ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

22 / 48
※この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
車の運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。


閑話 地上を翔ける戦闘機 ★ 【挿絵有り】

 

「本日の訓練はここまで!」

 

『お疲れ様でしたぁー!』

 

土曜日、本来であれば休日のこの日は公式戦の抽選会が来週頭に迫っているのもあり

より一層本腰を入れる為に授業の日となっていた

 

「いやぁ終わった終わったぁ〜」

 

流石に週末にもなると各員の表情に疲れが色濃く出ている

ちなみに本日を向かえるにあたり何とか各車輌の操縦手も新エンジンに慣れてくれたらしく何よりだった、放課後の別訓練が効いたのか冷泉程とはいかないものの1年生である阪口が操縦の正確さとスムーズさで他の操縦手を差し置いて堂々の2位

まぁ冷泉に関しては翌日から普通に操縦してたので比べるのも少し違う気がするが

 

「ナオ〜街に買い物いかない?今日寄港するじゃん」

 

「わりぃ、夜から予定あってその準備しなきゃならんのよ」

 

武部から声が掛かりせっかく買い物に誘われるも今日は久々に走りに行く日であるためこれから急いで準備しに戻らねばならず、武部を含め残念そうにするいつのもメンバーに軽く謝罪を入れて杉野は一度ガレージへ戻る

 

「近藤さん、俺今日そのまま上がりますわ」

 

「おぅ、わかったおつかれ」

 

本日も本日で軽いメンテナンスと最終の慣らし運転のみなので杉野の出番は無し、事前に阪口へ今日は練習できないと伝えてあるためこのまま直帰である

 

(帰ったらオイル交換して…軽く足回りの点検しておくか)

 

駐車場に入り車の元へ向かい、鍵を開けて車内に乗り込む

杉野は今週ずっと阪口の練習に付き合っていたおり、それが終わったら毎回彼女を寮まで送っていたため

一人で帰路につくのは何だかんだ久しぶりであった

 

『ピピピーッ』

 

____チュィイイイ…フュィヒヒヒンッゴォッゴゴォッゴォゴォッ

 

鍵を捻ってエンジンをかけるとあいも変わらず不安定な、それでいて調子が良さそうに一発でエンジンに火が灯る

一応自分以外に誰も乗っているものがいない時に少しばかり踏み込んで走らせてはみたが誰かさんが練習中に数百回規模でエンストかましてくれたため今日久しぶりに全開で走らすのはプラグの煤も飛んで具合がいいことだろう

 

__シャーッシャラシャラシャラ…

 

クラッチを踏み込んでシフトレバーを1速へ入れて、数回アクセルを煽りながら車を発進させると杉野は自身の工場へ向かって走らせた

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ありゃ、スギノもう帰っちゃったか…」

 

「え…うそ!」

 

離れていくチューンドRBのエキゾーストを聞きながらナカジマは呟き、それに残念そうに肩を落として反応したのはツチヤだった

 

「どうかしたの?」

 

「今日ほら、初めてツチヤの運転で首都高上がるでしょ?

スギノにも声掛けたかったんだって〜」

 

その様子を間近で見ていたホシノは何か用でもあったのだろうかと小首を傾げ、隣のスズキがツチヤが落ち込んでいる理由を告げるとあぁと納得した

 

「ってもスギノって多分ガチな奴だろ?

どうせ一緒に上がってもはぐれると思うけどな…」

 

ホシノは杉野の愛車を初めて見た時から確信している事がある

バンパーの大多数に刻まれた飛び石の傷、変色した高価な社外ブレーキキャリパー、ビッグタービンとハイカム、そして極めつけは常時Sタイヤと言う装備

本人はクラゲもいいとこ(見た目だけ走り屋仕様で走らないへっぽこ)だと言っていたが間違いなく本気組だという確信だ

 

「まぁ、確かにスギノの車にうちので首都高ついていけるかって言うと…」

 

「C1ならついて行けるかも知れないけど、あの車絶対最高速に重きを置いてる車でしょ?」

 

どう考えても分が悪いなぁと言うナカジマの呟きにホシノは訂正を入れる

そう、何から何まで勝てないというわけではない

何故なら杉野の車は最高速を突き詰めた車であることは少し見ればわかることだ、彼女の主戦場はおそらく湾岸最高速ステージ

そんなエリアを走る車は少しでも安定感を得るために強烈なアンダーステア(曲がらない)セッティングのはずだ

それこそC1もアンダーステアが基本だがスピードレンジが違うため完全湾岸用の足になってるということが想定される

その点こちらは杉野の車ほどとはいかないまでもFRとはいえ山では持て余すくらいにはパワーがある、C1で追いかけっこをするくらいは出来るはずだ

問題はそれ以外の高速ステージだと全く歯が立たないことくらいだろうか

 

「相当パワー出てそうだもんねぇ〜」

 

「RB30改3.4Lだろ?想像するのも恐ろしいよ」

 

「1000馬力は軽く超えてるだろうな」

 

部車はほぼ毎日触ってるしメンテナンスは欠かしていない、更に言えば彼女たちの本来のホームコースを考えればそれ以上弄る必要も感じられない完成度だ

しかし杉野車の場合は違う、個人の持ち車ということもあって金のかけ方時間のかけ方、そしてチューニングの仕方

その全てが全く異なった完成度を誇っている、本来は用途的に畑違いも良いところなので比べるのもおかしな話ではあるのだが

 

 

 

 

 

 

『bay◯m78、時刻は19時54分を回りました

日本道路交通情報センターの◯辺さんお願いします───』

 

『__はい、首都高速下りは葛西臨海公園付近で乗用車とトラックの事故のため2kmの渋滞────』

 

「お、マジか…」

 

作業用BGMとして掛けていたラジオから流れる首都高の交通情報に思わず手を止める、渋滞情報の流れている場所はいつも首都高に上がる千鳥町ICの先であるためだ

ちなみに何故千鳥町からかと言うとここからだと現金車で首都高に入れる最端だからである、勿論ETCがついているのならそんな事は気にしなくても良いのだが

もしも警察に車をマークされた場合ナンバーからETCの利用歴を割り出され区間別の通過時間から時速何キロで走ってるか特定されて捕まるリスクがある

その為にあえて現金車のままにしているのだった

 

(しょうがねぇ…そしたら新木場のインターか?)

