ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜 作:ReA-che 名義
本編復帰一発目なので最初は少しシリアスにしてバランスを取ります、こっちが本業なので…ね?
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「──長!杉野隊長ッ!!」
「…ん?」
雲一つない快晴の空を見上げ、物思いに浸っていたところをなんだかとても懐かしい声が聞こえて俺は振り返る
「菅田…?」
「やっと気づいてくれた、もう試合始まりますよ?」
「あー…すまん、今行くよ」
そこにいたのは顔に大きな火傷痕の残るロングヘアの少女…我ら
よく見知ったその顔にほんの少しだけ焦燥を浮かべて「もう試合が始まる」と言う彼女に何故か違和感を感じながら軽く頭を下げて踵を返し菅田の後に続く
───あれ?そもそも今日って何の試合の日だったっけ…?
菅田についていくと視線の先に剣部隊で集中配備している二十数輌の
「隊長〜!」
「やっと来たんスか!」
俺の姿が見えなくてだいぶ心配かけてしまっていたようで、泣き出しそうな顔で日光が、待ちくたびれたように飯田がやれやれと肩を竦めた
「お前らにいらん心配かけちまったみたいだな」
周囲を見渡せばおそらく本日の搭乗員名簿にかかれているのか、万全の格好で二人の他にも米田、清水、加藤、井上、宮沢、久保らが車長として集まっていた
───あれ?飯田が試合に出たことってあったっけ…?
生まれた疑問に首を捻って思案していると目の前に二つの人影が立ちはだかったために視線をそちらに戻し、内心で冷や汗が流れる事となる
「…やっと来たみたいですね」
「おまたせしてしまいましたか…?」
「ボクはもう待ちくたびれたよ〜」
色白でおさげの似合う大人しそうな見た目とは裏腹に眉間に皺を寄せて静かに怒気を含んだ声色の
ヤバい、今回ばかりはお説教も覚悟しなきゃなと心のなかで辟易とした
「い、いや〜…申し訳ないです」
「まったく…自分の欲に忠実なのは杉野隊長の良いところですが、いささか忠実過ぎです」
「まぁまぁ、これで揃ったし良いじゃないか
杉野隊長も林隊長の言いたい事くらいきちんと汲んでくれてるさ、そうだろ?」
思わず平謝りする俺に林隊長は溜息を一つ吐きながら諭すように叱り、それを見ていた赤淵隊長が取り持ってくれたお陰で林隊長も何とか怒りを収めてくれた
「──杉野!そろそろ即時待機命令が出るそうだ」
「
続けて近くの人混みをかき分けて出てきたのは
彼女はスクールの時に同期としてお互いに切磋琢磨した仲だ
その彼女から言われた言葉で出撃準備に取り掛かる為に戻ろうとして、ふと足を止める
──あれ?なんで林重子隊長が戦闘407の隊長をやってるのに林美啓がここにいるんだ…?
───だって美啓が343に来たのって…林隊長が死んで二代目隊長が必要だったからだろ?
振り向いて先程まで林隊長と赤淵隊長のいた場所に二人の姿を探す、しかし疑問とは裏腹に林隊長は待ち時間で他の隊員に教鞭を振るっていた
「あれ?…林隊長がいて?でも美啓もいて…ん??」
「杉野?何を言ってるんだ?林隊長はあそこにいるし、私もここにいるよ」
そこに何の問題もないだろう?と呆れたように肩を竦めた美啓にそうかも知れないと思い始めてなにも言えなくなった
___確かに実際目の前にいる以上は二人が揃っていることには何も問題ないような気がする
『─アアアアァァァァ!』
その直後、指揮所の近くに備え付けられたスピーカーからまるで空襲警報のような低音で唸るサイレンの音が響き渡る
その音も随分と聞いていなかったためになんだか懐かしいと思い、同時に首をひねった
__ちょっと待て?懐かしいって何だ?今現在聞いているのに俺は何に対して懐かしがってる?
…と、いうより─────一体今は何年の何月だ??
