ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
流れに身を任せて書いていたらまたもや後半はお風呂回となりました、誰か文才プリーズ
ガレージの扉を開けると、既に戦車道履修者達のその殆どは集合していた
「うーっす早いなお前ら」
「あ!杉野さんこんにちは!!」
「そう言ってる杉野も早いな」
集合時間よりまだ30分近く前なのだが、思っていたよりも早く集合してる各チームのメンバーに声を掛けると挨拶と共にそんな言葉が返ってくる
こちとら本日はお日様の登るのと同時に活動を開始している為ここにいる誰よりも、ひょっとすれば吉田み◯りよりも早起きなクマさんである
「…午後からなら流石に冷泉も起きれたみたいだな」
「…杉野さん、私はそんなに信用がないか?」
Ⅳ号の方に目を向ければAチームのメンバーは全員揃っている、時間通りに起きれる方が珍しいであろう冷泉も眠そうにはしているがちゃんと来ており
素直に驚かされたのだが心外だと言わんばかりに顔をしかめた為軽く謝罪を入れる
「私、結構早く来たつもりでしたけどその時には杉野殿の車停まってましたよね…いつからいるんですか?」
ふと秋山が気になりますと言わんばかりにそう聞いてきた、別に隠すことではないので正直にエンジン換装の為6時に学校に来て自動車部と近藤さん含めた6人で全車輌の載せ替えを敢行したことを伝える
「そ、そんな早くから…!?」
「おぅ、気合が違うぜ」
思わずと言った様子で目を見開く秋山にビシッとサムズアップして格好をつけるが既に割と疲れてるため、見栄を張った手前言えないがさっさと家に帰って横になりたいというのが本音である
「……」
「西住くん、君は一体何をしているのかね?」
そしてそんなこんなで話をしているといつの間にか背後に回り込んだ西住が項の辺りをスンスンと匂いを嗅いでくるため魂消た
普段の彼女からして思いがけない行動に少しばかり驚いたが努めて冷静に、何なら半分おどけたようにそう聞いて見ると彼女は怪訝そうに小首を傾げて切り出す
「…いつもと違う匂いがする?」
「…そりゃ汗かいたし、集合前に風呂くらい行くでしょうよ」
何の匂いだろうと言いたげに唸る西住にそう告げると両肩を何故かがっしりと掴まれた
いったいなんだと言うのだろうか…てか力強いなこの子
軽く抜け出そうとしてみてもビクともしないしこちらが力の入れにくいところを的確に掴み上げてくる
「…のに」
「に、西住?西住さん…?」
「私達が誘っても来てくれないのに」
「えぇ…」
片頬をぷっくりと膨らませて見るからに拗ねている様子でそう呟き彼女はジトーと何かを訴えるようにこちらを見つめてくる
というか、彼女は割とコロコロと表情の変わる子だとは思っていたがこんなアグレッシブな性格だっただろうか?
「そういえば毎回ナオ来ないもんね〜」
「何か理由でもあるんでしょうか?」
「んー…理由かぁ」
とはいえ理由は一つしかない、放課後の付き合いしかない自動車部でもあれだけオーバーリアクションをされたのだ
普段から付き合いのあるAチームのメンバー又は1年達に見られたらどんな反応をされるかわかったもんじゃない
特に1年生達に引かれて敬遠されたりしたら流石の俺も泣いてしまうかも知れない
(…いや待てよ、西住や秋山なら…)
西住は西住流家元の次女として小さな頃から戦車に乗ってるから似たような状態に耐性があるだろうしし、秋山も子供の頃から戦車が好きで戦車道関連の映像を見てるなら多少の耐性はあるかも知れない
「に、西住、ちょっと向こうで話し出来るか?
できれば秋山も…」
「…はい?」
「いいですけど…」
いまだに離してくれない西住と秋山に声を掛けてガレージの人目につかないところへ移動した
◆
「話ってなんですか?」
杉野さんに呼ばれて私と秋山さんはガレージの隅の方まで来ていた、呼んだ当人の杉野さんは少しだけバツの悪そうな顔で頬を掻く
「いやほら、さっき一緒に風呂にいかない理由聞かれてたじゃん?…そのことなんだけど」
歯切れの悪そうにそう言いながら、言うべきかどうか迷っているのかうーんと唸りながら実はなと切り出した
「結構目立つ場所に大きな古傷があってさ、皆を萎縮させたりしちゃうかも知れないから悩んでてな」
「え…」
思っても見なかった重たい話に思わず私は呆然とするが、ちらりと横の秋山さんの様子を見てみると驚きはするものの同時に納得したようになるほどと頷いている
…秋山さんはこの事を知っていたのだろうか?
頭によぎったそんな疑問に答えるように、秋山さんは杉野さんに一つの事を聞いていた
「それは3年ほど前の試合で負ったという傷ですか?
