いつもの投稿時間すらもオーバーしてようやく1話完成
毎日投稿はこれが最後、完全にストックを使い切りました
すっからかんです




Go slowly to the entertainments of the friends and quickly to their misfortunes

五十鈴家を後にして、五十鈴と新三郎は一足先に人力車で学園艦ヘ向かい

残された杉野、西住、武部、秋山の4人は車を止めた近くのコンビニまで歩いていた

 

「…いや、やっぱ疲れるな」

 

コンビニが見え始め、ようやく素に戻れると深くため息を吐いて伸びをひとつ

 

「…ナオはさ」

 

「ん…?」

 

誰も言葉を発せず、放った言葉が独り言として夜の闇に消えそうになった時

その沈黙を破ったのはその後ろを歩く武部だった

 

「…あー、華のお母さんのとこ行ってたの?

……忘れ物取りに行ったにしては出て来るの遅かったじゃん」

 

「……」

 

歯切れの悪そうに尋ねる武部に少しの間無言を貫く

元よりここにはいない五十鈴も含め全員が杉野が五十鈴家の母の元に単身乗り込んで話し合いをしていた事を知っている

その上で武部は何も知らないフリをして改まって杉野に問いた

 

「ちぇっ…なーんだ筒抜けかよ、隠してた俺がバカみてぇ」

 

少しの沈黙のあと、わざとらしく盛大にため息を吐いた杉野は武部の言葉に対して肯定するようにそう言った

 

「一人で行くなら、一言くらい声かけてくれても良かったんじゃない?」

 

「俺が行くって言ったら絶対お前らなんだかんだ理由つけてついてくるだろ」

 

それはそうなんだけど…と武部の声は徐々に尻すぼみになっていく

 

「それにさ、相手は五十鈴の母ちゃん一人だけなんだから

複数で押し寄せるのもおかしな話だ」

 

ぐうの音も出ない正論に杉野以外の三人は押し黙る

五十鈴家の母一人に何人も押し寄せて、最悪それは威圧にも取られてしまうかも知れない

そうなってしまえば印象にも悪いだろう

 

「でも意外だった、ナオってこういう時はキャラじゃねぇって言って他所の家庭のことに口突っ込まなそうだし」

 

「そりゃ言えてるな!」

 

本来、杉野の性格を考えれば武部が声を掛けた事で駆けつけこそすれど一人で直談判に行くというのは考えにくい

それこそ普段の自分の立ち位置を考え自分のキャラではないと吐き捨てるだろう

だからこそ三人は杉野が独断で乗り込んだのは予想外だった

 

「じゃあ、何で?」

 

武部の当然の疑問に杉野は振り返ることもせず小さく唸る、その表情は後ろを歩く3人には窺い知ることは出来なかったが

やがて観念したように口を開いた

 

「──五十鈴がさ…勘当を言い渡された直後、スゲー悲しそうな顔してたんだよ」

 

『え…?』

 

それは武部が見逃し、西住も秋山も襖に顔が完全に隠れる位置に居たがために見落としたもので

気づいたのは杉野一人だけ、だからこそ他の3人は驚いたように声を上げた

 

「考えりゃ当然だよな、アイツは大人びてるけど一人の感情を持った人間で───

俺らと同じ年の一人の女の子なんだ、家から見放されりゃ流石に堪えるだろうよ」

 

「…そんな、五十鈴さん…」

 

西住はあの時、彼女は心が強いと尊敬した

だけどそれは誤りだった、彼女は確かに強いがその心根は自分達とあまり変わるものではない

悲しいことがあれば心が傷つく、そんな当たり前なことが見えていなかったと深く後悔した

 

「だから…杉野殿はそんな無茶を…?」

 

「当たり前だろ、友達のあんな顔を見て何もしないでいられる程俺は大人じゃ無いんだよ」

 

続く秋山の問いに答える杉野はそう言って自嘲気味に笑った

確かに今回の行動を振り返って、更に先程の事を聞けばなんてことない

自分の気に食わないことには徹底的に反抗するような杉野の普段通りの行動原理であることは理解できた

 

「『友の喜びには徐ろに行き、友の悲しみには急ぎ行くべし』…俺等は所詮違う人だから、感情を共感できることは少ないかも知れない

どうすることが正解か、何がそいつの為になるか迷いだって生まれるだろう」

 