 

車をリフトに入れてサイドシルの下側にパッドを挟んでリフトを上げる、車体の裏面は整備性確保の為にサイドシルの耳は出してあるがそれ以外は空力向上のためにカーボンプレートで塞いである

見た目純正で開口部のみを大きくしたようなワイドボディで派手な部分といえば大型のダックテールのみ、こういうところに手を入れないと最高速アタックをする以上空力が不利だからだ

 

(…よし、大丈夫そうだ)

 

リフトに掛けて車が完全に宙を浮いたら一旦止めてボディのフロント側から軽く揺する、掛かりが不十分だと作業中に落ちかねない

軽く揺すってビクともしなければOKだが全く揺れなかった為大丈夫だと判断した

 

(こういうところがちょっと面倒なんだよな〜…)

 

リフトを完全に上げて車の下へ、何度も言うようだがこの車は普通の状態と異なり車体裏をパネルで塞いでしまっている

その為オイル一つ変えるのにもその都度一々パネルを外さなければならない

走るためにはあった方が絶対に良いが作業性は少し悪い、ちなみに個人的にはパネルのビスを外す際は電動工具やエアツールを使うが戻す際は手締めである

理由としてはしめる際に電動・エアツールだとビスやネジ山をダメにしてしまう可能性があったり締め付けにバラツキが出たりするからである

そんなことになれば最悪最高速域でパネルが脱落するという恐ろしい事態になりかねない

 

(オイル漏れも水漏れも無し、ブーツも切れてるところは無さそうだな)

 

パネルを外したついでにどこからかオイルの漏れがないか、冷却水の漏れがないか、ブーツ類は大丈夫かと確認しておく

こういう細かいところを確認しておくことで現状ダメなところはないか、もし次にダメになるならどこになりそうなのかあらかたの予想がつく

特に足回りと言うのは速度を出す状況下では命綱だ

ブーツ類がダメになってた場合、最悪走行中にステアラックやタイロッドが折れて舵が効かなくなったりロアがダメになればナックルごと足回りが折れて脱落する場合がある

ドラシャが折れば舵が効かなくなる他、折れた部分の車輪に駆動力が伝わらなくなり操縦不能になる

無用なトラブルを避けるには細かいことではあるがやっておく必要は充分にある

 

(…うん、どこも漏れ無し…ブーツも大丈夫そうだ)

 

点検結果はどこも異常なし、ポータブル廃油ドレン(廃油桶)を引いて車の下に潜り込む

通常の車はオイルの潤滑装置をウエットサンプと呼ばれるものを採用し、オイルパンというものが存在ており下から上へかき上げるように潤滑する、栓であるドレンボルトは一つしか存在しないが

この車は高負荷時にもしっかりオイルを供給できるようにドライサンプ化されており上から下へオイルを落とすように潤滑するため抵抗が少ない、しかし代わりにオイルパンというものが存在せずドレンボルトが複数ありそれらを全て外さないとオイルが抜けきらないのである

 

(…また追加でオイル頼んどくか)

 

最高速アタックをやる車両は普通の車とは比べ物にならない程金がかかる、オイル一つ取っても一回の交換(オイルのみで4Lちょい、エレメントを変えたら5L近く使う)で一万円を軽く超える高級品のガルフの911(この辺は個人の好みによるが)を街乗りだけで走るにしても2000kmで交換

湾岸最高速をするならその前後で一回ずつ変えることが理想的だ

 

(あ、タイヤも見とくか…)

 

ドレンボルトを全て外し、オイルが抜いてる間の時間でタイヤの空気圧チェック、刺さっているものがないかや偏摩耗を起こしていないかもチェック

時速200km〜300kmオーバーの世界だとパンク一つで簡単に操縦不能に陥る、そんな速度で操縦不能に陥れば即死級の事故になることは想像に容易い

更にタイヤの摩耗、普通の二輪駆動の車であればそこまで深く考える必要もないがGT-Rのような四輪駆動車は話は別だ

前後で摩耗率が変わりタイヤ外周が変わると走行中にデフに熱が貯まる、その熱が高温になればデフオイルに自然着火し車両火災にも繋がる恐れがある

 

(…偏摩耗も異物も釘もなし、まぁ春休み中に新品に変えたばかりだしなぁ)

 

ちなみにタイヤも市販されてるSタイヤとは少し異なりほぼ特注の域の物で一本で10万円を超えてくる値段の代物だ、これを仮に毎週末のように湾岸最高速アタックなどしていると僅かに1ヶ月で使い切る

速度が速度なためタイヤの消耗も普通とは比べ物にならない程激しいのだ

 

(…空気圧は4本2.0か…)

 

エアバルブにゲージを当てると4本共に空気圧は2.0を指している

走るには空気圧も重要な部分で基本的には2.3ほど、時と場合によって2.0まで落としてグリップ力を高めることもある

今回は久々と言うのもあって基準値である2.3に戻した

 