『
止まないサイレンの中で暗号略号が読み上げられた、いつでも命令一つで即座に動けるように司令部からのスピーカーを通して発せられた命令に
ほぼ脊髄反射のように並べられた戦車に向かってダッシュで駆け寄る
『
続いて読み上げられた暗号略号に整備員達は一斉に並べられたチハ改のエンジンを始動させて離れていく
性能を優先するために消音器の取り払われたチハ改達は周囲に轟音を撒き散らしながらアイドリングを開始する
「…ん!?」
「 ! !」
チハ改へ向かって走っている道中、後ろから追い上げてきた菅田と横一列に並ぶ
菅田はこちらへ何かを伝えるように叫んでいたがいかんせん周囲の音がうるさすぎて聞き取れない
「──隊長! 」
「あぁッ!?」
「──ですから!まだこっちには来ないでくださいね」
何かを必至に伝えようとしてくれるのはわかるが、どうしても途中から声は聞こえなかった
そうこうしているうちに並べられた戦車の中から自分の愛機を見つけ出し、走っている勢いそのままに飛び乗ろうとする
「──うっ!?」
しかし戦車の装甲の上に飛び乗ろうとしたその瞬間、ぐらりと視界が揺らいで眼の前の光景がブラックアウトしていった
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目が覚めるとそこは見慣れない天井だった───
…いやそれはそうだ、結局昨日首都高まで走りに行って帰りしなに泊まろうと幕張で降りてネカフェを探したものの
なんと外泊許可証を家に忘れるという痛恨のミスをしてしまいどこのネカフェも未成年ということもあり門前払いだった
仕方無しに年確のないそっち系のホテルに泊まったわけだが部屋に入った途端に疲れが押し寄せて着の身着のままベッドへダイブして寝てしまったのだ、年確されない事は勿論頭に入れてはいたもののこんな場所に来ることがない
見慣れない天井であるのも仕方のないことだった
「…全部夢、だったのか…」
不意に頬を熱い雫が伝っていく、止めようと袖で拭うも一向に鎮まりそうになかった
それほどまでに夢の中とは言え菅田・林隊長・赤淵隊長の3人に、もう二度と会うことの出来ない人達に会えた事が嬉しくもあり
同時に途方もない寂しさに苛まれたからだ
──それにしても…
「菅田は最後、俺に何を伝えようとしてたんだろうな」
何かを必至に伝えようとしてるのはわかったがどうにも途中で声がかき消されてしまって何を言っているのかまでは全然わからなかった
もうわかりようのない事であるが、どうにも最後の菅田の表情がしばらく頭から離れそうもない
軽くシャワーを浴びて持ってきた着替えに身を包み、部屋の出入り口脇に設置された精算機で支払いを済ませてから部屋を後にする
現在時刻は11時を少し過ぎた頃なので上手く行けば夕方までもつれることもなく帰れるだろう
「…腹減ったな」
ホテルの駐車場までの通路を歩いているとふとした拍子に空腹感に苛まれる、それもその筈で昨夜はおにぎり二つしか腹に入れていない
小柄な見た目と裏腹に食べ物は人並みに食べるのでそろそろ腹の虫が主張しようとしてる、部屋にいる間になにか頼めば良かったと思ったがその時は起きてすぐと言う事もあってかまったく空腹感を感じていなかったため仕方ないだろう
(帰りにどっか適当に寄って帰るか…)
駐車場の自分の車まで戻ってきて鍵を開けながらそんな事をおもう、幸いなことにここは幕張なので飯屋くらい帰りしなにいくらでも探せるはずだ
◆
時刻は14時半頃──、大洗の市街地まで戻ってきた俺は交通の流れに沿ってゆっくりと車を走らせる
明日の夕方まで学園艦は出港しない為まだ時間はだいぶ余裕がある、加えていつメンからの連絡もないので暇を持て余しており
特に俺自身の予定もないので市内の地理を覚えるためのドライブがてらグルグルと回っていた