だけど、と付け加えてから

杉野はくるりと振り返り、3人に対して一人一人目を合わせてから切り出した

 

「喜びは共に出来なくても、せめて悲しみには寄り添って共にするようには出来るじゃん

それに、友達の悲しそうな顔はやっぱ見たくねぇだろ?」

 

喜と言う感情は人によって異なるが、哀という感情は共通

だからこそそう在りたいし、そうしたと至極当然のように言ってから杉野は視線を前に戻す

気づけば目的地のコンビニに到着していた

 

「らしくないって思ったけど、それ聞くといつも通りのナオだね」

 

小さく笑った武部に釣られて秋山と西住も笑みを浮かべる

杉野直緒という少女は無愛想に見えてその実、一度仲間や友達と認めた相手にはかなり甘い

 

「…ねぇ、みぽりん

ちょっと相談したいんだけど」

「…え?どうしたの?」

 

杉野には内緒で、何なら当事者のもう一人も一足先に帰ってしまっている為にそちらにも内緒になってしまうだろうが

武部は西住と秋山に対して小声で一つ提案をした

 

「今晩はご飯会やろうよ、華の独り立ちと…前回来れなかったナオも誘って」

「うん、やろう…私の部屋でいいかな?」

「それは楽しみですね」

 

3人はそう言って笑い合い、少しして杉野の車の前に着いたため話を切り上げた

 

 

____ゴォゴォと地響きのような音と共に

杉野さんの走らせる車は交通の流れに沿って大洗の市街地をゆっくりと走っていた

 

「そーそー、適当なもんで悪いけど土産物見繕ってきたから」

 

運転中の杉野さんはそう言って思い出したかのように言うと好きなもん取っていいよ〜と軽めな声色で言う

 

「助手席の足元にあるやつね、温泉まんじゅうは一箱はお前ら全体のでそれ以外は差し入れにするから他のにしてね」

 

「わかりました」

 

助手席の足元を見渡すと中くらいの大きさの袋に何やら色々入ってそうな物を見つけて取っ手を指にかけ膝の上に置く

中を覗くと温泉まんじゅうが3箱、あとはいくつか他の菓子類とキーホルダーのようなものが…え?

 

「…どうかしたか?」

 

暗い車内の中でほんの少し見えた一つのキーホルダーに私は一瞬袋を漁っていた手を止めた

何かあったのかと心配そうに横から杉野さんの声が聞こえるがつい返事することすら忘れて、私は再度袋の底の方に追いやられたキーホルダーの一つを取り出す

 

「──ボコだ〜〜ッ!!」

 

そのキーホルダーは私の大好きなボコられグマのボコだった!

しかも御当地限定のつくばボコ!!

私の未所有のものだった事からついついテンションが上ってしまう

 

「お前らへ買ってきた土産なんだ、欲しけりゃ持っていきな」

 

「本当ッ!?」

 

二つ返事で即貰うことを決断してからふと気づく、こういう形に残るプレゼントを彼女から貰ったのはこれが初めてだったということに

 

(…杉野さんからのプレゼント…えへへ)

 

キーホルダーを見つめつい口元が緩む、自分の大好きなものであると言うのは勿論のこと

何より心から尊敬できるような彼女からのプレゼントと言うのも大きい

 

「ナオもこういうの買うんだね」

 

「うん?うん…んー…」

 

後部座席からベルト越しに少し身を乗り出して武部さんが私の手の中のキーホルダーを見ては意外と聞くも杉野さんからの返事はとても歯切れの悪いものだった

 

「知っての通り、俺って同い年の女からしたら趣味嗜好の感性って死んでるじゃん?」

 

「…否定できない」

 

「私も似たような感じではありますけどね」

 

自分のことながらあんまりな物言いに苦笑いの武部さんと女らしくないという点では自分も同じだと秋山さんが続く

確かに杉野さんは私達に比べるとかなり特殊だ

一人称は俺だし、なんだかんだ優しい人柄で忘れがちになるが口調も今どき男の子でもあまりいないような粗暴さ

日常では弄り倒したスポーツカーに乗り、自分の時間が取れなくても愚痴一つなくみんなの戦車を夜通し修理点検しており

いわゆる普通の女の子からしたらかなりズレてはいる

 