重症にも関わらずリタイヤしないで復帰して相手チームを恐怖のどん底に陥れたという…」
「…合ってるけど、詳しいな?あの試合もしかして見てた?」
「はい、会場で配信してる人がいましたからある程度は…伝説の神回として詳細はSNSにも載ってますし」
「え、そんな俺のことってネットに上がってんの?」
昨日の車内での一幕といいそんなに詳しく乗ってるものか?と聞き返すと秋山さんは笑顔ではいと元気よく頷く
「知名度こそ公式戦の選手程はいかないまでも杉野殿はコアなファン多めです」
「喜んで良いかわからんなそれ」
秋山さんとは対象的に盛大に引きつった顔で杉野さんは呟く、それとは別に先程の話で私は杉野さんに聞いておきたいことが出来た
「…杉野さん、重症なのに試合に復帰したって話…ちょっと詳しく聞かせてもらってもいい?」
「ヒエッ」
冷静にいつも通りの口調で問いただしたつもりだが杉野さんからは軽い悲鳴のような声が上がりスッと顔を逸らしたため両手で頬を抑え込んで無理やり視線を合わせる
…あ、杉野さんのほっぺた柔らかい…ぷにぷにだ
「──ねぇ、聞かせて?」
「あ、はい」
再度問いただすとようやく観念したように、しかしそれでも目線は逸らしながらポツリポツリとその当該試合の話をしていく
最初のうちは本人から当時の様子を聞けると言うことで横の秋山さんはワクワクしてる感じだったものの、根掘り葉掘り聞いていく中でその内容のあまりの無茶苦茶具合に徐々に顔を青ざめていった
「…ねぇ杉野さん?」
「は、はい…何でしょう?」
彼女の中で自分の命はいったいどれだけ軽いのかと説教したい気持ちもあったけど、昔の話でもあるためにそれはやめておく
その代わりに釘だけはしっかり指しておくことにした
「もし、
「ぜ、善処させていただきます…はい」
普段の様子はなりをひそめて縮み上がるように、イタズラのバレた子供みたく目線を絶対に合わせない杉野さんは何だか見た目相応の小動物のように感じて可愛らしいと思った
「…でも多分、杉野さんが思ってる以上にきっと皆受け入れてくれると思うよ?」
「…そういうもんかね」
杉野さんの頬を抑えていた両手を離して私は踵を返す
傷跡があろうと無かろうと、きっと皆杉野さんに対する態度を変えることはない
その考えに自信があったから、続く杉野さんのつぶやきにはあえて答えなかった
「…なぁ秋山、俺は時折西住が凄くおっかなく感じるよ…」
「…それは杉野殿が自分の身を大事にしないからでは?」
「ぐぅ…」
◆
「はーい、各車操縦手集合〜」
時刻は13時になり全員が揃ったところで俺は各チームから操縦手だけを集める、特に前もって集まるよう話しをしていなかった為に怪訝そうにしながら操縦手である冷泉、河西、野上、阪口、小山の5名が集合する
「訓練に入る前に一つ注意しておきたいことがある
実は本日午前のうちに各戦車、新しいエンジンの搭載をしましたが────慣らし運転が終わっておりません!!」
大仰で芝居がかった身振りで言うと阪口からはいと手が上がった
「慣らし運転ってなんですか?」
「新品の部品を組み込んでるからまだ各部品馴染んで無いわけだ、だから一定以下の回転数で抑えてエンジン出力を絞る
その状態である程度走らせて部品を馴染ませるいわば機械の準備運動だな」
因みにこのある程度、と言うのは距離換算すると大体1000km程度が一般的であるがそんな事を言ってたら一生終わらない為
ここはある程度で短縮させてもらうことにする
「というわけで今週一杯は出力制限掛けて操縦して欲しい」
「それでいいの!?」
小山からそれで良いのかと声が上がるが授業で動かすくらいとは言え1日数時間乗りっぱなしならある程度の距離は稼げるはずだ
一週間授業で使い、何なら足りなそうであるなら放課後自動車部の皆で慣らし運転を継続すれば短期間で完了とはいかないまでも相当な距離にはなると思う
「最悪は放課後自動車部達とメンテがてら距離を伸ばしておく、他に質問はあるか?」
「出力制御を掛けた戦車を操縦して訓練になるのか?」
続く質問は冷泉からだった、確かに戦車みたいに重量があってせいぜい出せて40km/h前後な乗り物を出力制御などしたら速度が遅くて操縦手にとっては訓練になりにくいと思うのが当然だろう
「安心しろ、公式戦基準とは言えこれ以上触る所がないレベルで弄くり倒してるんだ
多分慣らし運転中でもわかるくらい前のエンジンよりもパワフルに感じる筈だよ」
むしろ今までと違いエンジンレスポンスも劇的に変わっている、そのため前のエンジンの感覚で操縦すれば鬼の急発進になること請負だ
機動性は上がってはいるものの低回転での維持は難しくなっており、例えば泥濘などでは有り余るパワーが邪魔をしてスタックしやすくなってしまっている
「──ま、慣らし運転であえて回転数を維持した状態に馴れるってのも良い練習になるってことだ」
端的に新エンジンの長所と短所を掻い摘んで話し、逆にこれを機に繊細なアクセルワークと出力制御を覚えるよう伝えると俄然やる気が出たのか元気よく返事が返ってきた
