ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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まず初めに、全国一千万のエリカファンの皆様大変申しわけございませんでした
…でも不憫じゃないとエリカじゃないしこんな感じで良いよねぇ!?




激突

 

翌日の月曜日

この日戦車道履修生の一部は早朝から集められ、抽選会のあるさいたまスーパーアリーナへ向けて出発───

一行の内訳は生徒会の3人と隊長車Aチームの5人、そして運転手に俺と近藤さんで計10人だ

 

「いつもありがとう…杉野さん」

 

「良いってことよ」

 

俺の車は4人乗りの為当然定員オーバー、じゃあどうなったかと言うと近藤さんが大洗へくる時に陸送で自前の戦車(トヨタ・ハイエース)を持ち込んでいたおかげでなんとかなった

本来であれば近藤さんの戦車一台のみで事足りるのだが不測の事態が発生した際に一台だと抽選に間に合わない可能性があるのでこうして二手に分かれている

近藤さんの戦車には生徒会の3人と足を伸ばせて寝れるからと冷泉、乗り心地が良いだろうからと武部が乗り込み

こっちには西住・秋山・五十鈴の3人が乗っていた

 

「まだ通勤ラッシュが始まってない分よく進むな…」

 

「やっぱり全然違う?」

 

「そりゃあね」

 

いつもの定位置と言うべきか助手席に座る西住がちょくちょく話題を振ってくれるため良い眠気覚ましだ

後ろの席では昨日は楽しみで眠れなかったのか秋山が小さな寝息を立てて眠りについており、その隣の五十鈴は窓の外の流れていく景色を無言で見つめている

 

『〜♪』

 

オーディオから流れるご機嫌な音楽に思わずハンドルを握る指先でリズムを刻み、交通の流れに沿ってゆっくりと車を走らせる

それと同時に一晩経って頭から抜け落ちていた物があることに気づいた

 

「──西住、ちっとグローブボックス開けてみらっせ?茶色い紙袋あるっしょや?」

 

「はい…?」

 

疑問符を浮かべながらも言われた通りにグローブボックスを開けた西住は中身入りの小ぶりな紙袋を手に取り更に小首を傾げた

 

「ま、頑張る隊長にささやかなプレゼントだ」

 

「開けて良いですか?」

 

「勿論」

 

プレゼントと伝えた辺りで西住は端から見てわかりやすいほどにソワソワと落ち着きが無くなり、即座に開けていいかと聞かれたために勿論良いと伝えると次の瞬間にはガサガサと開封する音が聞こえた

 

「──わぁ!」

 

次いで聞こえてくる喜色に満ちた声色に内心でガッツポーズを取る、贈り物とは送り主の独り善がりになってはいけないのだ

送る相手が心の底から喜んでこそ、である

一緒に選んでくれた愛里寿大明神にはしばらく足を向けて寝ることは出来ないだろう

 

「私の見たことないボコだ…!これどこで買ったんですか!?」

 

「なんかそーいう専門の場所見つけてな、そこで仲良くなった子が一緒に選んでくれたんだ…」

 

「…へぇ〜」

 

…何故だろうか、後半から急に西住の声色に言い表せない圧がある気がする…

あれ?車内の温度急に下がった?おっかしいなーエアコン使ってねぇのになー

…左隣からすごく視線を感じるの気のせいかな??

 

「まぁ…その、なんだ───

…今度時間ある時に一緒に行くか?」

 

「行きましょうッ!」

 

一瞬そんな場所があるにも関わらず誘わなかった事を怒ってるのかと思いそう提案してみれば行きたいと即答で返ってきたので多分ビンゴだと判断する

後々にこれが色んな意味で間違っていた事に気づくがそんな事は今の俺には全く思いもよらなかった

 

 

 

 

 

 

 

『大洗女子学園、8番ッ!』

 

現地入りして現在時刻は抽選の時間

会場に用意されたクジを引いた西住が掲げた手の中の紙切れには8と番号が書かれており、さて初戦の相手はどこだろうかとトーナメント表を見て思わず背筋に冷たいものが流れていくのを感じた

 

(──サンダース大付属…!?)

 

実は俺が元々所属していた松山第343戦車隊(剣部隊)とサンダース大付属の戦車道チームとは並々ならぬ因縁が存在する

──というのも剣部隊は名称に松山と入っている通り発足地は愛媛県の松山市、しかし3年目の4月〜8月にかけて名称こそそのままだったものの部隊の本拠地は松山から鹿屋→国分→大村へと移っている

そしてサンダース大付属の本拠地は長崎県の佐世保、こちらは同県でおよそ60km程度しか離れていない大村───

当然俺のタンカスロン時代の後半はサンダース大付属と戦う事が多かった*1

 

「サンダース大付属高…」

 

「それって強いの?」

 

「優勝候補の一つです」

 

横で待機している秋山と武部の話しているのが聞こえる、確かにサンダース大付属は優勝校の一つではあるが一つ訂正しておくべきところがある

 

「──サンダース大付属の戦車道チームは安定して強いがそこに飛び抜けたものはない、けど厄介さだけで言ったら黒森峰とかより上かもな」

 

「あ…そう言えば杉野殿は実際に何度か戦った事がありましたよね」

 

流石というべきか戦車フリークの秋山は剣部隊が過去にサンダース大付属と戦っていたことを知っていたようだ

しかし少し過大評価の気もするとあまり納得のいかない様子で小首を傾げていた、まぁやはりサンダース大付属の真の怖さと言うのは短期間で何度も戦う特殊な環境下でもないと気づかないだろう

 

「…サンダース大付属の強みは保有戦車の多さを利用したダメージコントロールの上手さだ、それを発揮できない一回戦で当たったのは運が良いと言えば良いんだが───」

 

「…それは一応私も念頭に置いていますが」

 

「廃車同然にスクラップにした車輌が次の試合には平然と隊列に並んでる恐怖がわかるか?」

 

「──あー…そういうことですか」

 