(…ふーん、この辺にはこういう店あんのか)
実は俺はいくら大洗女子学園に通ってるとは言え地元の人間じゃないので大洗の地形にそこまで詳しいわけではない
加えて寄港日は大洗の街で過ごすより他の土地まで出向いて一人で過ごす事のが多く、今までなら特に思うことはなかったが
しかしその考えはグロリアーナ戦でひっくり返される事となった
(この先大洗の街を舞台に戦うことがないとは言い切れないしな…)
きっとまた大洗で戦う日はやってくる、たまたま前回は上手くハマった物の次も同じ手が通じるとは限らない───
俺のように格好つけな人間はやはり仲間にはカッコイイとこだけを見せていたいのだ、そのためには可能性があるものは全部やる
勝負とは可能性に手を出す回数である
「…ん?あれは───」
少し山間の道に差し掛かった時、目の前にボロボロな一つの看板が現れる
文字もかなり掠れてしまっているが看板に「ボコミュージアム」の文字とクマのキャラクターが描かれているのが目を凝らすことで確認できた
(ボコミュージアム…?ボコって確か西住の好きなクマ助のことだったよな)
看板を見て脳裏に過ぎるのは人一倍頑張り屋で優しい西住のことだった、最終的には自分の意志とはいえ大洗で戦車道を再開させられ───
その上彼女しか適任がいないからと勝手に隊長にまでされたのに愚痴一つ零さない心優しい彼女、これで彼女のストレスが緩和されるとは思わないが
頑張る彼女に土産の一つでも見繕ってやろうと看板に書かれた道順通りに車を走らせることにした
「…うっわぁ」
ボコミュージアムについて早々来たことを後悔し始めていた、思えば看板がボロボロのまま放置され苔なども掃除されていなかった時点で気づくべきだったのだ
(これは中々強烈だな…)
思わず顔が引きつったことを自覚するほど、建物は一見して廃墟に見えるほどひどい有り様だった
そもそも営業しているのか?とも思ったが建物内の電気はついているため営業中なのだろう───
…駐車場に俺以外の車一台も止まってないけどな、駐輪場も自転車すら止まってないけどな!
[おう、よく来やがったなお前たち!オイラが相手してやろうボッコボコにしてやるぜ!!]
「いやそれ言っちゃって良いのかよ…!?」
エントランスに来ると喋るクマ助ことボコの動くぬいぐるみが出迎えるが色々とツッコミどころ満載だった
まぁおそらくはテーマパークであるために集団での入場を想定してか二人称に「たち」とつけられているが残念ながら俺はお一人様である、しかもドストレートにボコボコにするとか言っちゃってるし随分と物騒だ
(ふーん…色々とアトラクションがあるのか)
入場料を支払い園内に入ると施設案内のためと思われる地図を見つける、どうやらアトラクションやらショーやらと充実した設備ではあるが───
そこに書かれたアトラクション名を見て思わず固まった
(…オイこれ本当に大丈夫なのか?)
《イッツ・ア・ボコワールド》
《ボコーテッドマンション》
《スペースボコンテン》
etc…
一部を切り出して見ただけでも心配になるほどだ、きっと経営陣は夢の国からの刺客に怯えて夜も眠れないに違いない
あまりにも名称をかすらせ過ぎだ、なんなら無理やり関係を持たそうとして所々めちゃめちゃ語呂が悪い
(…乗る気になれねぇ)
建物の外観と言い危なすぎるアトラクション名と言いどうにも乗る気になれず、せっかく来たは良いものの敷地内を散歩して時間を潰すだけに留まる
なんか怖いもん、自己防衛というやつだ
「…ボコショー?」
少し歩いているとショーの案内表示を見つける、ケータイで時間を確認するとちょうどこれから公演が始まる時間だ
流石にショーだけなら客の安全は確保されているだろうと、俺はどうにも重たい足取りで会場へ入っていった
◆
[おい、今ぶつかっただろ!気をつけろッ]
[[[あぁ?]]]