…これだこれ、何故か知らんが大洗戦車道履修生は最初から士気が高い、他校と比べても大手振って言える強みである
「俺からは以上だ」
伝えるべきことは伝えた、既に授業開始時刻を過ぎてるため無駄に長引かせることも無いだろうと話を区切ると各車の5人は一度軽く会釈して担当車輌まで戻っていった
さて…俺も1年たちと合流するか───
◆
「杉野先輩!お疲れ様です!」
「「「「お疲れ様です!!!!」」」」
「おぅおつかれ、今日も頑張ろーな」
M3の元へ到着すると澤を筆頭に1年生の皆が挨拶をしてくれる為、今日の訓練も頑張ろうと返し
ふと一つ忘れていたことがあるのを思い出して近くのテーブルに置いていた袋を取りに戻る
「そうそう、昨日の午後休にプチ旅行行ったからコレ君らへのお土産な?」
「え、良いんですか貰っちゃって!」
昨日のつくば旅行で買った温泉まんじゅうは3つ、一つは西住達、もう一つは1年達、最後の一つは自動車部と近藤さんにと買ってきたものだが朝はバタバタしていた為結局自動車部達には渡すことは出来なかった
ほんとは放課後とかのが良いかと思ったが忘れても嫌なのでひとまず澤に渡すと嬉しそうに顔をほころばせる
「なになに〜、梓何貰ったの〜?」
「あ!温泉まんじゅうだ!」
「先輩〜、ありがとうございます!」
ぞろぞろと澤の周りに他の5人が集まって貰ったものを確認してから順次律儀にお礼を言われた
…うん、やっぱり1年達は可愛らしいな
こうなんというか実家の妹達を思い出してしまう、進学してからは何となく地元に帰る気にもなれず一度も帰っていないため
1年半…いや2年近く会えていない、電話はたまに掛かってくるがやはり会えないのは寂しい
「…喜ぶのは後にして、皆乗り込め」
思わず気分が落ち込んでしまうからそれらの思考を振り切るよう1年たちに声を掛ける、はーいと元気よく返事をして乗り込んでいく子達を見ると心が和んだ
「そういえばエンジン新しくなってるんですよね?
ちょっと楽しみです」
「おう、さっきも言ったが出力制御はしてくれな」
言うが早いか阪口は鍵を捻って始動用のボタンを押してエンジンを始動させる
今までと段違いな軽快さで装置が回転する音が聞こえ、その次の瞬間にはエンジンに火が灯る
_コォッ!!…カタカタカタカタタンカタカタ
「すっご…!」
以前のエンジンとは違い排気の音質は高め、フライホイールを軽量化、ハイカム化したために以前に比べて回転数は純正のものと比べ少し高い状態で不安定にアイドルするが、しかしそのままでも感じ取れる物があるのか阪口の目はとてもキラキラとしている
__コォッ!コォッ!コォアアアンッ!!
「すごいすごい!針が踊ってますよ!?」
「当たり前だろ!誰が組んだエンジンだと思う!?」
計器盤の一つにエンジンの回転数を指し示すタコメーターが取り付けられており、その針はアクセルを踏み込む度にまるでオートバイの物のように機敏に上下している
普段の状態を知っている阪口はそれだけでも楽しそうに大はしゃぎしていた
◆
普段通り練習が開始され
当初は慣らし運転の兼ね合いによりいつもよりは退屈になるだろうという少し軽んじたような空気が漂っていたが、実際に戦車を動かすとすぐにその考えをしていた者たちを含めて大きく躓くこととなった
「──か、桂利奈!ストップストップ!!」
無線機に緊迫した面持ちで澤が声を張り上げたところでM3が停車する
さてはて一体何があったのかと言うと…
「うぇええ…」
「き、気持ち悪い…」
体調不良者の続出である、高出力の新エンジンに取り替えたM3に対し阪口は何とかものにしようと格闘するも上手くいかず
更に回転数を抑えようとしてもレスポンスが良すぎて上手く合わせられず、急発進に始まり急加速急減速のオンパレード
当然車内は前後左右にガッタンガッタンと激しく揺さぶられたことで車酔いを起こす者が後を絶たなかった
「…少し早いが休憩にしよっか」
「…でも」
「こんな状況で練習なんて続けられるかよ、それに澤も少し顔が青いぜ?」
いつもより早めになるが休憩を提案するとそれに澤が待ったをかけようとした、しかし彼女自身も顔色が優れていないので無理矢理にでも休憩は取らせる
もはやM3で無事なのは俺と丸山と操縦してる張本人の阪口と僅かに3名のみになっていた
「…なんだ、動いてるのはAチームのIV号とBチームの八九式だけか」
澤と一時代わり、状況を確認しようと外に目を向けると視界の少し先にⅢ突と38tが停車しているのが見えた
どうやら問題が起きているのはウチの車輌だけでは無いみたいだ
「こちら四号車Dチームより隊長車
現在体調不良者が続出している、一度休憩を取らせたいがどうだろうか?」
車内に引っ込み無線機の電源を入れる、動けているのがIV号と八九式だけである以上は無理に練習を継続しない方が良いだろう
『───そうですね、全車輌一時休憩としましょう
体調不良者が出てる車輌は全員が回復するまで控えていてください』
西住からの返答はこちらの予想通りで休憩の許可が折りたため、車酔いで死にかけてる澤、宇津木、山郷、大野の4人に声を掛けてから残る丸山と阪口に声を掛けて換気のために搭乗口のドアを全開に開ける
