ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
…これをお風呂回と言っていいかは疑問ですが
月曜日、本来であれば学生にとって憂鬱なことこの上ないこの日は
前日の日曜に授業の一環で試合を行い、その振替として戦車道履修生達には半休が与えられており
午後(昼休憩後の13時)からの集合となっている
現在時刻は朝の6時、本来なら集合はかなり先ではあるが俺は前乗りで戦車の置いてあるガレージまで来ていた
「…来たか」
「うっそ、まさか俺がドンケツっスか?」
「いや私等も今さっき来たばっかだよ」
前もって集合すると言うのは誰となしに言った話ではない
ただ、聖グロとの試合前に決めていたチューンドエンジンへの換装を考えると今このタイミングがベストだっただけであり
示し合わせるように俺、近藤さん、そして自動車部の4人は何一つ連絡を取り合うこともなく集結したのだった
「…あれ?結構進んでるじゃないっスか」
「昨日戦車を引き上げてきてから外装の修理がてら少し進めた、とりあえず前のエンジンは降ろして
フライホイールとファイナルギアに手を加えた」
ガレージの中へ入ると既に全車の外装部品は外され、元々乗っていたエンジンはジャッキに載せられ隅へ
各車の回りには新しいエンジンとミッションがすぐに組み付けられるように置いてあった
「え〜!こないだ一緒にやろうって言ってたのに!!」
「フライホイールの軽量化とか強度計算とクランクに掛かる慣性力も計算して肉抜きだから今日の午前中じゃ終わらないと思ってな」
機械弄りは好きなため、そう言う改造を施す場合は一緒にと言うことで話をつけていたが昨日の内に終わらせてしまったという
確かに今からそういうのも含めてエンジンを組み込むなら7時間じゃ少し時間が厳しいため思うところはあっても文句までは言えない
「で、どの程度までやったんです?」
「フライホイールは元の重量の2/3くらいまで削ったかな?クソ重い戦車のフライホイール*1でこれは効くぜぇ?
ファイナルギアは部品番号が同じ他車種のローギアード*2版を流用だ、部品番号は同じだから万が一突っかかられても連盟にはバレねぇよ」
「うっわ悪い大人だ」
率先してグレーゾーンを突っ走っていく近藤さんに思わず苦笑いが漏れる、しかしこういったところで悪知恵が働くところは味方にいるうちはとてつもなく心強いものだ
「よっしゃ、そしたら始めるか」
「ういーす」
『了解〜』
近藤さんの号令でそれぞれ適当に車輌へ歩いていく、どの車両であっても皆触れるほどの技量があるため持ち回りを決めなくて良い
俺はなんとなくそれまで触ってなかった我らDチームのM3へと歩みを進めて作業を開始した
◆
「
春といえど晴天の下、重量のある戦車の部品を設備があるとはいえ組み付けるのはそれ相応の重労働であり額には玉のような汗が幾重にも出来ては地面やツナギにシミを作る
「調整まで済んだら大浴場行こうよ、今の時間ならきっと貸し切りだよ」
「いいねぇ、ちょうど着替えたかったところだし」
さてエンジンやミッションを車体に組み終えたとはいえまだこのエンジンは一度も火を入れていない
そのため一度始動確認をしてからエンジンの点火時期*3、キャブレタージェット*4、エアクリーナー*5を性能相応の物に交換をしなければならない
そのためその
「ひとまず
「ハーネスは繋げ直してるけどプラグは入れてないから何時でも回してOKだよ」
部品を戻し終えれば一度エンジンを実際に回してみて異音や油圧の確認、それが済めばプラグを入れての始動確認
セッティングは現状を確認してからでないと出来ないためエンジンが掛かるのを確認し、音や振動、吹け上がり方等を見てキャブレターのジェットを交換しなければならない
「お、チョクのとこが一番乗りか?」
「…みたいっすね?他は?」
「エンジン自体は乗った、今は配線戻してるとこだよ」
一度始動確認をするため
現在近藤さんはⅣ号を一人で担当してた為、Ⅳ号を含めた他の車両は現状どうなっているのかを聞いてみるとこちらも残るは配線戻しと始動確認、そして調整だけなようだ
「つーか一緒にやってくれんのはありがたいけど、ツチヤこっちで油売ってて良いんか?