定刻通りにショーが始まり、客のいないがらんとした観客席のため最前列で鑑賞していたものの抱いた感想は「なんだこれ?」である
俺は一体何を見せられているのだろうか、と言うかある程度西住からどんなキャラかは聞いていたがボコは些か喧嘩っ早すぎやしないだろうか
今どきチンピラでも見かけないような因縁の付け方だ
そして登場する着ぐるみたちは見た目がファンシーな癖にすべてガラが悪い
[おもしれぇ、返り討ちにしてやらぁ!]
そして複数の着ぐるみを相手に飛びかかるボコは一瞬でやられて地べたを転がる、あんまりにもあんまりな扱いに俺は思わず手で目頭を抑えた───
(ホントなんなのコレ…)
ファンシーな見た目に反してバイオレンスが過ぎる
俺にはちょっとレベルが高すぎて理解出来ないがきっと西住のような女の子してる女の子にはウケるのだろう
実際…
「頑張れー!頑張れボコーッ!!」
いくつか席を開けて右隣に座る一人の少女が一生懸命応援している姿が目に入る、見た目相応の可愛らしい服を着た彼女はパッと身の背丈は俺と変わらないくらいなので自分で言っててとても悲しくなってくるが歳は多分下の妹と近いくらいだろうか
あんまりな内容のショーに対して一言文句を言いたい気持ちがあったが彼女の姿を見てそれは脳内だけに留めることとした
子どもの夢というのは壊してはいけないのだ
[みんなの応援がオイラのパワーになったぜ!ありがとうよ、お前ら纏めてやってやら…あっ]
( 知 っ て た )
袋叩きにされていた状態からボコは立ち上がったがなんと躓いて自爆して再度袋叩きという憂い目にあっていた、その姿は儚くも虚しい…まさに諸行無常である
[また負けたぁ…次は頑張るぞッ!]
まぁ強いて言うなら、絶対に諦めない所は美点だろう
ショーはこれで終わりのようだったので俺は足早に会場を去った
場所を変えてグッズ売り場、多分入場してからここのグッズ売り場が最長の滞在時間を誇っている
…と、言うのも───
「ち、違いがわからねぇ…」
西住への土産を見繕おうと来たは良いもののその違いが全くわからない、正確には色が違うようなやつはまだ判別がつきやすいがあまり変わり種を選ぶという博打は出来れば避けたい
そのため見た目が通常種とさほど変わらないものを選びたいわけなのだが───
(あ、ダメだコレ詰んだわ…)
生まれてこの方もっと女の子らしい趣味を持てと言われ、それを突っぱね続けて自分の心が躍る方向にだけ舵を切り続けてきた
思えば女としては恥の多い人生だったとは思うがまさかそのツケをこんな場所で払うことになるとは思わなかった
(…お?)