そうこうしているうちにオイルも抜け終わったためドレインボルトを戻しパネルを戻せば上げて見る作業はほぼ無い

最後に前後のタイヤを縦方向と横方向にガタが出ていないか確認してリフトを下ろす

この時に車体を完全に下ろしてはいけない、何故かと言うとホイールにレーシングナットを採用しているからだ

レーシングナットは純正の物に比べて軽くてデザイン性に優れているが素材が純正の鉄と変わっているため熱が入ったり冷めたりすると時折緩んでしまうことがある

タイヤが少し地面についた段階で止めてトルクレンチでしっかり締めの確認をする、この時のトルクは適正値は120n.mほどだが上記の通り緩みやすいので少しキツめの140n.mで締めるのが個人的には安心できる

 

最後にオイルを入れて作業は完了なのだが一回に全て入れてはいけない、大体4Lほど入れてから一度エンジンをかけオイルを全体に回し

それからエンジンを止めて確認する、どうしてもエンジン内部に100cc〜200ccほど抜けなかったオイルなどが残ってたりするのでオイル量が過剰にならないようにほんの少し少なく入れて様子見をする必要がある

 

(…ちょっと少ねぇな?あと300くらいか?)

 

本来であればオイルレベルゲージのHとLのちょうど間あたりが理想だが現状Lのちょっと上である

追加で少しオイルを入れてレベルゲージを確認しほぼ中間に油面があることを確認してからレベルゲージを戻してボンネットを締めて作業終了

 

ここまでで約1時間ほど、土夜なので日付を超えてからが一番走りに向いた時間な為に特に急がずなるべく時間をかけてゆっくりと作業をしていたのだった

 

「後は洗車でもしとくか…」

 

 

【挿絵表示】

 

 

工具やリフトで使ってたパッド等を片付け、車のエンジンをかけて工場の外に出し、表の水道の蛇口についたアタッチメントにホースを繋げる

作業で多少汗をかいたためこれが終われば一度家に帰りシャワーを浴びて制服から私服へ着替えれば準備OKだ

 

 

 

 

 

 

 

現在時刻は22時を過ぎた頃───

俺は51号線を鉾田方面に南下していた

 

「しっかし相変わらず道が悪いなこの辺は…」

 

51号は特に大型車の通行も多いために時折とんでもなく轍やギャップの激しいところがあり、そういう場所を細かく避けながらも走らせていくというのは中々しんどいものがある

とはいえまだ俺の車の場合車両重量もあるしそこまでバネレートの高くない足回りな為我慢できるがコレが小型車でアホほどバネを固くした車だった場合乗るのも嫌になるようなはね方をする

 

「けど、狙い通りつく頃には良い時間になってそうだな」

 

大洗からいつも乗っている千鳥町ICまでは大体3時間ほど掛かる、未だに渋滞が解消されていなければ新木場のICから乗るので更にもう少し掛かることだろう

インターにつく時点でおそらくは午前1時を少し跨ぐ計算である

ちなみに一番ベストな時間はちょうどトラックのドライバーの朝の便と入れ替えになるAM2:30以降〜AM3:30の約1時間

この時間より少し早くても遅くても交通量があるのだから都会というのはすごいものだ

 

 

 

 

そんなこんなで日付が変わり時刻は午前0時半───、現在は幕張新都心の357号線を市川方面に向けて車を走らせている

左側に大型のイオンモールのある交差点を超えるとその次に見えてくるのはサイゼリアのある交差点

その先の交差点にはファミリーマートがあるがここを逃すとしばらくコンビニはないため一旦休憩としてファミリーマートの駐車場に車を入れた

 

(思ってたよりも少しだけ早くついたな、しかしやっぱりここまでくるのにかなり燃料を消費するもんだ…)

 

土夜といえどかなり時間が外れているためか車通りも少なく、交通の流れに沿って走れば不満の出ることのない程度に走れた

とはいえ、やはり距離が距離な為燃料の消費はかなり激しい

排気量を上げているため純正の2.6Lのまま最高速アタックをしてる車輌に比べれば多少燃費は良いがそれでも街乗りでどれだけ頑張っても72Lを許容する燃料タンクに満タンまで燃料を入れた状態で航続距離は400km程度だ、勿論全開アタックをすればリッター1〜2kmの世界に早変わりするため恐ろしい話である

 

「…うん、問題はなさそうだな」

 

さて、このファミリーマートを出れば後はノンストップな為に店内で500mlの飲み物一本と流石に小腹が空いた為におにぎりを二つ購入して外に出る

そして軽食を取りながら最終確認としてタイヤを再度目視で点検し、それが済めば助手席の足元に転がしておいた8-10のメガネと10mmのソケットをつけたラチェットでマフラーのテールエンドについたインナーサイレンサー(消音器)を取り外す

フロントのナンバーには風圧可倒式のナンバーステーが着いているためそのまま、リアのナンバープレートは靴で引っ掛けて90°まで跳ね上げる

 

「よし、行くか…」

 

作業終了と同時に生まれたおにぎりのゴミを表にあるゴミ袋に捨ててからエンジンを始動させる

ほんの少し前まで動かしていた事もあり水温は適温より少し低い程度を指している、時間も時間なので迷惑となる為暖気はせずに出ていく

 

 

 

 

 

 