まだ剣部隊が活動していた頃、恐らく全搭乗員に歴代の対戦相手の中でどこが一番やりにくいか聞けばほぼ100%サンダース大付属と答えることだろう、確かに強豪校の中では選手に特出した強さはほぼないが全体の練度は高い───

そんな連中が参加車両に制限のないタンカスロンや親善試合に時に他校や個人の戦車道チームを巻き込んで日本一の保有数を誇る戦車のほぼ全車輌で突っ込んでくる

しかもダメコンが上手いので徹底的に破壊した車輌も数日後〜長くて1週間程度で元の状態に戻って戦線復帰するので厄介なことこの上ないのだ

 

(チッ…嫌な思い出だ)

 

当時剣部隊は性格に一癖も二癖もありすぎて公式戦を追い出された腕利きの搭乗員を全国から集めていた為に一対一のチーム戦は文字通りの無敵を誇り

──そのため活動後半になるにつれて他チームが手を組んで剣部隊vs他全チームと言う構図が殆どで、挑まれれば何処とでも戦うためにほぼ連日のように戦っていた

稼働機は偵察隊を含めて20輌前後が精々なこちらに対して向こうは1週間で行われた試合を合算すると1000輌を超える圧倒的な数で襲いかかってくる、試合に負けることこそ無かったが剣部隊の3つの戦闘戦車隊全てで悲惨な事故が相次いだ

次第に車輌も搭乗員の補充も追いつかなくなり、されたにしても急ごしらえや初期メンツに比べて練度の低い搭乗員も多くなってきたため被害が収まることもなくいたちごっこ

最終的には半数を超える搭乗員が二度と戦車に乗れないような状態になって引退していき、剣部隊に来た戦車乗りは平均して選手生命が3ヶ月程度であったことから───

──【戦車乗りの墓場】と揶揄されることもあった

 

「一回戦…荒れそうですね」

 

「やれるだけのことをやるだけだろ

なに、仮に敵の車輌が10倍いようが20倍いようが怖くねぇよ…車輌のトラブルが起きたらどうにもならないがな」

 

思わず呟いた秋山の不安を和らげるために半分冗談めかして言うと「杉野殿がそう言うと心強いです」と彼女は笑った

結局のところ、どう足掻いたところでこちらはやれることしか出来やしない

車輌が万全ならやり方もあるが肝心の車輌に問題があればそもそも戦いの土俵にすら上がれないので帰ったらより一層注意深くみんなの戦車を整備しようと心の中で決めた

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…こんなとこあったんだな」

 

抽選会も終わり、秋山から行ってみたい場所があると誘われてAチームの全員と共に会場近くの戦車喫茶ルクレールという場所に来ていた

勿論俺は来るのは初めてで席順は通路側から俺、冷泉、西住で反対側は通路側から五十鈴、武部、秋山だ

 

「でも杉野殿はスクールに所属してた頃は抽選会に来たことあったのではないのですか?」

 

「そりゃそうだけど何年前の話よ?当時は抽選会終わったらソッコーで帰ってたよ」

 

存在自体を知らなかった俺に対して秋山に意外そうな顔で言われるも抽選会に来たのなんか俺の戦車道歴の中でもかなり最初の方だ

抽選日は違えど会場自体はスクール部門も学生部門も同じなのできっと探せばこの喫茶店はあったのだろうが当時は抽選が終わり次第直帰が基本だったので探す暇は無かった

 

__ズドォオオッ

 

 

「!?」

 

「ど、どうされました?」

 

突如周囲に響き渡った砲撃音にビックリして周囲を見渡すも他の客はそれが普通と言わんばかりに無反応で

こちらを心配そうに見つめる秋山の存在でそれがただの呼び鈴であった事に気がつく

 

「…なんだ、呼び鈴か」

 

「ナオ…凄い速度で反応してたけど」

 

「職業病というやつでしょうか」

 

「…店内で急にこんな物騒な音が聞こえたら反応もするだろ」

 

気づけばAチーム全員から心配そうな視線を向けられていたので場の空気を変えるために冗談めかして返す、それでも各々心配そうな顔を変えずにいたが店員が来たことでそちらへ視線を向けた

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

「ケーキセットでチョコレートケーキ二つといちごタルト、レモンパイにニューヨークチーズケーキ一つずつお願いします」

 

店員から注文を聞かれると一番最初に手を上げたのは五十鈴、ちなみに周りの注文内容を一切聞かずに言っているためおそらくは…

 

「…皆さんはどうされます?」

 

「すんごいじゃん、流石五十鈴だ…」

 

やっぱりこの注文内容を一人でチャレンジするようだった、眼の前で大量のケーキを消耗する姿を見せられながらケーキを食べるのは胃もたれしそうだったので俺はクリームあんみつに黒胡麻アイストッピングで紅茶を注文するに留まった

 

 

 

 

 

 

「うわ…デケェ」

 

それぞれ注文した物がドラゴンワゴンの模型に載せられて届くと杉野さんは絶句したように呟く、戦車喫茶なだけに戦車を象って作られたケーキは一つだけでもかなりの大きさを誇っている

 

「いや流石にこれは食い切れる気しねぇわ」

 

「そう言えばあまり杉野さんが甘いもの食べてる印象は無いな」

 

「好きだけど量食うとすぐ胸焼けするんだよ」

 

やはり頼まなくて正解だったと続ける杉野さんに麻子さんがそう聞くと甘い物自体は好きだが量があるとダメなのだと少し惜しそうに笑った

確かに普段は甘いものを食べてるイメージはないが一緒にアイスを食べに行ったときは普通に注文していたしこないだのご飯会では一緒にぜんざいを食べていたので嫌いなわけでは無いのはわかってたけど…

 

「…杉野さんのような体質に生まれなくて良かったと心から思うよ」

 

「慣れりゃ何とでもねぇんだけどなぁ」

 

その話を聞いてか相当に甘いものが好きなのだろう麻子さんは顔を青くしている、慣れてしまえばどうということはないと杉野さんは相変わらず笑ってるけど確かに私からしても好きな時に甘いものを思う存分食べられないのは少し辛いかもしれない