(…そう言えば、プライベートな杉野さんって見たこと無い)

 

考えてみれば、なんだかんだ毎日一緒にはいてもまだ彼女と会ってそこまでの日数は経っていない

まだまだ彼女の事を私は知らない事が多い、それは彼女の過去もそうだし今現在のプライベートな事だってそうだ

 

「──普通の女の子が喜ぶもんなんて俺にはわからないからさ、そういうファンシーなクマとか買ってけば誰かの趣味には合うかと思って」

 

「うん、ほんと同じ女の子としてそういう考えはどうかと思うよナオ…」

 

呆れたように言う武部さんに違いない!と豪快に笑って返す杉野さんはおそらくこちらから関与していかない事にはきっとそういうのは一切変わらないのだろうなと一種の確信めいたものがあった

 

「…杉野さんって趣味とか好きなこととかないんですか?

休日とかってどうやって過ごしてるの?」

 

「えー…結構日によるけどな」

 

杉野さんの好きなことを私は知らない、だから気になって聞いてみると彼女は少し考えるように唸ってから切り出した

 

「大体は機械モノの修理とか?ほんと所有してるの金食い虫が多いからな…

あとはドライブとか…たまの数日間の寄港日はそれこそ都内とかまで足伸ばしたりもするな」

 

それと設備がかなり取り揃っているからか稀に近所から車などの修理依頼が来ると続けた

 

「…家じゃどんな風に過ごしてるの?」

 

「んー?本読んでるか勉強してるかくらいじゃねぇかな」

 

「か、枯れてる…」

 

家で過ごすならどうかと聞いてみれば本を読むか勉強しているかのどちらかだと返ってきたため

思わず後ろの武部さんから枯れていると困惑の声が上がった

 

「そういえば杉野殿って小中と詩のコンクールで入賞してるほどの文学少女でしたね───」

 

「…あ、秋山?何故それを…」

 

本を読むと言えばと秋山さんが何気なく呟いた一言で杉野さんの表情がピシッと固まった

明らかに困惑してる様子が見て取れる、こんな杉野さんを見たのは初めてかも知れない

 

「え…ナオ意外…」

 

「言うなッ!マジで黒歴史なんだから!」

 

驚いたように言う武部さんに杉野さんは焦った様子でそれ以上言うなと続ける

 

「でもネットとかで深く探すといくつか入選した作品出てきますよ?それこそ今更では───」

 

「そうなの!?」

 

そんな杉野さんの状況を見て秋山さんは既にネットで検索すれば見つかるのに…と付け足すと全く持って知らなかったのか普段なら絶対見ることのないであろう驚愕の声を上げる杉野さんというとても珍しい構図ができあがった

 

そして羞恥からか低い声であーだのうわーだの散々唸った後、視線を落としてボソリと一言こう呟いた

 

「…死にてぇ」

 

「あ、あはは…」

 

思わず苦笑いが口から漏れる、こんなに弱ってる杉野さんも初めて見た

 

「誰か俺を88mmで木っ端微塵に吹き飛ばしてくれ…!」

 

そして何やら不穏かつ具体的なことまで言い出す始末だった

杉野さんの為にもここは話題を変えた方が良さそうだと判断した私は、本来五十鈴さんと合流してから話そうと思っていた内容を杉野さんに打ち明けた

 

「あ、あの…杉野さん

今日皆と私の家でご飯会やるんだけど…来ない?」

 

「…行く」

 

少々強引な話題転換ではあったが杉野さんは二つ返事で来ると言ってくれる

そんなこんなで会話も一区切りつく頃には元々それほど離れていなかったと言うこともあり港に着いた

 

 

「…遅い」

 

「もー、夜は元気なんだから〜」

 

車両甲板から車を学園艦ヘ搬入すると、すぐ近くではいつもと違い目が冴えた様子の麻子さんがいて遅いとお小言を貰う

おそらく普段から夜型の人間なのだろう、その様子に慣れているのか武部さんは呆れたようにそう言った

 

「出港ギリギリじゃない」

 

「ごめんよ園ちゃん」

 

時間ギリギリに帰って来た為、風紀委員の園さんからお叱りを受けるもいつもと違い杉野さんが素直に謝った為それ以上のお咎めもなかった

 