──時刻は午前1時を過ぎて新木場ICからようやく首都高速へ上がる、道中ガソリンを満タンまで入れ直したら結局この時間である

せっかく首都高に上がったがそのまま最高速アタックをするわけにはいかない、というのもまだタイヤがそのパフォーマンスを発揮しきれるほど熱が入っていないからである

その為近くの辰巳JCTを介してK9深川線へ、そこからタイトコーナーが続き速度のあまり乗らないC1内回りでタイヤを温めながら再度K9を介して辰巳JCTまで戻り湾岸線へ出るルートを選択する

 

__パァアアアアッ!!

__ビィイイイインッ!

 

「お、流石に時間が時間だから始まってるな」

 

交通の流れより少し早く、時速にして約120km/hほどでC1を周回していると背後から甲高いエキゾーストが二つ、真横を通り抜けたそれは白のEK9と黒のFD3S───

全開で駆け抜けていく2台はこちらが左の走行車線を走っていることもあり難なくパスして先のコーナーを抜けていく

ちなみに先頭がEK9でその後ろにFD、C1の特に速度のそこまで乗らない内回り、それもコーナーの連続帯ではターボ車よりもNAのが速かったりするいい例である

 

 

__ゴォオオオオッパシューンッ

__バァアアアッ!

 

更に周回を重ねると今度は後ろから真っ赤な14アリスト、そしてそのアリストを煽るようにベタベタな位置で明るい銀色のグランドシビックがかっ飛んでいき

その2台が視界から消えた頃に青いNA型ロードスターと黄色いZC31Sのスイスポが追い越しをかけていった

 

「あれ…あのグランド、まだ走ってたんだな」

 

オーナーは顔見知り程度だがあの独特な純正とは違った色合いの銀色のグランドシビックは俺が走り始めた頃には既にC1を走っている姿を度々目撃している

入れ替わりの激しい首都高ランナーという立ち位置で事故や降りること無く今も現役で走る姿を見ると少し嬉しく思った

 

(さ、そろそろこっちも始めるか)

 

もうタイヤも温まった頃合いだろう、5速でゆっくり巡航していた状態からギアを二つ落としてして車を急加速させる

四輪のタイヤが滑り出して一瞬車体があらぬ方向に向くものの一瞬カウンターを当てて姿勢を戻す

 

(やっぱり内回りはかなり狭い…)

 

C1はどちらかと言うとパワーよりもトータルバランスが大事なのでフルブーストをかけるとまともに走れたものではない

そのため一番最低のブースト圧1.0まで下げているが元々湾岸線を走るように作った車輌ではそれでも有り余るパワーを持ち少しのアクセル全開ですぐに目の前にコーナーが差し迫る

 

(このままK9からもっかい辰巳まで抜けて湾岸行くか…)

 

内回りも走れないことは無いがいかんせんこの車にとっては狭すぎる、並大抵の奴ならそれでも負ける気は一切しないが完全にC1用にセッティングを出して走り込んでる本気組にはちょっと敵わないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は午前2時手前、K9から辰巳へ抜ける道中

時速150km程度で巡航する俺の目には同じ程度の速度で走る1台の車が目に止まった

 

(ベイサイドブルーのR34…?)

 

しかもそのR34のカラーはほんの少し特殊で、色合い的にはベイサイドブルーだが色味はかなり濃いめだった

そしてそんな特殊の色合いのR34は自分の記憶上一人しかいなかった

 

(へぇ、あの人もまだ走ってんのか…

ちょうどいいや、クルージングに付き合ってくれよ!)

 

速度が速度なため追い越し車線を走るそのR34にジワッと少しアクセルを踏み込んで徐々に近づくと途端に向こうも加速し始める

基本的に勝負をする際、後ろにつかれた段階で応戦するつもりがなければ左に寄って相手を先に行かせる場合が殆どだ

ここで加速と言う手段を取った時点で勝負に応じてくれたと言うことである

 

___ゲーーーーッバシュシューンッ

 

2台分のウエストゲートの独特な爆音が響き渡る、前方の視界に一瞬見える一般車もすぐさま景色の一部となって後方に流れた

 

(っ…やっぱ速ぇえな!)

 

先程までC1を走っていたが為にブーストは抑えているとはいえ、一応これでも余裕で300kmは出るセッティングではある

しかしそれでも離される、とはいえ眼の前の車両が記憶の人物で間違いが無いのならこれでもまだまだ踏んでいない段階だ

 

(少し早いがこれ以上離されたら最悪湾岸に出ても巻き返せねぇ!)

 

辰巳JCTの手前、ステアリングコラムの上に配置されたブーストコントローラーを全開セッティングの物に変更し直す

 

『ピロン♪…チャンネル3番だね♪』

 

フルブースト2.0キロ1300馬力、今まで抑えられていた全ての制御が取り払われた車輌はけたたましいホイールスピンと共にR34へ肉薄する

 

(辰巳PAをそのままスルー…向こうもこのまま湾岸に出るな)

 

JCTの緩いカーブを抜けて直線へ、視界に辰巳第1PAを捉えるが速度を一切緩ませないまま大井方面へ───

しかし途中追い越し車線を塞ぐようにトラックが走っていた為2台は250km/h強出ていた状態からブレーキングで200km/h程度まで減速し、中央車線から追い越しをかけてパスする

 

___ウゲーーーッ

 

大井JCT手前、このあたりになるとコーナーも徐々に減り始めてアクセルを空けている期間が長く、ウエストゲートの開く音が周囲に響く───

とはいえまだ少し時間は早い為、少し一般車もまだ走ってるから本当の意味では全開には出来ないのだが

 

(立ち上がりは向こうが上だがストレートが長ければこっちのが速い!)