 

「!…美味い」

 

スプーンで一口クリームあんみつを掬って口へ運ぶ杉野さんの表情が綻んだ

こうして見慣れてくると彼女の一挙手一投足が可愛らしく思えてくる、その事を口にすれば怒るだろうから絶対に言えないけど

彼女を始めとして、みんなといるのは本当に楽しくてさっきまで心のなかにあった不安は嘘のようだった

 

「…一回戦、強いところと当たっちゃったね」

 

「──そうだなぁ」

 

みんなと一緒ならそこに不安はない、ないけど…やっぱり心の何処かで怖く思っている弱い自分がいる

反面杉野さんは何とでもないように堂々とした様子でクリームあんみつを食べ進めていて、こういう彼女の強いところは羨ましいと思う

 

「さっきも杉野さんと秋山さんが仰られてましたが、サンダース大付属ってそんなに強いところなんですか?」

 

「強いって言うかすごくリッチな学校で、戦車の保有台数が全国一なんです」

 

「ま、公式戦のルールで一回戦と2回戦は10輌までの規定があるからまだやりようがあるわな」

 

どうやら私が抽選から戻ってくるまでに相手校が一体どんなところなのか少し話をしていたようで五十鈴さんが秋山さんと杉野さんにそう言って聞き返していた

二人の言ってることは確かに合っていて強いと言うよりも戦車の保有台数の多さを活かして消耗を極力抑え込んだ戦い方をしてくるため一回戦で当たったのはまだやりようがあると言える

 

「絶対数が多くてシャーマン系で統一してるから全車で部品の使い回しが効く───

どれだけ酷使ようが大破しようが必ず試合には車輌を全快にして出してくるからそこが本当に厄介だな」

 

「向こうの強みは潰せてるってナオの言ってることは理解できるんだけど、それでも10輌ならウチの倍じゃん…」

 

「どうせなるようにしかならんよ、気負ったところで碌なことはねぇしな」

 

単純計算で向こうの車輌はこちらの倍、勝てないんじゃ…と不安そうに呟く武部さんにため息交じりに深く息を吐いて杉野さんが言った

…確かに、なるようにしかならないと言うのは事実だ

それに気負って視野が狭まればせっかくチャンスが出来ても見落としてしまうかもしれない

 

「──単位は?」

 

「負けたら貰えないんじゃない?」

 

「む…」

 

元々欠席分の単位や遅刻取り消しが目的で始めている麻子さんは負けたら特典は無いのではないかという武部さんの一言にバツが悪そうにして、それを誤魔化すようにケーキに手を付け始める

 

「──それより、全国大会ってテレビ中継されるんでしょ?ファンレターとか来ちゃったらどうしよ〜♪」

 

「生中継されるのは決勝だけですよ」

 

「有志で会場からネットで配信する人とかはいますが、客席からの映像なので乗員までは映らないんですよね」

 

先程までの話題と打って変わってそう切り出した武部さんに中継は決勝からだと五十鈴さんが訂正し、それを補足するように秋山さんが有志が配信している可能性はあるが画面が遠いので人が映ることまではないと言うと武部さんは少しだけ残念そうに肩を落とした

 

「…じゃあ決勝まで頑張ろう!」

 

「おーおー長ぇ道程だなそりゃ」

 

気を取り直して目標を新たにケーキを頬張る武部さんに呆れた様子の杉野さんはあんみつに入ったフルーツをフォークで突きながら、まぁモチベーションが高いことは良いことかと笑った

 

「副隊長…?」

 

そんな二人の様子を見ながら、さて私も頼んだケーキに手をつけようとフォークを手に持った時───

聞き覚えのある、出来れば聞きたくなかった声が耳に飛び込んできて思わず固まった

 

「──あぁ、【元】でしたね」

 

続く言葉に勘違いじゃないことを自覚すると動悸が激しくなっていくのを感じる、本来なら聞こえないはずの自分の鼓動がうるさい───

背中からは嫌な汗が流れて指先が微かに震えていることに気づく

 

「まだ戦車道をやっているとは思わなかった」

 

「…お姉ちゃん」

 

視線を声の方向へ向ける、そこにいたのは黒森峰の制服に身を包んだかつて同じ戦車道チームだったエリカさんとお姉ちゃんの二人がいた

そうだ、なんで忘れてたんだろう…全国大会の抽選会場に二人が来ていない筈がないのに

 

「お言葉ですが…!あの試合のみほさんの判断は間違っては──」

 

「秋山、座れ」

 

意を決したように立ち上がった秋山さんが言い切る前に杉野さんが手で制して座るように促した

 

「杉野殿…!?しかしッ」

 

「良いから、君の言いたいことはわかってる

ここは君の気持ちを少しばかり俺に預けておいてくれよ?」

 

納得がいかない様子の秋山さんもそう言われてしまっては強く出れず、言われた通り渋々席に座り直す

その様子を確認した杉野さんと目が合った、彼女は私を安心させるためか目尻を下げていつものように優しく微笑んだあと眉間に皺を寄せて顔を顰め───

据わった目つきでエリカさんとお姉ちゃんの二人を睨みつける

 

「あんたらもだ、まさか天下の黒森峰サマが冷やかしに喫茶店まで来たわけじゃねぇべな?」

 

「ぐっ…コイツ…!」

 

そして煽るようにそう言い放ち、紅茶を口に含む杉野さんにエリカさんが怒りをあらわにしだしていた

通路側の杉野さんと二人を隔てるものは何もない為、あまり火に油を注ぐ状態は不味いのではと思ったが本人はあっけらかんとした様子で紅茶を飲み干すとカップをソーサーの上に置いて反対の席の3人に視線を向けた

 

「…私達は席を変えさせていただきます」

 

「やりすぎないでね、ナオ…」

 

「あとはお任せしました、杉野殿」

 

3人はそれだけで何かを察したのか、食べかけのケーキの皿をもって隣の席に移る

 