「──杉野ちゃ〜ん」

 

少し離れたところからこちらに歩みを進める人影が3つ、角谷会長と広報河嶋先輩、小山副会長だった

その集団から抜け出し会長は杉野さんへ近づいていくと今しがた搬入した車の周囲をぐるりと回ってから排気管(マフラー)をジッと見つめた

 

「…次見た時同じ状態だったら通学許可書没収するからね?」

 

「あ、ヤッベ」

 

何だかんだバタバタしていた為かエンジンが掛かりっぱなしの杉野さんの車は麻子さんを起こしに行った状態から戻しておらず

本人曰く消音材を全て取り払った状態でありアイドリング状態でもかなりの音を周囲に撒き散らしている

いそいそと車内から(サイレンサー)を取り出した杉野さんはそれをねじ込むことで車輌の音量を抑え

眼の前で直したことを確認したからか会長は満足気に頷いた

 

「あとこれ、聖グロの隊長から二人にだって」

 

会長の後ろに控えていた河嶋先輩と小山先輩の二人から私と杉野さんは箱に入ったティーセットを渡された

 

「凄いです!聖グロリアーナは好敵手と認めた相手にしかティーセットを送らないんです!!

それが二つも…!?」

 

秋山さんは感激して興奮気味に語っているが一方で杉野さんの表情はとても微妙なものだった

 

「…どうかしたの?」

 

「…いや、普段紅茶ってあまり飲む機会ないし…こんな高そうな茶器送られちったら中途半端な茶葉使えねぇじゃん?」

 

どうしようか?と首をかしげる杉野さんはどうやら律儀にそう悩んでいた、貰った以上は使わなきゃいけないが家じゃ使わないよなとウンウン唸ってから何やら閃いたようにポンと手を打つ

 

「とりあえず1年達と使うとするか」

 

「じゃあ私は家で皆と使う用…かな」

 

杉野さんは1年生たちDチームと使う用、私は家の来客用に使うことに決めると秋山さんが「何だかもったいない気も…」と呟く

しかしせっかく貰ったのだから使わないことには宝の持ち腐れになってしまうし、おそらくこれを送ったダージリンさんもそれは望まないだろう

 

「…後で茶葉でも取り寄せてみるかね」

 

1年生の皆と使うと決めた杉野さんはひとまず形からと言うことで茶葉の取り寄せからやるらしい

多分聖グロの人たちもあちらとこちらの懐事情をある程度理解してくれてるとは思うが最初なので入りを大事にしたいとのことだった

 

「ま…とりあえずそれらはあとに置いとくとしよう」

 

ひとまずこの場で考えても仕方がないため、移動も含めて場所を変えるべく話は一度切り上げになった

私は一区切り着いたため先について待っていてくれた五十鈴さんに声をかけることにした

 

「五十鈴さん…あの」

 

「…?どうかしました?」

 

「今日急遽皆で私の家でご飯食べようってなったんだけど…五十鈴さんもどうかな?」

 

「まぁ…!喜んで参加させていただきます」

 

私の誘いに五十鈴さんは即答で参加が決まる、その様子はあまりにもいつも通りすぎて

杉野さんのさっきの話がなければ何も気づかなかったかも知れない

 

(強がり…だよね)

 

心配をかけないようにと五十鈴さんが弱音を吐かず着丈に振る舞っているのになんとなくであるが気づく

何だかそれがとても悲しく思えた

 

 

車の定員は4名に対して私達Aチームは総数5人、杉野さんも含めると6人であり

私の家まで皆を送るのに杉野さんは一回半車を往復させて、送り届けてくれた

 

『おじゃましまーす』

 

6人全員で私の部屋へ入ると流石にこの人数な為に少しだけ手狭に感じてしまう

 

「うぉ…本当に好きなんだな〜」

 

部屋に入って早々、杉野さんは私の部屋に飾られた多数のボコのぬいぐるみを見てそう呟いた

因みに貰ったボコのキーホルダーは早速寮の鍵に取り付けてある

 

「しかし何でこのクマはこんなに怪我してるんだ?」

 

「あ、そこ聞いちゃいます!?聞いてくれますかッ!!」

 

つい嬉しくなって何故怪我を負っているのかと聞かれたこと以外にも──ボコの良さについて延々と語った

 