ボコの違いはわからないがなるべく西住が既に持っているものとは被らせたくない、いや多分西住なら被ったにしても受け取ってくれるだろうが
どうせ渡すなら心から喜んで欲しい贈り物をしたい
そう思って忙しなく周囲を見渡した時、一つのカゴを見つけた
(コレなら…まだ西住も持ってないやつかな)
そのカゴの中に入っていた【激レア】と銘の打たれた手のひらほどのボコのぬいぐるみを手に取りマジマジと見る
ちなみにラスイチらしく、こんなに寂れてしかも休日なのに来場者が俺を含めて僅かに二人だけという状態でもそんなに売れるものなのかと別の意味で驚愕させられた
「──あ」
「ん…?」
ふと後ろから声が聞こえた為、振り返るとそこにいたのは先程のショーで一生懸命応援していた少女がいて
目があった瞬間彼女の表情がサーッと青ざめた
(あ〜…)
一瞬そんなに怖いかなと涙が出そうになるが、今現在は私服*1であることを思い出して思わず頭を抱えそうになった
そりゃコレくらいの歳の子なら怖がるわ、アホは俺だった
「これ、欲しいのか…?」
「あ、あの…その…」
なるべく優しい声色を作って声をかけてみるも完全に怯えられてしまっており、ビクビクした様子でこちらを見る彼女に流石の俺も泣きたくなった
「ん」
「え…?いいの…?──あ、ですか?」
彼女にぬいぐるみを差し出すとこちらを確認するように何度もぬいぐるみとこちらを交互に見て
おそらく一瞬素が出たがために即座に敬語を付け足した彼女に内心で苦笑いを浮かべる
「──君、地元の子?」
「い、いえ…」
地元の子かどうか聞いてみれば違うとの事だったのでより一層彼女へぬいぐるみを強く差し出した
「俺も地元ってわけじゃないけど、こっちの学校に通ってるからまたすぐ来れる
でも君はそうじゃないだろ?…次に来た時に再入荷してるとも限らんぜ?」
そこまで言うと彼女はおずおずといった様子でそーっと手を伸ばしてぬいぐるみを受け取ってくれた
妹に近い年齢であることの伺える彼女を差し置いて買うのはいささか後味が悪い、彼女が受け取ってくれて本当に良かった
今も渡されたボコを手の中で弄りながら少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべる姿を見てより強くそう思った
「──ありがとう、えっと…」
「そう言えば名乗ってなかったな
俺は杉野直緒ってんだ…よろしく、好きに呼んでくれよ」
言い淀む彼女にまだ名乗っていなかったことを思い出したので教えておくことにする、西住への土産物を見繕いに今後もここには来るだろうからひょっとすればまた会うかも知れないし…
「ナオ…ナオくん?」
純度100%の、恐らく一切の悪意が含まれていない柔らかな表情と共に言われたその言葉に、思わず俺は盛大にズッコケた
◆
その人と初めて会ったとき、私は内心終わったとか声をかけちゃいけない人に声をかけてしまったと後悔した
普段であれば人と話すことがあまり得意じゃない私だけど、グッズ売り場で激レアと書かれ、確かに私も持っていないボコのぬいぐるみを見つけた
でもそれは既に先客の手の中にあって…だけどどうしても諦められなかった私は相手が自分と同じかそれより低い背丈をしていた為に同い年くらいだろうと思って声をかけた
「──あ」
「ん…?」
初対面の人に声を掛けるのは自分で思っている以上に緊張をするもので、何とか絞り出すように声を発したもののその後が続かない
ただ、その一言で振り返ったその顔を見た時に一瞬で血の気が引いていくのを感じた
目深く被った帽子越しにこちらを射抜くように見つめる鋭い眼光、右の耳は多数の装飾品に飾られて服装も相まってより恐怖感を引き立てている
「これ、欲しいのか…?」
「あ、あの…その…」
怯える私へ何かを考えるように小首を傾げて、次第に何かに納得したように手のひらのボコのぬいぐるみをこちらへ向けて言った