「…おいおい大丈夫か?」
通信手用の席まで戻ってくると宇津木、山郷、大野の3名がグッタリとした様子で壁に持たれるように座り込んでいた
「ちょ、ちょっと無理ですぅ…」
「うん…」
「目眩がします…」
思わず大丈夫かと聞いてみたが返答は芳しくない、それどころかこの3人は特に酔いが酷いのか表情がもはや死んでいる
さてどうしたものか、と考えながら
ひとまず座ってるとはいえ現状頭が高い位置になってるのはあまりよろしくないだろうと判断して3人の近くに正座で座り込んだ
「ん、横になりたい奴いるか?」
「え、先輩それって…」
そして自身の太腿をぽんぽんと叩いて3人に声をかける、まぁ俗に言う膝枕というやつだ
「ツライなら遠慮するなよ?」
「ですが…」
「…じゃあ私が」
大野と山郷の二人は遠慮がちにしていたがそれを見て宇津木がいそいそとこちらに移動してくるとゴロンと太腿に頭を預けて寝転がった
「あ、良いなぁ優季ちゃん…私もお願いすれば良かった」
「私も…」
「うふふ…♪」
一番乗りを逃したことで先程まで遠慮していた二人もやはり頼めばよかったと嘆いているのを尻目に宇津木は得意げに笑った
「すごいですぅ、とても居心地良くてぇ」
「はいはい…」
「きゃー」
思っていたよりも気に入ったのか自慢するように他の二人へ視線を送る宇津木に適当に相槌を打ちながら
癖でいつも妹達にしていたようにゆっくりとした動作で太腿の上に乗った頭に手を乗せて丁寧に梳くように撫でていくと宇津木は嬉しそうに目を細めて微笑んだ
「…何か慣れてます?」
「ん?…妹達によくやってたからかなぁ」
「妹さんいるんですね」
「もうしばらく会えてないけどな」
傍から見ていた大野と山郷から交互に質問が飛んでくるので頭を撫でる手だけは止めずに返していく
次第に膝の上の宇津木は眠たげにとろんとした表情に変わっていった
「…私、もう杉野先輩の膝の上で暮らします…」
「バカなこと言いなさんな…」
中々ぶっ飛んだ事を言い出した為に思わずツッコミを入れると少しだけ残念そうにしながら宇津木は身体を起こす
「もう大丈夫なのか?」
「はい…と言うより、杉野先輩の膝の上だと本当に寝てしまいそうなので」
流石に休憩中とはいえ本来は授業時間、寝てしまうのはマズいと判断したようだ
普段は天然の気のある彼女だがこう言うところを見ると中々しっかりしている、どこかの冷泉にも見習ってもらいたいものだ
「つ、次私お願いできますか?」
「あ、ズルい!」
宇津木が退いたことで空きができ、山郷から次はとお願いされた為に返答代わりにちょいちょいと手招きすると
おずおずとしながらもこちらへ移動した山郷がゴロンと寝転んでくる
「あ…実家のお姉ちゃんと同じような感触がします」
「はは、ずいぶんと大きな妹だな?」
結局山郷と大野の体調が治るまで俺は二人へ交互に太腿を貸す事となり、おかげさまでずっと正座だったから足がとても痺れたが休憩空けには宇津木を含め3人ともとても調子が良さそうだったのでよしとしよう
「本日の訓練はここまで!」
『お疲れ様でしたぁ〜…』
号令と共に訓練が終わるも各員非常に疲れが全面に出ておりその返答はひどく弱々しいものであり、各車両中々一筋縄では行かなかったであろうことが見て取れる───
因みに我らM3は休憩からの復帰後こそ体調不良者は出てこなかったものの、阪口は今日一日で新エンジンに対する操縦法を確立できず結局終始ギクシャクしており、本当にグロリアーナ戦の前に積まなくて良かったと心の底から思った
「…まって、杉野さんどこに行くの?」
「アルェー…?」
さぁそんなこんなで本日も軽いメンテナンスがてら距離を伸ばすための試運転もやっておこうとガレージに戻ろうとしたところで西住に肩を掴まれて身動が取れなくなる
…なんか数時間前にも似たようなことあったな??
「どこっていつも通りの放課後メンテですけど
試運転?とかしなきゃなんですけど」
「今日に関して言えばほぼ訓練という訓練も出来なかったからそこまで急を要することじゃないよね??」
思わず言い返せずに言葉に詰まった、その様子を西住が見逃してくれるはずもなく
西住は近くで待機している秋山を召喚した
「秋山さん、大浴場まで杉野さんを運ぶの手伝ってくれる?」
「──了解でありますッ」
「おいちょっと待て!?」
西住と秋山に両脇から抱え上げられた事で俺の両足は地面から離れて完全に宙を切った
クソ…!こういう時は小学生もびっくりな自分の背丈が憎たらしい!!
「やめろ!降ろせ!俺はFBIに捕まった宇宙人じゃねぇぞ!!」
「ンフッ」
思わずそんな事を口走るとどこからともなく噴き出すような声が聞こえる
冷静になって周囲を見渡せばこの場に残っている他の戦車道履修者たちは顔を伏せながら肩を震わせていた
く…ッ!こ、こいつら、笑ってる暇があるなら助けようとは思わねぇのか…!?
てか脇に腕を通す形で吊り上げられてるから変に負荷がかかってめっちゃ痛いんですけど!!