「まぁ──座れ────」

 

私達の反対側の席が空いたことで視線をエリカさんとお姉ちゃんに向け直した杉野さんは低く唸るような声色で席を指した

…この声、私が生徒会長達に戦車道を選択するように迫られていた時と同じ…

ふと彼女の表情を覗き込もうとしてもここからでは窺い知る事はできない、だけど私のこの考えが当たっているのなら

杉野さんはいつものような冗談半分ではなく本当に怒っているということだ

 

「誰が…ッ」

 

「──いや、ここは言葉に甘えて座らせて貰うとしよう」

 

命令形で言われた為に目に見えてエリカさんはイライラした様子でスカートの裾を掴みシワが入るのもお構いなしにギュッと握り拳を作る、このままでは本当に不味いことになるんじゃないかと心配な私を他所に

場を切り替えたのはお姉ちゃんの一言だった

 

「隊長…!?ですが───」

 

「確かに、彼女の言う通り…ここは喫茶店だ

何も注文せずに居座るのは些か体裁が悪いだろう?」

 

そして一度こちらに視線を向けてからお姉ちゃん、エリカさんの順で対面に座る

素直に応じたことでお姉ちゃんの方にはあくまで揉める気はないと判断したのだろうか、杉野さんの視線はそのままエリカさんの方を正面からジッと睨みつける物に変わった

 

「…何よ」

 

「注文は??」

 

「さっきからなんで一々アンタに指図されなきゃならないのよ!」

 

「──エリカ」

 

流石にいたたまれなくなったのか聞き返すエリカさんを杉野さんが更に煽りついに激昂した様子で立ち上がるがそれをお姉ちゃんが窘めた為に「すいません」と呟くように言ってから席に座り直す

すごい、もう完全に杉野さんのペースだ…

 

「私はいちごのケーキセットにしよう、エリカは?」

 

「…アイアシェッケのセットで飲み物はコーヒーにします」

 

注文も決まったようでお姉ちゃんが呼び鈴を鳴らし、途端に店内に爆音で砲撃音が鳴り響く───

なんなんだろうこの光景、すごくシュール…

 

「──お決まりでしょうか?」

 

「いちごのケーキセットとアイアシェッケのセット、飲み物は両方コーヒーでお願いします」

 

「承りました」

 

やってきた店員さんにお姉ちゃんが注文を伝え、メモを終えた店員さんは敬礼とともに去っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──で?何の話だったっけ?」

 

少し間を置いてお姉ちゃんとエリカさんの分のケーキセットが運ばれてきたのを確認してから杉野さんがそう切り出した

 

「一回戦はサンダース大付属と当たるんでしょう?そこの隊長さんに釘を刺しておこうと思って───

無様な戦いをして、西住流の名を汚さないようにね」

 

「何よその言い方!?」

 

「あまりにも失礼じゃ───」

 

先程の睨み合いから多少時間が経ったからか、調子の戻ったエリカさんから鋭い視線が飛んできて思わず目を背ける

隣の席から武部さんと五十鈴さんから私に援護射撃が飛んでくるがエリカさんは意に介さず続けた

 

「──あなた達こそ戦車道に対して失礼じゃない?無名校のくせに、この大会はね、戦車道のイメージダウンになるような学校は参加しないのが暗黙のルールよ」

 

「強豪校が有利になるように、示し合わせて作った暗黙のルールとやらで負けたら恥ずかしいな」

 

「…何ですって?」

 

ここでこれまで黙っていた麻子さんも口を開き、煽りを入れた為にイラついたようにエリカさんの顔が歪む

…ふと、急に静かになった杉野さんの方が気になって首だけ動かして彼女の方を覗き込んで思わず凍りついた───

 

おめぇ(お前)もぞこぇ(可哀想な)やろー(やつだ)な?」

 

杉野さんはニィ〜と歪な笑みを浮かべていた、しかしその目が全く笑っていない

纏う雰囲気が変わったのを感じ取ったのかそんな彼女の視線を一身に受けていたエリカさんは一瞬たじろいだ

 

「…は?」

 

「まぁ色々、言いたいこともあるけんど───

戦車道での揉め事は戦車道でかつけ(方をつけ)りゃいいべ、決勝まで行きゃ嫌でも当たんだろーしな」

 

だから、と付け加えて手に持っていたフォークを手のひらでくるりと回して逆手に持ち変えると次の瞬間にはテーブルに身を乗り出してエリカさんへ詰め寄った

 

__バキンッ

 

「──ひっ」

 

手の中のフォークはエリカさんの前に置かれていたアイアシェッケに深々と突き立てられ、小さな悲鳴が上がった

相当な衝撃だったのか下に引かれていたお皿は見るも無惨に砕けており

杉野さんはその様子には目もくれずに、お互いの息遣いすら感じ取れそうな距離でエリカさんを睨みつける───

周りに大勢いるにも関わらずに彼女に気圧されてか止める者は誰もいない、お姉ちゃんですら目を見開いてあっけに取られていた

 

「ぇ…あ」

 

声にならない声がエリカさんから溢れた、杉野さんは視線だけは切らずに手元のフォークを突き立てて粉々になったアイアシェッケを乗せていた皿の破片を1枚抜き取る

その動作をして尚フォークが倒れないことからおそらくはお皿を貫通しても止まらずにテーブルに突き刺さったということが推測できた

 

「──え」

 

刹那右の手に握ったお皿の破片───

その先端で杉野さんは自身の左人差し指の腹を何の躊躇もなく、表情一つ変えずに切り裂いた

切りつけた傷口からはジワりと血が滲み、次第に溢れて伝い手のひらまで赤く染めていく

 

「「「「「杉野さん(ナオ)(殿)!?」」」」」

 

あまりにも予想外のことに思わず私たちは揃って声を上げた

当人はどこ吹く風と言わんばかりに三日月を模したような歪んだ笑みのまま、血塗れの指先をエリカさんの首に押し当てるとピーッと一本の赤い線を描く

 