ナカジマさん等ンとこ行かねぇと怒られねぇ?」
「いや〜、こっちで一緒に手伝ってても勉強になるからねぇ」
現状俺がM3を担当、近藤さんがⅣ号でナカジマさんがⅢ突、スズキさんが38tでホシノさんが八九式を担当し
ツチヤは全体の補助に奔走していた…のだが途中からこっちと合流し一緒にM3を触っていた
…いやうん、助かるけど自動車部の部員として良いのか?と思ったがこれはこれで勉強になるから良いらしい
「チョク、一本くれ…」
「…悪ィっスけど、俺こっちに進学してくる時にタバコ辞めたンすわ」
「ほぉ…お前が?偉いじゃん」
そんなこんなで作業に戻ろうとした時、一息つこうとしたであろう近藤さんから不意に言われた一言でつい癖で胸ポケットを探してしまう
どうにもこの癖だけはしばらく抜けそうにはないが、それはそれとして他の学生の眼の前で同じく学生の身の上である俺にタバコをせびるのはやめて欲しい
「色々考えたっスから、それに俺等のいた場所みたいな問題児の寄せ集めみたいなところならいざ知らず
こういう普通の学校でそんなことしてたら浮くでしょう?」
「…まぁな、現状のお前が浮いてないかは別として今よりは印象悪いだろうな」
一言余計ではあるが確実に今よりは印象が悪くなっていたであろうという意見には同意な為軽く縦に首を振って肯定すると近藤さんは「仕方ない」と呟いてからツナギの胸ポケットから潰れたタバコの箱を取り出してくしゃくしゃになったタバコを一本咥えると火をつける
「学生の前で吸います?普通…」
「ん?アタシも昨日までそう思って毎回吸える場所探しに行ってたんだけど…
ごくごく自然な動作でタバコを吸い始めた近藤さんに自動車部もいる手前流石にどうかと思ったが他の四人から既に許可を取っているというのならそれ以上言えることはない
長時間の作業のあとは吸いたくなる気持ちもわからなくはない為俺自身も文句は言えないのだった
「んで?クランキングすんのか?」
「まぁ…今から一回やってみるところっすね」
横についた搭乗口を開けて中に入り始動用の鍵をONへ捻る、ヴーンと燃料ポンプの唸る音が聞こえいよいよ始動用のボタンを押そうかとしたところでどうにも鼻につく匂いを感じ取る
「何か問題でもあった〜?」
「ねぇコレ、ガソリン送ってるそばから下から漏れてるなんてことないー?」
鼻についたのはM3の燃料であるガソリンの匂いだ、本来こんな車内まで匂いが届くものではない為に一度ボタンを押す手を止めていた
一向にクランキングがなされないことに不審に思ったツチヤから問題発生かと聞かれたのでエンジン側で待機してるツチヤに確認してもらおうと下の燃料ホースから滲んだり漏れたりしていないかを聞く
「お、なんだ?漏れてる?ガソリン…」
「──あははははっ!!」
搭乗口の外に目をやれば近藤さんと目が合う
燃料が漏れてるかも知れない疑惑があるにも関わらずタバコを意地でも消さないその姿が思わずツボに入ってしまった
…まぁ、こういう整備でのことでは普段なら安全対策に厳しく特に勘の鋭い近藤さんがタバコを吸い続けてる時点で漏れてる可能性は極めて低くいわけではあるのだが
「とりあえず
「ん?ない?…なら良いか」
「窓開けてて
「かもね…」
ひとまず燃料の漏れもないと言うことで、早速クランキングして各部異常がないかのチェックに入る
「回すよー」
「はーい!」
さて整備に置いてエンジンを始動する際、車内からエンジンは見えないので当然エンジン側に配置されてる人がいったい何をしているのかというのも見えない
そんな状態で無言でエンジンを掛けた場合、もし万が一配置された人間がエンジンに触れていた場合高確率で巻き込み事故を起こして大変危険である
そのため事前にエンジンを回す旨を伝えるとツチヤからは元気よく返答があったため今度こそ俺は始動ボタンを押した
__キュィィイイィィイイィィイイ…
「どう?」
「圧縮はちゃんとあるよ、そっちは?」