 

JCTを超えてここから少しの直線、お互いに馬力の出てる車なため大井下りPAの前を通過する頃には時速280km前後まで車速が伸びる

ちなみに前後と曖昧な言い方をしたのはメーターなんて見ている余裕が全く無いからである、これ程の速度域だと視界の遥か彼方に一般車のテールライトを捉えても一瞬で追いついてしまうため前方以外に視界を割くことは許されないのだった

 

以前に聞いた話を参考にすると、相手のR34と比べるとこちらの車のが約ノーマルのスカイラインGT-R1台分ほどパワーに余裕がある

しかし200km/h〜300km/h手前の加速はややおいて行かれてしまう

ついでに言えばこちらはRB30のエンジンブロックを流用することで3.4Lまで排気量を上げているが向こうはRB26のままボアを広げて2.8L化している

では何故馬力も排気量も劣るはずのR34に中高速の加速で負けてしまうのかと言うと答えは簡単

ギア比の違いである、こちらは太いトルクで余裕がある為ファイナルのみハイギアード化しているが向こうは全てのギア比に手を加えており完全にエンジンを回しきれる用に最適な数値でセッティングを取ってる

 

そのためこちらはギア比の都合上最高速度は条件が揃えば理論上は400km/hを超えてもまだ伸びる(流石に出せる所が無いので試したことない)のに対して向こうは精々350km/h程度がいいところだ

ただその代わりに中・高速の加速はこちらを上回る鋭さを見せるのである

 

(やっぱり勝負の決めてはつばさ橋か…?)

 

2台の車輌は川崎トンネルを抜けてカタパルトから発射される戦闘機のように加速を続けていく、ここから大黒JCTまでは約8kmに及ぶ長い直線が待っているのだ

300kmオーバーで走るのならこの長い直線区間も僅か90秒足らずで抜ける為、一瞬でも気を緩ませればもう追いつくことは叶わない

 

(アクセルを踏み込む足がブルブルと震える…

本能が警鐘を鳴らすこの領域…!完全にやられてる…ッ)

 

時速300kmの世界と言うのは1秒間で車が100m近く進む、勿論この速度域で何かあればタダでは済まない

捕まれば一般的な違反者とは違い刑事罰で処理され前科がつく、事故を起こそうものならほぼ確定で車ごとペチャンコに潰され死ぬことになるだろう

何かあれば今までの人生、積み上げてきた全てのものが崩れ去るとわかっていながら

それでも尚アクセルを緩めることは出来ない、あまりにも狂っていると本心では理解していても

スピードに完全に脳をやられてしまってそのまともな思考など出来やしないのだ

 

(確かに中高速は向こうが上だが…300kmから上の加速はこっちが上だッ!)

 

片側3車線の広い道、俺は追い越し車線から真ん中の車線に移りアクセルを踏み抜きつばさ橋へ突入───

その時ちらりとメーターを確認すると後付けしたデジタルメーターは約340km/hを指していた

 

両者一歩も譲らず横一列に並ぶ、しかしここからの加速はこちらのが上

交通量がもう少し多ければR34に分があるが、オールクリアに近い条件なら尚の事こちらが有利である

 

つばさ橋中間、速度にして約時速360km/h

完全にR34を抜き去り先頭へ、まだまだ加速は止まらない

つばさ橋を抜ける頃には時速にして約380km/h近くまで伸びるが、大黒JCTは入ってすぐに割とキツイ左が待ち受けているためこのあたりから減速を始める

この時フルブレーキを掛けようものなら車があらぬ方向にすっ飛んでいくので姿勢を乱さないように軽くブレーキを数度に分けて踏んで徐々に減速させていく

 

(…向こうは一旦離脱か)

 

大黒JCTを抜けると後ろのR34は大黒PAへ入っていくのが見えた

こちらはまだまだ燃料の余裕があるため横羽線を介してぐるりと回り再度湾岸へ抜けるルートを通った

 

 

 

 

 

 

 

──時は少し遡り午前2時の大井PA下り

 

「おぉーいそろそろ行こうよ〜」

 

「待って、大黒封鎖されてないか調べてるから」

 

1台のトヨタソアラに寄りかかるオレンジ色のツナギが特徴的な4人、ナカジマ、ホシノ、スズキ、ツチヤは休憩がてらこのパーキングに寄っていた

 

「お、今日はもう封鎖解除されてるって」

 

ケータイを使って情報を調べ上げていたスズキがそう言うと、反応したようにナカジマとホシノの視線が上がると3人は落ち込んでるように項垂れるツチヤへと視線を向けた

 

「いい加減元気出しなよ」

 

「だって〜」

 

呆れたように呟くホシノにツチヤは溜息を吐く

 

「随分スギノに懐いてたもんねぇ〜、ツチヤは…」

 

「あ〜…スギノが走ってる姿見たかったなぁ…」

 

実際機械弄りや走ることが好きという点で杉野と自動車部の面々は早々に打ち解けており、その中でも特に同い年のツチヤはその傾向が顕著だった

作業中も隙を見つけては杉野の所に行って一緒に作業をしているほどである、確かに作り手としても杉野の腕はいい為これも勉強の一環だと他の3人も黙認しているわけだが

 

__ウゲーーーッ

 

「お、なんか速そうなの走ってくるな」

 

「二台いるね、この音はRB系かな?」

 

その時周囲の音を掻き消すように大気開放のウエストゲートの特徴的な爆音が周囲に響き渡る、その音に混じった排気音から近づいてくる車輌をナカジマが予言し

4人は一斉に本線の方へ視線を向ける

 

__フォァアーーーーーンッ!

__ガリュォオオオアァッ!

 

「速ぁッ!」

 

「先頭はR34でその後ろはR32かぁ」

 