「──その首、予約しとくわ…決勝までけっぱれ(頑張れ)や?」

 

そして満足がいったのか血だらけの指先を口元へ持っていき傷口を一度ぺろりと舐めるとお皿の破片を置いてテーブル脇に置かれた伝票を抜き取った

 

「俺の奢りだ、どうぞごゆっくり〜」

 

テーブルから降りて通路へ出ると彼女はそう言って踵を返し、同時に私たちへ「()ぇ〜んぞ」といつも通りな声色で言い放ちお会計へ向かっていく

私たちは急いで荷物を纏めて彼女のあとを追う、待つ気無しに先を行く彼女に追いつくために必死だった私にはこの時エリカさんがどんな表情をしていたのか窺い知る事はなかった

 

 

 

 

 

 

 

戦車喫茶ルクレールを後にして表に出た杉野さんはそのまま歩みを止めず、歩道へ出て完全に喫茶店の敷地が見えなくなってからようやく足を止まった

 

「…やっぱ()ッてぇなぁ」

 

くるりとこちらを振り返り、そんなことを言いながら彼女は私たちに頭を下げる

 

「わりぃ、やっちまったわ

もっとゆっくりとしたかったろ?」

 

そうだけど、そうじゃない…杉野さんの謝罪は全く見当外れなことで───

思わず私たちは目を合わせて頷きあった

 

「杉野さん、とりあえずそこに正座して?」

 

「ここ歩道なんだけど!?」

 

「良いから、早く」

 

「は、はい…」

 

ひとまず杉野さんには正座をしてもらう、今回ばかりは私…いや私たちは怒っていた

正座をして縮こまる彼女に各々から厳しい意見が飛び交う

 

「ねぇナオ?私さ、やりすぎないでねって言ったよね?」

 

「あー…まぁ、はい」

 

おい目を逸らすな、こっちを見ろ

 

「ヒッ…」

 

そのため珍しく本気で怒っている武部さんに気圧されて青くなる杉野さんや────

 

「──杉野殿に託した私が間違いでした…第一、誰があそこまでやれといいましたか!?

 

「い、いや〜…西住や皆をバカにされたと思ったらついカーッとなって…歯止めが効かなくなっちまった」

 

だからと言って、あそこまでする必要ないじゃないですかぁ〜!

 

「ご、ごめんて…悪かったから…だから泣くな、な?」

 

色んな感情がごっちゃ混ぜになって泣きながら怒る秋山さんに思わずたじたじになる杉野さん────

 

「すまんが、流石にあれは私も擁護できないしどうかと思う」

 

「いや、まぁはい…仰るとおりです」

 

麻子さんに正論を突き立てられて何も言い返す事ができずに更に縮こまる杉野さん────

 

「…もっとご自愛ください、あなたが傷つけば皆さんも傷つくんですよ?」

 

「…俺にはこのやり方しかわからねぇのよ」

 

「大丈夫です、すぐには無理でもきっと変われますから…」

 

そして五十鈴さんに諭されるように叱られて眉をハの字にして困ったように、自嘲気味に笑う杉野さん────

季節のようにコロコロと表情の変わる彼女だけど、その笑い方はなんだかとても寂しそうに見えた

 

「──ねぇ、杉野さん」

 

「…ん?どうした…西ず、み…!?」

 

正直な話、彼女はやり方こそ間違えたがその本質は私と皆の為にやったことでそれ自体は嬉しくないわけが無かった

だけれども彼女が周りの為に動く時、その中に彼女自身はいない

だからこそ、いつも彼女は自分の身を顧みないのだろう

その事がどうにも悲しくて悔しい───

 

「あ、あの〜?西住さん??」

 

「動かないでください」

 

私は膝をついて正座のままの彼女と高さを合わせて、杉野さんを正面から抱き締める

何故杉野さんはここまで自分の身に無頓着なのかはわからない、でも皆の反応で彼女がちゃんと好かれていることは私にもわかるし、どうすれば彼女にわかってもらえるだろうかと考えた時、自然と身体が動いていた

 

(っ…想像以上に細い…杉野さんってこんな華奢な身体でいつもあんな無茶してたの?)

 

身体的なハンデは普段の彼女を見ているとふと忘れてしまいそうになるけれど

こうして彼女を抱きしめている今、改めてその身体の小ささに気付かされる

少し力を込めれば折れてしまいそうなほどに細く華奢なその身体つき、普段の杉野さんの行動を鏡見るといつか取り返しのつかないような大怪我をしてしまうのではないかという心配が頭を過って離れない

 

「もう…二度とあんなことしないで」

 

「…善処させていただきます」

 

とてもバツの悪そうにそう言う彼女に、今は無理でも

例え時間がかかったとしても、きっと彼女は気づいてくれる…そう思った

 

「で、ナオ…指出して?」

 

「つ、詰めろってか!?」

 

「治療に決まってるでしょ!?」

 

皆からのお説教も終わり、正座を解いて立ち上がる杉野さんに武部さんが怪我をした指を見せるように指示するものの当人は少し考えた後に全くの的はずれな事を言っては怒られている

 

「…もぉ〜!やっぱり全然血止まってないじゃん!!」

 

「かなり深そうだな…」

 

「これで平然としてられる杉野殿って…」

 

「言うな、こう言うのは自覚すると途端に痛くなるんだから」

 

杉野さんの左人差し指からは量は当初より減ったとは言え、全くの躊躇無く切りつけた為に傷口が深くて今も血が流れ出ていた

ふと気になって地面を見てみると戦車喫茶の敷地の方から点々と血痕が残っており、先程座っていた場所には小さく血溜まりが出来ている

 

「…パッと見なんか事件があったみたいになってる」

 

「実際はそんな大層なこっちゃねぇけど──()だだだだッ」

 

「ナオ、消毒してるから変に動かさないで」

 

消毒液とガーゼで傷口を拭かれて涙目になってる杉野さんはまるで先程の一件が嘘のように見た目相応の少女の姿だった

 

 

 

 

 