「油圧異常なし、燃圧もちゃんとあるっぽいわ」
甲高い音とともにエンジンは回る、初爆すらしないのは万が一にもこの状態でエンジンが掛からないようにプラグを全て抜いているからだ
「大丈夫そうだね、プラグ入れてみよっか」
「オッケー」
計器から読み取れる数値は正常そのもの、そのため特に問題は無いはずと一度鍵をOFFまで回してから車外へ出て
ツチヤと一緒に新品のプラグを入れて点火コイルの配線を戻していく
「しっかしまぁ、プラグくらいイリジウム使いたかったな〜」
「70年近く前にイリジウムプラグあったら使えたかもな」
ツチヤのボヤキに最もだなと思いながらそう返す
実際当時使われていたメーカーじゃなければいけない決まりはあるが番手*6までは制限されていないため、せめてもの抵抗で二つ程番手を上げたがもういっそのことレーシングプラグだとかイリジウムプラグだとか使用許可を出してほしかった
ディーゼルエンジンを積んだ戦車は点火プラグを必要としない*7為まだやりようがあるがガソリンエンジンだとそうもいかない
「よっしゃ、とりあえず戻し終えたし掛けてみるか」
「了解」
エンジンルーム内は全ての部品を戻し終えた為、これで何時でも始動確認が出来る
ようやくちゃんと火が入るかが見れるなともう一度車内へ戻ると鍵をONの位置まで回した
「掛けるよー」
「どーぞー」
ツチヤに確認を取り始動ボタンを押す
すると…
__コッコッコッコッコカカカカカッ
元気よく回る始動装置とは裏腹にエンジンは全く掛かる気配がしなかった
「あれダメだね」
「配線間違えてないっしょ?」
「そもそも配線は弄ってねぇから」
しかし掛からなくなってそのまま放り投げてはどうにもならないためもう一度始動ボタンを押してエンジンを回してみる
__コカカカカカカックシュッコカカカカカカクシュックシュッ
「あ、来た?」
「お──」
その時エンジンから軽い初爆のような音が聞こえ、始動できるかという喜びも束の間
また始動装置の回る音だけに戻ってしまう
「ダメかこれ?」
「ちゃんと火は飛んでそうな感じするんだけどなぁ」
だがボタンを押す手を止めずにそのまま長めのクランキングを続けていた時、明確にエンジンを回していた音が切り替わる
__コカカカカカカックシシシシックシックシシシッ
「あっ来る…」
「スギノちょっとアクセル入れてみて」
どうにも吸気が足りないのか燻ったように短い初爆で終わっている感じだったが為にツチヤからもアクセルを踏んで吸気量を無理やり上げて見て欲しいとのことで
何度かアクセルペダルを底突きさせながら始動ボタンを押しっぱなしにする
___ポッポッポッ…コォオオッ
数度、わかりやすく初爆の音がしたあと
軽快な音と共にM3に載せたニューエンジンに火が入った
「来たぁああ!」
「掛かったじゃん!」
1から組んだエンジンが無事に掛かったことを確認するのは何度経験しても緊張するしそれ以上に嬉しいものだ
思わずM3を飛び出した俺はハイになった気分のままツチヤとハグをしてこの喜びを顕にする
「アクセル開けないと掛かんないって結構燃調濃いか?」
「少しメインジェットの番手下げてみようか」
が、それも束の間の話
というのもエンジンが掛かってはい終わりという話ではないからだ、現にアクセル開けて無理やり吸気量を増やさないとエンジンが掛からないということは燃料に対しての空気が薄く、プラグが湿って火が飛び辛くなっているということに他ならない
「うーん他は大丈夫そうなんだけどな」
ふとツチヤから離れてキャブレターに繋がってるアクセルワイヤーを何度か押してみる
__コォッコォッ…コォオオアァンッ
「うん…どこかしらの回転域でもバラツキや谷もなさそうだな」
しかしその音質と吹け上がりは戦車とは思えないほど軽い快音を響かせていた
「したら一度エンジン切ってジェット変えるか」
「とりあえず様子見で二つくらい下げる?