「──好ッきやね〜

しかし弱いのに喧嘩っ早いとは難儀なクマ助だな」

 

「ボコです、名前だけでも覚えて帰ってくださいね」

 

思わず熱くなってしまった私を尻目に苦笑いの杉野さんは近くのぬいぐるみを指先でつつく

あ…そうだ…杉野さんの身長なら…

 

「杉野さん…着て欲しい服があるんだけど───」

 

「嫌な予感しかしねぇ、却下だ」

 

「そこをなんとか!」

 

察しが良く即座に断られてしまうが諦めきれず引き下がる

杉野さんの身長ならきっとぴったりな筈だ…

──ボコパジャマはッ!

 

「本当にちょっとで良いんです!せっかく買ったのに私じゃ小さすぎて入らないんですよぉ〜」

 

「待って喧嘩売られてる?──おぅコラ西住デコ持って()ぉ」

 

無意識の内に杉野さんの地雷(身長のこと)を踏み抜いてしまい、青筋を浮かべながらもにっこりと笑って私へデコピンの構えを取った

 

「す、すいませんでした」

 

「わかれば宜しい」

 

流石に冷静になった私は杉野さんへひたすら謝るとしょうがないなと許しが下った

 

「──二人共言い争わないの!みぽりん、台所借りるよ?」

 

会話も一息ついたところで武部さんから軽くお叱りの言葉と台所を借りると言われたのでこちらも大丈夫と返すと台所へ向かっていった武部さんを手伝ってくると言い残して杉野さんが追いかけていった

 

「す、杉野さん料理できたんだ…」

 

こっそりとあとをついていき壁越しに台所の様子を覗き込む

 

「ナオ意外と女子力高くない?」

 

「昔いた所が大世帯だったからな、料理に限らず整備や掃除洗濯とかそれぞれ専門の人がいたけど全然足りなくてよ───

各隊ローテーションで手伝いしてたから自然と身についた」

 

武部さんと杉野さんの二人は会話しながら食材の調理をしていた

既にその腕前を知っている武部さんは勿論のこと、思わず見入ってしまうほど杉野さんの腕前も見事なものだった

 

 

 

 

 

「出来た〜!ナオが手伝ってくれたから前より早く終わったよ」

 

「えぇ…前は誰も手伝わなかったのか…?」

 

「あ、いやそう言うわけじゃないんだけど…」

 

少しして完成した料理が次々とテーブルに並べられ始める

武部さんの一歩ほど後ろをおかずの盛られた皿を片手に呆れ顔で続く杉野さんに武部さんは一つ訂正をする

 

「マコは元から手伝う気ないけど、みぽりんと華は包丁を扱うにはちょっと不器用でね〜」

 

「へぇ…そいつぁ意外」

 

ちらりと杉野さんが視線を移すとその先には飯盒の前で体育座りをしてる秋山さんの姿がある

前回もそうだが秋山さんは自前の飯盒で今回もご飯を炊いてくれていたみたいだった

 

「それで、君はいったい何をしているのかね秋山少尉」

 

「はッ!米を炊いているであります、杉野大尉!」

 

何故、炊飯器があるのに…とは流石に杉野さんは言わない

ちょっと面白かったのか持っていた料理をテーブルに置いてから秋山さんに近づき───

やけに仰々しくまるで軍隊のように階級をつけて呼ぶとノリノリで秋山さんからそう返ってきた

 

「もう少しで炊けますので少々お待ちを」

 

「ふむ…では後は俺が見ておこう、少尉は武部炊事長の手伝いを頼む

西住少佐も腹を空かせている頃だろう」

 

「はッ、しかし大尉…西住殿は少佐というよりは大将クラスであると具申します」

 

「ふふふ、そうだな

では改めて少尉は炊事長殿と西住司令(大将)の方へ行くように」

 

二人は完璧になりきって会話しており、さらに秋山さんが乗り気で私を大将クラスだと言うと杉野さんは笑いこらえようとしながら「そうか、そうか」と言って続け

話を区切るとお互いに目を合わせて吹き出すように笑い合っていた

 

「ではよろしく頼むぞ」

 

「了解であります!」

 