 

帰りの車内はお通夜のように静まり返っていたためとても帰路が長く感じた

 

「…やっぱどっか壊れてんのかねぇ、俺ってやつは」

 

現在は大洗の港に帰ってきており車を学園艦の車両甲板に収容したあと皆と別れたが、まだ帰る気になれずそのまま近くのデッキから外に出て

風を浴びながら空を見上げる

 

(案外、普通にってのが難しいもんだな)

 

自分の中での普通や当たり前は彼女たちを困惑させてしまう

それは短い期間とは言え皆といる中で気づいたことで、性分と育った環境が影響してか知らず知らずの内に無意識下で出てしまうのだ

 

(どこまでが大丈夫で、どこからがダメか…その線引が必要か───)

 

さてどうしたものかと近くの自販機で購入したパックのおいしい牛乳に口をつける

今ばかりは苦いコーヒーや無糖の茶類のが良かったか等と考えているとふと背後に人の気配を感じた

 

「──杉野さん?」

 

「…西住か」

 

声が掛かり振り返ればそこにいたのは西住で、まだ明るい時間ではあるものの別れた時に一緒だったAチームの皆とは一度解散したのか現在は一人だった

 

「となり…良い?」

 

「どーぞ」

 

別に黄昏れるのに一人、二人増えたところでなにも変わらないだろう

そう思って許可を出せば嬉しそうに笑って右隣へ移動してきた

 

「てっきりもう帰っちゃってたかと思った」

 

「放課後整備もしばらくお預けだから暇でさ…

まだ明るいから幾分早いだろ?帰る気になれなくて風に当たってたんだよ」

 

ちなみに本日は抽選会で戦車道履修者のほぼ上位組が抜けるということで事故などを防止する観点から練習は無し

帰ってから整備に時間を費やそうかと思ったが大会もまだ始まっていないし、そもそも指を怪我しているのだから当分休めと近藤さんから休暇を言い渡されていた

 

「意外、普段からワーカホリック気味だし…こういう暇な時間があったら自分で無理にでも予定を作るタイプかと思った」

 

「別にジッとしてる時間が嫌いなわけじゃねぇよ?ただ今後を考えたらウチの戦車道チームって課題が多すぎじゃん?」

 

「──それは確かにそうなんだけど…」

 

それでも倒れてしまわないか心配と彼女は続ける、…仲間思いで優しい彼女らしい言葉だ

優しい言葉を掛けられたら逆にもっと頑張らなくてはと思ってしまうが、今日の一件の手前それをやったら普通に怒られそうなのでここは言葉を素直に受け取るだけとしよう

 

「…こうして何もない時間を過ごしながら何かを考えたり、逆に何も考えなかったり…そういうゆったりとした時間を過ごしてると───

なんだか戦車に乗ってることすらも嘘のように思えてくるよ」

 

「…そうだね」

 

「俺や西住みたいにちっちゃい頃から戦車に乗ってるって言っても、砲撃戦は充分非日常だよな」

 

俺の言葉に同意するように笑う彼女につられてこっちも笑ってしまう、あぁ何だかんだこういう何もない平和な時間も

俺は好きだなぁ…

 

「──少し前なら、戦いの中じゃないと自分の存在意義を証明できないような…そんな気がしたんだ」

 

「…え?それってどういう…」

 

「そのままの意味、弱い自分を悟られないように立ち向かうしか他に方法もなくて…

──命のやり取りの中じゃないと何もわかり合えない、そんな気がしたんだよ」

 

少しばかり夕日に当てられてセンチになってしまったのだろうか

心の中に沈み込んだものを吐き出すように、普段なら絶対に言えないような事を口走ってた

 

「──すまん…らしくなかったな、忘れてくれ」

 

「──ううん、忘れないよ…絶対に」

 

よくよく考えてみれば気恥ずかしい事を言っていた、そう思ったものの彼女からは真剣な眼差しで忘れないと返ってくる

 

「…そんなすぐに染み付いた性分は変えらんねぇし

君等にこれからも迷惑かけるかも知れんぜ?」

 

「──それでも、ちゃんとわかってくれているなら良いよ

ゆっくり変えていこう?」

 

こんな育ち方をした人間はまともじゃない、だからきっと今後も認識のズレから彼女たちに迷惑をかけてしまうかもしれない

そう思って正直に言ってみたものの、返ってきたのは心強い言葉だった

 

 

 

 

 

 

その後も西住とは他愛のない世間話を交えながら時間を潰していた、その途中…

 

「あれ?西住殿に杉野殿?」

 

背後から声をかけられる、もう二人称で振り返らなくても誰なのかあらかた予想がついたが

振り向くとそこにいたのはやはりというか秋山だった

 

「あ…秋山さん」

 

「なんだ、秋山も一人なのか?」

 

「帰るのにもまだ早いので少しゆっくりしようかと…」

 

ご一緒しても?と聞かれ、特に断る理由もないので大丈夫だと言っておくと秋山は俺の左隣に陣取った

…普通の身長の子二人に挟まれてるからオセロ理論で俺の身長も同じくらい伸びねぇかな

 

「何の話をされてたんですか?」

 

「殆ど世間話かなぁ…」

 

「あとは大会も近ぇ事だし、その辺もちっとは考えて置きたいって話はしてた」

 

俺と西住の言葉になるほどと呟いて、秋山はデッキに備え付けられた転落防止の手すりに身を預け

少し考えるように海を見つめながら切り出した

 

「…全国大会、出場出来るだけで私は嬉しいです───」

 

そしてぽつりぽつりと呟くように秋山は続ける

 

「他の学校の試合も見られるし、大切なのはベストを尽くす事です…たとえ負けても」

 

「…あぁ、その通りだな」

 

彼女の思いには素直に同意させられる、願わくばベストを尽くして皆や下の子達のスキルアップに繋がればそれで良い

──いや確かにやる以上は勝ちたいし、一人首を貰い受けなきゃいけないやつがいるから欲を言えば決勝までは行きたいわけだが

それは別に第一で考えていることではない

 

「──それじゃあ困るんだよねぇ〜」

 

しかしこの場に現れた乱入者達には、それは都合の悪い考え方だったようだ

 

「絶対に勝て、我々はどうしても勝たなければいけないんだ」

 

「だって負けたら…」

 

現れた生徒会の3人はそんな事を言いながら辛気臭いツラをぶら下げていた───

…そういや勝てとは言われてたけどそれって具体的にどこまでの話なんだろうな?