ある程度調子良くなったらあとは実際に走らせてから見たほうが良いよね?」
車内に戻ってM3のエンジンを切り、早速キャブレターのジェット交換へ
余談ではあるが一発始動に持ち込むまでに結局番手は3つ下げることとなった
◆
「なんとかなるもんだな」
時刻は昼の12時を少し過ぎた頃、なんとか全車輌のエンジンを積み替え無事に始動することを確認しキャブレターや点火時期の調整は終わらせた
エアクリは既存のボックス内部の濾紙を目の粗い物に変えただけなので詳しくは割愛
「私等やっといてなんだけどほんとよくあの内容で午前中で終わったよ」
「ねー…けどあのエンジンを載せるのは久々腕が鳴ったなぁ」
流石に午前中で作業を終わらせると言うのは少し無謀かとも思ったがまぁ変態メカニック達がいれば言葉の通りなんとかなってしまった
しかし心の何処かではやはりこんなすぐ終わるものじゃないという気持ちがあったのか一歩前を歩き一緒に大浴場を目指すホシノさんは呆れ気味に呟き
それをナカジマさんが心底楽しそうに返した
「三人共遅い〜、そろそろ人が増えるから貸し切りじゃ無くなっちゃうよ?」
ゆっくりと歩く俺達3人をさらに少し離れた前方から声を掛けるのはツチヤ、その横にいるスズキさんはあんまり急かしてやるなと苦笑いを浮かべていた
因みに近藤さんは若い子達に囲まれて風呂は気不味いから出たら入れ替わりで行くとお留守番である
「そういえばスギノと風呂行くのって初めてだな」
「そうだねー、いつも作業終わったら家で入るって帰っちゃうもんね」
「あー…」
二人の言葉でそう言えば何だかんだと一緒に風呂に入ることを避けていた事を思い出す
理由はなんてことない、腹部に今も残る大きな古傷の存在だ
これは自動車部だけではなく戦車道履修者達との風呂を避けていた理由の一つでもある
というのも俺の場合この古傷は歴戦を文字通り生き抜いた勲章だと思っている
しかし往々にして俺のそういう考えというのは一般的な同じ年頃の女の感性からズレてしまってる為、おそらくこの傷跡を見られた日にはこちらの気が滅入るレベルの純粋さで心配されるのが目に見えている
そのため何となく避けてしまっていたのだった
「まぁちょっと…色々あるんスよ」
「お、ずいぶん意味深だな」
そんなこんなで大浴場について無理くり話を切り上げる、先についてるツチヤとスズキさんは待ってられなかったようで先に風呂に行ってるのか脱衣所に姿は無かった
「しかしまぁ、まだ午前中とは長ぇな」
ツナギを脱いでインナーだけの姿になり呟く、本来ならここまでの重整備は練習が終わってからやることなので体感での時間は凄く長い
流石に疲れたなとため息を一つ吐くと不意に視線を感じる
「…どうした?」
「いや…」
「スギノって意外とスタイルいい?もしかして…」
驚いたようにホシノさんとナカジマさんに言われた言葉にあぁと納得する
俺は基本的には背を含めて幼児体型であることは自覚がある、ただし胸と太腿を除いて
「まぁ
…服が張っちゃって寸胴みたいになってるけど」
次いで服を脱いで行くと二人が一瞬で強張ったのがわかる
んー…やっぱそうなるか───
「スギノ…それ」
「どんな修羅場くぐったらそんなんになるの?トラックと喧嘩でもした?」
純度100%の心配が心に痛い、これは少しばかり言葉を選ばないと行けないかと思う
きっと誤魔化すことは不可能だろうし
「何年か前に試合中に至近弾が炸裂して、飛び散った砲弾の破片にやられたんスわ」
いやあの時は大変だった、敵車両との遠近を測るために無線電波を傍受していたが
俺が砲弾の破片を受けて倒れたことで敵車輌が「杉野車を仕留めた」とか調子くれたこと抜かしてるのが聞こえてしまってどうにもリタイヤする気になれず、医療班に破片の摘出をしてもらったらすぐさま戦線に復帰した
勿論身体を動かせなくなってしまうため摘出手術では麻酔も無しだ、死ぬほど痛かったがさっきまで意気揚々としていた敵車輌の車長共の絶望した顔は本当に傑作で
もうその日の晩飯はとってもご飯がススムくんだった
…などということを少しオブラートに包んで言ってみればホシノさんもナカジマさんもめちゃめちゃ表情が引きつっていた
「なんか…うん」
「スギノって敵に回すと怖いんだな」
「どうにも負けず嫌いなもんでね」
明らかにドン引きしている二人を差し置いて話を切り上げると、タオルを肩にかけ大浴場の扉を開ける
初めて入るが中々広々としてるし湯船の種類も多い、何だか無駄に豪華だなと思いつつシャワーの方へ足を運ぶ
湯気さんの働きにより確実とは言えないがツチヤとスズキさんは既に湯船に浸かっているようだった
(髪もだいぶ伸びてきたな〜…)
毎度シャワーを浴びるたびにいい加減長くなってきた髪にうんざりする、かと言ってバッサリ切ってしまえば昔を思い出して少し嫌だしそこまで気を使って手入れもしてるわけではないから切ってしまいたい気持ちもある