勿論欲しいのだが言葉が続かない、話しかけて置いて会話にならないのだから
ひょっとすればこの怖い人の怒りを買うかもしれないと思うと余計に言葉が詰まってしまう
「ん」
「え…?いいの…?──あ、ですか?」
そんな私を見かねてか目の前にボコのぬいぐるみが差し出され、思わずいいのと聞いたがすぐにハッとなって敬語で取り繕う
目測で年齢は変わらないとは思ったが今日会ったばかりの知らない人に最初からタメ口は気分を害させるかもしれないと思ったから
おかげでかなり変な喋り方にはなってしまったが当人はなにも言わずに微笑むだけだった
…もしかしてこの人って、見た目が怖いだけで優しい人なのだろうか
「──君、地元の子?」
「い、いえ…」
不意に聞かれた事に一体何故そんなことを聞くのだろうかと思った、不安は拭えなかったが首を横に振りながら否定すると「じゃあ、はい」とより一層こちらへぬいぐるみを差し出される
続いて自身は直ぐに来れるが私はそうではないだろうと、次来てもあるかわからないと言われれば
この魅力的な提案に乗る他はないと思った
…それにしても
(俺…?男の人?ズボンだし…)
顔立ちは目深く被った帽子のツバで影がかかり詳しくはわからない、だけど一人称と服装、言葉の端に感じる粗暴さと雰囲気に私は眼の前のこの人を男であると判断した
その判断でとんでもない羞恥に苛まれる事となるのはすぐ後のことだった
「あ、あの…大丈夫?」
せっかく名前を教えてもらい好きに呼んで良いと言われたが友達になれそうな男の子との出会いというのは初めてだったのでどう呼ぶのが正解なのだろうかとしっくり来そうなものを口に出したら彼は何も無いところで予備動作も無しに盛大に転んだ
何故、とも思ったが今は怪我してないかが心配で大丈夫なのかを聞く
「あ、あはは…ちょっと紛らわしかったかもな、女なんだわ俺…」
「え」
転んだ拍子に脱げた帽子のツバを掴み、起き上がりながら服についた汚れを布の面でパタパタとはたき落としながら
彼__いや彼女は非常に言い辛そうにそう言っては眉をハの字にして困ったように笑う
私は先程とは別の意味で血の気が引いていくのを感じた
「ご、ごめんなさ───!」
「あーいい、いい、謝らないで
誤解を生む格好と喋り方の俺も悪いし」
即座に謝罪しようとしたけど途中で彼女に手で制されてしまう
帽子の無い今なら彼女が女性であることは一目瞭然だった、わかりやすいところで当初短髪だと思った髪型は縛って上へ畳んでおり、帽子に隠れているだけで実際にはかなり長そうだったし
事実を知れば知るほどなんで間違えたのか自分自身で疑問に思い、同時に物凄く恥ずかしくなって私は顔を俯かせた
「──そうだ、君の名前も教えてくれよ」
「…愛里寿、島田愛里寿───」
本来であれば一番怒るべきの彼女は私の様子を見て話題を変える、申しわけなさと恥ずかしさでどうにかなってしまいそうで目を合わせることは出来なかった
「島田…俺は気にしてないから顔を上げてくれよ、な?」
「で、でも…」
再度諭すような優しい声色で気にしなくても良いとは言ってくれたものの
それでも尚、言い淀む私に彼女は「それなら」と言って切り出した
「──ボコが好きな友達にお土産を買っていきたいんだけど、俺はボコに詳しいわけじゃないから何を買えばいいかわからなくてな…一緒に選ぶの手伝ってくれないか?」
頼むよと頭を下げる彼女に私は首を縦に振って頷いた
◆
島田の手伝いもあってか無事に西住へ向けた土産物を見繕うことができ、お互い戦利品の入った紙袋を片手にグッズ売り場を後にする
「いやー、ありがとう
俺だけだったら一生決まらなかったよ」
「別に、大したことじゃない」
一緒に吟味して会話を重ねた為か、お互いの性格というものをある程度把握出来たからか
先程とは打って変わり彼女はこちらを怖がる様子もなく、逆に穏やかに微笑んでそう言ってくれる