流石に一回戦二回戦程度の話ではないだろうが、ただでさえ他校の参加車両の半分程度の戦車でまさか優勝はねぇよな??

 

「ま、とにかく…全ては西住ちゃんと杉野ちゃんの二人の肩に掛かってるようなもんだから」

 

「ちょっと待てや、俺1年の指導がメインって忘れてねぇよな?」

 

「それでも数少ない経験者、それもトップエースの一人なんだから期待すんのも当たり前じゃん?」

 

いつの間にか平の隊員、しかも決まった仕事はほぼなく1年生達Dチームの育成がメインの俺の肩にまで中身のわからない重荷を載せようとして来やがる

そのことについて物申してみるもいけしゃあしゃあとそんな風に言われた

…もうここまで来ると清々しくて逆にキレる気力も沸かねぇ

 

「もし負けたら何やって貰おっかな〜」

 

「…罰ゲーム決めんのは良いけどよ、次は事前登録とかすんなよな?」

 

「あー、こないだの事についてはごめんね?

…いや本当にごめん───」

 

終わったことを掘り返すようで悪いが、せっかく頑張ったみんなの気持ちを無下にした前科があるために釘を刺すと

流石の角谷も前回のあれは自分でもないと思っていたのか徐々に尻すぼみになりながらも平謝りをしてくる

…権力を傘にあくどいことばかりやってるけど、決して根っからの悪党ってわけでもないんだがなぁ

 

「まぁとにかく任せたから!」

 

分が悪いと感じたのか言いたいことを伝え終わったからか

早々に生徒会の3人は帰っていった

台風みてぇな奴らだなホント

 

「──初戦だから…ファイヤフライは出てこないと思う…」

 

「…西住?」

 

「せめてチームの編成がわかれば戦いようはあるんだけど…」

 

「西住?西住さん?おーい??」

 

そして西住は西住で完全に自分の世界に入り込んでしまってブツブツと呟きながら対サンダースの運び方に首を捻りながら思案している

あぁ、ダメだこれ暫く帰ってこないやつだ

 

(…ん?)

 

そんな折、彼女をジッと見つめる秋山が視界に映った

秋山のその表情は何かを決意したような顔をしており、あぁこのままだときっと何かやらかすんだろうなというのが見て取れる

…こっちはこっちで覚悟ガンギマリじゃんよ、それとなく問い詰めとくか

 

 

 

 

 

 

 

夕日も落ちかけ出航時間になった頃、私たちはそれぞれ別れて帰路につき───

帰って明日のために準備をしてしまおうと実家に向けて歩き出した時ふと背後から聞き慣れた車の音が聞こえ、その音は私の真横で止まりました

 

「──秋山、ちっと時間もらえるか?」

 

「す、杉野殿…大丈夫、ですけど…」

 

窓を開け、私に声をかけたのはやはりというべきか杉野殿

明日のこともあり一瞬断ろうとも思ったが、黙っていることの罪悪感からかついそう言って彼女の助手席に乗り込んでしまいます

 

「聞いておきたいことあるから少し遠回りするけど、ちゃんと家には送ってやるから安心しな」

 

「はぁ…」

 

何やら不穏な事を言いながら車を走らせる彼女ですが、そんな人間ではないことを私は知っています

そもそも杉野殿は私の憧れの一人で、彼女が現役の頃から試合映像を録画したりネットに上がっているもののおおよそ全てに目を通していた───

なんなら何度か現地に足を運んで直接この目で試合を見たことだってありますし、多分自惚れでは無く大洗の中で一番彼女に詳しい自信すらある

…まぁきっとそんな経験が無くても、まだ短い期間とはいえ彼女と共に過ごした日々を思えば彼女を信用するには充分でした

 

「…単刀直入に聞くわ、なにイタズラぁしようとしてった?」

 

「…あー」

 

思わず彼女の勘の鋭さに言葉が詰まる、表情に出さないで完璧に取り繕っていたと思ったんですがね

 

「…どうしてそう思うんですか?」

 

「…俺が今までどったけの問題児に手ェ焼かされてたと思ってんだよ

──てか秋山なら知ってるんだろ?」

 

「まぁ、はい」

 

実際彼女の事はよく知っている、彼女が何をしてきたか、内々でのやり取りまではわからないがどうして一度引退するに到ったのかも…

まぁ確かに彼女の言う通り、あれだけの問題児達をまとめ上げていた杉野殿を相手に隠し事は些か無謀であったかも知れません…

 

「──西住殿が、相手チームの編成について頭を悩ませていたのでサンダースに乗り込もうかと…」

 

「一人でか…?」

 

「はい、幸い趣味の一環でサンダース大付属の制服は持ってますし───

よく出入りしているコンビニの制服も持ち合わせがあったので、それで定期船に忍び込んで向かおうかと」

 

「…まぁ確かにスパイ活動とかは禁止されてねぇしな」

 

そう来たか、と呟きながらうんうんと唸る杉野殿に

次第に私は別の意味で不安になっていく

 

「それであのー、出来れば西住殿達に黙っておいていただけると助かるのですが───」

 

「えぇ…?いや、黙っとくも何も…」

 

マズい、雲行きが怪しくなってきた…そう感じた時続く彼女の言葉は私の予想だにしないものでした

 

「…秋山って結構おバカよな」

 

「酷い!?」

 

「いやマジで、コンビニの定期船に忍び込むってそれ一歩間違えたら警察案件だぜ?」

 

あまりに辛辣な言葉に思わずそこまでいうかと思いましたが…

確かに彼女の言ってることも本当で、軽度だとは思うけど限りなく黒に近いグレーな行為であり

見つかればほぼ間違いなく不審者として警察に引き渡され、良くて厳重注意

悪ければそれこそ法廷まで出向かなければいけない案件になってしまいます…

 

「まぁー話はわかったよ」

 

「…止めないんですか?」

 

「必要ない、だって今解決策思いついたから」

 

彼女の言葉に思わず小首を傾げた、そんな簡単に解決策なんて思いつくものでしょうか?