杉野さんは手元を隠したコンパクトな敬礼(海軍式)を、秋山さんはよく見る一般的な敬礼(陸軍式)を繰り出すと互いに持ち場へ

さらに時間を置き作られた料理が全てテーブルに出揃った頃飯盒に入れられたご飯も炊きあがったようだった

 

「うーん、時間ピッタリ…秋山少尉はいい仕事するな」

 

「光栄であります!」

 

「その功績を称えて二階級特進とし、大尉を命じよう」

 

「それ私死んでるじゃないですか!?」

 

炊けたご飯をお茶碗に盛り付けながら冗談を言い合う二人だが秋山さんは内容的に素直に喜べないと苦い顔をした

五十鈴さんと武部さんは意味がわからないといった感じで二人を見ながら首を傾げ麻子さんはやけに堂々とテーブルの前で座って待機している

 

 

 

 

「それじゃあ出揃ったし食べよっか!」

 

『いただきま~す!』

 

そんなこんなで全ての食料がテーブルの上に並べられ皆で手を合わせてから箸に手を伸ばす

 

「……?」

 

少ししてから杉野さん以外の皆が一様に手を止めて視線を一箇所へ、その視線の先には一口ずつは小さいものの小動物のようにハイペースでご飯を消費する杉野さんの姿がある

 

「…小動物」

 

「…リス?」

 

「…ハムスターのようですね」

 

私を含め武部さんと秋山さんがボソリと呟くと途端に杉野さんはムッとした表情になり箸をお茶碗の上に置き、ゆっくりと口の中のものを飲み込んでから口を開いた

 

「──聞こえてんぞテメェら、デコ持って()ぉ」

 

「「「い、いえ…なんでもないです」」」

 

眼の前で体勢を作って中指を弾く杉野さんに謝り機嫌を直してもらう、流石に本気では無かったのかため息を一つ吐いて少しだけ恥ずかしそうに続けた

 

「はぁ、やっぱ久々の試合の後だと気をつけねぇとどっかで昔のクセが出ちまうもんだな」

 

実際の話杉野さんと一緒にご飯を食べるのはこれが初めてではない、何なら入学してからほぼ毎日お昼も一緒になるが大体いつも皆が食べ終わってから杉野さんも食事を終えるくらいゆっくり食べる人であり

こんなに早いペースで食べてるのは見たことがない

 

「癖…ですか?」

 

「大洗に来るまでは早飯・早風呂・早寝早起きが基本だったからな」

 

「あ〜…その反動でナオいつもご飯食べるの遅いんだ」

 

癖?と思わず聞いた私に杉野さんが前の習慣が抜けきれず、特に戦車道関連で身に染み付いたことも助長し

今日は初試合のあとだったのもあってつい出てしまったのだとか

 

「遅いは余計だ…」

 

拗ねたように呟く杉野さんは今度はいつも通りのペースで食事を再開し、釣られるように私達も料理に箸を伸ばす

 

「……」

 

「あ…」

 

訪れた沈黙の中、杉野さんはテーブルに並べられた料理の一つ

肉じゃがに手を伸ばしたことで武部さんが小さく反応した

しかしそれを不思議そうに小首を傾げたものの杉野さんはそのまま無言で飲み込んだため武部さんは少しだけ残念そうにしてから切り出す

 

「…それ私の自信作なんだ、どう?美味しい?」

 

「ん?…あぁ、美味いよ」

 

意外にも素直な反応が返ってきた為か武部さんは少しだけ照れくさそうにエヘヘと笑って続けた

 

「だよね!沢山練習したんだ〜、やっぱり男を落とすには肉じゃがだから」

 

「ん〜…それはちょっと違うだろ」

 

「え?」

 

機嫌が良さそうに武部さんはこの間私達にも語ったことと同じ内容を杉野さんにも言うと今度は否定で返されたが為に武部さんの表情が強張った

 

「肉じゃがだけじゃなくて、どんなもの出そうが気づいたら相手の好みの味になってる…そういうもんだろ?好きな人に向けた料理ってのはさ」

 

「う゛」

 

確かに…と武部さんは雷に打たれた衝撃を受けたように固まってからまだまだ考えが浅かったと顔を俯かせた

…それにしても、そういう言葉がさらっと出てくるあたり杉野さんって実は私達の思っているよりも乙女なのかもしれない

 

「意外ですね、杉野殿なら相手の好みに合わなくても嫌なら食うなって突っぱねるかと思いました」

 