相反する気持ちと格闘しながらシャワーを終えたら髪を適当に頭から落ちない程度に巻いて湯船へ
「あ…ようやく来──うわぁあああっ!?」
「…おー
湯に入り腰を下ろす直前、こちらを振り返り叫んだツチヤに思わず顔をしかめる
いや本当さっきからオーバーアクションの連発で胃が痛いですマジで
「き、傷!?なにそれ大丈夫なの!!?」
「何年も前のだ、今は大丈夫だから気にするな」
テンパりまくってるツチヤを諭すように大丈夫だから、と告げると大きく息を吐いて「びっくりしたー」と呟いた
びっくりしたのはこっちだし傷跡見ただけでこのリアクションじゃ勲章に思ってることも怪我した当初は裂傷が酷すぎてちょっと腸がこんにちはしてた事とかは絶対に言わないでおこうと心に決めた
◆
「スギノ〜、私等先にお昼行ってるわ」
「お〜、んじゃここでお別れだな」
脱衣所にて袋に入れて持ってきていた制服に着替えているとツチヤ達から一足先にいなくなることを伝えられた為、ここで一旦お別れである
今日はおそらく慣らし運転も含めて色々やることは多そうなので放課後くらいにならないと会うことも無いだろう
「…しかし、公式戦か」
着替えを終えて元のツナギは制服を入れてた袋に入れ脱衣所を後にする
本試合はまだまだ先の話だが、抽選会自体はもう相当近かった筈だ
思えば俺は公式戦に参加してたのはスクールの時だけで、一般の学生部門とはまた少し異なるトーナメントに属していた
さらに中学時代は最初からタンカスロンでの参加だった為、実質学生部門で参加する公式戦は今回が初めてだった
(公式戦じゃブランクが長すぎて素人も同然だしな…他のメンツとなにも変わらん)
考えればきりのないほど心配事だけは尽きない
何とか試合までには気持ちを切り替えないといけないなと考え込み、あることを思い出した
(…そう言えば、今週末は珍しく土夕〜月夕までもっかい寄港するんだっけか)
数日を跨ぐ寄港日はそれこそ思考のリフレッシュにはいい機会だ
たまには羽根を伸ばして長距離ドライブに繰り出すのもいいかも知れない
(したら久々上がるか───首都高ッ)
一時期は日をまたぐ寄港日の度に通い詰めていたのだがふと思い返してみれば年度が変わってからまだ一度も走りに行っていない
せっかく作った車なのに最後に全開走行をしたのすら春休み前の筑波Attackに参戦した時だった
(オイルのストックまだあったよな…)
そうと決まれば土夜の予定は決定、日曜にでもゆっくりこっちに帰ってこよう等と考えながら
長く考え事をしていたがために昼を挟む暇なくついてしまったガレージの扉を開ける
時間も時間の為、もう誰かしら来てる頃だろう
言わずもがなこの時代の戦車には現代の車のようなスロットルというコンピューターで管理された燃料と空気を最適に混合させる装置は存在せず、キャブレターというアナログで吸気量に対してジェットと呼ばれる燃料通路を調節し燃料の吐出量を制御する装置がついている(キャブレター内に備わったジェットと呼ばれる部品内部の穴が大きければ燃料を沢山出すことができ、小さいと通路が絞られる為燃料が出ていく量が少なくなる)
吸入空気量に対して燃料が薄い場合をリーン、燃焼では燃焼温度が上昇し、エンジンの回転は軽くなるが不具合が生じた際は即エンジンがお釈迦になる諸刃の剣、逆に濃い場合をリッチと呼び燃焼では燃焼温度が低下する。また含まれる水分(燃料)の気化熱等により冷却効果をもたらすがエンジンの回転は重くなる
理想空燃比より少し濃い状態が最もパワーを得られエンジン回転も軽い状態となる
逆に低ければ低いほどエンジンを回さない、短距離などでON/OFFをしても電極部の放熱性が低いためプラグカブりを起こしにくいが逆に高速走行等でエンジンをかち回した際に熱が抜けないため最悪エンジン内部にプラグの先端が溶け落ちることとなりエンジンブローのきっかけにもなり得る
これが所謂4サイクルエンジンと呼ばれるものである、ガソリンエンジンならば圧縮行程の最後で点火プラグの電極に火花が飛び圧縮燃料を燃焼・爆破させることで回転パワーを生むがディーゼルエンジンはガソリンエンジンとは比べ物にならないほど圧縮比が高い為燃料を圧縮した際に生まれる熱で自然着火させるため点火プラグを必要としない
次回かその次にでも閑話で「湾岸最高速ランナー杉野直緒」編を1話程度挟む予定です
これは物語には関係ない本当の閑話なので見たい人だけ見ればOKです、本編にほぼ関係ありません
誤字脱字は見つけ次第直しますが、もしよろしければ見つけた際はご一報ください
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