私だって他にもっと安全な方法がないか模索して模索して、でも他に方法もなくコンビニ船に忍び込む事を決めたんです

そんなことを思っていると杉野殿は車を停車させる、いつの間にか私の実家である「秋山理髪店」の前まで来ていたようでした

 

「とりあえず、今日の夜にでも秋山にメールするから

添付の住所の場所に明日7時半頃来いよ」

 

「…7時半だと定期船は出発してしまっていますが」

 

「いいから、俺を信じろ」

 

正直大丈夫なのかなぁという気持ちもあります、ですが杉野殿程の人がそこまでいうのならひょっとして…という気持ちも強く

乗せてもらった彼女にお礼を言って車を降りてから、私は家の中へ入った

 

 

 

 

 

 

 

 

──翌朝、昨夜の内に送られてきた住所の場所付近まで私は言われた通り来ていました

 

「…騙されましたかね?」

 

目を引くのは一際大きな廃工場なのか倉庫なのかよくわからない建築物

周囲は産業道路のように道幅は広く長い直線が続いているが、その周囲にはそもそも建物自体があまりなく思わず騙されたのではないかという感想が頭を過ります

 

(…一応住所的には、ここですか)

 

電柱に書かれた番地とメールに書かれた番地を照らし合わせていくとたどり着いたのは先程から視界に映っていた巨大な建造物

 

「…何か音が聞こえる?」

 

その建物に近づいていくと周囲には何やらバラバラと発動機(エンジン)の回るような音が響いてきて、それはその建物のシャッターの向こうから聞こえてくることに気づきました

 

「…これで関係ない所だったら恨みますよ、杉野殿ぉ〜!」

 

私は不安半分と期待半分でその敷地内に足を踏み入れ、その直後

ガラガラと音を立てて建物の巨大なシャッターがゆっくり上に向かって開いていき───

 

__バラッバッバッバッバラバラッ

 

シャッターが開くと、先程聞こえてきていた音がより鮮明に周囲に響き渡り

そしてその音の正体はシャッターが半分程開いたところで私の目に飛び込んできます

 

「ッ!?ま、まさか!──あれは…!?」

 

それはどこかで見たことのある青みがかった緑色にペイントが施された一機の飛行機

エンジンカウルの上下に楕円形に開けられた吸気ダクトは正面から見たシルエットは一見して米軍のグラマンF6Fヘルキャットにも見えますが、その飛行機の名は───

 

「か、川西N1K2-J…紫電改ぃいッ!?

 

思わず私の叫び声が周囲に木霊するがそれも仕方ありません、何せ目の前にあるのは国内には実物は一機も存在せず、世界を探したとしても飛べる機体はもう残っていない筈の幻の飛行機───

旧日本軍最強の迎撃用局地戦闘機、「紫電改(しでんかい)」に間違いなかったのですから

 

 

 

 

 

*1
とは言え公式戦の戦車乗りがタンカスロンに参戦するというのはとても体裁が悪い為二軍、または三軍と戦う事が殆どだった、一軍と戦う事があるのは精々親善試合程度





と言うわけで3話以来の杉野ガチギレ回でした
多分実際にはハンバーグ師匠も姉住さんも喫茶店から帰ろうとしていたのが正解だと思うんですが、話にならない為当作では来店直後にしています
ちなみにどうでもいい情報としてガチギレ時の杉野とガチで素な杉野は時折地元宮城の方言が出ます
普段は関東や北の方面の非常に広範囲で使われてる方言を多用しておりますが本人は訛っていると言うことに全く気づいておらず自分は標準語で喋れていると思っており指摘されれば顔を真っ赤にして恥ずかしがります

あと劇場版以降にならないと杉野と西住殿が揃ってボコミュに行くことはないです
風呂敷広げすぎて回収出来なくなっちゃうので
杉野が自分の身を顧みることも絶対にありえません
彼女と彼女の周囲だけ戦時下に近い特殊な環境で育ってきてるのでまず自分の命に対しての価値観に致命的なズレがあってそれが合うことはありません

はい、話を変えまして皆さん
前回愛里寿出したらお気に入りめっちゃ増えました
これが…島田流……ッ

ただガルパンって登場キャラ多い割にそれぞれの口調にしっかり癖あるからちゃんとそのキャラっぽく書けているかはホント不安です
自己評価は普通にやると絶対に甘口になるので「100点中2点、ツメが甘い」って激辛評価にして描いてます
第三者の意見をください…
とりあえず活力になるので感想とお気に入り、お待ちしております
どうしても誤字脱字あると思います
気付き次第即直しますので温かい目でスルーしてください

今回20話と言うことで区切りのいい話数となっておりますが、全く進みませんね〜…文才がないもので
長々皆と絡ませてるのは短期間で杉野と皆が仲良くなるのは短い間でも密度の濃い内容にしないと説明がつかないからというのもあるんですが…
まぁ当初の予定だと20話って言ったら多分黒森峰戦書いてるんじゃねぇかなって思ってました
現実はまだサンダースに偵察すら行ってません…

一応ね?黒森峰戦が終わったあとに劇場版行く前の緩衝材として杉野の過去編である【剣部隊編】挟む予定ではいるんですけど
え?これ何年先になんの??ってペースで自分の文才のなさとまとめの下手さに嫌気が指してきます
文章量この半分以下で良い小説書いてる人いっぱいいますし…もっと腕磨かないとなぁ

キリの良い20話と言うことでいつもより長々語らせていただきました
以上です
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