4人の眼の前を猛スピードで駆け抜けていったのは少し濃い目のベイサイドブルーのR34GT-Rとその後方10mほど離れて青みの掛かった緑色のR32GT-R

どちらもシフトアップの度にマフラーから巨大な火を吹きながら走り去っていく

 

「あの後ろ走ってたグリーンのサンニーってスギノじゃないか!?」

 

4人の中でホシノは後ろを走っていたのは先程まで話題に出していた杉野じゃないか?と確認を取るように3人に視線を向ける

 

「確かに、それっぽかったよね」

 

「結構特徴的な色だしなぁ」

 

ホシノの言葉を肯定するようにホシノとスズキが頷く、そしてそれに続くようにツチヤがこう切り出した

 

「追いかけてみようよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

午前2時20分を少し過ぎた頃──、自動車部一行は大黒PAに到着した

道中多少は飛ばしたりしたものの結局あれほどの勢いで走っていた2台に追いつく事は叶わなかった

 

「ったく、スギノのやつ何が俺はクラゲもいいとこだ

めちゃくちゃガチじゃんかッ!」

 

「あはは…でももしかしたら大黒来てるかも知れないって思ったけど」

 

「いなそうだねぇ」

 

駐車スペースを探して運転するツチヤの横でホシノはやはり思っていたとおりだと少し不満げに呟くと後部座席のナカジマとスズキは苦笑いを浮かべた

 

「ねぇこの辺でいい?」

 

「空いてるならどこでもいいよ」

 

ハンドルを握るツチヤは自販機の前あたりに車輌を止めて

そして車のエンジンを切るとドアを開けて外に降りてシートを倒す、ソアラは2ドアクーペな為こうしないと後部座席の人が降りれないからだ

 

「ツチヤ、長時間の運転ご苦労さま」

 

「いやー、流石にこんな距離は始めてだったから疲れたよ」

 

4人は車から降りて盛大に背伸びをするとPAエリア内に目を向ける、視線の先には地元では中々見ないような大多数の改造車が所狭しと止まっていた

 

「さすが深夜とは言え休日は多いな」

 

「すげー、良い車いっぱいあるじゃん」

 

4人は辺りを見渡しながらPA内を闊歩する、中には一般の車ももちろんあるが殆どがかなりお金が掛けられている事が想像できる車たちばかりなので見てるだけでも中々興奮が冷めない

 

「_おっ」

 

少しバラけながら車を見ているとホシノの目に止まったのは1台の銀色のグランドシビックだった

軽量なコンパクトスポーツであるこの車は程よく車高が落とされ、中々に雰囲気がいい

バンパーの所々が飛び石で傷どころか塗装が剥がれ落ちている所に普段どれだけ接近戦を繰り広げているかが見て取れる

 

「へぇ…」

 

勿論内装なんて残っていないし、車内には14点式と見られるロールケージや運転席も助手席もバケットシートに変わっているなどかなりスパルタンな仕様だ

 

「…ねぇ、私のシビックに何か用?」

 

マジマジと見ていると不意に背後から声をかけられ、振り返るとそこにいたのは歳こそ自分たちとそこまで変わらないであろう女の子だった

ただし真っ白に色が抜け落ちたロングヘアーは彼女が真っ黒な帽子を被っていることもあってかひどく目を引いた

 

「あぁ…すいません、お姉さんの?」

 

「そうだけど?」

 

それがどうかしたのかと言わんばかりに小首を傾げる彼女にホシノは内心でこんな大人しそうな子があんな強烈な飛石のつき方する走らせ方をするのかと少しばかり驚くこととなった

 

「カッコイイなって思って見てたんだ、もうちょっと見てっても良いかな?」

 

「…別に構わないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初は少しばかり警戒されていると思ったものの、車を見ながらこの白髪の彼女と会話を重ねていくと走ることが好きということもあり多少なりとも打ち解ける事が出来たのではないかとホシノは感じ取っていた

 

「へぇ…じゃあこれはそのお世話になってた人が元々所有していた車なんだ?」

 

「そう、仕様は譲ってもらった時から殆ど変えてないけど

勉強がてら消耗品とかは自分で変えていってるって感じかな」

 

彼女の車は元々は恩人が乗っていた物だと語った、その後一度恩人の親戚の元へ流れていたが大怪我により乗れなくなってしまった為眼の前の彼女__イオと名乗った彼女が譲り受けたらしい

 

「だけど最初の頃の私は本当に運転が下手くそでさ、元々はEG6用のVTECが載ってたんだけどそれを潰しちゃって

今は倉庫に眠ってたZCの方を載せてるんだ」

 

イオのグランドシビックは外装はEF9だが本来のグレードはEF3である、耐久性やアフター部品の多さから当初はかなり手のはいったB16Aが積まれていたが壊してしまった為

一番最初に乗っていたエンジンに積み替えたとのこと

ちなみに純正であれば今載っているZCエンジンとEG6用のB16Aでは後者のほうが35馬力ほど高出力である

…しかし何故か積み替えてみるとこのZCエンジンの方が断然早く走れると彼女は笑っていた

 

__ブワンッバァアア…ッパァンッ!

__ップワアアァァ…ッ

 

「うわっ何だ何だ」

 

突如聞こえてきた爆音に話を強制的に中断され、ホシノが大黒PAの入口の下り坂へ目を向けると真っ白なEG6とEK9が入場してきた

 

「あの人たちも速いんだよ」

 

「知り合い?」

 

「多少話したことある程度、この辺りはほら

お互いそういう人一杯いるから」

 