「いや、だから俺これでも華のJKだから

…ま、そういうのは抜きにしても好きな人には寄り添いたいし?」

 

「ナオ…意外と乙女チック」

 

「武部うっさい」

 

からかわれたと思ったのか杉野さんは少しだけ頬を赤く染めて気恥ずかしそうに柄じゃないのはわかってる、と続けてから誤魔化すように食事を再開するものの

私は少しの間、杉野さんの言った事を考えていた

 

(…杉野さんの好きになる人、か…)

 

杉野さんほど頼りになって、かつカッコイイ人なら

高校は女子校だから難しいにしても卒業後はきっと色んな人から引く手あまただと思う

もしかしたら数年程度で結婚してるかも知れないと思うと、どうしてか胸のあたりがチクリと痛んだ

 

(…あ、れ…なんでだろ───)

 

まだ見ぬ私の知らない人の横で幸せそうな杉野さんを想像するとどうしようもなく不快でイライラした感情が募る

彼女自身が幸せならそれで良いことの筈なのにどうにもそれが面白くない

 

(…私、性格悪いのかな)

 

こんな事を少しでも思ってしまうのは絶対におかしいとわかっていながらそう思ってしまうことを止められない

そんな自分に嫌悪感を覚えながら、まだ名前の知らないその感情にそっと蓋をして見ないふりをした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事が終わり一息ついた頃、杉野さんはちょっと待ってろとだけ言い残して一人台所へ入っていった

 

「…なんだろう、武部さん何か知ってる?」

 

「いや〜…全く」

 

皆の食器を片す前なので、もしかしたらまだ何か持ってくるのかも知れないと思い

一緒に料理をしていた武部さんなら何か知ってるかもと聞いてみたが残念ながら知らないようだ

 

「私にはわかるぞ───」

 

「え?」

 

「冷泉殿にはわかるんですか…?」

 

そんな中で自信アリと声を上げたのは意外にも麻子さんで、私と秋山さんがつい聞き返すと自信満々な表情で頷いた

 

「杉野さんはあれでかなり気配りができる人だからな───

きっと私達の為に甘いものでも持ってきてくれるに違いない」

 

「そ、そうかなぁ…」

 

斜め上の発想に思わず武部さんがズッコケそうになっていた、私も正直そうだろうか?と思ったが確かに食後に持ってくるだけあってその可能性もなくはないと思う

 

「──おぅお前ら待たせたな」

 

そこから20分前後経った頃、小ぶりな器をいくつか手に持って杉野さんが台所から戻って来る

 

「杉野さん…それは?」

 

思わず聞き返すと杉野さんはあぁ、と言ってから私達の前に器をおいていく

その中身は一見してわさびにも見える緑色の物体の中に白玉が入った物だった

 

「武部が肉じゃが作った分で少し枝豆が余ってたからな

ずんだの白玉ぜんざいを作ってみた」

 

「ほら見ろ、やっぱり私の言ったとおりじゃないか」

 

杉野さんが何を作ったのか説明してくれると自身の予測当たった為に麻子さんは得意げにむふーっと笑みを浮かべる、心なしかその目はキラキラと輝いていた

 

「まぁ、あんまり凝ったものじゃないけど

一応後輩たちからの評判は良かったぞ?」

 

「いや…白玉なんて置いてなかったよね?

それに餡も枝豆から作ったの?」

 

「白玉はなかったけど白玉粉はあったぞ?それにずんだに関しては枝豆しか置いてないからそこから作るしか無ぇじゃん?」

 

そんなに凝っていないとは言ったものの、まさか1から作っているとは思わず

さすがの武部さんも思わず顔をひきつらせる

 

「因みになんでずんだなの?」

 

「材料が揃ってたってのとずんだは俺の地元の郷土料理だからな、作り方は小さい頃に嫌というほど叩き込まれてるから作りやすい」

 

そういえば杉野さんは元々宮城の出身、宮城の郷土料理は多くあれど甘いものに限って言えばその代表格はずんだを用いたものが多く散見される

 

「へ〜…じゃあちょっと期待しちゃって良い?」

 

「おぅ、自信作だ」

 

少しだけ冗談めかしたように言う武部さんに杉野さんは堂々とそういった為、私達はほぼ同時にスプーンで器の中のものを一口分掬って口へ含む

途端に皆は目を大きく見開いた

 