…などと考えている間に西住と秋山に無慈悲にも大浴場へと連行されるのだった
──あ、道中めっちゃ見られて超恥ずかしかったです
◆
「…そろそろ機嫌直してくださいよぉ」
「やだ、これは誘拐と言っても過言ではない」
大浴場の脱衣所に着いて杉野さんの拘束を解くと彼女は足早に脱衣所の隅へ陣取り体育座りの状態から全く動かなくなった
最初のうちは私も秋山さんもただただ平謝りしていたが変わらず拗ねたように頬をぷくーっと膨らませる
もう10分程このままであり、今日は今までの拗ねたり怒ったりしてる杉野さんの中でも最長クラスに長かった
「けどこうしないと杉野さん来てくれないし…」
「いやこらァ拉致だよ!?連れ去ってるじゃん!
俺の意思に無いところじゃん!これは世間的にね、拉致って言うよ!?」
誘拐・拉致、とても不穏な言葉だけど
確かに今回杉野さんを本人の意志に反して連れ去ってるためそう取られても仕方ないなと思うと何だかとても悪いことをしてしまった気分になった
「それに道中他の人達にめっちゃ見られて凄い恥ずかしかったし」
「その…ごめんなさい」
思い返してみると確かに大浴場に向かう途中にすれ違った人たちがほぼ全員と言っていいほどこちらを見ていた気がする
…どうしよう、今になって私も恥ずかしくなってきた
「…はぁ、まぁ良い…汗かいて風呂行きたかったのは本当だしな」
そう言って杉野さんは自身の制服の襟元の匂いをかいで顔を顰める…そんなに言うほどかな…?
ここに来るまで私と秋山さんは彼女が逃げ出さないよう左右から抱えて連れてきたので自然と至近距離だった
けど彼女の匂いは臭いというよりはむしろ…
「いい匂いだったよ?」
「は?」
「はい、気にするほどではないですよ」
「…は?」
私と続く秋山さんの言葉に杉野さんは当初混乱したように「は?」とか「え?」と繰り返していたが、徐々に理解したのかその顔色をカーッと赤くした
「な…ッな…ッ」
途端に羞恥まみれた表情で私と秋山さんを交互に見ながら確認をするようにプルプルと震えた手でこちらを指差す
…なんだか杉野さんって思ってたよりもコロコロと表情が変わるなぁ
「あああああッ!もぉーーッ!!」
そして彼女は急に叫びだしたかと思えば乱雑に頭をガシガシと搔いておそらく恥ずかしさを誤魔化すようにして立ち上がった
「西住ッ!」
「は、はい!」
「今回の不始末として後々食堂でメシでも奢れよな!それで手打ちにしてやる!」
急に大声で呼ばれて少し上ずった声が出たが続く杉野さんの埋め合わせ条件に顔が綻んだ
「あ、あの…私は何をすれば」
「あぁ?秋山はステーキでも奢れよ!こんぐれー分厚いやつな!?」
続いて共犯である秋山さんが申し訳無さそうにどう埋め合わせしようかと聞くと、杉野さんは少しだけ意地悪そうに笑いながらそう言って右手の親指と人差し指で10cm程の厚みを作った
「なんか私だけ扱い違くありませんかぁ!?」
「あはははッ!冗談だ冗談、お前も食堂で飯奢ってくれりゃ良いよ」
絶望に打ちひしがられたような表情になった秋山さんに杉野さんは意趣返しが出来て満足そうに冗談だと笑って代わりの条件として私と同じものを提示し安心したように秋山さんは胸をなでおろした
「とにかくもう拉致はすんなよ!?絶対だぞ!フリじゃないからな!!」
そんな様子を確認してから杉野さんはこういう強制連行は今後やめろと言い放ち少し離れたところへ移動して服を脱ぎ始める
流石にわざわざ離れた彼女を追うようなことはせず、私と秋山さんは杉野さんとは反対側のスペースで衣類を脱ぐことにした
◆
ガラガラと入口の戸が開く音がして、この大浴場に新たな来客が来たことを知って視線を向ける
(…あれ?杉野先輩だ…珍しい)
新しく入ってきたのは杉野先輩、西住隊長、秋山先輩の3人だ
特に杉野先輩は戦車道の授業が始まって一度も大浴場で見かけたことが無かったため珍しいと思った
何度か私や他の子が声をかけてものらりくらりと交わされ、一応本当に整備とかで忙しい人であるのは充分に理解してるし、それ以上にどんなに私達に優しくて気さくでも先輩なので無理に誘うことも出来なかった
(…杉野先輩、私達といる以外はいつも西住隊長たちと一緒にいるなぁ)
以前世間話の一環で少し聞いてみれば元々杉野先輩が転校初日の西住隊長に声をかけたことがきっかけで縁が生まれ
私達に指南するためにこちらへくる前はAチームのメンバーと行動を共にしていたと言っていた
本当は仲の良い人達でチームを組んだほうがやりやすいだろうに初めてで不安であろうからと私達の所に来てくれた杉野先輩には本当に頭が上がらない
(…あ、先輩髪下ろすとあんな感じなんだ)
備え付けのシャワーの一つに座り結っていた髪を解く先輩を自然と目で追っていた、本来は周囲の目があるのであんまりこういうことは出来ないけど