入ってきた2台を見つめながらボソリと呟くイオに思わず知り合いかとホシノは聞き返したが返ってきたのは微妙なものだった

しかし場所が場所の為納得は出来る、ちなみに先頭のEG6に対しては彼女は現在負け越してるのだと悔しそうに語った

2台のシビックはPA内の突き当りを回り、自動車部一行の止めたソアラを通り過ぎてトイレの前にある駐車スペースに停め始める

その様子を見ていたホシノはシビック2台の横におそらく先程杉野と勝負をしていたであろう特徴的な濃いベイサイドブルーのR34を見つける

 

「…あれ?…あのR34」

 

「あの車はしょっちゅう見かけるよ、知り合い?」

 

「…ううん、単にさっき友達の車とつるんでるの見かけたから気になっただけ」

 

思わず呟いたことに知り合いかと尋ねられるも見ていただけで直接的な知り合いではない、そのためホシノは首を振って否定した

その直後…

 

__ゴォオオオオッバシューンッバラバラバラ…

 

もう一台爆音と共に大黒へ入場する車がある

それは青みがかった色合いの緑と大型のダックテールが特徴的なR32GT-Rだった

 

「…やっぱスギノも来てたのか」

 

「あっちのGT-Rの子が知り合いなんだ?」

 

そこまで特徴が一致していればもはや断定してもいいだろうとそう呟くと、意外にもイオがそれに反応してみせた

 

「あぁ、さっき言ってた友達の方」

 

「あの子も去年くらいはちょこちょこ見てたんだけど最近はめっきり見なかったなぁ、さっきC1でタイヤ温めてたのは見てたけど」

 

杉野は入ってきて早々に奥まで行かずに手前で曲がるとそこから警察署側に向けて一直線に進んでいき右折、そこから更に右折して駐車場の一番奥側のガードレールのある方に車を停めた

 

「そしたら私ちょっと言ってくる、話付き合ってくれてありがとうな」

 

「いや、気にしてないよ…またどこかで会えたら宜しく」

 

ホシノは手を振ってイオと別れる、他の3名も入場を見ていたらしく既に杉野が車を停めた方角へ歩いていってるのが見えた

 

「おぉいスギノ───」

 

車の前につく頃に運転席のドアがガチャッと音を立てて開いた為ホシノは声を掛けたが続いて車輌から降りてきた運転手を見て当のホシノも、後続の3人も表情が完全に固まった

 

「──すいません、人違いでした」

 

「はぁ?──いやあんたら何してんスかこんなところで」

 

思わず回れ右して車に戻ろうとした4人だが運転手の衝撃の一言で杉野本人であるということが確定してしまった為に帰れなかった

 

「宮城ナンバーの15番…嘘偽り無くスギノじゃん」

「他人の空似であってほしかった…」

「…うん」

 

後ろでは3人がコソコソと話しているのがホシノの耳に届き、あまりの物言いに思わず吹き出したくなってしまうが何とか堪える

さて、何故自動車部の一行がこんな散々な反応かというと杉野のファッションが原因である

黒無地のパネルキャップを目深く被り、黒無地のインナーに赤いオーバーサイズのパーカー

そして極めつけはそれニッカポッカじゃね?と言いたくなるほどのダボダボな白ズボン、更にそれだけではなく左耳に何の恨みがあるのか大量に取り付けられたピアス

格好こそ正しく00年代初頭に流行ったようなオーバーサイズファッションを踏襲しているが今の御時世から行けばかなり感性が古いし元々の彼女の目付きの悪さも相まってかなりガラが悪かった

 

「…凄いファッションしてるな」

 

「…あぁ、聞いてくれよ俺のこの境地に至るまでのファッション道を」

 

思わず引きつった笑みで呟いたホシノに反応するように杉野は深々と溜息を吐いて続ける、どうやらこのファッションにしている理由があるとのことなのでどうせ暇であるし4人は聞くことにした

 

「年相応のファッションをするとさ…変なおっさんに声をかけられるんだよ」

 

「うん…」

 

「じゃあ見た目相応のファッションにすればいいのかと思ったら、今度は警察に迷子を疑われる始末だった」

 

「…あー」

 

それは彼女の身長等が大きく関係するのだろう、曖昧な相槌しか打つことは出来なかったが杉野は尚も続けた

 

「そこでさ、逆転の発想をしてみたわけ

話しかけられるのがダルいなら普通の感性をしてるなら「コイツやべぇ奴だ」ってドン引くようなファッションをすれば良いんじゃないかと…」

 

「──それで行き着いた先がそれかー…」

 

ちなみに一番反応に困るのはこの一見してとても様子のおかしいファッションが杉野だと普通に似合ってしまってるところだ

デフォルトの顔が怖いためこう言うファッションがハマり役なのだろう、ダサいかダサくないかは置いておいて

 

「てかなんかスギノ色々とさっぱりしてないか?」

 

「その為のオーバーサイズ」

 

普段はスタイルこそ良い物の低身長で胴体が短いことが災いして服が少し張りでた状態になっており着太りしているような見た目になっていた

しかしサイズの大きい服でそれを完全に無効化している為返っていつもよりスリムに見えるから不思議だ

 

「まぁどっちかって言うと男装に近いかもな、ほら結局知らないやつに話しかけられるって面倒な真似さえ回避できれば良いわけだから」

 

「うーん…まぁ似合ってないわけじゃないけど」

 

ちなみによくよく見ることによって4人は気づくことになるが杉野は目の周りを真っ黒なアイシャドウでなぞっており目付きの悪さにプラス補正をかけている

更に言えばいつもは縛ってそのままにしている髪はこの日は纏めてから上側に畳んで真ん中の辺りを縛っており、そこに帽子を被ることでパッと見は短髪っぽくなっていた

 