推定妹と同い歳くらいの子からいつまでも怯えた目を向けられるのは心にくる物があるので普通に話せるようになったのは俺の精神的に大変喜ばしいものだった
「それでもだ、島田のおかげで助かった」
「……」
嘘偽り無しにそうは言ったものの、何故か彼女の反応は乏しくなく
少しだけムッとしたような表情に変わった、あれ?今の会話に彼女を怒らせるような何かはあっただろうか
「愛里寿、私だけナオを名前で呼ぶのなんか嫌」
「えぇ…」
一瞬そんな事で…とも思ったが彼女くらいの年頃は色々と繊細である、特に島田はその傾向が強いような気がするし
お互いの呼び方が違うというのは仲がいいと思ってるのは自分だけなのかもという錯覚を起こして不安になるのかも知れない
「わかった──愛里寿、君のおかげで助かったよ」
というわけで言い直しである、今度は彼女も満足したのか嬉しそうに頷く
今でこそ新しく知り合った友達や仲間などは名字呼びをしてるが元々俺は別に友達のことを名前で呼ぶ事になにか躊躇があるわけではない、実際戦車スクールにいた頃まで遡れば同い年の同期とは普通に名前を呼び合っていた
それがそのあと部下が増えていくにつれて面倒なので名字呼びで統一する癖がついてしまっただけだ
「──ねぇ、ナオは…」
「ん?」
「ボコは好き?」
思わずそう来たか、と固まってしまった
俺自身は一言も好きって言ってなかったものな、そもそも友達へのお土産買いに寄ったって一緒に選んで貰ってる時に言っちゃってたし
「難しい話だな、ボコの存在自体知ったのが先週だし
簡単に判断できるほど浅い内容でもないだろ」
「…そっか」
ボコは先週の西住へのお土産の一件で初めて存在を知った、更に俺からすればすぐに理解するのは難しい内容である
だからそう伝えては見たものの愛里寿は少し残念そうに目を伏せた
「自分にとっての良い悪いや好き嫌いはまた別だからな
良いものだと判断した上で嫌いなものもあれば、悪いものと判断した上でそれでも好きなものだってあるだろ?」
気づいたら言葉に少しばかり熱が籠もっていた、それは妹くらいの年齢の彼女が落ち込むような顔を見たくなかっただけかも知れない
だけど少なからずそれは俺の本心だ
「漠然と好きかも知れないって気持ちを抱くことは沢山あるけれど、いざそれが本当に好きかと言われたら答えに困らないか?」
色々と小賢しい理屈を並べさせて貰ったが、実は判断に困るボコに対して一つだけ言えることはある
「それはそれとして、どれだけやられても諦めないで立ち上がるところはボコの好ましいところだと俺は思うよ」
「…うん!」
それは彼女の求めている答えと合致していたのか、パァアッと花の咲くように明るい表情で愛里寿は笑った
◆
彼女の価値観、彼女のボコに対する考え方はやっぱり私とナオはどこか似てるかもしれないと思わせた
特に彼女の考える好き嫌いの考え方は私の中の言語化出来なかった漠然としたものに対した答えのような気さえする
「ねぇ、ナオにはある?自分の好きなもの…」
彼女の話は楽しい、彼女の考え方は面白い
だからこそもっと彼女を知りたい、もっと仲良くなりたい
そんなことを思って私はナオにそう聞いてみては自分自身で驚く、彼女の前だと自然と話したい言葉で溢れるから
私はこんなに積極的になれる人間だったのか…
「心が躍りそうなものは手を出してみねぇと気がすまねぇから好きなものは沢山あるよ───
例えば勉強は自分の知らなかったことがわかるし、本は自分の知らない世界へ連れて行ってくれる
身体を動かすのが好きだから毎朝の体操は欠かせないし、ただの鉄の塊を積み重さねて命を吹き込んだような機械も好きだ」
「──機械…戦車とか?」
ナオの上げたものの中で気になった物が一つ、彼女は機械という曖昧な答え方をした
その中には戦車は含まれているのだろうかとふと気になった私が聞くと彼女はあぁと言って肯定する
「ナオも戦車道やってるの?」
「もってことは愛里寿もか?」