今日の訓練で、皆へとへとになっているせいかいつもみたいにあまり長風呂をせず出る人が多くてこの時間にしては珍しくがらんとしてる
チームメンバーでまだ残っているのも紗希とあゆみくらいだった
「あれ、澤か?」
「お疲れ様です、杉野先輩…珍しいですね?」
少ししてシャワーの済んだ先輩はタオルを胸元まであてがいながら浴槽に近づいて来て、こちらに気づいて声をかけてくれる
それが嬉しくてこちらもお疲れ様ですと声をかけてから、続けてここで会うのは珍しいと聞いてみた
「あ、そうか…君ら終わってすぐ風呂場直行だったから知らないんだっけ」
何か意味深な事を言いながら杉野先輩は後ろ向きに浴槽へ入るとすぐに腰を下ろして湯船に肩まで浸かる
…普段は服で隠れて気づかなかったけど先輩は身長とは裏腹にかなりスタイルが良くて少しびっくりした
「何かあったんですか?」
「あったっていうか…」
うーん、と少しだけ唸るように視線をある方向へ向ける先輩に続いてそちらを見ると
声が聞こえたのか西住隊長と秋山先輩が気まずそうにしており、あぁ詳しくはわからないけど絶対になにかあったなと言うことがわかった
「…先輩、隣良いですか?」
「どーぞ」
思えばいつも先輩に会うのは授業のときで他の子達と一緒の時だった、今は残ってる紗希もあゆみもジャグジーの方に行っており
他の先輩たちも同じ浴槽内とは言え離れた位置にいるため周囲はほぼ二人きりと言っても過言ではなかった
中々ない機会なのでふとそんな事を聞いて見たが許可が降りたので先輩の横に移動する
(…こうしてマジマジと見ると、先輩って綺麗な人だなぁ)
浴槽の縁に両肘をつけて少し胸を張り、ふんぞり返ったような体勢の先輩は普段の言動なども相まってとても
ただ実際は面倒見の良いお姉さん気質というか、とても優しい人だと言うのは知っている
当初は思わず悲鳴を上げたくらい主に目つきの鋭さから怖いと思った先輩の顔も、人となりを知ってじっと見る余裕が生まれると綺麗な顔をした人だと思えた
「…どうかしたか?」
「あ、いえ…綺麗な顔をしてるなーと…あ!いや、もちろん変な意味じゃないですよ!?」
少し気が緩んで見つめすぎてしまったようで視線に気づいた先輩から声をかけられて思わず正直に思っていたことを口走ってしまい同時にしまったと思った
「あははッそうかそうか、嬉しいことを言ってくれるな!」
即座に変な意味ではないと付け足したものの、杉野さんは特に気分を害した様子もなくいつものように豪快に笑っていた
「…正直、俺ってほら…こんな目付きの悪さだから皆に怖がられてるんじゃないかと思ってたよ」
「そんな事は…!」
そして笑顔から一転、ちょっぴり不安そうに呟く先輩の言葉をすぐに否定することは出来なかった
と言うのも私自身最初の頃は先輩が凄い怖い人だと思ったから…
…いや叱る時はすごい剣幕だから怖いなって思ったけど実際に叱られた事あるの逃げようとしたあの一回だけだし…
「…初対面の時は、ちょっぴり怖かったです」
「うぐっ…」
私の言葉にやっぱりか、と目に見えて落ち込んだような先輩を見るのはちょっと心にくるものがあったけど
誤解のないように伝えるには本心を包み隠さないほうがいいと思った
「でも今は怖いと思いません、杉野先輩がどんな人か知ってますから───
それはきっと他の子達も一緒だと思います」
そこまで言い切ると杉野先輩は少しだけ驚いたような顔をしていたが、すぐにいつものように優しい表情で笑った
「全く本当に君は可愛いやつだよ」
「わぁ!?」
不意にワシャワシャと豪快に頭を撫でられた、振り返ると杉野先輩に頭を撫でてもらったのはコレが初めてだと思う
嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべる先輩を見ると、一見して子供扱いされてるようにも思えるこういうのも杉野先輩にされるなら悪くはないかなと思った
◆
「杉野先輩、先輩っていつ頃から戦車道をやってるんですか?」
少しして何人かが入れ替わりで大浴場を出入りし、Aチームの他の先輩たちも揃ったが私と話してるのを見て軽く手だけ振ってから西住隊長たちの方と合流した
他の人達が揃った段階で杉野先輩もそっちに行くかと思ったが我関せずでとどまり続けている
私としては今のうちに聞きたいことが聞けるのでありがたい、早速杉野先輩が戦車道を始めるきっかけを聞こうとそう切り出した
「あー…あれいつだったかな、確か8歳になりたての頃だから…今俺が16で、かれこれ8年くらい前になるか───」
「そんな昔から…!やっぱり戦車が昔から好きで、とかですか?」
予想よりも昔からやっていたと思う反面、先輩ほどの腕を身につけるにはやはりそのくらい昔からやっていなければならないのだろうなと妙に納得し