『お、美味しい…』

 

「だろ?」

 

想像以上の出来に思わず私達からは美味しいという素直な気持ちとともに驚愕の声が漏れる

そもそもずんだ自体かなり好みの分かれるものだが独特なクセはあまり感じられず味付け自体もかなりさっぱり仕上がってる

甘さに関して言えばずんだの特性上ほんの少し物足りなさを感じるがそれもそこまで気にならない

 

「さすが杉野さんだ、おかわり貰えるか?」

 

「残念、そう言ってくれるのはありがたいが元々材料が少ないからもうないよ」

 

いち早く食べ終えた麻子さんがそう言って次を要求するも、どうやら二杯目分は作れなかったようで

麻子さんにしては珍しくしょんぼりとした様子を見せていた

 

「ま、機会があったらまた作らせてよ」

 

嬉しさ半分照れ半分と言った様子ではにかんだ杉野さんに私達は即座に首を立てに振った

 

 

 

 

 

 

ジャージャーとシンクから響く水の滴り落ちる音を聞きながら、俺は皿を洗っている武部にテーブルに残っていた残りの皿を渡していく

 

「大変だろう、これで皿は最後だし手伝うよ」

 

「ううん、いいよ好きでやってるだけだし」

 

「…そうか」

 

ひとまず手伝いはいらないと言うことで手持ち無沙汰になってしまった為に一度みんなのいるリビングへ戻ると手伝ってくると意気揚々に出ていったが為に他の皆からの視線が痛い

 

「──武部にフラれちった」

 

「言い方ッ!!」

 

どうにもやろうと思っていた事が急に消えた為にソワソワして落ち着かない、なので少しふざけてそう言うと台所の方から即座に武部からそう返答があり

聞いていた西住や秋山は苦笑いしていた

 

「人聞き悪いこと言わないでよね」

 

少ししてから皿を洗い終えた武部が台所から戻ってきてテーブル前に腰を下ろすと心外だと言わんばかりに頬を膨らませていたため悪い悪いと謝った

 

「あ、みぽりんお茶でも入れる?」

 

「食器洗ってもらっちゃった後だし…悪いよ」

 

ふと今日もらった茶器が目に入ったからだろうか、そう西住に聞くも当人は既に一度片付けが完了してるためまた洗い物を増やすのは申し訳ないからと断り

武部もそれはそうか…と呟いて同意した

 

「それにしても、私達本当に聖グロリアーナに勝ったんですよね…まだ実感がないと言うか」

 

「ま、もっかいやって勝てる可能性は限りなく低いだろうが…勝ちは勝ちだろ」

 

同じく茶器へ視線を移して秋山が実感がないと呟いた為心のなかで同意しておくがそんな士気が落ちるようなことを口にするようなまねはしない

代わりに多少自信に繋がるよう次はないかも知れないが勝ちは勝ちだと伝えておく

 

「…けど、公式戦ならこの状況もひっくり返ってただろうがな」

 

今回は練習試合と言うこともあり向こうが車輌の数を合わせてくれた為にこちらもスタートラインに立てた

そこから色んな状況が重なり、たまたま上手く嵌った為に掴めた勝利だ

これが公式戦のように倍以上の数がある状況で試合となれば話は別、おそらく勝負以前の悲惨な結果になっていたであろうことは想像にかたくない

 

「公式戦?」

 

「戦車道の全国大会のことです!」

 

公式戦という単語に小首を傾げる武部に秋山が即座に補足を入れる、一応武芸である以上は練習試合だけじゃなく本試合というものが存在する

とは言え戦車道は伝統的な武芸である一方で近年ではその人気も日本国内では下火になりつつある

…まぁその要因として、大会が年に一回

しかも全国大会しか存在しないという点が大きいだろうか、他にも冬季無限軌道杯というものも存在するがこちらはもう20年近く開催されていない為除外とした

 

「ベスト4常連以外はそこまで飛び抜けた強さはないから

仮に大会でてもその4校以外とならいい勝負になるとは思うけどな」

 

しかし、まさか大会の一回戦目から因縁浅からぬ相手と戦うことになるなど

この時の俺は全く思いもよらぬところだった

 

 

 





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