「──で?そ、その格好にして効果はあった…?」

 

「うん、もう絶大───

ただ一般人には話しかけられなくなった代わりに休日に警察から職質食らうことは増えたかな?」

 

「「あっははは!」」

 

「そりゃそうだよ!」

 

思わず少しだけ笑い堪えながらホシノが言うと杉野は自信満々に応えたが最後に職質が増えたと言う件に関してはなんでだろうな?と小首を傾げた為ついに堪えきれなくなったナカジマとツチヤが笑いだしてスズキがツッコミを入れた

 

 

 

 

 

「そういや、スギノは今日は何しに?」

 

「…まぁ夜のドライブ」

 

時刻は3時手前、なんの事前告知無しにこんな場所であったことは偶然以外ないが

一応なんの為に来たのかとそれとなくツチヤは聞くが続く杉野の返答を絶対に嘘だと思う、ドライブにしては先程の大井PA前のストレートはあまりにも命を掛け過ぎである

 

「実は大井のPAでスギノがかっ飛んでくの見てたんだよね〜」

 

「マジッスか!そんな偶然あるんだ…てかここで合ったのもだいぶ偶然だけど」

 

「いや〜随分普段の優しい性格に反して踏み抜くもんだねぇ」

 

イタズラを仕掛けた子供のようにニヤニヤと笑いながらナカジマが杉野の走り去る姿を目撃していたと言うと当の杉野は全く気づいていなかった為に偶然の積み重ねに驚嘆した

 

「ねぇスギノ、走りに行かない?首都高は今日初めて上がったから前走って欲しいけど…」

 

「したらC1の外回りとかか?」

 

ツチヤはせっかくだしとまだコースは覚えきれていないが一緒に走りに行かないかと提案する、提案を受けて杉野は自動車部の部車のスペックやフル乗車だと言うことを加味してC1がベストではないかと考えた

ただし、一つだけ問題があった

 

「ここからC1までは割と距離があるからな…

3時半超えた辺りから朝の交通が増え始めるぞ」

 

「そんなー…そしたらまたの機会にしようか、慣れない内に交通量が多いところは走るもんじゃないもんね」

 

ツチヤが道を覚えきれていないとはいえ走るとなると多分お互いにいつ知らぬ内にスイッチが入ってしまうかわかったものではない、その為これから交通量が増える時間とあってはいささかリスクが高い

ツチヤは落胆したように肩を落とした

 

「そしたら私等はもう少しここで色んな車見てから帰るけど、スギノはどうする?」

 

「俺は多少走れて満足したからあと5分程度休憩取ったら帰るよ」

 

「この時間に直帰とか大丈夫?」

 

「最悪幕張辺りで車中泊かネカフェ泊まるさ」

 

このあとの予定を話して杉野は4人と別れる、運転席のガラス越しにメーターを見ると燃料計が半タンとEランプとの間

いや若干Eランプ寄りの位置にいることを確認する

 

(行きにふち切りまで入れたのになぁ…

こりゃ、帰りはなるべくゆっくり帰らなきゃ最悪千鳥町にもたどり着けなさそうだ)

 

調子に乗って2回も最高速アタックをしてしまった為に燃料はかなり少なくなっている、ツチヤに誘われたときはつい抜け落ちていたが走る計画がポシャった事で多分帰れそうだ

 

「まだこの時間の357ってガソスタやってたっけな…

本当に最悪は手前で降りるしかねぇよな」

 

はぁと深く溜息を吐く、熱くなってしまうと少し周りが目に入らなくなってしまうのは昔から変わらないなと自分の事ながら呆れてしまう

 

『ピピピーッ』

 

鍵をシリンダーに指して捻り、燃料ポンプの作動音が消えてから最後まで回す

 

____フィヒヒンッゴォッゴォッゴォゴォッゴォッ

 

ほんの少しの前までフルブーストでの全開アタックをしていたにも関わらず特にハイカムの作用で不安定な事以外はアイドリングに不調はない

 

「行くか…」

 

今までの着けていた4点式のシートベルトを脇に放り、今日はもう飛ばさない為に純正の3点式シートベルトの方を身につけるとクラッチペダルを踏んでシフトレバーを1速に入れてゆっくり車輌を発進させる

 

徐行まで車を加速させながらPAを出ていくその姿はまるで先程までオーバー300kmの速度域で走っていたことが嘘のようだ

杉野は進路を生麦JCTから羽田方面へ向ける

もう少しで夜の明け始める時間だ、朝の交通が動き出せばモンスターマシン達のとっておきの時間は跡形もなく消え去り

 

首都高は日常の顔を取り戻す

 

最初からそんな者たちなど居なかったかのように…




というわけで閑話でした
実は友情出演として、名前が明かされているのは僅かに1名のみですが総数で4名ほど過去の作品から引っ張ってきています(内3名は他サイト掲載なので多分わからないとは思いますが…)

はい、話を変えまして皆さん
ちょっと前からお気に入り登録や感想是非お願いしますとあとがきに載せてたんですけど、やっぱり載せておくと優しい方がしてくれるものですね
改めまして本当に、お気に入り登録・感想お待ちしておりますのでよろしくお願いします

…そうそう、ちなみに次回は時期がかなり外れていますが
杉野とあの子(・・・)を邂逅させる予定です
流れ的にちょっと無理があったかなとは思いましたが、いやいや一応布石はしていたので皆さん着いて来れるでしょう!という判断です

以上です

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。