やっぱりその頃から戦車などが好きだったのかと訪ねてみると返ってきたのは意外な言葉だった
「いや全く?その頃は全然興味なかったな、俺は元々飛行機乗り志望だったから」
「え…そうなんですか?」
思わず聞き返すが杉野先輩はあぁと言って笑っていた
元々は興味のなかったものであれほどの操縦技術、しかも皆に対する指南を行ってるためほぼ全ての役割をこなせるのだろう、何故興味の無かった戦車道を始めることになったのか俄然興味が湧いてきた
「イベントとかで見るエアレーサーになりたかったんだけど、身長が足りなくてな───」
「あ…」
「──もう悔しくて悔しくてさァ」
しかし続く先輩の言葉に私は言葉に詰まる、杉野先輩はとても背が低い
私と比べてもチームで見てもダントツで一番小さいし、何ならウチの学校で一番背が低いかも知れない
そのため遥か昔の事であるのに今尚心底悔しそうにする先輩に掛ける言葉が見つからなかった
「だからまぁ、最初のうちは身長制限がなくて手っ取り早く不満を解消できることだったら何でも良かったのかな…」
「それが戦車道だった、と」
そういう事、と笑いながら先輩はふぅと一つ息を吐くとぐるりと背を向けるように立ち上がる
「アチーから先行くわ」
「あ、私もでます」
浴槽からでていく杉野先輩の後を追いかける、先輩は西住隊長たちに軽く手を降ってから出ていき───
私も先輩たちに軽く会釈をしてからついていく
「さぁて、今日はどこまでやっかなぁ」
「整備ですか?」
「そー」
杉野先輩と自動車部の皆さん、そして杉野先輩と元々知り合いだったという整備士の近藤さんはしょっちゅう放課後に残って私達の戦車のメンテナンスをしてくれているため頭が下がる思いだった
「まぁほぼ慣らし運転の続きだけどな」
「それはそれで大変なんじゃ…」
今日の桂利奈の様子を見る限りだと操縦するのも一苦労なんじゃ…と杉野先輩の方を向いた時にそれが目に入り、思わずサーッと血の気が引く思いがした
「あ、あの…先輩?それ…何ですか?」
「ん…?」
髪の水気をタオルで拭き取りながら私の視線の先を追って先輩は自身の腹部、正確には左半分をしめる程の大きな傷跡を見てあー…と顔をしかめる
「すまん、気ぃ悪いだろ…すぐ隠すから」
「それ…何で負った傷なんですか?」
一言謝罪を入れてから髪を拭いていたタオルで先輩は胸元から身体を覆い隠す、だけれど私はどうにも気になってどうしてそんな怪我をすることになったのかを聞いてしまっていた
「昔、試合の最中に至近弾が炸裂してな
その砲弾の破片だ、上半身を晒してたから流石に避けきれなかった」
なんとでもないように言う杉野先輩に私は再度言葉に詰まった、そのことに気づいたからか先輩は努めて優しい表情で続ける
「なぁ澤、ちょっと前に戦車道では怖さを忘れちゃいけないって言ったの覚えてるか?」
「は、はい…」
あの日のことは鮮明に覚えてる、初めての訓練で不安だった私に不安なままでいいと肯定してくれた
その気持を忘れちゃいけないと教えてくれた言葉だったから
「戦車を動かして実弾を使ってる以上、他の武芸と比べたら俺等の命はどうしても軽くなっちまう
勿論、引退するまで大怪我を負わないやつも沢山いるが俺みたいに跡が残るような怪我をするやつもざらだ」
だからこそ怖さを忘れるなと、恐怖心を失い慣れた頃に手痛いしっぺ返しがくるのだと身を持って知っているから
あの日杉野先輩は私にそう言ってくれたのだと、私は今初めて理解する
そしてそれは私の今後の戦車道に対する考えのルーツとなったのだった
◆
澤と別れて一人ガレージへ戻ると、もう既に自動車部と近藤さんは集まっておりやはり今回も俺がどんけつとなった
「また俺が最後かぁ」
「まぁ、些細なことだ気にするな」
そう、些細なことではあるのだが俺としてはどうも宜しくない
というのも何でもやはり一番乗りというのが気分がいいからだ、そんな事を言うと少し呆れ気味な近藤さんと対象に自動車部達がわかると首を縦に振った
「で?慣らし運転はどんな感じだ?」
「とりあえず授業としては公式戦の抽選が始まる頃には全開で動かしたいから今週いっぱいって話はしましたよ
まだ多少余裕はあるでしょう?」
今日の訓練内容を聞かれたためそう答えると近藤さんは怪訝そうに首を傾げた
「いや、余裕はほぼないぞ
来週の月曜には抽選会だろ?」
「え?まじっすか!?」
「戦車スクール部門の抽選会と学生部門の抽選会は別日だぞ?チョクお前ごっちゃになってたんじゃないのか?」
近藤さんから知らされた驚愕の事実に思わず地面に膝をつきそうになってしまった
通りでこんな時期に日を跨いで寄港するなんておかしいと思ったんだ…抽選会行くために港に寄るんじゃんね
…まぁでも放課後に慣らし運転頑張れば何とか今週いっぱいで終わるかな?