少し驚いたように聞き返すナオに私は首を縦に振る、彼女は戦車道をやるきっかけになったことや元々はパイロットを目指していたこと───
最近まで一時的に引退していたが復帰したことなどを少しばかり恥ずかしそうにしながら教えてくれた
「戦車道はいいよな、身長で弾かれたりしねぇもの」
続く彼女の言葉は笑いながら言ったものだがどこか悲しげで、納得はできても振り切れてはいないのだろう事が伺える
「ねぇ、そうまでして続けてるなら───
ナオは戦車道は好き…?」
「…んー、それもまた難しい話しだな」
自分の好きなものをナオも好きなら私は嬉しい、特に話からだいぶ長い間戦車道という界隈に身を置いていた事が推測でき
辞めて尚もう一度始めるほどというのならきっと…そう思って聞いたものの返ってきた答えは意外なものだった
「戦車道は楽しいとは思うよ、じゃないと長年続かねぇし
だけど長年身を置いたからこそそれだけじゃ済まねぇ事を知った
楽しいこともあった、嬉しいこともあった
…その反面悲しい事だってあったし悔しい思いをしたことも多々ある───
だからこそ俺にとって戦車道が一体何なのか、その答えを出すのは難しいんだ」
そして同時に、きっと簡単に出せるような答えではないと彼女は語る
好きか嫌いか以上に何故どうしてそういう結論に至るのか、戦車道においてその過程が彼女にとっては好き・嫌いよりも大事だというのだ
「…そこまで考えて、ナオは戦車道をしてるんだ」
「──そりゃあ真剣だからな」
そう言って照れたように笑うナオに思わず見惚れてしまう
真剣…そうだ、会って間もない彼女にこれほどまでに惹かれる理由
彼女への共感は勿論ある、少し話しただけでもわかるような優しい人柄も素敵だ…だけどそれだけじゃない
会話の折に感じる真剣さ、こちらを絶対に下に見ない真摯さ
私の聞きたいことに対して必ず誠実に応えてくれる彼女が、そう振る舞える強さが内気な私には眩しくて羨ましくて
どうしようもなく魅力的に見えるのだ
「…ねぇナオ───」
「ん?どうした?」
ケータイを取り出して現在時刻を確認する、もうすぐお母様の迎えに来ると言っていた時間だ
「連絡先──教えて?」
◆
「〜♪」
「──随分ごきげんね?愛里寿…」
帰りの車内の中、思わず鼻歌を口ずさんだ私に横のお母様からそんなことを言われて恥ずかしさから口元を抑えた
「何かあったのかしら?」
「その…お友だちができました」
ケータイを開いてアドレス帳を確認する、そこには「ナオ」と表示された電話番号が載っている
お母様と戦車道のチーム仲間以外では初めての純粋な友達の電話番号に思わず気を張っていないと口元が緩みそうになってしまう
「またすぐに会えるかな…?ねぇ──ナオ…」
不意に小さく呟いた言葉に返すものは誰もおらず、ただただ空気の中に散っていった
※私服姿1を参照
おまけ
杉野直緒 私服姿1
【挿絵表示】
杉野直緒 私服姿1 帽子に髪をしまい込んでるのをより分かりやすく見せる差分
【挿絵表示】
と言うわけでかなり早いですが島田愛里寿さんの登場です
杉野の日課に愛里寿との電話orメールが付け足されました
実は8月中に3回ほど愛里寿が作者の寝てるときの夢に出てきまして、私はこれをさっさと本編に出せというお告げだと解釈しました
愛里寿かわいいね、愛里寿病ませたいね、病ませて良い?てか病ますね??
それはそれとして
ちょっと前からお気に入り登録や感想是非お願いしますとあとがきに載せてたんですけど、やっぱり載せておくと優しい方がしてくれるものですね
改めまして本当に、お気に入り登録・感想お待ちしておりますのでよろしくお願いします
次回は抽選会ですが…ハンバーグさんと姉住さんが出てくるじゃないですかー…
姉住さんはともかくとしてハンバーグ師匠と良くも悪くも正直者で仲間想いな設定の杉野とは絶対に相性が悪いじゃないですかー…
今からどう落とし込むか頭が痛くなってきますが、まぁ逆にそれは書き手としての腕の見せ所と言うことで…
以上です