「そしたら本腰入れてやらないとマズそうっすね」
「あぁ…まぁ必要なのは5人だから、この人数だと結局一人要らないんだけどな」
操縦手に必要なのは1人、それも敷地内といえどグランドでしか動かさないため1輌につき1人いれば充分だった
そして5人の視線は一気に俺の方を向いた
「え?なに…?」
「日中の授業出てるのに放課後の整備までやってるのはお前くらいだぞスギノ───」
「いやまぁ…?え?本当になに?」
「──休めって言ってるんだよこのおバカ!」
意味がわからず聞き返すとホシノさんとスズキさんからお叱りの言葉をいただいてナカジマさんとツチヤからは後は任せて帰れとありがたい言葉を貰った
「何だかんだ楽しんでるんだけどな」
「限度があるよ!」
「倒れたらどうすんのさ!?」
本心からの言葉ではあったが流石にオーバーワークが過ぎると認めて貰えなかったため、仕方無しに荷物をまとめて本日は帰宅ということになってしまった
そしてガレージを出たところで
「──あ、杉野先輩!探しましたよ」
突如俺を探していた様子の阪口に声をかけられた
「え?操縦の練習がしたい?」
阪口に呼び止められた俺はバッグを片手に駐車場へ向かいながら隣を歩く阪口からそんなお願いをされていた
「何とかお願い出来ないですか?今日の訓練が散々だったのでどうにかしたくて…」
「うーん…」
正直、出来なくはないしせっかくやる気を出してるところに水を指すようなマネはなるべくしたくない
…しかし放課後の慣らし運転ぐらい操縦に慣れてるやつが動かさないと今週いっぱいの制限時間じゃ距離が稼げないのもまた事実だ
「…そうだ、戦車じゃないけど似たように高出力でコントロール難しいのあるよ
M3よりか難いから練習にはなるとは思うし」
「え?本当ですか!?」
途端に目を輝かせる阪口を引き連れて駐車場へ入っていく
「そういえばなんでこんな所に来たんですか?」
「あぁ…言ってなかったっけ、俺車通学なんだよ」
言うが早いか「え?」と隣の阪口は驚くようにこちらを見る
少し奥まで歩いていき、見慣れた青みがかった緑色の愛車の下までたどり着くと鍵を取り出す
「ん…」
「え、鍵…?まさかコレですか!?」
そう、コレこそが先程阪口に言った戦車ではないが高出力で練習になるやつである
レスポンスなんて今のM3が眠く感じるほど鋭いし、比べ物にならないくらいコントロールは難しい
けどおそらくコレに慣れさえすれば今後どんな戦車に乗ろうと乗りこなせると思う
「…な、なんかすごいですねこの車」
恐る恐るといった感じでドアの鍵を開けて阪口が運転席へ座り、バケットシートにすっぽりと収まった彼女は表情を歪めた
「…前がほぼ見えないです」
「俺で運転できてるから大丈夫だ、安心しろよ」
「コレで杉野先輩前見えるんですか!?」
まぁ実際にまともに見えてるかと言われれば見えていない、ただそのへんは常に周囲に気を張りまくって鳥瞰の応用などで見えているのだ
「じゃ、エンジンかけて?戦車と違って奥まで捻ってな?」
「あ、あい…」
緊張した面持ちでシリンダーに鍵を差し込んでONまで回してから、言われたとおりにそこから更に奥までクイッと回す
『ピピピーーッ』
追加メーターから発せられる電子音と動き始める電子機器の音
そして軽快な音と共にエンジンに火が灯りハイカムの作用でアイドリングは不安定ながらも好調な6発サウンドを奏でる
「うわ…なんか全然違いますよ!?…というかこれ本当に車なんですか?」
目まぐるしく車内を見渡す阪口の様子に思わず笑いを堪えながら助手席に乗り込む
「操作自体は戦車より簡単だよ、アクセル・ブレーキ・クラッチとシフトレバー───
後は曲がりたい方向に曲がるためのハンドルしかないから」
因みに自動車の操作自体の話なので実際にはとんでも無く難しいがやる気を削ぐようなことは言わないお約束だ
後は阪口に走る中で覚えて貰おうと発進を促すも阪口は戸惑っていた
「…どうかしたか?」
「…あの、クラッチペダルが一切踏めません」
あ、そうだったこの車カーボントリプルにクラッチを交換してるから踏力がアホほど必要なんだった
◆
場所を駐車場から変えて、ある程度開けた場所のがいいと言うことでグランドまで車を移動させる
道中阪口に運転をさせようと思ったがフルパワーで踏み抜くことで何とかクラッチは切れたものの全く合わせられず20回程エンストこいていい加減エンジンが被りそうだったのでグランドまでは俺が運転した
「ほ、本当に前見えてるんですね
というかよく踏めますねそのクラッチ」
「慣れだ慣れ」
グランドに着いたため運転席と助手席で立ち位置を入れ替える
…まぁ何だかんだ俺もこのクラッチに変えてから2000kmほど走るまで日常的にエンストしてたからホント慣れである
「じゃあちょっと動かしてみようか」
因みに同じくグランド内には5輌戦車が走っている、もしも阪口の操作ミスで暴走することがあればコンソールのキルスイッチを抜いた後にサイドブレーキをガッツリかければ対応できるだろうと言うことでこのままグランドで始めることにした
「あっ…」
運転席の阪口からそんな声が聞こえたかと思うとそのままストン…とエンジンが停止した、普通の車と違いトリプルプレートのクラッチ板は半クラの感覚が数mm程度しかない
まともに発進するだけで一苦労なのだった
そうしてその日は10回に1回程度の割合で発進させることに成功する…まぁ回転合わせとか全然出来なくて発進してもすぐエンストすることにはなったが
ひとまず今週いっぱい放課後に貸してやれば多少は改善されることだろう
次回は閑話になります
それとお気に入り登録や感想などもお待ちしてます、一応こちらでもチェックはしてますが誤字脱字見つけましたらご一報宜しくお願い致します
追記
杉野の怪我の元ネタですが無線傍受=岩本徹三、「仕留めた」発言にブチギレてすぐ戦線復帰=ルーデル、麻酔無しで手術=菅野直となっております